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幼ながたり
まえがき
幼ながたり
01 父のこと
02 母の生いたち
03 因果応報ばなし
04 石臼と粉引きの意味
05 父の死
06 わたしのこと
07 奉公
08 幼なき姉妹
09 母は栗柄へ
10 母の背
11 屑紙集めと紙漉きのこと
12 清吉兄さん
13 蘿竜の話
14 およね姉さん
15 ひさ子姉さん
16 不思議な道づれ
17 仕組まれている
18 おこと姉さんの幼時
19 王子のくらし
20 ご開祖の帰神
21 霊夢
22 教祖と大槻鹿造
23 牛飼い
24 ねぐら
25 不思議な人
思い出の記
1 料亭づとめ
2 神火
3 天眼通
4 直日のこと
5 夫婦らしい暮しの日
6 尉と姥
獄中記
監房へ
一ぱいの水
青い囚人服
一本の桐の木と蝉
風の中の雀
ぼっかぶりの夫婦
オツルさん
孫の絵便り
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孫の絵便り
インフォメーション
題名:
孫の絵便り
著者:
出口澄子
ページ:
目次メモ:
概要:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
OBC :
B124900c43
001
京都の未決に四年いて今度は大阪に移されることになった時のことです。
002
四年と
一口
(
ひとくち
)
で言えば短いようですが、
003
もしこれから四年と言われれば誰でもこれはまことに長い期間であります。
004
いつ晴れるとも知れぬ月日へ、
005
先生と
宇知麿
(
うちまる
)
と私は同じ車で大阪へつれて行かれました。
006
お互いに話したくても警護の役人の監視がきびしくてそれもならず、
007
時々先生の方を案じて見るのが関の山でした。
008
京都ではよかったが大阪はつらいことやろうなア、
009
と車にゆられゆられ思っておりました。
010
大阪に着いたのは確か冬の日の出頃でありました。
011
大阪の監房には窓にこまかい金網が張ってありました。
012
それにどこからとびこんできたのか、
013
一匹の蝿が、
014
ゆうゆうと空中を廻っていました。
015
こういう時には一匹の蝿にも、
016
興味がわくものです。
017
尤
(
もっと
)
も昔から蝿は川柳などにうたわれて、
018
愛きょうのあるものです、
019
蝿は太閤さんの頭の上にも
上
(
あが
)
るし、
020
どんな格式の高い坊さんの頭にもとまります。
021
大臣の頭の上でも、
022
したい放題のことをして平気でいる虫で、
023
このごろは伝染病の媒介をするというのでひどく嫌がられますが、
024
監房の中に、
025
たった一匹あらわれてくると、
026
いかにもシャバらしい感じをさすものです。
027
子供の時からのことが思い出されて、
028
夏の日の
昼餉
(
ひるげ
)
や、
029
昼寝の
風情
(
ふぜい
)
や、
030
煮売屋
(
にうりや
)
の店先や、
031
こんペい
糖
(
とう
)
の
壷
(
つぼ
)
や、
032
はては牛小屋のまわりや、
033
荷馬車の馬が腹の肉をふるわせているところや、
034
馬の尻尾にはらわれてはたかる
町辻
(
まちつじ
)
の風景といろいろのことが、
035
描かれて
無性
(
むしょう
)
に懐かしく、
036
思いをめぐらし、
037
いろいろの回想を次々と追うものです。
038
わたしは、
039
京都、
040
大阪を通じて、
041
警察の署長さんでも監房の看守長さんでも、
042
うちの人だと思っておりますから、
043
監房の暮らしを、
044
それほどにつらいことに感じたことはまあないといえます。
045
これは
性来
(
せいらい
)
ののん気な性質が、
046
大いに助けとなったのでありますが、
047
ゆくところ、
048
ゆくところに、
049
それぞれ楽しみがあって、
050
昔の人のいうた“住めば都”という言葉は、
051
なるほどよくいうてあると感心したのであります。
052
私はそれで真実──ここも天国じゃなあ──と思いながら、
053
毎日暮らしていたので、
054
世間では主食の配給などで栄養失調になって、
055
病気がでたり、
056
ひどく体重が減ったりした人があったそうですが、
057
私は
差入屋
(
さしいれや
)
の弁当だけで、
058
かえって太りまして、
059
夜もよく眠れて不思議なほど、
060
からだの調子もよく、
061
そんな性質でありました。
062
しかし私にとって、
063
苦中楽
(
くちゅうらく
)
ありの思いを深くしてくれたものは、
064
やはり孫のくれた
絵便
(
えたよ
)
りでありました。
065
おばばちゃま、
066
だんだんさむくなりましたが、
067
