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霊界物語
舎身活躍(第37~48巻)
第38巻(丑の巻)
序歌
総説
第1篇 千万無量
第1章 道すがら
第2章 吉崎仙人
第3章 帰郷
第4章 誤親切
第5章 三人組
第6章 曲の猛
第7章 火事蚊
第2篇 光風霽月
第8章 三ツ巴
第9章 稍安定
第10章 思ひ出(一)
第11章 思ひ出(二)
第12章 思ひ出(三)
第3篇 冒険神験
第13章 冠島
第14章 沓島
第15章 怒濤
第16章 禁猟区
第17章 旅装
第4篇 霊火山妖
第18章 鞍馬山(一)
第19章 鞍馬山(二)
第20章 元伊勢
第5篇 正信妄信
第21章 凄い権幕
第22章 難症
第23章 狐狸狐狸
第24章 呪の釘
第25章 雑草
第26章 日の出
第27章 仇箒
第28章 金明水
余白歌
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<<< 思ひ出(三)
(B)
(N)
沓島 >>>
第一三章
冠島
(
をしま
)
〔一〇五〇〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第38巻 舎身活躍 丑の巻
篇:
第3篇 冒険神験
よみ(新仮名遣い):
ぼうけんしんけん
章:
第13章 冠島
よみ(新仮名遣い):
おしま
通し章番号:
1050
口述日:
1922(大正11)年10月17日(旧08月27日)
口述場所:
筆録者:
松村真澄
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1924(大正13)年4月3日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
喜楽は到底、教祖様の心言行を述べるほどの器ではないが、一部分にもせよ教祖の実行されたことを述べておかなくては、それらを土中に埋没するごときものであるから、冠島にお渡りになった事実の大要を述べておく。
日清戦争の後、義和団の乱が起こり、日本も鎮圧軍に加わった。この舞台において神国神軍の武勇を現し列強の侮りを防ぐ必要がある、という神勅を得て、教祖は六十五歳の老躯を押して、丹後沖の孤島・冠島に神国勝利の祈願をするために舞鶴にやってきた。
共としては自分、出口澄子、四方平蔵、木下慶太郎の四名であった。舟を雇って渡ろうとしたとき、天候がにわかに悪くなって船宿の主人は出向を止めたが、教祖は聞かない。
木下慶太郎が船頭二人を説得して連れてきて、半里でも漕げたら全部の賃金を払うとまで言い、ようやく出航することを得た。
博奕ケ崎まで来ると雨は晴れ、風は凪いで空には満点の星が現れた。冠島の島影が見え始めたころ、東の空に茜が指して夜が明けてきた。舟は無事に島に安着した。
教祖は波打ち際で禊をなし、島の老人島神社にて治国平天下安民の祈願をこらした。帰路は波も静かに舞鶴港に立ち返り、綾部に帰って数多の信者に迎えられた。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
[×閉じる]
:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2022-11-05 16:37:38
OBC :
rm3813
愛善世界社版:
133頁
八幡書店版:
第7輯 207頁
修補版:
校定版:
135頁
普及版:
68頁
初版:
ページ備考:
001
易
(
えき
)
に
曰
(
いは
)
く、
002
書
(
しよ
)
は
言
(
げん
)
を
尽
(
つく
)
す
能
(
あた
)
はず、
003
言
(
げん
)
は
意
(
い
)
を
尽
(
つく
)
す
能
(
あた
)
はず、
004
