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霊界物語
海洋万里(第25~36巻)
第30巻(巳の巻)
序
凡例
総説
第1篇 高砂の松
第1章 主従二人
第2章 乾の滝
第3章 清めの滝
第4章 懐旧の歌
第2篇 珍野瞰下
第5章 下坂の歌
第6章 樹下の一宿
第7章 提燈の光
第8章 露の道
第3篇 神縁微妙
第9章 醜の言霊
第10章 妖雲晴
第11章 言霊の妙
第12章 マラソン競争
第13章 都入
第4篇 修理固成
第14章 霊とパン
第15章 花に嵐
第16章 荒しの森
第17章 出陣
第18章 日暮シの河
第19章 蜘蛛の児
第20章 雉と町
第5篇 山河動乱
第21章 神王の祠
第22章 大蜈蚣
第23章 ブール酒
第24章 陥穽
附記 湯ケ島温泉
附記 天津祝詞解
附記 デモ国民歌
余白歌
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海洋万里(第25~36巻)
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第30巻(巳の巻)
> 第4篇 修理固成 > 第17章 出陣
<<< 荒しの森
(B)
(N)
日暮シの河 >>>
第一七章
出陣
(
しゆつじん
)
〔八五九〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第30巻 海洋万里 巳の巻
篇:
第4篇 修理固成
よみ(新仮名遣い):
しゅうりこせい
章:
第17章 出陣
よみ(新仮名遣い):
しゅつじん
通し章番号:
859
口述日:
1922(大正11)年08月16日(旧06月24日)
口述場所:
筆録者:
松村真澄
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1923(大正12)年9月15日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
秘露の国の日暮シ山の山腹に広大な岩窟を掘って、ウラル教は本拠地を構えていた。巴留の国の北西部から秘露の国全体にかけて勢力を誇っていた。奥の一間にはこの地のウラル教の教主ブールをはじめ、幹部連が会議を開いていた。
ブールは懸念を表明し、ヒルの都には楓別命が代々三五教の拠点を張っており、しかも先日は三五教宣伝使のために御倉山の拠点を奪われてしまったこと、それのみならず近年はバラモン教の石熊も勢力を増してきていることに対して、どうウラル教を盛り返したらよいか、幹部の意見を求めた。
幹部のアナンとユーズは、飢饉がもうすぐ終わって天候が回復する見込みであることから、それを予言としてウラル教の神の慈悲であると宣伝に触れ回り、その一方で、僧兵を引き連れてヒルの都の楓別の館を襲撃し、一気に三五教を殲滅しようと献策した。
ブールは、御倉山やチルの里で三五教宣伝使に手もなく敗北を喫した先例を挙げて、本当に大丈夫かとアナンとユーズに念押しをした。アナンとユーズは、あの敗北は深謀遠慮から出た策略の一つであったと強がり、今回は必ず勝利すると請け負った。そこまで聞いて、ブールは二人に作戦を任せた。
しかしブールが退出すると、アナンはさっそく臆病風に吹かれて心配をし始めたが、ユーズはアナンを鼓舞し、二人は武装した部下たちを連れて、楓別命の館に向かって出撃することになった。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2022-06-10 17:28:48
OBC :
rm3017
愛善世界社版:
201頁
八幡書店版:
第5輯 642頁
修補版:
校定版:
214頁
普及版:
79頁
初版:
ページ備考:
001
秘露
(
ひる
)
の
国
(
くに
)
日暮
(
ひぐら
)
シ
山
(
やま
)
の
山腹
(
さんぷく
)
に
広大
(
くわうだい
)
なる
岩窟
(
がんくつ
)
を
掘
(
ほ
)
り、
002
ウラル
教
(
けう
)
の
霊場
(
れいぢやう
)
を
作
(
つく
)
り、
003
ロツキー
山
(
ざん
)
の
本山
(
ほんざん
)
と
相応
(
あひおう
)
じて、
004
一旦
(
いつたん
)
亡
(
ほろ
)
びかけたるウラル
教
(
けう
)
も
再
(
ふたた
)
び
頭
(
かしら
)
を
擡
(
もた
)
げ、
005
巴留
(
はる
)
の
国
(
くに
)
の
西北部
(
せいほくぶ
)
よりヒル
全体
(
ぜんたい
)
に
其
(
その
)
勢力
(
せいりよく
)
を
拡大
(
くわくだい
)
して
居
(
ゐ
)
る。
006
此
(
この
)
岩窟
(
がんくつ
)
を
日暮
(
ひぐら
)
シ
山
(
やま
)
の
聖場
(
せいぢやう
)
と
称
(
とな
)
へてゐた。
007
此処
(
ここ
)
にはブールを
教主
(
けうしゆ
)
とし、
008
ユーズ、
009
アナンの
両
