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霊界物語
海洋万里(第25~36巻)
第30巻(巳の巻)
序
凡例
総説
第1篇 高砂の松
第1章 主従二人
第2章 乾の滝
第3章 清めの滝
第4章 懐旧の歌
第2篇 珍野瞰下
第5章 下坂の歌
第6章 樹下の一宿
第7章 提燈の光
第8章 露の道
第3篇 神縁微妙
第9章 醜の言霊
第10章 妖雲晴
第11章 言霊の妙
第12章 マラソン競争
第13章 都入
第4篇 修理固成
第14章 霊とパン
第15章 花に嵐
第16章 荒しの森
第17章 出陣
第18章 日暮シの河
第19章 蜘蛛の児
第20章 雉と町
第5篇 山河動乱
第21章 神王の祠
第22章 大蜈蚣
第23章 ブール酒
第24章 陥穽
附記 湯ケ島温泉
附記 天津祝詞解
附記 デモ国民歌
余白歌
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第30巻(巳の巻)
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<<< 神王の祠
(B)
(N)
ブール酒 >>>
第二二章
大蜈蚣
(
おほむかで
)
〔八六四〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第30巻 海洋万里 巳の巻
篇:
第5篇 山河動乱
よみ(新仮名遣い):
さんかどうらん
章:
第22章 大蜈蚣
よみ(新仮名遣い):
おおむかで
通し章番号:
864
口述日:
1922(大正11)年08月16日(旧06月24日)
口述場所:
筆録者:
松村真澄
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1923(大正12)年9月15日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
キジとマチは、昨夜にウラル教徒たちを蹴散らした日暮シ川の丸木橋までやってきた。二人は軽口を叩きながら疲れてその場に寝込んでしまった。
そこへどこからともなく這って来た大ムカデに耳を刺されてキジは飛び起きた。キジは思わずムカデに唾を吐きかけた。唾が嫌いなムカデはその場に伸びてしまった。
マチはムカデを憐れに思って、日暮シ川の水中に投げて唾の毒を消してやった。するとムカデは息を吹き返し、二人の元に全速力でやってきた、二人を追い立てる。
キジとマチは気味悪く、どんどん逃げていく。とうとう二人がウラル教の本拠である岩窟の前までやってきたところで、ムカデは消えてしまった。これは言依別命が球の玉の霊力をもって、キジとマチの出陣を励ますようにと顕現させたものであった。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2022-02-20 19:00:34
OBC :
rm3022
愛善世界社版:
250頁
八幡書店版:
第5輯 660頁
修補版:
校定版:
266頁
普及版:
100頁
初版:
ページ備考:
001
マチとキジとの
両人
(
りやうにん
)
は
002
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
003
国依別
(
くによりわけ
)
に
従
(
したが
)
ひて
004
夜道
(
よみち
)
を
辿
(
たど
)
りやうやうに
005
夜
(
よ
)
も
明
(
あ
)
け
放
(
はな
)
れ
露
(
つゆ
)
の
道
(
みち
)
006
勢
(
いきほひ
)
込
(
こ
)
んでスタスタと
007
下
(
くだ
)
らぬ
歌
(
うた
)
をうたひつつ
008
アラシカ
山
(
やま
)
の
麓
(
ふもと
)
まで
009
来
(
きた
)
りてここに
息休
(
いきやす
)
め
010
又
(
また
)
もや
乗出
(
のりだ
)
す
膝栗毛
(
ひざくりげ
)
011
険
(
けは
)
しき
坂
(
さか
)
を
潔
(
いさぎよ
)
く
012
やうやう
頂上
(
ちやうじやう
)