おげんきですか。
068
わたくしはたいへんげんきです。
069
十三まいりのしゃしんもすぐおくります。
070
いまはいねかりもすんで、
071
むぎまきに一っしょうけんめいです。
072
わたくしもいまはしけんなので一っしょうけんめいにべんきょうをしています。
073
ふくだのばばちゃんも、
074
もうかえられました。
075
もうすぐお正月ですね。
076
お正月には、
077
おばばちゃまのところへかきぞめをおくります。
078
きのう、
079
がっこうで先生に、
080
かきかたが上手になったといってほめてもらいました。
081
こちらはみなげんきですからごあんしんください。
082
それでは、
083
おからだをおだいじに、
084
さようなら。
085
おばばちゃまへ なほみより
086
なおみの絵手紙を早速に、
087
四、
088
五尺くらいの高さの見よい壁にはりました。
089
この壁は、
090
何十年も塗り替えたこともない汚れた壁ですが、
091
はったらもう楽しいやら、
092
懐かしいやらで、
093
何日も何日も同じものをはって取りたくなかったものです。
094
不思議なことに、
095
それはそれはやかましい警察が見て見ん振りで済ませてくれたのは今から思うても不思議で、
096
結構なことでした。
097
私はこんな
処
(
ところ
)
にいても
孫達
(
まごたち
)
が楽しくしてくれ、
098
力づけてくれることを有難いことやと思いました。
099
じっと絵手紙を見ていると気が軽くなります。
100
表にしたり裏がえしたりしては壁にはりました。
101
めしつぶはほとんどが麦でホロホロと落ちる。
102
同じものを十日ばかり貼って楽しみました。
103
すると又、
104
みちゑから便りが来ました。
105
おばあちゃま、
106
おげんきですか。
107
わたくしもげんきです。
108
ふみさとちゃんはごはんのとき、
109
まんままんまといってよびにきます。
110
ふみさとちゃんはほんとうにかわいいです。
111
わたくしは、
112
おじいちゃま、
113
おばあちゃま、
114
おじちゃまが、
115
はやくかえられるようにまいにちおがみます。
116
それでは、
117
ごへんじをください。
118
さようなら。
119
おばあちゃまへ みちゑより
120
私も孫達へ早速便りを出しました。
121
手紙を書く時は、
122
担当が庭にムシロを敷いておかしな机を持って来てくれました。
123
私は先のまるくなった古い筆で返事を書くのです。
124
“元気でいる。
125
絵便りを何よりの楽しみにしている”あんまりこみいったことは書けません。
126
それでも私は警察やみんなを憎いとは少しも思いませんでした。
127
事件のことが心から離れず、
128
晴れたことのない気持ちですが、
129
だんだん悟って来ていました。
130
世の中の良きも
悪
(
あ
)
しきも遠ければ朝夕神の声のみをきく
131
京都より大阪の方がかえって楽しく、
132
ちょっともつらくなかったのです。
133
いっときは五畳敷くらいの部屋に囚人が入れ代わり立ちかわり入って来て、
134
四人も五人も一しょにいた雑房生活もありました。
135
「お前達は腹がへってやろう」と言うて、
136
囚人達にめしとおかずを半分ずつ、
137
一人びとりに朝と昼夕食の時にかわるがわる食わしてやりました。
138
私は小食ですから半分
彼等
(
かれら
)
に与えても、
139
そんなに苦痛でもありません。
140
皆
(
みんな
)
はおばちゃん、
141
おばちゃんと言うて、
142
肩をもむ、
143
たたく、
144
それは大事にしてくれました。
145
「おばちゃんの
傍
(
そば
)
にいたら、
146
もう外にも出たくない」と言って、
147
それはそれは親しくなってくれました。
148
面白いものです、
149
人買いやら泥棒、
150
中には前科何犯の
ねえさん
と言う連中とも一しょのことがありました。
151
いろいろと面白い話もあります。
152
私は
何処
(
どこ
)
へ行っても親切にされました。
153
また担当が大変大事にしてくれて「寒いなア」と普通の言葉ですが、
154
よく声をかけてくれ、
155
それにえろう
温
(
ぬく
)
まりが感じられて嬉しかったのをよう忘れません。
156
人買いが肩もみをしながら、
157
今までやって来た過ぎこしかたを語ってくれますのが、
158
それは私に知らない世界のいろいろの物語りで、
159
おかしい話やが
見聞
(
けんぶん
)
がえろう広くなったものです。
160
おばあちゃん、
161
おげんきですか。
162
ぼくは一っしょうけんめいにべんきょうして、
163
おばあちゃん、
164
おじいちゃん、
165
おとうちゃんのおかえりの日をまっています。
166
おばあちゃまへ 和明
