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霊界物語
霊主体従(第1~12巻)
第11巻(戌の巻)
言霊反
凡例
信天翁(二)
総説歌
第1篇 長駆進撃
第1章 クス野ケ原
第2章 一目お化
第3章 死生観
第4章 梅の花
第5章 大風呂敷
第6章 奇の都
第7章 露の宿
第2篇 意気揚々
第8章 明志丸
第9章 虎猫
第10章 立聞
第11章 表教
第12章 松と梅
第13章 転腹
第14章 鏡丸
第3篇 言霊解
第15章 大気津姫の段(一)
第16章 大気津姫の段(二)
第17章 大気津姫の段(三)
第4篇 満目荒寥
第18章 琵琶の湖
第19章 汐干丸
第20章 醜の窟
第21章 俄改心
第22章 征矢の雨
第23章 保食神
第5篇 乾坤清明
第24章 顕国宮
第25章 巫の舞
第26章 橘の舞
第27章 太玉松
第28章 二夫婦
第29章 千秋楽
余白歌
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霊界物語
>
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第11巻(戌の巻)
> 第2篇 意気揚々 > 第13章 転腹
<<< 松と梅
(B)
(N)
鏡丸 >>>
第一三章
転腹
(
てんぷく
)
〔四八〇〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第11巻 霊主体従 戌の巻
篇:
第2篇 意気揚々
よみ(新仮名遣い):
いきようよう
章:
第13章 転腹
よみ(新仮名遣い):
てんぷく
通し章番号:
480
口述日:
1922(大正11)年03月01日(旧02月03日)
口述場所:
筆録者:
加藤明子
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1922(大正11)年9月10日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
松代姫が宣伝歌を歌っている折しも、館の門前には十手を持ったウラル彦の捕り手たち五人(松公、梅公、竹公、春公、秋公)が中をうかがっていた。
孔雀姫を捕らえに来た様子だが、案に相違して館内には多くの人がいるので、中に踏み込むのをためらって、馬鹿話をしている。
時公は中から出て行って、捕り手たちに啖呵を切ると、四人を一度に掴んで館の中に引き入れてしまった。勝公、八公、鴨公の三人も、残りの一人を担いでくる。
時公は捕り手たちをお神酒でもてなした。そして、三五教への改心を説いた。捕り手たちは以外の饗応に感じて、熱心な三五教の信者となった。
松代姫一行は、雪の中を竹野姫を追って出発して行った。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
[×閉じる]
:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
OBC :
rm1113
愛善世界社版:
121頁
八幡書店版:
第2輯 556頁
修補版:
校定版:
122頁
普及版:
51頁
初版:
ページ備考:
001
松代姫
(
まつよひめ
)
が、
002
妹
(
いもうと
)
の
梅ケ香姫
(
うめがかひめ
)
に
面会
(
めんくわい
)
したる
嬉
(
うれ
)
しさに
歌
(
うた
)
を
歌
(
うた
)
つて
居
(
ゐ
)
る
真最中
(
まつさいちう
)
、
003
表門
(
おもてもん
)
に
現
(
あら
)
はれたる
黒頭巾
(
くろずきん
)
を
被
(
かぶ
)
つて
手
(
て
)
に
十手
(
じつて
)
を
持
(
も
)
つた
男
(
をとこ
)
、
004
門内
(
もんない
)
の
様子
(
やうす
)
を
窺
(
うかが
)
ひながら、
005
甲
(
かふ
)
『オイ
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
もアーメニヤのウラル
彦
(
ひこ
)
の
盤古