に
登
(
のぼ
)
りつめ
013
涼
(
すず
)
しき
風
(
かぜ
)
を
浴
(
あ
)
び
乍
(
なが
)
ら
014
あゝ
面白
(
おもしろ
)
い
面白
(
おもしろ
)
い
015
四方
(
よも
)
の
国原
(
くにはら
)
見渡
(
みわた
)
せば
016
山野
(
さんや
)
は
青
(
あを
)
く
河
(
かは
)
清
(
きよ
)
く
017
西南方
(
せいなんぱう
)
に
屹然
(
きつぜん
)
と
018
雲
(
くも
)
の
冠
(
かむり
)
を
頂
(
いただ
)
きて
019
聳
(
そそ
)
り
立
(
た
)
ちたる
日暮
(
ひぐら
)
シの
020
山
(
やま
)
の
麓
(
ふもと
)
の
聖場
(
せいぢやう
)
を
021
指
(
ゆび
)
さし
乍
(
なが
)
らウラル
教
(
けう
)
022
ブールの
教主
(
けうしゆ
)
が
立籠
(
たてこも
)
る
023
霊地
(
れいち
)
は
彼処
(
あこ
)
と
国依別
(
くによりわけ
)
の
024
貴
(
うづ
)
の
司
(
つかさ
)
に
指
(
さ
)
し
示
(
しめ
)
し
025
問
(
と
)
はず
語
(
がたり
)
を
始
(
はじ
)
めつつ
026
又
(
また
)
もや
東北
(
とうほく
)
指
(
ゆび
)
さして
027
広袤
(
くわうばう
)
千
(
せん
)
里
(
り
)
の
平原
(
へいげん
)
に
028
長
(
なが
)
く
築
(
きづ
)
きしヒルの
町
(
まち
)
029
楓
(
かへで
)
の
別
(
わけ
)
の
鎮
(
しづ
)
まりて
030
三五教
(
あななひけう
)
を
開
(
ひら
)
きます
031
神
(
かみ
)
の
館
(
やかた
)
は
目
(
め
)
の
下
(
した
)
に
032
甍
(
いらか
)
も
高
(
たか
)
く
聳
(
そび
)
えつつ
033
確
(
たしか
)
にそれと
分
(
わか
)
らねど
034
風
(
かぜ
)
に
閃
(
ひらめ
)
く
旗印
(
はたじるし
)
035
勝利
(
しようり
)
の
都
(
みやこ
)
は
足許
(
あしもと
)
に
036
近寄
(
ちかよ
)
りたりと
勇
(
いさ
)
み
立
(
た
)
ち
037
心
(
こころ
)
のままに
涼風
(
すずかぜ
)
を
038
味
(
あぢ
)
はふ
折柄
(
をりから
)
国依別
(
くによりわけ
)
の
039
貴
(
うづ
)
の
司
(
つかさ
)
は
先
(
さき
)
に
立
(
た
)
ち
040
早
(
はや
)
く
行
(
ゆ
)
かうと
駆出
(
かけだ
)
せば
041
二人
(
ふたり
)
は
名残
(
なごり
)
を
惜
(
を
)
しみつつ
042
是非
(
ぜひ
)
なく
後
(
あと
)
に
従
(
したが
)
ひて
043
険
(
けは
)
しき
坂
(
さか
)
を
下
(
くだ
)
りゆく
044
路
(
みち
)
の
片方
(
かたはう
)
に
楠
(
くす
)
の
木
(
き
)
の
045
老木
(
ろうぼく
)
茂
(
しげ
)
りウラル
教
(
けう
)
046
教
(
をしへ
)
の
祖
(
おや
)
を
祀
(
まつ
)
りたる
047
神王祠
(
しんわうほこら
)
を
発見
(
はつけん
)
し
048
近寄
(
ちかよ
)
り
見
(
み
)
れば
妙齢
(
めうれい
)
の
049
女
(
をんな
)
が
一人
(
ひとり
)
面
(
おも
)
やつれ
050
髪
(
かみ
)
もおどろに
手
(
て
)
を
合
(
あは
)
せ
051
祠
(
ほこら
)
の
前
(
まへ
)
に
俯
(
うつむ
)
いて
052
何
(
なに
)
かヒソヒソ
祈
(
いの
)
り
居
(
を
)
る
053
怪
(
あや
)
しき
様子
(
やうす
)
にキジ
公
(
こう
)
は
054
側
(
そば
)
に
寄
(
よ
)
り
添
(
そ
)
ひ
背
(
せな
)
をなで
055
言葉
(
ことば
)
優
(
やさ
)
しく
労
(
いた
