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幼ながたり
まえがき
幼ながたり
01 父のこと
02 母の生いたち
03 因果応報ばなし
04 石臼と粉引きの意味
05 父の死
06 わたしのこと
07 奉公
08 幼なき姉妹
09 母は栗柄へ
10 母の背
11 屑紙集めと紙漉きのこと
12 清吉兄さん
13 蘿竜の話
14 およね姉さん
15 ひさ子姉さん
16 不思議な道づれ
17 仕組まれている
18 おこと姉さんの幼時
19 王子のくらし
20 ご開祖の帰神
21 霊夢
22 教祖と大槻鹿造
23 牛飼い
24 ねぐら
25 不思議な人
思い出の記
1 料亭づとめ
2 神火
3 天眼通
4 直日のこと
5 夫婦らしい暮しの日
6 尉と姥
獄中記
監房へ
一ぱいの水
青い囚人服
一本の桐の木と蝉
風の中の雀
ぼっかぶりの夫婦
オツルさん
孫の絵便り
獄中の歌
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風の中の雀
インフォメーション
題名:
風の中の雀
著者:
出口澄子
ページ:
目次メモ:
概要:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
OBC :
B124900c40
001
そのころ、
002
私の心を慰めてくれ、
003
楽しませてくれた友達の、
004
桐の木や蝉のほかに、
005
もう一つ、
006
より身近な隣人に
雀
(
すずめ
)
がおります。
007
わたしが雀を初めてみたのは、
008
桐の木などより後になっております、
009
それまで私は雀を見る機会がありませんでした。
010
食べるものもない監房に雀が訪ねてくるとは不思議なことやと思いましたが、
011
ある日、
012
私の監房の窓に一羽の雀が来てくれて、
013
じっと私の部屋をのぞいてました。
014
──あっ、
015
お前は雀やないか、
016
どこの雀やな──
017
というていると、
018
私の部屋の窓の
周囲
(
まわり
)
にたちまち大勢の雀たちが集まって来ました。
019
そうして賑やかな声を立てて、
020
チュン、
021
チュンチュンチュンと鳴き初めました。
022
私は──雀が遊びに来てくれた──と思いました。
023
子供の頃からなじんでいるこういう生き物への愛情は、
024
あの場合また格別のものであります。
025
雀が目の前に現われた驚きは、
026
私の胸をゆさぶるように歓ばせてくれました。
027
私はこの可愛い不意の訪間者に何か
報
(
むく
)
いてやりたいと思いましたが、
028
私の手元には、
029
雀にやるようなものは何物もありませんでした。
030
それでも雀は愛らしい声を立てて、
031
一
(
ひと
)
しきり、
032
私の窓の辺りで遊んでいってくれました。
033
やわらかい感じの胸毛、
034
その毛で包まれている胸のふくらみ、
035
円
(
まる
)
い頭、
036
愛くるしいひとみ、
037
細い首、
038
それから足元へ、
039
とよく見るといろいろの美しい色、
040
それから、
041
ぷうっと空気をふるわせて飛ぶ
羽音
(
はおと
)
、
042
私は夜になっても、
043
雀のことばかり思いました。
044
次の日から差入れの弁当から、
045
少しずつを雀のためにのこし、
046
高い窓のところにおいて待ちました。
047
「お前のう、
048
わしの体が自由になるんやったら、
049
ここを出て米を取って、
050
お前に食わしてやるんじゃが、
051
自由がきかんで、
052
このご飯を食べや」
053
私の出してやるわずかなものを
雀等
(
すずめら
)
は美しい声で
囁
(
ささや
)
き合って頂いてくれました。
054
雀は毎日々々来ました。
055
紙と筆があれば「すずめの歌」を書いて、
056
雀に読んでやりたいが、
057
書くものがないので可愛い雀に雀の歌を作ってやれないのが私には何より残念でした。
058
それから間もなく私が××号の監房に移りましたが、
059
ここへも雀は毎日来て遊んでゆきました。
060
そこの窓からは、
061
こぼれ
種
(
たね
)
から生えたのやと思いますが、
062
黍
(
きび
)
が生えていました。
063
秋になるとえらいもので
黍
(
きび
)
は穂をつけました。
064
その
黍
(
きび
)
の穂に雀がとまって、
065
ゆれながら楽しげに穂をついばんでいるのを見た時、
066
私はあゝよかったと思ってその喜びは、
067
今も忘れることができません。
068
私はその時ほど、
069
自然の美しさといいますか、
070
自然の姿の不思議さ、
071
生きているものの美しさを感じたことはありません。
072
そうして田舎の秋の景色を神秘なものやなと心に描きました。
073
それは田舎にある景色であります。
074
人間が種を
播
(
ま
)
いて自分の食べるのを楽しみにして作っているのを、
