霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第七章 提燈(ちやうちん)の光(ひかり)〔八四九〕

インフォメーション
著者: 巻: 篇: よみ(新仮名遣い):
章: よみ(新仮名遣い): 通し章番号:
口述日: 口述場所: 筆録者: 校正日: 校正場所: 初版発行日:
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]: 主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日: 文字数: OBC :rm3007
愛善世界社版: 八幡書店版: 修補版: 校定版: 普及版: 初版: ページ備考:
001 楠(くすのき)の森(もり)のこかげに蓑(みの)を布(し)き、002木(こ)の間(ま)をもるる九日(ここのか)の月(つき)の光(ひかり)を浴(あ)び乍(なが)ら、003早速(さつそく)眠(ねむ)りもならず、004今日(けふ)一(いち)日(にち)に起(おこ)りし不思議(ふしぎ)の運命(うんめい)を物語(ものがた)りつつ、005夜(よ)を更(ふ)かした。006はしやぎ切(き)つたカールは末子姫(すゑこひめ)、007捨子姫(すてこひめ)の渡来(とらい)に何(なん)となく心(こころ)欣々(いそいそ)として勇(いさ)み立(た)ち、008又(また)バラモン教(けう)の石熊(いしくま)教主(けうしゆ)が苦(く)もなく、009三五教(あななひけう)に帰順(きじゆん)した嬉(うれ)しさに心気(しんき)興奮(こうふん)して眠(ねむ)られぬ儘(まま)に、010日頃(ひごろ)の饒舌車(しやべりぐるま)を運転(うんてん)し始(はじ)めた。
011カール『空(そら)に飛(と)ぶ天狗(てんぐ)の鼻(はな)の高照山(たかてるやま)の谷底(たにそこ)に、012教(をしへ)の館(やかた)を構(かま)へつつ、013バラモン教(けう)を遠近(をちこち)に、014開(ひら)いて人(ひと)を導(みちび)きし、015心(こころ)も固(かた)き石熊(いしくま)が、016館(やかた)に仕(つか)へし神司(かむづかさ)、017中(なか)にも分(わ)けて男振(をとこぶ)り、018人(ひと)に優(すぐ)れたカールさま、019あまたの女(をんな)にチヤホヤと、020持囃(もてはや)されて朝夕(あさゆふ)に、021姿(すがた)をうつす水鏡(みづかがみ)、022心(こころ)の波(なみ)も静(しづ)まりて、023教(をしへ)の庭(には)に穿(うが)ちたる、024鏡(かがみ)の池(いけ)に立向(たちむか)ひ、025イヽヽヽ、026吾(わ)れと吾(わが)手(て)にすかし見(み)て、027呆(あき)れ果(は)てたる色男(いろをとこ)、028田舎娘(いなかむすめ)がガヤガヤとカールさまよと取(と)り巻(ま)いて、029騒(さわ)ぐは強(あなが)ち無理(むり)でない、030げにも五月蠅(うるさ)き人(ひと)の世(よ)や。031何(なん)の因果(いんが)で此(この)様(やう)に、032玉子(たまご)に目鼻(めはな)を付(つ)けたような、033お色(いろ)の白(しろ)い好(よ)い男(をとこ)、034惚(ほれ)られる男(をとこ)は見目(みめ)よしと、035立派(りつぱ)に生(うま)れた身(み)の因果(いんが)、036宅(うち)の女房(にようばう)が気(き)を揉(も)んで、037悋気(りんき)するのも無理(むり)でない。038うるさの娑婆(しやば)に永(なが)らへて、039惚(ほ)れた女(をんな)の顔(かほ)を見(み)る、040私(わし)の心(こころ)のうるささよ。