霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第二三章 ブール(しゆ)〔八六五〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第30巻 海洋万里 巳の巻 篇:第5篇 山河動乱 よみ(新仮名遣い):さんかどうらん
章:第23章 ブール酒 よみ(新仮名遣い):ぶーるしゅ 通し章番号:865
口述日:1922(大正11)年08月16日(旧06月24日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1923(大正12)年9月15日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
日暮シ山の霊場で、教主ブールは昨夜出陣した部下たちの勝利を祈願し終わり、居間に帰ってみれば、なぜか出陣したはずのアナンとユーズが悄然として控えている。
その様子を見て不安を感じたブールが二人を詰問すると、アナンとユーズは俄かに空元気を出し、口に任せてブールを煙に巻いて、ウラル教が勝利したとも受け取れる説明をなした。
ブールは機嫌を直し、出陣した隊士たちにもぶどう酒を振舞うようにと言い渡して、神殿に勝利の感謝祈願をすると言って奥に姿を隠した。
アナンとユーズは部下たちにぶどう酒を振舞ってかん口令を敷き、自分たちは神殿に行ってブールが宴会の場に来ないように出鱈目な話をして教主室に引き止めに行った。
宴席では、ウラル教徒たちが昨夜の大敗戦を肴に愚痴を言い合っている。そこへアナンがやってきて、一同にねぎらいの言葉をかけるが、酔ったウラル教徒たちは敗戦を匂わせることを言い出し、アナンに制止される。
そこへブールが突然やってきた。一同は慌てて居住まいをただす。ブールは、岩窟の前に三五教の強者が二人来たようなので、気をつけるようにと言い渡した。一同には緊張が走った。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる] 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2022-02-21 17:42:25 OBC :rm3023
愛善世界社版:259頁 八幡書店版:第5輯 663頁 修補版: 校定版:276頁 普及版:104頁 初版: ページ備考:
001 日暮(ひぐら)(やま)霊場(れいぢやう)002岩窟館(がんくつやかた)教主(けうしゆ)ブールの(おく)()には、003アナン、004ユーズの二人(ふたり)005悄然(せうぜん)として(ひか)え、006ブールが岩窟内(がんくつない)神前(しんぜん)(ぬか)づき、007ヒルの(みやこ)(むか)つて派遣(はけん)したる部下(ぶか)一同(いちどう)大勝利(だいしようり)()008(いち)(にち)(はや)凱歌(がいか)(そう)して(かへ)ります(やう)祈願(きぐわん)をこめ(をは)りて、009しづしづと(わが)居間(ゐま)(かへ)つて()れば、010豈計(あにはか)らむや、011昨夜(さくや)堂々(だうだう)として出陣(しゆつぢん)したる二人(ふたり)勇将(ゆうしやう)は、012悄然(せうぜん)として(わが)居間(ゐま)()つて()る。013どこともなく元気(げんき)()ささうな(かげ)うすき二人(ふたり)姿(すがた)()て、014不安(ふあん)(ねん)()られ(なが)ら、
015ブール『ヤアお(まへ)はアナンにユーズの両人(りやうにん)016えらう顔色(かほいろ)()えて()ないぢやないか。017(なに)途中(とちう)失敗(しつぱい)(えん)じ、018女々(めめ)しくも、019おめおめと(かへ)つて()たのだらう』
020 (この)(こゑ)二人(ふたり)教主(けうしゆ)(まへ)(あら)はれたるを(さと)り、021(にはか)空元気(からげんき)をつけ、
