霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一五章 怒濤(どたう)〔一〇五二〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第38巻 舎身活躍 丑の巻 篇:第3篇 冒険神験 よみ(新仮名遣い):ぼうけんしんけん
章:第15章 怒濤 よみ(新仮名遣い):どとう 通し章番号:1052
口述日:1922(大正11)年10月17日(旧08月27日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1924(大正13)年4月3日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
出口教祖は清国の騒乱に東洋の前途を気遣い、神命のまにまに二度までも無人島にわたって渡海を成功させた。それに反対の役員たちは、上田会長を道案内として沓島参拝を成し遂げようと、強制的に自分を同行させようとした。
これまでも彼らの奸計によって九死一生の目にたびたびあってきたが、ここで逃げては神の道を宣伝する者の本意ではないと決心し、彼らとともに出修参拝することになった。
万一をおもんばかり、熱心な信者たちを同行させた。敵味方合わせて二十一名は明治三十三年七月二十日に出発を決行した。
冠島の手前になって、東の空がおかしな色になってきた。船頭たちは大しけになると慌てふためいている。
山岳のような波が舟を翻弄し、大の男たちがすっかり弱ってしまっている。会長は一生懸命に天津祝詞を奏上した。少し風が和らいだ間に、四隻の舟を二隻ずつ組みよせた。すると今度は一層激烈な大しけが襲来した。
教祖は、今回は罪が深い者ばかりの参拝だから、よほど神様に頼んで気を付けないと大変だからと、危急の際に開いて見るように会長に筆先を授けていた。
会長は筆先を披見するのはこのときばかりと開いて見ると、平仮名の筆先にて、神様の教えはこの舟の櫓櫂を操る舟人のようなものであるから、今の困難を腹に染みわたらせて恵みを悟り、信心を怠るなとの戒めであった。
また筆先には、上田が本田親徳先生から長沢豊子刀自を経由して授けられた巻物を今こそ開くように、と書かれていた。
そこには救世の神法、霊学の大本、神業が書かれていた。会長はこの神法を実行するのは正に今と言霊を上げると、不思議にも雨風波はやみ、静まった。舟人たちは驚いて、舌を巻いて感嘆している。
舟はようやくにして冠島に避難することを得た。老人島神社に供物を献上して救命の神恩に感謝する祝詞を奏上し、罪重い者の沓島参拝は神慮に叶わないことを一同感じ、舞鶴に帰着することになった。
舞鶴の旅館・大丹生屋の一間で休んでいたところ、会長のところへ杉浦という男がやってきて、涙を流しながら懺悔した。実は数名は謀議し、上田先生の巻物を奪って何々し、四方春蔵を後釜にしようとしていたという。
教祖の命によって、四方平蔵氏と四方春蔵が迎えにやってきた。杉浦の改心を聞いて、四方春蔵も陰謀を逐一自白し、真心から涙を流して謝罪するさまは、かえって可哀そうに思えた。
雨降って地固まるとやら、今度の遭難にて誰も彼も悔い改め、教団内も道の曙光を認めるようになってきた。これもまったく神の深遠なる思し召しによることと、会長はますますその信念を強固ならしめた。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2022-11-06 11:12:39 文字数:5656 OBC :rm3815
愛善世界社版:152頁 八幡書店版:第7輯 215頁 修補版: 校定版:156頁 普及版:79頁 初版: ページ備考:
001 教祖(けうそ)や会長(くわいちやう)に反対(はんたい)の連中(れんちう)がヒソビソと首(くび)を集(あつ)めて、002冠島(をしま)丈(だ)けは幸(さいは)ひに教祖(けうそ)の一行(いつかう)五(ご)人(にん)が無事(ぶじ)に参(まゐ)つて来(き)よつたが、003到底(たうてい)沓島(めしま)へは教祖(けうそ)のやうな婆(ば)アさまが行(ゆ)けるものでない、004キツと神(かみ)の怒(いかり)にふれて、005舟(ふね)が転覆(てんぷく)し、006海(うみ)の藻屑(もくづ)になつて了(しま)ふか、007但(ただし)は不成功(ふせいこう)に了(をは)つて中途(ちうと)から引返(ひつかへ)して帰(かへ)るに相違(さうゐ)ないとタカをくくつて嘲笑(てうせう)を逞(たくま)しうしてゐた所(ところ)が、008見事(みごと)今回(こんくわい)又(また)もや沓島開(めしまびら)きが出来(でき)たといふ成功談(せいこうだん)を聞(き)き、009負(まけ)ぬ気(き)になり、010『ナニ教祖(けうそ)のやうな婆(ば)アさまや娘(むすめ)が行(ゆ)く所(とこ)へ行(ゆ)けないといふ事(こと)があるものか』と、011二十(にじふ)人(にん)の頑固(ぐわんこ)連中(れんぢう)が沓島(めしま)参拝(さんぱい)を企(くはだ)て、012大(だい)暴風雨(ばうふうう)に遭(あ)ふて命(いのち)カラガラ、013冠島(をしま)に辛(から)うじて避難(ひなん)し、014一命(いちめい)を拾(ひろ)うた物語(ものがたり)を述(の)べておく。
