霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一四章 霊(れい)とパン〔八五六〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第30巻 海洋万里 巳の巻 篇:第4篇 修理固成 よみ(新仮名遣い):しゅうりこせい
章:第14章 霊とパン よみ(新仮名遣い):れいとぱん 通し章番号:856
口述日:1922(大正11)年08月15日(旧06月23日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1923(大正12)年9月15日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
言依別命と国依別は、テルの港から北へ進んで、御倉山という高山に到着した。竜世姫命を奉斎した立派な社が建っている。二人はここに参拝した。
谷川には御倉魚という美しい魚が棲んでいたが、国人たちはこれを神の使いと信じ、食べるとたちまち口がきけなくなり斑紋が体に現れると恐れて、口にするものはなかった。
この地方はこのごろ、飢饉に襲われて、人々が祈願をしに社に集まってきていた。言依別命は国依別とともにこの有様を見て、人々を救おうと思案にくれていた。谷底には白衣を着たウラル教の宣伝使が人々に向かって説教をしている。
なぜこのような苦しみを受けなければならないのか、と問う人々に対して、ウラル教の宣伝使は苦しみの世界である現世を離れよ、と説いていた。飢饉の苦しみを訴える人々に対して、ただ殺生を禁じ、神を称えることのみを説いていた。
言依別命は宣伝歌を歌いながら谷底に下りてきた。その歌には、御倉魚を人々に与えて飢饉を救ってやろうと歌われていた。
ウラル教の宣伝使ブールは二人のところにやってきて、神の御使いの魚を取って喰わせようという言依別命に抗議した。言依別命は人の命と魚の命とどちらが大切か、と問いかける。ウラル教の宣伝使はあくまで人は罪の子であり、贖罪のために苦しみを受けるべきだと主張する。
国依別は売り言葉に買い言葉で、皆の目の前で御倉魚を実地に食べて、神の祟りがあるかどうか確かめることになった。国依別が谷川に下りて、たくさん泳いでいる御倉魚を掴み取ってむしゃむしゃ食べるのを目にして、人々は安心して国依別に続いた。
ウラル教の宣伝使たちはこそこそと姿を消してしまった。これより、この国のひとたちはウラル教に愛想をつかし、三五教を奉じることになった。
言依別命はテルの国を越えてウヅの国に行くこととなった。国依別は言依別命の命を奉じてしばらくここに留まり、ヒルの都からハルの国を廻ってからウヅの国に合流することになった。
国依別の布教によって、三五教は非常な勢いを得ることになった。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2022-06-10 17:28:26 文字数:5825 OBC :rm3014
愛善世界社版:165頁 八幡書店版:第5輯 630頁 修補版: 校定版:177頁 普及版:64頁 初版: ページ備考:
001 テルの港(みなと)に安着(あんちやく)した高島丸(たかしままる)を乗(のり)すてて、002言依別(ことよりわけの)神(かみ)、003国依別(くによりわけ)は北(きた)へ北(きた)へと進(すす)み行(ゆ)く。004此処(ここ)には御倉山(みくらやま)と云(い)ふ高山(かうざん)があり、005国人(くにびと)の信仰(しんかう)に依(よ)りて、006竜世姫(たつよひめの)命(みこと)を奉斎(ほうさい)したる可(か)なり立派(りつぱ)な社(やしろ)が建(た)つてゐる。007之(これ)を御倉(みくら)の社(やしろ)と云(い)ふ。008テルとヒルとの国境(くにざかひ)に秀立(しうりつ)せる大山脈(だいさんみやく)の最(もつと)もすぐれて高(たか)き峰(みね)である。009祠(ほこら)は御倉山(みくらやま)の麓(ふもと)にあつた。010さうして清(きよ)き広(ひろ)き谷川(たにがは)が飛沫(ひまつ)を飛(と)ばして唸(うな)りを立(た)てて居(ゐ)る。011言依別(ことよりわけの)命(みこと)は国依別(くによりわけ)と共(とも)に、012先(ま)づ第一(だいいち)に此処(ここ)に参詣(さんけい)した。