022アナン『これはこれは教主(けうしゆ)(さま)御座(ござ)いましたか、023エー(じつ)は、024その中々(なかなか)(もつ)て、025(なん)御座(ござ)いましたよ。026非常(ひじやう)何々(なになに)で、027(じつ)不愉快(ふゆくわい)……オツトドツコイ壮快(さうくわい)(こと)御座(ござ)いました。028なア、029ユーズ、030(まへ)もチツとユーズを()かして、031戦況(せんきやう)を、032そこはそれ、033うまく、034遺漏(ゐろう)なき(やう)()報告(はうこく)(まを)すのだよ』
035ユーズ『(まを)()げます。036此処(ここ)伊弉冊(いざなみの)大神(おほかみ)は、037御子(みこ)迦具槌(かぐつちの)(かみ)()(たま)ひて、038みまかりましき。039伊弉諾(いざなぎの)大神(おほかみ)いたく(いか)(たま)ひて、040御子(みこ)迦具槌(かぐつちの)(かみ)御首(みくび)()(たま)へば、041ユーズ(湯津(ゆつ)石村(いはむら)たばしりつきてなりませる(かみ)()は、042サツパリコンと岩拆(いはさく)(かみ)043根拆(ねさく)(かみ)
044ブール『コリヤコリヤ(なに)()つてゐるのだ。045戦況(せんきやう)()うだと()うてゐるのだ。046(つぶ)さに報告(はうこく)せないか』
047ユーズ『ハイ報告(はうこく)報告(はうこく)048赤心(せきしん)報国(はうこく)049あなたの(ため)所在(あらゆる)ベストを(つく)し、050数多(あまた)部下(ぶか)黒死病(こくしびやう)(いや)酷使(こくし)(なが)ら、051選挙(せんきよ)運動(うんどう)開始(かいし)(いた)しました(ところ)052残念(ざんねん)(なが)一騎(いつき)当選(たうせん)はまだ(おろ)か、053次点者(じてんしや)となりました。054イヤもう(たたか)ひは(とき)(うん)とか(まを)しまして、055ウンと(てき)屁古(へこ)ませ、056ヒルの(みやこ)()()するに先立(さきだ)ち、057(もろ)くも敗走(はいそう)(いた)しまして御座(ござ)います』
058ブール『どちらが敗走(はいそう)したのだ』
059ユーズ『ハイさうですなア。060すべて(たたか)ひはどちらか一方(いつぱう)(まけ)なくては、061平和(へいわ)克復(こくふく)到底(たうてい)出来(でき)ませぬ。062(はなは)(もつ)不名誉(ふめいよ)千万(せんばん)悲惨(ひさん)()()ひましたよ』
063ブール『貴様(きさま)()(こと)はチツとも(わか)らない。064……オイ、065アナンの大将(たいしやう)066ユーズはどうかして()(やう)だ。067(その)(はう)(くは)しく、068一伍(いちぶ)一什(しじふ)報告(はうこく)せよ』
069アナン『()(たづ)(まで)もなく、070吾々(われわれ)勇士(ゆうし)引率(いんそつ)し、071(くつわ)(なら)べて堂々(だうだう)と、072日暮(ひぐら)(がは)両岸(りやうがん)を、073長蛇(ちやうだ)(ぢん)()(なが)ら、074旗鼓(きこ)堂々(だうだう)()(くだ)る。075(とき)しもあれや、076幾十百(いくじふひやく)とも()れぬ十曜(とえう)神紋(しんもん)馬印(うまじるし)077高張(たかはり)提灯(ちやうちん)078数限(かずかぎ)りもなく、079堂々(だうだう)として丸木橋(まるきばし)()え、080此方(こなた)(むか)つて攻来(せめきた)るヒルの(みやこ)楓別(かへでわけの)(みこと)部下(ぶか)者共(ものども)081総勢(そうぜい)(ほとん)三千(さんぜん)有余(いうよ)(にん)082日暮(ひぐら)(がは)両岸(りやうがん)人垣(ひとがき)(つく)(なが)攻上(せめのぼ)(きた)(その)物々(ものもの)しさ。