(
ばんこ
)
神王
(
しんわう
)
から
命令
(
めいれい
)
を
受
(
う
)
けて
此処
(
ここ
)
に
捕手
(
とりて
)
に
向
(
むか
)
つたのだが、
006
どうも
内
(
うち
)
の
様子
(
やうす
)
が
怪
(
あや
)
しいぞ。
007
ぐじやぐじや
一人
(
ひとり
)
ぢやないらしい、
008
何
(
なん
)
でも
五六
(
ごろく
)
人
(
にん
)
の
声
(
こゑ
)
がして
居
(
ゐ
)
る。
009
一人
(
ひとり
)
の
ぐじや
ぐじや
姫
(
ひめ
)
でさへも、
010
こんな
荒男
(
あらをとこ
)
が
五
(
ご
)
人
(
にん
)
も
出
(
で
)
て
来
(
こ
)
な
手
(
て
)
に
合
(
あ
)
はぬのに、
011
五六
(
ごろく
)
人
(
にん
)
も
居
(
ゐ
)
るとすれば
一寸
(
ちよつと
)
容易
(
ようい
)
に
手出
(
てだ
)
しは
出来
(
でき
)
ない、
012
なんぼ
ぐじや
ぐじや
姫
(
ひめ
)
でも
一寸
(
ちよつと
)
ぐじやりとは
仕居
(
しを
)
らぬかも
知
(
し
)
れぬ』
013
乙
(
おつ
)
『
貴様
(
きさま
)
何
(
なに
)
を
吐
(
ぬか
)
すのぢや、
014
ぐじやぐじや
姫
(
ひめ
)
ぢやと
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
があるか、
015
くしやくしや
姫
(
ひめ
)
だ』
016
丙
(
へい
)
『
馬鹿
(
ばか
)
云
(
い
)
ふな、
017
九尺姫
(
くしやくひめ
)
と
云
(
い
)
ふのだ、
018
貴様
(
きさま
)
のとこの
嬶
(
かか
)
も
九
(
く
)
尺
(
しやく
)
二間
(
にけん
)
の
破
(
やぶ
)
れ
家
(
や
)
に、
019
棟
(
むね
)
つづき
小屋
(
ごや
)
に
暮
(
くら
)
して、
020
九尺
(
くしやく
)
々々
(
くしやく
)
吐
(
ぬ
)
かして
居
(
を
)
るが、
021
マアあンなものだらうかい』
022
丁
(
てい
)
『さあ、
023
くしやくしやと
悪口
(
わるくち
)
を
云
(
い
)
うと、
024
今頃
(
いまごろ
)
にや、
025
貴様
(
きさま
)
のところのお
鍋
(
なべ
)
が、
026
くしやんくしやんと、
027
くしやみ
姫
(
ひめ
)
になつて
居
(
を
)
るかも
知
(
し
)
れないぞ』
028
戌
(
ぼ
)
『
分
(
わか
)
らぬ
奴
(
やつ
)
だなあ、
029
杓姫
(
しやくひめ
)
と
云
(
い
)
ふのだ、
030
杓子
(
しやくし
)
のやうな
顔
(
かほ
)
をして
居
(
を
)
るから
杓姫
(
しやくひめ
)
だよ、
031
さてもさても
汲
(
く
)
み
取
(
と
)
りの
悪
(
わる
)
い
奴
(
やつ
)
だ。
032
貴様
(
きさま
)
の
様
(
やう
)
な
奴
(
やつ
)
に
相手
(
あひて
)
になつて
居
(
ゐ
)
ると
癪
(
しやく
)
に
触
(
さは
)
つて
仕様
(
しやう
)
がない、
033
いづれ
何処
(
どこ
)
かの
飯盛
(
めしもり
)
女
(
をんな
)
でもやとつて
来
(
き
)
て
嬶
(
かか
)
にしやがつたのか、
034
誰
(
たれ
)
やらの
作
(
つく
)
つた
川柳
(
せんりう
)
にも「
飯盛
(
めしもり
)
りをしてるお
鍋
(
なべ
)
の
杓子顔
(
しやくしがほ
)
」と
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
がある、
035
マアそんな
代物
(
しろもの
)
だらう』
036
甲
(
かふ
)
『
馬鹿
(
ばか
)
言
(
い
)
へ、
037
ぐじや
ぐじや
姫
(
ひめ
)
は
天下
(
てんか
)
の
美人
(
びじん
)
だと