013 此(この)谷川(たにがは)に限(かぎ)つて、014御倉魚(みくらうを)と称(しよう)する、015長(なが)さ五六(ごろく)尺(しやく)のいろいろ雑多(ざつた)の斑紋(はんもん)ある美(うつく)しき魚(うを)が沢山(たくさん)に棲(す)んで居(ゐ)る。016されど国人(くにびと)はこれ全(まつた)く御倉(みくら)の社(やしろ)の御(おん)使(つかひ)と信(しん)じて、017之(これ)を捕獲(ほくわく)せむとする者(もの)は一人(ひとり)もなかつた。018もしも此(この)魚(うを)を取(と)り食(くら)ふ者(もの)ある時(とき)は、019忽(たちま)ち口(くち)歪(ゆが)み、020唖(おし)となり、021顔面(がんめん)全部(ぜんぶ)に青(あを)赤(あか)白(しろ)黄(き)紫(むらさき)萌黄(もえぎ)などの斑紋(はんもん)が現(あら)はれるので、022誰(たれ)も之(これ)を捕獲(ほくわく)する者(もの)なきのみならず、023此(この)魚(うを)を見(み)れば神(かみ)の如(ごと)くに尊敬(そんけい)し、024手(て)を合(あは)せて吾(わが)願望(ぐわんもう)を祈願(きぐわん)するを常(つね)としてゐた。
025 此(この)頃(ころ)ヒルとテルとの国境(くにざかひ)に於(お)ける殆(ほと)んど五十(ごじふ)里(り)四方(しはう)の地域(ちゐき)は連日(れんじつ)雨(あめ)降(ふ)らず、026草木(さうもく)は殆(ほと)んど枯葉(かれは)の如(ごと)く、027果物(くだもの)は実(み)入(い)らず、028五穀(ごこく)も亦(また)一粒(ひとつぶ)も取(と)れなかつた。029夫(そ)れが為(ため)路傍(ろばう)に餓孚(がへう)充(み)ち、030其(その)惨状(さんじやう)目(め)も当(あ)てられない計(ばか)りであつた。031数多(あまた)の国人(くにびと)は御倉山(みくらやま)の山麓(さんろく)に集(あつ)まり、032此(この)御倉魚(みくらうを)に向(むか)つて、033饑饉(ききん)を免(のが)れむことを祈願(きぐわん)する者(もの)引(ひ)きも切(き)らず、034此(この)谷間(たにま)は殆(ほとん)ど人(ひと)を以(もつ)て埋(うづ)もれてゐた。
035 言依別(ことよりわけの)命(みこと)は国依別(くによりわけ)と共(とも)に此(この)有様(ありさま)を眺(なが)め憐愍(れんびん)の情(じやう)に堪(た)へかね、036如何(いか)にもして彼(かれ)等(ら)が飢(うゑ)を救(すく)ひ、037大切(たいせつ)なる生命(いのち)を保(たも)たしめむと、038首(くび)を傾(かたむ)けて思案(しあん)に暮(くれ)て居(ゐ)る。039谷底(たにそこ)深(ふか)く見渡(みわた)せば、040白衣(びやくい)を着(き)たるウラル教(けう)の宣伝使(せんでんし)四五(しご)人(にん)現(あら)はれて、041切(しき)りに天国(てんごく)の福音(ふくいん)を説(と)き諭(さと)して居(ゐ)る。042人々(ひとびと)は宣伝使(せんでんし)の前(まへ)に蝟集(ゐしふ)し、043空腹(くうふく)を抱(かか)へて、044いろいろと質問(しつもん)を試(こころ)みてゐた。
045 甲(かふ)、046細(ほそ)き声(こゑ)にて、
047甲『宣伝使(せんでんし)様(さま)、048どうして此(この)様(やう)な饑饉(ききん)が参(まゐ)つたので御座(ござ)いませう? 吾々(われわれ)等(たち)は最早(もはや)生命(いのち)は旦夕(たんせき)に迫(せま)り、049死(し)を待(ま)つより途(みち)なき者(もの)、050両親(りやうしん)は四五(しご)日(にち)前(まへ)に餓死(がし)し妻(つま)は乳児(ちのみご)を抱(だ)いたまま、051之(こ)れ亦(また)餓死(がし)し、052後(あと)に私(わたし)一人(ひとり)取残(とりのこ)されましたが、053最早(もはや)三日(みつか)の寿命(じゆみやう)もむづかしくなつて来(き)ました。054此(この)世(よ)を救(すく)ひ給(たま)ふ神(かみ)様(さま)、055真(まこと)におはしますならば、056なぜ斯様(かやう)な罪(つみ)のない子供(こども)までが、057饑餓(きが)の苦(くるし)みを受(う)けて居(ゐ)るのに、058どうもして下(くだ)さらないのでせうか? 私(わたくし)等(ら)は今日(こんにち)に至(いた)つて、059神(かみ)様(さま)の存在(そんざい)を疑(うたが)はねばならなくなりました。060私(わたし)の村(むら)は最早(もはや)七八分(しちはちぶ)まで、061ウラル教(けう)を信(しん)じて居乍(ゐなが)ら、062餓死(がし)して了(しま)ひました。063斯(こ)うやつて此処(ここ)に参(まゐ)つて居(ゐ)る人々(ひとびと)は、064御存(ごぞん)じの通(とほ)り痩(や)せ衰(おとろ)へ、065何程(なにほど)達者(たつしや)な者(もの)でも、066ここ十日(とをか)の間(あひだ)には一人(ひとり)も残(のこ)らず餓死(がし)をせなくてはならぬ運命(うんめい)におかれてる者(もの)計(ばか)りです。067どうか此(この)苦(くるし)みをお助(たす)け下(くだ)さる訳(わけ)には参(まゐ)らぬものでせうか?』