015 対岸(たいがん)の清国(しんこく)では団匪(だんぴ)の騒乱(さうらん)で、016各国(かくこく)の政府(せいふ)が居留民(きよりうみん)保護(ほご)の為(ため)に聯合軍(れんがふぐん)を組織(そしき)して北京城(ペキンじやう)へ進軍中(しんぐんちう)であつた。017茲(ここ)に出口(でぐち)の教祖(けうそ)は東洋(とうやう)の前途(ぜんと)を気(き)づかひ、018神命(しんめい)のまにまに、019二度(にど)までも無人島(むじんたう)へ渡(わた)り、020冒険(ばうけん)的(てき)の企図(きと)をこらして、021艱難(かんなん)辛苦(しんく)を嘗(な)め玉(たま)ふにも拘(かか)はらず、022足立(あだち)其(その)他(た)の役員(やくゐん)に誑惑(きやうわく)された信徒(しんと)等(ら)は、023利己(りこ)一片(いつぺん)に傾(かたむ)き、024おのれが卑劣心(ひれつしん)より口々(くちぐち)に、025今回(こんくわい)の教祖(けうそ)一行(いつかう)の冒険(ばうけん)的(てき)渡海(とかい)を非難(ひなん)し、026好奇心(かうきしん)にかられたり、027一方(いつぱう)には信者(しんじや)集(あつ)めの手段(しゆだん)を講(かう)じたものだなどと、028盛(さかん)に熱罵(ねつば)を逞(たくま)しうしてゐる者(もの)のみである。029判事(はんじ)ハリバートンの言(げん)に曰(いは)く『権威(けんゐ)のある所(ところ)には自然(しぜん)に不従順(ふじゆうじゆん)の傾向(けいかう)あり』と。030宜(むべ)なる哉(かな)、031近来(きんらい)教祖(けうそ)及(および)上田(うへだ)の名声(めいせい)の漸(やうや)く大(だい)ならむとするを嫉妬(しつと)し、032いろいろと排斥(はいせき)防害(ばうがい)運動(うんどう)に余念(よねん)なき連中(れんちう)が二度(にど)までも孤島(こたう)に参拝(さんぱい)の成功(せいこう)に益々(ますます)嫉視(しつし)反抗(はんかう)の気勢(きせい)を高(たか)め、033今度(こんど)は是非(ぜひ)共(とも)会長(くわいちやう)を案内者(あんないしや)として沓島(めしま)へつれ行(ゆ)き、034鐘岩(つりがねいは)の断岩(だんがん)へ登(のぼ)り、035いろいろとよからぬ望(のぞ)みを遂(と)げむと、036某々(ぼうぼう)等(ら)数名(すうめい)は鳩首(きうしゆ)謀議(ぼうぎ)の結果(けつくわ)、037今(いま)一度(いちど)勝手(かつて)を知(し)つた会長(くわいちやう)に同行(どうかう)参拝(さんぱい)せむ事(こと)を強請(きやうせい)して止(や)まなかつた。038万一(まんいち)にも否(いな)まうものなら、039卑怯者(ひけふもの)と誹(そし)るであらう、040今(いま)まで、041屡(しばしば)彼(かれ)等(ら)が奸計(かんけい)に乗(の)せられ、042九死(きうし)一生(いつしやう)の難(なん)に遭遇(さうぐう)したる記憶(きおく)の新(あらた)なる一身(いつしん)上(じやう)に取(と)つては、043恰(あたか)も狼虎(ろうこ)の道(みち)づれも同様(どうやう)である。044何時(なんどき)間隙(かんげき)があつたら、045咬殺(かみころ)されるやら計(はか)り知(し)られぬ危険(きけん)極(きは)まる島詣(しままう)でであつた。046然(しか)し乍(なが)ら敵(てき)を恐(おそ)れて旗(はた)を捲(ま)くのも、047神(かみ)の道(みち)を宣伝(せんでん)する者(もの)の本意(ほんい)でないと、048確(かた)く決心(けつしん)し、049日夜(にちや)沐浴(もくよく)斎戒(さいかい)心身(しんしん)を清(きよ)め、050神(かみ)の加護(かご)と教祖(けうそ)の御(ご)神徳(しんとく)に倚信(いしん)して、051彼(かれ)等(ら)と共(とも)に出舟(しゆつしう)参拝(さんぱい)する事(こと)を承諾(しようだく)した。
