霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第六章 曲(まが)の猛(たけび)〔一〇四三〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第38巻 舎身活躍 丑の巻 篇:第1篇 千万無量 よみ(新仮名遣い):せんまんむりょう
章:第6章 曲の猛 よみ(新仮名遣い):まがのたけび 通し章番号:1043
口述日:1922(大正11)年10月14日(旧08月24日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1924(大正13)年4月3日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一部の章はAIによって要約を作成しています。[×閉じる]:
そして、教祖様の言として、上田は結構な御魂を邪神界の神だと言って霊縛をかけたり神界の邪魔ばかりするので、綾部に帰れないようにするのだとおっしゃった。すると大雨で和知川の水があふれ、橋が流されてしまったのも、まったくご神徳のなせる業だと、懇々と説き聞かせ、自分に忠告するのであった。
自分は相当教育もある人たちが、こんなことを信じてわざわざ自分に言って聞かせるために綾部からやってきたことに呆れていた。
足立氏らと入れ違いに、出口澄子がやってきて、福島寅之助や四方春蔵らの神がかりが無茶苦茶に荒れ狂って上田先生の悪口を言い、信者たちがそれを信じ切ってしまっている、と注進に来た。教祖様は何事も神様に任すがよいと言って静観しているが、自分に早く綾部に帰ってもらい、一同の目を覚まして欲しいという。
また祐助爺さんがやってきて、綾部は福島らの神がかり騒ぎで町中の人が野次馬に集まり、しまいには野次馬の中で喧嘩が始まり、車引きの人足がご神前に土足のまま暴れまわって見物人がますます面白がり、困り果てていると報告した。
祐助爺さんは、また信者たちが教祖様の財産を食い物にして、日清戦争に出征した教祖様の息子・清吉さんの恩給もすっかり食いつぶし、それでいてお賽銭も入れず会計もせずに、神がかりだの霊眼だのにかまけていると嘆いた。
喜楽は半紙に爺さんの苦労を慰める狂歌を書いて渡すと、爺さんはありがたく押し頂いて懐に入れて帰った。二三日後、また祐助爺さんがやってきて、大切そうに牛人の金神からの筆先だとうやうやしく差し出す。
喜楽は、爺さんの眼を覚ますために、目の前で筆先を引き破った。爺さんは驚いたが、喜楽は爺さんに、金神からもらった扇子を破ってみろ、と進めた。爺さんは扇子を引き破ったが、罰が当たる気配もないので、また狂乱した村上房之助の神がかりに騙された、と怒った。
喜楽は祐助爺さんと一緒に綾部に帰った。大広間は信者があふれ、外には見物人がごった返してちょっとした騒ぎになっている。村上房之助に何者かが憑依して、信者におかしな命令をなしてたぶらかしていた。
神がかりの村上は自分を見るなり、扇子に何か書いたものをもったいぶって差し出したので、喜楽は一同の目を覚ますちょうとよい機会だと、扇子で村上の顔をたたいた。
奥からは四方春蔵ら三人が、喜楽に神罰を当てろと細い声で叫んでいる。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2022-10-31 14:13:07 文字数:4038 OBC :rm3806
愛善世界社版:55頁 八幡書店版:第7輯 177頁 修補版: 校定版:55頁 普及版:27頁 初版: ページ備考:
001 四方(しかた)源之助(げんのすけ)、002西村(にしむら)文右衛門(ぶんうゑもん)の両氏(りやうし)は、003喜楽(きらく)のすすむる茶(ちや)を飲(の)み乍(なが)ら、004又(また)話(はなし)を続(つづ)けられた。
