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幼ながたり
まえがき
幼ながたり
01 父のこと
02 母の生いたち
03 因果応報ばなし
04 石臼と粉引きの意味
05 父の死
06 わたしのこと
07 奉公
08 幼なき姉妹
09 母は栗柄へ
10 母の背
11 屑紙集めと紙漉きのこと
12 清吉兄さん
13 蘿竜の話
14 およね姉さん
15 ひさ子姉さん
16 不思議な道づれ
17 仕組まれている
18 おこと姉さんの幼時
19 王子のくらし
20 ご開祖の帰神
21 霊夢
22 教祖と大槻鹿造
23 牛飼い
24 ねぐら
25 不思議な人
思い出の記
1 料亭づとめ
2 神火
3 天眼通
4 直日のこと
5 夫婦らしい暮しの日
6 尉と姥
獄中記
監房へ
一ぱいの水
青い囚人服
一本の桐の木と蝉
風の中の雀
ぼっかぶりの夫婦
オツルさん
孫の絵便り
獄中の歌
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> 2 神火
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(B)
(N)
3 天眼通 >>>
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二 神火
インフォメーション
題名:
2 神火
著者:
出口澄子
ページ:
目次メモ:
概要:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
OBC :
B124900c30
001
明治三十二年の節分頃、
002
平蔵
(
へいぞう
)
さんは永らく御無沙汰していたというので、
003
久し振りで
鷹
(
たか
)
ノ
栖
(
す
)
の自宅を出て、
004
そのころ
裏町
(
うらまち
)
の土蔵に住んでおられた教祖さまを訪ねて来られました。
005
そのころ、
006
教祖さまの書かれる筆先には、
007
しきりに先生のことが出てきておりました。
008
教祖さまとしては、
009
先年、
010
八木
(
やぎ
)
のひさ子姉さんが、
011
園部
(
そのべ
)
にいられた先生を連れて来たおり、
012
教祖さまの神様を見わける因縁の人は東から来るとかねて神様から示されておられたのですが、
013
年も余り若いし、
014
それに教祖さまの大嫌いであった稲荷講社の人だというので、
015
まさかこの人がと思っておられたのでありますが、
016
「やはりあの人が因縁の人で、
017
教祖さまに
懸
(
かか
)
っておられる神様を見分けて表へ出される方であるから、
018
あの人を早く迎えて一日も早く神の道を開くように」という意味の筆先が次々に出まして、
019
先生を早く迎えにゆくように
頻
(
しき
)
りに神様がお急ぎになったのであります。
020
教祖さまは、
021
訪ねてみえた
四方
(
しかた
)
平蔵
(
へいぞう
)
さんにその筆先を示されまして相談されますと、
022
平蔵
(
へいぞう
)
さんは、
023
これはほっとくわけにゆきませぬと早速、
024
025
「田の植え付けが済み次第、
026
出口教祖のお使いでご相談に参りたいから……」という封書をしたためて送ったのであります。
027
そのあと、
028
夜遅くまでいろいろと話がはずんで、
029
とうとう鷹ノ栖村まで帰れぬような時間になりました。
030
それで教祖さまが、
031
032
「
平蔵
(
へいぞう
)
さん、
033
今晩は泊ってゆきなはれ」と勧められるままに、
034
平蔵
(
へいぞう
)
さんもその気になり、
035
一晩泊めてもらうことになりました。
036
その晩は特に寒さが厳しかったので、
037
教祖さまは自ら
薩摩芋
(
さつまいも
)
を切り、
038
暖い
芋粥
(
いもがゆ
)
を炊いて、
039
040
「
平蔵
(
へいぞう
)
さん、
041
このお土から取れたお米を、
042
日の大神様の
御火
(
おひ
)
と、
043
月の大神様の
御水
(
おみず
)
で炊いたお
粥
(
かゆ
)
ぐらい結構なものはありません。
044
ご
膳
(
ぜん
)
をいただく折りには、
045
必ず天地の大神様に御礼を申し上げてから、
046
頂かねばなりませんぞ」と話されながら
芋粥
(
いもがゆ
)
をすすめられるのでした。
047
平蔵
(
へいぞう
)
さんは心から教祖さまの暖かい心づくしと、
048
神様への感謝を捧げて、
049
それを頂かれるのでした。
050
夜も
更
(
ふ
)
けて来たので、
051
平蔵
(
へいぞう
)
さんは教祖さまの入れておかれた
炬燵
(
こたつ
)
で
温
(
ぬく
)
もった布団に
這入
(
はい
)
りましたが、
052
外は吹雪らしく、
053
壁に吹きつける
風音
(
かざおと
)
の激しさは
炬燵
(
こたつ
)
で
温
(
ぬく
)
もっていても身にしむようです。
054
裏畑の桑の
裸木
(
はだかぎ
)
が風に震える音を聞いている
中
(
うち
)
にいつしか、
055
眠りに
入
(
い
)