意
(
い
)
は
神
(
かみ
)
を
尽
(
つく
)
す
能
(
あた
)
はず、
005
然
(
しか
)
れども
言
(
げん
)
に
非
(
あら
)
ざれば
意
(
い
)
を
現
(
あらは
)
す
能
(
あた
)
はず、
006
書
(
しよ
)
に
非
(
あら
)
ざれば
言
(
げん
)
を
載
(
の
)
す
能
(
あた
)
はず、
007
抑
(
そもそ
)
も
聖賢
(
せいけん
)
の
言
(
げん
)
、
008
偉人
(
ゐじん
)
君子
(
くんし
)
の
行
(
かう
)
、
009
忠臣
(
ちうしん
)
義士
(
ぎし
)
の
偉挙
(
ゐきよ
)
、
010
貞女
(
ていぢよ
)
節婦
(
せつぷ
)
の
美伝
(
びでん
)
、
011
悉
(
ことごと
)
く
文字
(
もんじ
)
に
依
(
よ
)
つて
伝
(
つた
)
へらるるものである。
012
喜楽
(
きらく
)
は
性来
(
しやうらい
)
の
人間
(
にんげん
)
として
鈍根
(
どんこん
)
劣機
(
れつき
)
至愚
(
しぐ
)
至痴
(
しち
)
到底
(
たうてい
)
教祖
(
けうそ
)
の
心言行
(
しんげんかう
)
を
述
(
の
)
べむとするは、
013
甚
(
はなは
)
だ
僣越
(
せんえつ
)
の
至
(
いた
)
りである。
014
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
其
(
その
)
一
(
いち
)
小部分
(
せうぶぶん
)
にもせよ、
015
教祖
(
けうそ
)
の
実行
(
じつかう
)
された
心言
(
しんげん
)
を
伝
(
つた
)
へておかなくては、
016
あたら
教祖
(
けうそ
)
の
心言
(
しんげん
)
を
土中
(
どちう
)
に
埋没
(
まいぼつ
)
する
如
(
ごと
)
きものであるから、
017
茲
(
ここ
)
に
教祖
(
けうそ
)
が
冠島
(
をしま
)
に
始
(
はじ
)
めて
神命
(
しんめい
)
を
奉
(
ほう
)
じて
御
(
お
)
渡
(
わた
)
りになつた
事実
(
じじつ
)
の
大要
(
たいえう
)
を
述
(
の
)
べて
見
(
み
)
やうと
思
(
おも
)
ふ。
018
世
(
よ
)
必
(
かなら
)
ず
非常
(
ひじやう
)
の
人
(
ひと
)
あつて、
019
而
(
しか
)
して
後
(
のち
)
非常
(
ひじやう
)
の
事
(
こと
)
あり、
020
非常
(
ひじやう
)
の
事
(
こと
)
ありて
而
(
しか
)
して
後
(
のち
)
に
非常
(
ひじやう
)
の
功
(
こう
)
ありと
司馬
(
しば
)
相丞
(
しやうじよう
)
が
言
(
い
)
つた。
021
自分
(
じぶん
)
が
茲
(
ここ
)
に
口述
(
こうじゆつ
)
する
出口
(
でぐち
)
直子
(
なほこ
)
も
亦
(
また
)
非常
(
ひじやう
)
の
人
(
ひと
)
たるを
信
(
しん
)
ずる。
022
否
(
いな
)
貴
(
とうと
)
き
神
(
かみ
)
の
代表者
(
だいへうしや
)
たるを
堅
(
かた
)
く
信
(
しん
)
じて、
023
茲
(
ここ
)
に
其
(
その
)
一端
(
いつたん
)
を
物語
(
ものがた
)
らむとするのである。
024
日清
(
につしん
)
戦役
(
せんえき
)
の
後
(
のち
)
独逸
(
どいつ
)
が
膠州湾
(
かうしうわん
)
を
占領
(
せんりやう
)
し、
025
露国
(
ろこく
)
が
旅順
(
りよじゆん
)
大連
(
たいれん
)
を
租借
(
そしやく
)
した
行動
(
かうどう
)