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
だ。
038
其奴
(
そいつ
)
に
睨
(
にら
)
まれたが
最後
(
さいご
)
、
039
どんな
奴
(
やつ
)
でも、
040
ぐじや
ぐじやになつて
仕舞
(
しま
)
ふ。
041
それで、
042
ぐじや
ぐじや
姫
(
ひめ
)
と
云
(
い
)
ふのだ。
043
オイオイ
一寸
(
ちよつと
)
聞
(
き
)
いて
見
(
み
)
ろ、
044
三杯酢
(
さんばいず
)
にするとか、
045
茹
(
ゆ
)
でて
喰
(
く
)
ふとか、
046
美味
(
うま
)
からうとか、
047
言
(
い
)
つて
居
(
ゐ
)
やがるぞ。
048
貴様
(
きさま
)
愚図
(
ぐづ
)
々々
(
ぐづ
)
しとると、
049
ぐじや
ぐじや
姫
(
ひめ
)
の
化女
(
ばけをんな
)
に
喰
(
く
)
はれて
仕舞
(
しま
)
ふか
分
(
わか
)
らぬぞ』
050
丙
(
へい
)
『オイ、
051
臆病風
(
おくびやうかぜ
)
に
誘
(
さそ
)
はれて、
052
大事
(
だいじ
)
の
使命
(
しめい
)
を
果
(
はた
)
せない
様
(
やう
)
な
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
たら、
053
それこそ
帰
(
かへ
)
つて
上役
(
うはやく
)
に
何
(
なん
)
と
言
(
い
)
つて
噛
(
か
)
みつかれるか
分
(
わか
)
りやせぬ』
054
丁
(
てい
)
『
此方
(
こちら
)
で
噛
(
か
)
みつかれるか、
055
帰
(
い
)
んで
噛
(
か
)
みつかれるか、
056
どちらにしても
助
(
たす
)
かりつこはない、
057
前門
(
ぜんもん
)
の
狼
(
おほかみ
)
、
058
後門
(
こうもん
)
の
虎
(
とら
)
だ。
059
一
(
ひと
)
つ
肝玉
(
きもだま
)
を
出
(
だ
)
して
乱入
(
らんにふ
)
に
及
(
およ
)
ぶとしようかい』
060
戌
(
ぼ
)
『オイ、
061
乱入
(
らんにふ
)
は
結構
(
けつこう
)
だが、
062
彼奴
(
あいつ
)
ぐにや
ぐにや
姫
(
ひめ
)
だから、
063
ニユーだぞ』
064
甲
(
かふ
)
『
何
(
なに
)
がニユーだい』
065
戌
(
ぼ
)
『それでもニユーはニユーだ。
066
古狸
(
ふるたぬき
)
の
化入道
(
ばけにふだう
)
だ。
067
八畳敷
(
はちでふじき
)
の
睾丸
(
きんたま
)
を
投網
(
とあみ
)
をうつたやうにパーツと
被
(
き
)
せやがつたら、
068
それこそ
たま
つたものぢやない。
069
直
(
すぐ
)
喰
(
く
)
はれて
仕舞
(
しま
)
つて
白骨
(
はくこつ
)
になつて
曝
(
さら
)
されるのだ。
070
それだからよく
言
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
だ。
071
晨
(
あした
)
の
睾丸
(
かうがん
)
夕
(
ゆふべ
)
の
白骨
(
はくこつ
)
だ』
072
乙
(
おつ
)
『
厚顔
(
こうがん
)
は
貴様
(
きさま
)
の
事
(
こと
)
だ。
073
本当
(
ほんたう
)
に
鉄面皮
(
てつめんぴ
)
な
奴
(
やつ
)
だから、
074
かういふ
時
(
とき
)
にや
貴様
(
きさま
)
先導
(
せんだう
)
にや
都合
(
つがふ
)
がよい。
075
愚図
(
ぐづ
)
々々
(
ぐづ
)
せぬと、
076
サアサア
貴様
(
きさま
)
から
這入
(
はい
)
つたり
這入
(
はい
)
つたり。
077
オイ
松公
(
まつこう
)
、
078
梅公
(
うめこう
)
、
079
何
(
なに
)
を
愚図
(
ぐづ
)
々々
(
ぐづ
)
しやがるのだ。
080
オヂオヂして
居
(
を
)
ると
今度
(
こんど
)
は
竹
(
たけ
)