041思(おも)へば思(おも)へば先(さき)の世(よ)に、042如何(いか)なる善事(ぜんじ)を尽(つく)せしか、043今更(いまさら)云(い)ふも野暮(やぼ)乍(なが)ら、044なぜにモ少(すこ)しヒヨツトコに、045生(うま)れて来(こ)なんだであらう、046朝(あさ)な夕(ゆふ)なに神(かみ)の前(まへ)、047どうぞ煩雑(うるさ)いナイス奴(め)が私(わし)の事(こと)を思(おも)ひ切(き)り、048後足(あとあし)で砂(すな)でもかけて唾(つば)吐(は)いて、049肱鉄砲(ひぢでつぱう)の数々(かずかず)を喰(く)はして呉(く)れる醜男(ぶをとこ)に、050造(つく)り直(なほ)して下(くだ)さんせ、051シーナの様(やう)なヒヨツトコが、052去年(きよねん)の秋(あき)の末(すゑ)つ頃(ごろ)、053見目(みめ)容(かたち)よき二人(ふたり)の女(をんな)、054高照山(たかてるやま)の麓(ふもと)まで、055漸(や)う漸(や)う進(すす)み来(きた)るのを、056目敏(めざと)く眺(なが)めて涎(よだれ)くり、057目(め)を細(ほそ)くしてにじり寄(よ)り、058コレコレモウシ旅(たび)の人(ひと)、059どこの何方(どなた)か知(し)らね共(ども)、060私(わたし)はシーナと申(まを)す者(もの)、061仮令(たとへ)姿(すがた)は此(この)様(やう)に、062蜥蜴(とかげ)の様(やう)な顔(かほ)なれど、063心(こころ)の中(なか)のドン底(そこ)に、064誠(まこと)の花(はな)は咲(さ)き乱(みだ)れ、065実(げ)に芳(かん)ばしき男(をとこ)ぞや、066馬(うま)には乗(の)つて見(み)よ、067人(ひと)には添(そ)うて見(み)よ、068世(よ)の諺(ことわざ)もあるなれば、069バラモン教(けう)の神司(かむづかさ)、070中(なか)にも分(わ)けて神徳(しんとく)の、071備(そな)はりゐます此(この)わしに、072秋波(しうは)を送(おく)り一時(ひととき)も、073早(はや)く私(わたし)の側(そば)に寄(よ)り、074麝香(じやかう)の様(やう)な男(をとこ)の匂(にほひ)、075一度(いちど)は嗅(か)いで見(み)やしやんせ、076男(をとこ)ひでりもない世(よ)の中(なか)に、077お前(まへ)の様(やう)な鯱面(しやつつら)男(をとこ)、078いかに男(をとこ)にかつえたとて、079どうしてこれが忍(しの)ばれよう、080なんぞと野暮(やぼ)な撥(は)ね言葉(ことば)、081言(い)はしやんすかは知(し)らね共(ども)、082人(ひと)は見(み)かけに寄(よ)らぬ者(もの)、083仮令(たとへ)南瓜(かぼちや)と言(い)はれても、084色好(いろよ)い茄子(なす)に比(くら)ぶれば、085天地(てんち)隔(へだ)つる味(あぢ)がある。086いがで包(つつ)んだ柴栗(しばくり)も、087恐(こわ)いようには見(み)ゆれ共(ども)、088開(ひら)いて見(み)れば芳(かん)ばしき、089三(み)つの御霊(みたま)が御座(ござ)るぞえ。090渋皮(しぶかは)一(ひと)つ剥(は)いだなら、091女(をんな)の好(す)きな薩摩芋(さつまいも)、092芝居(しばゐ)蒟蒻(こんにやく)南瓜(かぼちや)より、093百倍(ひやくばい)千倍(せんばい)いやまさる、094云(い)ふに言(い)はれぬ味(あぢ)がある。095私(わたし)の願(ねがひ)を一通(ひととほ)り、096聞(き)いてお呉(く)れとすり寄(よ)つて、097口説(くど)けば二人(ふたり)は立止(たちど)まり、098どこの何方(どなた)か知(し)らね共(ども)、099砂原(すなばら)夕立(ゆふだち)か土手(どて)南瓜(かぼちや)、100薬鑵頭(やくわんあたま)に瓢箪面(へうたんづら)、101万金丹(まんきんたん)を計(はか)るよな、102デコボコだらけの其(その)顔(かほ)に、103何程(なにほど)醜(みにく)い女(をんな)ぢやとて、104どうして、105どうして秋波(しうは)が送(おく)られう。