(
りやう
)
宣伝使
(
せんでんし
)
はブールを
助
(
たす
)
け、
010
数多
(
あまた
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
を
四方
(
しはう
)
に
派
(
は
)
し、
011
大
(
おほ
)
いにウラル
教
(
けう
)
宣伝
(
せんでん
)
に
力
(
ちから
)
を
尽
(
つく
)
しつつあつた。
012
奥
(
おく
)
の
一間
(
ひとま
)
には
教主
(
けうしゆ
)
のブールを
始
(
はじ
)
め、
013
アナン、
014
ユーズの
二人
(
ふたり
)
、
015
色
(
いろ
)
麗
(
うるは
)
しき
香
(
かほ
)
り
高
(
たか
)
き
林檎
(
りんご
)
を
堆
(
うづだか
)
く
盛
(
も
)
り、
016
互
(
たがひ
)
に
皮
(
かは
)
を
剥
(
む
)
き、
017
舌鼓
(
したつづみ
)
を
打
(
う
)
つて
味
(
あぢ
)
はひ
乍
(
なが
)
ら、
018
幹部
(
かんぶ
)
会議
(
くわいぎ
)
を
開
(
ひら
)
いて
居
(
ゐ
)
た。
019
ブール『
此
(
この
)
ヒルの
国
(
くに
)
には
紅葉彦
(
もみぢひこの
)
命
(
みこと
)
の
伜
(
せがれ
)
楓別
(
かへでわけの
)
命
(
みこと
)
三五教
(
あななひけう
)
を
宣伝
(
せんでん
)
致
(
いた
)
し、
020
其
(
その
)
勢
(
いきほひ
)
中々
(
なかなか
)
侮
(
あなど
)
る
可
(
べか
)
らず、
021
加之
(
しかのみならず
)
バラモン
教
(
けう
)
の
石熊
(
いしくま
)
の
一派
(
いつぱ
)
、
022
此
(
この
)
頃
(
ごろ
)
又
(
また
)
もや
俄
(
にはか
)
に
頭
(
あたま
)
を
擡
(
もた
)
げ、
023
吾々
(
われわれ
)
ウラル
教
(
けう
)
の
牙城
(
がじやう
)
に
向
(
むか
)
つて
突進
(
とつしん
)
し
来
(
きた
)
り、
024
数多
(
あまた
)
の
国人
(
くにびと
)
は
去就
(
きよしう
)
に
迷
(
まよ
)
ひ、
025
今
(
いま
)
は
殆
(
ほとん
)
ど
両教
(
りやうけう
)
の
為
(
ため
)
に
数百
(
すうひやく
)
年
(
ねん
)
のウラル
教
(
けう
)
の
努力
(
どりよく
)
も、
026
根底
(
こんてい
)
より
覆
(
くつが
)
へされむとしてゐる。
027
吾々
(
われわれ
)
は
何
(
なん
)
とかして、
028
彼
(
かれ
)
等
(
ら
)
両教
(
りやうけう
)
の
徒
(
と
)
を
駆追
(
くつゐ
)
せなくては、
029
ロツキー
山
(
さん
)
の
本山
(
ほんざん
)
に
対
(
たい
)
し、
030
申訳
(
まをしわけ
)
が
御座
(
ござ
)
らぬ。
031
吾々
(
われわれ
)
が
日頃
(
ひごろ
)
唱道
(
しやうだう
)
して
居
(
ゐ
)
た、
032
世
(
よ
)
の
終
(
をは
)
りは
近
(
ちか
)
づけり、
033
悔
(
く
)
い
改
(
あらた
)
めよ、
034
天国
(
てんごく
)
の
門
(
もん
)
はやがて
開
(
ひら
)
かれむと、
035
予言
(
よげん
)
せし
神示
(
しんじ
)
空
(
むな
)
しからず、
036
今年
(
ことし
)
の
此
(
この
)
大旱魃
(
だいかんばつ
)
、
037
大饑饉
(
だいききん
)
、
038
山河
(
さんか
)
草木
(
さうもく
)
、
039
殆
(
ほとん
)
ど
枯死
(
こし
)
せむとする
此
(
この
)
惨状
(
さんじやう
)
、
040
如何
(
いか
)
なる
頑迷
(
ぐわんめい
)
不霊
(
ふれい
)
の
徒
(
と
)
と
雖
(
いへど
)
も、
041
之
(
これ
)
を
見
(
み
)
て
無情
(
むじやう
)
を
感
(
かん
)
じ、
042
現世
(
げんせい
)
を
忌
(
い
)
み
天国
(
てんごく
)
を
希求
(
ききう
)
せざる
者
(
もの
)
あらむ、
043
此
(
この
)
機
(
き
)
逸
(
いつ
)
す
可
(
べか
)
らずとなし、
044
国魂神
(
くにたまがみ
)
を
斎
(
まつ
)
りたる
御倉山
(
みくらやま
)
の
谷川
(
たにがは
)
に、
045
数多
(
あまた
)
の
国人
(
くにびと
)
集
(
あつ
)
まると
聞
(
き
)
き、
046
遠路
(
ゑんろ
)
の
所
(
ところ
)
遥々
(
はるばる
)
宣伝
(
せんでん
)
の
為
(
ため
)
に、
047
吾々
(
われわれ
)
出張
(
しゆつちやう
)
し、
048
大部分
(
だいぶぶん
)
吾
(
わが
)
教理