075
ちゃんとできた時分に、
076
鳥
(
とり
)
が来てついばんでいます。
077
こういう自然の姿はまことに不思議なものであります。
078
雀とは、
079
すっかり友達のようになりました。
080
「雀、
081
雀、
082
お前の嫁はんを連れてきて見せておくれ」と、
083
からかってやりますと、
084
本当に嫁さんらしい雀を連れて窓口に来てくれました。
085
多勢の雀が遊んでいる中に、
086
最初に、
087
私の窓からのぞいてくれた一羽の雀を見つけると、
088
一ばん親しい人に会ったように、
089
呼びかけました。
090
雀を
観察
(
みる
)
ことより他に楽しみのない、
091
私の暮しが続いているうちに、
092
私は雀たちにも社会があり、
093
いろいろの法律があるように思いました。
094
雀たちは仲間で暮らしていることや、
095
共同生活をしていることが分かってきました。
096
朝になると雀たちは
先
(
ま
)
ず集って相談をします。
097
どこから来るのか、
098
たくさんの雀が集ってきます。
099
その時の雀の声は特別にやかましく、
100
やがて集ってきた雀の中の
長
(
ちょう
)
らしいのを囲んで、
101
円陣になって会議をはじめます。
102
私が聞いていると、
103
会議は、
104
その日の仕事の役割りです。
105
「お前××の米屋の庭に、
106
お前△△の酒屋の
倉前
(
くらまえ
)
にゆけ」と雀の
長
(
ちょう
)
が、
107
いちいち指図をしているようで、
108
他の雀は時々返事をするほかはじっと聞いています。
109
そうして会議が終わると
一
(
いっ
)
せいにぷうっと飛び立ってゆきます。
110
そうして
一
(
ひと
)
しきり辺りが静かになります。
111
それから、
112
夕暮れ前になると東から西から威勢よく戻ってきます。
113
その時もう一度、
114
円陣で会議をします。
115
やはり雀の
長
(
ちょう
)
をかこんで、
116
こんどは円陣にいる雀が一羽ずつ、
117
チュンチュンと話します。
118
これはどうも、
119
その日の仕事の経過報告であります。
120
そうして一通り雀の報告が終わると、
121
日が暮れるまでの時間を、
122
自由に遊んでいました。
123
ある時は仲間の法則を破った雀が、
124
長
(
ちょう
)
から叱られていることがありました。
125
雀たちも、
126
それぞれ個性があり、
127
いろいろの性質があるように思いました。
128
これらはじっと見たり、
129
鳴き声をきいたりしているうちに、
130
そういうふうに感じたのであります。
131
そうして見ている内に、
132
だんだんと深く雀たちがいとしくなり、
133
早く家に帰れたら、
134
十分に食わしてやれるのやが、
135
と思いながら、
136
毎日々々、
137
雀を相手に遊んでいました。
138
雀が仕事にでかけて、
139
辺りの静かな時間は、
140
やはり大本事件のことばかり考えます。
141
大本事件がどうなっているかは、
142
未決監
(
みけつかん
)
の中にいては、
143
なに一つ分かりません。
144
あまり大本の活動がはげし過ぎて、
145
政府から憎まれて起こったことは、
146
警察の取調べぶりで、
147
大体の想像はついていましたが、
148
なんのために、
149
こうまで長くかかるのかはさっぱり分かりません。
150
しかし、
151
いくら考えてみたところで分からぬことを考えるのは、
152
退屈なことです。
153
ついには考えてみることも
嫌
(
いや
)
になり、
154
それで、
155
自分の顔をなでてみたり、
156
そんなことなどして、
157
時間を過ごしていました。
158
その時、
159
顔を洗うところに、
160
チョロチョロと黒い虫が遊んでいるのが目にとまりました。
161
この虫が私の京都の
未決監
(
みけつかん
)
時代に私と一ばん仲よく遊んでくれた“ぼっかぶり”であります。
162
ぼっかぶりは虫でありますから、
163
私の部屋の中にも自由に出入りし、
164
私の
膝
(
ひざ
)
の上にも乗ってきて、
165
私の最も近い身内になって私を楽しませてくれました。
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王仁文庫 第六篇 たまの礎(裏の神諭)
』をテキスト化しました。
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】
飯塚弘明著『
PTC2 出口王仁三郎の霊界物語で透見する世界現象 T之巻
』発刊!
5/8
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霊界物語ネットに出口王仁三郎の
第六歌集『霧の海』
を掲載しました。
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