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幼ながたり
まえがき
幼ながたり
01 父のこと
02 母の生いたち
03 因果応報ばなし
04 石臼と粉引きの意味
05 父の死
06 わたしのこと
07 奉公
08 幼なき姉妹
09 母は栗柄へ
10 母の背
11 屑紙集めと紙漉きのこと
12 清吉兄さん
13 蘿竜の話
14 およね姉さん
15 ひさ子姉さん
16 不思議な道づれ
17 仕組まれている
18 おこと姉さんの幼時
19 王子のくらし
20 ご開祖の帰神
21 霊夢
22 教祖と大槻鹿造
23 牛飼い
24 ねぐら
25 不思議な人
思い出の記
1 料亭づとめ
2 神火
3 天眼通
4 直日のこと
5 夫婦らしい暮しの日
6 尉と姥
獄中記
監房へ
一ぱいの水
青い囚人服
一本の桐の木と蝉
風の中の雀
ぼっかぶりの夫婦
オツルさん
孫の絵便り
獄中の歌
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二五 不思議な人
インフォメーション
題名:
25 不思議な人
著者:
出口澄子
ページ:
目次メモ:
概要:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2021-11-06 02:04:28
OBC :
B124900c27
001
明治三十二年の
梅雨
(
つゆ
)
もそろそろあけかける頃のことでありました。
002
私は大原のお茶よりの仕事がすんで、
003
裏町
(
うらまち
)
の教祖さまのもとに帰ってきました。
004
そのおり私は、
005
不思議な人を見ました。
006
その人は
年齢
(
とし
)
は二十七、
007
八ぐらい、
008
男のくせに歯に黒くオハグロをつけ、
009
もうそろそろ夏に入ろうとするのに、
010
お尻のところで二ツに分かれているブッサキ
羽織
(
はおり
)
というものを着て、
011
ボンヤリ縁側から空を眺めていました。
012
私は変わったその姿をみながらも
何処
(
どこ
)
かで一度見たことのあるような気がして来ました。
013
「
安達
(
あだち
)
ガ
原
(
はら
)
」という芝居に出てきた、
014
お
公卿
(
くげ
)
さんの姿の
貞任
(
さだとう
)
に、
015
そっくりの感じでした。
016
「うちに来ている人、
017
芝居の
貞任
(
さだとう
)
にそっくりやなア」
018
これが、
019
初めて会ったときの、
020
先生に対する印象でした。
021
(註 私は夫─王仁三郎師─のことを、
022
昔から先生、
023
先生と呼び慣れてきました)
024
先生の様子は、
025
本当に変わっていました。
026
暇さえあれば、
027
いつもボンヤリ空や、
028
星ばかり見ている人でした。
029
また、
030
冬に
単衣
(
ひとえ
)
ものを着せても、
031
夏に
袷
(
あわせ
)
を着せても、
032
知らん顔をしていましたし、
033
紐
(
ひも
)
のしめ
方
(
かた
)
一つにしても、
034
一回キュッとしめるだけで、
035
下に長くブランと紐の端をぶら下げたまま、
036
少しも気付かぬ様子でした。
037
ある日、
038
教祖さまが私を呼んで、
039
040
「おすみや、
041
お前はあの人の嫁になるのやで、
042
そうして
大望
(
たいもう
)
の御用をせんならんのや、
043
神様がいつもそう私に言われるのや」
044
とおっしゃいました。
045
しかし私は教祖さまに、
046
そう言われましても、
047
とりたてて別に、
048
どう気持ちの動くということもありませんでした。
049
私の気性としては、
050
どちらかというと、
051
気の
利
(
き
)
いた、
052
サッパリと男らしいような人が好きでしたが、
053
そうかといって、
054
先生に対する私の気持ちは、
055
別に嫌いということはありませんでした。
056
ある時、
057
私が使いに行きまして、
058
町を歩いていますと、
059
向こうから先生のやって来るのが見えます。
060
よいお天気ですのに
高下駄
(
たかげた
)
を履き、
061
コーモリ傘をさして、
062
しかもその傘のさし方がモッサリしたさし方で町の家並みの
軒先
(
のきさき
)
を一軒一軒、
063
じいーと、
064
表札でも見るような恰好で、
065
のぞきもって歩いて来ます。
066
「何をしているんじゃろ、
067
この人阿呆かしらん、
068
きっと私の来るのが判らんやろう」とそう思いながら近づきますと、
069
やっぱり知っていたとみえて、
070
071
「アヽ、
072
おすみさんですかあ……どこ行きなはるう……」
073
と間のびした声で呼びかけました。
074
一面そうではありましたが、
075
神様のことや、
076
霊眼などの霊覚については大したものだと、
077
みんなが噂しておりました。
078
私はその頃、
079
家にブラブラしておりましたので年頃の娘なみに、
080
京か大阪へ家を飛び出して、
081
奉公でもしに行こうかと、
082
ひそかに思っていました。
083
田舎者なので京や大阪というと、
084
大そう珍しく、
085
華やかなところというように
憧
(
あこが
)
れを
抱
(
いだ
)
いていたのです。
086
そんなことを考えていましたが、
087
あの人は眼をつぶると、
088
十里先、
089
百里先の出来ごとでも、
090
手にとるようにわかるということだ、
091
すると、
092
いくらコッソリ抜け出しても、
093
スグ見つかってしまうと思い直してやめたことがありました。
094
そうした先生に対する私の気持ちは、
095
前と大して変わることなく、
096
嫌いではないが、
097
別に好きになるというところまでは行きませんでした。
098
しかしおだやかな、
099
温
(
あたた
)
か
味
(
み
)
のある、
100
何だかぬくい感じのする人だとは、
101
何時も思っていました。
102
そうしているうちに、
103
だんだんお参りに来る人達が増えて来まして、
104
今までの倉の家では狭くなり、
105
本町の中村竹蔵さんの家に移りました。
106
そして更に
新宮
(
しんぐう
)
に移った頃、
107
先生と結婚の式を挙げることになったのです。
108
私の十八の時でありました。
109
○
110
すみこ
111
根
(
こん
)
も
精
(
せ
)
もつかれ給ひしわが開祖
112
八十三でまかりたまへる
113
はゝきみに日頃ききたることごとが
114
いまめのまへにあらはれにけり
115
世のなかのたからは人のまことなり
116
まことにうちかつものは世になき
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