霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第八章 明志丸(あかしまる)〔四七五〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第11巻 霊主体従 戌の巻 篇:第2篇 意気揚々 よみ(新仮名遣い):いきようよう
章:第8章 明志丸 よみ(新仮名遣い):あかしまる 通し章番号:475
口述日:1922(大正11)年03月01日(旧02月03日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1922(大正11)年9月10日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
六人の宣伝使は、それぞれ別れて宣伝に行くこととし、梅ケ香姫は明志の湖のほとりに一人たどり着いた。そして船に乗り込み船中の客となった。
船中には、さいぜんの捕り手・勝公が乗り込んでおり、ウラル彦の命で三五教の宣伝使を捕えようと画策をめぐらしていた。しかし勝公は新玉原の森での失態を、仲間の八公に責められている。
そのうちに、八公は船の隅に梅ケ香姫を見つけた。勝公は名誉挽回とばかりに、梅ケ香姫をなんとか捕えようとしきりに様子を伺っている。
梅ケ香姫は先にすっくと立ち上がり、新玉原での勝公や鴨公の失敗を宣伝歌に歌い始めた。怒った勝公が梅ケ香姫に殴りかかろうとすると、大力の男が勝公の襟首をぐっと掴んで持ち上げてしまった。
この様を見て、八公、鴨公は勝公を見捨てて、大力の男の方についてしまう。この大力の男は時公であった。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2020-08-11 19:39:51 文字数:3753 OBC :rm1108
愛善世界社版:77頁 八幡書店版:第2輯 541頁 修補版: 校定版:77頁 普及版:32頁 初版: ページ備考:
001山川(やまかは)どよみ国土(くぬち)揺(ゆ)り
002曲神(まがかみ)猛(たけ)ぶ常暗(とこやみ)の
003雲(くも)を晴(はら)して美(うるは)しき
004神代(かみよ)を建(た)てて黄金(わうごん)の
005世界(せかい)を造(つく)り固(かた)めむと
006黄金山(わうごんざん)に現(あ)れませる
007三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)
008東雲別(しののめわけ)や青雲(あをくも)の
009別(わけ)の命(みこと)はやうやうに
010百(もも)の悩(なや)みを忍(しの)びつつ
011神(かみ)の仕組(しぐみ)もクス野原(のはら)
012男女(だんぢよ)六人(むたり)の神司(かむづかさ)
013荒野(あれの)ケ原(はら)にめぐり会(あ)ひ
014西(にし)へ西(にし)へと北(きた)の森(もり)
015一夜(ひとよ)の露(つゆ)を凌(しの)ぎつつ
016神(かみ)の教(をしへ)を畏(かしこ)みて
017道(みち)も明志(あかし)の湖(みづうみ)の
018こなたの郷(さと)に各自(めいめい)に
019袖(そで)を別(わか)ちて進(すす)み行(ゆ)く
020錦(にしき)の木(こ)の葉(は)散(ち)り果(は)てて
021北風(きたかぜ)寒(さむ)き冬(ふゆ)の空(そら)
022地(ち)は一面(いちめん)の銀世界(ぎんせかい)
023行(ゆ)きつ倒(たふ)れつ雪(ゆき)の路(みち)
024春(はる)をも待(ま)たぬ梅ケ香(うめがか)の
025薫(かをり)ゆかしき宣伝使(せんでんし)
026明志(あかし)の湖(うみ)の岸(きし)の辺(べ)に
027独(ひと)りとぼとぼ着(つ)きにける。