068宣伝使(せんでんし)『迷(まよ)へる者(もの)よ! 汝(なんぢ)等(ら)ウラル教(けう)の神(かみ)の福音(ふくいん)を聞(き)け! 人(ひと)の斯世(このよ)に生(うま)れ来(きた)るや、069幽窮(いうきう)無限(むげん)の天地(てんち)に比(くら)ぶれば、070旦(あした)の露(つゆ)の短(みじか)き命(いのち)のみ。071現世(げんせ)は仮(かり)の浮世(うきよ)なるぞ、072苦(くるし)みの家(いへ)なるぞ、073火宅(くわたく)なるぞ。074何(なに)を苦(くるし)んで現世(げんせ)にあこがれ、075苦(くるし)みを求(もと)めむとするか。076時(とき)は近(ちか)づきたり、077審判(さばき)の時(とき)は……汝(なんぢ)等(ら)、078わが前(まへ)に悔(く)い改(あらた)め、079盤古(ばんこ)大神(だいじん)の前(まへ)に今迄(いままで)の重(おも)き罪(つみ)を謝(しや)せよ。080然(しか)らば汝(なんぢ)が生命(せいめい)は仮令(たとへ)飢(う)ゑ死(じ)にする共(とも)、081其(その)霊魂(れいこん)は永遠(ゑいゑん)の花(はな)咲(さ)きみのる天国(てんごく)に救(すく)はれ、082無限(むげん)の栄楽(ゑいらく)を受(う)け、083常世(とこよ)の春(はる)を楽(たのし)む事(こと)を得(え)む。084悔(く)い改(あらた)むるは今(いま)なるぞ。085あゝ愚(おろか)なる者(もの)よ、086汝(なんぢ)等(ら)は神(かみ)の国(くに)の尊(たふと)きことを知(し)らず、087物質(ぶつしつ)上(じやう)の欲(よく)に囚(とら)はれて、088焦熱(せうねつ)地獄(ぢごく)の消(き)えぬ火(ひ)に焼(や)かれて、089身(み)を苦(くるし)まむとするか。090天国(てんごく)は近(ちか)づけり、091悔(く)い改(あらた)めて、092救世(きうせい)の福音(ふくいん)をきけ! 神(かみ)は汝(なんぢ)と倶(とも)にあり、093汝(なんぢ)は清(きよ)き神(かみ)の僕(しもべ)として、094日夜(にちや)に神(かみ)をほめ称(たた)へよ!』
095と諄々(じゆんじゆん)として説(と)いてゐる。
096乙『宣伝使(せんでんし)様(さま)、097あなたの御(お)話(はなし)は誠(まこと)に結構(けつこう)で御座(ござ)いますが、098吾々(われわれ)五(ご)人(にん)は今(いま)や瀕死(ひんし)の境(さかひ)に陥(おちい)り現(げん)に地獄(ぢごく)の苦(くるし)みを受(う)けてをります。099現在(げんざい)目(め)の前(まへ)に恋(こひ)しき父(ちち)は飢(うゑ)に倒(たふ)れ、100妻(つま)亦(また)倒(たふ)れ、101兄弟(けうだい)姉妹(しまい)幼児(ようじ)に至(いた)る迄(まで)、102飢饉(ききん)の為(ため)に斃(たほ)れ亡(ほろ)び行(ゆ)く此(この)有様(ありさま)、103天国(てんごく)に救(すく)ひ給(たま)ふは有難(ありがた)しとは思(おも)へ共(ども)、104パンを与(あた)へ給(たま)はずば、105吾(われ)等(ら)は生(い)くるを得(え)ず、106如何(いか)なれば此(この)惨状(さんじやう)を神(かみ)は救(すく)ひ給(たま)はざるか!』
107宣伝使(せんでんし)『吾(わ)れは天国(てんごく)の福音(ふくいん)を汝(なんぢ)等(ら)に伝(つた)ふる聖職(せいしよく)なり。108汚(けが)れ、109濁(にご)り切(き)つたる此(この)現世(げんせ)に執着(しふちやく)せず、110神(かみ)の御(お)召(め)しの手(て)に曳(ひ)かれて、111現世(げんせ)を後(あと)に天国(てんごく)に至(いた)るこそ、112最上(さいじやう)至極(しごく)の楽(たのし)みならむ。113汝(なんぢ)等(ら)神(かみ)の国(くに)の真相(しんさう)を悟(さと)らば、114現世(げんせ)を厭(いと)ひて、115直(ただち)に死(し)を見(み)ること、116眠(ねむ)るが如(ごと)く且(か)つ甘露(かんろ)を嘗(な)むるが如(ごと)き法悦(はふえつ)の喜(よろこ)びに充(み)たされむ。117信仰(しんかう)浅(あさ)き者(もの)よ! 汝(なんぢ)等(ら)神(かみ)に来(きた)りて神(かみ)を称(たた)へよ、118神(かみ)は汝(なんぢ)と倶(とも)にましますぞ、119神(かみ)の御手(みて)にひかれて天国(てんごく)浄土(じやうど)に至(いた)るはこれ人生(じんせい)の最大(さいだい)目的(もくてき)の遂行(すゐかう)であるぞよ』
