霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一四章 鏡丸(かがみまる)〔四八一〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第11巻 霊主体従 戌の巻 篇:第2篇 意気揚々 よみ(新仮名遣い):いきようよう
章:第14章 鏡丸 よみ(新仮名遣い):かがみまる 通し章番号:481
口述日:1922(大正11)年03月01日(旧02月03日) 口述場所: 筆録者:外山豊二 校正日: 校正場所: 初版発行日:1922(大正11)年9月10日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一部の章はAIによって要約を作成しています。[×閉じる]:
松代姫、梅ケ香姫の一行は、時公らを引き連れて、琵琶の湖のほとりに着いた。風を避けて二三日逗留したのち、湖を渡るために鏡丸の客となった。
船中の客は、コーカス山の大気津姫についての噂をしていた。それによると、コーカス山の山奥に豪勢な宮殿を建てて、民を絞り、自分の眷属だけが栄華に暮らしている、という。
大気津姫を言向け和しに行った、竹野姫という素盞嗚命の御使いも、行ったきり帰ってこないという。一行はコーカス山に登って、大気津姫を言向け和すことにした。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2020-10-24 18:36:01 文字数:3308 OBC :rm1114
愛善世界社版:131頁 八幡書店版:第2輯 560頁 修補版: 校定版:131頁 普及版:55頁 初版: ページ備考:
001 松代姫(まつよひめ)、002梅ケ香姫(うめがかひめ)は時公(ときこう)等(ら)を引伴(ひきつ)れ、003一望(いちばう)千(せん)里(り)の雪野原(ゆきのはら)を、004日数(ひかず)を重(かさ)ねて遂(つい)に琵琶(びは)の湖(うみ)の岸辺(ほとり)に着(つ)いた。005湖上(こじやう)風波(ふうは)烈(はげ)しきため已(やむ)を得(え)ず、006二三(にさん)日(にち)此(こ)の岸辺(ほとり)に空(むな)しく日(ひ)を過(すご)し、007漸(やうや)く船中(せんちう)の人(ひと)となつた。008此(こ)の船(ふね)の名(な)を鏡丸(かがみまる)と云(い)ふ。009数十(すうじふ)人(にん)の乗客(じやうきやく)は先(さき)を争(あらそ)うて鏡丸(かがみまる)に乗(の)り移(うつ)り、010一行(いつかう)五(ご)人(にん)もやつと安心(あんしん)したものの如(ごと)く船中(せんちう)の客(きやく)となりける。
011松代姫(まつよひめ)『ヤア、012随分(ずゐぶん)偉(えら)い雪(ゆき)でしたな。013此(こ)の塩梅(あんばい)ではコーカス山(ざん)は、014随分(ずゐぶん)積(つ)んで居(を)りませう』
015時公(ときこう)『イヤ、016御(ご)心配(しんぱい)には及(およ)びませぬ。017貴方(あなた)のやうな色(いろ)の白(しろ)い宣伝使(せんでんし)がお出(い)でになれば、018雪(ゆき)の方(はう)から遠慮(ゑんりよ)して消(き)えて了(しま)いますよ。019アハヽヽ、020此処(ここ)にも勝公(かつこう)の様(やう)な奴(やつ)が乗(の)つて居(ゐ)ると宣伝(せんでん)に都合(つがふ)が好(よ)いのだが、021ネエ梅ケ香姫(うめがかひめ)さま、022船(ふね)に乗(の)ると思(おも)ひ出(だ)しますわ』
023梅ケ香姫(うめがかひめ)『ホヽヽヽ、024歌(うた)でも歌(うた)つたら、025又(また)ウラル教(けう)の方(かた)が乗(の)つてゐて一芝居(ひとしばゐ)始(はじ)まるかも知(し)れませぬな』
026 此(こ)の湖(うみ)は明志(あかし)の湖(うみ)に比(くら)べて余程(よほど)広(ひろ)く随(したが)つて波(なみ)も高(たか)く、027航路(かうろ)も日数(につすう)がかかるのである。028船客(せんきやく)は退屈(たいくつ)紛(まぎ)れに口々(くちぐち)に彼方(あちら)此方(こちら)に一団(いちだん)となつて、029世間話(せけんばなし)に耽(ふけ)つてゐる。