028 明志丸(あかしまる)は数十(すうじふ)の船客(せんきやく)を乗(の)せ、029今(いま)や出帆(しゆつぱん)せむとする時(とき)であつた。030梅ケ香姫(うめがかひめ)は急(いそ)ぎ船中(せんちう)の客(きやく)となつた。031骨(ほね)を裂(さ)く様(やう)な寒風(かんぷう)はヒユーヒユーと笛(ふえ)を吹(ふ)きて海面(かいめん)を掃(は)き立(た)てる。032浪(なみ)に揉(も)まれて船(ふね)の動揺(どうえう)は刻々(こくこく)に激(はげ)しくなつて来(き)た。033大抵(たいてい)の船客(せんきやく)は寒(さむ)さと怖(こは)さに慄(ふる)ひあがつて、034船底(ふなぞこ)に小(ちひ)さくなりてかぢりつく様(やう)にして居(ゐ)る。035中(なか)に四五(しご)人(にん)の男(をとこ)は腰(こし)の飄(ひさご)の栓(つめ)を抜(ぬ)いてソロソロ酒(さけ)を飲(の)み始(はじ)めたり。
036甲(かふ)(勝公)『空(そら)は何(な)ンだか、037ドンヨリとして日天(につてん)様(さま)も碌(ろく)に見(み)えず、038白(しろ)い雲(くも)が一面(いちめん)に天井(てんぜう)を張(は)つて居(ゐ)る。039地(ち)は見渡(みわた)す限(かぎ)り真白(まつしろ)けだ、040青(あを)いものといつたら、041此(この)明志(あかし)の湖(うみ)と貴様(きさま)の顔(かほ)丈(だけ)だ。042一(ひと)つ一杯(いつぱい)グツとやつて元気(げんき)をつけたらどうだい』
043乙(おつ)(八公)『イヤ俺(おれ)は下戸(げこ)で………貴様(きさま)一人(ひとり)飲(の)ンだら宜(よ)からう』
044甲(かふ)(勝公)『オイ八公(やつこう)、045貴様(きさま)は飲(い)ける口(くち)だから、046お相手(あひて)にして遣(や)らう』
047と杓(しやく)を突出(つきだ)す。048八公(やつこう)は杓(しやく)を受取(うけと)りて、049瓢(ひさご)より注(つ)いでは飲(の)み注(つ)いでは呑(の)む。050だんだんと酔(ゑひ)が廻(まは)り、
051八公(やつこう)『オイ勝公(かつこう)、052貴様(きさま)は何時(いつ)にない悄気(しよげ)た顔(かほ)しやがつて、053チツト元気(げんき)を出(だ)さぬかい。054北(きた)の森(もり)で宣伝使(せんでんし)に縛(しば)られやがつて、055それからと云(い)ふものは大変(たいへん)に顔色(かほいろ)が悪(わる)いぞ』
056勝公(かつこう)『喧(やかま)しい云(い)ふない。057今(いま)作戦(さくせん)計画(けいくわく)をやつて居(ゐ)る所(ところ)だ。058アーメニヤのウラル彦(ひこ)の神(かみ)さまから、059北(きた)の森(もり)へ宣伝使(せんでんし)がやつて来(く)るに違(ちがひ)ないから、060彼奴(あいつ)を縛(しば)つて連(つ)れて来(こ)いと云(い)ふ命令(めいれい)を受(う)けて毎日(まいにち)日日(ひにち)夜昼(よるひる)なしに張(は)つて居(を)つた処(ところ)、061大袈裟(おほげさ)にも一度(いちど)に六(ろく)人(にん)もやつて来(き)やがつたものだから、062如何(いか)に強力(がうりき)な俺(おれ)も、063一寸(ちよつと)面喰(めんくら)つたのだ。064村(むら)の奴(やつ)は何奴(どいつ)も此奴(こいつ)も腰抜(こしぬけ)計(ばか)りでビクビクと震(ふる)ひあがつて、065みんな逃(に)げて了(しま)ふなり、066俺(おれ)一人(ひとり)が何程(なんぼ)固(かた)くなつて気張(きば)つたところで、067どうにも斯(か)うにも仕方(しかた)がない、068是(これ)からお断(ことわ)り旁(かたがた)村(むら)の奴(やつ)の腑甲斐(ふがひ)ない事(こと)を、069ウラルの神(かみ)に注進(ちゆうしん)に行(ゆ)くのだ。070オイ貴様(きさま)等(ら)も弱虫(よわむし)の中(うち)だ』
