霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一章 主従(しゆじう)二人(ふたり)〔八四三〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第30巻 海洋万里 巳の巻 篇:第1篇 高砂の松 よみ(新仮名遣い):たかさごのまつ
章:第1章 主従二人 よみ(新仮名遣い):しゅじゅうふたり 通し章番号:843
口述日:1922(大正11)年08月14日(旧06月22日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1923(大正12)年9月15日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一部の章はAIによって要約を作成しています。[×閉じる]:
メソポタミヤの顕恩郷をバラモン教から取り戻した神素盞嗚尊の八人の娘たちは、各地に宣教の旅に出ましたが、バラモン教の残党に取り押さえられて各々、小舟に乗せられて海に流されてしまいました。
その中のひとつ、末子姫と侍女・捨子姫の主従は、なんとか艪をあやつって高砂島のハラの港に上陸し、桃上彦の旧跡地の珍の国の都を目指して進んでいた。
二人はテルとウヅの国境にあるテル山峠にさしかかった。すでに月が出る夜であった。二人は懐旧にふけりつつ、肘を枕に眠りについた。テル山峠を降ってきた五人の男たち(イサク、カール、シーナ、チール、ネロ)は、二人が傍らで寝ているのに気付かず、話を始めた。
男たちはバラモン教徒であり、この地の教主から、神素盞嗚尊の娘主従がやってくるからそれを捕らえろと命じられて辺りを張っていたが、見つからずに疲れ果てていた。
男たちはそこで眠って休息を取ることにしたが、中にシーナという男、過去に旅人を殺めたことからその幽霊を恐れており、仲間からしきりにからかわれている。他の男たちが寝てしまった後も、シーナだけは震えおののいていた。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2026-08-18 12:02:49 文字数:3861 OBC :rm3001
愛善世界社版:7頁 八幡書店版:第5輯 575頁 修補版: 校定版:7頁 普及版:2頁 初版: ページ備考:
001常世(とこよ)の国(くに)に現(あ)れませる
002常世(とこよ)神王(しんわう)自在天(じざいてん)
003大国彦(おほくにひこ)を主神(しゆしん)とし
004バラモン教(けう)を開(ひら)きたる
005大国別(おほくにわけ)の神司(かむづかさ)
006万里(ばんり)の波(なみ)を乗越(のりこ)えて
007埃及国(エジプトこく)に出現(しゆつげん)し
008イホの都(みやこ)にバラモンの
009教(をしへ)の射場(いば)を築(きづ)き上(あ)げ
010一(いち)時(じ)は旭(あさひ)の昇(のぼ)る如(ごと)
011教(をしへ)の光(ひかり)も四方(よも)の国(くに)
012輝(かがや)き渡(わた)れどバラモンの
013神(かみ)の教(をしへ)は人草(ひとぐさ)の
014生血(いきち)を見(み)ねば治(をさ)まらぬ
015残虐(ざんぎやく)無道(ぶだう)の荒修業(あらしうげふ)
016入信(にふしん)したる信徒(まめひと)は
017霊主(れいしゆ)体従(たいじう)の名(な)の下(もと)に
018釘(くぎ)の打(う)ちたる足駄(あしだ)履(は)き
019裸(はだか)となりて茨室(いばらむろ)
020飛(と)び込(こ)み体(からだ)をかき破(やぶ)り
021或(あるひ)は猛火(まうくわ)の中(なか)に入(い)り
022水底(みなそこ)潜(くぐ)りさまざまと
023怺(こら)へ切(き)れない苦(くるし)みに
024一度(ひとたび)寄(よ)り来(き)し信徒(まめひと)も
025悲(かな)しみもだえ日(ひ)に月(つき)に
026何時(いつ)とはなしに逃(に)げ去(さ)りて
