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霊界物語
海洋万里(第25~36巻)
第30巻(巳の巻)
序
凡例
総説
第1篇 高砂の松
第1章 主従二人
第2章 乾の滝
第3章 清めの滝
第4章 懐旧の歌
第2篇 珍野瞰下
第5章 下坂の歌
第6章 樹下の一宿
第7章 提燈の光
第8章 露の道
第3篇 神縁微妙
第9章 醜の言霊
第10章 妖雲晴
第11章 言霊の妙
第12章 マラソン競争
第13章 都入
第4篇 修理固成
第14章 霊とパン
第15章 花に嵐
第16章 荒しの森
第17章 出陣
第18章 日暮シの河
第19章 蜘蛛の児
第20章 雉と町
第5篇 山河動乱
第21章 神王の祠
第22章 大蜈蚣
第23章 ブール酒
第24章 陥穽
附記 湯ケ島温泉
附記 天津祝詞解
附記 デモ国民歌
余白歌
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霊界物語
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第30巻(巳の巻)
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<<< 大蜈蚣
(B)
(N)
陥穽 >>>
第二三章 ブール
酒
(
しゆ
)
〔八六五〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第30巻 海洋万里 巳の巻
篇:
第5篇 山河動乱
よみ(新仮名遣い):
さんかどうらん
章:
第23章 ブール酒
よみ(新仮名遣い):
ぶーるしゅ
通し章番号:
865
口述日:
1922(大正11)年08月16日(旧06月24日)
口述場所:
筆録者:
松村真澄
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1923(大正12)年9月15日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
日暮シ山の霊場で、教主ブールは昨夜出陣した部下たちの勝利を祈願し終わり、居間に帰ってみれば、なぜか出陣したはずのアナンとユーズが悄然として控えている。
その様子を見て不安を感じたブールが二人を詰問すると、アナンとユーズは俄かに空元気を出し、口に任せてブールを煙に巻いて、ウラル教が勝利したとも受け取れる説明をなした。
ブールは機嫌を直し、出陣した隊士たちにもぶどう酒を振舞うようにと言い渡して、神殿に勝利の感謝祈願をすると言って奥に姿を隠した。
アナンとユーズは部下たちにぶどう酒を振舞ってかん口令を敷き、自分たちは神殿に行ってブールが宴会の場に来ないように出鱈目な話をして教主室に引き止めに行った。
宴席では、ウラル教徒たちが昨夜の大敗戦を肴に愚痴を言い合っている。そこへアナンがやってきて、一同にねぎらいの言葉をかけるが、酔ったウラル教徒たちは敗戦を匂わせることを言い出し、アナンに制止される。
そこへブールが突然やってきた。一同は慌てて居住まいをただす。ブールは、岩窟の前に三五教の強者が二人来たようなので、気をつけるようにと言い渡した。一同には緊張が走った。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2022-02-21 17:42:25
OBC :
rm3023
愛善世界社版:
259頁
八幡書店版:
第5輯 663頁
修補版:
校定版:
276頁
普及版:
104頁
初版:
ページ備考:
001
日暮
(
ひぐら
)
シ
山
(
やま
)
の
霊場
(
れいぢやう
)
、
002
岩窟館
(
がんくつやかた
)
の
教主
(
けうしゆ
)
ブールの
奥
(
おく
)
の
間
(
ま
)
には、
003
アナン、
004
ユーズの
二人
(
ふたり
)
、
005
悄然
(
せうぜん
)
として
控
(
ひか
)
え、
006
ブールが
岩窟内
(
がんくつない
)
の
神前
(
しんぜん
)
に
額
(
ぬか
)
づき、
007
ヒルの
都
(
みやこ
)
に
向
(
むか
)
つて
派遣
(
はけん
)
したる
部下
(
ぶか
)
一同
(
いちどう
)
の
大勝利
(
だいしようり
)
を
得
(
え
)
、
008
一
(
いち
)
日
(
にち
)
も
早
(
はや
)
く
凱歌
(
がいか
)
を
奏
(
そう
)
して
帰
(
かへ
)
ります
様
(
やう
)
と
祈願
(
きぐわん
)
をこめ
終
(
をは
)
りて、
009
しづしづと
吾
(
わが
)
居間
(
ゐま
)
に
帰
(
かへ
)
つて
見
(
み
)
れば、
010
豈計
(
あにはか
)
らむや、
011
昨夜
(
さくや
)
堂々
(
だうだう
)
として
出陣
(
しゆつぢん
)
したる
二人
(
ふたり
)
の
勇将
(
ゆうしやう
)
は、
012
悄然
(
せうぜん
)
として
吾
(
わが
)
居間
(
ゐま
)
に
待
(
ま
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
013
どこともなく
元気
(
げんき
)
の
無
(
な
)
ささうな
影
(
かげ
)
うすき
二人
(
ふたり
)
の
姿
(
すがた
)
を
見
(
み
)
て、
014
不安
(
ふあん
)
の
念
(
ねん
)
に
駆
(
か
)
られ
乍
(
なが
)
ら、
015
ブール『ヤアお
前
(
まへ
)
はアナンにユーズの
両人
(
りやうにん
)
、
016
えらう
顔色
(
かほいろ
)
が
冴
(
さ
)
えて
居
(
ゐ
)
ないぢやないか。
017
何
(
なに
)
か
途中
(
とちう
)
に
失敗
(
しつぱい
)
を
演
(
えん
)
じ、
018
女々
(
めめ
)
しくも、
019
おめおめと
帰
(
かへ
)
つて
来
(
き
)
たのだらう』
020
此
(
この
)
声
(
こゑ
)
に
二人
(
ふたり
)
は
教主
(
けうしゆ
)
の
前
(
まへ
)
に
現
(
あら
)
はれたるを
悟
(
さと
)
り、
021
俄
(
にはか
)
に
空元気
(
からげんき
)
をつけ、
022
アナン『これはこれは
教主
(
けうしゆ
)
様
(
さま
)
で
御座
(
ござ
)
いましたか、
023
エー
実
(
じつ
)
は、
024
その
中々
(
なかなか
)
以
(
もつ
)
て、
025
何
(
なん
)
で
御座
(
ござ
)
いましたよ。
026
非常
(
ひじやう
)
な
何々
(
なになに
)
で、
027
実
(
じつ
)
に
不愉快
(
ふゆくわい
)
……オツトドツコイ
壮快
(
さうくわい
)
な
事
(
こと
)
で
御座
(