ってしまったということです。
056
何時頃であったか、
057
ふと
平蔵
(
へいぞう
)
さんが目を覚すと、
058
井戸端でしきりに水を浴びる音がしています。
059
一
(
ひと
)
きり水音が
止
(
や
)
んだかと思うと、
060
また水を浴びる音が響いてくるのです。
061
教祖さまが
水行
(
みずぎょう
)
をされていることは聞いていたが、
062
「この
寒中
(
かんちゅう
)
にお
寝
(
やす
)
みになる間もない荒行だ、
063
もったいないことだ」と、
064
心中恐縮しながらも寝込んでしまいましたが、
065
また再び目が覚めると、
066
相変わらず水を浴びる音がしています。
067
平蔵
(
へいぞう
)
さんが井戸端に面した障子の隙間から覗いて見ますと、
068
暗中
(
あんちゅう
)
であるにもかかわらず、
069
土蔵の入口の方に髪の毛の半分白い教祖さまのお姿が見えるのです。
070
あまりの不思議さにフト振り返って見ますと、
071
御神前にものすごい勢いでバッ、
072
バッ、
073
バッと火がもえ上がっています。
074
それは丁度
硫黄
(
いおう
)
を燃やす時のような炎でありましたが、
075
教祖さまの方へ眼をやって、
076
もう一度御神前を振り返った時には、
077
何時
(
いつ
)
の
間
(
ま
)
にか火は消えて、
078
教祖さまのお姿も拝することが出来ませんでした。
079
ただ水を浴びていられるザアッ、
080
ザアッという音のみが
暗中
(
あんちゅう
)
から響いてくるだけでした。
081
平蔵
(
へいぞう
)
さんは何だか
総身
(
そうみ
)
が引きしまるような気になり、
082
頭から布団を引き被ってみたものの、
083
その夜はとうとう眠り切ることが出来ませんでした。
084
そしてその後
夜明
(
よあけ
)
までに、
085
二、
086
三回は水を浴びていられる気配がしていました。
087
翌朝、
088
起きあがるなり祭壇に燃え上がっていた火のことを教祖さまにお尋ねしますと、
089
090
「あれは神界で
松明
(
たいまつ
)
を
焚
(
た
)
いて、
091
私の
水行
(
みずぎょう
)
しているのを、
092
御守護して下さっているのや」
093
と申されました。
094
平蔵
(
へいぞう
)
さんは更に、
095
前夜のことを思い浮かべながら、
096
097
「一体
昨晩
(
さくばん
)
は何べんほど水を浴びられたのです」
098
と
訊
(
き
)
きますと、
099
100
「
七
(
しち
)
へんほど
行
(
ぎょう
)
をさしてもらいました」
101
と言われますので、
102
平蔵
(
へいぞう
)
さんが井戸端へ行って見ますと、
103
ちょうど氷が
七重
(
ななえ
)
の層をなして井戸端に氷結していましたので、
104
いっそう
吃驚
(
びっくり
)
してしまったのでした。
105
更に、
106
教祖さまから、
107
108
「
水行
(
みずぎょう
)
の時は、
109
水を浴びても、
110
神様のお守護で少しも寒いことはありません。
111
一回の
水行
(
みずぎょう
)
に十三杯水を浴びると、
112
神様は“もうそれで良い”と言われるのですが、
113
もう一杯頂きますと言って、
114
ツルベの水を頭からかぶっても、
115
不思議に顔にも体にも、
116
一しずくの水もかかりません。
117
頭の上で、
118
水がパッと飛び散ってしまうのです」
119
と、
120
水行
(
みずぎょう
)
のおりの詳しい模様を聞かされまして、
121
平蔵
(
へいぞう
)
さんは
昨夜
(
さくや
)
の
神火
(
しんか
)
と思い合わせ、
122
心の底から信仰の徳の偉大さを思わずにはおれませんでした、
123
と話されています。
124
このことが
機
(
き
)
で、
125
平蔵さんの信仰は一層深くなったと言うことです。
126
もともと
平蔵
(
へいぞう
)
さんは、
127
人の世話など引き受けて、
128
よく面倒をみるような親切な人でありましたが、
129
神様の方は、
130
もう一つというところだったらしいですが、
131
しかしこのことがあってから、
132
今までとは打って変わって熱心に信仰するようになりました。
133
そして、
134
春が過ぎ、
135
田の植えつけが終わるとその当時、
136
他
(
ほか
)
の役員らは
挙
(
こぞ
)
って反対していたにもかかわらず、
137
教祖さまのお使いとして、
138
先生を迎えに行く御用を果たされたのであります。
139
この時は神様も大変お
歓
(
よろこ
)
びであったとみえて、
140
わざわざ、
141
お筆先が出て「
四方
(
しかた
)
平蔵
(
へいぞう
)
殿、
142
抜群の御手柄」と、
143
その功績を、
144
たたえられたのであります。
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第六歌集『霧の海』
を掲載しました。
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