027法灯(ほふとう)いまや滅(めつ)せむと
028悲運(ひうん)に傾(かたむ)く折柄(をりから)に
029夏山彦(なつやまひこ)や祝姫(はふりひめ)
030行平別(ゆきひらわけ)の神司(かむづかさ)
031埃及都(エジプトみやこ)を根拠(こんきよ)とし
032霊主(れいしゆ)体従(たいじう)の真相(しんさう)を
033洽(あまね)く世人(よびと)に宣(の)り伝(つた)へ
034仁慈(じんじ)無限(むげん)の国(くに)の祖(おや)
035国治立(くにはるたちの)大神(おほかみ)の
036厳(いづ)の御霊(みたま)の守(まも)ります
037三五教(あななひけう)の御教(みをしへ)は
038月日(つきひ)と共(とも)に栄(さか)え行(ゆ)く。
039バラモン教(けう)の大棟梁(だいとうりやう)
040鬼雲彦(おにくもひこ)を始(はじ)めとし
041鬼熊別(おにくまわけ)の二夫婦(ふたふうふ)
042埃及(イホ)の都(みやこ)を後(あと)にして
043数多(あまた)の信徒(しんと)を引率(いんそつ)し
044南天王(なんてんわう)の籠(こも)りたる
045由緒(ゆいしよ)の深(ふか)き顕恩郷(けんおんきやう)
046エデンの河(かは)を打渡(うちわた)り
047茲(ここ)に再(ふたた)びバラモンの
048道(みち)の根拠(こんきよ)を築固(つきかた)め
049巌(いはほ)を畳(たた)み石(いし)を積(つ)み
050難攻(なんこう)不落(ふらく)の絶壁(ぜつぺき)と
051頼(たの)みて拠(よ)れる顕恩城(けんおんじやう)
052曲(まが)の教(をしへ)は再生(さいせい)の
053機運(きうん)に向(むか)ひて中津国(なかつくに)
054メソポタミヤを始(はじ)めとし
055フサの国(くに)より印度(つき)の国(くに)
056勢(いきほひ)猛(たけ)く宣(の)りて行(ゆ)く
057さはさり乍(なが)ら世(よ)の人(ひと)は
058野蛮(やばん)極(きは)まる荒行(あらげう)に
059堪(たま)りかねてか遠近(をちこち)に
060怨嗟(えんさ)の声(こゑ)は聞(きこ)え来(き)て
061蚊(か)の鳴(な)く如(ごと)き憐(あは)れさを
062見(み)るに見兼(みか)ねて瑞御霊(みづみたま)
063神(かむ)素盞嗚(すさのをの)大神(おほかみ)は
064バラモン教(けう)の神司(かむづかさ)
065数多(あまた)の宣伝使(とりつぎ)言向(ことむ)けて
066天地(てんち)を造(つく)り玉(たま)ひたる
067大慈(だいじ)大悲(だいひ)の大神(おほかみ)の
068大御心(おほみこころ)を懇(ねんご)ろに
069バラモン人(びと)に説(と)き諭(さと)し
070世界(せかい)揃(そろ)うて皇神(すめかみ)の
071恵(めぐみ)の露(つゆ)に浴(よく)せしめ
072五六七(みろく)の御世(みよ)の神政(しんせい)を
073仰(あふ)がしめむと思(おぼ)し召(め)し
074八人(やたり)乙女(をとめ)を使(つか)はして
075バラモン教(けう)の信徒(まめひと)と
076表面(うはべ)を飾(かざ)りて顕恩郷(けんおんきやう)の
077教館(をしへやかた)に入(い)らしめぬ
078八人(やたり)乙女(をとめ)は大神(おほかみ)の
079深(ふか)き心(こころ)を麻柱(あなな)ひて
080尊(たふと)き御(おん)身(み)も厭(いと)ひなく
081大胆(だいたん)不敵(ふてき)に曲神(まがかみ)の
082醜(しこ)の砦(とりで)に朝夕(あさゆふ)に
083心(こころ)配(くば)りて仕(つか)へける。
084神(かむ)素盞嗚(すさのをの)大神(おほかみ)は
085天(あま)の岩戸(いはと)を開(ひら)きたる
086五伴男(いつとものを)の其(その)一人(ひとり)
087太玉神(ふとたまがみ)を遣(つか)はして
088鬼雲彦(おにくもひこ)の一類(いちるゐ)を
089誠(まこと)の道(みち)に言向(ことむ)けて
090メソポタミヤに神国(かみくに)の
