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幼ながたり
まえがき
幼ながたり
01 父のこと
02 母の生いたち
03 因果応報ばなし
04 石臼と粉引きの意味
05 父の死
06 わたしのこと
07 奉公
08 幼なき姉妹
09 母は栗柄へ
10 母の背
11 屑紙集めと紙漉きのこと
12 清吉兄さん
13 蘿竜の話
14 およね姉さん
15 ひさ子姉さん
16 不思議な道づれ
17 仕組まれている
18 おこと姉さんの幼時
19 王子のくらし
20 ご開祖の帰神
21 霊夢
22 教祖と大槻鹿造
23 牛飼い
24 ねぐら
25 不思議な人
思い出の記
1 料亭づとめ
2 神火
3 天眼通
4 直日のこと
5 夫婦らしい暮しの日
6 尉と姥
獄中記
監房へ
一ぱいの水
青い囚人服
一本の桐の木と蝉
風の中の雀
ぼっかぶりの夫婦
オツルさん
孫の絵便り
獄中の歌
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一二 清吉兄さん
インフォメーション
題名:
12 清吉兄さん
著者:
出口澄子
ページ:
目次メモ:
概要:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
OBC :
B124900c14
001
元来私の八人の
兄姉
(
きょうだい
)
のうち、
002
清吉兄さんとひさ子姉さんと私の三人は
新宮
(
しんぐう
)
の
政五郎
(
まさごろう
)
さんの暴れん坊といわれて有名なものでした。
003
ほかの
兄姉
(
きょうだい
)
は皆おとなしかったが、
004
この人のうちで清吉兄さんと私は特別に
ごんた
で通っておりました。
005
ことに清吉兄さんは美しい男で
気
(
き
)
っ
風
(
ぷ
)
もよかったので大した人気者でありました。
006
そのころよく流行していた闘犬が好きで、
007
自分でも五六匹の犬をいつも連れて歩いていましたので、
008
「
新宮
(
しんぐう
)
の犬の庄屋どん」といわれて、
009
なかなか綾部の人にもてはやされていたものです。
010
負けず嫌いの男でよく喧嘩もしましたが、
011
「あれは
政五郎
(
まさごろう
)
の子やろう」と
一眼
(
ひとめ
)
にきめられるくらい名を売っていました。
012
やんちゃ
はしても愛嬌があったので人に憎まれるようなことはありませんでしたが、
013
兄は喧嘩をすると無鉄砲で相手に傷をつけたことがよくあったらしく、
014
私が町を歩いていると、
015
「おまえは
政五郎
(
まさごろう
)
の子やろ、
016
清吉どんがわしにこんな傷をつけよったワイ」と腕をまくって見せる人、
017
足を出して見せる人、
018
肩肌
(
かたはだ
)
をぬぐ人がありましたから、
019
相当な乱暴をしていたのでしょう。
020
これは教祖様から聞いた話しでありますが、
021
私を負ぶって子守りをしていた清吉兄さんが、
022
あるとき
裏町
(
うらまち
)
の柿の木に私とも、
023
縛りつけられ六七人の男友達から、
024
「あやまれ、
025
あやまれ、
026
謝まらな放したらん」と、
027
きめつけられていたそうで、
028
これを見つけた人が教祖様に、
029
「清吉どんがおすみさんをおぶったまま裏の柿の木に縛りつけられて
苛
(
いじ
)
められているから行ってやれ」とおしえたので、
030
教祖さまが驚いて
裏町
(
うらまち
)
へ行ってみると、
031
その通り、
032
私を負ぶったまま柿の木にいわいつけられ、
033
五六人の男達は
床几
(
しょうぎ
)
を持ち出してそれにデンと坐って「こらあやまれ、
034
あやまらんか」といっている。
035
兄は歯をくいしばり、
036
「なにッ、
037
何あやまるものか」と
力
(
りき
)
んでいる。
038
「あやまらな、
039
ほどいたらんぞ」と又けしかける、
040
兄は「なにあやまろうかい」とますます
力
(
りき
)
んでいる。
041
そこへ教祖様が駈けつけて兄を柿の木からほどいて家に連れ戻されました。
042
兄は私をおんぶしていたので思うように体が動かせず、
043
背中の私が気になってその時は負けていたが、
044
教祖様に連れて帰られながら、
045
「一ペん、
046
あいつらをやっつけてやる」と言っていたそうです。
047
しかし兄は
申年
(
さるどし
)
で非常にさっぱりした人でしたから、
048
その後どうしたか知りません。
049
私が教祖様に抱かれて寝ていた夜でした。
050
表道
(
おもてみち
)
をドシンドシンと歩く音がきこえました。
051
私がびっくりして耳を澄ましていますと、
052
その音は
次郎右衛門
(
じろううえもん
)
さんの
角
(
かど
)
まで行き、
053
エヘンと大きく咳ばらいをして、
054
ズシンズシンと足音をひびかせながら通って行きました。
055
その時、
056
教祖様は私に「今のはなあ、
057