)
はりて
056
事
(
こと
)
の
様子
(
やうす
)
を
尋
(
たづ
)
ぬれば
057
女
(
をんな
)
は
漸
(
やうや
)
く
顔
(
かほ
)
をあげ
058
アラシカ
山
(
やま
)
の
山麓
(
さんろく
)
に
059
ウラルの
教
(
をしへ
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
と
060
仕
(
つか
)
へまつれるエスの
子
(
こ
)
よ
061
妾
(
わたし
)
が
父
(
ちち
)
は
三五
(
あななひ
)
の
062
神
(
かみ
)
の
司
(
つかさ
)
を
呼止
(
よびと
)
めて
063
吾家
(
わがや
)
に
泊
(
と
)
めし
罪
(
つみ
)
に
依
(
よ
)
り
064
日暮
(
ひぐら
)
シ
山
(
やま
)
の
聖場
(
せいぢやう
)
に
065
引立
(
ひきた
)
てられて
仄暗
(
ほのぐら
)
き
066
残酷
(
ざんこく
)
無情
(
むじやう
)
の
水牢
(
みづらう
)
に
067
閉
(
とざ
)
され
玉
(
たま
)
ひ
朝夕
(
あさゆふ
)
に
068
苦
(
くる
)
しみ
歎
(
なげ
)
き
玉
(
たま
)
ひつつ
069
此
(
この
)
世
(
よ
)
を
果敢
(
はか
)
なみ
玉
(
たま
)
ふらむ
070
父
(
ちち
)
の
災
(
わざはひ
)
聞
(
き
)
くよりも
071
妾
(
わたし
)
の
母
(
はは
)
は
驚
(
おどろ
)
いて
072
持病
(
ぢびやう
)
の
癪気
(
しやくき
)
再発
(
さいはつ
)
し
073
水
(
みづ
)
さへ
飲
(
の
)
めぬ
重態
(
ぢうたい
)
に
074
痩衰
(
やせおとろ
)
へて
玉
(
たま
)
の
緒
(
を
)
の
075
命
(
いのち
)
尽
(
つ
)
きむとする
場合
(
ばあひ
)
076
いかで
妾
(
わたし
)
は
此
(
この
)
儘
(
まま
)
に
077
のめのめ
眺
(
なが
)
めて
居
(
を
)
れませう
078
ウラルの
教
(
をしへ
)
を
開
(
ひら
)
きたる
079
教祖
(
けうそ
)
の
神
(
かみ
)
の
御
(
おん
)
前
(
まへ
)
に
080
父
(
ちち
)
の
危難
(
きなん
)
を
逃
(
のが
)
れしめ
081
母
(
はは
)
の
病
(
やまひ
)
を
一日
(
いちじつ
)
も
082
早
(
はや
)
く
治
(
なを
)
させ
玉
(
たま
)
へよと
083
心
(
こころ
)
の
誠
(
まこと
)
を
捧
(
ささ
)
げつつ
084
一心
(
いつしん
)
不乱
(
ふらん
)
に
神
(
かみ
)
の
前
(
まへ
)
085
朝夕
(
あさゆふ
)
祈
(
いの
)
る
吾
(
わが
)
心
(
こころ
)
086
推量
(
すゐりやう
)
あれと
答
(
こた
)
ふれば
087
キジ
公
(
こう
)
涙
(
なみだ
)
に
暮
(
く
)
れ
乍
(
なが
)
ら
088
心配
(
しんぱい
)
なさるなエリナさま
089
神
(
かみ
)
に
仕
(
つか
)
へしキジ
公
(
こう
)
が
090
とつとき
力
(
ちから
)
を
現
(
あら
)
はして
091
お
前
(
まへ
)
の
父
(
ちち
)
のエスさまを
092
キツと
助
(
たす
)
けて
上
(
あ
)
げませう
093
マチ
公
(
こう
)
お
前
(
まへ
)
は
此
(
この
)
方
(
かた
)
に
094
従
(
したが
)
ひエスの
家
(
いへ
)
に
行
(
ゆ
)
き
095
病
(
やまひ
)
に
苦
(
くるし
)
む
母親
(
ははおや
)
を
096
鎮魂
(
ちんこん
)
帰神
(
きしん
)
の
神業
(
かむわざ
)
で
097
早
(
はや
)
く
助
(
たす
)
けて
上
(
あ
)
げて
呉
(
く
)
れ
098
国依別
(
くによりわけ
)
の
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