091清(きよ)き基(もとい)を開(ひら)かむと
092エデンの河(かは)を只一人(ただひとり)
093渡(わた)りて深(ふか)く進(すす)み入(い)る
094後(あと)より追(お)ひ来(く)る神司(かむつかさ)
095駒(こま)の頭(かしら)を並(なら)べつつ
096八人(やたり)乙女(をとめ)の忍(しの)びます
097顕恩城(けんおんじやう)の奥(おく)の間(ま)に
098難(なん)なく進(すす)めばバラモンの
099鬼雲彦(おにくもひこ)は出迎(いでむか)へ
100言葉(ことば)巧(たくみ)に取(と)りなして
101毒酒(どくしゆ)の企(たく)みを始(はじ)めける
102悪(あく)の企(たく)みは忽(たちま)ちに
103徹底(てつてい)的(てき)に曝露(ばくろ)して
104おのが住家(すみか)を振棄(ふりす)てて
105雲(くも)を霞(かすみ)と波斯(フサ)の国(くに)
106脆(もろ)くも姿(すがた)隠(かく)しける。
107茲(ここ)に太玉(ふとたま)宣伝使(せんでんし)
108顕恩城(けんおんじやう)に居残(ゐのこ)りて
109神(かみ)の教(をしへ)を伝(つた)へまし
110八人(やたり)乙女(をとめ)は各自(めいめい)に
111八洲(やしま)の国(くに)に蟠(わだか)まる
112八岐(やまた)の大蛇(をろち)の醜魂(しこだま)を
113言向(ことむ)け和(やは)し天(あめ)の下(した)
114百(もも)の災(わざはひ)払(はら)はむと
115各(おのおの)侍女(じぢよ)を伴(ともな)ひて
116波斯(フサ)の国(くに)をば振出(ふりだ)しに
117宣伝(せんでん)せむと進(すす)む折(をり)
118バラモン教(けう)の残党(ざんたう)に
119取押(とりおさ)へられ別々(べつべつ)に
120棚無(たなな)し舟(ぶね)に乗(の)せられて
121海原(うなばら)遠(とほ)く流(なが)されぬ
122八人(やたり)乙女(をとめ)の末(すゑ)の子(こ)と
123生(うま)れましたる末子姫(すゑこひめ)
124尊(たふと)き生命(いのち)を捨小舟(すてをぶね)
125波(なみ)に浮(うか)びて捨子姫(すてこひめ)
126主人(あるじ)の君(きみ)を慰(なぐさ)めつ
127甲斐(かひ)々々(がひ)しくも艪(ろ)をとりて
128大西洋(たいせいやう)の中央(まんなか)に
129散在(さんざい)したる大島(おほしま)や
130小島(こしま)の間(あひだ)をくぐりつつ
131波(なみ)のまにまにテルの国(くに)
132ハラの港(みなと)に上陸(じやうりく)し
133宇都山(うづやま)峠(たうげ)を乗越(のりこ)えて
134桃上彦(ももがみひこ)の旧跡地(きうせきち)
135都(みやこ)を指(さ)して進(すす)み行(ゆ)く
136あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
137御霊(みたま)幸(さち)はひましませよ。
138 末子姫(すゑこひめ)は捨子姫(すてこひめ)と共(とも)に漸(やうや)くハラの港(みなと)に安着(あんちやく)し、139足(あし)を早(はや)めて珍(うづ)の国(くに)に進(すす)まむと、140テルとウヅとの国境(くにざかひ)、141テル山峠(やまたうげ)の麓(ふもと)にさしかかつた。142八日(やうか)の月(つき)は高(たか)く中天(ちうてん)に楕円形(だゑんけい)の姿(すがた)を現(あら)はし此(この)愛(あい)らしき二人(ふたり)の美女(びぢよ)の頭(かしら)を覗(のぞ)かせ玉(たま)ふ。