106是(これ)ばつかりはシーナさま、107お許(ゆる)しなされて下(くだ)さりませと、108態(てい)能(よ)く打出(うちだ)す肱鉄砲(ひぢでつぱう)、109此方(こなた)は中々(なかなか)屈(くつ)せばこそ、110情火(じやうくわ)の光(ひかり)炎々(えんえん)と、111天(てん)に冲(ちう)する凄(すさ)まじさ、112一旦(いつたん)男(をとこ)の言(い)ひ出(だ)した、113言葉(ことば)をお前(まへ)に反古(ほご)にされ、114如何(どう)して男(をとこ)が立(た)つ者(もの)か、115破(やぶ)れかぶれの此(この)私(わたし)、116ウンと言(い)はさにやおきませぬと、117又(また)も執拗(しつか)う摺寄(すりよ)つて、118恋(こひ)の涙(なみだ)の一雫(ひとしづく)、119落(おと)せば二人(ふたり)はあざ笑(わら)ひ、120コレコレシーナの爺(ぢい)さまへ、121お前(まへ)の顔(かほ)と御(ご)相談(さうだん)、122遊(あそ)ばしませよ余(あんま)りぢや、123私(わたし)の好(すき)なはカールさま、124あんなお方(かた)と末永(すえなが)う、125添(そ)はれる事(こと)はさて措(お)いて、126仮令(たとへ)一夜(いちや)の仮枕(かりまくら)、127それも叶(かな)はぬ事(こと)なれば、128せめてお側(そば)にさぶらうて、129水仕事(みづしごと)門掃(かどは)きや、130褌(まはし)の洗濯(せんたく)喜(よろこ)んで、131致(いた)しませうと朝夕(あさゆふ)に、132頼(たの)む神(かみ)様(さま)仏(ほとけ)様(さま)、133妙見(めうけん)様(さま)もチヨロ臭(くさ)い、134ガラクタ国(こく)の法螺貝(ほらがひ)山(やま)に、135止(とど)まり給(たま)ふ天狗(てんぐ)様(さま)に、136お願(ぐわん)を朝夕(あさゆふ)かけ巻(まく)も、137畏(かしこ)き神(かみ)の御(ご)利益(りやく)で、138どうぞ会(あ)はして会(あ)はしてと、139思(おも)ふ女(をんな)の真心(まごころ)を、140仇(あだ)になされたカールさま、141恨(うら)めしいわいなと、142目(め)を拭(ぬぐ)ひイヽヽ、143悔(くや)み歎(なげ)けばシーナさま、144ハツと計(ばか)りに腹(はら)を立(た)て、145男(をとこ)の意地(いぢ)は此(この)通(とほ)り百(ひやく)里(り)二百(にひやく)里(り)三百(さんびやく)里(り)、146筑紫(つくし)の国(くに)の果(はて)までもお前(まへ)の後(あと)を付(つ)け狙(ねら)ひ、147思(おも)ひ通(とほ)さでおくものか、148厭(いや)なら厭(いや)でシーナにも、149覚悟(かくご)があると云(い)ひ乍(なが)ら、150無残(むざん)や二人(ふたり)を谷川(たにがは)に、151力限(ちからかぎ)りに突落(つきおと)し、152人(ひと)の花(はな)と眺(なが)めむよりは一層(いつそう)殺(ころ)して了(しま)うたら、153恋(こひ)の亡執(まうしう)は晴(は)れるだろと、154無法(むはふ)を尽(つく)した其(その)酬(むく)い、155二人(ふたり)の女(をんな)の怨霊(をんりやう)は、156夜(よ)な夜(よ)な青(あを)い火玉(ひだま)となり、157或(あるひ)は髪(かみ)を振乱(ふりみだ)し、158あゝ恨(うら)めしや恨(うら)めしや、159お前(まへ)は気強(きつよ)いシーナさま、160私(わたし)は深(ふか)い谷底(たにそこ)に、161突落(つきおと)されて死(し)にました。162恨(うら)みを晴(は)らさでおくものかと、163夜(よ)な夜(よ)な出(い)づる幽霊(いうれい)姿(すがた)、164さすがのシーナも弱(よわ)り果(は)て、165カールの館(やかた)に尋(たづ)ね来(き)て、166コレコレモウシ、167カールさま、168お前(まへ)に済(す)まぬ事(こと)乍(なが)ら、169テルとハルとの亡霊(ばうれい)を、170どうぞ鎮(しづ)めて下(くだ)さんせ、171お前(まへ)の様(やう)な好(よ)い男(をとこ)、172テルとハルとの亡霊(ばうれい)に、173たつた一言(ひとこと)鎮(しづ)まれと、174云(い)うて呉(く)れたら俺(おれ)達(たち)が、175千言(せんげん)万語(ばんご)を費(つゐや)して、176言訳(ことわけ)するより効(かう)がある。