は
甚
(
はなは
)
だ
列強国
(
れつきやうこく
)
の
精神
(
せいしん
)
を
刺激
(
しげき
)
し、
026
各
(
かく
)
其
(
その
)
均霑
(
きんてん
)
を
希望
(
きばう
)
する
結果
(
けつくわ
)
、
027
英国
(
えいこく
)
は
威海衛
(
ゐかいゑい
)
を、
028
仏国
(
ふつこく
)
は
広州湾
(
くわうしうわん
)
を
各
(
おのおの
)
占領
(
せんりやう
)
し、
029
露国
(
ろこく
)
が
鉄道
(
てつだう
)
布設権
(
ふせつけん
)
を
満洲
(
まんしう
)
に
得
(
え
)
たるに
倣
(
なら
)
ひ、
030
争
(
あらそ
)
うて
鉄道
(
てつだう
)
布設権
(
ふせつけん
)
を
清国
(
しんこく
)
各地方
(
かくちはう
)
に
獲得
(
くわくとく
)
せむとし、
031
各自
(
かくじ
)
に
所謂
(
いはゆる
)
勢力
(
せいりよく
)
範囲
(
はんゐ
)
を
策定
(
さくてい
)
し、
032
陰然
(
いんぜん
)
支那
(
しな
)
分割
(
ぶんかつ
)
の
状勢
(
じやうせい
)
を
馴致
(
じゆんち
)
し、
033
東洋
(
とうやう
)
の
危機
(
きき
)
正
(
まさ
)
に
此
(
この
)
時
(
とき
)
より
甚
(
はなは
)
だしきはなしと
思
(
おも
)
はれた。
034
加之
(
しかのみならず
)
義和団
(
ぎわだん
)
と
称
(
しよう
)
する
時勢
(
じせい
)
の
大勢
(
たいせい
)
を
知
(
し
)
らざる
忠臣
(
ちうしん
)
義士
(
ぎし
)
の
一団
(
いちだん
)
、
035
これを
憤慨
(
ふんがい
)
すること
甚
(
はなはだ
)
しく、
036
遂
(
つひ
)
に
興清
(
こうしん
)
滅洋
(
めつやう
)
の
旗幟
(
きしき
)
を
翻
(
ひるがへ
)
して、
037
山東省
(
さんとうしやう
)
の
各地
(
かくち
)
に
蜂起
(
ほうき
)
し、
038
所在
(
あらゆる
)
キリスト
教徒
(
けうと
)
を
虐殺
(
ぎやくさつ
)
し
鉄道
(
てつだう
)
を
破壊
(
はくわい
)
し、
039
明治
(
めいぢ
)
三十三
(
さんじふさん
)
年
(
ねん
)
四
(
し
)
月
(
ぐわつ
)
初旬
(
しよじゆん
)
、
040
進
(
すす
)
んで
直隷省
(
ちよくれいしやう
)
に
入
(
い
)
り、
041
忽
(
たちま
)
ち
清国
(
しんこく
)
の
宗室
(
そうしつ
)
端郡王
(
たんぐんわう
)
を
擁
(
よう
)
し、
042
将軍
(
しやうぐん
)
董福祥
(
とうふくしやう
)
を
中堅
(
ちうけん
)
とし、
043
五
(
ご
)
月
(
ぐわつ
)
以来
(
いらい
)
勢
(
いきほひ
)
益
(
ますま
)
す
猩獗
(
しやうけつ
)
をきはめ、
044
六
(
ろく
)
月
(
ぐわつ
)
に
及
(
およ
)
んで
北京
(
ペキン
)
は
全
(
まつた
)
く
重囲
(
ぢうゐ
)
の
中
(
なか
)
に
陥
(
おちい
)
り、
045
独逸
(
どいつ
)
公使
(
こうし
)
ケツトレル
先
(
ま
)
づ
惨殺
(
ざんさつ
)
せられ、
046
我
(
わが
)
公使館
(
こうしくわん
)
書記生
(
しよきせい
)
杉山
(
すぎやま
)
某
(
ぼう
)
又
(
また
)
殺害
(
さつがい
)
せられた。
047
日本
(
にほん
)
を
始
(
はじ
)
め
列国
(
れつこく
)
は
遂
(
つひ
)
に
独逸
(
どいつ
)
元帥
(
げんすゐ
)
ワルデルデーを
総
(
そう
)