052 万一(まんいち)を慮(おもんぱか)つて平素(へいそ)熱心(ねつしん)なる信者(しんじや)、053竹原(たけはら)房太郎(ふさたらう)、054木下(きのした)慶太郎(けいたらう)、055森津(もりつ)由松(よしまつ)、056福林(ふくばやし)安之助(やすのすけ)、057時田(ときだ)、058四方(しかた)安蔵(やすざう)、059甚之丞(じんのじよう)等(ら)の面々(めんめん)を引(ひき)つれ、060心(こころ)の合(あ)はない敵味方(てきみかた)合(あは)せて廿一(にじふいち)名(めい)は明治(めいぢ)三十三(さんじふさん)年(ねん)七(しち)月(ぐわつ)二十日(はつか)を卜(ぼく)し、061いよいよ決行(けつかう)することとなつた。
062 二十一(にじふいち)日(にち)の未明(みめい)、063四隻(しせき)の漁舟(いさりぶね)は罪(つみ)重(おも)き一行(いつかう)を乗(の)せて、064舞鶴港(まひづるかう)を漕(こ)ぎ出(だ)し、065海上(かいじやう)七(しち)里(り)許(ばか)り、066冠島(をしま)は手(て)に取(と)るやうに近(ちか)く見(み)えて来(き)た。067モウ一息(ひといき)といふ所(ところ)で俄(にはか)に東(ひがし)の空(そら)が変(へん)な色(いろ)になつて来(き)た。068四(よ)人(にん)の船人(ふなびと)はあわてふためき、069口(くち)を揃(そろ)へて、
070『サア皆(みな)サン、071覚悟(かくご)をなされ大変(たいへん)なことになつて来(き)た。072あの雲(くも)の様子(やうす)では大颶風(おほしけ)だ』
073と叫(さけ)んでゐる。074見(み)る間(ま)に東北(とうほく)の空(そら)に真黒(まつくろ)の妖雲(えううん)がムラムラと湧(わ)きだした。075追々(おひおひ)風(かぜ)が荒(あら)くなつたと思(おも)ふ間(ま)もなく、076颶風(ぐふう)襲来(しふらい)、077潮(うしほ)を蹴(け)り飛(と)ばし、078波濤(はたう)怒(いか)り狂(くる)ひ、079勃乎(ぼつこ)たる海風(かいふう)の声(こゑ)は轟々(ぐわうぐわう)と、080南(みなみ)に北(きた)に東(ひがし)に西(にし)に猛(たけ)び廻(まは)る。081騒然(さうぜん)たる声裡(せいり)、082山岳(さんがく)のやうな波(なみ)、083堅乎(けんこ)たる巌(いはほ)のやうな波浪(はらう)が来(く)る、084其(その)物凄(ものすご)きこと筆舌(ひつぜつ)の尽(つく)す限(かぎ)りではなかつた。085小舟(こぶね)を木(こ)の葉(は)の如(ごと)くに中天(ちうてん)にまき上(あ)げるかと見(み)れば、086直(ただち)に千仭(せんじん)の波(なみ)の谷間(たにま)につき落(おと)し、087無遠慮(ぶゑんりよ)に舟玉(ふなたま)の神(かみ)の目(め)も恐(おそ)れず、088勝手(かつて)気儘(きまま)に奔弄(ほんろう)し出(だ)した。089波(なみ)と波(なみ)との間(あひだ)にかくれた一行(いつかう)の舟(ふね)は、090どうなつて了(しま)つたか、091其(その)影(かげ)さへも見(み)ることが出来(でき)ぬので、092互(たがひ)に胸(むね)を轟(とどろ)かしつつあつた。093恰(あたか)も地獄(ぢごく)の旅行(りよかう)をしてゐるやうで、094何(いづ)れも青息(あをいき)吐息(といき)の為体(ていたらく)、095蛭(ひる)に塩(しほ)、096猫(ねこ)に出合(であ)ふた鼠(ねずみ)の如(ごと)く、097舟底(ふなそこ)にかぢりついて縮(ちぢ)かんでゐる。098誰(たれ)もかれもウンともスンとも得言(えい)はぬ弱(よわ)り方(かた)、099中(なか)にも松井(まつゐ)元利(げんり)といふ京都(きやうと)の信者(しんじや)は、100因果(いんぐわ)を定(さだ)めたか、101生死(しやうし)の外(ほか)に超然(てうぜん)として動(どう)ぜざること岩石(がんせき)の如(ごと)く、102頭(あたま)から潮(しほ)を浴(あ)び乍(なが)ら、103泰然(たいぜん)自若(じじやく)として只(ただ)天(てん)の一方(いつぱう)のみを眺(なが)めて居(ゐ)る。104時田(ときだ)金太郎(きんたらう)が小便(せうべん)のタンクが破裂(はれつ)し相(さう)なと云(い)つて、105激浪(げきらう)目(め)がけてコワゴワ乍(なが)ら放尿(はうねう)する。106舟人(ふなびと)が……そんな大男(おほをとこ)が立(た)つては危険(きけん)だ……と喧(やかま)しく叱(しか)りつけるやうに叫(さけ)ぶ。107それに引替(ひきか)へ、108臆病風(おくびやうかぜ)に襲(おそ)はれた中村(なかむら)は震(ふる)ひ戦(をのの)き、109始(はじ)めて口(くち)を開(ひら)き、