083(くわ)(もつ)(しう)(てき)するは英雄(えいゆう)豪傑(がうけつ)にあらざれば(あた)はざる(ところ)084吾々(われわれ)両人(りやうにん)(わづか)数百(すうひやく)手兵(しゆへい)(もつ)(これ)(あた)り、085()第一(だいいち)(わが)部下(ぶか)竹槍隊(たけやりたい)両分(りやうぶん)し、086(てき)不意(ふい)(ねら)つて側面(そくめん)より、087(やり)穂先(ほさき)(そろ)へ、088(とき)(つく)つて突貫(とつくわん)すれば、089(てき)敗亡(はいぼう)うろたへ(さわ)ぐを、090(なほ)もおつつめ、091一人(ひとり)(のこ)らず日暮(ひぐら)(がは)急流(きふりう)につきおとしたり。092不意(ふい)(くら)つた数多(あまた)(てき)(たちま)北岸(ほくがん)駆上(かけあが)り、093遁走(とんさう)せむと(さき)(あらそ)ひ、094川土手(かはどて)(のぼ)()くを待構(まちかま)へたるユーズの抜刀隊(ばつたうたい)は、095好敵(かうてき)御参(ござん)なれと采配(さいはい)打振(うちふ)り、096(わづ)部下(ぶか)三百(さんびやく)味方(みかた)(むか)つて下知(げち)すれば、097味方(みかた)勇士(ゆうし)は、098(つるぎ)切先(きつさき)(そろ)へ、099(かた)(ぱし)から()りたて薙立(なぎた)て、100(たちま)血河(けつか)屍山(しざん)大勝利(だいしようり)101日暮(ひぐら)(がは)(たちま)血潮(ちしほ)洪水(こうずゐ)氾濫(はんらん)し、102数多(あまた)(てき)(かばね)一人(ひとり)(のこ)さず血流(けつりう)(ただよ)ひ、103太平洋(たいへいやう)()して(なが)()く、104(その)壮烈(さうれつ)さ。105(かた)るも中々(なかなか)(おろ)かなりける次第(しだい)(ござ)る』
106ブール『随分(ずゐぶん)針小(しんせう)棒大(ぼうだい)(てき)報告(はうこく)ではないか? (わづか)三千(さんぜん)(にん)(てき)血潮(ちしほ)()つて、107日暮(ひぐら)(がは)血潮(ちしほ)濁流(だくりう)氾濫(はんらん)し、108三千(さんぜん)(かばね)(ひと)つも(のこ)らず流失(りうしつ)したとは、109合点(がてん)()かぬ(なんぢ)報告(はうこく)110人間(にんげん)血液(けつえき)肉体(にくたい)幾百倍(いくひやくばい)もなくては、111左様(さやう)(こと)出来(でき)ない(はず)だ。112コリヤ(なに)かの間違(まちが)ひだらう』
113アナン『ハイ、114マチ……ガイではなくて、115マチとキジと……エー、116(なん)だか、117ウン、118一寸(ちよつと)マチマチになつて、119(あま)りの(うれ)しさで、120大勝利(だいしようり)で、121申上(まをしあ)げる(こと)(あと)(さき)122支離(しり)滅裂(めつれつ)のやうで御座(ござ)いますが、123(じつ)(ところ)(あま)りの大勝利(だいしようり)124意外(いぐわい)好結果(かうけつくわ)で、125()()ひ、126(あし)()(ところ)()らず、127(うれ)逆上(のぼ)せに、128逆上(のぼ)せの(まく)()りた(ところ)です。129(いま)ヤツと戦況(せんきやう)報告(はうこく)(かへ)つたまでの(ところ)130(なに)(なん)だか(あたま)のまとまりがついてゐませぬ。131(しばら)沈思(ちんし)黙考(もくかう)時間(じかん)をお(あた)(くだ)さいませ。132(その)(かは)数百(すうひやく)部下(ぶか)133一人(ひとり)負傷(ふしやう)もなく、134凱歌(がいか)をあげて、135只今(ただいま)広殿(ひろどの)休息(きうそく)(いた)()りまする。136何卒(なにとぞ)()褒美(ほうび)凱旋(がいせん)(いはひ)(ため)に、137(さけ)をドツサリ()ましてやつて(くだ)さいませ。