030甲(かふ)『世(よ)の中(なか)には妙(めう)な事(こと)があるものだな。031アルタイ山(ざん)には蛇掴(へびつか)みと云(い)ふ目玉(めだま)の四(よつ)つある悪神(わるがみ)が居(を)つて、032大蛇(をろち)を喰(く)つたり、033人(ひと)を喰(く)うさうだし、034クス野ケ原(のがはら)には一(ひと)つ目(め)の化物(ばけもの)が出(で)たり、035大蛇(をろち)が人(ひと)を呑(の)んだり、036随分(ずゐぶん)物騒(ぶつそう)な世(よ)の中(なか)だ』
037乙(おつ)『そんな事(こと)、038知(し)らぬものがあるかい、039彼程(あれほど)名高(なだか)い話(はなし)を、040夫(そ)れよりもモツトモツト珍(めづら)しい話(はなし)がある。041お前(まへ)達(たち)の後(おく)れ耳(みみ)には未(ま)だ這入(はい)つて居(を)るまい』
042甲(かふ)『莫迦(ばか)云(い)へ、043俺(おれ)は八(や)つ耳(みみ)だ。044世間(せけん)の噂(うはさ)は一番(いちばん)に此(この)耳(みみ)に這入(はい)るのだ。045さうして目(め)もよく利(き)く、046鼻(はな)もよく利(き)く、047口(くち)もよく利(き)く、048俺(おれ)の舌(した)は酒(さけ)の善悪(よしあし)もよく利(き)くなり、049手(て)も足(あし)も利(き)くなり、050腕(うで)も利(き)けば、051威喝(をどし)も利(き)く、052夫(そ)れでも俺(おれ)の精神(せいしん)は、053きかん気者(きもの)だぞ。054愚図(ぐづ)々々(ぐづ)吐(ぬか)すと承知(しようち)をしないぞ』
055乙(おつ)『アハヽヽヽ、056蟷螂(かまきり)のやうな三角(さんかく)な面(つら)しやがつて、057目(め)ばつかりギヨロギヨロ剥(む)いて偉(えら)さうに云(い)ふない』
058甲(かふ)『そんなら何(なん)だい。059聞(き)いてやらうかい』
060乙(おつ)『それ見(み)たか、061確(しつか)り聞(き)け。062このごろ黒野(くろの)ケ原(はら)に雪婆(ゆきんばば)のやうな玲瓏(れいろう)玉(たま)の如(ごと)き孔雀姫(くじやくひめ)と云(い)ふ、063それはそれは頗(すこぶ)る別嬪(べつぴん)の魔神(まがみ)が現(あら)はれて、064其処(そこ)を通(とほ)つた奴(やつ)は、065誰(たれ)も彼(かれ)も皆(みんな)喰(く)はれて了(しま)ふと云(い)うことだ』
066甲(かふ)『ウンさうか、067それは初耳(はつみみ)だ。068天(てん)に口(くち)あり、069壁(かべ)に耳(みみ)ありと云(い)ふ事(こと)だが、070俺(おれ)の所(とこ)の家(うち)は俺(おれ)の体(からだ)と同(おな)じやうに壁(かべ)の肉(にく)が皆(みな)落(お)ちて、071骨(ほね)ばつかりだから、072壁(かべ)からも聞(き)かして呉(く)れなんだのだ。073マアお前(まへ)の御(お)壁(かべ)で珍(めづら)しい話(はなし)を骨(ほね)折(を)つて聞(き)かうかい』
074珍公(ちんこう)『オイオイ、075お前(まへ)達(たち)そんな古(ふる)い話(はなし)を今頃(いまごろ)に何(なに)云(い)つてるのだい。076モツトモツト新(あた)らしい珍無類(ちんむるゐ)の珍談(ちんだん)があるのだ。077此(この)珍(ちん)さまは耳(みみ)が敏(さと)いからな』
078甲(かふ)『オイ珍公(ちんこう)、079口上(こうじやう)ばつかり列(なら)べやがつて後(あと)を言(い)はぬかい』
080珍公(ちんこう)『今(いま)云(い)うて聞(き)かすから小男鹿(さをしか)の耳振(みみふ)り立(た)てて、081畏(かしこ)み畏(かしこ)み聞(きこ)し召(め)せ』
082甲(かふ)『早(はや)く云(い)はぬかい』