120乙『何卒(どうぞ)一塊(いつくわい)の食物(しよくもつ)を与(あた)へて下(くだ)さることは出来(でき)ますまいか? あなたは神(かみ)の福音(ふくいん)を伝(つた)へ給(たま)ふ宣伝使(せんでんし)ならば、121現在(げんざい)の吾(われ)等(ら)を救(すく)ひ、122吾(われ)等(ら)をして生(い)き乍(なが)ら天国(てんごく)の福音(ふくいん)を悟(さと)り、123神業(しんげふ)に参加(さんか)せしめ給(たま)はずや。124今(いま)吾々(われわれ)は如何(いか)に有難(ありがた)き福音(ふくいん)なればとて、125飢(うゑ)に迫(せま)りし苦(くる)しき身(み)の上(うへ)、126現世(げんせ)に於(おい)て救(すく)はれず斯(かく)の如(ごと)き悲惨(ひさん)の境遇(きやうぐう)にある者(もの)、127いかでか天国(てんごく)の春(はる)を楽(たのし)むことを得(え)む、128……宣伝使(せんでんし)様(さま)! 斯(かく)の如(ごと)く此(この)谷間(たにあひ)には御倉魚(みくらうを)が沢山(たくさん)に居(を)りますが、129之(これ)を頂(いただ)いて食物(しよくもつ)となし、130飢(うゑ)を凌(しの)ぐことは許(ゆる)されぬでせうか?』
131宣伝使(せんでんし)『生(せい)ある者(もの)を殺(ころ)す勿(なか)れ、132汝(なんぢ)も亦(また)殺(ころ)されむ!』
133丙『あーあ、134サツパリモウ駄目(だめ)だ、135何程(なにほど)有難(ありがた)い事(こと)を聞(き)かして貰(もら)うても、136吾々(われわれ)を救(すく)ふ者(もの)は、137食物(しよくもつ)より外(ほか)にはないと思(おも)ふ。138此(この)通(とほ)り沢山(たくさん)の魚(うを)が泳(およ)ぎ居(ゐ)るを見乍(みなが)ら、139捉(とら)へて食(く)ふことを許(ゆる)されず、140もし食(くら)はば忽(たちま)ち神罰(しんばつ)にふれ、141眼(め)は眩(くら)み、142口(くち)は曲(まが)り、143顔(かほ)には斑紋(はんもん)を生(しやう)じ、144忽(たちま)ち吾身(わがみ)が吾(わが)姿(すがた)に恐(おそ)るる如(ごと)き形相(ぎやうさう)になつて了(しま)ふ……あゝ、145如何(どう)したらよからうかなア』
146と数多(あまた)の飢人(うゑびと)は吐息(といき)をもらし、147溌溂(はつらつ)たる谷川(たにがは)の魚(うを)を眺(なが)めつつあつた。
148 言依別(ことよりわけの)命(みこと)は国依別(くによりわけ)と共(とも)に、149宣伝歌(せんでんか)を歌(うた)ひ乍(なが)ら、150国魂(くにたま)の神(かみ)を祭(まつ)りたる御倉(みくら)の社(やしろ)に参拝(さんぱい)し、151声(こゑ)も涼(すず)しく天津(あまつ)祝詞(のりと)を奏上(そうじやう)し天(あま)の数歌(かずうた)を唄(うた)ひ了(をは)り、152ウラル教(けう)の宣伝使(せんでんし)が数多(あまた)の信徒(しんと)に向(むか)ひ、153天国(てんごく)の福音(ふくいん)を宣(の)べ伝(つた)へ居(ゐ)たる前(まへ)に宣伝歌(せんでんか)を歌(うた)ひ乍(なが)ら進(すす)み行(ゆ)く。
154言依別(ことよりわけ)『神(かみ)が表(おもて)に現(あら)はれて
155善(ぜん)と悪(あく)とを立(たて)わける
156此(この)世(よ)を造(つく)りし神直日(かむなほひ)
157心(こころ)も広(ひろ)き大直日(おほなほひ)
158只(ただ)何事(なにごと)も人(ひと)の世(よ)は
159直日(なほひ)に見直(みなほ)せ聞直(ききなほ)せ
160過(あやま)ちあれば宣(の)り直(なほ)す
161仁慈(じんじ)無限(むげん)の三五(あななひ)の
162教(をしへ)を守(まも)らす百(もも)の神(かみ)
163此(この)国人(くにびと)の惨状(さんじやう)を
164完美(うまら)に委曲(つばら)に見(み)そなはし
165飢(うゑ)に悩(なや)める民草(たみくさ)の
166生命(いのち)を助(たす)け給(たま)へかし
167其(その)生魂(いくたま)は天国(てんごく)の
168恵(めぐみ)を如何(いか)に受(う)くる共(とも)
169今(いま)目(ま)のあたり身体(からたま)の
170悩(なや)みを救(すく)ひ与(あた)へずば
171心(こころ)は拗(ねぢ)け魂(たま)くもり
172神(かみ)の御国(みくに)に昇(のぼ)るべき
173珍(うづ)の身魂(みたま)も忽(たちま)ちに
174根底(ねそこ)の国(くに)に陥(おちい)らむ
175此(この)谷川(たにがは)を見(み)わたせば
176所狭(ところせ)き迄(まで)泳(およ)ぎ居(ゐ)る
177げに美(うる)はしき御倉魚(みくらうを)