005『金明会(きんめいくわい)の御(お)広間(ひろま)では、006先日(せんじつ)から世(よ)に落(お)ちて御座(ござ)つた、007沢山(たくさん)の金神(こんじん)様(さま)や竜神(りうじん)様(さま)が、008今度(こんど)勿体(もつたい)なくも艮(うしとら)の金神(こんじん)さまが、009此(この)世(よ)へおでましなさるに就(つい)て、010今度(こんど)の際(さい)に、011今迄(いままで)おちてゐた神(かみ)を此(この)世(よ)へ上(あ)げて、012其(その)霊魂(みたま)を救(すく)ふてやらねば、013モウ此(この)先(さき)万劫(まんごふ)末代(まつだい)あがることが出来(でき)ぬから、014今(いま)上田(うへだ)の審神者(さには)が綾部(あやべ)へ帰(かへ)つて来(き)たら、015邪神界(じやしんかい)の神(かみ)ぢやといふて封(ふう)じ込(こ)めたり、016追(お)つ払(ぱら)つたり、017霊縛(れいばく)をかけたり、018いろいろと神界(しんかい)の邪魔(じやま)許(ばか)り致(いた)すに依(よ)つて、019気(き)の毒(どく)乍(なが)ら、020暫(しばら)くの間(あひだ)上田(うへだ)を綾部(あやべ)へ帰(かへ)らぬ様(やう)にしてやると仰有(おつしや)つた。021教祖(けうそ)様(さま)の御(お)言葉(ことば)の通(とほ)り、022俄(にはか)に大雨(おほあめ)が降(ふ)つて来(き)て、023和知川(わちがは)は一升(いつしよう)二合(にがふ)の水(みづ)が出(で)て、024綾部(あやべ)の大橋(おほはし)が流(なが)れて了(しま)ひました故(ゆゑ)、025上田(うへだ)サンが綾部(あやべ)へ帰(かへ)れぬやうになつたのも、026これも全(まつた)く出口(でぐち)の神(かみ)の広大(くわうだい)無辺(むへん)の御(ご)神徳(しんとく)だと思(おも)ひます。027神(かみ)さまは大変(たいへん)に先生(せんせい)を嫌(きら)うて居(を)られますから、028今度(こんど)綾部(あやべ)へお帰(かへ)りになつても、029今(いま)までみたやうに我(が)を出(だ)さぬ様(やう)にして、030何事(なにごと)に依(よ)らず、031出口(でぐち)の神(かみ)様(さま)と神懸(かむがか)りサンの言(ことば)に従(したが)うて下(くだ)さらぬと、032いつもゴテゴテ致(いた)しまして、033先生(せんせい)には綾部(あやべ)に居(を)つて貰(もら)ふことが出来(でき)ぬやうになりますから、034私(わたくし)たちは先生(せんせい)を大事(だいじ)に思(おも)ふ余(あま)り、035ソツと御(ご)意見(いけん)に来(き)たのであります。036兎角(とかく)出(で)る杭(くひ)は打(う)たれると云(い)ひますから、037何神(なにがみ)さまにでも敵対(てきたい)なさらぬが天下(てんか)泰平(たいへい)ぢや、038先生(せんせい)の御(お)身(み)の得(とく)ぢや』
039と忠告(ちうこく)をする。040喜楽(きらく)は相当(さうたう)教育(けういく)あり、041村(むら)でも町村会(ちやうそんくわい)議員(ぎゐん)まで勤(つと)めてゐる様(やう)な人(ひと)が、042こんな事(こと)を云(い)ふと思(おも)へば余(あま)りのことで呆(あき)れて答(こた)へる言(ことば)も知(し)らなんだ。043二人(ふたり)はいろいろと喜楽(きらく)に意見(いけん)をした後(のち)帰(かへ)つて行(ゆ)く。
044 それと行違(ゆきちがひ)に、045喜楽(きらく)が上谷(うへだに)まで帰(かへ)つたと聞(き)いて、046出口(でぐち)澄子(すみこ)が密(ひそ)かに走(はし)つて来(き)て、
