霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一七章 出陣(しゆつじん)〔八五九〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第30巻 海洋万里 巳の巻 篇:第4篇 修理固成 よみ(新仮名遣い):しゅうりこせい
章:第17章 出陣 よみ(新仮名遣い):しゅつじん 通し章番号:859
口述日:1922(大正11)年08月16日(旧06月24日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1923(大正12)年9月15日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
秘露の国の日暮シ山の山腹に広大な岩窟を掘って、ウラル教は本拠地を構えていた。巴留の国の北西部から秘露の国全体にかけて勢力を誇っていた。奥の一間にはこの地のウラル教の教主ブールをはじめ、幹部連が会議を開いていた。
ブールは懸念を表明し、ヒルの都には楓別命が代々三五教の拠点を張っており、しかも先日は三五教宣伝使のために御倉山の拠点を奪われてしまったこと、それのみならず近年はバラモン教の石熊も勢力を増してきていることに対して、どうウラル教を盛り返したらよいか、幹部の意見を求めた。
幹部のアナンとユーズは、飢饉がもうすぐ終わって天候が回復する見込みであることから、それを予言としてウラル教の神の慈悲であると宣伝に触れ回り、その一方で、僧兵を引き連れてヒルの都の楓別の館を襲撃し、一気に三五教を殲滅しようと献策した。
ブールは、御倉山やチルの里で三五教宣伝使に手もなく敗北を喫した先例を挙げて、本当に大丈夫かとアナンとユーズに念押しをした。アナンとユーズは、あの敗北は深謀遠慮から出た策略の一つであったと強がり、今回は必ず勝利すると請け負った。そこまで聞いて、ブールは二人に作戦を任せた。
しかしブールが退出すると、アナンはさっそく臆病風に吹かれて心配をし始めたが、ユーズはアナンを鼓舞し、二人は武装した部下たちを連れて、楓別命の館に向かって出撃することになった。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2022-06-10 17:28:48 文字数:3759 OBC :rm3017
愛善世界社版:201頁 八幡書店版:第5輯 642頁 修補版: 校定版:214頁 普及版:79頁 初版: ページ備考:
001 秘露(ひる)の国(くに)日暮(ひぐら)シ山(やま)の山腹(さんぷく)に広大(くわうだい)なる岩窟(がんくつ)を掘(ほ)り、002ウラル教(けう)の霊場(れいぢやう)を作(つく)り、003ロツキー山(ざん)の本山(ほんざん)と相応(あひおう)じて、004一旦(いつたん)亡(ほろ)びかけたるウラル教(けう)も再(ふたた)び頭(かしら)を擡(もた)げ、005巴留(はる)の国(くに)の西北部(せいほくぶ)よりヒル全体(ぜんたい)に其(その)勢力(せいりよく)を拡大(くわくだい)して居(ゐ)る。006此(この)岩窟(がんくつ)を日暮(ひぐら)シ山(やま)の聖場(せいぢやう)と称(とな)へてゐた。007此処(ここ)にはブールを教主(けうしゆ)とし、008ユーズ、009アナンの両(りやう)宣伝使(せんでんし)はブールを助(たす)け、010数多(あまた)の宣伝使(せんでんし)を四方(しはう)に派(は)し、011大(おほ)いにウラル教(けう)宣伝(せんでん)に力(ちから)を尽(つく)しつつあつた。