083珍公(ちんこう)『八釜敷(やかましう)云(い)ふない。084さう安売(やすう)りしては値打(ねうち)が無(な)いわ。085貴様(きさま)ん所(とこ)の嬶(かか)の尻(しり)のやうな名(な)の付(つ)いた神(かみ)さまが現(あら)はれたといのう』
086甲(かふ)『俺(おれ)ん所(とこ)の嬶(かか)の尻(しり)みたいなとは何(なん)だ。087臼(うす)の化物(ばけもの)でも出(で)たのか』
088珍公(ちんこう)『臼(うす)ぢやないわ、089貴様(きさま)もよつぽど薄野呂(うすのろ)だ。090何(なん)でも大(おほ)きな団尻姫(だんじりひめ)とか云(い)ふ神(かみ)さまが現(あら)はれたのだ』
091乙(おつ)『アハヽヽヽ、092フン何(なに)を吐(ぬか)しやがるのだ。093偉(えら)さうに聞(き)きはつりやがつて、094知(し)りもせぬ癖(くせ)に知(し)り顔(がほ)しやがつて、095尻(けつ)が呆(あき)れるワイ』
096珍公(ちんこう)『オー、097尻(しり)で思(おも)ひ出(だ)した。098大気津(おほげつ)姫(ひめ)だ』
099甲(かふ)『その大気津(おほげつ)姫(ひめ)が何(ど)うしたと云(い)ふのだ』
100珍公(ちんこう)『マア黙(だま)つて聞(き)け。101何(なん)でも其奴(そいつ)はな、102美味(うまい)ものが好(す)きで、103美(うつく)しい着物(きもの)が着(き)たうて、104綺麗(きれい)な、105立派(りつぱ)な家(いへ)を建(た)てて、106沢山(たくさん)の男衆(をとこしう)や、107女子衆(をなごしう)を使(つか)つて、108栄耀(えいよう)栄華(えいぐわ)に暮(くら)す奴(やつ)だと云(い)ふことだ』
109甲(かふ)『誰(たれ)だつて、110美味物(うまいもの)は好(す)きに定(きま)つて居(ゐ)る。111身体(からだ)に掻(か)き破(やぶ)りの出来(でき)るような着物(きもの)を着(き)るより、112お蚕(かひこ)の柔(やはら)かな着物(きもの)を好(この)むのは、113別(べつ)に大気津(おほげつ)姫(ひめ)ぢやなくつても、114俺(おれ)の所(とこ)の大尻姫(おほげつひめ)でも同(おな)じ事(こと)だ。115世界中(せかいぢう)に美味物(うまいもの)嫌(きら)ひな奴(やつ)があるか。116人間(にんげん)は着(き)たり、117喰(く)うたりするのが楽(たの)しみだ、118珍(めづら)しさうに何(なに)吐(ぬか)しやがるのだ』
119珍公(ちんこう)『わかりきつた、120定(きま)つたこと云(い)ふのが、121珍(めづ)らしいのだ。122今(いま)の世(よ)の中(なか)は分(わか)らぬことの、123定(きま)りの無(な)い事(こと)を云(い)ふ奴(やつ)が、124皆(みな)彼奴(あいつ)は賢(かしこ)いとか、125学者(がくしや)だとか、126悧巧(りかう)だとか言(い)はれる世(よ)の中(なか)だ。127本当(ほんたう)の真直(まつすぐ)な事(こと)を云(い)ふ奴(やつ)は、128皆(みな)莫迦(ばか)にする世(よ)の中(なか)だ。129これが逆様(さかさま)の世(よ)の中(なか)と云(い)ふのだよ』
130甲(かふ)『考(かんが)へて見(み)れば、131そンなものだなア。132夫(それ)でも世(よ)の中(なか)は裏表(うらおもて)があるものだ。133マア一寸(ちよつと)この湖(うみ)を覗(のぞ)いて見(み)い。134斯(こ)うして船(ふね)に乗(の)つて頭(あたま)を上(うへ)にして、135吾々(われわれ)は乗(の)つて居(ゐ)る積(つも)りだが、136鏡(かがみ)の池(いけ)の水鏡(みづかがみ)を覗(のぞ)いて見(み)ると、137船(ふね)は下向(したむ)きになりやがつて、138貴様(きさま)等(ら)の頭(あたま)が下向(したむき)になつてゐるわ、139これが世(よ)の中(なか)の事(こと)が鏡(かがみ)に映(うつ)つて居(ゐ)るのだ』
140 時公(ときこう)はこの話(はなし)を耳(みみ)を澄(すま)して興味(おもしろ)がつて聴(き)いてゐた。141忽(たちま)ち身(み)を起(おこ)し、142三(さん)人(にん)の前(まへ)にバタリと胡床(あぐら)をかき、