は
099
一
(
いち
)
時
(
じ
)
も
早
(
はや
)
く
楓別
(
かへでわけ
)
100
神
(
かみ
)
の
司
(
つかさ
)
の
鎮
(
しづ
)
まれる
101
ヒルの
館
(
やかた
)
に
出
(
い
)
でまして
102
キジが
凱旋
(
がいせん
)
する
間
(
あひだ
)
103
ゆるゆる
御
(
お
)
待
(
ま
)
ち
下
(
くだ
)
されと
104
勇
(
いさ
)
み
切
(
き
)
つたるキジ
公
(
こう
)
の
105
言葉
(
ことば
)
にマチは
擦
(
す
)
りよつて
106
オイオイキジ
公
(
こう
)
そりや
無理
(
むり
)
だ
107
何程
(
なにほど
)
弱
(
よわ
)
い
敵
(
てき
)
だとて
108
お
前
(
まへ
)
一人
(
ひとり
)
ぢや
険呑
(
けんのん
)
だ
109
国依別
(
くによりわけ
)
の
命令
(
めいれい
)
に
110
従
(
したが
)
ひ
俺
(
おれ
)
もついて
行
(
ゆ
)
く
111
国依別
(
くによりわけ
)
の
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
よ
112
次
(
つ
)
いではエリナの
娘
(
むすめ
)
さま
113
天晴
(
あつぱ
)
れ
凱旋
(
がいせん
)
した
上
(
うへ
)
で
114
後日
(
ごじつ
)
にお
目
(
め
)
に
掛
(
かか
)
りませう
115
云
(
い
)
ふより
早
(
はや
)
くマチ
公
(
こう
)
は
116
尻
(
しり
)
ひつからげアラシカの
117
峠
(
たうげ
)
を
上
(
のぼ
)
り
下
(
くだ
)
りつつ
118
一目散
(
いちもくさん
)
に
駆出
(
かけだ
)
せば
119
オイオイ
待
(
ま
)
つたマチ
公
(
こう
)
と
120
キジ
公
(
こう
)
も
尻
(
けつ
)
をひつからげ
121
韋駄天
(
ゐだてん
)
走
(
ばしり
)
に
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
く
122
あゝ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
123
御霊
(
みたま
)
幸
(
さち
)
はひましませよ。
124
キジ、
125
マチの
両人
(
りやうにん
)
は
漸
(
やうや
)
くにして、
126
日暮
(
ひぐら
)
シ
河
(
がは
)
の
丸木橋
(
まるきばし
)
の
袂
(
たもと
)
に
辿
(
たど
)
り
着
(
つ
)
いた。
127
キジ『オイ、
128
マチ
公
(
こう
)
、
129
夜前
(
やぜん
)
のキジ
公
(
こう
)
が
奮戦
(
ふんせん
)
激闘
(
げきとう
)
の
結果
(
けつくわ
)
、
130
大功名
(
だいこうみやう
)
を
現
(
あら
)
はしたる
古戦場
(
こせんじやう
)
へやつて
来
(
き
)
た。
131
此
(
この
)
辺
(
へん
)
は
死屍
(
しし
)
累々
(
るいるい
)
として
横
(
よこ
)
たはり、
132
地下
(
ちか
)
一
(
いつ
)
尺
(
しやく
)
を
掘
(
ほ
)
れば、
133
白骨
(
はくこつ
)
現
(
あら
)
はれ、
134
夜
(
よ
)
は
鬼哭
(
きこく
)
啾々
(
しうしう
)
として
寂寥
(
せきれう
)
身
(
み
)
に
逼
(
せま
)
ると
云
(
い
)
ふ
記憶
(
きおく
)
すべき
印象
(
いんしやう
)
の
深
(
ふか
)
き
地点
(
ちてん
)
だ。
135
一
(
ひと
)
つ
敵
(
てき
)
の
亡霊
(
ばうれい
)
を
弔
(
ともら
)
[
※
御校正本では「吊」
]
つてやらうぢやないか。
136
アハヽヽヽ、
137
南無
(
なむ
)
アナン、
138
ユーズ
大居士
(
だいこじ
)
、
139
頓生
(
とんしやう
)