012 奥(おく)の一間(ひとま)には教主(けうしゆ)のブールを始(はじ)め、013アナン、014ユーズの二人(ふたり)、015色(いろ)麗(うるは)しき香(かほ)り高(たか)き林檎(りんご)を堆(うづだか)く盛(も)り、016互(たがひ)に皮(かは)を剥(む)き、017舌鼓(したつづみ)を打(う)つて味(あぢ)はひ乍(なが)ら、018幹部(かんぶ)会議(くわいぎ)を開(ひら)いて居(ゐ)た。
019ブール『此(この)ヒルの国(くに)には紅葉彦(もみぢひこの)命(みこと)の伜(せがれ)楓別(かへでわけの)命(みこと)三五教(あななひけう)を宣伝(せんでん)致(いた)し、020其(その)勢(いきほひ)中々(なかなか)侮(あなど)る可(べか)らず、021加之(しかのみならず)バラモン教(けう)の石熊(いしくま)の一派(いつぱ)、022此(この)頃(ごろ)又(また)もや俄(にはか)に頭(あたま)を擡(もた)げ、023吾々(われわれ)ウラル教(けう)の牙城(がじやう)に向(むか)つて突進(とつしん)し来(きた)り、024数多(あまた)の国人(くにびと)は去就(きよしう)に迷(まよ)ひ、025今(いま)は殆(ほとん)ど両教(りやうけう)の為(ため)に数百(すうひやく)年(ねん)のウラル教(けう)の努力(どりよく)も、026根底(こんてい)より覆(くつが)へされむとしてゐる。027吾々(われわれ)は何(なん)とかして、028彼(かれ)等(ら)両教(りやうけう)の徒(と)を駆追(くつゐ)せなくては、029ロツキー山(さん)の本山(ほんざん)に対(たい)し、030申訳(まをしわけ)が御座(ござ)らぬ。031吾々(われわれ)が日頃(ひごろ)唱道(しやうだう)して居(ゐ)た、032世(よ)の終(をは)りは近(ちか)づけり、033悔(く)い改(あらた)めよ、034天国(てんごく)の門(もん)はやがて開(ひら)かれむと、035予言(よげん)せし神示(しんじ)空(むな)しからず、036今年(ことし)の此(この)大旱魃(だいかんばつ)、037大饑饉(だいききん)、038山河(さんか)草木(さうもく)、039殆(ほとん)ど枯死(こし)せむとする此(この)惨状(さんじやう)、040如何(いか)なる頑迷(ぐわんめい)不霊(ふれい)の徒(と)と雖(いへど)も、041之(これ)を見(み)て無情(むじやう)を感(かん)じ、042現世(げんせい)を忌(い)み天国(てんごく)を希求(ききう)せざる者(もの)あらむ、043此(この)機(き)逸(いつ)す可(べか)らずとなし、044国魂神(くにたまがみ)を斎(まつ)りたる御倉山(みくらやま)の谷川(たにがは)に、045数多(あまた)の国人(くにびと)集(あつ)まると聞(き)き、046遠路(ゑんろ)の所(ところ)遥々(はるばる)宣伝(せんでん)の為(ため)に、047吾々(われわれ)出張(しゆつちやう)し、048大部分(だいぶぶん)吾(わが)教理(けうり)に服(ふく)し、049天国(てんごく)に救(すく)はれむとする折(をり)しも、050三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)忽然(こつぜん)として其(その)場(ば)に現(あら)はれ、051体主(たいしゆ)霊従(れいじう)的(てき)教理(けうり)を説(と)き、052再(ふたた)びウラル教(けう)をして根底(こんてい)より転覆(てんぷく)せしめたる其(その)腕前(うでまへ)、053かかる邪教(じやけう)を看過(かんくわ)するは吾々(われわれ)ウラル教(けう)宣伝使(せんでんし)として、054教祖(けうそ)常世彦(とこよひこの)命(みこと)に対(たい)し奉(たてまつ)り、055又(また)ウラル彦(ひこ)の教主(けうしゆ)に対(たい)し、056陳弁(ちんべん)の辞(じ)なし。