霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第二〇章 醜(しこ)の窟(いはや)〔四八七〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第11巻 霊主体従 戌の巻 篇:第4篇 満目荒寥 よみ(新仮名遣い):まんもくこうりょう
章:第20章 醜の窟 よみ(新仮名遣い):しこのいわや 通し章番号:487
口述日:1922(大正11)年03月03日(旧02月05日) 口述場所: 筆録者:岩田久太郎 校正日: 校正場所: 初版発行日:1922(大正11)年9月10日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
梅ケ香姫は、コーカス山に進んで大気津姫を言向け和す決意を宣伝歌に歌った。
船中では、コーカス山側だった大工の馬公、牛公、鹿公、虎公が、宣伝使たちの共になって一緒にコーカス山に進んで行くことになった。
船が岸に着き、降りて雪深い山道を進んで行く。途中で日が暮れたため、牛公の提案で、近くの岩窟に宿を取ることになった。
牛公の話によると、竹野姫の前にも於縢山津見という宣伝使がやってきたが、やはり大気津姫の部下に捕まって、岩窟の中に閉じ込められてすでに百日以上になる、とのことであった。
牛公は自分がウラル教の目付けであることを口走ってしまう。一同が休んでいる岩窟の外には、ウラル教の捕り手の足音が聞こえてきた。時公はとっさに牛公に当身をくわせて気絶させた。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2020-10-31 08:49:15 文字数:4242 OBC :rm1120
愛善世界社版:192頁 八幡書店版:第2輯 583頁 修補版: 校定版:195頁 普及版:84頁 初版: ページ備考:
001 梅ケ香姫(うめがかひめ)は立上(たちあが)り、
002梅ケ香姫『四方(よも)の山野(さんや)を見渡(みわた)せば
003雪(ゆき)の衣(ころも)に包(つつ)まれて
004見(み)るも清(きよ)けき銀世界(ぎんせかい)
005世界(せかい)の曲(まが)や塵(ちり)芥(あくた)
006蔽(おほ)ひかくしてしらじらと
007表面(うはべ)の光(ひか)る今(いま)の世(よ)は
008何処(どこ)も彼処(かしこ)もゆき詰(つま)る
009青(あを)きは海(うみ)の浪(なみ)ばかり
010青木(あをき)ケ原(はら)に現(あ)れませる
011神(かむ)伊邪諾(いざなぎ)の大神(おほかみ)や
012木花姫(このはなひめ)の御教(みをしへ)を
013照(てら)し行(ゆ)くなる宣伝使(せんでんし)
014乗(の)りの友船(ともぶね)人(ひと)多(おほ)く
015皆(みな)口々(くちぐち)に囁(ささや)きの
016言(こと)の葉(は)風(かぜ)に煽(あふ)られて
017心(こころ)も曇(くも)る胸(むね)の闇(やみ)
018闇夜(やみよ)を照(てら)す朝日子(あさひこ)の
019日(ひ)の出神(でのかみ)の命(みこと)もて
020曲津(まがつ)の猛(たけ)ぶコーカスの
021大気津(おほげつ)姫(ひめ)のあれませる
022雪(ゆき)積(つ)む山(やま)に向(むか)ひたる
023竹野(たけの)の姫(ひめ)は如何(いか)にして
024岩窟(いはや)の中(なか)に捕(とら)はれし
025嗚呼(ああ)我々(われわれ)は千早振(ちはやふる)
026神(かみ)の光(ひかり)を身(み)に受(う)けて
027黒白(あやめ)も分(わか)ぬ岩窟(がんくつ)の
028憂(うれひ)に曇(くも)る姉(あね)の君(きみ)
029救(すく)ひまつらで置(お)くべきか
