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幼ながたり
まえがき
幼ながたり
01 父のこと
02 母の生いたち
03 因果応報ばなし
04 石臼と粉引きの意味
05 父の死
06 わたしのこと
07 奉公
08 幼なき姉妹
09 母は栗柄へ
10 母の背
11 屑紙集めと紙漉きのこと
12 清吉兄さん
13 蘿竜の話
14 およね姉さん
15 ひさ子姉さん
16 不思議な道づれ
17 仕組まれている
18 おこと姉さんの幼時
19 王子のくらし
20 ご開祖の帰神
21 霊夢
22 教祖と大槻鹿造
23 牛飼い
24 ねぐら
25 不思議な人
思い出の記
1 料亭づとめ
2 神火
3 天眼通
4 直日のこと
5 夫婦らしい暮しの日
6 尉と姥
獄中記
監房へ
一ぱいの水
青い囚人服
一本の桐の木と蝉
風の中の雀
ぼっかぶりの夫婦
オツルさん
孫の絵便り
獄中の歌
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> 15 ひさ子姉さん
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(B)
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16 不思議な道づれ >>>
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一五 ひさ子姉さん
インフォメーション
題名:
15 ひさ子姉さん
著者:
出口澄子
ページ:
目次メモ:
概要:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
OBC :
B124900c17
001
およね姉さんの
神
(
かん
)
がかりより一年早い明治二十三年に、
002
八木
(
やぎ
)
にいっていたひさ子姉さんが
神
(
かん
)
がかりになっています。
003
この姉は教祖さまの三女で、
004
これまでにも書いていますように、
005
小さい時は岡の父の実家に奉公にやられ、
006
父が病気になって
床
(
とこ
)
につきますと、
007
教祖さまが、
008
商
(
あきな
)
いにでかけられた後、
009
私とおりょうさんではたよりないので、
010
家に呼び戻され父の看病をしました。
011
少女のころから教祖さまの手助けをして、
012
難
(
なん
)
じゅうな道を共に歩まされた姉であります。
013
父が亡くなりますと、
014
ひさ子姉はまた、
015
じきに
八木
(
やぎ
)
の町へ奉公にやらされました。
016
これは、
017
たしかひさ子姉の十六才のころで、
018
八木
(
やぎ
)
の
桝屋
(
ますや
)
という宿屋にいっていたということです。
019
そのころ、
020
八木
(
やぎ
)
の町に福島
虎之助
(
とらのすけ
)
と言う、
021
いつも人力車をきれいにしてピカピカと光らせ、
022
やたらに誰でも自分の車に乗せんという、
023
一風
(
いっぷう
)
変わった
人力車夫
(
じんりきしゃふ
)
がいました。
024
この福島虎之助から、
025
是非ともひさ子姉さんを嫁にくれとせがまれ、
026
ひさ子姉さんは虎之助さんの妻になりました。
027
この二人には、
028
よく似通った気持ちがありました。
029
それは二人とも小さい時から貧乏の苦しみが身にこびりついていましたので、
030
大きくなったら、
031
とにもかくにも金を貯めて、
032
世間の人からさげすまれないようになりたいという一念でありました。
033
二人は夫婦になると、
034
よく気が合い虎之助さんも律義な人で、
035
姉も一心に働き、
036
何とかして金持ちになりたいと
励
(
はげ
)
みましたので、
037
しばらくのうちに
八木
(
やぎ
)
の銀行で信用をもたれるところまでになっていました。
038
ところが明治二十三年のこと、
039
ひさ子姉さんに
初子
(
はつご
)
のフジが生まれ、
040
そのお産の後に、
041
ひさ子姉さんの
神
(
かん
)
がかりが始まりました。
042
ひさ子姉はこの時のことを後になって私に、
043
「
産月
(
うみづき
)
も近くなってくるのに綾部の家は貧乏で、
044
とても
産着
(
うぶぎ
)
などは持って来てはくれまい。
045
綾部までは十何里もあることだし、
046
今のように汽車はないころで、
047
行くにもゆけず、
048
毎日
産着
(
うぶぎ
)
のことばかり考えているうちに、
049
血が頭に
上
(
のぼ
)
って、
050
急に大声が腹の中から出てきて、
051
それがもとで
神
(
かん
)
がかりになった」といっていました。
052
これは丹波だけに限られてない、
053
どこの国でも同じ風習かも知れませんが、
054
そのころ綾部方面では
初子
(
はつご
)
が生まれると必ず
産着
(
うぶぎ
)
を親元から届けることになっていましたので、
055
ひさ子姉は親元が来ないようでは恥ずかしいと思って、
056
気に
病
(
や
)
み過ぎたのと、
057
もう一つ、
058
姉が
神
(
かん
)
がかりになった原因があります。
059
福島の夫婦は熱心な金光教の信者でしたが、