さまが
拳骨
(
げんこつ
)
をお
見舞
(
みまひ
)
申
(
まを
)
すぞ』
081
門内
(
もんない
)
にて
時公
(
ときこう
)
は
此
(
この
)
声
(
こゑ
)
を
聞
(
き
)
き、
082
時公
(
ときこう
)
『
何
(
なん
)
だ、
083
失敬
(
しつけい
)
な
奴
(
やつ
)
だ。
084
松代姫
(
まつよひめ
)
さまを
松公
(
まつこう
)
だの、
085
梅ケ香姫
(
うめがかひめ
)
さまを
梅公
(
うめこう
)
だの、
086
竹公
(
たけこう
)
だのと
馬鹿
(
ばか
)
にして
居
(
ゐ
)
やがる。
087
愚図
(
ぐづ
)
々々
(
ぐづ
)
吐
(
ぬ
)
かすと
摘
(
つま
)
み
潰
(
つぶ
)
してやるぞ』
088
梅ケ香姫
(
うめがかひめ
)
『コレコレ
時
(
とき
)
さま、
089
お
前
(
まへ
)
さまはそれだから
困
(
こま
)
る。
090
二言目
(
ふたことめ
)
には
摘
(
つま
)
み
出
(
だ
)
すなぞと、
091
そんな
乱暴
(
らんばう
)
はやめて
下
(
くだ
)
さい。
092
人
(
ひと
)
が
鼻
(
はな
)
摘
(
つま
)
みして
厭
(
いや
)
がります』
093
時公
(
ときこう
)
『
鼻
(
はな
)
摘
(
つま
)
みしたつてあんな
事
(
こと
)
言
(
い
)
はして
置
(
お
)
いて
男甲斐
(
をとこがひ
)
もない、
094
黙
(
だま
)
つて
居
(
を
)
るのが
詮
(
つま
)
らぬぢやありませぬか。
095
つまり、
096
要
(
えう
)
するに、
097
即
(
すなは
)
ち、
098
狐
(
きつね
)
に
魅
(
つま
)
まれたやうなものですな。
099
兎
(
と
)
も
角
(
かく
)
一寸
(
ちよつと
)
門口
(
かどぐち
)
を
覗
(
のぞ
)
いて
来
(
き
)
てやりませうか』
100
梅ケ香姫
(
うめがかひめ
)
『
覗
(
のぞ
)
いて
来
(
く
)
るのも
宜敷
(
よろし
)
いが、
101
温順
(
おとな
)
しくして
相手
(
あひて
)
にならぬやうにしなさいや。
102
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
のやうに
誠
(
まこと
)
の
道
(
みち
)
の
方
(
はう
)
へ
摘
(
つま
)
み
上
(
あ
)
げてやるのは
宜敷
(
よろし
)
いが、
103
鷲
(
わし
)
が
雀
(
すずめ
)
を
抓
(
つま
)
んだやうな
乱暴
(
らんばう
)
な
事
(
こと
)
をしてはいけませぬぜ』
104
時公
(
ときこう
)
『ハイハイ、
105
承知
(
しようち
)
致
(
いた
)
しました。
106
摘
(
つま
)
み
上
(
あ
)
げてやります、
107
かみさま
の
方
(
はう
)
へ』
108
と
云
(
い
)
ひながら
肩
(
かた
)
を
揺
(
ゆす
)
つて
門口
(
かどぐち
)
に
向
(
むか
)
つた。
109
時公
(
ときこう
)
『サア、
110
梅ケ香
(
うめがか
)
様
(
さま
)
のお
許
(
ゆる
)
しだ。
111
摘
(
つま
)
み
上
(
あ
)
げるなら、
112
かみ
の
方
(
はう
)
へだと
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
だ。
113
俺
(
おれ
)
の
髪
(
かみ
)
の
上
(
うへ
)
まで
掴
(
つか
)
み
上
(
あ
)
げてやらうかい。
114
最前
(
さいぜん
)
から
腕
(
うで
)
が
鳴
(
な
)
つて
りう
りういつてた
所
(
ところ
)
だ。
115
マアこれで
溜飲
(
りういん
)
が
下
(
さ
)
がると
言
(
い
)
ふものだ』
116
と
独語
(
ひとりごち
)
ながら
門
(
もん
)
をガラリと
開
(
あ
)
けた。
117
五
(
ご
)
人
(