178彼(かれ)等(ら)に与(あた)へ給(たま)へかし
179神(かみ)は霊界(れいかい)のみならず
180此(この)世(よ)に住(す)める人々(ひとびと)を
181一人(ひとり)も残(のこ)さず御恵(みめぐみ)の
182露(つゆ)にうるはせ永久(とこしへ)の
183命(いのち)を守(まも)らせ給(たま)ふなり
184三五教(あななひけう)の神司(かむづかさ)
185言依別(ことよりわけ)や国依別(くによりわけ)の
186教司(をしへつかさ)は今(いま)ここに
187国魂神(くにたまがみ)に詣(まう)で来(き)て
188これの谷間(たにま)に寄(よ)り来(きた)る
189飢(うゑ)になやめる人々(ひとびと)を
190視(み)るに忍(しの)びず天地(あめつち)の
191神(かみ)の御前(みまへ)に請(こ)ひまつる
192神(かみ)の使(つかひ)の魚(うを)ならば
193世人(よびと)の命(いのち)を保(たも)つ為(ため)
194神(かみ)よ! 吾(われ)等(ら)に賜(たま)へかし
195吾(わ)れはこれより諸人(もろびと)に
196谷間(たにま)の魚(うを)を生捕(いけど)らせ
197命(いのち)を助(たす)け与(あた)へなむ
198あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
199御霊(みたま)幸(さち)はひましませよ』
200と歌(うた)ひ乍(なが)ら進(すす)み来(きた)る。201此(この)宣伝歌(せんでんか)を聞(き)いて、202ウラル教(けう)の宣伝使(せんでんし)は眼(め)を釣(つ)りあげ、203言依別(ことよりわけ)の前(まへ)にツカツカと進(すす)み寄(よ)り、
204宣伝使(せんでんし)『私(わたし)はウラル教(けう)の宣伝使(せんでんし)ブールと申(まを)す者(もの)、205只今(ただいま)あなたの宣伝歌(せんでんか)を承(うけたま)はらば、206実(じつ)に怪(け)しからぬことを仰(あふ)せらるる様(やう)で御座(ござ)る。207神(かみ)は一切(いつさい)の生物(せいぶつ)を殺(ころ)す勿(なか)れと諭(さと)させ給(たま)ふ。208然(しか)るに神(かみ)の使(つか)はせ給(たま)ふ谷間(たにま)の魚(うを)を生捕(いけど)り、209数多(あまた)の人々(ひとびと)に食(く)はしめ、210命(いのち)を助(たす)けやらむとの御(お)言葉(ことば)……天則(てんそく)違反(ゐはん)も実(じつ)に甚(はなはだ)しと申(まを)さねばなりますまい。211それだから三五教(あななひけう)の教(をしへ)はいつ迄(まで)も世(よ)を暗黒(あんこく)に導(みちび)くもので御座(ござ)る。212速(すみやか)に神(かみ)に向(むか)つて宣(の)り直(なほ)しをなさるが良(よ)からう。213吾々(われわれ)は其(その)言葉(ことば)を聞(き)いては聞捨(ききずて)なりませぬ。214サア返答(へんたふ)を承(うけたまは)りませう』
215言依別(ことよりわけ)『成程(なるほど)神(かみ)は至仁(しじん)至愛(しあい)にましませば、216其(その)御心(みこころ)より生物(せいぶつ)の命(いのち)を取(と)ることを嫌(きら)はせ給(たま)ふは、217当然(たうぜん)の理(り)で御座(ござ)る。218さり乍(なが)ら人(ひと)の生命(いのち)が大切(たいせつ)か、219魚(うを)の命(いのち)が大切(たいせつ)で御座(ござ)るか? 能(よ)く御(お)考(かんが)へになれば分(わか)るでせう』
220ブール『人間(にんげん)は罪(つみ)の塊(かたまり)なれば、221生(い)き乍(なが)ら、222地獄(ぢごく)の苦(くるし)みを受(う)くるは当然(たうぜん)で御座(ござ)る。223夫(そ)れ故(ゆゑ)に無限(むげん)絶対力(ぜつたいりよく)のおはします世界(せかい)の造(つく)り主(ぬし)盤古(ばんこ)神王(しんわう)の御徳(みとく)を賛美(さんび)し、224苦(くる)しみ、225悩(なや)み災(わざはひ)多(おほ)き現(うつ)し世(よ)を捨(す)てて、226一(いち)時(じ)も早(はや)く天国(てんごく)に上(のぼ)るを以(もつ)て、227人生(じんせい)の本領(ほんりやう)と致(いた)すでは御座(ござ)らぬか? 罪(つみ)もなき神(かみ)の御(おん)使(つかひ)の御倉魚(みくらうを)を取(と)り食(くら)ひ、228汚(けが)れたる人間(にんげん)の腹(はら)に葬(はうむ)らむか、229神罰(しんばつ)立所(たちどころ)に至(いた)り、230永遠(えいゑん)に地獄(ぢごく)の苦(くるし)みを受(う)くるは、231神教(しんけう)のきめさせ給(たま)ふ所(ところ)で御座(ござ)る。