(
けうり
)
に
服
(
ふく
)
し、
049
天国
(
てんごく
)
に
救
(
すく
)
はれむとする
折
(
をり
)
しも、
050
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
忽然
(
こつぜん
)
として
其
(
その
)
場
(
ば
)
に
現
(
あら
)
はれ、
051
体主
(
たいしゆ
)
霊従
(
れいじう
)
的
(
てき
)
教理
(
けうり
)
を
説
(
と
)
き、
052
再
(
ふたた
)
びウラル
教
(
けう
)
をして
根底
(
こんてい
)
より
転覆
(
てんぷく
)
せしめたる
其
(
その
)
腕前
(
うでまへ
)
、
053
かかる
邪教
(
じやけう
)
を
看過
(
かんくわ
)
するは
吾々
(
われわれ
)
ウラル
教
(
けう
)
宣伝使
(
せんでんし
)
として、
054
教祖
(
けうそ
)
常世彦
(
とこよひこの
)
命
(
みこと
)
に
対
(
たい
)
し
奉
(
たてまつ
)
り、
055
又
(
また
)
ウラル
彦
(
ひこ
)
の
教主
(
けうしゆ
)
に
対
(
たい
)
し、
056
陳弁
(
ちんべん
)
の
辞
(
じ
)
なし。
057
加
(
くは
)
ふるに、
058
又
(
また
)
もや
荒
(
あら
)
しの
森
(
もり
)
にて、
059
昨日
(
さくじつ
)
の
如
(
ごと
)
き
大敗
(
たいはい
)
を
取
(
と
)
りしは、
060
返
(
かへ
)
す
返
(
がへ
)
すも
残念
(
ざんねん
)
至極
(
しごく
)
の
至
(
いた
)
りではないか?……アナン
殿
(
どの
)
、
061
此
(
この
)
頽勢
(
たいせい
)
を
如何
(
いか
)
にして
挽回
(
ばんくわい
)
せむと
思
(
おも
)
はるるか、
062
腹蔵
(
ふくざう
)
なく
述
(
の
)
べられたい』
063
と
覗
(
のぞ
)
く
様
(
やう
)
にして
問
(
と
)
ひかけた。
064
アナンは
暫
(
しばら
)
く
双手
(
もろで
)
を
組
(
く
)
み、
065
差俯向
(
さしうつむ
)
いて
思案
(
しあん
)
にくれてゐたが、
066
ハタと
両手
(
りやうて
)
を
打
(
う
)
ち、
067
ニタリと
笑
(
わら
)
ひ、
068
アナン『
教主殿
(
けうしゆどの
)
、
069
私
(
わたし
)
に
一切
(
いつさい
)
を
御
(
ご
)
委任
(
ゐにん
)
下
(
くだ
)
さらば、
070
三五教
(
あななひけう
)
は
申
(
まを
)
すに
及
(
およ
)
ばず、
071
バラモン
教徒
(
けうと
)
をして
一人
(
ひとり
)
も
残
(
のこ
)
らず
帰順
(
きじゆん
)
させて
見
(
み
)
ませう。
072
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
此
(
この
)
機
(
き
)
を
逸
(
いつ
)
しては、
073
到底
(
たうてい
)
其
(
その
)
目的
(
もくてき
)
を
達
(
たつ
)
することは
出来
(
でき
)
ませぬ。
074
やがてここ
十日
(
とをか
)
も
過
(
す
)
ぐれば、
075
今日
(
こんにち
)
の
天候
(
てんこう
)
より
観察
(
くわんさつ
)
するに、
076
大雨
(
だいう
)
沛然
(
はいぜん
)
として
降
(
ふ
)
り
来
(
きた
)
り、
077
山河
(
さんか
)
草木
(
さうもく
)
忽
(
たちま
)
ちにして
元
(
もと
)
の
如
(
ごと
)
く
青々
(
せいせい
)
として
蘇生
(
そせい
)
するは
鏡
(
かがみ
)
にかけて
見
(
み
)
るようで
御座
(
ござ
)
いますれば、
078
今
(
いま
)
の
内
(
うち
)
に
宣伝使
(
せんでんし
)
を
残
(
のこ
)
らず
四方
(
しはう
)
に
派遣
(
はけん
)
し、
079
国人
(
くにびと
)
の
弱点
(
じやくてん
)
につけ
入
(
い
)
り……
汝
(
なんぢ
)
等
(
ら
)
悔
(
く
)
い
改
(
あらた
)
めざれば
今
(
いま
)
や
亡
(
ほろ
)
びむとす、
080
今迄
(
いままで
)
の
心
(
こころ
)
を
悔
(
く
)
い
改
(
あらた
)
め、
081
ウラル
教
(
けう
)
に
身
(
み
)
を
任
(
まか
)
せよ、
082
さすればやがて
天
(
てん
)
に
祈
(
いの
)
り
慈雨
(
じう
)
をふり
注
(
そそ
)
ぎ、
083
山河
(
さんか
)
草木
(
さうもく
)
人類
(
じんるゐ
)
をして
蘇生
(
そせい
)
の
喜
(
よろこ
)
びに
酔
(
よ
)
はしめ、
084
天国
(
てんごく
)
の
楽
(