143時公(ときこう)『ヤア、144最前(さいぜん)から御(お)話(はなし)を承(うけたま)はれば、145珍(めづら)しさうな珍(めづら)しくないやうな、146妙(めう)な御(お)話(はなし)を聴(き)きました。147一体(いつたい)その大気津(おほげつ)姫(ひめ)とやらは、148何処(どこ)に居(を)るのですか』
149甲(かふ)『お前(まへ)さまは何処(どこ)の人(ひと)か知(し)らぬが、150人(ひと)に物(もの)を尋(たづ)ねるのに名乗(なの)りを上(あ)げずに何(なん)のことだ、151名(な)を名乗(なの)りなさい。152行儀(ぎやうぎ)を知(し)らぬ人(ひと)だな』
153時公(ときこう)『アー、154これは失礼(しつれい)しました、155私(わたくし)の名(な)は時々(ときどき)脱線(だつせん)すると云(い)ふ時公(ときこう)と申(まを)します』
156乙(おつ)『あまり大(おほ)きな男(をとこ)がやつて来(く)るので、157胸(むね)がどきどきした。158大気津(おほげつ)姫(ひめ)の話(はなし)なら私(わたくし)が本家(ほんけ)本元(ほんもと)だ。159聴(き)いて貰(もら)ひませう』
160時公(ときこう)『アヽ、161それは有難(ありがた)う』
162乙(おつ)『その大気津(おほげつ)姫(ひめ)はコーカス山(ざん)の山奥(やまおく)に、163立派(りつぱ)な宮殿(きうでん)を造(つく)り、164沢山(たくさん)の家来(けらい)を従(つ)れて、165何(なん)でも人民(じんみん)の膏(あぶら)を搾(しぼ)つて、166自分(じぶん)等(ら)の眷属(けんぞく)ばかりが栄耀(えいよう)栄華(えいぐわ)に暮(くら)して居(ゐ)るさうです。167此(この)間(あひだ)も素盞嗚(すさのをの)命(みこと)さまの御(お)使(つかひ)とやらが、168大気津(おほげつ)姫(ひめ)を一(ひと)つ帰順(きじゆん)さすとか、169何(なん)とか言(い)つて行(い)つた限(ぎ)り帰(かへ)つて来(き)ませぬと云(い)ふ専(もつぱ)らの評判(ひやうばん)です』
170時公(ときこう)『それは何(なん)といふ方(かた)です』
171乙(おつ)『サア、172何(なん)といふ方(かた)か名(な)は忘(わす)れたが、173何(なん)でも長(なが)いやうな名(な)であつた』
174甲(かふ)『その女(をんな)は大蛇姫(をろちひめ)と違(ちが)ふか。175大蛇(をろち)と云(い)ふ奴(やつ)は随分(ずゐぶん)長(なが)いものだ。176さうして女(をんな)だてらにそンな処(ところ)へ一人(ひとり)で行(ゆ)くなんて、177よほど太(ふと)い奴(やつ)だぜ。178大方(おほかた)クス野ケ原(のがはら)の大蛇(をろち)の化物(ばけもの)かも知(し)れぬ。179大蛇姫(をろちひめ)と大気津(おほげつ)姫(ひめ)との戦(たたか)ひは随分(ずゐぶん)見物(みもの)だらう』
180珍公(ちんこう)『でも竹(たけ)のやうな名(な)だつたぞ』
181時公(ときこう)『竹野姫(たけのひめ)と云(い)ふ御(お)方(かた)と違(ちが)ふか』
182珍公(ちんこう)『アー、183その竹野姫(たけのひめ)だ。184その女(をんな)が雪(ゆき)の降(ふ)るのに只(ただ)一人(ひとり)、185月(つき)は照(て)るとも虧(かく)るとも、186雪(ゆき)は積(つ)むとも解(とけ)るとも、187大直日(おほなほひ)だとか、188大気津(おほげつ)姫(ひめ)だとか、189見直(みなほ)すとか、190斬(き)り直(なほ)すとか、191偉(えら)さうに云(い)つて山(やま)へ登(のぼ)つた限(ぎ)り、192雪(ゆき)に鎖(とざ)されたのか、193大気津(おほげつ)姫(ひめ)にしてやられたのか一向(いつかう)その後(ご)の消息(せうそく)がわからぬといふことだ。194女(をんな)だてらに豪胆(がうたん)にも、195彼(あ)んな猛獣(まうじう)や大蛇(だいじや)ばかりの山(やま)へ往(ゆ)くから、196そんな目(め)に遭(あ)うのですな』
197時公(ときこう)『はてな』