ござ
)
いました。
028
なア、
029
ユーズ、
030
お
前
(
まへ
)
もチツとユーズを
利
(
き
)
かして、
031
戦況
(
せんきやう
)
を、
032
そこはそれ、
033
うまく、
034
遺漏
(
ゐろう
)
なき
様
(
やう
)
に
御
(
ご
)
報告
(
はうこく
)
を
申
(
まを
)
すのだよ』
035
ユーズ『
申
(
まを
)
し
上
(
あ
)
げます。
036
此処
(
ここ
)
に
伊弉冊
(
いざなみの
)
大神
(
おほかみ
)
は、
037
御子
(
みこ
)
迦具槌
(
かぐつちの
)
神
(
かみ
)
を
生
(
う
)
み
玉
(
たま
)
ひて、
038
みまかりましき。
039
伊弉諾
(
いざなぎの
)
大神
(
おほかみ
)
いたく
怒
(
いか
)
り
玉
(
たま
)
ひて、
040
御子
(
みこ
)
迦具槌
(
かぐつちの
)
神
(
かみ
)
の
御首
(
みくび
)
を
切
(
き
)
り
玉
(
たま
)
へば、
041
ユーズ(
湯津
(
ゆつ
)
)
石村
(
いはむら
)
たばしりつきてなりませる
神
(
かみ
)
の
名
(
な
)
は、
042
サツパリコンと
岩拆
(
いはさく
)
の
神
(
かみ
)
、
043
根拆
(
ねさく
)
の
神
(
かみ
)
』
044
ブール『コリヤコリヤ
何
(
なに
)
を
言
(
い
)
つてゐるのだ。
045
戦況
(
せんきやう
)
は
何
(
ど
)
うだと
問
(
と
)
うてゐるのだ。
046
詳
(
つぶ
)
さに
報告
(
はうこく
)
せないか』
047
ユーズ『ハイ
報告
(
はうこく
)
も
報告
(
はうこく
)
、
048
赤心
(
せきしん
)
報国
(
はうこく
)
、
049
あなたの
為
(
ため
)
に
所在
(
あらゆる
)
ベストを
尽
(
つく
)
し、
050
数多
(
あまた
)
の
部下
(
ぶか
)
を
黒死病
(
こくしびやう
)
否
(
いや
)
酷使
(
こくし
)
し
乍
(
なが
)
ら、
051
選挙
(
せんきよ
)
運動
(
うんどう
)
を
開始
(
かいし
)
致
(
いた
)
しました
所
(
ところ
)
、
052
残念
(
ざんねん
)
乍
(
なが
)
ら
一騎
(
いつき
)
当選
(
たうせん
)
はまだ
愚
(
おろ
)
か、
053
次点者
(
じてんしや
)
となりました。
054
イヤもう
戦
(
たたか
)
ひは
時
(
とき
)
の
運
(
うん
)
とか
申
(
まを
)
しまして、
055
ウンと
敵
(
てき
)
を
屁古
(
へこ
)
ませ、
056
ヒルの
都
(
みやこ
)
に
攻
(
せ
)
め
寄
(
よ
)
するに
先立
(
さきだ
)
ち、
057
脆
(
もろ
)
くも
敗走
(
はいそう
)
致
(
いた
)
しまして
御座
(
ござ
)
います』
058
ブール『どちらが
敗走
(
はいそう
)
したのだ』
059
ユーズ『ハイさうですなア。
060
すべて
戦
(
たたか
)
ひはどちらか
一方
(
いつぱう
)
が
負
(
まけ
)
なくては、
061
平和
(
へいわ
)
克復
(
こくふく
)
は
到底
(
たうてい
)
出来
(
でき
)
ませぬ。
062
甚
(
はなは
)
だ
以
(
もつ
)
て
不名誉
(
ふめいよ
)
千万
(
せんばん
)
な
悲惨
(
ひさん
)
な
目
(
め
)
に
会
(
あ
)
ひましたよ』
063
ブール『
貴様
(
きさま
)
の
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
はチツとも
分
(
わか
)
らない。
064
……オイ、
065
アナンの
大将
(
たいしやう
)
、
066
ユーズはどうかして
居
(
ゐ
)
る
様
(
やう
)
だ。
067
其
(
その
)
方
(
はう
)
詳
(
くは
)
しく、
068
一伍
(
いちぶ
)
一什
(
しじふ
)
を
報告
(
はうこく
)
せよ』
069
アナン『
御
(
お
)
尋
(
たづ
)
ね
迄
(
まで
)
もなく、
070
吾々
(
われわれ
)
勇士
(
ゆうし
)
を
引率
(
いんそつ
)
し、
071
轡
(
くつわ
)
を
並
(
なら
)
べて
堂々
(
だうだう
)
と、
072
日暮
(
ひぐら
)
シ
河
(
がは
)
の
両岸
(
りやうがん
)
を、
073
長蛇
(
ちやうだ
)
の
陣
(
ぢん
)
を
張
(
は
)
り
乍
(
なが
)
ら、
074
旗鼓
(
きこ
)
堂々
(
だうだう
)
と
攻
(
せ
)
め
下
(
くだ
)
る。
075
時
(
とき
)
しもあれや、
076
幾十百
(
いくじふひやく
)
とも
知
(
し
)
れぬ
十曜
(
とえう
)
の
神紋
(
しんもん
)
馬印
(
うまじるし
)
、
077
高張
(
たかはり
)
提灯
(
ちやうちん
)
、
078
数限
(
かずかぎ
)
りもなく、
079
堂々
(
だうだう
)
として
丸木橋
(
まるきばし
)
を
越
(
こ
)
え、
080
此方
(
こなた
)
に
向
(
むか
)
つて
攻来
(
せめきた
)
るヒルの
都
(
みやこ
)
の
楓別
(
かへでわけの
)
命
(
みこと
)
が
部下
(
ぶか
)
の
者共
(
ものども
)
、
081
総勢
(
そうぜい
)
殆
(
ほとん
)
ど
三千
(
さんぜん
)
有余
(
いうよ
)
人
(
にん
)
、
082
日暮
(
ひぐら
)
シ
河
(
がは
)
の
両岸
(
りやうがん
)
に
人垣
(
ひとがき
)
を
作
(
つく
)
り
乍
(
なが
)
ら
攻上
(
せめのぼ
)
り
来
(
きた
)
る
其
(
その
)
物々
(
ものもの
)
しさ。
083
寡
(
くわ
)
を
以
(
もつ
)
て
衆
(
しう
)
に
敵
(
てき
)
するは
英雄
(
えいゆう
)
豪傑
(
がうけつ
)
にあらざれば
能
(
あた
)
はざる
所
(
ところ
)
、
084
吾々
(
われわれ
)
両人
(
りやうにん
)
は
僅
(
わづか
)
数百
(
すうひやく
)
の
手兵
(
しゆへい
)
を
以
(
もつ
)
て
之
(
これ
)
に
当
(
あた
)
り、
085
先
(
ま
)
づ
第一
(
だいいち
)
に
我
(
わが
)
部下
(
ぶか
)
の
竹槍隊
(
たけやりたい
)
を
両分
(
りやうぶん
)
し、
086
敵
(
てき
)
の
不意
(
ふい
)
を
狙
(
ねら
)
つて
側面
(
そくめん
)
より、
087
槍
(
やり
)
の
穂先
(
ほさき
)
を
揃
(
そろ
)
へ、
088
鬨
(
とき
)
を
作
(
つく