047澄子(すみこ)『先生(せんせい)、048あなたの御(ご)不在中(ふざいちう)に、049四方(しかた)春三(はるざう)サンやら村上(むらかみ)サン、050黒田(くろだ)サン、051塩見(しほみ)サン等(ら)が御(お)広間(ひろま)へ帰(かへ)つて来(き)て、052無茶(むちや)苦茶(くちや)な神懸(かむがかり)をしたり、053他愛(たあい)もないこというたり、054飛(と)んだり、055跳(はね)たり、056しまひには裸(はだか)になつた儘(まま)屋外(をくぐわい)を走(はし)つたり、057上田(うへだ)は神界(しんかい)の大敵役(だいかたきやく)だから、058今度(こんど)帰(かへ)つて来(き)ても金明会(きんめいくわい)へ入(い)れることはならぬ、059皆(みな)の者(もの)がよつてたかつて放(ほ)り出(だ)して了(しま)へ、060三人世(さんにんよ)の元(もと)、061これ丈(だけ)居(を)つたら結構(けつこう)々々(けつこう)、062上田(うへだ)は悪神(あくがみ)の守護神(しゆごじん)ぢや、063鬼(おに)の霊(れい)だから、064鬼退治(おにたいぢ)をすると云(い)つて、065春三(はるざう)サンが先生(せんせい)の顔(かほ)に角(つの)の生(は)えた絵(ゑ)を書(か)いて、066釘(くぎ)を打(う)つたり叩(たた)いたり、067唾(つば)を吐(は)きかけたりして、068大変(たいへん)に煙(けむ)たがつて、069悪(わる)い口(くち)許(ばか)り言(い)ひますので、070皆(みな)の信者(しんじや)がそれを真(ま)に受(う)け、071そんな先生(せんせい)なら帰(い)んで貰(もら)へと、072口々(くちぐち)に言(い)ふので仕方(しかた)がないので、073教祖(けうそ)さまにチツと云(い)うて聞(き)かして貰(もら)はうと思(おも)うて申(まを)し上(あ)げますと、074教祖(けうそ)ハンは平気(へいき)な顔(かほ)で、075何事(なにごと)も神界(しんかい)へ任(まか)すがよいと云(い)うて黙(だま)つて居(を)られますなり、076一体(いつたい)何(なに)が何(なに)やら訳(わけ)が分(わか)りませぬ故(ゆゑ)、077一(いち)時(じ)も早(はや)う帰(かへ)つて貰(もら)うて、078皆(みな)の人(ひと)等(ら)の目(め)を醒(さ)ましたいと思(おも)ひ、079役員(やくゐん)信者(しんじや)に隠(かく)れて、080知(し)らせに一人(ひとり)で走(はし)つて来(き)ました』
081と気色(けしき)ばんで報告(はうこく)するのであつた。082そこで喜楽(きらく)は、083後(あと)の修業者(しうげふしや)を四方(しかた)藤太郎(とうたらう)氏(し)に任(まか)しておき、084一先(ひとま)づ綾部(あやべ)へ立帰(たちかへ)らうとしてゐる所(ところ)へ、085又々(またまた)例(れい)の祐助(いうすけ)爺(ぢい)サンが走(はし)つて来(き)て、086大地(だいち)へ手(て)をついて泣声(なきごゑ)を出(だ)し乍(なが)ら、
087祐助(いうすけ)『一寸(ちよつと)先生(せんせい)に申上(まをしあ)げます。088昨日(きのふ)の夕方(ゆふがた)からお昼(ひる)までが余(あま)り騒(さわ)がしいので、089町中(まちぢう)の人(ひと)が芝居(しばゐ)でも見(み)るやうに面白(おもしろ)がつて集(あつ)まり来(きた)り、090門口(かどぐち)も道(みち)も山(やま)の如(よ)うに、091大勢(おほぜい)が冷笑(ひやかし)に来(き)ますので、092大変(たいへん)に困(こま)りましたけれ共(ども)、093何(なん)にも知(し)らぬ盲人間(めくらにんげん)だと思(おも)うて、094相手(あひて)にせずに役員(やくゐん)も信者(しんじや)も、095一生(いつしやう)懸命(けんめい)に幽斎(いうさい)を修行(しうぎやう)して居(ゐ)ました所(ところ)、096夕方(ゆふがた)に西八田(にしやた)の小万(こまん)といふ俥(くるま)ひきが、097横(よこ)の細路(ほそみち)を空車(からぐるま)をひき乍(なが)ら……金神(こんじん)々々(こんじん)阿呆(あはう)金神(こんじん)、098気違(きちがひ)金神(こんじん)、099夢金神(ゆめこんじん)、100乞食(こじき)金神(こんじん)、101根(ね)つからましな人間(にんげん)が来(こ)ん神(じん)ぢや……と大(おほ)きい声(こゑ)でいろいろ悪(わる)いことを並(なら)べ立(た)て、102沢山(たくさん)の見物人(けんぶつにん)を笑(わら)はして通(とほ)りつつ、103俥(くるま)を泥田(どろた)の中(なか)へ転覆(てんぷく)さしました所(ところ)が、104丁度(ちやうど)そこを通(とほ)りかかつた人(ひと)が、105それを見(み)て……お前(まへ)は余(あま)り金神(こんじん)さまの悪口(わるくち)を言(い)うたので、106神罰(しんばつ)が当(あた)つたのぢやと言(い)ひましたら、107人力曳(くるまひき)の小万(こまん)が怒(おこ)つて、108其(その)人(ひと)を殴(なぐ)りかけましたので、109ビツクリして西(にし)の方(はう)へ一目散(いちもくさん)に逃出(にげだ)しました。110サアさうすると小万(こまん)が……金神(こんじん)の信者(しんじや)たるものが、111人(ひと)が泥(どろ)まぶれになつて困(こま)つて居(ゐ)るに罰(ばち)とは何(なん)ぢや、112そんなことを吐(ぬか)した奴(やつ)を、113今(いま)ここへ引(ひき)ずり出(だ)せ……と呶鳴(どな)つて広間(ひろま)へあばれ込(こ)み、114西原(にしばら)の善太郎(ぜんたらう)サンが参(まゐ)つて居(を)りましたら、115白(しろ)い浴衣(ゆかた)を着(き)てゐた餓鬼(がき)ぢや、116此奴(こいつ)に違(ちが)ひないと云(い)つて、117土足(どそく)のままで御(ご)神前(しんぜん)へあがり、118あばれ狂(くる)ひ、119神(かみ)さまの御(お)道具(だうぐ)を片(かた)つ端(ぱし)からメチヤメチヤに叩(たた)き壊(こわ)して了(しま)ひ、120沢山(たくさん)の町(まち)の人(ひと)が面白(おもしろ)がつて、121……ヤレ金神(こんじん)征伐(せいばつ)ぢや、122ヤレヤレ……とケシをかけたり嘲笑(あざわら)つたりして、123一人(ひとり)も仲裁(ちうさい)する者(もの)はなし、124散々(さんざん)に神(かみ)さまの悪口(あくこう)を言(い)うた揚句(あげく)ヤツとのことで其(その)晩(ばん)の十二(じふに)時(じ)頃(ごろ)に帰(かへ)つて行(ゆ)きました。125皆(みな)の信者(しんじや)はチクチクと怖(こは)がつてゐますなり、126警察(けいさつ)は側(そば)にあつても、127常(つね)から足立(あだち)サンの行状(ぎやうじやう)が悪(わる)いとか云(い)つて、128保護(ほご)もして下(くだ)さらぬなり、129此(この)爺(ぢ)イも誠(まこと)に残念(ざんねん)で残念(ざんねん)で堪(たま)りませぬ』
130とソロソロ声(こゑ)を放(はな)つて泣(な)き出(だ)した。
 
131 凩(こがらし)や犬(いぬ)の吠(ほ)えつく壁(かべ)の蓑(みの)
 
132 涙(なみだ)をふいて又(また)祐助(いうすけ)爺(ぢい)サンがソロソロと悔(くや)み出(だ)した。