110中村(なかむら)『会長(くわいちやう)さん、111一体(いつたい)どうなりますぢやいなア、112今(いま)あんたの頭(あたま)の上(うへ)の所(ところ)に大(おほ)きな海坊主(うみばうず)がいやらしい顔(かほ)で、113長(なが)い舌(した)を出(だ)して、114私(わたし)をつかんで海(うみ)へ投込(なげこ)むやうな手(て)つきをし乍(なが)ら……それ今(いま)其処(そこ)に睨(にら)んで居(を)りますわいな、115どうぞ坊主(ばうず)をいなして下(くだ)され、116あゝ小便(せうべん)がしたくて堪(たま)らぬ、117どうしたらよからうか』
118と周章(しうしやう)狼狽(らうばい)のさま実(じつ)に見(み)るも気(き)の毒(どく)であつた。119小便(せうべん)がこらへきれなくなつたので、120とうとう自分(じぶん)の飯碗(めしわん)の中(なか)へ放尿(はうねう)して、121それを海(うみ)へコワゴワ投(な)げ込(こ)んでゐる。122中村(なかむら)は驚愕(きやうがく)の余(あま)り弱腰(よわごし)が抜(ぬ)けたと見(み)えて、123チツとも身動(みうご)きが出来(でき)なくなつてゐたのである。
124 烈然(れつぜん)たる颶風(ぐふう)はよく千(せん)里(り)の境域(きやうゐき)に達(たつ)し、125猛然(まうぜん)たる旋風(せんぷう)は万里(ばんり)の高(たか)きに依(よ)つて廻(めぐ)るかと怪(あや)しまれ、126竜(りう)ならずして竜(りう)吟(ぎん)じ、127虎(とら)ならずして虎(とら)嘯(うそぶ)く如(ごと)き光景(くわうけい)である。128一波(いつぱ)忽(たちま)ち来(きた)りて漁舟(ぎよしう)に咬(かみ)つく、129其(その)度(たび)毎(ごと)に潮水(しほみづ)を沢山(たくさん)において行(ゆ)く、130又(また)次(つぎ)の一波(いつぱ)のお見舞(みまひ)迄(まで)にと、131一同(いちどう)が力限(ちからかぎ)り命(いのち)が惜(をし)さに、132平常(ふだん)にはこけた箒(はうき)もロクに起(おこ)さぬやうな不精(ぶしやう)男(をとこ)が桶(をけ)や茶碗(ちやわん)や杓(しやく)などで、133一生(いつしやう)懸命(けんめい)に潮水(しほみづ)をかへ出(だ)してゐる、134又(また)一波(いつぱ)来(きた)つて、135潮水(てうすゐ)を頭(あたま)といはず、136背中(せなか)といはず、137無遠慮(ぶゑんりよ)に浴(あ)びせて通(とほ)る、138忙(いそが)しさ恐(おそ)ろしさ、139到底(たうてい)口(くち)で言(い)ふやうな事(こと)ではない。
140 会長(くわいちやう)は一生(いつしやう)懸命(けんめい)に天津(あまつ)祝詞(のりと)を奏上(そうじやう)し始(はじ)めた。141天(てん)の助(たす)けか地(ち)の救(すく)ひか、142少(すこ)し許(ばか)り風(かぜ)がやわらいで来(き)た。143従(したが)つて波(なみ)も稍(やや)低(ひく)くなつた。144此(この)一刹那(いつせつな)に、145舟人(ふなびと)は手早(てばや)く四隻(しせき)の舟(ふね)を二ケ所(にかしよ)へ漕(こ)ぎ寄(よ)せて、146二隻(にせき)づつからくんでみた、147かうすれば舟(ふね)の覆没(ふくぼつ)を免(まぬが)れるからである。148……サア是(これ)で一安心(ひとあんしん)だと思(おも)ふ間(ま)もなく、149今度(こんど)は一層(いつそう)激烈(げきれつ)な大颶風(だいぐふう)の襲来(しふらい)となつた。
150 雨(あめ)は沛然(はいぜん)として盆(ぼん)を覆(くつがへ)すが如(ごと)く、151車軸(しやぢく)を流(なが)すが如(ごと)く、152手(て)きびしく頭(あたま)の上(うへ)から叩(たた)きつけるやうに降(ふ)つて来(く)る。153漂渺(へうべう)として際限(さいげん)なき海原(うなばら)も今(いま)は咫尺(しせき)弁(べん)ぜざる迄(まで)に暗黒(あんこく)に包(つつ)まれた。154怒(いか)れる浪(なみ)は揉(もみ)つもまれつ、155荒磯(あらいそ)の岩(いは)をも粉砕(ふんさい)せずんばやまぬ猛勢(まうせい)である。156白(しろ)き鬣(たてがみ)を振(ふる)ふて立(た)てる浪(なみ)は真(ま)一文字(いちもんじ)に舟(ふね)に組(く)みつく、157其(その)度(たび)毎(ごと)に小舟(こぶね)がグラつき転覆(てんぷく)せむとする危(あやふ)さ、158かくある以上(いじやう)は、159平素(へいそ)から教祖(けうそ)を非難(ひなん)してゐた連中(れんちう)も、160会長(くわいちやう)を嫉視(しつし)してゐた小人(せうじん)もチウの声(こゑ)一(ひと)つ得上(えあ)げず、161震(ふる)ひ戦(をのの)き、162今(いま)は只(ただ)神(かみ)に依(よ)り、163教祖(けうそ)に従(したが)ひ、164会長(くわいちやう)に依頼(いらい)して、165命(いのち)の安全(あんぜん)を計(はか)るより外(ほか)途(みち)なきに至(いた)つたのである。