057加(くは)ふるに、058又(また)もや荒(あら)しの森(もり)にて、059昨日(さくじつ)の如(ごと)き大敗(たいはい)を取(と)りしは、060返(かへ)す返(がへ)すも残念(ざんねん)至極(しごく)の至(いた)りではないか?……アナン殿(どの)、061此(この)頽勢(たいせい)を如何(いか)にして挽回(ばんくわい)せむと思(おも)はるるか、062腹蔵(ふくざう)なく述(の)べられたい』
063と覗(のぞ)く様(やう)にして問(と)ひかけた。064アナンは暫(しばら)く双手(もろで)を組(く)み、065差俯向(さしうつむ)いて思案(しあん)にくれてゐたが、066ハタと両手(りやうて)を打(う)ち、067ニタリと笑(わら)ひ、
068アナン『教主殿(けうしゆどの)、069私(わたし)に一切(いつさい)を御(ご)委任(ゐにん)下(くだ)さらば、070三五教(あななひけう)は申(まを)すに及(およ)ばず、071バラモン教徒(けうと)をして一人(ひとり)も残(のこ)らず帰順(きじゆん)させて見(み)ませう。072併(しか)し乍(なが)ら此(この)機(き)を逸(いつ)しては、073到底(たうてい)其(その)目的(もくてき)を達(たつ)することは出来(でき)ませぬ。074やがてここ十日(とをか)も過(す)ぐれば、075今日(こんにち)の天候(てんこう)より観察(くわんさつ)するに、076大雨(だいう)沛然(はいぜん)として降(ふ)り来(きた)り、077山河(さんか)草木(さうもく)忽(たちま)ちにして元(もと)の如(ごと)く青々(せいせい)として蘇生(そせい)するは鏡(かがみ)にかけて見(み)るようで御座(ござ)いますれば、078今(いま)の内(うち)に宣伝使(せんでんし)を残(のこ)らず四方(しはう)に派遣(はけん)し、079国人(くにびと)の弱点(じやくてん)につけ入(い)り……汝(なんぢ)等(ら)悔(く)い改(あらた)めざれば今(いま)や亡(ほろ)びむとす、080今迄(いままで)の心(こころ)を悔(く)い改(あらた)め、081ウラル教(けう)に身(み)を任(まか)せよ、082さすればやがて天(てん)に祈(いの)り慈雨(じう)をふり注(そそ)ぎ、083山河(さんか)草木(さうもく)人類(じんるゐ)をして蘇生(そせい)の喜(よろこ)びに酔(よ)はしめ、084天国(てんごく)の楽(たのし)みを再(ふたた)び地上(ちじやう)に現(あら)はし与(あた)へむ、085早(はや)く悔(く)い改(あらた)めよ、086天国(てんごく)はウラル教(けう)を信(しん)ずる者(もの)の領分(りやうぶん)なり……と、087此(この)際(さい)獅子(しし)奮迅(ふんじん)の活動(くわつどう)を開始(かいし)せば、088数多(あまた)の国人(くにびと)は今迄(いままで)迷(まよ)へるバラモン、089三五(あななひ)の両教(りやうけう)を弊履(へいり)の如(ごと)く抛棄(ほうき)して吾(わが)教(をしへ)に先(さき)を争(あらそ)ひ、090潮(うしほ)の如(ごと)く集(あつ)まり来(きた)るは目(め)に見(み)る如(ごと)き感(かん)じが致(いた)します。091どうぞ吾々(われわれ)に此(こ)れを一任(いちにん)なし下(くだ)さいますれば、092数多(あまた)の宣伝使(せんでんし)を使役(しえき)し、093宣伝使(せんでんし)長(ちやう)となつて一肌(ひとはだ)脱(ぬ)いで見(み)る覚悟(かくご)で御座(ござ)います』