138(ひと)(しやう)たる(もの)部下(ぶか)(あい)さなくてはなりませぬ。139吾々(われわれ)部下(ぶか)あつての大将(たいしやう)御座(ござ)います。140あなたも吾々(われわれ)あつての教主(けうしゆ)御座(ござ)いますから、141少々(せうせう)瑕瑾(かきん)があつても、142見直(みなほ)聞直(ききなほ)し、143慈愛(じあい)(もつ)(のぞ)まるるのが、144仁慈(じんじ)無限(むげん)教主(けうしゆ)()天職(てんしよく)御座(ござ)います。145三五教(あななひけう)何事(なにごと)直日(なほひ)見直(みなほ)聞直(ききなほ)し、146()(あやま)ちは()(なほ)すと()(こと)は、147ウラル(けう)()つても結構(けつこう)なことだと(おも)ひます。148吾々(われわれ)()つても(はなは)()都合(つがふ)のよき教理(けうり)かと(ぞん)じます』
149ブール『(なに)()もあれ、150非常(ひじやう)激戦(げきせん)だつたと()える。151三千(さんぜん)有余(いうよ)(てき)皆殺(みなごろ)しにし(なが)ら、152味方(みかた)(いち)(にん)負傷者(ふしやうしや)()さなかつた(その)(はう)手柄(てがら)153さぞ()をつかつたであらう。154逆上(ぎやくじやう)するのも無理(むり)もない。155サアサア(くら)開放(かいはう)し、156葡萄酒(ぶだうしゆ)()し、157一同(いちどう)()(まで)()ましてやつてくれ。158(われ)()れより大神(おほかみ)御前(みまへ)凱旋(がいせん)()(れい)申上(まをしあ)ぐる(ため)159参拝(さんぱい)(いた)して()るから、160ゆるゆると(さけ)でも()んで、161一同(いちどう)休養(きうやう)(あた)へるが()からう』
162()()て、163(また)もや神殿(しんでん)にいそいそとして(すす)()く。
164 (あと)見送(みおく)つて二人(ふたり)(たがひ)(かほ)見合(みあは)(むね)なでおろし、165(した)()(なが)小声(こごゑ)になり、
166アナン『アヽ(やうや)うにして虎口(ここう)(のが)れた。167サア(これ)から(みな)(やつ)口止(くちど)(れう)として、168葡萄酒(ぶだうしゆ)をドツサリ()れまつてやらう。169(これ)もヤツパリ(おれ)知識(ちしき)(いた)(ところ)だ。170ブールの教主(けうしゆ)(この)(ごろ)はチツと度呆(とぼ)けてゐると()える。171何分(なにぶん)御倉山(みくらやま)谷間(たにあひ)(きも)をつぶし、172(あら)しの(もり)二度(にど)ビツクリを(いた)し、173ビツクリ(むし)増長(ぞうちやう)して痺癇(ひかん)「痺癇」は御校正本のママ。一般的には「脾疳」と書く。(わづら)ひかけてゐる(やう)矢先(やさき)だから、174木に(たけ)をついだやうな支離(しり)滅裂(めつれつ)吾々(われわれ)陳弁(ちんべん)でも、175()つたと()一声(ひとこゑ)(うれ)しかつたと()え、176うまうまと(だま)されよつただないか。177サア(これ)から(さけ)(さけ)だ』
178()(なが)ら、179アナンは(さき)()ち、180一同(いちどう)(あつ)まる大部屋(おほべや)(すす)()き、181(やや)(たか)(ところ)停立(ていりつ)して、