菩提
(
ぼだい
)
だ、
140
どうだ
一
(
ひと
)
つ
宣伝歌
(
せんでんか
)
でも
手向
(
たむ
)
けてやらうぢやないか?』
141
マチ『
何
(
なに
)
を
云
(
い
)
ふのだ。
142
古戦場
(
こせんじやう
)
所
(
どころ
)
か、
143
極
(
きは
)
めて
新戦場
(
しんせんぢやう
)
だ。
144
吾々
(
われわれ
)
が
大勝利
(
だいしようり
)
を
得
(
え
)
た
聖地
(
せいち
)
だから、
145
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
に
御
(
お
)
礼
(
れい
)
の
為
(
ため
)
神饌
(
しんせん
)
を
献
(
たてまつ
)
るべき
神饌場
(
しんせんぢやう
)
だよ。
146
あゝ
新鮮
(
しんせん
)
の
空気
(
くうき
)
は
水
(
みづ
)
の
如
(
ごと
)
く
流
(
なが
)
れ
来
(
きた
)
り、
147
吾
(
われ
)
等
(
ら
)
が
汗
(
あせ
)
を
拭
(
ぬぐ
)
ふ。
148
勇
(
ゆう
)
なる
哉
(
かな
)
。
149
壮
(
さう
)
なる
哉
(
かな
)
。
150
どれどれ
一服
(
いつぷく
)
仕
(
つかまつ
)
らう』
151
と
云
(
い
)
ふより
早
(
はや
)
く、
152
芝生
(
しばふ
)
の
上
(
うへ
)
に
大
(
だい
)
の
字
(
じ
)
を
描
(
ゑが
)
いた。
153
キジ『ヤア、
154
早
(
はや
)
から
大勝利
(
だいしようり
)
を
祝
(
いは
)
つて、
155
大
(
だい
)
の
字
(
じ
)
になつてゐるのか。
156
さう
背部
(
はいぶ
)
を
下
(
した
)
にして
居
(
ゐ
)
ると、
157
キツと
大敗
(
だいはい
)
の
憂目
(
うきめ
)
に
会
(
あ
)
はなくてはならないよ』
158
マチ『
何
(
なに
)
、
159
敵
(
てき
)
をして
大敗
(
だいはい
)
せしむると
云
(
い
)
ふ
縁起
(
えんぎ
)
を
祝
(
いは
)
つてゐるのだ。
160
俯
(
うつ
)
むいて
見
(
み
)
れば
敵
(
てき
)
を
大
(
おほい
)
に
屈伏
(
くつぷく
)
さすると
云
(
い
)
ふ
大腹
(
たいふく
)
となるのだ。
161
アハヽヽヽ』
162
と
罪
(
つみ
)
なき
事
(
こと
)
を
喋
(
しやべ
)
り
散
(
ち
)
らし
乍
(
なが
)
ら、
163
余
(
あま
)
り
勢
(
いきほひ
)
込
(
こ
)
んで
走
(
はし
)
つて
来
(
き
)
た
体
(
からだ
)
の
疲
(
つか
)
れに、
164
何時
(
いつ
)
の
間
(
ま
)
にか
両人
(
りやうにん
)
共
(
とも
)
熟睡
(
じゆくすゐ
)
して
了
(
しま
)
つた。
165
何処
(
いづく
)
よりともなくガサガサと
這
(
は
)
うて
来
(
き
)
た
大蜈蚣
(
おほむかで
)
に、
166
耳
(
みみ
)
の
一方
(
いつぱう
)
を
刺
(
さ
)
され、
167
痛
(
いた
)
さに
目
(
め
)
を
醒
(
さ
)
まし
起上
(
おきあが
)
つたキジ
公
(
こう
)
は、
168
矢庭
(
やには
)
に
蜈蚣
(
むかで
)
に
向
(
むか
)
つて
唾
(
つばき
)
を
吐
(
は
)
きかけた。
169
蜈蚣
(
むかで
)
に
対
(
たい
)
し
大禁物
(
だいきんもつ
)
の
唾
(
つばき
)
に
忽
(
たちま
)
ち、
170
大蜈蚣
(
おほむかで
)
はピンと
体
(
たい
)
を
伸
(
の
)
ばし、
171
青
(
あを
)
くなつて
其
(
その
)
場
(
ば
)
に
倒
(
たふ
)
れて
了
(
しま
)
つた。
172
キジ
公
(
こう
)
は
耳
(
みみ
)
の
痛
(
いた
)
さに
何気
(
なにげ
)
なく、
173
唾
(
つばき
)
を
指
(