166 人間(にんげん)といふものは斯(か)うなつては実(じつ)に弱(よわ)い者(もの)である。167神(かみ)のおいましめを蒙(かうむ)つたと各自(かくじ)が思(おも)ふたのか、168腹(はら)の中(なか)に企(たく)んでゐたごもくたを悉皆(しつかい)吐(は)き出(だ)して前非(ぜんぴ)を悔悟(くわいご)する、169誰(たれ)も彼(かれ)も叶(かな)はぬ時(とき)の神頼(かみだの)みといふ調子(てうし)で、170一心(いつしん)頂礼(ちやうらい)口々(くちぐち)に神文(しんもん)を唱(とな)へ、171神(かみ)にお詫(わび)を申(まを)してゐる。172村上(むらかみ)清次郎(せいじらう)といふ男(をとこ)は天(てん)から四十三(しじふさん)本(ぼん)の御幣(ごへい)が吾(わが)舟(ふね)にお下(くだ)りになつて、173吾(われ)等(ら)を保護(ほご)して下(くだ)さるのが拝(をが)めますから、174私(わたし)は有難(ありがた)い事(こと)だと思(おも)ふて安心(あんしん)してゐます……と嬉(うれ)し相(さう)に感謝(かんしや)してゐる。175これは信仰(しんかう)の力(ちから)に依(よ)つて、176目(め)ざめ、177神(かみ)のお守(まも)りあることを天眼通(てんがんつう)で見(み)せて貰(もら)ふたものである。178森津(もりつ)歌吉(うたきち)は何(なん)ともかとも得言(えい)はず、179目(め)をむき口(くち)を閉(と)ぢて、180波(なみ)許(ばか)り恐(おそ)ろし相(さう)にながめ、181時々(ときどき)扇子(せんす)を以(もつ)て波(なみ)を片方(かたはう)へ押(おし)のけるやうな気取(きどり)で、182妙(めう)な手附(てつき)をして拝(をが)んでゐる。183舟(ふね)に酔(よ)ひ、184泡(あわ)をば福林(ふくばやし)安之助(やすのすけ)が八百屋(やほや)店(みせ)をたぐり上(あ)げ苦(くる)しんでゐる。185会長(くわいちやう)は聖地(せいち)を出立(しゆつたつ)の際(さい)、186教祖(けうそ)より、
187教祖(けうそ)『今度(こんど)は余程(よほど)神(かみ)さまを頼(たの)んで気(き)をつけて参(まゐ)らぬと、188先日(せんじつ)の参拝(さんぱい)のやうに楽(らく)には行(ゆ)きませぬぞや、189罪(つみ)の塊(かたまり)計(ばか)りだから、190万々一(まんまんいち)危急(ききふ)の場合(ばあひ)、191命(いのち)に関(くわん)するやうなことのあつた時(とき)には、192之(これ)を開(ひら)いて見(み)るがよい……』
193と密封(みつぷう)した筆先(ふでさき)をお授(さづ)けになつたのを、194大切(たいせつ)に肌(はだ)の守(まも)りとしてつけてゐたが、195披見(ひけん)するは今(いま)此(この)時(とき)だと、196懐中(くわいちゆう)より取出(とりいだ)し、197押(お)しいただいて披(ひら)いて見(み)れば、198中(なか)には平仮名(ひらがな)計(ばか)りで、199何事(なにごと)かが記(しる)されてある。200其(その)筆先(ふでさき)の大要(たいえう)は、
201『艮(うしとら)の金神(こんじん)が出口(でぐち)の手(て)をかつて気(き)をつけるぞよ、202慢心(まんしん)は大怪我(おほけが)の元(もと)ぢやぞよと毎度(まいど)筆先(ふでさき)で知(し)らしてあるが、203今(いま)の人民(じんみん)は知恵(ちゑ)と学(がく)計(ばか)りにこり固(かた)まり、204途中(とちう)の鼻高(はなだか)になりて、205神(かみ)の教(をしへ)を聞(き)く精神(せいしん)の者(もの)がなきやうになりて、206天地(てんち)の御恩(ごおん)といふことを知(し)らぬ故(ゆゑ)、207世(よ)の中(なか)に悪魔(あくま)がはびこり、208世(よ)が紊(みだ)れる計(ばか)りで、209此(この)地(ち)の上(うえ)がむさ苦(くるし)くて、210神(かみ)の住居(すまゐ)いたす所(ところ)がないやうになりたので、211誠(まこと)の元(もと)の活神(いきがみ)は此(この)沓島(めしま)冠島(をしま)に集(あつ)まりて御座(ござ)るぞよ、212それ故(ゆゑ)に余程(よほど)身魂(みたま)の研(みが)けた者(もの)でないと、213此(この)島(しま)へは寄(よ)せつけぬぞよ、214此(この)曇(くも)りた世(よ)を水晶(すゐしやう)にすまして、215元(もと)の神国(しんこく)に立直(たてなほ)さねばならぬ大望(たいもう)がある故(ゆゑ)に明治(めいぢ)廿五(にじふご)年(ねん)から、216神(かみ)は出口(でぐち)の手(て)をかり、217口(くち)をかりて、218いろいろと苦労(くらう)をさして、219世間(せけん)へ知(し)らせてゐるなれど、220余(あま)り世(よ)におちぶれて居(を)る出口(でぐち)直(なほ)に御用(ごよう)をさす事(こと)であるから、221今(いま)の人民(じんみん)は誠(まこと)に致(いた)す者(もの)がないぞよ、222人民(じんみん)は此(この)結構(けつこう)なお土(つち)の上(うへ)に家倉(いへくら)を建(た)て青畳(あをだたみ)の上(うへ)で、223安心(あんしん)に月日(つきひ)を送(おく)らして貰(もら)ひ乍(なが)ら、224天地(てんち)の御恩(ごおん)を知(し)らぬ計(ばか)りか、225神(かみ)は此(この)世(よ)になきものぢやと思(おも)ふて居(ゐ)るものがちであるから、226神(かみ)の守護(しゆご)がうすかりたなれど、227人間(にんげん)は神(かみ)がかまはねば、228一息(ひといき)の間(あひだ)も生(いき)て居(を)る事(こと)は出(で)けぬぞよ、229人間(にんげん)の此(この)世(よ)を渡(わた)るのは、230丁度(ちやうど)今(いま)此(この)小舟(こぶね)に乗(の)り、231荒(あら)い海(うみ)を、232風(かぜ)と波(なみ)にもまれて渡(わた)るよなものである、233誠(まこと)に人(ひと)の身(み)の上(うへ)ほど危(あぶな)いはかないものはない、234もし此(この)舟(ふね)に一人(ひとり)の舟人(ふなびと)と艪櫂(ろかい)がなかりたならば、235直(すぐ)に行(ゆ)きも戻(もど)りもならぬよになり、236舟(ふね)を砕(くだ)くか、237ひつくり返(かへ)るか、238人(ひと)も舟(ふね)も海(うみ)の藻屑(もくづ)とならねばなるまい、239人民(じんみん)も神(かみ)の御(ご)守護(しゆご)なき時(とき)は少時(しばらく)も此(この)世(よ)に居(を)ることは出来(でき)ぬ、240此(この)世(よ)の中(なか)は、241人(ひと)を渡(わた)す舟(ふね)のようなもので、242神(かみ)の教(をしへ)は艪櫂(ろかい)である、243出口(でぐち)直(なほ)は此(この)舟(ふね)を操(あやつ)る舟人(ふなびと)のよな者(もの)である。244今(いま)の困難(こんなん)を腹(はら)わたにしみ込(こ)ませて、245いつ迄(まで)も忘(わす)るる事(こと)なく、246神(かみ)さまの恵(めぐみ)を悟(さと)つて信心(しんじん)を怠(おこた)るなよ、247何事(なにごと)も皆(みな)信心(しんじん)の力(ちから)によつて、248成就(じやうじゆ)するのであるから、249神(かみ)の御子(みこ)と生(うま)れ出(い)でたる人民(じんみん)は、250チツとの間(ま)も神(かみ)を離(はな)れるな、251道(みち)をかへるな、252欲(よく)に惑(まど)うな、253誠(まこと)一(ひと)つで神(かみ)の教(をしへ)に従(したが)へ、254災(わざはい)多(おほ)き暗(くら)がりの世(よ)は誠(まこと)の活神(いきがみ)より外(ほか)にたよりとなり力(ちから)となる者(もの)はないぞよ云々(うんぬん)』
255といふ懇切(こんせつ)なる神示(しんじ)であつた。256あゝ神(かみ)は吾(われ)等(ら)一行(いつかう)の我慢(がまん)を戒(いまし)め、257邪念(じやねん)を払(はら)ひて、258誠(まこと)の道(みち)に導(みちび)き至幸(しかう)至福(しふく)ならしめむが為(ため)に、259此(この)荒(あら)き海原(うなばら)へ連(つ)れ出(だ)し、260かくも懇切(こんせつ)なる教訓(けうくん)を垂(た)れさせ玉(たま)ひしかと、261悪鬼(あくき)邪神(じやしん)の如(ごと)き連中(れんちう)も、262ここに始(はじ)めて神(かみ)の厚恩(こうおん)を悟(さと)り、263教祖(けうそ)の非凡(ひぼん)なる神人(しんじん)たるに舌(した)をまくのみであつた。
264 又(また)其(その)筆先(ふでさき)の終(をは)りの所(ところ)に一段(いちだん)と細(ほそ)い字(じ)を以(もつ)て、
265『上田(うへだ)の持(も)ちて居(を)る巻物(まきもの)は、266此(この)際(さい)披(ひら)き見(み)よ』