指揮官
(
しきくわん
)
となし、
048
聯合軍
(
れんがふぐん
)
を
組織
(
そしき
)
して、
049
太估
(
ターク
)
より
並進
(
へいしん
)
し、
050
将
(
まさ
)
に
北京
(
ペキン
)
の
団匪
(
だんぴ
)
に
迫
(
せま
)
らむとする
間際
(
まぎは
)
であつた。
051
開闢
(
かいびやく
)
以来
(
いらい
)
未曾有
(
みぞう
)
の
世界
(
せかい
)
の
力比
(
ちからくら
)
べともいふべき
晴
(
は
)
れの
戦争
(
せんそう
)
である。
052
此
(
この
)
檜舞台
(
ひのきぶたい
)
に
立
(
た
)
つて、
053
神国
(
しんこく
)
神軍
(
しんぐん
)
の
武勇
(
ぶゆう
)
を
現
(
あらは
)
し、
054
列国
(
れつこく
)
の
侮
(
あなど
)
りを
防
(
ふせ
)
ぐ
必要
(
ひつえう
)
があるとの
御
(
ご
)
神勅
(
しんちよく
)
で、
055
教祖
(
けうそ
)
は
六十五
(
ろくじふご
)
才
(
さい
)
の
老躯
(
らうく
)
を
起
(
おこ
)
して、
056
昔
(
むかし
)
から
女人
(
によにん
)
の
渡
(
わた
)
つたことのない
丹後沖
(
たんごおき
)
の
無人島
(
むじんたう
)
、
057
冠島
(
をしま
)
俗
(
ぞく
)
に
大島
(
おほしま
)
へ、
058
東洋
(
とうやう
)
平和
(
へいわ
)
の
為
(
ため
)
、
059
皇軍
(
くわうぐん
)
大勝利
(
だいしようり
)
の
祈願
(
きぐわん
)
をなさむと、
060
陰暦
(
いんれき
)
の
六
(
ろく
)
月
(
ぐわつ
)
八日
(
やうか
)
を
以
(
もつ
)
て、
061
上田
(
うへだ
)
会長
(
くわいちやう
)
、
062
出口
(
でぐち
)
澄子
(
すみこ
)
、
063
四方
(
しかた
)
平蔵
(
へいざう
)
、
064
木下
(
きのした
)
慶太郎
(
けいたらう
)
の
四
(
よ
)
人
(
にん
)
を
引連
(
ひきつ
)
れ、
065
五里半
(
ごりはん
)
の
路程
(
みちのり
)
を
徒歩
(
とほ
)
して、
066
黄昏
(
たそがれ
)
頃
(
ごろ
)
舞鶴
(
まひづる
)
の
船問屋
(
ふなどんや
)
、
067
大丹生
(
おほにふ
)
屋
(
や
)
に
着
(
ちやく
)
し、
068
渡島
(
とたう
)
の
船頭
(
せんどう
)
を
雇
(
やと
)
ひ、
069
これから
愈
(
いよいよ
)
漕
(
こ
)
ぎ
出
(
だ
)
さうとする
時
(
とき
)
しも、
070
今
(
いま
)
まで
快晴
(
くわいせい
)
にして
極
(
ごく
)
穏
(
おだや
)
かであつた
青空
(
あをぞら
)
が
俄
(
にはか
)
にかき
曇
(
くも
)
り、
071
満天
(
まんてん
)
墨
(
すみ
)
を
流
(
なが
)
した
如
(
ごと
)
く
風
(
かぜ
)
は
海面
(
かいめん
)
をふきつけ、
072
波浪
(
はらう
)
の
猛
(
たけ
)
り
狂
(
くる
)
ふ
声
(
こゑ
)
、
073
刻々
(
こくこく
)
に
激
(
はげ
)
しく
聞
(
きこ
)
えて
来
(
き
)
た。
074
大丹生
(
おほにふ
)
屋
(
や
)
の
主人
(
しゆじん
)
は、
075
『
此
(
この
)
天候
(
てんこう
)
は
確
(
たしか
)
に
颶風
(
ぐふう
)
の
襲来
(
しふらい
)
なれば、
076
今晩
(
こんばん
)
の
舟出
(
ふなで
)
は
見合
(
みあ
)
はしませう。
077
まして
海上
(
かいじやう