たのし
)
みを
再
(
ふたた
)
び
地上
(
ちじやう
)
に
現
(
あら
)
はし
与
(
あた
)
へむ、
085
早
(
はや
)
く
悔
(
く
)
い
改
(
あらた
)
めよ、
086
天国
(
てんごく
)
はウラル
教
(
けう
)
を
信
(
しん
)
ずる
者
(
もの
)
の
領分
(
りやうぶん
)
なり……と、
087
此
(
この
)
際
(
さい
)
獅子
(
しし
)
奮迅
(
ふんじん
)
の
活動
(
くわつどう
)
を
開始
(
かいし
)
せば、
088
数多
(
あまた
)
の
国人
(
くにびと
)
は
今迄
(
いままで
)
迷
(
まよ
)
へるバラモン、
089
三五
(
あななひ
)
の
両教
(
りやうけう
)
を
弊履
(
へいり
)
の
如
(
ごと
)
く
抛棄
(
ほうき
)
して
吾
(
わが
)
教
(
をしへ
)
に
先
(
さき
)
を
争
(
あらそ
)
ひ、
090
潮
(
うしほ
)
の
如
(
ごと
)
く
集
(
あつ
)
まり
来
(
きた
)
るは
目
(
め
)
に
見
(
み
)
る
如
(
ごと
)
き
感
(
かん
)
じが
致
(
いた
)
します。
091
どうぞ
吾々
(
われわれ
)
に
此
(
こ
)
れを
一任
(
いちにん
)
なし
下
(
くだ
)
さいますれば、
092
数多
(
あまた
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
を
使役
(
しえき
)
し、
093
宣伝使
(
せんでんし
)
長
(
ちやう
)
となつて
一肌
(
ひとはだ
)
脱
(
ぬ
)
いで
見
(
み
)
る
覚悟
(
かくご
)
で
御座
(
ござ
)
います』
094
ブール『
成程
(
なるほど
)
、
095
それも
妙案
(
めうあん
)
だ。
096
然
(
しか
)
らばアナン
殿
(
どの
)
、
097
宣伝
(
せんでん
)
の
件
(
けん
)
に
就
(
つ
)
いては、
098
一切
(
いつさい
)
万事
(
ばんじ
)
御
(
お
)
任
(
まか
)
せ
申
(
まを
)
す』
099
アナン『
早速
(
さつそく
)
の
御
(
ご
)
承知
(
しようち
)
……
否
(
いや
)
御
(
ご
)
信任
(
しんにん
)
、
100
有難
(
ありがた
)
くお
受
(
う
)
け
仕
(
つかまつ
)
ります』
101
と
喜色
(
きしよく
)
満面
(
まんめん
)
に
溢
(
あふ
)
れ、
102
肩
(
かた
)
を
怒
(
いか
)
らし、
103
腕
(
うで
)
を
振
(
ふ
)
り、
104
意気
(
いき
)
揚々
(
やうやう
)
として、
105
期
(
き
)
する
所
(
ところ
)
あるものの
如
(
ごと
)
く
雄健
(
をたけ
)
びしてゐる。
106
ユーズは
少
(
すこ
)
しく
首
(
くび
)
を
傾
(
かたむ
)
け
乍
(
なが
)
ら、
107
ユーズ
『
教主
(
けうしゆ
)
殿
(
どの
)
、
108
アナン
殿
(
どの
)
の
御
(
ご
)
進言
(
しんげん
)
は
至極
(
しごく
)
妙案
(
めうあん
)
奇策
(
きさく
)
と
存
(
ぞん
)
じますが、
109
敵
(
かたき
)
の
末
(
すゑ
)
は
根
(
ね
)
を
切
(
き
)
つて
葉
(
は
)
を
絶
(
た
)
やすとか
申
(
まを
)
しまして、
110
如何
(
どう
)
しても
根本
(
こんぽん
)
的
(
てき
)
に
両教
(
りやうけう
)
を
絶滅
(
ぜつめつ
)
するには、
111
幹部
(
かんぶ
)
に
向
(
むか
)
つて
大打撃
(
だいだげき
)
を
与
(
あた
)
へなくては、
112
到底
(
たうてい
)
駄目
(
だめ
)
でせう。
113
仮令
(
たとへ
)
一
(
いち
)
時
(
じ
)
ウラル
教
(
けう
)
に
帰順
(
きじゆん
)
する
共
(
とも
)
、
114
又
(
また
)
もや、
115
彼
(
か
)
れ
三五教
(
あななひけう
)
の
言依別
(
ことよりわけ
)
、
116
国依別
(
くによりわけ
)
の
如
(
ごと
)
き
勇者
(
ゆうしや
)
ある
上
(
うへ
)
は
到底
(
たうてい
)
完全
(
くわんぜん
)
に
教義
(
けうぎ
)
を
宣布
(
せんぷ
)
することは
不可能
(
ふかのう
)
でせう。
117
先
(
ま
)
づ
第一
(
だいいち
)
に
焦眉
(
せうび
)
の
急
(
きふ
)
とする
所
(
ところ
)
は、
118
言依別
(
ことよりわけ
)
、
119
国依別
(
くによりわけ
)
の
両
(
りやう
)
宣伝使
(
せんでんし
)
を
亡
(
な
)
き
者
(
もの
)
とし、
120
ヒルの
都
(
みやこ
)
の
楓別
(
かへでわけの
)