177バラモン教(けう)のお経(きやう)をば、178千僧(せんそう)万僧(まんそう)寄(よ)り合(あ)うて、179唱(とな)へるよりも喜(よろこ)んで、180一度(いちど)に成仏(じやうぶつ)するであろ、181一人(ひとり)の男(をとこ)のあつたら生命(いのち)、182助(たす)けてやらうと思(おも)ふなら、183慈悲(じひ)ぢや情(なさけ)ぢや聞(き)いてたべ、184などと五月蠅(うるさ)い矢(や)の使(つかひ)、185お門(かど)の広(ひろ)い此(この)男(をとこ)、186どうして死(し)んだ女(をんな)にまで、187応対(おうたい)してやる暇(いとま)があらう。188あちら此方(こちら)の女(をんな)奴(め)に、189袖(そで)を引(ひ)かれて何時(いつ)とても、190女房(にようばう)の小言(こごと)を聞(き)く計(ばか)り、191こんな詰(つま)らぬ事(こと)あろか、192どうぞ此(この)苦(く)が逃(のが)れたさ、193珍(うづ)の都(みやこ)に現(あ)れませる、194松若彦(まつわかひこ)の神司(かむづかさ)に、195一伍(いちぶ)一什(しじふ)を打(うち)あけて、196神(かみ)の司(つかさ)に助(たす)けられ、197やうやう此処(ここ)まで安楽(あんらく)に、198女難(ぢよなん)に逃(のが)れて来(き)た男(をとこ)、199思(おも)へば思(おも)へば夢(ゆめ)ぢやつた……アハヽヽヽ』
200石熊(いしくま)『アハヽヽヽ、201喧(やかま)しい奴(やつ)だなア。202丸(まる)で蜂(はち)の巣(す)を側(そば)においた様(やう)なものだ。203モウいい加減(かげん)に沈黙(ちんもく)せぬか』
204カール『ハーイ、205ハイ、206沈黙(ちんもく)致(いた)すで御座(ござ)いませう。207時(とき)は早(はや)子(ね)の正刻(しやうこく)何(いづ)れも様(さま)も、208早(はや)くお休(やす)みなされませい。209某(それがし)は少(すこ)し用事(ようじ)も御座(ござ)らば、210後程(のちほど)寝所(しんじよ)に参(まゐ)りませう』
211石熊(いしくま)『馬鹿(ばか)ツ』
212と大喝(だいかつ)する。
213末子姫(すゑこひめ)『カールさま能(よ)く滑車(かつしや)が運転(うんてん)しましたねい』
214カール『是(これ)が所謂(いはゆる)カール口(くち)と申(まを)します。215アハツハヽヽ』
216 末子姫(すゑこひめ)を始(はじ)め三(さん)人(にん)は漸(やうや)く寝(しん)に就(つ)いた。217カールはどうしても眠(ねむ)られぬが儘(まま)に森(もり)を立出(たちい)で、218路傍(みちばた)に涼(すず)み乍(なが)ら、219小声(こごゑ)に鼻唄(はなうた)を唄(うた)つて涼(すず)んで居(ゐ)る。220向(むか)うの方(はう)より十曜(とえう)の紋(もん)の印(しるし)の入(い)つた丸提灯(まるちやうちん)をブラつかせ乍(なが)ら、221二三(にさん)人(ひと)の話声(はなしごゑ)刻々(こくこく)と近寄(ちかよ)つて来(く)る。222カールは透(す)かし見(み)て、
223カール『ハハー、224来(き)よつたなア。225ウヅの都(みやこ)から松若彦(まつわかひこ)のお使(つかひ)として末子姫(すゑこひめ)、226捨子姫(すてこひめ)様(さま)を御(お)迎(むか)への為(ため)、227出張(しゆつちやう)したのらしい。228一(ひと)つ此(この)木蔭(こかげ)に潜(ひそ)んで、229からかつて見(み)てやらう。230余(あま)り暑(あつ)くつて寝(ね)る訳(わけ)にも行(ゆ)かず、231三(さん)人(にん)の連中(れんぢう)さまは寝(ね)て了(しま)ふなり、232俺(おれ)一人(ひとり)斯(か)うしてブラついてをつても仕方(しかた)ない。233狐(きつね)でも狸(たぬき)でも来(き)やがつたら、234一(ひと)つ相手(あひて)になつて見(み)ようと思(おも)つて居(を)つた所(ところ)だ。235どうやら向(むか)うも三(さん)人(にん)と見(み)える、236ヤア面白(おもしろ)い面白(おもしろ)い』