094ブール『成程(なるほど)、095それも妙案(めうあん)だ。096然(しか)らばアナン殿(どの)、097宣伝(せんでん)の件(けん)に就(つ)いては、098一切(いつさい)万事(ばんじ)御(お)任(まか)せ申(まを)す』
099アナン『早速(さつそく)の御(ご)承知(しようち)……否(いや)御(ご)信任(しんにん)、100有難(ありがた)くお受(う)け仕(つかまつ)ります』
101と喜色(きしよく)満面(まんめん)に溢(あふ)れ、102肩(かた)を怒(いか)らし、103腕(うで)を振(ふ)り、104意気(いき)揚々(やうやう)として、105期(き)する所(ところ)あるものの如(ごと)く雄健(をたけ)びしてゐる。106ユーズは少(すこ)しく首(くび)を傾(かたむ)け乍(なが)ら、
107ユーズ『教主(けうしゆ)殿(どの)、108アナン殿(どの)の御(ご)進言(しんげん)は至極(しごく)妙案(めうあん)奇策(きさく)と存(ぞん)じますが、109敵(かたき)の末(すゑ)は根(ね)を切(き)つて葉(は)を絶(た)やすとか申(まを)しまして、110如何(どう)しても根本(こんぽん)的(てき)に両教(りやうけう)を絶滅(ぜつめつ)するには、111幹部(かんぶ)に向(むか)つて大打撃(だいだげき)を与(あた)へなくては、112到底(たうてい)駄目(だめ)でせう。113仮令(たとへ)一(いち)時(じ)ウラル教(けう)に帰順(きじゆん)する共(とも)、114又(また)もや、115彼(か)れ三五教(あななひけう)の言依別(ことよりわけ)、116国依別(くによりわけ)の如(ごと)き勇者(ゆうしや)ある上(うへ)は到底(たうてい)完全(くわんぜん)に教義(けうぎ)を宣布(せんぷ)することは不可能(ふかのう)でせう。117先(ま)づ第一(だいいち)に焦眉(せうび)の急(きふ)とする所(ところ)は、118言依別(ことよりわけ)、119国依別(くによりわけ)の両(りやう)宣伝使(せんでんし)を亡(な)き者(もの)とし、120ヒルの都(みやこ)の楓別(かへでわけの)命(みこと)の本城(ほんじやう)に攻(せ)め寄(よ)せ、121根底(こんてい)より転覆(てんぷく)絶滅(ぜつめつ)せしめなくては到底(たうてい)駄目(だめ)でせう。122私(わたし)の考(かんが)へとしては、123どうしても、124枝葉(しえふ)の問題(もんだい)を後(のち)にし、125此(この)大問題(だいもんだい)たる根幹(こんかん)を芟除(せんぢよ)せなくてはならないと存(ぞん)じます』
126ブール『ユーズ殿(どの)の云(い)はるる通(とほ)り、127吾(わ)れも其(その)戦法(せんぱふ)を以(もつ)て最(もつと)も肝要(かんえう)なる手段(しゆだん)と心得(こころえ)る。128……アナン殿(どの)、129如何(いかが)で御座(ござ)らうか』
130アナン『然(しか)らば斯(か)う致(いた)したら如何(どう)で御座(ござ)いませう。131此(この)館(やかた)に集(あつ)まれる八十(はちじふ)人(にん)の宣伝使(せんでんし)を半(なかば)割(さ)き、132四十(よんじふ)人(にん)を一先(ひとま)づヒル、133カル両国(りやうごく)に至急(しきふ)派遣(はけん)し、134残(のこ)り四十(よんじふ)人(にん)の宣伝使(せんでんし)を吾々(われわれ)が引率(いんそつ)し、135教主殿(けうしゆどの)は此(この)聖場(せいぢやう)におはしまし、136少数(せうすう)の役員(やくゐん)信徒(しんと)と共(とも)に、137お守(まも)りを願(ねが)ひ、138吾々(われわれ)はユーズ殿(どの)と先(ま)づ楓別(かへでわけの)命(みこと)の館(やかた)に向(むか)つて、139夜襲(やしふ)を試(こころ)み、140只(ただ)一戦(いつせん)に滅亡(めつぼう)せしめ、141神(かみ)の力(ちから)を天下(てんか)に現(あら)はしなば、142素(もと)より体主(たいしゆ)霊従(れいじう)の事大(じだい)主義(しゆぎ)に囚(とら)はれたる人々(ひとびと)は、143一(いち)も二(に)もなくウラル教(けう)の権威(けんゐ)に畏服(ゐふく)し、144帰順(きじゆん)致(いた)すは明(あきら)かな活(いき)たる事実(じじつ)で御座(ござ)いませう』