)
十
(
じふ
)
里
(
り
)
の
荒
(
あら
)
い
沖中
(
おきなか
)
の
一
(
ひと
)
つ
島
(
じま
)
へ、
078
こんな
小
(
ちひ
)
さい
釣舟
(
つりぶね
)
にては
到底
(
たうてい
)
安全
(
あんぜん
)
に
渡
(
わた
)
ることは
出来
(
でき
)
ませぬ、
079
一
(
ひと
)
つ
違
(
ちが
)
へば、
080
可惜
(
あたら
)
貴重
(
きちよう
)
の
生命
(
せいめい
)
を
捨
(
す
)
てねばならぬ、
081
明日
(
あす
)
の
夜明
(
よあけ
)
を
待
(
ま
)
つて、
082
天候
(
てんこう
)
を
見
(
み
)
きわめ、
083
これで
大丈夫
(
だいぢやうぶ
)
といふことがきまつてから
御
(
お
)
参
(
まゐ
)
りなさい』
084
としきりにとどめる。
085
又
(
また
)
舟人
(
ふなびと
)
も
異口
(
いく
)
同音
(
どうおん
)
に、
086
到底
(
たうてい
)
海上
(
かいじやう
)
の
安全
(
あんぜん
)
に
渡
(
わた
)
り
得
(
う
)
可
(
べ
)
からざることを
主張
(
しゆちやう
)
して、
087
舟
(
ふね
)
を
出
(
だ
)
さうとは
言
(
い
)
はぬのみか、
088
一人
(
ひとり
)
減
(
へ
)
り
二人
(
ふたり
)
減
(
へ
)
り、
089
コソコソとどこかへ
逃
(
に
)
げて
行
(
い
)
つて
了
(
しま
)
うのであつた。
090
教祖
(
けうそ
)
は、
091
教祖
(
けうそ
)
『
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
命令
(
めいれい
)
だから、
092
そんなことを
言
(
い
)
つて
一
(
いち
)
時
(
じ
)
の
間
(
ま
)
も
猶予
(
いうよ
)
することは
出来
(
でき
)
ませぬ。
093
是
(
ぜ
)
が
非
(
ひ
)
でも
今
(
いま
)
から
舟
(
ふね
)
を
拵
(
こしら
)
へて
出
(
で
)
て
貰
(
もら
)
ひたい。
094
今晩
(
こんばん
)
海
(
うみ
)
のあれるのは
竜宮
(
りうぐう
)
様
(
さま
)
が
私
(
わし
)
等
(
ら
)
の
一行
(
いつかう
)
を、
095
喜
(
よろこ
)
び
勇
(
いさ
)
んでお
迎
(
むか
)
へに
来
(
き
)
て
下
(
くだ
)
さる
為
(
ため
)
に、
096
荒
(
あら
)
い
風
(
かぜ
)
が
吹
(
ふ
)
いたり、
097
雨
(
あめ
)
が
降
(
ふ
)
つたりするのだ。
098
浪
(
なみ
)
の
高
(
たか
)
いのは
当然
(
たうぜん
)
だ。
099
船頭
(
せんどう
)
サン、
100
大丈夫
(
だいぢやうぶ
)
だ、
101
神
(
かみ
)
さまがついて
御座
(
ござ
)
るから、
102
少
(
すこ
)
しも
恐
(
おそ
)
れず、
103
早
(
はや
)
く
舟
(
ふね
)
を
漕
(
こ
)
ぎ
出
(
だ
)
して
下
(
くだ
)
さい。
104
博奕
(
ばくち
)
ケ
崎
(
さき
)
迄
(
まで
)
漕
(
こ
)
いで
行
(
ゆ
)
けば、
105
屹度
(
きつと
)
風
(
かぜ
)
はなぎ、
106
雨
(
あめ
)
はやみ、
107
波
(
なみ
)
も
静
(
しづ
)
まります。
108
天下
(
てんか
)
危急
(
ききふ
)
の
場合
(
ばあひ
)
だから、
109
一刻
(
いつこく
)
も
躊躇
(
ちうちよ
)
することは
出来
(
でき
)
ぬ。
110
死
(
し
)