030コーカス山(ざん)の山颪(やまおろし)
031何(なに)かあらむや神(かみ)の道(みち)
032踏(ふ)み分(わ)け進(すす)む我(わが)一行(いつかう)
033時(とき)は来(きた)れり時(とき)は今(いま)
034天(あま)の窟戸(いはやど)押(お)し分(わ)けて
035コーカス山(ざん)に集(あつ)まれる
036百(もも)の魔神(まがみ)を言向(ことむ)けむ
037言向(ことむけ)和(やは)す皇神(すめかみ)の
038広(ひろ)き心(こころ)の神直日(かむなほひ)
039恵(めぐみ)の露(つゆ)も大直日(おほなほひ)
040曲(まが)の身魂(みたま)をスクスクに
041直日(なほひ)に見直(みなほ)し聞直(ききなほ)し
042宣(の)り直(なほ)させん宣伝使(せんでんし)
043千変(せんぺん)万化(ばんくわ)の神界(しんかい)の
044神(かみ)の御業(みわざ)を畏(かしこ)みて
045言霊(ことたま)清(きよ)き琵琶(びは)の湖(うみ)
046渡(わた)りて進(すす)む五人(ごにん)連(づれ)
047心(こころ)竹野(たけの)の姫(ひめ)の神(かみ)
048神(かみ)を力(ちから)に神嘉言(かむよごと)
049讃美(たた)へて待(ま)てよ今(いま)暫(しば)し
050暫(しば)し隠(かく)るる星影(ほしかげ)も
051雲(くも)たち退(の)けば花(はな)の空(そら)
052月(つき)は盈(み)つとも虧(か)くるとも
053虧(か)けてはならぬ姉妹(おとどひ)の
054月(つき)雪(ゆき)花(はな)の桃(もも)の実(み)は
055意富加牟豆美(おほかむづみ)と顕(あら)はれて
056黄泉戦(よもついくさ)に勲(いさをし)を
057建(た)てたる如(ごと)く今一度(いまいちど)
058天照(あまてる)神(かみ)の御(おん)前(まへ)に
059岩戸(いはと)開(びら)きの神業(かむわざ)を
060つかへまつらむそれ迄(まで)は
061虎(とら)狼(おほかみ)や獅子(しし)熊(くま)の
062醜(しこ)の刃(やいば)をかい潜(くぐ)り
063清(きよ)き命(いのち)を保(たも)つべく
064守(まも)らせ玉(たま)へ金(かね)の神(かみ)
065神(かむ)須佐之男(すさのをの)大御神(おほみかみ)
066国治立(くにはるたち)の大御神(おほみかみ)
067三五教(あななひけう)を守(まも)ります
068百(もも)の神(かみ)達(たち)八十(やそ)の神(かみ)
069松竹梅(まつたけうめ)の行末(ゆくすゑ)を
070厚(あつ)く守(まも)れよ克(よ)く守(まも)れ
071下(しも)国民(くにたみ)の血(ち)を絞(しぼ)り
072膏(あぶら)を抜(ぬ)きて唯(ただ)一人(ひとり)
073奢(おご)りを尽(つく)す大気津(おほげつ)姫(ひめ)の
074神(かみ)の命(みこと)と現(あら)はれし
075ウラルの姫(ひめ)に附(つ)き纏(まと)ふ
076八岐(やまた)大蛇(をろち)や醜狐(しこぎつね)
077醜(しこ)の鬼神(おにがみ)八十(やそ)曲津(まがつ)
078神(かみ)の御息(みいき)に悉(ことごと)く
079服(まつ)ろへまつる今(いま)や時(とき)
080アヽ時(とき)さまよ八(やつ)さまよ
081牛(うし)馬(うま)鹿(しか)虎(とら)鴨(かも)さまよ
082勇(いさ)み進(すす)んでコーカスの
083山(やま)吹(ふ)きまくる醜(しこ)の風(かぜ)
084皆(みな)一息(ひといき)に吹(ふ)き払(はら)ひ
085祓(はら)ひ清(きよ)むる神(かみ)の国(くに)
086神(かみ)と国(くに)との御(おん)為(ため)に
087力(ちから)を合(あは)せ身(み)を尽(つく)し
088鑿(のみ)や鉋(かんな)をふり捨(す)てて
089神(かみ)の道(みち)のみ歩(あゆ)みつつ