182アナン『部下(ぶか)一同(いちどう)今日(けふ)凱旋(がいせん)(いはひ)として、183葡萄酒(ぶだうしゆ)()(まで)()(こと)を、184ブールの大将(たいしやう)より(ゆる)されたに()つて、185一同(いちどう)(よろこ)んだがよからう。186(いま)ユーズの副将(ふくしやう)酒倉(さかぐら)(かぎ)()つて()かれたから、187(みな)者共(ものども)(くら)(まへ)()つて、188葡萄酒(ぶだうしゆ)此処(ここ)(はこ)(きた)り、189腹一杯(はらいつぱい)()んだがよからう。190(また)下戸(げこ)連中(れんぢう)はアルコールの()ぜらない葡萄水(ぶだうすゐ)があるから、191それを()んだがよからう。192(かく)(ごと)取計(とりはか)らつたのも部下(ぶか)(あい)するアナンの真心(まごころ)より()でたるものなれば、193万々一(まんまんいち)教主(けうしゆ)がここに(あら)はれ、194其方(そのはう)(たち)(なに)をお(たづ)(あそ)ばしても、195一言(ひとこと)申上(まをしあ)げてはなりませぬぞ。196一切(いつさい)万事(ばんじ)197アナン、198ユーズの大将(たいしやう)(さま)()()(くだ)されと、199其処(そこ)(うま)ごみをにごすのだ。200(えう)するに部下(ぶか)一同(いちどう)捨身(しやしん)(てき)大活動(だいくわつどう)()つて、201ヒルの(みやこ)楓別(かへでわけ)仮設敵(かせつてき)丸木橋(まるきばし)(ほとり)(わが)部隊(ぶたい)衝突(しようとつ)し、202一人(ひとり)(のこ)さず()(ころ)し、203突殺(つきころ)し、204(かは)投込(なげこ)み、205(かばね)太平洋(たいへいやう)(なが)()きしと、206事実(じじつ)(つぶ)さに報告(はうこく)しあれば、207一同(いちどう)(その)(かんが)へで()らなくてはなりませぬぞ。208サア(はや)(くら)()つて、209(さけ)をお(はこ)びなさい。210(この)葡萄酒(ぶだうしゆ)所謂(いはゆる)一同(いちどう)(もの)(くち)(ぢやう)(おろ)妙薬(めうやく)だから、211無茶(むちや)苦茶(くちや)(くち)のあかぬ(やう)にして(くだ)さい』
212篏口令(かんこうれい)()いてゐる。213(しばら)くあつて、214(やま)(ごと)葡萄酒(ぶだうしゆ)(びん)(はこ)ばれた。215アナン、216ユーズの二人(ふたり)教主(けうしゆ)(この)()(あら)はれ(きた)るを()ひとめむ(ため)217神殿(しんでん)(まう)祈願(きぐわん)(をは)ると(とも)に、218(ことば)(たくみ)教主室(けうしゆしつ)這入(はい)らせ、219いろいろと出鱈目(でたらめ)(ばなし)教主(けうしゆ)機嫌(きげん)をとつて()る。220(さけ)追々(おひおひ)(よひ)がまはつて、221彼方(あちら)にも、222此方(こちら)にも、223あたり(かま)はず、224昨夜(さくや)失敗談(しつぱいだん)(かた)(つづ)けられた。225(かふ)(した)をもつらせ(なが)ら、
226甲『オイ、227(みな)(やつ)228昨夜(ゆうべ)はどうだつた。229随分(ずゐぶん)惨々(さんざん)()()うたぢやないか。230たつた一人(ひとり)二人(ふたり)(てき)(むか)つて、231大勢(おほぜい)(もの)取囲(とりかこ)み、232()つては()げられ、233()つては()げられ、234(かは)(なか)散々(さんざん)()()はされ、235膝頭(ひざがしら)をすり()いたり、236(こし)蝶番(てふつがひ)(ゆが)めたり、237随分(ずゐぶん)(くる)しかつたなア。238(しか)今日(けふ)(なん)()吉日(きちにち)だらう。239(たたかひ)()けて(かへ)つたら(くび)でも()られやせむかと心配(しんぱい)して()つた。240それに劫腹(がふはら)な、241芳醇(はうじゆん)(さけ)()(まで)(くら)へなんて(ぬか)しやがつて、242サツパリ見当(けんたう)()れぬ(やう)になつたぢやないか。243こんな(こと)なら常時(じやうじ)(たたかひ)(したが)つて(まけ)()るのだなア』
244乙『きまつた(こと)だよ。245(まけ)(かつ)とると()(こと)があるぢやないか、246(まけ)たお(かげ)で、247こんな(うま)葡萄酒(ぶだうしゆ)鱈腹(たらふく)(いただ)けるのだ。248(うるし)(まけ)たり、249角力(すまう)(まけ)たつて、250こんなボロいこたありやせぬぞ。251何事(なにごと)(かみ)(さま)のマケのまにまに活動(くわつどう)するのだなア、252アツハヽヽヽ』