198梅ケ香姫(うめがかひめ)『モシモシ姉(ねえ)さま、199今(いま)の話(はなし)は中(なか)の姉(ねえ)さまのことぢやありますまいか。200若(も)しさうだつたら私(わたくし)何(ど)うしませう』
201松代姫(まつよひめ)『イヤ、202心配(しんぱい)なさるな。203何処(どこ)へ行(い)つても神(かみ)様(さま)と二人(ふたり)連(づ)れだ。204この地(つち)の上(うへ)は皆(みな)国治立(くにはるたちの)命(みこと)様(さま)と金勝要(きんかつかねの)神(かみ)様(さま)と、205素盞嗚(すさのをの)命(みこと)様(さま)とが御(ご)守護(しゆご)遊(あそ)ばす御(ご)地面(ぢめん)だから、206屹度(きつと)神(かみ)様(さま)の御用(ごよう)をして居(ゐ)る竹野姫(たけのひめ)、207滅多(めつた)なことはありませぬよ』
208梅ケ香姫(うめがかひめ)『姉(ねえ)さま、209さうでしたねエ。210余(あま)り心配(しんぱい)してつひ迷(まよ)ひました。211一(いち)日(にち)も早(はや)くコーカス山(ざん)とやらへ行(い)つて、212姉(ねえ)さまに力(ちから)をつけて上(あ)げませうか』
213松代姫(まつよひめ)『まだ貴女(あなた)は心配(しんぱい)をなさる。214そんな取越(とりこし)苦労(くらう)は要(い)りませぬ』
215梅ケ香姫(うめがかひめ)『ホヽヽヽ』
216時公(ときこう)『モシモシ御(ご)姉妹(きやうだい)様(さま)、217何(ど)うやらこれは竹野姫(たけのひめ)さまのことらしい様(やう)に思(おも)はれます。218一(ひと)つコーカス山(ざん)へ駆(か)け上(あが)つて、219時公(ときこう)が一働(ひとはたら)き致(いた)します。220マー見(み)てゐて下(くだ)さい』
221松代姫(まつよひめ)『何(ど)うなさるの』
222時公(ときこう)『その大気津(おほげつ)姫(ひめ)と云(い)ふ奴(やつ)改心(かいしん)すればよし、223改心(かいしん)せぬとあれば素盞嗚(すさのをの)命(みこと)様(さま)の御(ご)威勢(ゐせい)を借(か)つて、224斬(き)つて斬(き)つて斬(き)り廻(まは)し、225乾児(こぶん)の奴(やつ)らを残(のこ)らず血祭(ちまつ)りにしてやりませうかい』
226梅ケ香姫(うめがかひめ)『又(また)しても時(とき)さま、227そんな乱暴(らんばう)なことを云(い)ひますか。228詔(の)り直(なほ)しなさい』
229時公(ときこう)『明志丸(あかしまる)から今(いま)鏡丸(かがみまる)に乗(の)り直(なほ)したとこです』
230梅ケ香姫(うめがかひめ)『マアマアよろしい。231悠然(ゆつくり)と気(き)を落(おち)つけて手荒(てあら)いことをせぬやうに、232三五教(あななひけう)の宣伝歌(せんでんか)で言向(ことむけ)和(やは)しませう』
233時公(ときこう)『三五教(あななひけう)は表教(おもてけう)と云(い)ふのですか。234誰(たれ)も彼(かれ)も此(この)歌(うた)を聞(き)くものは賛成(さんせい)せぬものはありませぬ、235大持(おほも)てに好(よ)う持(も)てる大持(おほも)て教(けう)ですな。236其処(そこ)で神(かみ)が表(おもて)に現(あら)はれると云(い)ふのでせう。237これからコーカス山(ざん)へ駆(か)け上(あが)つて、238善(ぜん)と悪(あく)とを立別(たてわけ)ませうかい』
239 五日(いつか)五夜(いつよ)の航海(かうかい)も無事(ぶじ)に、240漸(やうや)く船(ふね)は西岸(せいがん)に着(つ)いた。241乗客(じやうきやく)は先(さき)を争(あらそ)つて上陸(じやうりく)する。242五(ご)人(にん)は悠々(いういう)として歌(うた)を歌(うた)ひ乍(なが)ら又(また)もや西北(せいほく)指(さ)してコーカス山(ざん)目(め)あてに進(すす)み行(ゆ)くのであつた。
243(大正一一・三・一 旧二・三 外山豊二録)
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