090神(かみ)の御魂(みたま)の惟神(かむながら)
091霊(たま)の幸(ちはひ)を受(う)けよかし
092進(すす)めよ進(すす)めいざ進(すす)め
093進(すす)めよ進(すす)めいざ進(すす)め』
094と歌(うた)ひ了(をは)りぬ。
095時公(ときこう)『八(やつ)さま鴨(かも)さまどうだ。096最前(さいぜん)から随分(ずゐぶん)噪(はしや)いで居(ゐ)た大工(だいく)さまの牛(うし)、097馬(うま)、098鹿(しか)、099虎(とら)の四(よ)つ足(あし)、100オツトドツコイ四(よ)人(にん)さまは、101どうやら時(とき)さまの宣伝歌(せんでんか)で帰順(きじゆん)したらしいぞ。102これも時(とき)の力(ちから)と云(い)ふものだ。103貴様(きさま)はいつも俺(おれ)を、104時々(ときどき)脱線(だつせん)する男(をとこ)だから時(とき)さまだナンテ、105冷(ひや)かしよつたがどうだ、106時々(ときどき)功名(こうみやう)を現(あら)はすたふとき尊(たつ)とき時(とき)さまだぞ』
107八公(やつこう)『何(なに)を偉(えら)さうに時(とき)めきやがる。108たふときも尊(たつ)ときも同(おんな)じ事(こつ)ちやないか。109貴様(きさま)クス野ケ原(のがはら)で梅ケ香姫(うめがかひめ)のお洒落(しやれ)にかかつた時(とき)と、110一(ひと)つ目(め)小僧(こぞう)に出逢(であ)つた時(とき)の状態(ざま)は何(なん)だい。111知(し)らぬかと思(おも)つて法螺(ほら)を吹(ふ)いても、112チヤンと此(この)八(やつ)さんは天眼通(てんがんつう)力(りき)で調(しら)べてあるのだ。113八耳(やつみみ)の八(やつ)さまと云(い)へば俺(おれ)の事(こと)だ。114この八(やつ)さまにはどんな奴(やつ)でも尾(を)を捲(ま)くのだぞ』
115時公(ときこう)『八(やつ)はやつだが、116負惜(まけをし)みの強(つよ)い奴(やつ)、117悪(わる)い奴(やつ)、118法螺(ほら)を吹(ふ)く奴(やつ)、119困(こま)つた奴(やつ)』
120八公(やつこう)『コラコラ時(とき)さま、121そらまだ八(やつ)だない四(よ)つだ、122八(やつ)が四(よ)ツより無(な)いぢやないか』
123時公(ときこう)『八(やつ)つ、四(よ)つと貴様(きさま)の身魂(みたま)が四(よ)つ足(あし)だからそれで合(あは)して八(やつ)ツになるのだ。124分(わか)らぬ奴(やつ)だなア』
125鴨公(かもこう)『アハヽヽヽ、126コイツ気味(きみ)が良(よ)い。127胸(むね)がスツとした。128何(なん)でもかでも、129八(やつ)かましうする奴(やつ)だから、130村(むら)の者(もの)が愛想(あいさう)を尽(つ)かして、131厄介者(やつかいもの)扱(あつか)ひにしとる位(くらゐ)だから、132コイツ余程(よつぽど)酷(ひど)い奴(やつ)だ』
133牛公(うしこう)『オイ、134八(やつ)さま、135ギユウ牛(ぎう)云(い)はされて居(を)るな』
136馬公(うまこう)『馬鹿(ばか)野郎(やらう)、137状態(ざま)見(み)やがれ』
138鹿公(しかこう)『シカられ通(とほ)しにして居(ゐ)やがる』
139虎公(とらこう)『トラれてばつかり居(ゐ)やがる、140揚(あ)げ足(あし)と油(あぶら)を』
141時公(ときこう)『時(とき)にとつての御(ご)愛嬌(あいけう)だ』