143末子姫(すゑこひめ)『大変(たいへん)な恐(おそ)ろしい目(め)に、144幾度(いくたび)ともなく出会(であ)ひましたが、145神(かみ)さまのおかげで漸(やうや)く高砂島(たかさごじま)まで送(おく)られ、146こんな嬉(うれ)しい事(こと)はありませぬなア。147これも全(まつた)くバラモン教(けう)の手(て)を使(つか)つて、148妾(わらは)両人(りやうにん)を神(かみ)様(さま)の深(ふか)き御(お)経綸(しぐみ)の下(もと)に、149お遣(つか)はし遊(あそ)ばしたのでせう。150此(この)国(くに)は昔(むかし)、151正鹿山津見(まさかやまづみ)の神(かみ)様(さま)がお治(をさ)め遊(あそ)ばした所(ところ)と聞(き)きましたが、152これから珍(うづ)の都(みやこ)へ参(まゐ)つて、153三五教(あななひけう)の今日(こんにち)の様子(やうす)を探(さぐ)り、154宣伝(せんでん)を致(いた)さうぢやありませぬか』
155捨子姫(すてこひめ)『左様(さやう)で御座(ござ)いますなア。156貴女(あなた)はまだお年(とし)がお若(わか)いのに、157此(この)広(ひろ)い国(くに)へお越(こ)しになり、158宣伝(せんでん)をせうとお考(かんが)へ遊(あそ)ばす其(その)勇気(ゆうき)には妾(わたし)も実(じつ)に心強(こころづよ)く存(ぞん)じます。159併(しか)し乍(なが)ら、160バラモン教(けう)やウラル教(けう)の勢力(せいりよく)も混入(こんにふ)し、161侮(あなど)る可(べか)らざる潜勢力(せんせいりよく)があると云(い)ふことをハラの港(みなと)に着(つ)いた時(とき)、162人々(ひとびと)が話(はな)して居(を)りましたから、163決(けつ)して油断(ゆだん)はなりますまい。164併(しか)し乍(なが)ら斯(こ)う夜分(やぶん)になつては、165山路(やまみち)を行(ゆ)くのも何(なん)となく心許(こころもと)なく、166又(また)大変(たいへん)に体(からだ)も草疲(くたび)れましたから、167此(この)芝生(しばふ)の上(うへ)にて久(ひさ)し振(ぶ)りで、168お土(つち)に体(からだ)を親(した)しみ、169夜明(よあ)けを待(ま)つて、170此(この)峠(たうげ)を越(こ)すことに致(いた)しませうか』
171末子姫(すゑこひめ)『それが宜(よろ)しう御座(ござ)いませう』
172と両人(りやうにん)は肱(ひぢ)を枕(まくら)に眠(ねむ)りに就(つ)いた。
173 テル山峠(やまたうげ)をシトシトと降(くだ)つて来(き)た四五(しご)人(にん)の男(をとこ)、174二人(ふたり)が木蔭(こかげ)の芝生(しばふ)に他愛(たあい)もなく草疲(くたび)れ果(は)てて眠(ねむ)つてゐるのも知(し)らず、175茲(ここ)に現(あら)はれ来(きた)り、
176甲『オイ、177大分(だいぶん)足(あし)も草臥(くたび)れて来(き)たやうだ。178ここらで一(ひと)つ休息(きうそく)をしたら如何(どう)だ』
179乙『膝栗毛(ひざくりげ)の停電(ていでん)かなア。180ヨシヨシ休(やす)んで行(ゆ)かう』
181丙『そんな気楽(きらく)な事(こと)を言(い)うてをれまいぞ。182石熊(いしくま)の大将(たいしやう)から今夜頃(こんやごろ)三五教(あななひけう)の女(をんな)宣伝使(せんでんし)の一行(いつかう)が漂着(へうちやく)して来(く)るに違(ちが)ひないから、183見(み)つけ次第(しだい)捉(つか)まへて、184185高照山(たかてるやま)の館(やかた)へ召捕(めしとり)帰(かへ)れとの御(ご)命令(めいれい)だから、186今晩(こんばん)は余(あんま)り気楽(きらく)に休(やす)んでる訳(わけ)には往(ゆ)かうまい。187ハラの港(みなと)へキツと到着(たうちやく)するに違(ちが)ひないと云(い)うたが、188フサの国(くに)から無声(むせい)霊話(れいわ)で石熊(いしくま)様(さま)の御(おん)大将(たいしやう)に通知(つうち)があつたのだ。189サアもう一気張(ひときば)りだ。190アリナの滝(たき)の方(はう)へでも行(ゆ)かれちや大変(たいへん)だから、191休息(きうそく)は後(のち)にして、192夜(よる)の涼(すず)しい中(うち)にモウ一足(ひとあし)駆出(かけだ)さうぢやないか』