232あなたは天(あめ)が下(した)の人民(じんみん)を真(しん)に愛(あい)し給(たま)ふにあらず、233神(かみ)の心(こころ)に背(そむ)かせ、234永遠(えいゑん)に地獄(ぢごく)の苦(くる)しみを受(う)けさせむとし給(たま)ふ無慈悲(むじひ)の御(おん)仕打(しうち)、235吾々(われわれ)は天下(てんか)万民(ばんみん)の為(ため)、236飽(あ)く迄(まで)もあなたと主義(しゆぎ)の為(ため)に戦(たたか)はねばなりませぬ。237論(ろん)より証拠(しようこ)、238此(この)谷川(たにがは)の魚(うを)を取食(とりくら)ふ者(もの)たまたまある時(とき)は、239神(かみ)の怒(いか)りにふれて、240天罰(てんばつ)立所(たちどころ)に至(いた)るは国人(くにびと)の既(すで)に既(すで)に知悉(ちしつ)する所(ところ)、241あなたは此(この)国(くに)の風習(ふうしふ)をも知(し)らず、242又(また)神(かみ)の掟(をきて)をも弁(わきま)へず、243左様(さやう)な乱暴(らんばう)な事(こと)を仰(あふ)せらるるは、244甚(はなはだ)以(もつ)て悪虐(あくぎやく)無道(ぶだう)の御(ご)精神(せいしん)と申(まを)さねばなりますまい』
245言依別(ことよりわけ)『今日(こんにち)は人民(じんみん)将(まさ)に餓死(がし)せむとする危急(ききふ)存亡(そんばう)の場合(ばあひ)なれば、246如何(いか)に神(かみ)の御使(みつかい)なればとて、247仁慈(じんじ)無限(むげん)の神(かみ)の之(これ)を許(ゆる)させ給(たま)はざる道理(だうり)がありませうか? モシ左様(さやう)な神(かみ)ありとせば、248取(と)りも直(なほ)さず八岐(やまた)大蛇(をろち)の醜神(しこがみ)か、249或(あるひ)は金毛(きんまう)九尾(きうび)の悪狐(あくこ)か、250又(また)は曲鬼(まがおに)の所為(しよゐ)で厶(ござ)らう。251吾々(われわれ)はあなたの御(お)言葉(ことば)こそ、252神(かみ)の御子(みこ)たる人間(にんげん)を魔道(まだう)に導(みちび)き苦(くるし)むる、253悪虐(あくぎやく)無道(ぶだう)の行方(やりかた)と思(おも)はねばならなくなりました。254決(けつ)して決(けつ)して此(この)魚(うを)を取(と)り食(くら)へばとて、255神罰(しんばつ)の当(あた)るべき理由(りいう)は毛頭(まうとう)ありませぬ。256私(わたし)は断言(だんげん)致(いた)しますよ』
257ブール『三五教(あななひけう)の教(をしへ)は実(じつ)に無道(ぶだう)極(きは)まる無慈悲(むじひ)の教(をしへ)では御座(ござ)らぬか。258然(しか)らばあなた試(こころ)みに、259斯(かく)の如(ごと)く沢山(たくさん)な魚(うを)の中(うち)、260仮令(たとへ)小魚(こうを)の一匹(いつぴき)でも吾(わが)目(め)の前(まへ)にて捉(とら)へ食(く)つて御覧(ごらん)なさい。261忽(たちま)ち神罰(しんばつ)至(いた)ることは火(ひ)を睹(み)るよりも明(あき)らかな事実(じじつ)で御座(ござ)る。262何程(なにほど)理窟(りくつ)は立派(りつぱ)に立(た)つても、263事実(じじつ)其(その)物(もの)には勝(か)つことは出来(でき)ますまい……サアこれでもお食(あが)りになる勇気(ゆうき)がありますか?』
264国依別(くによりわけ)『ウラル教(けう)のブールさまとやら、265何(なん)とあなたは、266訳(わけ)のわからぬことを云(い)ひますなア。267ウラル教(けう)はそんな狭義(けふぎ)な教(をしへ)で御座(ござ)いますか? それでは誠(まこと)の神(かみ)様(さま)とは申(まを)されますまい。268論(ろん)より証拠(しようこ)、269私(わたくし)が今(いま)、270目(め)の前(まへ)にて、271神(かみ)の使(つかひ)と称(しよう)する御倉魚(みくらうを)を捉(とら)へ、272茲(ここ)にて作(つく)り身(み)と致(いた)し、273食(く)つてお目(め)にかけませう。274其(その)代(かは)り万々一(まんまんいち)、275私(わたくし)の身(み)の上(うへ)に対(たい)し、276此(この)場(ば)に於(おい)て神罰(しんばつ)至(いた)ることあらば三五教(あななひけう)全部(ぜんぶ)を挙(あ)げてウラル教(けう)の軍門(ぐんもん)に兜(かぶと)を脱(ぬ)ぎませう。277之(こ)れに反(はん)して、278私(わたくし)が此(この)魚(うを)を取(と)り食(くら)ひ何(なに)の反応(はんのう)もなしとせば、279あなたは如何(どう)して下(くだ)さる考(かんが)へですか? 先(ま)づこれから第一(だいいち)にお約束(やくそく)をして置(お)かねばなりますまい。280御(ご)返答(へんたふ)は如何(いかが)で御座(ござ)いますか?』