命
(
みこと
)
の
本城
(
ほんじやう
)
に
攻
(
せ
)
め
寄
(
よ
)
せ、
121
根底
(
こんてい
)
より
転覆
(
てんぷく
)
絶滅
(
ぜつめつ
)
せしめなくては
到底
(
たうてい
)
駄目
(
だめ
)
でせう。
122
私
(
わたし
)
の
考
(
かんが
)
へとしては、
123
どうしても、
124
枝葉
(
しえふ
)
の
問題
(
もんだい
)
を
後
(
のち
)
にし、
125
此
(
この
)
大問題
(
だいもんだい
)
たる
根幹
(
こんかん
)
を
芟除
(
せんぢよ
)
せなくてはならないと
存
(
ぞん
)
じます』
126
ブール『ユーズ
殿
(
どの
)
の
云
(
い
)
はるる
通
(
とほ
)
り、
127
吾
(
わ
)
れも
其
(
その
)
戦法
(
せんぱふ
)
を
以
(
もつ
)
て
最
(
もつと
)
も
肝要
(
かんえう
)
なる
手段
(
しゆだん
)
と
心得
(
こころえ
)
る。
128
……アナン
殿
(
どの
)
、
129
如何
(
いかが
)
で
御座
(
ござ
)
らうか』
130
アナン『
然
(
しか
)
らば
斯
(
か
)
う
致
(
いた
)
したら
如何
(
どう
)
で
御座
(
ござ
)
いませう。
131
此
(
この
)
館
(
やかた
)
に
集
(
あつ
)
まれる
八十
(
はちじふ
)
人
(
にん
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
を
半
(
なかば
)
割
(
さ
)
き、
132
四十
(
よんじふ
)
人
(
にん
)
を
一先
(
ひとま
)
づヒル、
133
カル
両国
(
りやうごく
)
に
至急
(
しきふ
)
派遣
(
はけん
)
し、
134
残
(
のこ
)
り
四十
(
よんじふ
)
人
(
にん
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
を
吾々
(
われわれ
)
が
引率
(
いんそつ
)
し、
135
教主殿
(
けうしゆどの
)
は
此
(
この
)
聖場
(
せいぢやう
)
におはしまし、
136
少数
(
せうすう
)
の
役員
(
やくゐん
)
信徒
(
しんと
)
と
共
(
とも
)
に、
137
お
守
(
まも
)
りを
願
(
ねが
)
ひ、
138
吾々
(
われわれ
)
はユーズ
殿
(
どの
)
と
先
(
ま
)
づ
楓別
(
かへでわけの
)
命
(
みこと
)
の
館
(
やかた
)
に
向
(
むか
)
つて、
139
夜襲
(
やしふ
)
を
試
(
こころ
)
み、
140
只
(
ただ
)
一戦
(
いつせん
)
に
滅亡
(
めつぼう
)
せしめ、
141
神
(
かみ
)
の
力
(
ちから
)
を
天下
(
てんか
)
に
現
(
あら
)
はしなば、
142
素
(
もと
)
より
体主
(
たいしゆ
)
霊従
(
れいじう
)
の
事大
(
じだい
)
主義
(
しゆぎ
)
に
囚
(
とら
)
はれたる
人々
(
ひとびと
)
は、
143
一
(
いち
)
も
二
(
に
)
もなくウラル
教
(
けう
)
の
権威
(
けんゐ
)
に
畏服
(
ゐふく
)
し、
144
帰順
(
きじゆん
)
致
(
いた
)
すは
明
(
あきら
)
かな
活
(
いき
)
たる
事実
(
じじつ
)
で
御座
(
ござ
)
いませう』
145
ブール『
然
(
しか
)
らば
両人
(
りやうにん
)
にお
任
(
まか
)
せ
申
(
まを
)
す。
146
何卒
(
どうぞ
)
一切
(
いつさい
)
万事
(
ばんじ
)
に
違算
(
ゐさん
)
なき
様
(
やう
)
頼
(
たの
)
み
入
(
い
)
る』
147
アナン『
仰
(
あふ
)
せ
迄
(
まで
)
もなく、
148
目
(
め
)
から
鼻
(
はな
)
へつき
抜
(
ぬ
)
けた、
149
智謀
(
ちぼう
)
絶倫
(
ぜつりん
)
のユーズ
殿
(
どの
)
、
150
私
(
わたし
)
が
後
(
うしろ
)
に
控
(
ひか
)
えさせられての
作戦
(
さくせん
)
計画
(
けいくわく
)
なれば、
151
水一滴
(
みづいつてき
)
の
遺漏
(
ゐろう
)
も
御座
(
ござ
)
いませぬ。
152
御
(
ご
)
安心
(
あんしん
)
下
(
くだ
)
さいませ』
153
ブール『いやいや
斯
(
か
)
く
迄
(
まで
)
勢力
(
せいりよく
)
を
四方
(
しはう
)
に
張
(
は
)
つたる、
154
楓別
(
かへでわけの
)
命
(
みこと
)
又
(
また
)
言依別
(
ことよりわけ
)
、
155
国依別
(
くによりわけ
)
のあの
腕前
(
うでまへ
)
、
156
到底
(
たうてい
)
一通
(
ひととほ
)
りにては
往生
(
わうじやう
)
致
(
