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幼ながたり
まえがき
幼ながたり
01 父のこと
02 母の生いたち
03 因果応報ばなし
04 石臼と粉引きの意味
05 父の死
06 わたしのこと
07 奉公
08 幼なき姉妹
09 母は栗柄へ
10 母の背
11 屑紙集めと紙漉きのこと
12 清吉兄さん
13 蘿竜の話
14 およね姉さん
15 ひさ子姉さん
16 不思議な道づれ
17 仕組まれている
18 おこと姉さんの幼時
19 王子のくらし
20 ご開祖の帰神
21 霊夢
22 教祖と大槻鹿造
23 牛飼い
24 ねぐら
25 不思議な人
思い出の記
1 料亭づとめ
2 神火
3 天眼通
4 直日のこと
5 夫婦らしい暮しの日
6 尉と姥
獄中記
監房へ
一ぱいの水
青い囚人服
一本の桐の木と蝉
風の中の雀
ぼっかぶりの夫婦
オツルさん
孫の絵便り
獄中の歌
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七 奉公
インフォメーション
題名:
7 奉公
著者:
出口澄子
ページ:
目次メモ:
概要:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
OBC :
B124900c09
001
私は七才の時に福知山へ奉公に行くことになりました。
002
福知山へは綾部から三里半もあるので、
003
母さんは私を福知山までつれて行けば一日の仕事を休まねばならぬので、
004
私の行先を手紙に代書してもらわれて、
005
その手紙を私の手首にくくりつけて下さいました。
006
「これを持ってな、
007
おすみや、
008
八幡さまの
馬場
(
ばば
)
を通ってずっと行くと、
009
福知
(
ふくち
)
へ着くからな。
010
おすみや、
011
かわいそうなけど元気で行っておくれよ。
012
この手紙をな、
013
人に出会うたんびに見せるんじゃよ」と言われました。
014
私は「ハイ」と言って、
015
一人で福知をさして出掛けました。
016
鳥
(
とり
)
ガ
坪
(
つぼ
)
あたりまで行くと、
017
女の人に会いましたので「おばさん、
018
これ読んでおくれいな」と母が手首にくくって下された手紙を見せると、
019
それを読んで、
020
「あゝ分かった、
021
わしも福知へ行くからな、
022
一緒に行こうかいな。
023
まあこんな小さい
児
(
こ
)
をやる親もやる親じゃが、
024
行く子も行く子じゃ」と言いながら、
025
しばらく私の顔をのぞき込むように見ていました。
026
この女の人は、
027
おたつさんと言うてそのころ綾部でまからず屋という小間物店をひらいて、
028
後には綾部一という繁昌した店の奥さんでありました。
029
その時背中に荷を負うて仕入れに行かれるのでしたので、
030
福知の入口まで一緒に連れて行ってくれました。
031
福知の町へ入ると、
032
手紙を見せながら伯父さんのところへやっと行きつきました。
033
それから伯父さんの世話で、
034
どこかは忘れましたが子守に行きました。
035
この時はまだ間に合わなかったんですやろう、
036
すぐ帰って来たように思います。
037
おなじ七ツの年に、
038
もう一度福知へ奉公に行きました。
039
新町
(
しんまち
)
の
政
(
まさ
)
さんという米屋でした。
040
そこで
夏中
(
なつじゅう
)
を子守り奉公をして帰りにお仕着せの
単衣物
(
ひとえもの
)
一枚もらって帰りましたことを、
041
それが初めてのこととて嬉しかったので、
042
よく覚えております。
043
昔は食べさしてもらえば
給金
(
きゅうきん
)
というものはなく、
044
盆と正月に
前掛
(
まえかけ
)
か着物をもらうことがあるくらいでした。
045
ある時そこの奥さんが芝居見に行かれるのに連れられました。
046
その頃私はまだ芝居の面白さが分かりませんので、
047
眠りこんでしまって、
048
フッと眠が覚めて気が付いてみると、
049
真暗
(
まっくら
)
がりの芝居小屋の中に、
050
私は一人で寝ていました。
051
それからびっくりして、
052
あっちへひょろひょろ、
053
こっちへひょろひょろと、
054
どうしたら
此処
(
ここ
)
から出られるかと手さぐりで探し廻ってどうなりこうなり外へ出ることが出来ました。
055
そうして
夜更
(
よふ
)
けの町を歩いて
米屋
(
こめや
)
の戸をたたきました。
056
そのとき奥さんが戸をあけて「眼が覚めたんかい、
057
眠っていたからおいて帰ったのや」と言われたが、
058
その言葉のどこかの冷たいものがどきんときて、
059
私は奉公勤めのさびしさを思ったことを憶えています。
060
昔の人は気の強いことをしたものです。
061
米屋のお
内儀
(
かみ
)
さんは優しさのない人でしたが、
062
この人にはあまり良いことはおきなかったようです。
063
私が子守りをさせられていた子には、
064
手の指のところに
家鴨
(
あひる
)
の水かきのようなものがありました。
065
私がおんぶして外に出て行くと、
066
町の人が寄って来てしつっこく「おすみさん、
067
その子の手を見せてくれい」と
繃帯
(
ほうたい
)
のしてあるのを解いて見るのでした。
068
米屋のお
内儀
(
かみ
)
さんは、
069
その後、
070
米屋を離縁になり、
071
和知
(
わち
)
へ二度目の嫁入りに行きました。
072
後
(
あと
)
になって私が先生(出口王仁三郎師)と結婚して中村竹蔵さんの所にいた頃、
073
神様にお参りに来たことがありまして、
074
その時「あんたは小さい時、
075
福知へ
守
(
も
)
りに行かれたことはありませんか」と問われたので「はい」と言って、
076
よく見ますと福知の米屋のお
内儀
(
かみ
)
さんでした。
077
その時、
078
「こんど生まれる子に、
079
変な毛が一杯生えてるような気がして、
080
恐ろしくなってお参りに来ました」と言っていました。
081
私が福知で奉公をしていますある日のことでした。
082
母さんが、
083
私がどうしているだろうと心配されて、
084
わざわざ出掛けてこられました。
085
私は
末子
(
おとんぼ
)
で可愛かったからでしょう。
086
私はその時は本当に嬉しくて、
087
私はもう母さんをはなすまいとして、
088
赤ちゃんを負ったまま母につきまとい、
089
母さんが知らぬまに逃げられてはいかぬと思うて、
090
母の着物のはしをつかんでいました。
091
うんこしたい時も出来るだけ便所に行くのも我慢して母さんについていました。
092
私は母さんにさとされ、
093
母と別れて、
094
寂しいのを我慢してやっと福知に思いとどまりました。
095
母さんはその頃から、
096
すでにやさしいもの言いの中にもお力を持っておられました。
097
私はそのうちしばらくして家にかえりました。
098
米屋の忙がしいときがすみますと私は帰らねばなりませんでした。
099
しかしこれからがいよいよわたしの苦労のはじまりであります。
100
せせらぎの音なつかしも
五十
(
いそ
)
とせ
前
(
まえ
)
母に
抱
(
いだ
)
かれいねたる
夜半
(
よは
)
の
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