253丙『オイ、254(かふ)(おつ)両人(りやうにん)255そんな(こと)(さへづ)るものだない。256昨夜(ゆうべ)敗戦(はいせん)をかくす(つも)りで、257アナン、258ユーズの大将(たいしやう)が、259(まへ)たちや(おれ)たちに、260アナンのかからないように、261ユーズを()かして、262(うま)教主(けうしゆ)をゴマかし、263葡萄酒(ぶだうしゆ)をブールつて()たのだから、264チツとは大将(たいしやう)()(こころ)(さつ)して(しづか)にせぬかい』
265乙『ブールつて()たか、266ボロつて()たか()らぬが、267モウちつと(うま)くゴンベリさうなものだなア』
268丙『二人(ふたり)大将(たいしやう)(ちから)一杯(いつぱい)ベストを(つく)して、269ビヤクレる(だけ)ビヤクつて()たのだから、270そんなに不足(ふそく)()ふと(ばち)(あた)るよ』
271甲『(やかま)しう()ふない。272(これ)からブールさまの(ところ)()つて、273(ひと)(おも)()り、274()(いは)ひに(をど)つて()うぢやないか。275(さけ)()んだら()ふのは(あた)(まへ)だ、276()うたら(をど)るのは当然(あたりまへ)だ。277泣酒(なきざけ)もあれば(わら)(ざけ)もあり、278(いか)(ざけ)もある。279()きたい(やつ)()け、280(おこ)(やつ)(おこ)れ、281(わら)(やつ)精一杯(せいいつぱい)(わら)つて(たのし)むんだなア』
282丁『(わら)ふと()つたら、283(おれ)(じつ)(わら)ひたうて、284仕方(しかた)がないんだ。285十分(じふぶん)(わら)はして()れないか』
286甲『(わら)(わら)へ、287ドツと(みな)(わか)(やう)に、288あの高座(かうざ)直立(ちよくりつ)して、289ニコニコ雑誌(ざつし)相場(さうば)(くる)(ほど)(わら)つて()よ。290(わら)(かど)には(ふく)(きた)りだ、291サア(わら)つたり(わら)つたり』
292 (てい)(たちま)高座(かうざ)(のぼ)り、293葡萄酒(ぶだうしゆ)(びん)片手(かたて)(ひつさ)げ、294ラツパ()みをし(なが)ら、
295『アハヽヽヽ、296阿呆(あはう)らしい。297(たたか)ひに(まけ)て、298河底(かはそこ)()りこまれ、299向脛(むかうづね)()つて、300(いた)かつたが、301チツとは可笑(をか)しうて、302(わら)ひが()まらなんだ。
303イヒヽヽヽ、304(いたち)最後屁(さいごぺ)()りかけられたよな、305(くさ)(くさ)()(わけ)をして、306()()のよなブール教主(けうしゆ)(うま)屁煙(へけむり)にまき、307()(おと)(やう)なブードー(しゆ)をおごらして、308敗軍(はいぐん)将卒(しやうそつ)得意(とくい)になつて、309(さけ)()らふ(その)スタイルの可笑(をか)しさ。
310ウフヽヽヽ、311()つて、312(かは)つたアナン、313ユーズのあの態度(たいど)314教主(けうしゆ)(きみ)丸木橋(まるきばし)(たたか)ひに(こし)()かし、315(きも)(つぶ)し、316ウフヽヽヽうろたへ(さわ)いで()(かへ)つた二人(ふたり)のマイストロ(大将(たいしやう))がウマウマとうまい(さけ)をボン(くら)からひつぱり()し、317(おれ)(たち)をヘーベレケに()はしやがつて、318口止(くちど)めせうとしてゐる(その)可笑(をか)しさ。319いつも自分(じぶん)(ばか)(さけ)(くら)つて、320()()になつてる大将株(たいしやうかぶ)今度(こんど)余程(よほど)マゴつきやがつて、321キツウ閉口(へいこう)しよつたと()態度(たいど)(かは)つたぢやないか。