)
つて
突貫
(
とつくわん
)
すれば、
089
敵
(
てき
)
は
敗亡
(
はいぼう
)
うろたへ
騒
(
さわ
)
ぐを、
090
尚
(
なほ
)
もおつつめ、
091
一人
(
ひとり
)
も
残
(
のこ
)
らず
日暮
(
ひぐら
)
シ
河
(
がは
)
の
急流
(
きふりう
)
につきおとしたり。
092
不意
(
ふい
)
を
喰
(
くら
)
つた
数多
(
あまた
)
の
敵
(
てき
)
は
忽
(
たちま
)
ち
北岸
(
ほくがん
)
に
駆上
(
かけあが
)
り、
093
遁走
(
とんさう
)
せむと
先
(
さき
)
を
争
(
あらそ
)
ひ、
094
川土手
(
かはどて
)
に
上
(
のぼ
)
り
行
(
ゆ
)
くを
待構
(
まちかま
)
へたるユーズの
抜刀隊
(
ばつたうたい
)
は、
095
好敵
(
かうてき
)
御参
(
ござん
)
なれと
采配
(
さいはい
)
打振
(
うちふ
)
り、
096
僅
(
わづ
)
か
部下
(
ぶか
)
三百
(
さんびやく
)
の
味方
(
みかた
)
に
向
(
むか
)
つて
下知
(
げち
)
すれば、
097
味方
(
みかた
)
の
勇士
(
ゆうし
)
は、
098
剣
(
つるぎ
)
の
切先
(
きつさき
)
を
揃
(
そろ
)
へ、
099
片
(
かた
)
つ
端
(
ぱし
)
から
切
(
き
)
りたて
薙立
(
なぎた
)
て、
100
忽
(
たちま
)
ち
血河
(
けつか
)
屍山
(
しざん
)
の
大勝利
(
だいしようり
)
、
101
日暮
(
ひぐら
)
シ
河
(
がは
)
は
忽
(
たちま
)
ち
血潮
(
ちしほ
)
の
洪水
(
こうずゐ
)
氾濫
(
はんらん
)
し、
102
数多
(
あまた
)
の
敵
(
てき
)
の
屍
(
かばね
)
は
一人
(
ひとり
)
も
残
(
のこ
)
さず
血流
(
けつりう
)
に
漂
(
ただよ
)
ひ、
103
太平洋
(
たいへいやう
)
を
指
(
さ
)
して
流
(
なが
)
れ
行
(
ゆ
)
く、
104
其
(
その
)
壮烈
(
さうれつ
)
さ。
105
語
(
かた
)
るも
中々
(
なかなか
)
愚
(
おろ
)
かなりける
次第
(
しだい
)
で
厶
(
ござ
)
る』
106
ブール『
随分
(
ずゐぶん
)
針小
(
しんせう
)
棒大
(
ぼうだい
)
的
(
てき
)
の
報告
(
はうこく
)
ではないか?
僅
(
わづか
)
三千
(
さんぜん
)
人
(
にん
)
の
敵
(
てき
)
の
血潮
(
ちしほ
)
に
依
(
よ
)
つて、
107
日暮
(
ひぐら
)
シ
河
(
がは
)
は
血潮
(
ちしほ
)
の
濁流
(
だくりう
)
氾濫
(
はんらん
)
し、
108
三千
(
さんぜん
)
の
屍
(
かばね
)
が
一
(
ひと
)
つも
残
(
のこ
)
らず
流失
(
りうしつ
)
したとは、
109
合点
(
がてん
)
の
行
(
い
)
かぬ
汝
(
なんぢ
)
の
報告
(
はうこく
)
、
110
人間
(
にんげん
)
の
血液
(
けつえき
)
は
肉体
(
にくたい
)
の
幾百倍
(
いくひやくばい
)
もなくては、
111
左様
(
さやう
)
な
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
ない
筈
(
はず
)
だ。
112
コリヤ
何
(
なに
)
かの
間違
(
まちが
)
ひだらう』
113
アナン『ハイ、
114
マチ……ガイではなくて、
115
マチとキジと……エー、
116
何
(
なん
)
だか、
117
ウン、
118
一寸
(
ちよつと
)
マチマチになつて、
119
余
(
あま
)
りの
嬉
(
うれ
)
しさで、
120
大勝利
(
だいしようり
)
で、
121
申上
(
まをしあ
)
げる
事
(
こと
)
も
後
(
あと
)
や
先
(
さき
)
、
122
支離
(
しり
)
滅裂
(
めつれつ
)
のやうで
御座
(
ござ
)
いますが、
123
実
(
じつ
)
の
所
(
ところ
)
は
余
(
あま
)
りの
大勝利
(
だいしようり
)
、
124
意外
(
いぐわい
)
の
好結果
(
かうけつくわ
)
で、
125
手
(
て
)
の
舞
(
ま
)
ひ、
126
足
(
あし
)
の
踏
(
ふ
)
む
所
(
ところ
)
を
知
(
し
)
らず、
127
嬉
(
うれ
)
し
逆上
(
のぼ
)
せに、
128
逆上
(
のぼ
)
せの
幕
(
まく
)
が
下
(
お
)
りた
所
(
ところ
)
です。
129
今
(
いま
)
ヤツと
戦況
(
せんきやう
)
の
報告
(
はうこく
)
に
帰
(
かへ
)
つたまでの
所
(
ところ
)
、
130
何
(
なに
)
が
何
(
なん
)
だか
頭
(
あたま
)
のまとまりがついてゐませぬ。
131
暫
(
しばら
)
く
沈思
(
ちんし
)
黙考
(
もくかう
)
の
時間
(
じかん
)
をお
与
(
あた
)
へ
下
(
くだ
)
さいませ。
132
其
(
その
)
代
(
かは
)
り
数百
(
すうひやく
)
の
部下
(
ぶか
)
、
133
一人
(
ひとり
)
も
負傷
(
ふしやう
)
もなく、
134
凱歌
(
がいか
)
をあげて、
135
只今
(
ただいま
)
広殿
(
ひろどの
)
に
休息
(
きうそく
)
致
(
いた
)
し
居
(
を
)
りまする。
136
何卒
(
なにとぞ
)
御
(
ご
)
褒美
(
ほうび
)
と
凱旋
(
がいせん
)
祝
(
いはひ
)
の
為
(
ため
)
に、
137
お
酒
(
さけ
)
をドツサリ
呑
(
の
)
ましてやつて
下
(
くだ
)
さいませ。
138
人
(
ひと
)
に
将
(
しやう
)
たる
者
(
もの
)
は
部下
(
ぶか
)
を
愛
(
あい
)
さなくてはなりませぬ。
139
吾々
(
われわれ
)
は
部下
(
ぶか
)
あつての
大将
(
たいしやう
)
で
御座
(
ござ
)
います。
140
あなたも
吾々
(
われわれ
)
あつての
教主
(
けうしゆ
)
で
御座
(
ござ
)
いますから、
141
少々
(
せうせう
)
の
瑕瑾
(
かきん
)
があつても、
142
見直
(
みなほ
)
し
聞直
(
ききなほ
)
し、
143
慈愛
(
じあい
)
を
以
(
もつ
)
て
望
(
のぞ
)
まるるのが、
144
仁慈
(
じんじ
)
無限
(
むげん
)
の
教主
(
けうしゆ
)
の
御
(
ご
)
天職
(
てんしよく
)
で
御座
(
ござ
)
います。
145
三五教
(
あななひけう