193 丁(てい)、194戊(ぼう)両人(りやうにん)は口(くち)を揃(そろ)へて、
195丁、戊両人『おりやモウ交通(かうつう)機関(きくわん)の油(あぶら)が切(き)れて来(き)たから、196何(なん)と云(い)つても駄目(だめ)だ。197欲(よく)にも得(とく)にも変(か)へられない。198マーさう云(い)はずと、199おつき合(あ)ひに一服(いつぷく)したら何(ど)うだい』
200甲『弱(よわ)い奴(やつ)だなア。201そんなら、202ドツと譲歩(じやうほ)して少時(しばらく)の休養(きうやう)を与(あた)へてやらう』
203丁『朝(あさ)遅(おそ)う出(で)て午後(ごご)に早(はや)く帰(かへ)つて来(く)る盲判(めくらばん)押(お)しの役人(やくにん)でさへも、204此(この)頃(ごろ)は暑中(しよちう)休暇(きうか)が貰(もら)へるのだから俺(おれ)だつて、205夜(よる)も昼(ひる)も働(はたら)かされちや、206やりきれないワ、207ハヽヽヽヽ』
208甲『此(この)頃(ごろ)は役人(やくにん)だつて、209暑中(しよちう)休暇(きうか)を廃止(はいし)されて了(しま)つたよ』
210丙『暑中(しよちう)休暇(きうか)を廃(はい)してまで、211無理(むり)に鈍物(どんぶつ)を動(うご)かさうとした所(ところ)で駄目(だめ)だ。212却(かへつ)て能率(のうりつ)が低下(ていか)する位(くらゐ)なものだ。213チールやネロの云(い)ふ通(とほ)り、214今晩(こんばん)はここでグツスリと休暇(きうか)を賜(たま)はつて行(ゆ)くことにせう。215なア……イサクの大将(たいしやう)……』
216イサク『イサクさ言(い)はずに、217仕方(しかた)がない、218休(やす)んで行(ゆ)け。219黙(だま)つてねるのだよ』
220チール『俺(おれ)はお前(まへ)の様(やう)に寝(ね)てものを言(い)つたり、221そんな器用(きよう)な事(こと)は出来(でき)ないから、222安心(あんしん)してくれ。223お前(まへ)こそズイ分(ぶん)能(よ)く寝言(ねごと)を云(い)ふ男(をとこ)だよ。224あんな寝言(ねごと)を云(い)ひよると、225見(み)つともなくて、226そばに安閑(あんかん)として居(を)れない様(やう)な気分(きぶん)になるワ』
227シーナ『俺(おれ)の寝言(ねごと)を貴様(きさま)聞(き)いたかい。228天下(てんか)万民(ばんみん)を安堵(あんど)せしむる為(ため)の一心(いつしん)が凝(こ)り固(かた)まつて居(ゐ)るから、229寝(ね)ても覚(さ)めても、230天下(てんか)を憂(うれ)ふる至誠(しせい)の言葉(ことば)に充(み)たされて居(ゐ)るのだ。231貴様(きさま)はあまり学問(がくもん)がないから、232俺(おれ)の言葉(ことば)が分(わか)らないのだろ』
233チール『天下(てんか)の事(こと)を思(おも)つてゐるなんぞと馬鹿(ばか)にするない。234何時(いつ)とても貴様(きさま)の宅(うち)は嬶(かかあ)天下(てんか)ぢやから、235余程(よほど)下鶏(したどり)になつとると見(み)えて、236ねると直(す)ぐ、237アア アア アア アアと大(おほ)きな口(くち)あけて、238鼾(いびき)をかきやがつて、239痛(いた)い痛(いた)いとか、240重(おも)たい重(おも)たいとか、241言(い)ひよるのだ。242……なア、243ネロ、244何時(いつ)も此奴(こいつ)の寝言(ねごと)は活版(くわつぱん)で押(お)した様(やう)なものだろよ』
245ネロ『此奴(こいつ)アな、246何(なん)でも高照山(たかてるやま)の谷間(たにあひ)で通(とほ)りがかりの旅人(たびびと)をひつとらまへ、247何々(なになに)した上(うへ)、248何々(なになに)しやがつた事(こと)があるに違(ちが)ひない。249何時(いつ)とても妙(めう)な寝言(ねごと)を言(い)ひよるぢやないか。250……オイ、251シーナ、252貴様(きさま)も余程(よほど)今(いま)こそバラモン教(けう)の宣伝使(せんでんし)ぢやと云(い)うて威張(ゐば)つて居(を)るが、253悪(わる)い事(こと)をやつたと見(み)えるなア』