133祐助(いうすけ)『モシ先生(せんせい)さま、134よう聞(き)いて下(くだ)さいませ。135出口(でぐち)の神(かみ)さまが、136日清(につしん)戦争(せんそう)で台湾(たいわん)で亡(な)くなられた清吉(せいきち)サンの恩給(おんきふ)とか年金(ねんきん)とかを、137これは生命(いのち)と釣換(つりかへ)の金(かね)ぢやからと云(い)うて、138一文(いちもん)も使(つか)はずに貯(ため)ておかれたお金(かね)を、139銀行(ぎんかう)からひつぱり出(だ)して、140勿体(もつたい)ない白米(はくまい)を二石(にこく)も買(か)うて下(くだ)さりましたが、141毎日(まいにち)日日(ひにち)皆(みな)の者(もの)が出(で)て来(き)て食(く)ふので、142最早(もはや)一升(いつしよう)もないやうになりましたから、143又(また)出口(でぐち)の神(かみ)様(さま)が銀行(ぎんかう)から金(かね)を出(だ)して来(き)て、144白米(はくまい)や油(あぶら)を買(か)うて下(くだ)さいましたが、145種油(たねあぶら)丈(だけ)でも五六升(ごろくしよう)も一(いち)日(にち)に此(この)頃(ごろ)は要(い)ります。146それでもまだ邪神界(じやしんかい)が暗(くら)いから、147マツと灯明(とうみやう)をつけてくれと、148お三(さん)人(にん)サンの神懸(かむがかり)の口(くち)をかつて仰有(おつしや)るので、149百目(ひやくめ)蝋燭(らふそく)を二三十(にさんじつ)本(ぽん)づつ立(た)てますので、150大変(たいへん)な物要(ものい)りで御座(ござ)いますが、151金(かね)の一銭(いつせん)も上(あ)げやうとせず、152どれもこれも皆(みな)よいことにして、153出口(でぐち)の神(かみ)さまの手足(てあし)許(ばか)りかぢつて、154心配(こころくば)り気配(きくば)りする誠(まこと)の信者(しんじや)は一人(ひとり)もなし、155誠(まこと)にお気(き)の毒(どく)千万(せんばん)で、156此(この)爺(ぢ)イも神(かみ)さまに申(まを)し訳(わけ)がない、157四方(しかた)平蔵(へいざう)サンは天眼通(てんがんつう)とかが上手(じやうづ)だというて、158お三(さん)人(にん)サンと一(ひと)つになつて、159望遠鏡(ばうゑんきやう)でも覗(のぞ)くやうに妙(めう)な格好(かくかう)して、160……平蔵(へいざう)どのあれを見(み)やいのう……と三(さん)人(にん)サンが仰有(おつしや)ると、161平蔵(へいざう)サンが目(め)をふさいでハイハイ拝(をが)めました拝(をが)めました、162大(おほ)きな竜神(りうじん)さまが現(あら)はれましたとか云(い)つて、163一心(いつしん)不乱(ふらん)になつて御座(ござ)るもんだから、164会計(くわいけい)のことは一寸(ちよつと)も構(かま)うて下(くだ)さらず、165中村(なかむら)の竹(たけ)サンは、166お筆先(ふでさき)を一心(いつしん)不乱(ふらん)に朝(あさ)から晩(ばん)まで、167晩(ばん)から夜中(よなか)まで、168阿呆(あはう)のやうになつて、169節(ふし)を附(つ)けては、170浮(う)かれ節(ぶし)の様(やう)に、171読(よ)んで読(よ)んでよみ倒(たふ)して、172アハヽヽヽ、173オホヽヽヽと笑(わら)うて許(ばか)り、174何(なん)にも役(やく)には立(た)たず、175出口(でぐち)の神(かみ)さまはお筆先(ふでさき)の御用(ごよう)計(ばか)りして、176こんな大騒(おほさわ)ぎをして居(を)るのに、177そしらぬ顔(かほ)をして居(を)られますなり、178私(わたし)もコラ何(ど)うなることかと、179余(あま)り心配(しんぱい)致(いた)しますので、180元(もと)から沢山(たくさん)ない禿頭(はげあたま)が一入(ひとしほ)禿(はげ)て、181其(その)上(うへ)竈(かまど)の煙(けむり)で黒光(くろびかり)になつて了(しま)ひまして、182皆(みな)の役員(やくゐん)サンが……御(ご)苦労(くらう)の黒(くろ)うの祐助(いうすけ)とひやかします、183アタ阿呆(あはう)らしい、184神(かみ)さまの事(こと)でなかつたら、185隠居(いんきよ)の身分(みぶん)で安楽(あんらく)に暮(くら)せるものを、186誰(たれ)がこんなことを致(いた)しませうか』