)
の
何事
(
なにごと
)
も
直日
(
なほひ
)
に
見直
(
みなほ
)
し
聞直
(
ききなほ
)
し、
146
身
(
み
)
の
過
(
あやま
)
ちは
宣
(
の
)
り
直
(
なほ
)
すと
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
は、
147
ウラル
教
(
けう
)
に
取
(
と
)
つても
結構
(
けつこう
)
なことだと
思
(
おも
)
ひます。
148
吾々
(
われわれ
)
に
取
(
と
)
つても
甚
(
はなは
)
だ
御
(
ご
)
都合
(
つがふ
)
のよき
教理
(
けうり
)
かと
存
(
ぞん
)
じます』
149
ブール『
何
(
なに
)
は
兎
(
と
)
もあれ、
150
非常
(
ひじやう
)
な
激戦
(
げきせん
)
だつたと
見
(
み
)
える。
151
三千
(
さんぜん
)
有余
(
いうよ
)
の
敵
(
てき
)
を
皆殺
(
みなごろ
)
しにし
乍
(
なが
)
ら、
152
味方
(
みかた
)
は
一
(
いち
)
人
(
にん
)
の
負傷者
(
ふしやうしや
)
も
出
(
だ
)
さなかつた
其
(
その
)
方
(
はう
)
の
手柄
(
てがら
)
、
153
さぞ
気
(
き
)
をつかつたであらう。
154
逆上
(
ぎやくじやう
)
するのも
無理
(
むり
)
もない。
155
サアサア
倉
(
くら
)
を
開放
(
かいはう
)
し、
156
葡萄酒
(
ぶだうしゆ
)
を
出
(
だ
)
し、
157
一同
(
いちどう
)
に
飽
(
あ
)
く
迄
(
まで
)
呑
(
の
)
ましてやつてくれ。
158
吾
(
われ
)
は
是
(
こ
)
れより
大神
(
おほかみ
)
の
御前
(
みまへ
)
に
凱旋
(
がいせん
)
の
御
(
お
)
礼
(
れい
)
を
申上
(
まをしあ
)
ぐる
為
(
ため
)
、
159
参拝
(
さんぱい
)
致
(
いた
)
して
来
(
く
)
るから、
160
ゆるゆると
酒
(
さけ
)
でも
飲
(
の
)
んで、
161
一同
(
いちどう
)
に
休養
(
きうやう
)
を
与
(
あた
)
へるが
宜
(
よ
)
からう』
162
と
云
(
い
)
ひ
棄
(
す
)
て、
163
又
(
また
)
もや
神殿
(
しんでん
)
にいそいそとして
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
く。
164
後
(
あと
)
見送
(
みおく
)
つて
二人
(
ふたり
)
は
互
(
たがひ
)
に
顔
(
かほ
)
見合
(
みあは
)
せ
胸
(
むね
)
なでおろし、
165
舌
(
した
)
を
出
(
だ
)
し
乍
(
なが
)
ら
小声
(
こごゑ
)
になり、
166
アナン『アヽ
漸
(
やうや
)
うにして
虎口
(
ここう
)
を
逃
(
のが
)
れた。
167
サア
是
(
これ
)
から
皆
(
みな
)
の
奴
(
やつ
)
に
口止
(
くちど
)
め
料
(
れう
)
として、
168
葡萄酒
(
ぶだうしゆ
)
をドツサリ
振
(
ふ
)
れまつてやらう。
169
是
(
これ
)
もヤツパリ
俺
(
おれ
)
の
知識
(
ちしき
)
の
致
(
いた
)
す
所
(
ところ
)
だ。
170
ブールの
教主
(
けうしゆ
)
も
此
(
この
)
頃
(
ごろ
)
はチツと
度呆
(
とぼ
)
けてゐると
見
(
み
)
える。
171
何分
(
なにぶん
)
御倉山
(
みくらやま
)
の
谷間
(
たにあひ
)
で
肝
(
きも
)
をつぶし、
172
荒
(
あら
)
しの
森
(
もり
)
で
二度
(
にど
)
ビツクリを
致
(
いた
)
し、
173
ビツクリ
虫
(
むし
)
が
増長
(
ぞうちやう
)
して
痺癇
(
ひかん
)
[
*
「痺癇」は御校正本のママ。一般的には「脾疳」と書く。
]
を
患
(
わづら
)
ひかけてゐる
様
(
やう
)
な
矢先
(
やさき
)
だから、
174
木に
竹
(
たけ
)
をついだやうな
支離
(
しり
)
滅裂
(
めつれつ
)
な
吾々
(
われわれ
)
の
陳弁
(
ちんべん
)
でも、
175
勝
(
か
)
つたと
云
(
い
)
ふ
一声
(
ひとこゑ
)
が
嬉
(
うれ
)
しかつたと
見
(
み
)
え、
176
うまうまと
騙
(
だま
)
されよつただないか。
177
サア
是
(
これ
)
から
酒
(
さけ
)
だ
酒
(
さけ
)
だ』
178
と
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
179
アナンは
先
(
さき
)
に
立
(
た
)
ち、
180
一同
(
いちどう
)
の
集
(
あつ
)
まる
大部屋
(
おほべや
)
に
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
き、
181
稍
(
やや
)
高
(
たか
)
き
所
(
ところ
)
に
停立
(
ていりつ
)
して、
182
アナン『
部下
(
ぶか
)
一同
(
いちどう
)
に
今日
(
けふ
)
は
凱旋
(
がいせん
)
の
祝
(
いはひ
)
として、
183
葡萄酒
(
ぶだうしゆ
)
を
飽
(
あ
)
く
迄
(
まで
)
飲
(
の
)
む
事
(
こと
)
を、
184
ブールの
大将
(
たいしやう
)
より
許
(
ゆる
)
されたに
依
(
よ
)
つて、
185
一同
(
いちどう
)
喜
(
よろこ
)
んだがよからう。
186
今
(
いま
)
ユーズの
副将
(
ふくしやう
)
が
酒倉
(
さかぐら
)
へ
鍵
(
かぎ
)
を
持
(
も
)
つて
行
(
ゆ
)
かれたから、
187
皆
(
みな
)
の
者共
(
ものども
)
は
倉
(
くら
)
の
前
(
まへ
)
に
往
(
い
)
つて、
188
葡萄酒
(
ぶだうしゆ
)
を
此処
(
ここ
)
へ
運
(
はこ
)
び
来
(
きた
)
り、
189
腹一杯
(
はらいつぱい
)
呑
(
の
)
んだがよからう。
190
又
(
また
)
下戸
(
げこ
)
連中
(
れんぢう
)
はアルコールの
混
(
ま
)
ぜらない
葡萄水
(
ぶだうすゐ
)
があるから、
191
それを
飲
(
の
)
んだがよからう。
192
斯
(
かく
)
の
如
(
ごと
)
く
取計
(
とりはか
)
らつたのも
部下
(
ぶか
)
を
愛
(
あい
)
するアナンの
真心
(
まごころ
)
より
出
(
い
)
でたるものなれば、
193
万々一