142 かく雑談(ざつだん)に耽(ふけ)る折(をり)しも船(ふね)は岸(きし)に着(つ)いた。143船客(せんきやく)一同(いちどう)は船(ふね)を見捨(みす)てて思(おも)ひ思(おも)ひに雪(ゆき)の道(みち)を進(すす)み行(ゆ)く。144松代姫(まつよひめ)の一行(いつかう)五(ご)人(にん)に牛(うし)、145馬(うま)、146鹿(しか)、147虎(とら)を加(くは)へて九(く)人(にん)連(づ)れ、148宣伝歌(せんでんか)を歌(うた)ひ乍(なが)らコーカス山(ざん)目蒐(めが)け、149人(ひと)の往来(ゆきき)の足跡(あしあと)をたよりに、150谷間(たにま)を指(さ)して進(すす)み行(ゆ)くのであつた。
151 満山(まんざん)一面(いちめん)の大雪(おほゆき)にて、152彼方(あちら)の谷(たに)にも此方(こちら)の谷(たに)にも雪(ゆき)の重(おも)さにポンポンと樹木(じゆもく)の折(を)れる音(おと)頻々(ひんぴん)と聞(きこ)えて居(ゐ)る。
153鴨公(かもこう)『ヤア、154モーそろそろ日(ひ)が暮(くれ)る時分(じぶん)だ。155そこら一面(いちめん)雪(ゆき)で明(あか)くなりやがつて、156昼(ひる)だと思(おも)つて居(ゐ)る間(うち)に、157夜(よる)になつて仕舞(しま)ふのは雪(ゆき)の道(みち)だ。158何処(どこ)ぞこの辺(へん)に猪小屋(ししごや)でもあつたら一服(いつぷく)して、159都合(つがふ)がよければ一泊(いつぱく)やらうかい』
160八公(やつこう)『さうだ、161俺(おれ)も最前(さいぜん)から宿屋(やどや)を探(さが)して居(を)るのだが、162是(これ)から一(いち)里(り)許(ばか)り奥(おく)へ行(ゆ)けば、163何百軒(なんびやくけん)とも知(し)れぬ、164立派(りつぱ)な家(いへ)が建(た)つて居(ゐ)るのだから、165そこ迄(まで)無理(むり)に行(ゆ)く事(こと)にしよう』
166時公(ときこう)『ヤア、167待(ま)て待(ま)て、168其処(そこ)まで行(い)つたら最早(もはや)敵(てき)の縄張(なはば)りだ。169それ迄(まで)に一夜(いちや)を明(あか)し、170草臥(くたびれ)を休(やす)めて、171明日(あす)の元気(げんき)を養(やしな)ふのだ』
172牛公(うしこう)『私(わたし)は何時(いつ)もこの辺(へん)を往来(わうらい)する者(もの)です。173山(やま)の勝手(かつて)は能(よ)く知(し)つて居(ゐ)ますが、174此(この)谷(たに)は少(すこ)しく右(みぎ)へ下(お)りると岩窟(いはあな)がある。175其処(そこ)で一夜(いちや)を明(あか)す事(こと)にしませうか』
176時公(ときこう)『どうです松代姫(まつよひめ)さま』
177松代姫(まつよひめ)『ハイ、178宜敷(よろし)からう、179今晩(こんばん)は久(ひさ)し振(ぶり)で岩窟(いはあな)に逗留(とうりう)さして貰(もら)ひませうか』
180と衆議(しうぎ)一決(いつけつ)して、181牛公(うしこう)の案内(あんない)につれ、182小(ちひ)さい谷(たに)を目(め)あてに進(すす)み行(ゆ)く。183牛公(うしこう)の云(い)つた通(とほ)り二三十(にさんじふ)人(にん)は気楽(きらく)に寝(ね)られる、184立派(りつぱ)な岩窟(がんくつ)があつた。185ここに一行(いつかう)は蓑(みの)を敷(し)き、186携(たづさ)へ持(も)てる無花果(いちじゆく)を食(く)つて、187逗留(とうりう)する事(こと)になつた。
188梅ケ香姫(うめがかひめ)『アヽ都合(つがふ)のよい岩窟(いはや)ですなア。189此(この)岩窟(いはや)を見(み)るにつけ、190想(おも)ひ出(だ)すのは姉様(ねえさん)の事(こと)、191姉様(ねえさん)が押(お)し込(こ)められて居(を)る岩窟(いはや)と云(い)つたら、192こンなものでせうか』