145ブール『然(しか)らば両人(りやうにん)にお任(まか)せ申(まを)す。146何卒(どうぞ)一切(いつさい)万事(ばんじ)に違算(ゐさん)なき様(やう)頼(たの)み入(い)る』
147アナン『仰(あふ)せ迄(まで)もなく、148目(め)から鼻(はな)へつき抜(ぬ)けた、149智謀(ちぼう)絶倫(ぜつりん)のユーズ殿(どの)、150私(わたし)が後(うしろ)に控(ひか)えさせられての作戦(さくせん)計画(けいくわく)なれば、151水一滴(みづいつてき)の遺漏(ゐろう)も御座(ござ)いませぬ。152御(ご)安心(あんしん)下(くだ)さいませ』
153ブール『いやいや斯(か)く迄(まで)勢力(せいりよく)を四方(しはう)に張(は)つたる、154楓別(かへでわけの)命(みこと)又(また)言依別(ことよりわけ)、155国依別(くによりわけ)のあの腕前(うでまへ)、156到底(たうてい)一通(ひととほ)りにては往生(わうじやう)致(いた)すまい。157何(なん)とか神策(しんさく)を考究(かうきう)致(いた)さねば、158軽々(かるがる)しく進(すす)んで敵(てき)の術中(じゆつちう)に陥(おちい)るやうな事(こと)あらば、159それこそ挽回(ばんくわい)の道(みち)がつかぬ。160此(この)点(てん)に於(おい)てブール、161甚(はなは)だ心許(こころもと)なく存(ぞん)ずる。162一例(いちれい)を挙(あ)ぐれば、163御倉山(みくらやま)の渓谷(けいこく)に於(おい)て、164数多(あまた)の宣伝使(せんでんし)が居乍(ゐなが)ら、165脆(もろ)くも吾々(われわれ)は敗走(はいそう)致(いた)せし苦(にが)き経験(けいけん)に徴(ちよう)し、166容易(ようい)に侮(あなど)る可(べ)からざる強敵(きやうてき)なれば、167吾々(われわれ)は最(もつと)も深(ふか)く神(かみ)を念(ねん)じ、168神力(しんりき)を身(み)に充実(じゆうじつ)して進(すす)まねばなりませぬぞ。169智謀(ちぼう)絶倫(ぜつりん)と聞(きこ)えたるユーズ、170アナンの両将(りやうしやう)迄(まで)が只(ただ)一言(ひとこと)の言霊(ことたま)をも交(まじ)へず、171雲(くも)を霞(かすみ)と逃(に)げ帰(かへ)つたる無態(ぶざま)さ、172吾(わ)れは只一人(ただひとり)ふみ止(とど)まるに忍(しの)びず、173止(や)むを得(え)ず引返(ひきかへ)せし様(やう)な仕末(しまつ)なれば、174果(はた)して両人(りやうにん)に於(おい)て、175確固(かくこ)不抜(ふばつ)の成算(せいさん)が御座(ござ)るかなア』
176ユーズ『アハヽヽヽ、177吾々(われわれ)の神算(しんさん)鬼謀(きぼう)は敵(てき)に向(むか)つて弱(よわ)しと見(み)せかけ、178ワザとに敗走(はいそう)の体(てい)を装(よそほ)ひ、179彼(かれ)等(ら)両人(りやうにん)を版図内(はんとない)に深(ふか)く入(い)り込(こ)ませ四方(しはう)より取囲(とりかこ)み、180袋(ふくろ)の鼠(ねずみ)と致(いた)して本教(ほんけう)に帰順(きじゆん)せしむるか、181但(ただし)は滅亡(めつぼう)せしめむかとの考(かんが)へより退却(たいきやく)を致(いた)したので御座(ござ)る。