281ブール『それは面白(おもしろ)う御座(ござ)らう。282サア美事(みごと)、283神(かみ)の使(つかひ)の御倉魚(みくらうを)、284私(わたし)の目(め)の前(まへ)で捕獲(ほくわく)して取(と)り食(くら)つて御覧(ごらん)なさい。285何(なん)の反応(はんのう)もなければ、286吾々(われわれ)はウラル教(けう)全部(ぜんぶ)を引率(いんそつ)して、287貴教(きけう)の軍門(ぐんもん)に兜(かぶと)を脱(ぬ)ぎませう』
288国依別(くによりわけ)『確(たし)かですか? キツト間違(まちがひ)はありますまいなア』
289ブール『苟(いやし)くも宣伝使(せんでんし)の言葉(ことば)に二言(にごん)があつて堪(たま)らうか。290サア早(はや)く御(ご)決行(けつかう)なされよ』
291国依別(くによりわけ)『ヤア有難(ありがた)い! 同(おな)じ事(こと)なら一(ひと)つ、292一番(いちばん)大(おほ)きさうな奴(やつ)から取(と)つて、293舌鼓(したつづみ)を打(う)たうかなア。294ズイ分(ぶん)甘(うま)さうな魚(さかな)だ。295何(なに)を食(く)つてゐるのか知(し)らぬが能(よ)くマア肥太(こえふと)つてゐよるワイ。296……モシモシ教主(けうしゆ)様(さま)、297面白(おもしろ)い事(こと)になつて来(き)ました。298あなた能(よ)くブール宣伝使(せんでんし)の言葉(ことば)を腹(はら)へ入(い)れておいて下(くだ)さいませや。299あゝ面白(おもしろ)い面白(おもしろ)い!』
300と云(い)ひ乍(なが)ら国依別(くによりわけ)は、301谷川(たにがは)に下(お)り立(た)ち、302水(みづ)と魚(うを)と殆(ほとん)ど等分(とうぶん)になつて居(を)る数多(あまた)の魚(うを)の群(むれ)に飛(と)んで入(い)り、303三尺(さんじやく)計(ばか)りの溌溂(はつらつ)たる斑紋(はんもん)の美(うる)はしき御倉魚(みくらうを)を一尾(いちび)抱(かか)えて、304ブールの前(まへ)に現(あら)はれ来(きた)り、
305国依別(くによりわけ)『どうも此奴(こいつ)は最(もつと)も尤物(いうぶつ)と見(み)えます。306同(おな)じ神(かみ)のお使(つかひ)でも、307一寸(ちよつと)師団長(しだんちやう)格(かく)と云(い)ふ代物(しろもの)ですから、308同(おな)じ殺(ころ)して食(く)つて神罰(しんばつ)が当(あた)るのなら、309大(おほ)きな甘(うま)さうな奴(やつ)を平(たひら)げる方(はう)が利益(りえき)ですからなア。310何程(なにほど)霊主(れいしゆ)体従(たいじう)だと云(い)つても、311肉体(にくたい)のある限(かぎ)り、312胃(ゐ)の腑(ふ)の虫(むし)が食物(しよくもつ)を請求(せいきう)する。313ジツとして怺(こら)へ切(き)れるものではない。314……サア、315ブールさま始(はじ)めそこに居並(ゐなら)ぶ数多(あまた)の人々(ひとびと)、316今(いま)三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)国依別(くによりわけ)が、317神(かみ)さまの禁(きん)じ給(たま)うたと云(い)ふ此(この)魚(うを)を叩(たた)き殺(ころ)して作(つく)りとなし、318皆(みな)さまの目前(もくぜん)に於(おい)て、319ムシヤ ムシヤ ムシヤとやつて見(み)ませう。320私(わたくし)が食(く)つて神罰(しんばつ)が当(あた)らなければ、321皆(みな)さまにもキツと神罰(しんばつ)の当(あた)るものでない。322人(ひと)はパンのみにて活(い)くる者(もの)に非(あら)ずとか言(い)つて威張(ゐば)つて居(ゐ)るどこやらの宣伝使(せんでんし)の様(やう)に、323私(わたくし)はそんな気楽(きらく)なことは出来(でき)ませぬよ。324人(ひと)は霊(れい)のみにて活(い)くる者(もの)に非(あら)ずと、325反対(はんたい)に云(い)ひたくなつて来(く)るのです。326……パンなくて何(なん)のおのれが人間(にんげん)かな……だ』
327と云(い)ひ乍(なが)ら、328短刀(たんたう)を取出(とりだ)し、329溌溂(はつらつ)たる此(この)大魚(たいぎよ)を、330喉(のど)のあたりをグサと刺(さ)し、331一思(ひとおも)ひに殺(ころ)し、332手早(てばや)く肉片(にくへん)を取(と)つては頬張(ほうば)り頬張(ほうば)り、