(
まんまんいち
)
教主
(
けうしゆ
)
がここに
現
(
あら
)
はれ、
194
其方
(
そのはう
)
達
(
たち
)
に
何
(
なに
)
をお
尋
(
たづ
)
ね
遊
(
あそ
)
ばしても、
195
一言
(
ひとこと
)
も
申上
(
まをしあ
)
げてはなりませぬぞ。
196
一切
(
いつさい
)
万事
(
ばんじ
)
、
197
アナン、
198
ユーズの
大将
(
たいしやう
)
様
(
さま
)
に
御
(
お
)
聞
(
き
)
き
下
(
くだ
)
されと、
199
其処
(
そこ
)
は
甘
(
うま
)
く
ごみ
をにごすのだ。
200
要
(
えう
)
するに
部下
(
ぶか
)
一同
(
いちどう
)
の
捨身
(
しやしん
)
的
(
てき
)
大活動
(
だいくわつどう
)
に
依
(
よ
)
つて、
201
ヒルの
都
(
みやこ
)
の
楓別
(
かへでわけ
)
が
仮設敵
(
かせつてき
)
と
丸木橋
(
まるきばし
)
の
畔
(
ほとり
)
に
吾
(
わが
)
部隊
(
ぶたい
)
と
衝突
(
しようとつ
)
し、
202
一人
(
ひとり
)
も
残
(
のこ
)
さず
切
(
き
)
り
殺
(
ころ
)
し、
203
突殺
(
つきころ
)
し、
204
河
(
かは
)
に
投込
(
なげこ
)
み、
205
屍
(
かばね
)
は
太平洋
(
たいへいやう
)
に
流
(
なが
)
れ
行
(
ゆ
)
きしと、
206
事実
(
じじつ
)
を
詳
(
つぶ
)
さに
報告
(
はうこく
)
しあれば、
207
一同
(
いちどう
)
も
其
(
その
)
考
(
かんが
)
へで
居
(
を
)
らなくてはなりませぬぞ。
208
サア
早
(
はや
)
く
倉
(
くら
)
へ
往
(
い
)
つて、
209
酒
(
さけ
)
をお
運
(
はこ
)
びなさい。
210
此
(
この
)
葡萄酒
(
ぶだうしゆ
)
は
所謂
(
いはゆる
)
一同
(
いちどう
)
の
者
(
もの
)
の
口
(
くち
)
に
錠
(
ぢやう
)
を
卸
(
おろ
)
す
妙薬
(
めうやく
)
だから、
211
無茶
(
むちや
)
苦茶
(
くちや
)
に
口
(
くち
)
のあかぬ
様
(
やう
)
にして
下
(
くだ
)
さい』
212
と
篏口令
(
かんこうれい
)
を
布
(
し
)
いてゐる。
213
暫
(
しばら
)
くあつて、
214
山
(
やま
)
の
如
(
ごと
)
く
葡萄酒
(
ぶだうしゆ
)
の
瓶
(
びん
)
は
運
(
はこ
)
ばれた。
215
アナン、
216
ユーズの
二人
(
ふたり
)
は
教主
(
けうしゆ
)
の
此
(
この
)
場
(
ば
)
に
現
(
あら
)
はれ
来
(
きた
)
るを
喰
(
く
)
ひとめむ
為
(
ため
)
、
217
神殿
(
しんでん
)
に
詣
(
まう
)
で
祈願
(
きぐわん
)
の
終
(
をは
)
ると
共
(
とも
)
に、
218
詞
(
ことば
)
巧
(
たくみ
)
に
教主室
(
けうしゆしつ
)
に
這入
(
はい
)
らせ、
219
いろいろと
出鱈目
(
でたらめ
)
話
(
ばなし
)
に
教主
(
けうしゆ
)
の
機嫌
(
きげん
)
をとつて
居
(
ゐ
)
る。
220
酒
(
さけ
)
は
追々
(
おひおひ
)
と
酔
(
よひ
)
がまはつて、
221
彼方
(
あちら
)
にも、
222
此方
(
こちら
)
にも、
223
あたり
構
(
かま
)
はず、
224
昨夜
(
さくや
)
の
失敗談
(
しつぱいだん
)
が
語
(
かた
)
り
続
(
つづ
)
けられた。
225
甲
(
かふ
)
は
舌
(
した
)
をもつらせ
乍
(
なが
)
ら、
226
甲『オイ、
227
皆
(
みな
)
の
奴
(
やつ
)
、
228
昨夜
(
ゆうべ
)
はどうだつた。
229
随分
(
ずゐぶん
)
惨々
(
さんざん
)
な
目
(
め
)
に
会
(
あ
)
うたぢやないか。
230
たつた
一人
(
ひとり
)
や
二人
(
ふたり
)
の
敵
(
てき
)
に
向
(
むか
)
つて、
231
大勢
(
おほぜい
)
の
者
(
もの
)
が
取囲
(
とりかこ
)
み、
232
取
(
と
)
つては
投
(
な
)
げられ、
233
取
(
と
)
つては
投
(
な
)
げられ、
234
川
(
かは
)
の
中
(
なか
)
で
散々
(
さんざん
)
な
目
(
め
)
に
会
(
あ
)
はされ、
235
膝頭
(
ひざがしら
)
をすり
剥
(
む
)
いたり、
236
腰
(
こし
)
の
蝶番
(
てふつがひ
)
を
歪
(
ゆが
)
めたり、
237
随分
(
ずゐぶん
)
苦
(
くる
)
しかつたなア。
238
併
(
しか
)
し
今日
(
けふ
)
は
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
ふ
吉日
(
きちにち
)
だらう。
239
戦
(
たたかひ
)
に
負
(
ま
)
けて
帰
(
かへ
)
つたら
首
(
くび
)
でも
取
(
と
)
られやせむかと
心配
(
しんぱい
)
して
居
(
を
)
つた。
240
それに
劫腹
(
がふはら
)
な、
241
芳醇
(
はうじゆん
)
な
酒
(
さけ
)
を
飽
(
あ
)
く
迄
(
まで
)
喰
(
くら
)
へなんて
吐
(
ぬか
)
しやがつて、
242
サツパリ
見当
(
けんたう
)
が
取
(
と
)
れぬ
様
(
やう
)
になつたぢやないか。
243
こんな
事
(
こと
)
なら
常時
(
じやうじ
)
戦
(
たたかひ
)
に
従
(
したが
)
つて
敗
(
まけ
)
て
来
(
く
)
るのだなア』
244
乙『きまつた
事
(
こと
)
だよ。
245
負
(
まけ
)
て
勝
(
かつ
)
とると
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
があるぢやないか、
246
負
(
まけ
)
たお
蔭
(
かげ
)
で、
247
こんな
甘
(
うま
)
い
葡萄酒
(
ぶだうしゆ
)
が
鱈腹
(
たらふく
)
頂
(
いただ
)
けるのだ。
248
漆
(
うるし
)
に
負
(
まけ
)
たり、
249
角力
(
すまう
)
に
負
(
まけ
)
たつて、
250
こんなボロいこたありやせぬぞ。
251
何事
(
なにごと
)
も
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
のマケのまにまに
活動
(
くわつどう
)
するのだなア、
252
アツハヽヽヽ』