いた
)
すまい。
157
何
(
なん
)
とか
神策
(
しんさく
)
を
考究
(
かうきう
)
致
(
いた
)
さねば、
158
軽々
(
かるがる
)
しく
進
(
すす
)
んで
敵
(
てき
)
の
術中
(
じゆつちう
)
に
陥
(
おちい
)
るやうな
事
(
こと
)
あらば、
159
それこそ
挽回
(
ばんくわい
)
の
道
(
みち
)
がつかぬ。
160
此
(
この
)
点
(
てん
)
に
於
(
おい
)
てブール、
161
甚
(
はなは
)
だ
心許
(
こころもと
)
なく
存
(
ぞん
)
ずる。
162
一例
(
いちれい
)
を
挙
(
あ
)
ぐれば、
163
御倉山
(
みくらやま
)
の
渓谷
(
けいこく
)
に
於
(
おい
)
て、
164
数多
(
あまた
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
が
居乍
(
ゐなが
)
ら、
165
脆
(
もろ
)
くも
吾々
(
われわれ
)
は
敗走
(
はいそう
)
致
(
いた
)
せし
苦
(
にが
)
き
経験
(
けいけん
)
に
徴
(
ちよう
)
し、
166
容易
(
ようい
)
に
侮
(
あなど
)
る
可
(
べ
)
からざる
強敵
(
きやうてき
)
なれば、
167
吾々
(
われわれ
)
は
最
(
もつと
)
も
深
(
ふか
)
く
神
(
かみ
)
を
念
(
ねん
)
じ、
168
神力
(
しんりき
)
を
身
(
み
)
に
充実
(
じゆうじつ
)
して
進
(
すす
)
まねばなりませぬぞ。
169
智謀
(
ちぼう
)
絶倫
(
ぜつりん
)
と
聞
(
きこ
)
えたるユーズ、
170
アナンの
両将
(
りやうしやう
)
迄
(
まで
)
が
只
(
ただ
)
一言
(
ひとこと
)
の
言霊
(
ことたま
)
をも
交
(
まじ
)
へず、
171
雲
(
くも
)
を
霞
(
かすみ
)
と
逃
(
に
)
げ
帰
(
かへ
)
つたる
無態
(
ぶざま
)
さ、
172
吾
(
わ
)
れは
只一人
(
ただひとり
)
ふみ
止
(
とど
)
まるに
忍
(
しの
)
びず、
173
止
(
や
)
むを
得
(
え
)
ず
引返
(
ひきかへ
)
せし
様
(
やう
)
な
仕末
(
しまつ
)
なれば、
174
果
(
はた
)
して
両人
(
りやうにん
)
に
於
(
おい
)
て、
175
確固
(
かくこ
)
不抜
(
ふばつ
)
の
成算
(
せいさん
)
が
御座
(
ござ
)
るかなア』
176
ユーズ『アハヽヽヽ、
177
吾々
(
われわれ
)
の
神算
(
しんさん
)
鬼謀
(
きぼう
)
は
敵
(
てき
)
に
向
(
むか
)
つて
弱
(
よわ
)
しと
見
(
み
)
せかけ、
178
ワザとに
敗走
(
はいそう
)
の
体
(
てい
)
を
装
(
よそほ
)
ひ、
179
彼
(
かれ
)
等
(
ら
)
両人
(
りやうにん
)
を
版図内
(
はんとない
)
に
深
(
ふか
)
く
入
(
い
)
り
込
(
こ
)
ませ
四方
(
しはう
)
より
取囲
(
とりかこ
)
み、
180
袋
(
ふくろ
)
の
鼠
(
ねずみ
)
と
致
(
いた
)
して
本教
(
ほんけう
)
に
帰順
(
きじゆん
)
せしむるか、
181
但
(
ただし
)
は
滅亡
(
めつぼう
)
せしめむかとの
考
(
かんが
)
へより
退却
(
たいきやく
)
を
致
(
いた
)
したので
御座
(
ござ
)
る。
182
仮令
(
たとへ
)
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
慓悍
(
へうかん
)
決死
(
けつし
)
にして、
183
鬼神
(
きじん
)
を
拉
(
ひし
)
ぐ
勇
(
ゆう
)
あり
共
(
とも
)
、
184
たかの
知
(
し
)
れた
一人
(
ひとり
)
や
二人
(
ふたり
)
、
185
何
(
なん
)
の
恐
(
おそ
)
るる
所
(
ところ
)
が
御座
(
ござ
)
いませう。
186
これもユーズが
一
(
ひと
)
つの
計略
(
けいりやく
)
で
御座
(
ござ
)
れば、
187
必
(
かなら
)
ず
必
(
かなら
)
ず
御
(
ご
)
煩慮
(
はんりよ
)
なく、
188
ユーズ、
189
アナンの
実力
(
じつりよく
)
を
御
(
ご
)
信任
(
しんにん
)
あらむことを
希望
(
きばう
)
致
(
いた
)
します』
190
と
諄々
(
じゆんじゆん
)
として
愉快気
(
ゆくわいげ
)
に
述
(
の
)
べ
立
(
た
)
てたり。
191
ブール『
荒
(
あら
)
しの
森
(
もり
)
の
味方
(
みかた
)
の
敗北
(
はいぼく
)
、
192
たかが
一人
(
ひとり