267と示(しめ)されてあつた。268此(この)巻物(まきもの)は本田(ほんだ)親徳(ちかあつ)先生(せんせい)より、269長沢(ながさは)豊子(とよこ)の手(て)を通(つう)じて授(さづ)けられたる無二(むに)の宝典(ほうてん)である。270片時(かたとき)も肌(はだ)を離(はな)さず、271危急(ききふ)存亡(そんばう)の場合(ばあひ)、272神(かみ)のお許(ゆる)しあるまで、273決(けつ)して開(ひら)くなとの教(をしへ)を確守(かくしゆ)し、274今迄(いままで)大切(たいせつ)に肌(はだ)の守(まも)りにしてゐたのであるが、275今(いま)や一行(いつかう)の精霊(せいれい)を救(すく)はねばならぬ場合(ばあひ)に当(あた)り、276始(はじ)めて開(ひら)く玉手箱(たまてばこ)、277何(なに)が記(しる)してあるかと、278恐(おそ)る恐(おそ)る押頂(おしいただ)き伏(ふ)し拝(をが)み、279披(ひら)き見(み)れば……
280 尊(たふと)きかも、281畏(かしこ)きかも、282救世(きうせい)の神法(しんぱふ)、283霊学(れいがく)の大本(たいほん)と数十百(すうじふひやく)に亘(わた)る神業(かむわざ)、284其(その)大要(たいえう)は喜楽(きらく)が高熊山(たかくまやま)の霊山(れいざん)にて見聞(けんぶん)したる事実(じじつ)と符合(ふがふ)し、285神秘(しんぴ)に属(ぞく)し、286他言(たげん)を許(ゆる)されぬもののみであつた。287会長(くわいちやう)は此(この)一(いつ)巻(くわん)に納(をさ)めたる、288神法(しんぱう)を実行(じつかう)する時機(じき)正(まさ)に到来(たうらい)したりと、289天(てん)にも昇(のぼ)るが如(ごと)く勇(いさ)み立(た)ち、290心鏡(しんきやう)正(まさ)に玲瓏(れいろう)たり、291百折(ひやくせつ)撓(たゆ)まず屈(くつ)せず、292暴風(ばうふう)強雨(きやうう)何者(なにもの)ぞ、293水火(すいくわ)何者(なにもの)ぞ、294満腔(まんこう)の精神(せいしん)は益々(ますます)颶風(ぐふう)と戦(たたか)ひ、295言霊(ことたま)の神力(しんりき)を以(もつ)て、296どこまでも之(これ)に打克(うちか)たむとの勢(いきほひ)頓(とみ)に加(くは)はり来(きた)る、297欲(よく)を離(はな)れ、298利(り)をはなれ、299家(いへ)を離(はな)れ、300自己(じこ)を離(はな)れ、301社会(しやくわい)を離(はな)れて只(ただ)神(かみ)あるのみ、302全(まつた)く神(かみ)の御懐(みふところ)に抱(いだ)かれゐる身(み)は、303如何(いか)なる事(こと)も恐(おそ)るるに及(およ)ばず、304大丈夫(だいぢやうぶ)大安心(だいあんしん)なり、305怒(いか)れよ狂瀾(きやうらん)、306躍(をど)れよ波濤(はたう)、307吹(ふ)けよ強風(きやうふう)、308荒(すさ)べよ暴風(ばうふう)、309汝(なんぢ)の怒(いか)りは雄大(ゆうだい)なり、310壮烈(さうれつ)なり、311我(われ)は今(いま)汝(なんぢ)の怒(いか)りに依(よ)つて生(い)ける誠(まこと)の神(かみ)の教(をしへ)を受(う)けたり、312今(いま)の会長(くわいちやう)は以前(いぜん)の会長(くわいちやう)に非(あら)ず、313今(いま)は全(まつた)く神(かみ)の生宮(いきみや)となれり。314暴風(ばうふう)強雨(きやうう)来(きた)れと、315十曜(とえう)の紋(もん)の記(しる)されし、316神官扇(しんくわんあふぎ)を差上(さしあ)げて、317天(あめ)の御柱(みはしら)の神(かみ)、318国(くに)の御柱(みはしら)の神(かみ)、319天(あめ)の水分(みくまりの)神(かみ)、320国(くに)の水分(みくまりの)神(かみ)、321大和田(おほわだ)津見(つみの)神(かみ)静(しづ)まり玉(たま)へ……と宣(の)る言霊(ことたま)に、322不思議(ふしぎ)や風(かぜ)やみ雨(あめ)やみ波(なみ)従(したが)つて静(しづ)まりぬ。323舟人(ふなびと)はおどろいて、
324『先生(せんせい)は神(かみ)さまで御座(ござ)いませう』
325と舌(した)をまいて感嘆(かんたん)してゐる。326抑(そもそ)も我(わが)国(くに)は神(かみ)の御国(みくに)なれば、327惟神(かむながら)の道(みち)と称(しよう)し、328幽玄(いうげん)微妙(びめう)の神教(しんけう)あり、329神力(しんりき)無限(むげん)の言霊(ことたま)あり、330実(じつ)に尊(たふと)き天国(てんごく)浄土(じやうど)である。331舟(ふね)は漸(やうや)くにして冠島(をしま)へ避難(ひなん)する事(こと)を得(え)た。332第一着(だいいちちやく)に老人島(おいとじま)神社(じんじや)に供物(くぶつ)を献(けん)じ救命(きうめい)謝恩(しやおん)の祝詞(のりと)を奏上(そうじやう)し、333次(つ)いで綾部(あやべ)本宮(ほんぐう)を遥拝(えうはい)し、334一行(いつかう)の罪(つみ)重(おも)き者(もの)の沓島(めしま)参拝(さんぱい)は到底(たうてい)神慮(しんりよ)に叶(かな)はざるべしと再(ふたた)び帰路(きろ)の安全(あんぜん)を祈(いの)りつつ厚(あつ)き神(かみ)の守(まも)りの下(もと)に漸(やうや)く舞鶴(まひづる)に帰着(きちやく)し一同(いちどう)茲(ここ)に一泊(いつぱく)することとなつた。