253
丙『オイ、
254
甲
(
かふ
)
乙
(
おつ
)
両人
(
りやうにん
)
、
255
そんな
事
(
こと
)
を
囀
(
さへづ
)
るものだない。
256
昨夜
(
ゆうべ
)
の
敗戦
(
はいせん
)
をかくす
積
(
つも
)
りで、
257
アナン、
258
ユーズの
大将
(
たいしやう
)
が、
259
お
前
(
まへ
)
たちや
俺
(
おれ
)
たちに、
260
アナンのかからないように、
261
ユーズを
利
(
き
)
かして、
262
甘
(
うま
)
く
教主
(
けうしゆ
)
をゴマかし、
263
葡萄酒
(
ぶだうしゆ
)
をブールつて
来
(
き
)
たのだから、
264
チツとは
大将
(
たいしやう
)
の
御
(
お
)
心
(
こころ
)
も
察
(
さつ
)
して
静
(
しづか
)
にせぬかい』
265
乙『ブールつて
来
(
き
)
たか、
266
ボロつて
来
(
き
)
たか
知
(
し
)
らぬが、
267
モウちつと
甘
(
うま
)
くゴンベリさうなものだなア』
268
丙『
二人
(
ふたり
)
の
大将
(
たいしやう
)
が
力
(
ちから
)
一杯
(
いつぱい
)
ベストを
尽
(
つく
)
して、
269
ビヤクレる
丈
(
だけ
)
ビヤクつて
来
(
き
)
たのだから、
270
そんなに
不足
(
ふそく
)
を
云
(
い
)
ふと
罰
(
ばち
)
が
当
(
あた
)
るよ』
271
甲『
喧
(
やかま
)
しう
云
(
い
)
ふない。
272
是
(
これ
)
からブールさまの
所
(
ところ
)
へ
往
(
い
)
つて、
273
一
(
ひと
)
つ
思
(
おも
)
ひ
切
(
き
)
り、
274
御
(
お
)
祝
(
いは
)
ひに
踊
(
をど
)
つて
来
(
こ
)
うぢやないか。
275
酒
(
さけ
)
を
飲
(
の
)
んだら
酔
(
よ
)
ふのは
当
(
あた
)
り
前
(
まへ
)
だ、
276
酔
(
よ
)
うたら
踊
(
をど
)
るのは
当然
(
あたりまへ
)
だ。
277
泣酒
(
なきざけ
)
もあれば
笑
(
わら
)
ひ
酒
(
ざけ
)
もあり、
278
怒
(
いか
)
り
酒
(
ざけ
)
もある。
279
泣
(
な
)
きたい
奴
(
やつ
)
は
泣
(
な
)
け、
280
怒
(
おこ
)
る
奴
(
やつ
)
は
怒
(
おこ
)
れ、
281
笑
(
わら
)
ふ
奴
(
やつ
)
は
精一杯
(
せいいつぱい
)
笑
(
わら
)
つて
楽
(
たのし
)
むんだなア』
282
丁『
笑
(
わら
)
ふと
云
(
い
)
つたら、
283
俺
(
おれ
)
も
実
(
じつ
)
は
笑
(
わら
)
ひたうて、
284
仕方
(
しかた
)
がないんだ。
285
十分
(
じふぶん
)
笑
(
わら
)
はして
呉
(
く
)
れないか』
286
甲『
笑
(
わら
)
へ
笑
(
わら
)
へ、
287
ドツと
皆
(
みな
)
に
分
(
わか
)
る
様
(
やう
)
に、
288
あの
高座
(
かうざ
)
へ
直立
(
ちよくりつ
)
して、
289
ニコニコ
雑誌
(
ざつし
)
の
相場
(
さうば
)
が
狂
(
くる
)
ふ
程
(
ほど
)
笑
(
わら
)
つて
見
(
み
)
よ。
290
笑
(
わら
)
ふ
門
(
かど
)
には
福
(
ふく
)
来
(
きた
)
りだ、
291
サア
笑
(
わら
)
つたり
笑
(
わら
)
つたり』
292
丁
(
てい
)
は
忽
(
たちま
)
ち
高座
(
かうざ
)
に
上
(
のぼ
)
り、
293
葡萄酒
(
ぶだうしゆ
)
の
瓶
(
びん
)
を
片手
(
かたて
)
に
提
(
ひつさ
)
げ、
294
ラツパ
呑
(
の
)
みをし
乍
(
なが
)
ら、
295
丁
『アハヽヽヽ、
296
阿呆
(
あはう
)
らしい。
297
戦
(
たたか
)
ひに
負
(
まけ
)
て、
298
河底
(
かはそこ
)
へ
放
(
ほ
)
りこまれ、
299
向脛
(
むかうづね
)
打
(
う
)
つて、
300
痛
(
いた
)
かつたが、
301
チツとは
可笑
(
をか
)
しうて、
302
笑
(
わら
)
ひが
止
(
と
)
まらなんだ。
303
イヒヽヽヽ、
304
鼬
(
いたち
)
に
最後屁
(
さいごぺ
)
を
放
(
ひ
)
りかけられたよな、
305
臭
(
くさ
)
い
臭
(
くさ
)
い
言
(
い
)
ひ
訳
(
わけ
)
をして、
306
屁
(
へ
)
の
音
(
ね
)
のよなブール
教主
(
けうしゆ
)
を
甘
(
うま
)
く
屁煙
(
へけむり
)
にまき、
307
屁
(
へ
)
の
音
(
おと
)
の
様
(
やう
)
なブードー
酒
(
しゆ
)
をおごらして、
308
敗軍
(
はいぐん
)
の
将卒
(
しやうそつ
)
が
得意
(
とくい
)
になつて、
309
酒
(
さけ
)
を
食
(
く
)
らふ
其
(
その
)
スタイルの
可笑
(
をか
)
しさ。
310
ウフヽヽヽ、
311
打
(
う
)
つて、
312
変
(
かは
)
つたアナン、
313
ユーズのあの
態度
(
たいど
)
、
314
教主
(
けうしゆ
)
の
君
(
きみ
)
に
丸木橋
(
まるきばし
)
の
戦
(
たたか
)
ひに
腰
(
こし
)
を
抜
(
ぬ
)
かし、
315
肝
(
きも
)
を
潰
(
つぶ
)
し、
316
ウフヽヽヽうろたへ
騒
(
さわ
)
いで
逃
(
に
)
げ
帰
(
かへ
)
つた
二人
(
ふたり
)
のマイストロ(
大将
(
たいしやう
)
)がウマウマとうまい
酒
(
さけ
)
をボン
倉
(
くら
)
からひつぱり
出
(
だ
)
し、
317
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
をヘーベレケに
酔
(
よ
)
はしやがつて、
318
口止
(
くちど
)
めせうとしてゐる
其
(
その
)
可笑
(
をか
)
しさ。
319
いつも
自分
(
じぶん
)
計
(
ばか
)
り
酒
(
さけ
)
を
喰
(
くら
)
つて、
320
良
(
よ
)
い
気
(
き
)
になつてる
大将株
(
たいしやうかぶ
)
が
今度
(
こんど
)
は
余程
(
よほど
)
マゴつきやがつて、
321
キツウ
閉口
(
へいこう
)
しよつたと
見
(
み
)
え
態度
(
たいど
)
が
変
(
かは
)
つたぢやないか。
322
エヘヽヽヽ、
323
エー
怪体
(
けたい
)
の
悪
(
わる
)
い。
324
こんな
悪
(
わる
)
い
悪
(
わる
)
い