193牛公(うしこう)『滅相(めつさう)もない。194コンナ結構(けつこう)な処(とこ)ですか、195この山奥(やまおく)には七穴(しちあな)と云(い)つて、196七(なな)ツの岩穴(いはあな)がある。197さうしてその穴(あな)の中(なか)は、198こンな平坦(へいたん)な座敷(ざしき)の様(やう)な処(とこ)ぢやない。199私(わし)も一(いつ)ぺん這入(はい)つて見(み)た事(こと)があるが、200穴(あな)の中(なか)は真暗(まつくら)がりで、201底(そこ)が深(ふか)くて、202なんでも竜宮(りうぐう)迄(まで)続(つづ)いて居(ゐ)ると云(い)ふ事(こと)で、203あんな処(とこ)へ入(い)れられようものなら、204ゆつくり腰(こし)を掛(かけ)る事(こと)も出来(でき)やしない。205両方(りやうはう)が岩壁(いはかべ)になつて居(ゐ)る。206そこへ岩(いは)の尖(とんがり)に足(あし)を掛(か)けて、207細(ほそ)い穴(あな)を股(また)を拡(ひろ)げて踏(ふ)ン張(ば)るのだ。208一寸(ちよつと)居眠(ゐねむ)りでもしたが最後(さいご)、209底(そこ)なき穴(あな)へ落込(おちこ)んで仕舞(しま)ふのだ』
210時公(ときこう)『そんな穴(あな)が七(なな)つもあるのか』
211牛公(うしこう)『さうです。212此(この)間(あひだ)も何(な)ンでも淤縢山津見(おどやまづみ)とか云(い)ふ強(つよ)い奴(やつ)が出(で)て来(き)て、213大気津(おほげつ)姫(ひめ)を帰順(きじゆん)さすとか云(い)つて登(のぼ)つて来(き)たところ、214大勢(おほぜい)の者(もの)が寄(よ)つてたかつて攻(せ)めかけたら、215奴(やつこ)さま其(その)穴(あな)の中(なか)へ隠(かく)れよつた。216そこで大勢(おほぜい)の者(もの)が寄(よ)つてたかつて岩蓋(いはぶた)をピシヤーンとしめて、217外(そと)から鍵(かぎ)を掛(か)けた。218それつきり百(ひやく)日(にち)許(ばか)りになるのに何(なん)の音沙汰(おとさた)も無(な)い。219大方(おほかた)穴(あな)の底(そこ)へ落(お)つこつて死(し)んで仕舞(しま)つたやらうとの噂(うはさ)だ。220それから暫(しばら)くすると、221背(せ)のスラリと高(たか)い竹野姫(たけのひめ)とか云(い)ふ小(せう)ン便使(べんしい)が、222小(せう)ン便歌(べんか)を歌(うた)つてやつて来(き)た。223そいつは日(ひ)が暮(くれ)て泊(とま)るところがないものだから、224自分(じぶん)から穴(あな)の中(なか)へコソコソとはいつて行(ゆ)きよつた。225馬鹿(ばか)な奴(やつ)もありや有(あ)るもんだなア』
226馬公(うまこう)『オイオイ、227さう口穢(くちぎたな)く云(い)ふな。228御(ご)姉妹(きやうだい)が居(を)られるぞ』
229牛公(うしこう)『アヽさうだつたなア。230その竹野姫(たけのひめ)と云(い)ふ小(せう)ン便使(べんし)様(さま)が、231雪(ゆき)が降(ふ)つてお困(こま)りと見(み)えて、232穴(あな)の中(なか)へコツソリとお這入(はいり)遊(あそ)ばした。233さうすると大気津(おほげつ)姫(ひめ)様(さま)の手下(てした)の悪神(あくがみ)様(さま)が、234「サア御(お)出(いで)なさつた」と待(ま)ち構(かま)へて居(ゐ)らつしやつて、235外(そと)からピシヤリと戸(と)を御(お)しめ遊(あそ)ばした。236竹野姫(たけのひめ)さまは中(なか)から金切声(かなきりごゑ)を立(た)ててキヤーキヤー御(お)ぬかし遊(あそ)ばした。237外(そと)からは悪神(わるがみ)様(さま)が「サア斯(か)うなつたら百年目(ひやくねんめ)だ、238底(そこ)無(な)き穴(あな)へ落(お)つこちて、239クタバリ遊(あそ)ばすか、240飢(かつ)ゑて御(お)死(し)に遊(あそ)ばすか、241二(ふた)つに一(ひと)つだ。242是(これ)で吾々(われわれ)の御(ご)心配(しんぱい)もとれて、243マアマア御(ご)安心(あんしん)だ」と仰有(おつしや)つて………』