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
に
対
(
たい
)
し、
193
実
(
じつ
)
に
何
(
なん
)
とも
形容
(
けいよう
)
の
出来
(
でき
)
ない
無念
(
むねん
)
さではなかつたか。
194
今
(
いま
)
思
(
おも
)
ひ
出
(
だ
)
しても、
195
実
(
じつ
)
に
腹立
(
はらだ
)
たしい。
196
汝
(
なんぢ
)
等
(
ら
)
両人
(
りやうにん
)
、
197
吾
(
わが
)
前
(
まへ
)
にのみ
強
(
つよ
)
く、
198
敵
(
てき
)
の
影
(
かげ
)
を
見
(
み
)
れば
忽
(
たちま
)
ち
軟化
(
なんくわ
)
し、
199
所謂
(
いはゆる
)
陰弁慶
(
かげべんけい
)
の
徒
(
と
)
にはあらざるやと、
200
聊
(
いささ
)
か
懸念
(
けねん
)
せざるを
得
(
え
)
なくなつた』
201
アナン『アハヽヽヽ、
202
是
(
これ
)
に
就
(
つい
)
ても
天機
(
てんき
)
洩
(
も
)
らす
可
(
べか
)
らざる
深遠
(
しんゑん
)
なる
吾々
(
われわれ
)
の
戦略
(
せんりやく
)
、
203
必
(
かなら
)
ず
必
(
かなら
)
ず
御
(
ご
)
心配
(
しんぱい
)
なさいますな。
204
キツと
大勝利
(
だいしようり
)
を
現
(
あら
)
はし、
205
お
目
(
め
)
にかけるで
御座
(
ござ
)
いませう』
206
ブール『
然
(
しか
)
らば、
207
汝
(
なんぢ
)
両人
(
りやうにん
)
を
信任
(
しんにん
)
し、
208
一切
(
いつさい
)
を
委託
(
ゐたく
)
する。
209
随分
(
ずゐぶん
)
気
(
き
)
を
付
(
つ
)
けて
呉
(
く
)
れ』
210
と
一間
(
ひとま
)
に
入
(
い
)
つて
了
(
しま
)
つた。
211
後
(
あと
)
に
二人
(
ふたり
)
は
顔
(
かほ
)
見合
(
みあは
)
して、
212
思案顔
(
しあんがほ
)
、
213
アナン『オイ、
214
ユーズ、
215
実
(
じつ
)
に
困
(
こま
)
つたことになつたものだないか。
216
楓別
(
かへでわけの
)
命
(
みこと
)
は
実
(
じつ
)
に
古今
(
ここん
)
無双
(
むさう
)
の
神力
(
しんりき
)
を
具備
(
ぐび
)
する
大神将
(
だいしんしやう
)
なり、
217
言依別
(
ことよりわけ
)
、
218
国依別
(
くによりわけ
)
は
之
(
こ
)
れ
亦
(
また
)
不可思議
(
ふかしぎ
)
なる
力
(
ちから
)
を
持
(
も
)
つてゐる。
219
彼
(
かれ
)
等
(
ら
)
両人
(
りやうにん
)
が
放射
(
はうしや
)
する
五色
(
ごしき
)
の
霊線
(
れいせん
)
は、
220
到底
(
たうてい
)
吾々
(
われわれ
)
近寄
(
ちかよ
)
る
可
(
べか
)
らざる
威力
(
ゐりよく
)
がある。
221
又
(
また
)
バラモン
教
(
けう
)
の
石熊
(
いしくま
)
も
中々
(
なかなか
)
以
(
もつ
)
て
注意
(
ちうい
)
周到
(
しうたう
)
な
奴
(
やつ
)
、
222
決
(
けつ
)
して
油断
(
ゆだん
)
は
出来
(
でき
)
ない。
223
如何
(
どう
)
したら、
224
千騎
(
せんき
)
一騎
(
いつき
)
の
此
(
この
)
場合
(
ばあひ
)
、
225
彼
(
かれ
)
等
(
ら
)
を
殲滅
(
せんめつ
)
することが
出来
(
でき
)
ようかと
心配
(
しんぱい
)
でならないワ』
226
ユーズ『それだから、
227
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
はユーズを
利
(
き
)
かして、
228
教主
(
けうしゆ
)
様
(
さま
)
の
前
(
まへ
)
でいろいろと
言葉
(
ことば
)
を
構
(
かま
)
へ、
229
威張
(
ゐば
)
つて
見
(
み
)
せ、
230
教主
(
けうしゆ
)
の
心
(
こころ
)
に
力
(
ちから
)
を
与
(
あた
)
へたのだ。
231
勇将
(
ゆうしやう
)
の
下
(
もと
)
に
弱卒
(
じやくそつ
)
なしだ。
232
弱将
(
じやくしやう
)
をして
能
(
よ
)
く
勇将
(
ゆうしやう
)
たらしむるは、
233
両人
(
りやうにん
)
の
任務
(
にんむ
)
である。
234
サア、
235
アナン
殿
(
どの
)
、
236
これより
宣伝使
(
せんでんし
)
を
全部
(
ぜんぶ
)
引
(
ひき
)
つれ、
237
又
(
また
)
数百
(
すうひやく
)
人
(
にん
)
の