ぬるのも
生
(
いき
)
るのも
皆
(
みな
)
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
思召
(
おぼしめし
)
によるものだ。
111
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
が
死
(
し
)
なそまいと
思召
(
おぼしめ
)
すなら、
112
どんなことがあつても
死
(
し
)
ぬものぢやない、
113
信仰
(
しんかう
)
のない
者
(
もの
)
は
一寸
(
ちよつと
)
したことに
恐
(
おそ
)
れるものだ、
114
が
今度
(
こんど
)
は
大丈夫
(
だいぢやうぶ
)
だから、
115
是非
(
ぜひ
)
々々
(
ぜひ
)
行
(
い
)
つておくれ』
116
と
雄健
(
をたけ
)
びして
船頭
(
せんどう
)
の
主人
(
しゆじん
)
の
言葉
(
ことば
)
を
聞
(
き
)
き
入
(
い
)
れる
気色
(
けしき
)
もなかつた。
117
大丹生
(
おほにふ
)
屋
(
や
)
の
主人
(
しゆじん
)
を
始
(
はじ
)
め、
118
一同
(
いちどう
)
の
舟人
(
ふなびと
)
等
(
ら
)
は
小
(
ちひ
)
さい
声
(
こゑ
)
で、
119
『
金
(
かね
)
もほしいが
命
(
いのち
)
が
大事
(
だいじ
)
だ。
120
こんな
気違
(
きちが
)
ひ
婆
(
ば
)
アさんの
命
(
いのち
)
知
(
し
)
らずの
馬鹿者
(
ばかもの
)
に
相手
(
あひて
)
になつて
居
(
を
)
つては
堪
(
たま
)
らぬ』
121
と
嘲笑
(
てうせう
)
的
(
てき
)
に
囁
(
ささや
)
き、
122
只
(
ただ
)
の
一人
(
ひとり
)
も
応
(
おう
)
ずるものが
無
(
な
)
い。
123
一行
(
いつかう
)
五
(
ご
)
人
(
にん
)
は
如何
(
いかん
)
ともすること
能
(
あた
)
はず、
124
只管
(
ひたすら
)
一時
(
ひととき
)
も
早
(
はや
)
く
出舟
(
でぶね
)
の
都合
(
つがふ
)
をつけて
下
(
くだ
)
さいと
橋
(
はし
)
の
上
(
うへ
)
に
合掌
(
がつしやう
)
して
祈
(
いの
)
りつつあつた。
125
木下
(
きのした
)
は
操舟
(
さうしう
)
に
鍛練
(
たんれん
)
の
聞
(
きこ
)
えある
漁師
(
れふし
)
、
126
田中
(
たなか
)
岩吉
(
いはきち
)
、
127
橋本
(
はしもと
)
六蔵
(
ろくざう
)
の
二人
(
ふたり
)
を
甘
(
うま
)
く
説
(
と
)
きつけて
帰
(
かへ
)
り
来
(
きた
)
り、
128
『
只今
(
ただいま
)
より
冠島
(
をしま
)
へ
連
(
つ
)
れて
行
(
い
)
てくれ』
129
と
改
(
あらた
)
めて
頼
(
たの
)
み
込
(
こ
)
むと、
130
二人
(
ふたり
)
は
目
(
め
)
を
丸
(
まる
)
うして、
131
『なんぼ
神
(
かみ
)
さまの
命令
(
めいれい
)
でも
此
(
この
)
空
(
そら
)
では
行
(
ゆ
)
けませぬ。
132
私
(
わたし
)
等
(
ら
)
も
永
(
なが
)
らくの
間
(
あひだ
)
、
133
舟
(
ふね
)
の
中
(
なか
)
を
家
(
いへ
)
のやうに
思
(
おも
)
ひ、
134
海上
(
かいじやう
)
生活
(
せいくわつ
)
をやつて
居
(
を
)
ります
故
(
ゆゑ
)
、
135
大抵
(
たいてい
)
の
荒
(
あ
)
れならこぎ
出
(
だ
)