333国依別(くによりわけ)『アハヽヽヽ、334何(なん)とも云(い)へぬ甘(うま)い味(あぢ)が致(いた)すワイ。335これ丈(だけ)魚(うを)が無尽蔵(むじんざう)に居(を)る以上(いじやう)は、336五十万(ごじふまん)や百万(ひやくまん)の人間(にんげん)を養(やしな)ふのは易(やす)いことだ。337あゝ早(はや)く口(くち)が歪(ゆが)まぬかいなア、338物(もの)が云(い)へぬようにならぬかいなア、339眼(め)がつぶれさうなものだ、340顔(かほ)一面(いちめん)に斑紋(はんもん)がなぜ出来(でき)てくれぬのだ。341出来(でき)ぬ筈(はず)だよ、342神(かみ)様(さま)が人間(にんげん)に与(あた)へて生命(いのち)をつながさうと思召(おぼしめ)し、343此(この)国(くに)に限(かぎ)つて此(この)魚(うを)をお造(つく)り遊(あそ)ばしたのだ。344斯(こ)う云(い)ふ饑饉(ききん)が来(き)た時(とき)の用意(ようい)に、345神(かみ)様(さま)が食(く)つてはならないと云(い)つて、346平素(ふだん)はワザとお差止(さしと)めになり、347蓄(たくは)へておいて下(くだ)さつたのだ。348……モシ、349ブールさま、350どうで御座(ござ)います。351気(き)の毒(どく)乍(なが)ら、352ウラル教(けう)は三五教(あななひけう)の軍門(ぐんもん)に降服(かうふく)をなさらにやなりますまい……ヤアヤア皆(みな)の方々(かたがた)、353決(けつ)して決(けつ)して驚(おどろ)くには及(およ)びませぬ。354此(この)通(とほ)り私(わたくし)がお手本(てほん)を示(しめ)しました。355神(かみ)様(さま)の与(あた)へて下(くだ)さつた、356此(この)餌(ゑ)さを頂(いただ)きもせずに、357餓(かつ)ゑて死(し)ぬとは何(なん)の事(こと)でせう。358サア早(はや)くお食(あが)りなさい』
359 此(この)声(こゑ)に数多(あまた)の人々(ひとびと)はヤツと安心(あんしん)したものの如(ごと)く、360矢庭(やには)に川(かは)に飛(と)び込(こ)み、361手頃(てごろ)の魚(うを)を抱(いだ)き上(あ)げ、362其(その)場(ば)で嬉(うれ)しさうに舌鼓(したつづみ)をうつて食(く)つてゐる。363ウラル教(けう)のブール始(はじ)め四五(しご)の宣伝使(せんでんし)は何時(いつ)の間(ま)にか、364コソコソと此(この)場(ば)より姿(すがた)を隠(かく)して了(しま)つた。
365 これより、366此(この)国人(くにびと)はウラル教(けう)に愛想(あいさう)を尽(つ)かし、367国魂(くにたま)の神(かみ)の社(やしろ)を日夜(にちや)に崇敬(すうけい)し、368且(か)つ三五教(あななひけう)の固(かた)き信者(しんじや)となつて了(しま)つた。
369 言依別(ことよりわけの)命(みこと)は国依別(くによりわけ)に向(むか)ひ、
370言依別『私(わたし)は是(これ)からテルの国(くに)を越(こ)え、371直(ただ)ちにウヅの都(みやこ)に直行(ちよくかう)致(いた)しますから、372あなたは此処(ここ)に暫(しばら)く止(とどま)つて、373国人(くにびと)に教(をしへ)を宣(の)べ伝(つた)へ、374それよりヒルの都(みやこ)に渡(わた)りハルの国(くに)を一巡(ひとめぐ)りしてウヅへ廻(まは)つて下(くだ)さい。375其(その)上(うへ)でゆつくり、376改(あらた)めて御(ご)相談(さうだん)を致(いた)しませう』
377国依別(くによりわけ)『委細(ゐさい)承知(しようち)仕(つかまつ)りました。378左様(さやう)ならば、379是非(ぜひ)に及(およ)びませぬ。380ここでお別(わか)れ致(いた)します。381どうぞ御(ご)健勝(けんしやう)にて御(ご)神務(しんむ)に御(ご)奉仕(ほうし)遊(あそ)ばします様(やう)祈(いの)ります』
382言依別(ことよりわけ)『ハイ有難(ありがた)う』
383と宣伝歌(せんでんか)を谷(たに)の谺(こだま)に響(ひびき)かせつつ、384ウヅの国(くに)を目当(めあ)てに進(すす)み行(ゆ)く。
385 国依別(くによりわけ)は御倉(みくら)の社(やしろ)に暫(しばら)く足(あし)を止(とど)め、386詣(まゐ)り来(く)る国人(くにびと)に教(をしへ)を伝(つた)へ洗礼(せんれい)を施(ほどこ)した。387是(これ)より三五教(あななひけう)の教(をしへ)は旭日(きよくじつ)昇天(しようてん)の勢(いきほ)ひとなりける。
388(大正一一・八・一五 旧六・二三 松村真澄録)
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