にん
)
の
捕手
(
とりて
)
は
十手
(
じつて
)
を
握
(
にぎ
)
つた
儘
(
まま
)
、
118
不意
(
ふい
)
の
開門
(
かいもん
)
に
鳩
(
はと
)
が
豆鉄砲
(
まめでつぱう
)
をくつたやうな
面構
(
つらがま
)
へして、
119
時公
(
ときこう
)
の
巨大
(
きよだい
)
な
姿
(
すがた
)
を
凝視
(
みつ
)
めて
居
(
ゐ
)
る。
120
時公
(
ときこう
)
『ヤイヤイ、
121
古今
(
ここん
)
独歩
(
どくぽ
)
、
122
天下
(
てんか
)
無類
(
むるゐ
)
、
123
絶世
(
ぜつせい
)
の
美人
(
びじん
)
孔雀姫
(
くじやくひめ
)
様
(
さま
)
が
御
(
ご
)
門前
(
もんぜん
)
に
立
(
た
)
つて、
124
愚図
(
ぐづ
)
々々
(
ぐづ
)
吐
(
ぬ
)
かすは
何奴
(
なにやつ
)
なるぞ。
125
その
方
(
はう
)
はウラル
教
(
けう
)
の
捕手
(
とりて
)
と
見
(
み
)
える。
126
其
(
その
)
十手
(
じつて
)
は
何
(
なん
)
だツ。
127
此処
(
ここ
)
へ
持
(
も
)
つて
来
(
こ
)
い。
128
そんな
苧殻
(
をがら
)
のやうな
細
(
ほそ
)
い
奴
(
やつ
)
を
持
(
も
)
ちやがつて、
129
百本
(
ひやくぽん
)
でも
千本
(
せんぼん
)
でも
一緒
(
いつしよ
)
にかためてぽきぽきと
折
(
を
)
つて
仕舞
(
しま
)
つて
遣
(
や
)
らうか。
130
オイコラ、
131
蛇掴
(
へびつか
)
みのやうに
貴様
(
きさま
)
も
掴
(
つか
)
み
上
(
あ
)
げてやらうか』
132
松公
(
まつこう
)
『ヤア、
133
この
方
(
はう
)
は
貴様
(
きさま
)
の
云
(
い
)
ふ
通
(
とほ
)
り、
134
ウラル
教
(
けう
)
の
捕手
(
とりて
)
の
役人
(
やくにん
)
だ。
135
尋常
(
じんじやう
)
に
手
(
て
)
を
廻
(
まは
)
せ』
136
時公
(
ときこう
)
『この
方
(
はう
)
は、
137
アルタイ
山
(
ざん
)
の
蛇掴
(
へびつか
)
みの
親分
(
おやぶん
)
、
138
大蛇掴
(
をろちつか
)
みだ。
139
サア
尋常
(
じんじやう
)
に
目
(
め
)
をまはせ。
140
ヤア、
141
言
(
い
)
はんさきに
目
(
め
)
を
眩
(
まは
)
しやがつて、
142
倒
(
たふ
)
れて
居
(
ゐ
)
やがる。
143
腰
(
こし
)
の
弱
(
よわ
)
い
奴
(
やつ
)
、
144
いや
目
(
め
)
の
弱
(
よわ
)
い
奴
(
やつ
)
だ。
145
改心
(
かいしん
)
致
(
いた
)
さぬと
まさか
の
時
(
とき
)
にキリキリ
舞
(
まひ
)
を
致
(
いた
)
して
眩暈
(
めまひ
)
が
来
(
く
)
るぞよ』
146
かかる
所
(
ところ
)
へまたもや
勝公
(
かつこう
)
がやつて
来
(
き
)
た。
147
勝公
(
かつこう
)
『オヤ、
148
此奴
(
こいつ
)
ア
面白
(
おもしろ
)
い、
149
黒
(
くろ
)
ン
坊
(
ばう
)
、
150
屁古垂
(
へこた
)
れ、
151
猪口才
(
ちよこざい
)
な、
152
貴様
(
きさま
)
は
捕手
(
とりて
)
の
役人
(
やくにん
)
らしいが、
153
早
(
はや
)
く
捕
(
つかま
)
へて
帰
(
かへ
)
らぬかい。
154
愚図
(
ぐづ
)
々々
(
ぐづ
)
致
(
いた
)
すと
神
(
かみ
)
の
道
(
みち
)
へ
掴
(
つか
)
み
上
(
あ
)
げるぞ。
155
こんな
弱
(
よわ
)
い
奴
(
やつ
)
には、
156
俺
(
おれ
)
のやうな
豪傑
(
がうけつ
)
は
喰
(
くら
)
ひ
足
(
た
)
らぬ。
157
八公
(