ゆび
)
につけ、
174
之
(
これ
)
を
疵所
(
きずしよ
)
に
塗
(
ぬ
)
つた。
175
不思議
(
ふしぎ
)
や
痛
(
いた
)
みは
忽
(
たちま
)
ち
止
(
と
)
まり、
176
耳
(
みみ
)
の
腫
(
はれ
)
も
瞬
(
またた
)
く
間
(
うち
)
にひすぼつて
了
(
しま
)
つた。
177
マチ
公
(
こう
)
は
此
(
この
)
騒
(
さわ
)
ぎに
目
(
め
)
を
醒
(
さ
)
まし、
178
四辺
(
あたり
)
を
見
(
み
)
れば、
179
大蜈蚣
(
おほむかで
)
が
唾
(
つば
)
の
毒
(
どく
)
にあてられて、
180
殆
(
ほとん
)
ど
虫
(
むし
)
の
息
(
いき
)
になつてゐる。
181
マチは
之
(
これ
)
を
眺
(
なが
)
めて、
182
マチ『オイ、
183
キジ
公
(
こう
)
、
184
殺生
(
せつしやう
)
のことをするない。
185
貴様
(
きさま
)
は
蜈蚣
(
むかで
)
の
敵薬
(
てきやく
)
たる
唾
(
つばき
)
をかけたのだな、
186
生物
(
いきもの
)
を
殺
(
ころ
)
すと
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
は
天則
(
てんそく
)
違反
(
ゐはん
)
だぞ。
187
早
(
はや
)
く
蜈蚣
(
むかで
)
を
助
(
たす
)
けてやらないか』
188
キジ『
俺
(
おれ
)
だつて
別
(
べつ
)
に
無益
(
むえき
)
の
殺生
(
せつしやう
)
を
好
(
この
)
んでする
者
(
もの
)
ではない。
189
安眠中
(
あんみんちう
)
を
窺
(
うかが
)
ひ、
190
俺
(
おれ
)
の
耳
(
みみ
)
を
咬
(
かみ
)
よつた
悪
(
わる
)
い
奴
(
やつ
)
だから、
191
此奴
(
こいつ
)
こそ
唾棄
(
だき
)
すべき
悪虫
(
あくちう
)
だと
思
(
おも
)
つて
吐
(
は
)
きかけたのだ。
192
俺
(
おれ
)
の
唾
(
つばき
)
は
偉
(
えら
)
いものだらう。
193
一口
(
ひとくち
)
吐
(
は
)
くが
最後
(
さいご
)
、
194
こんな
大蜈蚣
(
おほむかで
)
が
忽
(
たちま
)
ち
寂滅
(
じやくめつ
)
為楽
(
ゐらく
)
、
195
頓生
(
とんしやう
)
菩提
(
ぼだい
)
となるのだからなア。
196
アハヽヽヽ、
197
武士
(
つはもの
)
と
云
(
い
)
ふ
者
(
もの
)
は
変
(
かは
)
つたものだらう』
198
マチ『グヅグヅして
居
(
ゐ
)
ると、
199
蜈蚣公
(
むかでこう
)
、
200
本当
(
ほんたう
)
に
縡切
(
ことき
)
れて
了
(
しま
)
ふぢやないか。
201
早
(
はや
)
く
川
(
かは
)
へ
連
(
つ
)
れて
行
(
い
)
つて
水
(
みづ
)
を
呑
(
の
)
ましてやれ。
202
さうすれば
忽
(
たちま
)
ち
全快
(
ぜんくわい
)
して、
203
元
(
もと
)
の
通
(
とほ
)
りシヤンシヤンと
活動
(
くわつどう
)
する
様
(
やう
)
になるワ』
204
キジ『
此
(
この
)
蜈蚣
(
むかで
)
の
歩
(
ある
)
く
姿
(
すがた
)
を
見
(
み
)
ると、
205
夜前
(
やぜん
)
アナンの
奴
(
やつ
)
、
206
沢山
(
たくさん
)
の
竹槍隊
(
たけやりたい
)
を
連
(
つ
)
れ、
207
単縦陣
(
たんじうぢん
)
を
作
(
つく
)
つてやつて
来
(
き
)
た
時
(
とき
)
の
姿
(
すがた
)
にソツクリだ。
208
これも
何
(
なに
)
かの
前兆
(
ぜんてう
)
だ。
209
此
(
この
)
儘
(
まま
)
に
捨
(
す
)
てておかうぢやないか。
210
蜈蚣
(
むかで
)
が
蘇生
(
そせい
)
した
様
(
やう