254シーナ『知(し)らぬワイ。255そんなうるさいことを、256夜(よる)の夜中(よなか)に云(い)つて呉(く)れるな、257気分(きぶん)が悪(わる)くなつた。258知(し)らぬ神(かみ)に祟(たた)りなしだ』
259チール『アツハヽヽヽ、260夜分(やぶん)になると、261高照山(たかてるやま)の話(はなし)を大変(たいへん)に怖(こわ)がる男(をとこ)だなア』
262ネロ『きまつた事(こと)よ。263ズイ分(ぶん)えらい事(こと)があるのだ。264其(その)秘密(ひみつ)の鍵(かぎ)を握(にぎ)つて居(ゐ)るのはネロさま丈(だけ)だ。265此奴(こいつ)の後(あと)を何時(いつ)もつけ、266ネロさんと云(い)ふ亡霊(ばうれい)が、267たつた二人(ふたり)計(ばか)りついてゐるのだから、268エラ相(さう)に云(い)つても夜分(やぶん)になると門口(もんぐち)一(ひと)つ出(で)るのもビリビリものだからな。269こんなこと話(はな)して居(ゐ)ると、270あの亡霊(ばうれい)がやつて来(き)て、271又(また)ヒユー、272ドロドロだ』
273シーナ『頼(たの)みぢやから、274どうぞ言(い)うてくれな』
275ネロ『モウ是(こ)れで云(い)ひ納(をさ)めだから、276半分(はんぶん)丈(だけ)云(い)つて止(や)めたらう。277高照山(たかてるやま)の谷間(たにあひ)に於(おい)て、278妙齢(めうれい)の美人(びじん)二人(ふたり)に対(たい)し何々(なになに)を致(いた)し、279遂(つひ)には何々(なになに)をして、280谷底(たにそこ)へ何々(なになに)し、281其(その)亡霊(ばうれい)が何時(いつ)も此奴(こいつ)の生首(なまくび)引抜(ひきぬ)かむと、282夢幻(ゆめまぼろし)に立(た)つのだよ。283……オイ皆(みな)の奴(やつ)、284こんなシーナ、285オツトドツコイ代物(しろもの)と一緒(いつしよ)に歩(ある)いて居(ゐ)ると、286何時(いつ)かおかシーナ手附(てつき)をして、287ヒユーと御(ご)出現(しゆつげん)遊(あそ)ばすかも知(し)れやしないぞ。288アヽ何(なん)だかそこらがゾクゾクし出(だ)した。289モウ此(この)話(はなし)は止(や)めとこかい』
290イサク『オイ、291シーナ、292お前(まへ)そんな覚(おぼ)えがあるのか。293何(なん)だかネロの物語(ものがたり)を聞(き)いて、294俺(おれ)も気分(きぶん)が悪(わる)くなつて来(き)たワイ。295サアもう、296こんな話(はなし)を止(や)めにして行(ゆ)かうぢやないか』
297ネロ『俺(おれ)やモウ何(ど)うしても動(うご)けないから、298ここでチール計(ばか)りネロとせう、299グウ グウ グウ』
300カール『ハツハヽヽヽ、301らつちもない事(こと)を言(い)やがつて、302シーナにからかつて居(ゐ)たが、303早(はや)モウ寝(ね)て了(しま)ひよつた。304罪(つみ)のない男(をとこ)だなア。305サア一層(いつそう)のこと休(やす)んで行(い)かう』
306とカールは又(また)もやグレンと肱(ひぢ)を枕(まくら)に路(みち)の傍(かたはら)に横(よこた)はつた。307イサクもチールも亦(また)眠(ねむ)りに就(つ)いた。308シーナは後(あと)に一人(ひとり)何(なん)だか首筋元(くびすぢもと)がオゾオゾするので、309眠(ねむ)りも得(え)せず、310イサクの腰(こし)に喰(くら)ひついて慄(ふる)ひ戦(をのの)いてゐる。
311(大正一一・八・一四 旧六・二二 松村真澄録)
312(昭和一〇・六・九 王仁校正)
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