金神様のお通りやったのや」とおっしゃって、
058
自分でも拝んでおられたようでした。
059
次の日、
060
清吉兄さんがお母さんに、
061
「昨夜、
062
何か変わったことはなかったかい、
063
母さん」と聞かれました。
064
教祖様は「夜中にな、
065
金神様が表をお通りになって、
066
そしてエヘンと咳ばらいをして行ってでした」と言われると、
067
清吉兄さんは「母さん、
068
あれは、
069
私だよ」と言って大声で笑っていました。
070
清吉兄さんはそういう
剽軽
(
ひょうきん
)
な茶目なところがありました。
071
しかし教祖様はその時、
072
「清吉さんは何も知らんが、
073
金神様が清吉さんにうつられて、
074
綾部の町を歩かれたのや」と申されていました。
075
母の見たのは清吉兄さんの肉体にかかられている金神さまであったのです。
076
これを見ても人は自分でしていると思うことでも、
077
その多くは何らかの霊にさせられているということがわかりましょう。
078
清吉兄さんはその名のように神様がかかられるほど心の清いよい男でありました。
079
教祖様は清吉兄さんを可愛がっておられました。
080
清吉兄さんは教祖様の言われることは何んでも、
081
「はいはい」と言って一つも理屈を言わなかった人でした。
082
しかし、
083
清吉兄さんの紙漉き業がよい商売で儲かるとにらんだのが、
084
例の西町の大槻鹿造です。
085
この大槻鹿造の因縁については別に話しますが、
086
鹿造は自分の家の裏に紙漉きの職場を建て、
087
清吉兄さんを無理やりに連れて行きました。
088
鹿造の家は屋号を
今盛屋
(
いいもりや
)
と言っていたので、
089
それから綾部の人は
今盛屋
(
いいもりや
)
の清吉どんとも言っていました。
090
私の十一才の頃でした。
091
清吉兄さんは徴兵で近衛師団に入隊いたしました。
092
その時、
093
教祖様が「清吉さん、
094
何か食べたいものはないかい」と言われますと、
095
清吉兄さんは「そうやな、
096
さつま
薯
(
いも
)
の新しいものが食べたいなあ」と言われました。
097
そのころ、
098
教祖様は
御帰神
(
おかむがかり
)
になっておられ
狂人
(
きちがい
)
扱いにされていなさる頃で、
099
大へん苦労をされたあげく、
100
やっとのことで
薯
(
いも
)
を手に入れて戻られました。
101
ふかし上がった
薯
(
いも
)
を男盛りの清吉兄さんがふうふうと吹きあげながら、
102
うまいうまいと言って食べられたのが、
103
私たちの清吉兄さんの最後の思い出となっています。
104
清吉兄さんはそれから台湾事変に
征
(
い
)
って戦死したことになっています。
105
そのころの近衛兵は赤い帽子をかぶっていたそうで、
106
その当時、
107
支那兵から赤帽隊と呼ばれていたものだそうです。
108
清吉兄さんは金神様のお働きであると聞いておりましたが、
109
戦争中にいろいろ不思議なことが現われましたそうです。
110
また日の出の御守護といわれておりましたことも、
111
思いあたるような働きを示したということをきいております。
112
戦争がすみましても清吉兄さんは帰ってきませんでした。
113
教祖様は神様にお伺いされ何か深く考えこんでいられました。
114
今盛屋
(
いいもりや
)
の大槻鹿造は悪党でありましたが、
115
清吉兄さんを子供のように可愛がっていたので、
116
清吉兄さんと一緒に
征
(
い
)
った人が帰ってきても清吉兄さんが帰って来んのに
業
(
ごう
)
を煮やして綾部の町役場へ、
117
どうしてくれるんだいと言って怒鳴りこんで行きました。
118
役場から軍隊に問い合わせると、
119
清吉兄さんの入っていた隊の者に、
120
戦死者は一人もないとの回答がきました。
121
しかしそれから半年たち一年経っても清吉兄さんは帰ってこられませんでした。
122
筆先では「死んでいない」と神様が申され、
123
その解釈についていろいろのことを聞かされましたが、
124
その時の兄の戦友に聞きますと、
125
戦死したという人はなく、
126
ある人は隊から抜け出して支那の方へ行ったとも言い、
127
ある人は、
128
兄が海に身を投じたのを見たと言って色々様々で、
129
今もって兄が戦死したかどうかは不明のままであります。
130
しばらくして戦死の公報が家に届きましたが、
131
遺骨もなく、
132
たった一冊の手帳が送られてきまして、
133
これで戦死したということになっていたのです。
134
先年、
135
先生が蒙古に行かれました時、
136
清吉兄さんを父に持つという
蘿竜
(
らりょう
)
という
女馬賊
(
おんなばぞく
)
に会われた不思議な話しをもってお帰りになりました。
137
(註=先生とは著者の夫・出口王仁三郎師)
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