)
に、
211
ブールの
奴
(
やつ
)
、
212
余
(
あま
)
り
元気
(
げんき
)
付
(
つ
)
きよると、
213
一寸
(
ちよつと
)
此方
(
こちら
)
は
少数党
(
せうすうたう
)
だから
険呑
(
けんのん
)
だよ』
214
マチ『アハヽヽヽ、
215
ヤツパリどつかに
不安
(
ふあん
)
を
抱
(
いだ
)
いてゐると
見
(
み
)
えるなア。
216
国依別
(
くによりわけ
)
様
(
さま
)
の
前
(
まへ
)
ではズイ
分
(
ぶん
)
吹
(
ふ
)
いたぢやないか。
217
こんな
所
(
ところ
)
でこんな
弱音
(
よわね
)
を
吹
(
ふ
)
く
位
(
くらゐ
)
だつたら、
218
肝腎要
(
かんじんかなめ
)
の
戦場
(
せんじやう
)
に
向
(
むか
)
つては、
219
如何
(
どう
)
することも
出来
(
でき
)
なくなつて
了
(
しま
)
ふよ』
220
キジ『
何
(
なに
)
さ、
221
働
(
はたら
)
く
時
(
とき
)
に
働
(
はたら
)
きさへすれば
宜
(
よ
)
いのだ。
222
今
(
いま
)
は
斯
(
こ
)
う
弱
(
よわ
)
さうにして
力
(
ちから
)
を
蓄
(
たくは
)
へ、
223
潜勢力
(
せんせいりよく
)
を
養
(
やしな
)
つておくのだ。
224
エヽ
邪魔
(
じやま
)
臭
(
くさ
)
い、
225
蜈蚣
(
むかで
)
の
奴
(
やつ
)
、
226
助
(
たす
)
けてやらう』
227
と
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
228
川
(
かは
)
の
中
(
なか
)
の
流
(
なが
)
れを
目
(
め
)
がけて、
229
手
(
て
)
に
掴
(
つか
)
んで
投
(
な
)
げ
込
(
こ
)
んだ。
230
蜈蚣
(
むかで
)
は
水
(
みづ
)
に
陥
(
おちい
)
ると
共
(
とも
)
に、
231
毒
(
どく
)
は
消
(
き
)
ゑ、
232
水中
(
すゐちう
)
を
辛
(
から
)
うじて
泳
(
およ
)
ぎ
乍
(
なが
)
ら、
233
岸
(
きし
)
に
登
(
のぼ
)
り、
234
二人
(
ふたり
)
が
足許
(
あしもと
)
に
勢
(
いきほひ
)
能
(
よ
)
く、
235
百本
(
ひやくぽん
)
の
足
(
あし
)
に
馬力
(
ばりき
)
をかけ、
236
大速力
(
だいそくりよく
)
で
突進
(
とつしん
)
し
来
(
きた
)
る。
237
二人
(
ふたり
)
は
何
(
なん
)
となく、
238
怖気
(
おぢけ
)
つき、
239
トントンと
逃
(
に
)
げ
出
(
だ
)
した。
240
不思議
(
ふしぎ
)
や
蜈蚣
(
むかで
)
は
何処
(
どこ
)
までもと
云
(
い
)
ふ
調子
(
てうし
)
で
追
(
お
)
つかけ
来
(
く
)
る、
241
厭
(
いや
)
らしさ、
242
とうとうウラル
教
(
けう
)
の
霊地
(
れいち
)
と
聞
(
きこ
)
ゑたる
日暮
(
ひぐら
)
シ
山
(
やま
)
の
岩窟
(
がんくつ
)
の
前
(
まへ
)
迄
(
まで
)
追
(
お
)
つかけ
来
(
きた
)
り、
243
忽然
(
こつぜん
)
として
姿
(
すがた
)
を
消
(
け
)
して
了
(
しま
)
つた。
244
此
(
この
)
蜈蚣
(
むかで
)
は
言依別
(
ことよりわけの
)
命
(
みこと
)
が
球
(
きう
)
の
玉
(
たま
)
の
霊力
(
れいりよく
)
を
以
(
もつ
)
て、
245
二人
(
ふたり
)
の
出陣
(
しゆつぢん
)
を
励
(
はげ
)
ますべく
顕現
(
けんげん
)
せしめたのであつた。
246
(
大正一一・八・一六
旧六・二四
松村真澄
録)
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