237と独言(ひとりごと)を云(い)ひ乍(なが)ら、238三(さん)人(にん)の通(とほ)りかかるを待(ま)つて居(ゐ)た。239三(さん)人(にん)はカールがこんな所(ところ)に潜(ひそ)んで居(を)るとは夢(ゆめ)にも知(し)らず、240行過(ゆきす)ぎむとする。241カールは俄(にはか)に女(をんな)の作(つく)り声(ごゑ)、
242カール『モシモシ旅(たび)のお方(かた)さま、243あなたの提灯(ちやうちん)には十曜(とえう)のお印(しるし)が入(はい)つて居(を)ります。244もしや三五教(あななひけう)のお方(かた)では御座(ござ)いませぬか? 妾(わらは)ははるばると海原(うなばら)を渡(わた)り参(まゐ)つた者(もの)で御座(ござ)います。245余(あま)りの急坂(きうはん)で思(おも)ひの外(ほか)、246暇取(ひまど)りまして、247此処(ここ)で一夜(いちや)を明(あ)かさむと主従(しゆじゆう)二人(ふたり)が心(こころ)安(やす)き雨宿(あまやど)り、248珍(うづ)の都(みやこ)へはまだ余程(よほど)里程(みちのり)が御座(ござ)いますかなア?』
249提灯(ちやうちん)持(も)つた男(をとこ)『ハイ、250お察(さつ)しの通(とほ)り、251私(わたくし)は珍(うづ)の都(みやこ)の松若彦(まつわかひこ)様(さま)の身内(みうち)の者(もの)で御座(ござ)います。252そう仰有(おつしや)る貴女(あなた)様(さま)は失礼(しつれい)乍(なが)ら、253素盞嗚(すさのをの)大神(おほかみ)様(さま)の御(おん)娘子(むすめご)、254末子姫(すゑこひめ)様(さま)では御座(ござ)いませぬか?』
255カール『御(お)察(さつ)しの通(とほり)妾(わらは)は末子姫(すゑこひめ)で御座(ござ)んす。256さう云(い)ふあなたは何方(どちら)へお越(こ)し遊(あそ)ばすので御座(ござ)いますか?』
257甲『ハイ、258良(よ)い所(ところ)でお目(め)にかかりました。259実(じつ)は御(ご)神勅(しんちよく)に依(よ)つて貴女(あなた)様(さま)主従(しゆじゆう)、260ウヅの都(みやこ)へお越(こ)し下(くだ)さる事(こと)を教主(けうしゆ)様(さま)がお伺(うかが)ひ遊(あそ)ばされ、261吾々(われわれ)三(さん)人(にん)に……サア是(これ)からお迎(むか)ひに参(まゐ)れキツとテル山峠(やまたうげ)の近辺(きんぺん)でお出会(であ)ひ申(まを)すであらう……と仰(あふ)せられましたので、262実(じつ)は足(あし)の達者(たつしや)な者(もの)ばかりお迎(むか)へに参(まゐ)りました。263……サア是(これ)からお伴(とも)を致(いた)しませう』
264カール『それはそれは御(ご)親切(しんせつ)に有難(ありがた)う御座(ござ)います。265併(しか)し乍(なが)ら妾(わらは)は生(うま)れ付(つ)き一方(いつぱう)の足(あし)が長過(ながす)ぎますので、266あなた方(がた)の御(お)伴(とも)は到底(たうてい)叶(かな)ひませぬ。267何程(なにほど)カールでも草臥(くたびれ)果(は)てて、268お足(みや)が重(おも)くなりまして、269森蔭(もりかげ)に休息(きうそく)……否(いな)安眠(あんみん)致(いた)して居(を)りまする。270どうぞ明日(みやうにち)にして下(くだ)さいませ』
271乙『それは又(また)妙(めう)な事(こと)を仰(あふ)せられます。272安眠(あんみん)して御座(ござ)るお方(かた)が立(た)つてものを仰有(おつしや)るとは、273少(すこ)しく合点(がてん)が参(まゐ)りませぬ』