167
おばあちゃん、
168
おげんきですか。
169
ぼくもげんきで学校へかよっています。
170
さようなら。
171
おばあちゃんへ いさみ
172
監房の冬はとても寒いものです。
173
火鉢とかそんな火の気のあるものは何一つありません。
174
夏は
蚊帳
(
かや
)
一つあるでなし、
175
蚊はぶんぶん飛んでさす。
176
からだは蒸されているようで部屋はくさい。
177
そんな生活の中で孫達の「遠足の絵」やら「山や草や木」「猫や船」の絵は、
178
これら孫達の日常への想像は、
179
私を子供の頃にかえらします。
180
それは、
181
十五、
182
六の
私市
(
きさいち
)
に奉公していた頃へさそい
入
(
い
)
れます。
183
奉公先の家はまことにしまりやで、
184
一日
家内中
(
かないじゅう
)
六人で米六合、
185
あとはわずかな麦と大根ばかりの御飯をたいたこと。
186
夜の雑炊のこと。
187
ある夕方のこと、
188
私は牛をつれて草を喰べさせるべくいつものように野山の草を目あてに出歩きます。
189
私はチョコチョコと草刈りです。
190
くせの悪い、
191
私をよく困らせた牛。
192
黄昏の中を私は牛が見つからんでどうしようと小さい胸で思案し、
193
木蔭
(
こかげ
)
にたたずんで泣いていたこと。
194
それからやっとのことで牛を見つけて暗くなった
家路
(
いえじ
)
をたどりましたが、
195
この
径
(
みち
)
は
牛糞
(
うしくそ
)
が散在してまことに足は牛グソまみれ、
196
ヒヤメシ
草履
(
ぞうり
)
がベタベタでハネが尻の方まであがります。
197
やっとのことで家についた私は
牛小舎
(
うしごや
)
から屋敷の裏口へ、
198
そして土間に入りました。
199
熱い!私はうなりました。
200
真暗な土間に雑炊の鍋がさましてあって、
201
私は足首まで雑炊の中へつっ込んでしまったこと。
202
そこで大急ぎ、
203
足を投げ入れた部分だけ雑炊を
鶏
(
にわとり
)
にやっておいたこと。
204
夕めし
時
(
どき
)
、
205
奉公人の一人が「何んや今夜の雑炊にはスナがある」と不審がり、
206
私は食べないわけにもゆきませんので隅の方を
撰
(
よ
)
って茶碗によそい、
207
何くわぬ顔でカサカサと食べていたこと。
208
おばあちゃま、
209
おげんきですか。
210
わたくしはたいへんげんきです。
211
きょうは二月一日です。
212
二月四日はせつぶんですね。
213
それから二月八日は、
214
おばあちゃまのおたんじょうびですね。
215
このえは、
216
わたしたちが、
217
えんそくにいってるときのえです。
218
わたしは、
219
はるが一ばんすきです。
220
おばあちゃまはいつがすきですか。
221
いまは二月ですからもうじきはるです。
222
きょねんのいまごろは、
223
たいへんさむいでしたが、
224
ことしはたいへんあたたかいです。
225
ゆきがつもったのは二へんだけです。
226
はるになったら、
227
またてがみをだします。
228
それではかぜをひかないようにおからだにきをつけてください。
229
さようなら
230
おばあちゃまへ 出口直美
231
私は野や山が大変好きです。
232
遠足などの
幼
(
おさ
)
な
心
(
こころ
)
の味わいは知りませんが、
233
そのかわり山へ柴刈りに行ったものです。
234
人間はひどい環境に押さえつけられている時は、
235
余計に深い深い思い出に入って行きやすく、
236
これはごく自然なことであります。
237
こんな自由までとり上げられたら、
238
まことにかなわんことです。
239
結構なことに、
240
どんなひどい目に逢っても、
241
こういう世界はちゃんと神様が与えて下さっておるのであります。
242
おばあちゃま、
243
おてがみをださないでごめんなさい。
244
しけんがあったの。
245
これからたくさんお便りします。
246
朝は、
247
ごはんのできたしらせのりんと一しょにおきようと思いますが、
248
なかなかじっこうできません。
249
ではおからだをごたいせつに早くかえって下さい。
250
みいはそればかりまっております。
251
さようなら。
252
おばあちゃまへ みいより
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飯塚弘明著『
PTC2 出口王仁三郎の霊界物語で透見する世界現象 T之巻
』発刊!
5/8
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第六歌集『霧の海』
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