信者
(
しんじや
)
を
以
(
もつ
)
て、
238
先
(
ま
)
づ
第一
(
だいいち
)
に
楓別
(
かへでわけ
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
の
館
(
やかた
)
を
夜陰
(
やいん
)
に
乗
(
じやう
)
じ、
239
襲撃
(
しふげき
)
することにせう。
240
大刀
(
だいたう
)
竹槍
(
たけやり
)
の
用意
(
ようい
)
は
出来
(
でき
)
て
居
(
ゐ
)
るであらうか?』
241
アナン『
大刀
(
だいたう
)
竹槍
(
たけやり
)
を
使
(
つか
)
ふは
変事
(
へんじ
)
に
際
(
さい
)
してのみ
用
(
もち
)
ゐることを、
242
神明
(
しんめい
)
許
(
ゆる
)
させ
玉
(
たま
)
へ
共
(
ども
)
、
243
未
(
いま
)
だ
武器
(
ぶき
)
を
以
(
もつ
)
て
立向
(
たちむか
)
ふべき
時
(
とき
)
ではあるまいぞ』
244
ユーズ『さてユーズの
利
(
き
)
かぬ
其
(
その
)
お
言葉
(
ことば
)
、
245
千騎
(
せんき
)
一騎
(
いつき
)
の
此
(
この
)
場合
(
ばあひ
)
は
即
(
すなは
)
ち
大変事
(
だいへんじ
)
のことでは
御座
(
ござ
)
らぬか?
斯様
(
かやう
)
な
時
(
とき
)
に
武器
(
ぶき
)
を
用
(
もち
)
ゐざれば、
246
何
(
いづ
)
れの
時
(
とき
)
に
用
(
もち
)
ゐむや。
247
仮令
(
たとへ
)
敵
(
てき
)
は
少数
(
せうすう
)
と
雖
(
いへど
)
も、
248
古今
(
ここん
)
無双
(
むさう
)
の
勇者
(
ゆうしや
)
、
249
到底
(
たうてい
)
、
250
口先
(
くちさき
)
の
弁舌
(
べんぜつ
)
を
以
(
もつ
)
て
帰順
(
きじゆん
)
せしむることは
思
(
おも
)
ひも
寄
(
よ
)
らざる
事
(
こと
)
なれば、
251
短兵
(
たんぺい
)
急
(
きふ
)
に
暴力
(
ばうりよく
)
を
以
(
もつ
)
て
彼
(
かれ
)
等
(
ら
)
の
牙城
(
がじやう
)
を
屠
(
ほふ
)
むらなくては、
252
ウラル
教
(
けう
)
の
休戚
(
きうせき
)
に
関
(
くわん
)
する
大問題
(
だいもんだい
)
だ。
253
危急
(
ききふ
)
存亡
(
そんばう
)
の
分
(
わか
)
るる
所
(
ところ
)
、
254
ウラル
教
(
けう
)
国家
(
こくか
)
の
興亡
(
こうばう
)
此
(
この
)
時
(
とき
)
にあり。
255
……サア、
256
アナン
殿
(
どの
)
、
257
早
(
はや
)
く
決心
(
けつしん
)
あれ』
258
アナン『
智謀
(
ちぼう
)
絶倫
(
ぜつりん
)
と
聞
(
きこ
)
えたるユーズ
殿
(
どの
)
の
言葉
(
ことば
)
、
259
アナン
賛成
(
さんせい
)
致
(
いた
)
しませう』
260
ユーズ『
早速
(
そうそく
)
の
御
(
ご
)
承諾
(
しようだく
)
、
261
実
(
じつ
)
に
有難
(
ありがた
)
し』
262
と
座
(
ざ
)
を
立
(
た
)
ち、
263
別室
(
べつま
)
に
入
(
い
)
り、
264
宣伝使
(
せんでんし
)
の
溜
(
たま
)
り
所
(
しよ
)
に
在
(
あ
)
る
宣伝使
(
せんでんし
)
を
吾
(
わが
)
居間
(
ゐま
)
に
呼集
(
よびあつ
)
め、
265
ヒルの
館
(
やかた
)
の
夜襲
(
やしふ
)
に
時
(
とき
)
を
移
(
うつ
)
さず
着手
(
ちやくしゆ
)
せむ
事
(
こと
)
を
厳命
(
げんめい
)
した。
266
一同
(
いちどう
)
は
一
(
いち
)
も
二
(
に
)
もなく、
267
ユーズの
言葉
(
ことば
)
に
服従
(
ふくじゆう
)
し、
268
武装
(
ぶさう
)
を
整
(
ととの
)
へ、
269
ヒルの
都
(
みやこ
)
の
楓別
(
かへでわけの
)
命
(
みこと
)
が
館
(
やかた
)
をさして、
270
数百
(
すうひやく
)
人
(
にん
)
の
部下
(
ぶか
)
と
共
(
とも
)
に、
271
旗鼓
(
きこ
)
堂々
(
だうだう
)
と
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
く。
272
(
大正一一・八・一六
旧六・二四
松村真澄
録)
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(N)
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