やつこう
)
と
鴨公
(
かもこう
)
に
茹
(
ゆ
)
で
上
(
あ
)
げさせて
噛
(
か
)
んで
喰
(
く
)
はしてやろかい。
158
大分
(
だいぶん
)
豪
(
えら
)
い
寒
(
かん
)
じでさむがつて
居
(
を
)
るのだから、
159
茹
(
ゆ
)
でて、
160
天麩羅
(
てんぷら
)
にして
喰
(
く
)
つたら、
161
ちつとは
暖
(
あたた
)
まるかも
知
(
し
)
れぬなア。
162
時
(
とき
)
さま、
163
序
(
ついで
)
に
一人
(
ひとり
)
づつ
摘
(
つま
)
み
上
(
あ
)
げて、
164
孔雀姫
(
くじやくひめ
)
様
(
さま
)
にお
目
(
め
)
にかけたらどうだらう』
165
時公
(
ときこう
)
『それや
面白
(
おもしろ
)
い。
166
俺
(
おれ
)
は
四
(
よ
)
人
(
にん
)
の
奴
(
やつ
)
を
両
(
りやう
)
の
手
(
て
)
で
掴
(
つか
)
んで、
167
かみ
の
方
(
はう
)
へ
掴
(
つか
)
み
上
(
あ
)
げるから、
168
貴様
(
きさま
)
一人
(
ひとり
)
だけ
摘
(
つま
)
み
上
(
あ
)
げて
来
(
こ
)
い』
169
と
言
(
い
)
ひながら、
170
強力
(
がうりき
)
無双
(
むさう
)
の
時公
(
ときこう
)
は
四
(
よ
)
人
(
にん
)
を
一
(
いち
)
時
(
じ
)
に
両手
(
りやうて
)
に
握
(
にぎ
)
り、
171
頭上
(
づじやう
)
高
(
たか
)
く
捧
(
ささ
)
げながら、
172
時公
(
ときこう
)
『ヤア、
173
門
(
もん
)
が
邪魔
(
じやま
)
になる。
174
困
(
こま
)
つた
もん
だ、
175
小
(
ちひ
)
さい
門
(
もん
)
だ、
176
低
(
ひく
)
い
門
(
もん
)
だ、
177
おまけに
此奴
(
こいつ
)
は
弱
(
よわ
)
い
もん
だなア』
178
と
言
(
い
)
ひながら、
179
ピシヤリ
と
門
(
もん
)
を
閉
(
し
)
めた。
180
閉
(
し
)
めた
拍子
(
へうし
)
にガタリと
枢
(
くるる
)
はおりた。
181
勝公
(
かつこう
)
は
外
(
そと
)
から、
182
勝公
(
かつこう
)
『オイオイ、
183
開
(
あ
)
けぬか
開
(
あ
)
けぬか。
184
此奴
(
こいつ
)
は
中々
(
なかなか
)
手強
(
てごは
)
い
奴
(
やつ
)
だ。
185
オイオイ、
186
助
(
たす
)
け
船
(
ぶね
)
だ』
187
時公
(
ときこう
)
『オイオイ、
188
八
(
やつ
)
、
189
鴨
(
かも
)
、
190
勝公
(
かつこう
)
が
外
(
そと
)
で
泡
(
あわ
)
を
吹
(
ふ
)
いて
居
(
ゐ
)
る。
191
お
前
(
まへ
)
も
加勢
(
かせい
)
に
往
(
い
)
つて
来
(
こ
)
い』
192
八
(
やつ
)
、
193
鴨
(
かも
)
『よし
来
(
き
)
た』
194
と
二人
(
ふたり
)
は
枢
(
くるる
)
を
開
(
あ
)
けて
表門
(
おもてもん
)
に
駆
(
か
)
け
出
(
だ
)
した。
195
やつとの
事
(
こと
)
で
一人
(
ひとり
)
の
捕手
(
とりて
)
を
担
(
かつ
)
いで
這入
(
はい
)
つて
来
(
き
)
た。
196
時公
(
ときこう
)
『サアサア、
197
捕手
(
とりて
)
のお
方
(
かた
)
、
198
躓
(
つまづ
)
く
石
(
いし
)
も
縁
(
えん
)
の
端
(
はし
)
だ。
199
マア
一杯
(
いつぱい
)
御
(
お
)
神酒
(
みき
)
を
頂戴
(
ちやうだい
)
なさい。
200
決
(
けつ
)
して
毒
(
どく
)
は
入
(
はい
)
つて
居
(
ゐ
)
はしない、
201
私
(
わたくし
)
が
毒味
(
どくみ