335 大丹生(おほにふ)屋(や)の二階(にかい)の一間(ひとま)に横臥(わうぐわ)して所労(しよらう)を休(やす)めてゐる、336会長(くわいちやう)の枕許(まくらもと)へ杉浦(すぎうら)万吉(まんきち)といふ男(をとこ)出(い)で来(きた)り、337手(て)をつかへ、338面(おもて)に改悛(かいしゆん)の色(いろ)を現(あら)はし、339涙(なみだ)をハラハラと流(なが)し乍(なが)ら、
340杉浦(すぎうら)『先生(せんせい)にお詫(わび)を致(いた)さねばならぬ事(こと)があります。341申上(まをしあ)ぐるのも畏(おそれおほ)きことなれど、342実(じつ)の所(ところ)は吾々(われわれ)数名(すうめい)は相談(さうだん)の上(うへ)、343先生(せんせい)の懐(ふところ)にある巻物(まきもの)を預(あづか)り、344其(その)上(うへ)○○せむと○○をなし、345本会(ほんくわい)の為(ため)に雲霧(くもきり)を払(はら)ひ清(きよ)め、346其(その)後釜(あとがま)には四方(しかた)春三(はるざう)サンを据(す)ゑて、347吾々(われわれ)が思惑(おもわく)を貫徹(くわんてつ)せむと欲(ほつ)し、348其(その)手段(しゆだん)として先生(せんせい)に対(たい)し、349沓島(めしま)参拝(さんぱい)を無理(むり)に御(お)願(ねがひ)したので御座(ござ)います、350乍併(しかしながら)神(かみ)様(さま)の厳(きび)しきおさばきにより、351命(いのち)辛々(からがら)の目(め)に会(あ)ふたのは、352全(まつた)く神(かみ)さまより吾々(われわれ)に改心(かいしん)せよとの御(お)戒(いまし)めで御座(ござ)いませう、353何(ど)うぞ自分(じぶん)等(ら)の罪(つみ)を赦(ゆる)して下(くだ)さいませ』
354と平身(へいしん)低頭(ていとう)して聞(き)くも恐(おそ)ろしい物語(ものがたり)をするのであつた。355会長(くわいちやう)は前日(ぜんじつ)より略(ほぼ)探知(たんち)してゐたので、356今更(いまさら)余(あま)り驚(おどろ)きもなさず、357笑(わら)うてこれを許(ゆる)した。358暫(しばら)くあつて綾部(あやべ)の本部(ほんぶ)より教祖(けうそ)の命令(めいれい)によつて四方(しかた)平蔵(へいざう)が四方(しかた)春三(はるざう)を伴(ともな)ひ、359沓島(めしま)行(ゆ)きの一行(いつかう)を迎(むか)ひに来(きた)り、360一同(いちどう)の無事(ぶじ)を祝(しゆく)し、361冥土(めいど)の旅(たび)から帰(かへ)つたやうに小(こ)をどりして喜(よろこ)んだ。362四方(しかた)春三(はるざう)も杉浦(すぎうら)の改悟(かいご)を聞(き)いて包(つつ)むに包(つつ)みきれず、363陰謀(いんぼう)を逐一(ちくいち)自白(じはく)し、
364四方(しかた)『あゝ私(わたし)の心(こころ)には悪神(あくがみ)が潜(ひそ)んでゐたのでせう、365これからキツと改心(かいしん)致(いた)します』
366と真心(まごころ)から涙(なみだ)を流(なが)して有体(ありてい)に謝罪(しやざい)するのを見(み)ると、367却(かへ)つて可哀相(かあいさう)になつて来(き)た。368雨(あめ)降(ふ)つて地(ち)固(かた)まるとやら、369今度(こんど)の遭難(さうなん)にて誰(たれ)も彼(か)れも一(いち)時(じ)に悔(く)ゐ改(あらた)め、370道(みち)の曙光(しよくわう)を認(みと)めるやうになつたのも、371全(まつた)く神(かみ)の深遠(しんゑん)なる思召(おぼしめし)によることと、372会長(くわいちやう)は益々(ますます)其(その)信念(しんねん)を鞏固(きようこ)ならしめた。
373 二十二(にじふに)日(にち)の夕方(ゆふがた)無事(ぶじ)に館(やかた)に帰(かへ)り、374神前(しんぜん)に一同(いちどう)拝礼(はいれい)し各々(おのおの)家(いへ)に帰(かへ)つた。
375(大正一一・一〇・一七 旧八・二七 松村真澄録)
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