274カール『所(ところ)変(かは)れば品(しな)変(かは)る、275お家(いへ)変(かは)れば風(ふう)変(かは)る、276嬶(かか)が変(かは)れば顔(かほ)変(かは)ると申(まを)しまして、277妾(わたくし)の国(くに)では立(た)つた儘(まま)安眠(あんみん)を致(いた)し、278寝(ね)乍(なが)らものを申(まを)すのが国(くに)の習慣(しふくわん)で御座(ござ)います』
279乙『何(なん)と妙(めう)で御座(ござ)いますなア。280さうするとあなたは女(をんな)でゐらつしやいますけ共(ども)、281厳(いづ)の御霊(みたま)の御(ご)守護(しゆご)で御座(ござ)いますか? 瑞(みづ)の御霊(みたま)の守護神(しゆごじん)とか申(まを)して、282霊界(れいかい)物語(ものがたり)を作(つく)る男(をとこ)は、283横(よこ)にねたまま、284鼾(いびき)をかき乍(なが)ら話(はなし)をするとか云(い)ふ事(こと)を聞(き)きましたが、285ヤツパリそんな、286国(くに)に依(よ)つて風俗(ふうぞく)があるので御座(ござ)いますかなア』
287カール『それはいろいろと国(くに)に依(よ)つてカール……オツトドツコイ、288アールさうで御座(ござ)いますワイ。289何分(なにぶん)三(さん)人(にん)の連中(れんぢう)が白河(しらかは)夜船(よぶね)で森(もり)の中(なか)にお休(やす)みになつたものですから、290仕方(しかた)なしに一寸(ちよつと)此処(ここ)まで、291末子姫(すゑこひめ)様(さま)の守護神(しゆごじん)が出張店(しゆつちやうてん)を開(ひら)いてゐられる所(ところ)で御座(ござ)います。292アハヽヽヽ』
293甲『ヤア其(その)声(こゑ)はカールさまぢやないか』
294カール『カールだから、295声(こゑ)もカール、296末子姫(すゑこひめ)様(さま)に一寸(ちよつと)カール(代(かは)る)と云(い)ふ言霊(ことたま)だ、297オツホヽヽヽ』
298甲『何(なん)だチツト可怪(をか)しいと思(おも)つて居(を)つた。299一方(いつぱう)の足(あし)が長(なが)すぎると云(い)つた時(とき)から、300チと臭(くさ)いと考(かんが)へて居(を)つたが、301まさか貴様(きさま)がそんな洒落(しやれ)をするとは思(おも)はなかつた』
302カール『足引(あしひき)のチンバのカールが、303したり顔(がほ)、304中々(なかなか)甘(うま)く人(ひと)をたばかる……アハヽヽヽ。305これが新派(しんぱ)の百人(ひやくにん)一首(いつしゆ)だ……否(いや)悪人(あくにん)一首(いつしゆ)だ。306アハヽヽヽ』
307甲『さうして、308姫(ひめ)様(さま)はどこに休(やす)んで御座(ござ)るのだ。309案内(あんない)して呉(く)れないか』
310カール『馬鹿(ばか)云(い)ふな。311とうに暮(く)れて了(しま)つて、312最早(もはや)子(ね)の刻(こく)だ。313くれない……なんて、314何(なに)を言(い)ふのだ』
315乙『相変(あひかは)らず馬鹿口(ばかぐち)を叩(たた)く男(をとこ)だなア。316早(はや)く御(おん)所在(ありか)を知(し)らして呉(く)れぬか』
317カール『御(お)知(し)らせ申(まを)したいは山々(やまやま)なれど、318何分(なにぶん)御(ご)存知(ぞんぢ)の通(とほ)り、319暗夜(やみよ)の事(こと)とて御(お)行方(ゆくへ)を見失(みうしな)ひ、320どこにどうして御座(ござ)るかと、321暗(やみ)にさまよふ、322いぢらしさ、323せめて提灯(ちやうちん)一(ひと)つあつたなら、324そこらブラブラ ブラついて、325見付(みつ)け出(だ)したいとは思(おも)へ共(ども)、326何(なに)を云(い)うても、327畜生(ちくしやう)ならぬ人(ひと)の身(み)は、328悲(かな)しや夜(よる)は目(め)が見(み)えぬ、329推量(すゐりやう)あれや旅(たび)の人(ひと)』
330甲『何(なに)を吐(ぬ)かすのだ。331真面目(まじめ)に云(い)はないか』