182仮令(たとへ)三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)慓悍(へうかん)決死(けつし)にして、183鬼神(きじん)を拉(ひし)ぐ勇(ゆう)あり共(とも)、184たかの知(し)れた一人(ひとり)や二人(ふたり)、185何(なん)の恐(おそ)るる所(ところ)が御座(ござ)いませう。186これもユーズが一(ひと)つの計略(けいりやく)で御座(ござ)れば、187必(かなら)ず必(かなら)ず御(ご)煩慮(はんりよ)なく、188ユーズ、189アナンの実力(じつりよく)を御(ご)信任(しんにん)あらむことを希望(きばう)致(いた)します』
190と諄々(じゆんじゆん)として愉快気(ゆくわいげ)に述(の)べ立(た)てたり。
191ブール『荒(あら)しの森(もり)の味方(みかた)の敗北(はいぼく)、192たかが一人(ひとり)の宣伝使(せんでんし)に対(たい)し、193実(じつ)に何(なん)とも形容(けいよう)の出来(でき)ない無念(むねん)さではなかつたか。194今(いま)思(おも)ひ出(だ)しても、195実(じつ)に腹立(はらだ)たしい。196汝(なんぢ)等(ら)両人(りやうにん)、197吾(わが)前(まへ)にのみ強(つよ)く、198敵(てき)の影(かげ)を見(み)れば忽(たちま)ち軟化(なんくわ)し、199所謂(いはゆる)陰弁慶(かげべんけい)の徒(と)にはあらざるやと、200聊(いささ)か懸念(けねん)せざるを得(え)なくなつた』
201アナン『アハヽヽヽ、202是(これ)に就(つい)ても天機(てんき)洩(も)らす可(べか)らざる深遠(しんゑん)なる吾々(われわれ)の戦略(せんりやく)、203必(かなら)ず必(かなら)ず御(ご)心配(しんぱい)なさいますな。204キツと大勝利(だいしようり)を現(あら)はし、205お目(め)にかけるで御座(ござ)いませう』
206ブール『然(しか)らば、207汝(なんぢ)両人(りやうにん)を信任(しんにん)し、208一切(いつさい)を委託(ゐたく)する。209随分(ずゐぶん)気(き)を付(つ)けて呉(く)れ』
210と一間(ひとま)に入(い)つて了(しま)つた。211後(あと)に二人(ふたり)は顔(かほ)見合(みあは)して、212思案顔(しあんがほ)、
213アナン『オイ、214ユーズ、215実(じつ)に困(こま)つたことになつたものだないか。216楓別(かへでわけの)命(みこと)は実(じつ)に古今(ここん)無双(むさう)の神力(しんりき)を具備(ぐび)する大神将(だいしんしやう)なり、217言依別(ことよりわけ)、218国依別(くによりわけ)は之(こ)れ亦(また)不可思議(ふかしぎ)なる力(ちから)を持(も)つてゐる。219彼(かれ)等(ら)両人(りやうにん)が放射(はうしや)する五色(ごしき)の霊線(れいせん)は、220到底(たうてい)吾々(われわれ)近寄(ちかよ)る可(べか)らざる威力(ゐりよく)がある。221又(また)バラモン教(けう)の石熊(いしくま)も中々(なかなか)以(もつ)て注意(ちうい)周到(しうたう)な奴(やつ)、222決(けつ)して油断(ゆだん)は出来(でき)ない。223如何(どう)したら、224千騎(せんき)一騎(いつき)の此(この)場合(ばあひ)、225彼(かれ)等(ら)を殲滅(せんめつ)することが出来(でき)ようかと心配(しんぱい)でならないワ』