葡萄酒
(
ぶだうしゆ
)
のうまい
奴
(
やつ
)
を、
325
無茶
(
むちや
)
苦茶
(
くちや
)
に
呑
(
の
)
ましやがつて、
326
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
を
酒
(
さけ
)
に
酔
(
よ
)
はして
殺
(
ころ
)
さうとは
余
(
あま
)
り
虫
(
むし
)
がよすぎるワイ。
327
鰌
(
どぢやう
)
なら
酒
(
さけ
)
で
殺
(
ころ
)
せるか
知
(
し
)
らぬが
人間
(
にんげん
)
さまはさうはいかぬからなア。
328
オホヽヽヽ、
329
尾
(
を
)
も
白
(
しろ
)
い
尾
(
を
)
も
白
(
しろ
)
い
頭
(
あたま
)
も
白
(
しろ
)
い、
330
尾
(
を
)
も
白狸
(
しろたぬき
)
の
腹鼓
(
はらつづみ
)
、
331
腹
(
はら
)
がはぢけるとこ
迄
(
まで
)
、
332
呑
(
の
)
んで
腹
(
はら
)
を
拍
(
う
)
つて、
333
尻
(
しり
)
からブールブールとお
屁
(
なら
)
を
弾
(
だん
)
じ、
334
丹精
(
たんせい
)
こらして、
335
踊
(
をど
)
ろぢやないか。
336
ハヽヽヽヽ、
337
腹
(
はら
)
が
立
(
た
)
つて、
338
臍
(
へそ
)
がよれて、
339
悲
(
かな
)
しくなつて
来
(
く
)
るワイ。
340
酒
(
さけ
)
と
云
(
い
)
ふ
奴
(
やつ
)
ア、
341
妙
(
めう
)
な
奴
(
やつ
)
だなア。
342
オイ
皆
(
みな
)
の
奴
(
やつ
)
、
343
チツと
笑
(
わら
)
はぬかい、
344
酒
(
さけ
)
が
沈
(
しづ
)
んで
了
(
しま
)
ふぞ。
345
ヒヽヽヽヽ、
346
日暮
(
ひぐら
)
シ
河
(
がは
)
でひどい
目
(
め
)
に
会
(
あ
)
うた
昨夜
(
さくや
)
の
事
(
こと
)
を
思
(
おも
)
ひ
出
(
だ
)
すと、
347
腹
(
はら
)
が
立
(
た
)
つワイ、
348
夜
(
よる
)
夜中
(
よなか
)
にひつぱり
出
(
だ
)
され、
349
石礫
(
いしころ
)
の
一杯
(
いつぱい
)
つまつた
川中
(
かはなか
)
へ
蛙
(
かへる
)
をぶつけたよに
投
(
な
)
げられた
時
(
とき
)
の
事
(
こと
)
を
思
(
おも
)
へば、
350
悲
(
かな
)
しうなつて
来
(
き
)
た。
351
さうかと
思
(
おも
)
へば、
352
こんな
甘
(
うま
)
い
酒
(
さけ
)
をドツサリ
飲
(
の
)
ましやがつて、
353
何程
(
なにほど
)
怒
(
いか
)
らうと
思
(
おも
)
つても、
354
面白
(
おもしろ
)
く
可笑
(
をか
)
しく
嬉
(
うれ
)
しくなつて、
355
これが
笑
(
わら
)
はずに
居
(
を
)
れるかい。
356
フヽヽヽヽ、
357
降
(
ふ
)
つて
湧
(
わ
)
いたる
儲
(
まう
)
け
物
(
もの
)
だ。
358
フルナの
弁
(
べん
)
を
揮
(
ふる
)
つて、
359
深
(
ふか
)
く
企
(
たく
)
んだアナンとユーズの
今日
(
けふ
)
の
働
(
はたら
)
き、
360
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つても、
361
俺
(
おれ
)
たちは
酒
(
さけ
)
さへ
呑
(
の
)
めば、
362
至極
(
しごく
)
御
(
ご
)
機嫌
(
きげん
)
だ。
363
ヘヽヽヽヽ、
364
屁
(
へ
)
を
水
(
みづ
)
の
中
(
なか
)
で
放
(
ひ
)
つたやうな、
365
便
(
たよ
)
りない、
366
気転
(
きてん
)
の
利
(
き
)
かぬ
弱虫
(
よわむし
)
計
(
ばか
)
りが、
367
五百
(
ごひやく
)
羅漢
(
らかん
)
の
様
(
やう
)
な
醜
(
みにく
)
いレツテルを
陳列
(
ちんれつ
)
しやがつて、
368
酒
(
さけ
)
を
喰
(
くら
)
ふ
時
(
とき
)
の、
369
其
(
その
)
ザマつたら、
370
何
(
なん
)
の
事
(
こと
)
だい。
371
百鬼
(
ひやくき
)
昼行
(
ちうかう
)
と
云
(
い
)
はうか、
372
千鬼
(
せんき
)
夜行
(
やかう
)
と
言
(
い
)
はうか、
373
丸
(
まる
)
で
餓鬼
(
がき
)
に
水
(
みづ
)
を
与
(
あた
)
へたよな、
374
情
(
なさけ
)
ないザマ、
375
何奴
(
どいつ
)
も
此奴
(
こいつ
)
も
口賤
(
くちいや
)
しい
奴
(
やつ
)
計
(
ばか
)
りが、
376
能
(
よ
)
くもマアこれ
丈
(
だけ
)
揃
(
そろ
)
うたものだなア。
377
こんな
代物
(
しろもの
)
を
飼
(
か
)
つてゐる、
378
屁
(
へ
)
こきのブールさまも
閉口
(
へいこう
)
だらう。
379
ホヽヽヽヽ、
380
本当
(
ほんたう
)
に
誠
(
まこと
)
に、
381
失敗
(
しつぱい
)
してこんな
甘
(
うま
)
い
酒
(
さけ
)
を
頂
(
いただ
)
くのなら、
382
毎晩
(
まいばん
)
でも
戦
(
たたか
)
ひに
出
(
で
)
て、
383
負
(
まけ
)
てみたいなア。
384
なんと
云
(
い
)
うても、
385
一人
(
ひとり
)
や
二人
(
ふたり
)
の
敵
(
てき
)
に
大勢
(
おほぜい
)
が
当
(
あた
)
るのだから
勝
(
か
)
つ
気
(
き
)
づかひはないワ。
386
もしも
勝
(
か
)
つて
見
(
み
)
よ、
387
酒
(
さけ
)
所
(
どころ
)
の
騒
(
さわ
)
ぎぢやない。
388
アナン、
389
ユーズの
大将
(
たいしやう
)
計
(
ばか
)
りが
酒
(
さけ
)
を
食
(
くら
)
つて
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
は
水
(
みづ
)
を
呑
(
の
)
んで
辛抱
(
しんばう
)
さされるのが
落
(
お
)
ち
位
(
くらゐ
)
なものだよ。
390
ワハヽヽヽ、
391
悪
(
わる
)
いことがあればキツとあとに
善
(
よ
)
い
事
(
こと
)
がある。
392
それだから、
393
酒
(
さけ
)
に
酔
(
よ
)
ひ、
394
煙
(
けぶり
)
に
酔
(
よ
)
ひ、
395
信仰