071八公(やつこう)『えらさうに言(い)ふな、072霊縛(れいばく)とかいふものをかけられやがつて、073寒空(さむぞら)に一(いち)日(にち)一夜(ひとよさ)も化石(くわせき)の様(やう)になつて、074目(め)ばつかりギヨロつかせて、075見(み)つともない涙(なみだ)をボロボロ垂(たら)して居(ゐ)たぢやないか、076村(むら)の奴(やつ)が居(を)らぬと思(おも)つて偉(えら)さうに云(い)つても、077此処(ここ)に証拠人(せうこにん)が居(を)るぞ、078貴様(きさま)が村(むら)の者(もの)の悪(わる)い事(こと)をウラル彦(ひこ)に言(い)ふのなら勝手(かつて)に言(い)へ、079俺(おれ)は村中(むらぢう)の総代(そうだい)で、080斯(こ)うやつて四(よ)人(にん)が行(ゆ)くのだ。081貴様(きさま)の欠点(あら)を全部(すつかり)申上(まをしあ)げるのだから、082無事(ぶじ)に帰(かへ)れると思(おも)ふな』
083勝公(かつこう)『馬鹿(ばか)を云(い)ふな、084なにほど強力(がうりき)無双(むさう)の勝(かつ)ちやまでも、085雑兵(ざふひやう)がガチガチ慄(ぶるひ)して居(ゐ)るやうな事(こと)でどうして戦闘(せんとう)が出来(でき)るか。086オイ鴨公(かもこう)、087貴様(きさま)何(なん)だ、088慌(あはて)て一番(いちばん)先(さき)に宣伝使(せんでんし)の前(まへ)へ行(ゆ)きやがつて逃腰(にげごし)をした時(とき)の態(ざま)つたら、089本当(ほんたう)に絵(ゑ)にもない様(やう)な姿(すがた)だ。090マア喧(やか)ましう言(い)はずと厭(いや)でも応(おう)でも酒(さけ)でも喰(くら)つて元気(げんき)を附(つ)けて、091ここで一(ひと)つ和合(わがふ)をしたらどうだ。092見直(みなほ)し聞直(ききなほ)し詔直(のりなほ)しだ』
093八公(やつこう)『コラ勝公(かつこう)、094貴様(きさま)そンな事(こと)云(い)ふとやられるぞ。095知(し)らぬ間(ま)に三五教(あななひけう)に魂(たましひ)を取(と)られやがつて、096宣伝歌(せんでんか)の様(やう)な事(こと)を吐(ほざ)くぢやないか。097三五教(あななひけう)と云(い)ふ奴(やつ)は、098月(つき)が照(て)るとか走(はし)るとか、099雪(ゆき)が積(つ)むとか積(つ)まぬとか、100海(うみ)が覆(かへ)るとか潮(しほ)もない事(こと)をほざく教(をしへ)だ。101伝染(うつ)り易(やす)い奴(やつ)だな、102全然(まるで)虱(しらみ)の子孫(まご)みた様(やう)な奴(やつ)だ』
103勝公(かつこう)『ナニ虱(しらみ)の子孫(まご)だ、104馬鹿(ばか)にするな、105虱(しらみ)の本家(ほんけ)本元(ほんもと)は勝(かつ)ちやまだ。106一寸(ちよつと)見(み)い俺(おれ)の頭(あたま)を、107一寸(ちよつと)掴(つか)んでも一合(いちがふ)位(くらゐ)は養(やしな)うてあるぞ。108虱(しらみ)と云(い)ふ奴(やつ)は生(うま)れ故郷(こきやう)がないと云(い)うて悔(くや)むと云(い)ふ事(こと)だが、109其(その)生(うま)れ故郷(こきやう)と云(い)ふのは勝(かつ)ちやんの頭(あたま)だ。110何奴(どいつ)も此奴(こいつ)も虱(しらみ)をわかしやがつて、111俺(おれ)の頭(あたま)にわいたと吐(ぬ)かさずに、112うつつたうつつたと吐(ぬ)かすものだから、113虱(しらみ)の奴(やつ)生(うま)れ故郷(こきやう)がないと云(い)つて泣(な)きやがるのだ。114虚偽(きよぎ)の世(よ)の中(なか)と云(い)ふのは是(これ)でも能(よ)く分(わか)る』
115 鴨(かも)、116小(ちひ)さい声(こゑ)で、
117鴨公(かもこう)『オイ、118今(いま)あの隅(すみ)くらに蓑笠(みのかさ)を着(き)て乗(の)つて居(ゐ)る奴(やつ)、119どうやら宣伝使(れこ)らしいぞ』