322エヘヽヽヽ、323エー怪体(けたい)(わる)い。324こんな(わる)(わる)葡萄酒(ぶだうしゆ)のうまい(やつ)を、325無茶(むちや)苦茶(くちや)()ましやがつて、326(おれ)(たち)(さけ)()はして(ころ)さうとは(あま)(むし)がよすぎるワイ。327(どぢやう)なら(さけ)(ころ)せるか()らぬが人間(にんげん)さまはさうはいかぬからなア。
328オホヽヽヽ、329()(しろ)()(しろ)(あたま)(しろ)い、330()白狸(しろたぬき)腹鼓(はらつづみ)331(はら)がはぢけるとこ(まで)332()んで(はら)()つて、333(しり)からブールブールとお(なら)(だん)じ、334丹精(たんせい)こらして、335(をど)ろぢやないか。
336ハヽヽヽヽ、337(はら)()つて、338(へそ)がよれて、339(かな)しくなつて()るワイ。340(さけ)()(やつ)ア、341(めう)(やつ)だなア。342オイ(みな)(やつ)343チツと(わら)はぬかい、344(さけ)(しづ)んで(しま)ふぞ。
345ヒヽヽヽヽ、346日暮(ひぐら)(がは)でひどい()()うた昨夜(さくや)(こと)(おも)()すと、347(はら)()つワイ、348(よる)夜中(よなか)にひつぱり()され、349石礫(いしころ)一杯(いつぱい)つまつた川中(かはなか)(かへる)をぶつけたよに()げられた(とき)(こと)(おも)へば、350(かな)しうなつて()た。351さうかと(おも)へば、352こんな(うま)(さけ)をドツサリ()ましやがつて、353何程(なにほど)(いか)らうと(おも)つても、354面白(おもしろ)可笑(をか)しく(うれ)しくなつて、355これが(わら)はずに()れるかい。
356フヽヽヽヽ、357()つて()いたる(まう)(もの)だ。358フルナの(べん)(ふる)つて、359(ふか)(たく)んだアナンとユーズの今日(けふ)(はたら)き、360(なん)()つても、361(おれ)たちは(さけ)さへ()めば、362至極(しごく)()機嫌(きげん)だ。
363ヘヽヽヽヽ、364()(みづ)(なか)()つたやうな、365便(たよ)りない、366気転(きてん)()かぬ弱虫(よわむし)(ばか)りが、367五百(ごひやく)羅漢(らかん)(やう)(みにく)いレツテルを陳列(ちんれつ)しやがつて、368(さけ)(くら)(とき)の、369(その)ザマつたら、370(なん)(こと)だい。371百鬼(ひやくき)昼行(ちうかう)()はうか、372千鬼(せんき)夜行(やかう)()はうか、373(まる)餓鬼(がき)(みづ)(あた)へたよな、374(なさけ)ないザマ、375何奴(どいつ)此奴(こいつ)口賤(くちいや)しい(やつ)(ばか)りが、376()くもマアこれ(だけ)(そろ)うたものだなア。377こんな代物(しろもの)()つてゐる、378()こきのブールさまも閉口(へいこう)だらう。
379ホヽヽヽヽ、380本当(ほんたう)(まこと)に、381失敗(しつぱい)してこんな(うま)(さけ)(いただ)くのなら、382毎晩(まいばん)でも(たたか)ひに()て、383(まけ)てみたいなア。384なんと()うても、385一人(ひとり)二人(ふたり)(てき)大勢(おほぜい)(あた)るのだから()()づかひはないワ。386もしも()つて()よ、387(さけ)(どころ)(さわ)ぎぢやない。388アナン、389ユーズの大将(たいしやう)(ばか)りが(さけ)(くら)つて(おれ)(たち)(みづ)()んで辛抱(しんばう)さされるのが()(くらゐ)なものだよ。
