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幼ながたり
まえがき
幼ながたり
01 父のこと
02 母の生いたち
03 因果応報ばなし
04 石臼と粉引きの意味
05 父の死
06 わたしのこと
07 奉公
08 幼なき姉妹
09 母は栗柄へ
10 母の背
11 屑紙集めと紙漉きのこと
12 清吉兄さん
13 蘿竜の話
14 およね姉さん
15 ひさ子姉さん
16 不思議な道づれ
17 仕組まれている
18 おこと姉さんの幼時
19 王子のくらし
20 ご開祖の帰神
21 霊夢
22 教祖と大槻鹿造
23 牛飼い
24 ねぐら
25 不思議な人
思い出の記
1 料亭づとめ
2 神火
3 天眼通
4 直日のこと
5 夫婦らしい暮しの日
6 尉と姥
獄中記
監房へ
一ぱいの水
青い囚人服
一本の桐の木と蝉
風の中の雀
ぼっかぶりの夫婦
オツルさん
孫の絵便り
獄中の歌
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五 夫婦らしい暮しの日
インフォメーション
題名:
5 夫婦らしい暮しの日
著者:
出口澄子
ページ:
目次メモ:
概要:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
OBC :
B124900c33
001
人の一生というものは、
002
それぞれ、
003
みんな苦労の多いことですが、
004
先生と私との一生も、
005
苦労続きでありました。
006
わたくしたち夫婦は世間で言うところの、
007
夫婦で芝居を
観
(
み
)
にいって楽しむという、
008
そういう
悦
(
よろこ
)
びを長い一生の間にも味わうことが出来ませんでした。
009
私が先生と結婚しましたのは明治三十三年で、
010
私は十八、
011
そのころはこの道の役員には物分かりの悪い人が多く、
012
先生に
悪神
(
あくがみ
)
がついていると言うて、
013
先生のすること
為
(
な
)
すことを攻撃して、
014
お道の宣伝に行けば邪魔をする、
015
家に
居
(
お
)
れば居るで四ツ足み
魂
(
たま
)
だと言うて、
016
家に
居
(
お
)
ることもできないという有様で、
017
その念のいった困らせかたは、
018
先生も私も本当に悩ませられたものです。
019
そういう或る日、
020
先生が「おすみや、
021
薪刈
(
しばか
)
りに行こうかい」と言って、
022
私たち二人は
質山
(
しちやま
)
へ
薪刈
(
しばか
)
りに出かけました。
023
今から思い返してみますと、
024
私たちの
一代
(
いちだい
)
で、
025
夫婦としていちばん楽しい思い出となっていますのは、
026
そのころ
質山
(
しちやま
)
で先生と
薪刈
(
しばか
)
りをして働いたことであります。
027
そのころはもう直日が生まれていて、
028
二つぐらいの赤ん坊でした。
029
私は朝の仕度を早くすますと、
030
直日を
背
(
せな
)
におんぶして、
031
先生は
車力
(
しゃりき
)
を引っぱって
陽
(
ひ
)
の
上
(
あが
)
るなかを出掛けました。
032
質山
(
しちやま
)
の下の
新道
(
しんみち
)
のところに車をおいて、
033
車の蔭にムシロを敷いてその上に直日を寝かせました。
034
陽があたるので、
035
持ってきたオシメを車にかけてやりました。
036
それから山に
上
(
のぼ
)
って
薪刈
(
しばか
)
りをするのですが、
037
先生という人は草を刈っても、
038
魚を捕らしても、
039
ああいう人はちょっと聞いたこともありませんが、
040
薪刈
(
しばか
)
りもそれは上手でした。
041
一束
(
いっそく
)
ぐらいの
薪
(
しば
)
を刈るのは朝飯前という言葉がある通りです。
042
教祖さまのお筆先を取違いし、
043
それでいて熱心な人々に取巻かれて、
044
理
(
わけ
)
のわからんことで責められていた先生は、
045
そこから
逃
(
のが
)
れて、
046
私と山の中でこつこつと働いていることは、
047
先生にとってこの上もない安息でありました。
048
山の
真上
(
まうえ
)
にお日さまが
上
(
のぼ
)
ると、
049
お昼になったと先生は谷川に下りて水を汲んでくれました。
050
二人は直日の寝かせてある
車力
(
しゃりき
)
の
傍
(
そば
)
で私のこしらえてきた貧しい弁当を頂きましたが、
051
その時の楽しさは今も新しくそのままに思い出せます。
052
こういうことが一生許されて暮らされたのでしたら、
053
私たちはどんなに安らかな楽しい一生をすごせたことだろうと思います。
054
私たち程いろいろの目にあったものは世界中でも珍しいものではないかと思いますが、
055
私達の行く先には神界からの御用が待っていました。
056
先生のミタマは筆先にもありますように、
057
世の中の罪や
穢
(
けが
)
れを一身に引きうけて
千座
(
ちくら
)
の
置戸
(
おきど
)
をおうてそれを救われるお役でしたので、
058
先生の一代の苦労というものは、
059
つれそうてきた私でなければ分からない大変なものでありました。
060
このお道を広めるために先生が尽くされた努力というものが、
061
また大変なものでした。
062
一文もないところから借金をして
手刷
(
てず
)
りの印刷機械を買われて、
063
原稿を書かれるのも一人なら、
064
活字を拾うて版を組むのも殆んど一人でした。
065
それを夜もろくろくに寝られることなく一枚一枚手でおして刷ったのでありまして、
066
先生の努力というものは、
067
先生の熱心というものは、
068
何をされても
一心
(
いっしん
)
を打ち込んでやられたということは、
069
そうして、
070
一生どんな非難攻撃の中ででも誠でつらぬき通されたということは、
071
これほどに尊いものはないやろうと思うのであります。
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