226ユーズ『それだから、227俺(おれ)達(たち)はユーズを利(き)かして、228教主(けうしゆ)様(さま)の前(まへ)でいろいろと言葉(ことば)を構(かま)へ、229威張(ゐば)つて見(み)せ、230教主(けうしゆ)の心(こころ)に力(ちから)を与(あた)へたのだ。231勇将(ゆうしやう)の下(もと)に弱卒(じやくそつ)なしだ。232弱将(じやくしやう)をして能(よ)く勇将(ゆうしやう)たらしむるは、233両人(りやうにん)の任務(にんむ)である。234サア、235アナン殿(どの)、236これより宣伝使(せんでんし)を全部(ぜんぶ)引(ひき)つれ、237又(また)数百(すうひやく)人(にん)の信者(しんじや)を以(もつ)て、238先(ま)づ第一(だいいち)に楓別(かへでわけ)の宣伝使(せんでんし)の館(やかた)を夜陰(やいん)に乗(じやう)じ、239襲撃(しふげき)することにせう。240大刀(だいたう)竹槍(たけやり)の用意(ようい)は出来(でき)て居(ゐ)るであらうか?』
241アナン『大刀(だいたう)竹槍(たけやり)を使(つか)ふは変事(へんじ)に際(さい)してのみ用(もち)ゐることを、242神明(しんめい)許(ゆる)させ玉(たま)へ共(ども)、243未(いま)だ武器(ぶき)を以(もつ)て立向(たちむか)ふべき時(とき)ではあるまいぞ』
244ユーズ『さてユーズの利(き)かぬ其(その)お言葉(ことば)、245千騎(せんき)一騎(いつき)の此(この)場合(ばあひ)は即(すなは)ち大変事(だいへんじ)のことでは御座(ござ)らぬか? 斯様(かやう)な時(とき)に武器(ぶき)を用(もち)ゐざれば、246何(いづ)れの時(とき)に用(もち)ゐむや。247仮令(たとへ)敵(てき)は少数(せうすう)と雖(いへど)も、248古今(ここん)無双(むさう)の勇者(ゆうしや)、249到底(たうてい)、250口先(くちさき)の弁舌(べんぜつ)を以(もつ)て帰順(きじゆん)せしむることは思(おも)ひも寄(よ)らざる事(こと)なれば、251短兵(たんぺい)急(きふ)に暴力(ばうりよく)を以(もつ)て彼(かれ)等(ら)の牙城(がじやう)を屠(ほふ)むらなくては、252ウラル教(けう)の休戚(きうせき)に関(くわん)する大問題(だいもんだい)だ。253危急(ききふ)存亡(そんばう)の分(わか)るる所(ところ)、254ウラル教(けう)国家(こくか)の興亡(こうばう)此(この)時(とき)にあり。255……サア、256アナン殿(どの)、257早(はや)く決心(けつしん)あれ』
258アナン『智謀(ちぼう)絶倫(ぜつりん)と聞(きこ)えたるユーズ殿(どの)の言葉(ことば)、259アナン賛成(さんせい)致(いた)しませう』
260ユーズ『早速(そうそく)の御(ご)承諾(しようだく)、261実(じつ)に有難(ありがた)し』
262と座(ざ)を立(た)ち、263別室(べつま)に入(い)り、264宣伝使(せんでんし)の溜(たま)り所(しよ)に在(あ)る宣伝使(せんでんし)を吾(わが)居間(ゐま)に呼集(よびあつ)め、265ヒルの館(やかた)の夜襲(やしふ)に時(とき)を移(うつ)さず着手(ちやくしゆ)せむ事(こと)を厳命(げんめい)した。266一同(いちどう)は一(いち)も二(に)もなく、267ユーズの言葉(ことば)に服従(ふくじゆう)し、268武装(ぶさう)を整(ととの)へ、269ヒルの都(みやこ)の楓別(かへでわけの)命(みこと)が館(やかた)をさして、270数百(すうひやく)人(にん)の部下(ぶか)と共(とも)に、271旗鼓(きこ)堂々(だうだう)と進(すす)み行(ゆ)く。
272(大正一一・八・一六 旧六・二四 松村真澄録)
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