060
姉はある日、
061
神様から世の終わりの、
062
世界の人間が餓鬼道に落ちている、
063
惨
(
むご
)
たらしい場面を見せられ、
064
その
状
(
すがた
)
が頭から
退
(
の
)
かなかったことです。
065
いよいよ食べるものも無くなった人間が、
066
畳のへりを破って
吾勝
(
われが
)
ちに口の中へ入れているところなど、
067
そういう場面を見せられてからのひさ子姉は、
068
この惨状から人間は
脱
(
のが
)
れられるのであろうかと心配し、
069
夜もオチオチ
睡
(
ねむ
)
られず、
070
考えつめたあげくにとうとう
神
(
かん
)
がかりになったということであります。
071
姉の腹の中からは
圧
(
おさ
)
えてもおさえても大きな声が出て悲観しておりました。
072
ある夜、
073
夜半
(
やはん
)
にふと眼を覚ますと、
074
かわいそうに夫の虎之助が赤ん坊を抱いたまま睡っております。
075
それをみて姉の頭の中には家計の悩み、
076
自分の病いのことなどが思われ、
077
さらに心が乱れてきて、
078
079
「いっそのこと自殺してしまおう」
080
と、
081
ソッと家を抜けだしました。
082
八木
(
やぎ
)
の
大川堤
(
おおかわづつみ
)
を降りて、
083
袂
(
たもと
)
の中に石ころを拾うては詰め、
084
ザブザブと川の
流
(
ながれ
)
の中にすすみましたが、
085
水が浅うて死ねんので、
086
黒住
(
くろずみ
)
さんの下の深い
淵
(
ふち
)
にドブンと身投げしました。
087
耳へ水が入り、
088
鼻からも水が流れてきて
呼吸苦
(
いきぐる
)
しくなり、
089
それから分からなくなってきたそうですが、
090
思わず川の底を足でズンと
蹴
(
け
)
ったそうです。
091
すると
袂
(
たもと
)
の石が少なかったのか運よくポッカリと首が
川面
(
かわづら
)
に出て、
092
眼をあけると、
093
空中に
四十
(
しじゅう
)
くらいの男の黒い羽織を召した神様が現われて、
094
声をかけられたそうです。
095
神様は、
096
097
「お前は、
098
こんなところへ
何為
(
なにし
)
に参りたか」
099
「私は余り死にとうて川へ
陥
(
はま
)
りに参りました」
100
「お前の来るところではない、
101
早く帰れ」
102
「
帰
(
い
)
のうにも、
103
今さら近所の人に恥ずかしいで
帰
(
い
)
なれませぬ」
104
「今
直
(
す
)
ぐ
帰
(
い
)
ねば、
105
そなたの主人もまだ目を覚ましてはおらぬ。
106
ぐずぐずしておりたら近所から人が出て来て
帰
(
い
)
なれんようになる、
107
早く
帰
(
い
)
ね」
108
「はい」
109
「お前はワシの言う通りにすれば、
110
お前の病気も治る。
111
しかしお前の病気が治ると、
112
今度はお前の主人が病気になり、
113
今日が日が食べられぬまで
長患
(
ながわずら
)
いする。
114
その貧乏の苦しい時に、
115
お前はもうこんな
辛棒
(
しんぼう
)
はいやじゃと言うて家を出てはならぬ。
116
もしワシの言うことを聞かずに家を出ると、
117
お前はヒポコンデルというタチヤマイに
罹
(
かか
)
り、
118
終
(
しま
)
いには乞食になって、
119
主人の家に物乞いに出かけねばならん。
120
よくよくワシの言うことを胸の奥にしまいこんで早く
帰
(
か
)
えるがよい」
121
川の
面
(
おもて
)
にポカッと顔を出していたほんの
瞬間
(
しばらく
)
のまに、
122
姉は中空に現われた男の神様とそんな長い間答をしていたのです。
123
姉は吾に返るや、
124
あわてて
川土堤
(
かわどて
)
へ駈け上がって、
125
急いで家に帰り、
126
表で濡れた髪をギュッとしぼり、
127
着物をソッと脱いで押入れへ入れておいて、
128
着物を着換えていると虎之助さんが眼をさまされたそうです。
129
「おひさはそこで何をしているのや」と虎之助さんが聞かれたので、
130
姉は「余り死にとうなって大川へ
陥
(
はま
)
りにゆきましたら、
131
神様が“早ういね”とおっしゃりましたゆえ帰ってきました」と言われますと、
132
虎之助さんがびっくりして本家の人を呼び、
133
近所の人を起こして心配したので、
134
それがまた頭に
逆上
(
のぼ
)
りました。
135
おなじ
車夫
(
しゃふ
)
仲間に
和助
(
わすけ
)
という熱心な金光さんの信者がいて、
136
虎之助さんに「こんどのことは神様にご
利益
(
りやく
)
をもらうより他にはない」と言うので、
137
虎之助さんは姉さんをつれて中西という金光さんの先生に拝んでもろうことになりました。
138
この時、
139
初めて“艮の金神のご守護”と言うことばがでてきました、
140
と言います。
141
丁度このさわぎの時に教祖さまにも通知がゆきました。
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第六歌集『霧の海』
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