)
をして
見
(
み
)
せる』
202
と
言
(
い
)
ひながら、
203
神前
(
しんぜん
)
の
神酒
(
みき
)
をおろし、
204
時公
(
ときこう
)
『お
先
(
さき
)
に
失礼
(
しつれい
)
』
205
と
云
(
い
)
ひながら、
206
自分
(
じぶん
)
が
一杯
(
いつぱい
)
ぐつ
とやり、
207
時公
(
ときこう
)
『サア、
208
この
通
(
とほ
)
りだ。
209
頂
(
いただ
)
いた
頂
(
いただ
)
いた』
210
松公
(
まつこう
)
『これはこれは
思
(
おも
)
ひがけない。
211
殺
(
ころ
)
されるかと
思
(
おも
)
つたら、
212
御
(
お
)
神酒
(
みき
)
を
頂
(
いただ
)
くのか。
213
何
(
なに
)
より
好物
(
かうぶつ
)
だ』
214
竹公
(
たけこう
)
『
夢
(
ゆめ
)
に
牡丹餅
(
ぼたもち
)
だ』
215
梅公
(
うめこう
)
『
地獄
(
ぢごく
)
で
酒
(
さけ
)
だ。
216
サア
春公
(
はるこう
)
、
217
秋公
(
あきこう
)
、
218
貴様
(
きさま
)
も
一杯
(
いつぱい
)
頂戴
(
ちやうだい
)
せい』
219
松公
(
まつこう
)
『ヤア、
220
これはこれは
酌姫
(
しやくひめ
)
様
(
さま
)
』
221
鴨公
(
かもこう
)
『お
生憎
(
あいにく
)
此処
(
ここ
)
には
酌姫
(
しやくひめ
)
は
居
(
ゐ
)
ない、
222
この
鴨
(
かも
)
さまがついで
上
(
あ
)
げませうかい。
223
鴨
(
かも
)
の
肴
(
さかな
)
で
一杯
(
いつぱい
)
飲
(
あが
)
つて、
224
後
(
あと
)
は
宣伝歌
(
せんでんか
)
の
珍
(
めづら
)
しい
歌
(
うた
)
を
聞
(
き
)
かして
貰
(
もら
)
ふのだ』
225
竹公
(
たけこう
)
『
思
(
おも
)
ひがけない
御
(
ご
)
馳走
(
ちそう
)
に
預
(
あづ
)
かり、
226
命
(
いのち
)
を
助
(
たす
)
けて
貰
(
もら
)
つて
有難
(
ありがた
)
う
御座
(
ござ
)
います。
227
ヤア、
228
もう
捕手
(
とりて
)
の
役人
(
やくにん
)
では
気
(
き
)
が
利
(
き
)
かない、
229
今日
(
けふ
)
から
すつかり
廃業
(
はいげふ
)
しませう』
230
時公
(
ときこう
)
『
捕手
(
とりて
)
の
役人
(
やくにん
)
はお
前
(
まへ
)
の
天職
(
てんしよく
)
だ。
231
それをやめたら
何
(
なに
)
をする
積
(
つも
)
りだ』
232
竹公
(
たけこう
)
『
私
(
わたくし
)
は
元来
(
ぐわんらい
)
の
芸
(
げい
)
無
(
な
)
し、
233
これと
云
(
い
)
ふ
仕事
(
しごと
)
もありませぬ』
234
時公
(
ときこう
)
『さうだらう、
235
此
(
この
)
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
に
何
(
なに
)
もせず
暮
(
くら
)
す
奴
(
やつ
)
は
穀
(
ごく
)
潰
(
つぶ
)
しだ、
236
娑婆
(
しやば
)
塞
(
ふさ
)
ぎだ。
237
捕手
(
とりて
)
の
役人
(
やくにん
)
はお
前
(
まへ
)
の
天職
(
てんしよく
)
だからやめてはいかぬ。
238
俺
(
おれ
)
をアーメニヤ
迄
(
まで
)
連
(
つ
)
れて
帰
(
かへ
)
つて、
239
お
前
(
まへ
)
の
手柄
(
てがら
)
にせい』
240
松公
(
まつこう
)
『メヽ
滅相
(
めつさう
)
な。
241
貴方
(
あなた
)
のやうなお
方
(
かた
)
を
連
(
つ
)
れて
帰
(
かへ
)
らうものなら、
242
それこそ
大騒動
(
おほさうどう
)
が
起
(
おこ
)
ります』