(
しんかう
)
に
酔
(
よ
)
つぱらつて
居
(
ゐ
)
るのだ。
396
酔
(
よ
)
うて
酔
(
よ
)
うて
酔
(
よ
)
ひちらし、
397
力
(
ちから
)
一杯
(
いつぱい
)
ヨタリスクを
並
(
なら
)
べ
立
(
た
)
てて、
398
今日
(
けふ
)
の
凱旋
(
がいせん
)
祝
(
いは
)
ひを
完全
(
くわんぜん
)
に
勤
(
つと
)
め
上
(
あ
)
げるのだよ。
399
此
(
この
)
葡萄酒
(
ぶだうしゆ
)
は
本当
(
ほんたう
)
に
善
(
よ
)
い
事
(
こと
)
だらけだ。
400
酔
(
よ
)
うて
酔
(
よ
)
うて
甘
(
あま
)
うてようて、
401
腹
(
はら
)
にたまつてようて、
402
力
(
ちから
)
がついてようて、
403
気分
(
きぶん
)
迄
(
まで
)
がよいと
云
(
い
)
ふのだから、
404
酔
(
よ
)
ひがまはるのも
当然
(
たうぜん
)
だ、
405
ウフヽヽヽ、
406
エヘヽヽヽ、
407
オホヽヽヽ、
408
終
(
をは
)
りだ。
409
誰
(
たれ
)
か
怒
(
おこ
)
り
上戸
(
じやうご
)
の
奴
(
やつ
)
か、
410
泣
(
なき
)
上戸
(
じやうご
)
の
奴
(
やつ
)
代
(
かは
)
つて
呉
(
く
)
れ。
411
俺
(
おれ
)
りやモウこれで
幕切
(
まくぎ
)
れだ』
412
と
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
413
行歩
(
かうほ
)
蹣跚
(
まんさん
)
として
高座
(
かうざ
)
を
覚束
(
おぼつか
)
なげに
降
(
くだ
)
り
切
(
しき
)
りに
喋
(
しやべ
)
りちらして
居
(
ゐ
)
る。
414
此処
(
ここ
)
へアナン
一人
(
ひとり
)
やつて
来
(
き
)
て、
415
アナン『ヤアお
前
(
まへ
)
達
(
たち
)
、
416
御
(
ご
)
苦労
(
くらう
)
だつた。
417
随分
(
ずゐぶん
)
骨
(
ほね
)
が
折
(
お
)
れただらうなア』
418
戍『ズイ
分
(
ぶん
)
甘
(
うま
)
い
酒
(
さけ
)
で、
419
飲
(
の
)
むのに
骨
(
ほね
)
が
折
(
を
)
れましたよ。
420
流石
(
さすが
)
アナンさまは
人
(
ひと
)
の
水上
(
みなかみ
)
に
立
(
た
)
つ
丈
(
だけ
)
あつて
偉
(
えら
)
いわい。
421
ブールの
大将
(
たいしやう
)
を
甘
(
うま
)
いことだまし、
422
敗軍
(
まけいくさ
)
を
勝
(
かつ
)
たよな
顔
(
かほ
)
して、
423
葡萄
(
ぶだう
)
の
倉
(
くら
)
まで
開
(
あ
)
かしたお
手際
(
てぎは
)
は、
424
吾々
(
われわれ
)
の
大将
(
たいしやう
)
として
実
(
じつ
)
に
適当
(
てきたう
)
だ。
425
なア
甲州
(
かふしう
)
、
426
せめてこんなことが
十日
(
とをか
)
も
続
(
つづ
)
くと
良
(
よ
)
いのだけどなア』
427
アナン『オイオイ
静
(
しづ
)
かにせぬかい。
428
教主
(
けうしゆ
)
のお
耳
(
みみ
)
に
這入
(
はい
)
つたら
大変
(
たいへん
)
だぞ。
429
大
(
おほ
)
きな
顔
(
かほ
)
して
酒
(
さけ
)
を
飲
(
の
)
む
訳
(
わけ
)
にも
行
(
ゆ
)
くまい』
430
戍『モウ
何時
(
なんどき
)
大将
(
たいしやう
)
や
教主
(
けうしゆ
)
がやつて
来
(
き
)
て
呑
(
の
)
むなと
云
(
い
)
つたつて、
431
構
(
かま
)
ふものか。
432
呑
(
の
)
む
丈
(
だけ
)
呑
(
の
)
んで
了
(
しま
)
つたのだから、
433
此
(
この
)
上
(
うへ
)
呑
(
の
)
んでくれたつて、
434
こんな
腐
(
くさ
)
つたよな
酒
(
さけ
)
を
誰
(
たれ
)
が
呑
(
の
)
むものかい。
435
始
(
はじ
)
めの
二三本
(
にさんぼん
)
は
甘
(
うま
)
かつたが、
436
後
(
あと
)
になる
程
(
ほど
)
、
437
酒
(
さけ
)
が
悪
(
わる
)
うなつて、
438
泥水
(
どろうみ
)
を
飲
(
の
)
んでるようだなア、
439
皆
(
みな
)
の
奴
(
やつ
)
、
440
酔
(
よ
)
ひみての
後
(
のち
)
の
心
(
こころ
)
に
比
(
くら
)
ぶれば
是程
(
これほど
)
味
(
あぢ
)
ない
酒
(
さけ
)
とは
思
(
おも
)
はざりけり
441
だ、
442
アハヽヽヽ』
443
此
(
この
)
時
(
とき
)
『
教主
(
けうしゆ
)
の
御
(
ご
)
出場
(
しゆつぢやう
)
』と
云
(
い
)
ふ
知
(
し
)
らせに
一同
(
いちどう
)
は
俄
(
にはか
)
に
肌
(
はだ
)
を
入
(
い
)
れる、
444
坐
(
すわ
)
り
直
(
なほ
)
す、
445
襟
(
えり
)
をかき
合
(
あ
)
はす、
446
大騒
(
おほさわ
)
ぎをやり
出
(
だ
)
した。
447
悠然
(
いうぜん
)
として
現
(
あら
)
はれたるブールは
一同
(
いちどう
)
に
向
(
むか
)
ひ、
448
ブール『
今
(
いま
)
岩窟
(
がんくつ
)
の
門前
(
もんぜん
)
に
三五教
(
あななひけう
)
の
強者
(
つはもの
)
が
二人
(
ふたり
)
、
449
襲
(
おそ
)
ひ
来
(
きた
)
りし
様子
(
やうす
)
、
450
一同
(
いちどう
)
の
者
(
もの
)
、
451
注意
(
ちうい
)
を
致
(
いた
)
されよ』
452
一同
(
いちどう
)
は『ハイ』と
云
(
い
)
つた
限
(
き
)
り、
453
忽
(
たちま
)
ち
酒
(
さけ
)
の
酔
(
ゑい
)
も
醒
(
さ
)
め、
454
顔
(
かほ
)
を
真青
(
まつさを
)
にして
慄
(
ふる
)
うてゐる。
455
教主
(
けうしゆ
)
の
命
(
めい
)
に
依
(
よ
)
り、
456
一同
(
いちどう
)
はバラバラと
入口
(
いりぐち
)
の
方
(
はう
)
に
駆出
(
かけだ
)
した。
457
(
大正一一・八・一六
旧六・二四
松村真澄
録)
458
(昭和一〇・六・九 王仁校正)
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