244馬公(うまこう)『コラコラ、245叮嚀(ていねい)に云(い)ふもよいが、246余(あんま)り叮嚀(ていねい)過(す)ぎるぢやないか。247竹野姫(たけのひめ)様(さま)の事(こと)を御(ご)叮嚀(ていねい)に御(お)話(はなし)してもよいが、248悪神(あくがみ)の方(はう)は好(い)い加減(かげん)に区別(くべつ)せぬかい』
249牛公(うしこう)『そンな融通(ゆうづう)の利(き)く位(くらゐ)ならカチ割(わ)り大工(だいく)をやつたり、250ウラル教(けう)の目付役(めつけやく)をしとるものかい』
251時公(ときこう)『牛(うし)さん随分(ずゐぶん)現金(げんきん)な男(をとこ)だなア』
252牛公(うしこう)『長(なが)い物(もの)には捲(ま)かれ、253強(つよ)いものには従(したが)ひ、254甘(あま)い汁(しる)は吸(す)へ、255苦(にが)い汁(しる)は擲(ほ)かせと云(い)ふ世(よ)の中(なか)、256人間(にんげん)は時世(ときよ)時節(じせつ)に従(したが)ふのが徳(とく)だからなア』
257時公(ときこう)『お前(まへ)等(ら)は今(いま)初(はじ)めて聞(き)いたが、258ウラル教(けう)の目付役(めつけやく)だと云(い)つたね』
259牛公(うしこう)『イーエ、260ソラ違(ちが)ひます。261ホンの一寸(ちよつと)口(くち)が滑(すべ)つたのでモー牛上(うしあげ)ました』
262時公(ときこう)『イヤ、263さうだなからう』
264牛公(うしこう)『左様(さやう)々々(さやう)、265さうだなからう』
266松代姫(まつよひめ)『皆(みな)さま、267モウ寝(ね)ませうか、268サア、269是(これ)から神言(かみごと)を奏上(そうじやう)して、270宣伝歌(せんでんか)を一同(いちどう)揃(そろ)つて上(あ)げませう』
271時公(ときこう)『それは宜敷(よろし)からう。272併(しか)し今日(けふ)は私(わたし)に考(かんが)へがありますから、273籤引(くじびき)をして一(いち)に当(あた)つた者(もの)から、274発声(はつせい)する事(こと)にさして下(くだ)さい』
275松代姫(まつよひめ)『時(とき)さまの御(ご)随意(ずゐい)に……』
276時公(ときこう)『サアサア、277これから籤引(くじびき)だ。278御(ご)婦人(ふじん)方(がた)は免除(めんぢよ)だ。279男(をとこ)七(しち)人(にん)が籤引(くじびき)だ。280一番(いちばん)長(なが)い奴(やつ)を引(ひ)いた者(もの)が発声(はつせい)するのだ』
281と云(い)ひながら草蓑(くさみの)の端(はし)を千切(ちぎ)つて長短(ちやうたん)をこしらへ、
282時公(ときこう)『サア、283引(ひ)いたり引(ひ)いたり』
284と六(ろく)人(にん)の前(まへ)へ突(つ)き出(だ)した。285六(ろく)人(にん)は争(あらそ)つて是(これ)を引(ひ)いた。
286時公(ときこう)『ヤア、287牛公(うしこう)が一番(いちばん)長(なが)いのを引(ひ)いたぞ。288サア牛公(うしこう)、289お前(まへ)から宣伝歌(せんでんか)の発声(はつせい)だ。290アレ丈(だ)け船(ふね)の中(なか)でも教(をし)へてあるなり、291途々(みちみち)聞(き)かしてあるから云(い)へるだらう』