120八公(やつこう)『さうだ水(みづ)を呉(く)れと吐(ぬ)かす奴(やつ)だ』
121鴨公(かもこう)『水(みづ)を呉(く)れと云(い)つたつて、122こんな塩水(しほみづ)は飲(の)まれたものぢやない。123米(こめ)の水(みづ)でも一杯(いつぱい)飲(の)ましてやつて、124どうだ退屈(たいくつ)ざましに踊(をど)らしたら面白(おもしろ)からう』
125 勝公(かつこう)は『ヨー』と言(い)ひ乍(なが)ら、126酔眼(すゐがん)朦朧(まうろう)と女(をんな)の方(はう)を見詰(みつ)め、
127勝公(かつこう)『ヤア占(し)めた、128ハア是(これ)で北(きた)の森(もり)の失敗(しつぱい)も償(つぐな)へると云(い)ふものだ。129船(ふね)の中(なか)だ、130彼奴(あいつ)が上陸(あが)る時(とき)に我々(われわれ)が前後(ぜんご)左右(さいう)から、131手(て)を執(と)り足(あし)を取(と)り、132後手(うしろで)にふん縛(じば)つて、133アーメニヤへ連(つ)れて行(ゆ)く事(こと)にしようか。134兎(と)も角(かく)酒(さけ)を呑(の)まして酔(よ)はすが一等(いつとう)だ』
135鴨公(かもこう)『そいつは駄目(だめ)だぞ。136三五教(あななひけう)といふ奴(やつ)は、137酒(さけ)は飲(の)むな喰(くら)ふなと吐(ぬか)す奴(やつ)だ』
138八公(やつこう)『ソリヤ表面(おもて)丈(だけ)だ、139酒(さけ)喰(くら)はん奴(やつ)が何処(どこ)にあろかい、140御(お)神酒(みき)あがらぬ神(かみ)はないと云(い)つて神(かみ)さまでさへも酒(さけ)を飲(の)まれるんだ。141其(その)神(かみ)のお使(つかひ)が酒(さけ)を嫌(きら)ひなんてぬかすのは、142そりや偽善(ぎぜん)だ。143彼奴(あいつ)の前(まへ)で美味(うま)さうな香(にほひ)をさして、144飲(の)んで飲(の)んで呑(の)みさがしてやらう。145さうすると、146宣伝使(せんでんし)が舌(した)をチヨイチヨイ出(だ)しよつて唇(くちびる)を甜(ねぶ)り出(だ)す、147そこで、148オイ姐(ねい)さま一杯(いつぱい)と突出(つきだ)すんだ』
149鴨公(かもこう)『俺(おれ)は下戸(げこ)だから酒(さけ)の様子(やうす)は知(し)らぬが、150そんなものかいなア』
151 女(をんな)宣伝使(せんでんし)はムツクと立(た)つて、152宣伝歌(せんでんか)を歌(うた)ひ始(はじ)めた。
153梅ケ香姫『神(かみ)が表(おもて)に現(あら)はれて
154常夜(とこよ)の暗(やみ)を明志丸(あかしまる)
155救(すく)ひの船(ふね)に乗(の)せられて
156憂瀬(うきせ)に沈(しづ)む民草(たみぐさ)を
157救(すく)はむ為(ため)の此(この)首途(かどで)
158千尋(ちひろ)の海(うみ)の底(そこ)よりも
159深(ふか)き恵(めぐみ)の神(かみ)の恩(おん)
160教(をし)へ導(みちび)き北(きた)の森(もり)
161堅(かた)き巌(いはほ)に腰(こし)かけて
162茲(ここ)に六人(むたり)の宣伝使(せんでんし)
163息(いき)を休(やす)らふ折柄(をりから)に
164ウラルの神(かみ)の間者(まはしもの)
165二(ふた)つの眼(まなこ)を光(ひか)らせて
166窺(うかが)ひ来(きた)る可笑(をか)しさよ
167何(いづ)れの方(かた)と眺(なが)むれば
168心(こころ)許(ばか)りの勝(かつ)さまや
169蛸(たこ)の様(やう)なる八(やつ)さまの
170足(あし)もヒヨロヒヨロ鴨々(かもかも)と
171おどして見(み)たら腰(こし)抜(ぬ)かし
172かもて呉(く)れなと減(へ)らず口(ぐち)
173高彦(たかひこ)さんの鎮魂(ちんこん)に
174化石(くわせき)の様(やう)に固(かた)まつて