187と涙交(なみだまじ)りの黒(くろ)い顔(かほ)を黒(くろ)い手(て)で撫(な)で廻(まは)し、188歯糞(はくそ)の溜(たま)つた口(くち)から一口(ひとくち)々々(ひとくち)唾(つば)を飛(と)ばして、189喜楽(きらく)の顔(かほ)へ吹(ふ)きかけ乍(なが)ら、190一生(いつしやう)懸命(けんめい)になつて喋(しやべ)り立(た)ててゐる。191そこで喜楽(きらく)は側(そば)にあつた半紙(はんし)に筆(ふで)を走(はし)らせ、
192禿頭(はげあたま)鳥居(とりゐ)もかみもなきままに
193クロウクロウと愚痴(ぐち)を祐助(いうすけ)
194と書(か)いて与(あた)へたら、
195祐助(いうすけ)『アハヽヽヽ此奴(こいつ)ア有難(ありがた)い』
196と喜(よろこ)んで押頂(おしいただ)き、197懐(ふところ)に捻込(ねぢこ)んで一目散(いちもくさん)に又(また)もや綾部(あやべ)へ帰(かへ)つて行(ゆ)く。
198 それから三日目(みつかめ)に又(また)此(この)爺(ぢ)イさんがスタスタとやつて来(き)て、199何(なに)か大切(たいせつ)相(さう)に風呂敷(ふろしき)包(づつみ)から手紙(てがみ)の様(やう)な物(もの)を出(だ)し、
200祐助(いうすけ)『先生(せんせい)、201これは畏(おそれおほ)くも、202牛人(うしうど)の金神(こんじん)様(さま)から、203上田(うへだ)先生(せんせい)に対(たい)しお気付(きづ)けのお筆先(ふでさき)で御座(ござ)いますから、204叮重(ていちやう)にして御覧(ごらん)下(くだ)さいませ』
205と差(さ)し出(だ)す。206喜楽(きらく)は直(ただち)に披(ひら)いて見(み)ると、207不規律(ふきりつ)な乱雑(らんざつ)な書方(かきかた)で、
208『牛人(うしうど)の金神(こんじん)が上田(うへだ)に一寸(ちよつと)気(き)をつけるぞよ。209神(かみ)の都合(つがふ)があるから、210修業者(しうげふしや)一統(いつとう)引(ひき)つれて帰(かへ)るべし、211此(この)神(かみ)の命令(めいれい)を叛(そむ)いたら怖(こは)いぞよ云々(うんぬん)……』
212と記(しる)してある。213喜楽(きらく)は祐助(いうすけ)爺(ぢ)イサンの迷(まよ)ひを醒(さ)ます為(ため)に、214其(その)手紙(てがみ)を目(め)の前(まへ)でバリバリと引(ひき)さいて見(み)せた。215爺(ぢい)サン吃驚(びつくり)して、
216祐助(いうすけ)『アヽ先生(せんせい)勿体(もつたい)ない、217そんな事(こと)をなさると神罰(しんばつ)が忽(たちま)ち当(あた)りますぞ』
218と躍気(やくき)となる。219喜楽(きらく)は祐助(いうすけ)サンに向(むか)つて、
220喜楽(きらく)『ナアに心配(しんぱい)が要(い)るものか、221お前(まへ)が牛人(うしうど)の金神(こんじん)に貰(もら)うたとかいふ其(その)扇子(せんす)を一(ひと)つ引裂(ひきさ)いてみるがよい。222決(けつ)して罰(ばち)など当(あた)るものでない』
223と励(はげ)ましてみると、224どつちやへでも人(ひと)の言(い)ふことにつく、225阿呆(あはう)正直者(しやうぢきもの)の祐助(いうすけ)サンは、226其(その)場(ば)でベリベリと破(やぶ)つて了(しま)ひ、227別(べつ)に手(て)も足(あし)も歪(ゆが)み相(さう)にないので、228祐助(いうすけ)さんはソロソロ地団駄(ぢだんだ)を踏(ふ)み出(だ)し、