292牛公(うしこう)『ハイハイ、293確(たしか)に云(い)へます。294一遍(いつぺん)聞(き)いたら忘(わす)れぬと云(い)ふ地獄耳(ぢごくみみ)だから、295何(なん)でもかでも皆(みな)覚(おぼ)えて居(を)る。296ソンナラ皆様(みなさま)今日(けふ)は私(わたくし)が導師(だうし)だ。297後(あと)から附(つ)いて来(く)るのだよ』
298と云(い)ひ乍(なが)ら牛公(うしこう)は宣伝歌(せんでんか)を歌(うた)ひ始(はじ)めた。
299牛公(うしこう)『神(かみ)が表(おもて)に現(あら)はれて
300膳(ぜん)と茶碗(ちやわん)を立(た)て別(わ)ける
301この世(よ)で甘(うま)いは燗酒(かんざけ)ぢや
302心持(こころもち)よき大御酒(おほみき)ぢや
303唯(ただ)何事(なにごと)も人(ひと)の世(よ)は
304酒(さけ)と女(をんな)が一(イ)ツちよい
305呑(の)めよ騒(さわ)げや一寸先(いつすんさき)や闇(やみ)よ
306闇(やみ)の後(あと)には月(つき)が出(で)る』
307一同(いちどう)『アハヽヽヽヽ』
308鴨公(かもこう)『コラ牛公(うしこう)、309貴様(きさま)は矢張(やつぱり)ウラル教(けう)だ。310一寸先(いつすんさき)や闇(やみ)だなんて吐(ほざ)きやがつて、311宣(の)り直(なほ)せ。312膳(ぜん)と椀(わん)とを立(た)て分(わ)けるとは何(なん)だ。313法螺事(ほらごと)ばつかり云(い)ひやがつて』
314牛公(うしこう)『定(きま)つた事(こと)よ、315大気津(おほげつ)姫(ひめ)の家来(けらい)だもの、316食(く)ふ事(こと)と、317呑(の)む事(こと)と、318着(き)る事(こと)より外(ほか)には何(なに)もないのだ。319その癖(くせ)食(く)つたり呑(の)んだりする口(くち)から出(で)るのだもの、320食(く)ふ事(こと)や飲(の)む事(こと)を云(い)ふのは当(あた)り前(まへ)だ。321サア、322鴨(かも)とやら、323もう一口(ひとくち)云(い)ふなら云(い)つて見(み)い。324徳利(とくり)の口(くち)ぢや、325一口(ひとくち)にやられるぞ。326土瓶(どびん)の口(くち)ぢや、327二口(ふたくち)と云(い)ふなら云(い)つて見(み)い』
328時公(ときこう)『エー、329仕様(しやう)のない奴(やつ)だ。330こんな処(ところ)で洒落(しやれ)どころか、331仕様(しやう)がない、332発起人(ほつきにん)の俺(おれ)が導師(だうし)になつて、333宣伝歌(せんでんか)を唱(とな)へるから、334お前(まへ)達(たち)や随(つ)いて来(く)るのだ』
335と云(い)ひつつ宣伝歌(せんでんか)を歌(うた)ひ始(はじ)めた。336一同(いちどう)は其(その)あとに随(つ)いて歌(うた)つて居(ゐ)る。337この時(とき)幾百(いくひやく)人(にん)とも知(し)れぬ足音(あしおと)が岩窟(いはや)の外(そと)に聞(きこ)えて来(き)た。338牛公(うしこう)は岩戸(いはと)の隙間(すきま)より一寸(ちよつと)覗(のぞ)いて、
339牛公(うしこう)『ヤア、340御(お)出(いで)た、341御(お)出(いで)た、342是(こ)れ丈(だけ)味方(みかた)があれば何程(なにほど)時公(ときこう)が強(つよ)うても大丈夫(だいぢやうぶ)だ』
343と口走(くちばし)つた。344時公(ときこう)は、
345時公(ときこう)『これは大変(たいへん)』
346と牛公(うしこう)に当(あ)て身(み)を喰(くら)はした。347牛(うし)はウンとその場(ば)で倒(たふ)れた。348足音(あしおと)は次第(しだい)々々(しだい)に遠(とほ)ざかり行(ゆ)くのであつた。
349(大正一一・三・三 旧二・五 岩田久太郎録)
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