175一夜(ひとよ)一日(ひとひ)を立暮(たちくら)し
176妾(わらは)一同(いちどう)の後(あと)追(お)うて
177三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)
178取逃(とりに)がしたる事由(ことわけ)を
179明志(あかし)の湖(うみ)の荒浪(あらなみ)に
180揉(も)まれて進(すす)む気(き)の毒(どく)さ
181酒(さけ)の機嫌(きげん)にまぎらして
182互(たがひ)に泡(あわ)を吹(ふ)く風(かぜ)に』
183勝公(かつこう)『コラコラ何(なに)を吐(ぬか)しやがるのだ。184女(をんな)の癖(くせ)に勝(かつ)さまだの、185蛸(たこ)だの、186鴨(かも)だのと、187猪口才(ちよこざい)な三五教(あななひけう)の教(をしへ)は善言(ぜんげん)美詞(びし)と吐(ぬか)して居(ゐ)るぢやないか、188風(かぜ)引(ひ)くも引(ひ)かぬも抛(ほ)つときやがれ、189弱味(よわみ)に附込(つけこ)む風(かぜ)の神(かみ)さまと云(い)つたら俺(おれ)の事(こと)だぞ。190此間(こなひだ)は六(ろく)人(にん)も居(ゐ)やがつたので、191見逃(みのが)しておいたのだ。192今日(けふ)は幸(さいは)ひ貴様(きさま)一人(ひとり)だ、193焚(た)いて喰(く)はうと、194煮(に)て喰(く)はうと、195引裂(ひきさ)かうと俺(おれ)の勝手(かつて)だ。196サア、197モ一(ひと)つほざいて見(み)い、198ほざいたが最後(さいご)貴様(きさま)の笠(かさ)の台(だい)は鱶(ふか)の餌食(ゑじき)だ』
199梅ケ香姫(うめがかひめ)『ホヽヽヽヽ、200勝(かつ)さんとやら、201末(すゑ)まで聞(き)いて下(くだ)さいな』
202勝公(かつこう)『エツ、203聞(き)かぬ。204此(この)大勢(おほぜい)の中(なか)で、205勝(かつ)さまが勝(か)つたの負(ま)けたのと、206恥(はぢ)を振舞(ふれま)ひやがつて男前(をとこまへ)が下(さ)がるワイ。207斯(こ)うなれば意地(いぢ)だ、208貴様(きさま)に勝(か)つたか負(ま)けたか、209此処(ここ)で一(ひと)つ、210此(この)湖(うみ)ぢやないが明志(あかし)をして、211俺(おれ)のあかりを立(た)てねばならぬのだ。212どちらが善(ぜん)か悪(あく)か、213明志(あかし)暗(くら)しは今(いま)に分(わか)るのだ』
214と言(い)ひ乍(なが)ら、215鉄拳(てつけん)を振上(ふりあ)げて、216梅ケ香姫(うめがかひめ)に打(う)つて掛(かか)らうとする。217此(この)時(とき)襟髪(えりがみ)をグツト握(にぎ)つて二三尺(にさんじやく)ばかり猫(ねこ)をつまむだ様(やう)に提(ひつさ)げた男(をとこ)がある。
218男(をとこ)(時公)『アハヽヽヽ、219サア勝(かつ)か負(まけ)か明志(あかし)の湖(うみ)だ。220此(この)手(て)を離(はな)したが最後(さいご)、221勝(かつ)は鰹(かつを)の餌食(ゑじき)だ』
222勝公(かつこう)『マアマア、223待(ま)て待(ま)て、224待(ま)てと言(い)つたら、225待(ま)つたが宜(よ)からうぞ。226一(ひと)つよりない生命(いのち)だ大切(だいじ)にせぬかい。227俺(おれ)でも神(かみ)様(さま)の分霊(わけみたま)だぞ。228俺(おれ)は貴様(きさま)に殺(ころ)されたつてビクともせぬ男(をとこ)だが、229貴様(きさま)が神(かみ)のお宮(みや)の此(この)方(はう)を損(そこな)つたら、230貴様(きさま)に罰(ばち)が当(あた)るから、231殺(ころ)すなら殺(ころ)せ、232地獄(ぢごく)で仇討(かたきうち)をしてやるから………』