390ワハヽヽヽ、391(わる)いことがあればキツとあとに()(こと)がある。392それだから、393(さけ)()ひ、394(けぶり)()ひ、395信仰(しんかう)()つぱらつて()るのだ。396()うて()うて()ひちらし、397(ちから)一杯(いつぱい)ヨタリスクを(なら)()てて、398今日(けふ)凱旋(がいせん)(いは)ひを完全(くわんぜん)(つと)()げるのだよ。399(この)葡萄酒(ぶだうしゆ)本当(ほんたう)()(こと)だらけだ。400()うて()うて(あま)うてようて、401(はら)にたまつてようて、402(ちから)がついてようて、403気分(きぶん)(まで)がよいと()ふのだから、404()ひがまはるのも当然(たうぜん)だ、405ウフヽヽヽ、406エヘヽヽヽ、407オホヽヽヽ、408(をは)りだ。409(たれ)(おこ)上戸(じやうご)(やつ)か、410(なき)上戸(じやうご)(やつ)(かは)つて()れ。411(おれ)りやモウこれで幕切(まくぎ)れだ』
412()(なが)ら、413行歩(かうほ)蹣跚(まんさん)として高座(かうざ)覚束(おぼつか)なげに(くだ)(しき)りに(しやべ)りちらして()る。414此処(ここ)へアナン一人(ひとり)やつて()て、
415アナン『ヤアお(まへ)(たち)416()苦労(くらう)だつた。417随分(ずゐぶん)(ほね)()れただらうなア』
418戍『ズイ(ぶん)(うま)(さけ)で、419()むのに(ほね)()れましたよ。420流石(さすが)アナンさまは(ひと)水上(みなかみ)()(だけ)あつて(えら)いわい。421ブールの大将(たいしやう)(うま)いことだまし、422敗軍(まけいくさ)(かつ)たよな(かほ)して、423葡萄(ぶだう)(くら)まで()かしたお手際(てぎは)は、424吾々(われわれ)大将(たいしやう)として(じつ)適当(てきたう)だ。425なア甲州(かふしう)426せめてこんなことが十日(とをか)(つづ)くと()いのだけどなア』
427アナン『オイオイ(しづ)かにせぬかい。428教主(けうしゆ)のお(みみ)這入(はい)つたら大変(たいへん)だぞ。429(おほ)きな(かほ)して(さけ)()(わけ)にも()くまい』
430戍『モウ何時(なんどき)大将(たいしやう)教主(けうしゆ)がやつて()()むなと()つたつて、431(かま)ふものか。432()(だけ)()んで(しま)つたのだから、433(この)(うへ)()んでくれたつて、434こんな(くさ)つたよな(さけ)(たれ)()むものかい。435(はじ)めの二三本(にさんぼん)(うま)かつたが、436(あと)になる(ほど)437(さけ)(わる)うなつて、438泥水(どろうみ)()んでるようだなア、439(みな)(やつ)
440 ()ひみての(のち)(こころ)(くら)ぶれば 是程(これほど)(あぢ)ない(さけ)とは(おも)はざりけり
441 だ、442アハヽヽヽ』
443 (この)(とき)教主(けうしゆ)()出場(しゆつぢやう)』と()()らせに一同(いちどう)(にはか)(はだ)()れる、444(すわ)(なほ)す、445(えり)をかき()はす、446大騒(おほさわ)ぎをやり()した。
447 悠然(いうぜん)として(あら)はれたるブールは一同(いちどう)(むか)ひ、
448ブール『(いま)岩窟(がんくつ)門前(もんぜん)三五教(あななひけう)強者(つはもの)二人(ふたり)449(おそ)(きた)りし様子(やうす)450一同(いちどう)(もの)451注意(ちうい)(いた)されよ』
452 一同(いちどう)は『ハイ』と()つた()り、453(たちま)(さけ)(ゑい)()め、454(かほ)真青(まつさを)にして(ふる)うてゐる。455教主(けうしゆ)(めい)()り、456一同(いちどう)はバラバラと入口(いりぐち)(はう)駆出(かけだ)した。
457大正一一・八・一六 旧六・二四 松村真澄録)
458(昭和一〇・六・九 王仁校正)
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