243
時公
(
ときこう
)
『ハヽヽヽヽ、
244
何
(
なん
)
と
弱
(
よわ
)
い
捕手
(
とりて
)
だなア』
245
梅公
(
うめこう
)
『アヽ、
246
何
(
なん
)
と
仰有
(
おつしや
)
つても
捕手
(
とりて
)
の
役
(
やく
)
は
嫌
(
いや
)
になつた。
247
何時
(
いつ
)
命
(
いのち
)
が
無
(
な
)
くなるか
分
(
わか
)
つたものぢやない。
248
仕事
(
しごと
)
の
多
(
おほ
)
いのに
人
(
ひと
)
の
厭
(
いや
)
がる
捕手
(
とりて
)
の
役人
(
やくにん
)
になるとは、
249
何
(
なん
)
たる
因果
(
いんぐわ
)
の
生
(
うま
)
れつきだ』
250
とそろそろ
酒
(
さけ
)
が
廻
(
まは
)
つて
泣
(
な
)
き
出
(
だ
)
す。
251
勝公
(
かつこう
)
『ウハヽヽ、
252
面白
(
おもしろ
)
い
面白
(
おもしろ
)
い。
253
泣
(
な
)
き
上戸
(
じやうご
)
が
現
(
あら
)
はれた』
254
時公
(
ときこう
)
『
今
(
いま
)
お
前
(
まへ
)
は
命
(
いのち
)
が
危
(
あぶな
)
いから、
255
捕手
(
とりて
)
の
役
(
やく
)
を
止
(
や
)
めると
云
(
い
)
つたが、
256
さう
無茶
(
むちや
)
苦茶
(
くちや
)
に
死
(
し
)
ぬものではない。
257
生
(
い
)
くるも
死
(
し
)
ぬるも
皆
(
みな
)
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
思召
(
おぼしめし
)
だ。
258
なんぼ
死
(
し
)
なうと
思
(
おも
)
つても
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
のお
許
(
ゆる
)
しが
無
(
な
)
ければ
死
(
し
)
ぬ
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
ぬ。
259
死
(
し
)
ぬまい
死
(
し
)
ぬまいと
思
(
おも
)
つても
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
が
幽界
(
いうかい
)
へ
連
(
つ
)
れて
行
(
ゆ
)
くと
仰有
(
おつしや
)
つたら
酒
(
さけ
)
を
呑
(
の
)
みながらでも
死
(
し
)
なねばならぬぞ。
260
飯
(
めし
)
食
(
く
)
ふ
間
(
ま
)
もどうなるか
分
(
わか
)
らぬ
人
(
ひと
)
の
命
(
いのち
)
だ。
261
何事
(
なにごと
)
も
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
にお
任
(
まか
)
せして
其
(
その
)
日
(
ひ
)
の
勤
(
つと
)
めを
神妙
(
しんめう
)
に
勤
(
つと
)
めるがよからう』
262
茲
(
ここ
)
に
五
(
ご
)
人
(
にん
)
の
捕手
(
とりて
)
は
意外
(
いぐわい
)
の
饗応
(
きやうおう
)
に
感
(
かん
)
じ、
263
いづれも
三五教
(
あななひけう
)
の
熱心
(
ねつしん
)
なる
信者
(
しんじや
)
となつた。
264
松代姫
(
まつよひめ
)
の
一行
(
いつかう
)
は
寒風
(
かんぷう
)
に
梳
(
くしけづ
)
られながら、
265
喜
(
よろこ
)
び
勇
(
いさ
)
んで
雪
(
ゆき
)
の
道
(
みち
)
を、
266
ザクザクと
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
くのであつた。
267
(
大正一一・三・一
旧二・三
加藤明子
録)
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