233男(をとこ)(時公)『減(へ)らず口(ぐち)を叩(たた)くない、234一(ひと)つ、235貴様(きさま)は酒(さけ)を喰(くら)ひ酔(よ)つて大分(だいぶ)に逆上(のぼせ)て居(ゐ)るから、236調和(てうわ)の取(と)れる様(やう)に、237水(みづ)の中(なか)へ一遍(いつぺん)ドブ漬(づけ)茄子(なすび)とやつてやらうかい』
238勝公(かつこう)『マアマア待(ま)つて下(くだ)さい、239同(おな)じ天(あめ)の下(した)のおほみたからだ。240四海(しかい)同胞(どうはう)だ』
241男(をとこ)(時公)『ここは魔海(まかい)死海(しかい)と言(い)うて、242ここは人(ひと)の死(し)ぬ海(うみ)だ。243此(この)死海(しかい)へ御(ご)註文(ちゆうもん)通(どほ)り死海(しかい)ドボンとやつてやらう』
244勝公(かつこう)『オイ八(やつ)、245鴨(かも)、246何故(なぜ)愚図(ぐづ)々々(ぐづ)としてやがるのだ、247此奴(こいつ)の足(あし)を攫(さら)へぬかい。248此奴(こいつ)を死海(しかい)ドボンだ』
249鴨公(かもこう)『態(ざま)ア見(み)やがれ、250強(つよ)い方(はう)へ附(つ)くのが当世(たうせい)だ、251貴様(きさま)が強(つよ)いと思(おも)うて、252俺(おれ)等(ら)は何時(いつ)も、253表向(おもてむき)はヘイヘイハイハイ言(い)うて居(ゐ)るものの、254後向(うしろむき)に舌(した)を出(だ)してゐるのも知(し)りやがらずに、255よい気(き)になつて村中(むらぢう)で暴(あば)れ廻(まは)した其(その)報(むく)いだ。256天道(てんだう)さまは正直(しやうぢき)だ、257貴様(きさま)がドブンとやられたら、258北(きた)の村(むら)は餅(もち)搗(つ)いて祝(いは)ふぞい』
259勝公(かつこう)『人(ひと)の難儀(なんぎ)を見(み)て、260見殺(みごろ)しにするのか』
261八公(やつこう)『見殺(みごろ)しも糞(くそ)もあつたものかい、262………もしもし、263何処(どこ)の何方(どなた)か知(し)りませぬが、264さう何時(いつ)までも提(さ)げては、265お手(て)が倦(だる)いでせうから、266今(いま)の死海(しかい)ドボンとやらをやつて下(くだ)さい』
267勝公(かつこう)『コラ貴様(きさま)までが相槌(あひづち)打(う)ちやがつて、268友達(ともだち)甲斐(かひ)のない奴(やつ)だ』
269男(をとこ)(時公)『アハヽヽヽ、270弱(よわ)い奴(やつ)だ、271そんなら一寸(ちよつと)また後(あと)の慰(なぐさ)みに見合(みあは)しておかうかい』
272勝公(かつこう)『あとは後(あと)、273今(いま)は今(いま)、274一寸先(いつすんさき)や暗(やみ)の夜(よ)、275暗(やみ)の後(あと)には月(つき)が出(で)る』
276八公(やつこう)『月(つき)は月(つき)だが運(うん)のつきだ、277俺(おれ)も貴様(きさま)に愛想(あいそ)がつきた』
278 一人(ひとり)の男(をとこ)は勝公(かつこう)をソロリと船(ふね)の中(なか)に下(おろ)してやつた。
279勝公(かつこう)『ヤ、280有難(ありがた)う御座(ござ)いました、281お蔭(かげ)で生命(いのち)が助(たす)かりました』
282男(をとこ)(時公)『ヤア、283暫(しばら)くお預(あづ)けだ』
284八公(やつこう)『まるで狆(ちん)みたいに言(い)はれてけつかる』
285男(をとこ)(時公)『ヤア、286これはこれは梅ケ香姫(うめがかひめ)様(さま)、287不思議(ふしぎ)な所(ところ)でお目(め)にかかりました。288皆(みな)の方(かた)はどうなさいました』
289梅ケ香姫(うめがかひめ)『ヤ、290あなたは時(とき)さまであつたか』
291(大正一一・三・一 旧二・三 松村真澄録)
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