229祐助(いうすけ)『此(この)頭(あたま)の禿(は)げた爺(ぢ)イが、230まだ十八(じふはち)やそこらの村上(むらかみ)に騙(だま)されたか、231エヽ残念(ざんねん)至極(しごく)口惜(くちを)しやなア』
232と其(その)扇子(せんす)を大地(だいち)に投(な)げつけ、233踏(ふ)むやら蹴(け)るやら、234其(その)様子(やうす)の可笑(おか)しさ、235気(き)の毒(どく)さ、236何(なん)とも云(い)ひやうがなかつた。
237 それから祐助(いうすけ)サンと同行(どうかう)して、238金明会(きんめいくわい)の広間(ひろま)へ帰(かへ)つてみると、239御(お)広前(ひろまへ)には信者(しんじや)が溢(あふ)れて居(を)り、240屋外(をくぐわい)には見物人(けんぶつにん)が山(やま)をなして、241邪神(じやしん)の面白(おもしろ)い神懸(かむがか)り[※初版・愛世版では「神懸り」、校定版では「神憑り」。]をひやかして居(を)る。242喜楽(きらく)はすぐに内(うち)へ這入(はい)ると、243村上(むらかみ)房之助(ふさのすけ)に何者(なにもの)かが憑依(ひようい)して、244沢山(たくさん)の信者(しんじや)をたぶらかし、245あつちやへ行(ゆ)け、246こつちやへ行(ゆ)けと嬲(なぶ)り者(もの)にし乍(なが)ら荒(あ)れまはつてゐる。247何(なん)にも訳(わけ)を知(し)らぬ信者(しんじや)が、248神(かみ)様(さま)だと思(おも)うて怖(こは)がり、249ヘイヘイハイハイと言(い)ふが儘(まま)になつてゐた。250村上(むらかみ)は自分(じぶん)の顔(かほ)を見(み)るなり、
251村上(むらかみ)『オヽ上田(うへだ)か、252よく帰(かへ)つた。253此(この)方(はう)は小松林(こまつばやしの)命(みこと)だ。254その方(はう)は牛人(うしうど)の金神(こんじん)の命令(めいれい)をよく聞(き)いた、255偉(えら)い奴(やつ)だ、256其(その)褒美(ほうび)として之(これ)を其(その)方(はう)に使(つか)はす間(あひだ)、257大切(たいせつ)に保存(ほぞん)するがよからうぞよ』
258と大(おほ)きな骨(ほね)の扇(あふぎ)に、259何(なに)かクシヤクシヤと書(か)いて勿体(もつたい)振(ぶ)つて差出(さしだ)すのを、260手(て)に取(と)るより早(はや)く、261数多(あまた)の役員(やくゐん)信者(しんじや)の目(め)をさますにはよい機会(きくわい)だと思(おも)つて、262其(その)大扇(おほあふぎ)で村上(むらかみ)の頭(あたま)を三(み)つ四(よ)つ叩(たた)いてみせた。263信者(しんじや)は各自(めいめい)不思議(ふしぎ)な顔(かほ)をして、264喜楽(きらく)の顔(かほ)許(ばか)りながめて居(ゐ)る。265奥(おく)の間(ま)の方(はう)から例(れい)の三(さん)人(にん)程(ほど)の声(こゑ)として、
266『上田(うへだ)殿(どの)が今(いま)帰(かへ)りよつた。267大神(おほかみ)さま早(はや)く神罰(しんばつ)を当(あ)てて下(くだ)さいよ』
268と細(ほそ)い声(こゑ)で、269叫(さけ)んで居(ゐ)た。
270心(こころ)なき世人(よびと)の誹(そしり)何(なに)かせむ
271神(かみ)に任(ま)かせし吾(わが)身(み)なりせば
272(大正一一・一〇・一四 旧八・二四 松村真澄録)
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