332カール『折角(せつかく)お草臥(くたびれ)になつて、333お休(やす)みの最中(さいちう)だ。334お前(まへ)達(たち)がガサガサとお側(そば)へ寄(よ)らうものなら、335お目(め)をさましては済(す)まないから、336俺(おれ)が斯(こ)うして一息(ひといき)でも御(ご)安眠(あんみん)遊(あそ)ばす様(やう)に、337喰(く)ひ止(と)めてゐるのだ。338マア茲(ここ)でゆつくりしたらどうだ。339お前(まへ)は春(はる)に、340幾(いく)に鷹(たか)の三(さん)人(にん)ぢやないか』
341甲『オウさうだ。342併(しか)し乍(なが)ら折角(せつかく)此処(ここ)まで来(き)たのだから、343一寸(ちよつと)御(ご)挨拶(あいさつ)をしたいものだなア』
344カール『分(わか)らぬ奴(やつ)だなア。345明日(あす)になつたら、346いやと云(い)ふ程(ほど)御(ご)挨拶(あいさつ)をさしてやる。347今頃(いまごろ)にお目(め)をさまして安眠(あんみん)妨害(ばうがい)をすると、348警察犯(けいさつはん)処罰令(しよばつれい)でやられるぞ。349夫(そ)れ共(とも)御(ご)挨拶(あいさつ)がしたけら、350お前(まへ)達(たち)提灯(ちやうちん)を持(も)つてるのだから、351勝手(かつて)に捜索隊(さうさくたい)を組織(そしき)して捜(さが)したがよからう』
352 四(よ)人(にん)が路傍(ろばう)に立(た)つて喧(やか)ましく掛合(かけあ)うて居(ゐ)る話声(はなしごゑ)が、353夜敏(よざと)い末子姫(すゑこひめ)の耳(みみ)に響(ひび)いた。354末子姫(すゑこひめ)はやをら身(み)を起(おこ)し、355向(むか)うを見(み)れば十曜(とえう)の紋(もん)の記(しる)された丸提灯(まるちやうちん)が一張(ひとはり)、356二三(にさん)人(にん)の影(かげ)が、357森(もり)の中(なか)の木間(このま)をすかして見(み)えてゐる。358末子姫(すゑこひめ)は折角(せつかく)能(よ)く寝入(ねい)つてゐる捨子姫(すてこひめ)、359石熊(いしくま)の両人(りやうにん)に眼(め)をさまさしては気(き)の毒(どく)と思(おも)ひ煩(わづら)ひ乍(なが)ら、360明(あか)りを目当(めあて)に探(さぐ)り足(あし)にて、361街道(かいだう)に漸(やうや)く姿(すがた)を現(あら)はした。
362末子姫(すゑこひめ)『あなたはカールさまぢや御座(ござ)いませぬか。363其(その)お提灯(ちやうちん)のお光(ひかり)は何(いづ)れのお方(かた)で御座(ござ)いますかなア』
364 此(この)声(こゑ)に四(よ)人(にん)は驚(おどろ)き、
365四人『ハイ只今(ただいま)松若彦(まつわかひこ)様(さま)の命令(めいれい)に依(よ)つて、366あなた様(さま)御(ご)一行(いつかう)をお迎(むか)へに参(まゐ)つた使(つかひ)の者(もの)で御座(ござ)います』
367末子姫(すゑこひめ)『それはそれは御(ご)親切(しんせつ)に、368遠方(ゑんぱう)の所(ところ)、369能(よ)くマア来(き)て下(くだ)さいました。370どうぞ此方(こちら)へお越(こ)し下(くだ)さいませ』
371カール『誠(まこと)に御(ご)一同(いちどう)様(さま)、372見(み)るもいぶせき茅屋(あばらや)なれど、373カールの住宅(ぢうたく)、374サア御(ご)遠慮(ゑんりよ)なうトツトと奥(おく)へ御(お)通(とほ)り遊(あそ)ばせや』
375末子姫(すゑこひめ)『ホヽヽヽ』
376三(さん)人(にん)『アハヽヽヽ』
377と笑(わら)ひ乍(なが)ら、378末子姫(すゑこひめ)の後(あと)に従(したが)ひ、379二人(ふたり)の眠(ねむ)れる森蔭(もりかげ)に探(さぐ)り行(ゆ)く。
380(大正一一・八・一四 旧六・二二 松村真澄録)
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