して
見
(
み
)
ますが、
136
此
(
この
)
気色
(
けしき
)
では
到底
(
たうてい
)
駄目
(
だめ
)
です。
137
一体
(
いつたい
)
あんた
等
(
ら
)
は
何処
(
どこ
)
の
人
(
ひと
)
ぢや
本当
(
ほんたう
)
に
無茶
(
むちや
)
な
人
(
ひと
)
ですなア』
138
と
呆
(
あき
)
れて
一行
(
いつかう
)
の
顔
(
かほ
)
を
見
(
み
)
つめて
居
(
ゐ
)
る。
139
教祖
(
けうそ
)
は
切
(
しき
)
りに
促
(
うなが
)
し、
140
教祖
(
けうそ
)
『
早
(
はや
)
く
早
(
はや
)
く』
141
と
急
(
せ
)
き
立
(
た
)
てられる。
142
船頭
(
せんどう
)
は
返事
(
へんじ
)
をせぬ。
143
かくては
果
(
はて
)
じと、
144
二人
(
ふたり
)
の
船頭
(
せんどう
)
に
向
(
むか
)
つて、
145
『
海上
(
かいじやう
)
一町
(
いつちやう
)
でも
半里
(
はんみち
)
でもよいから、
146
冠島
(
をしま
)
までの
賃金
(
ちんぎん
)
を
払
(
はら
)
ふから、
147
マア
中途
(
ちうと
)
から
帰
(
かへ
)
る
積
(
つも
)
りで
往
(
い
)
つてくれ』
148
と
木下
(
きのした
)
が
云
(
い
)
つた。
149
二人
(
ふたり
)
の
船頭
(
せんどう
)
は、
150
『お
前
(
まへ
)
さまたちが、
151
そこまで
強
(
し
)
いて
仰
(
おつ
)
しやるのならば、
152
キツと
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
教
(
をしへ
)
でありませう、
153
確信
(
かくしん
)
がなければ、
154
到底
(
たうてい
)
此
(
この
)
気色
(
けしき
)
に
行
(
ゆ
)
くといふ
気
(
き
)
にはなれますまい。
155
私
(
わたし
)
も
一寸
(
ちよつと
)
冠島
(
をしま
)
さまに
伺
(
うかが
)
つてみて
決心
(
けつしん
)
します』
156
といひ
乍
(
なが
)
ら、
157
新橋
(
しんばし
)
の
上
(
うへ
)
に
立
(
た
)
つて、
158
冠島
(
をしま
)
の
方
(
はう
)
に
向
(
むか
)
ひ
合掌
(
がつしやう
)
祈願
(
きぐわん
)
しつつ、
159
俄作
(
にはかづく
)
りのみくじを
引
(
ひ
)
いて
見
(
み
)
て、
160
『ヤツパリ
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
は
行
(
ゆ
)
けとありますから、
161
兎
(
と
)
も
角
(
かく
)
行
(
い
)
ける
所
(
ところ
)
まで
漕
(
こ
)
ぎつけて
見
(
み
)
ませう』
162
と
半安
(
はんあん
)
半危
(
はんき
)
の
気味
(
きみ
)
で
承諾
(
しようだく
)
の
意
(
い
)
を
洩
(
も
)
らしつつ、
163
早速
(
さつそく
)
用意
(
ようい
)
を
整
(
ととの
)
へ
五
(
ご
)
人
(
にん
)
を
乗
(
の
)
せて
潔
(
いさぎよ
)
く
舞鶴港
(
まひづるかう
)
を
後
(
あと
)
にして、
164
屋根無
(
たなな
)
し
小舟
(
をぶね
)
を
操
(
あやつ
)
り、
165
雨風
(
あめかぜ
)
の
中
(
なか
)
を
事
(
こと
)
ともせず、
166
自他
(
じた
)
七
(
しち
)
人
(
にん
)
の
生霊
(
せいれい
)
を
乗
(
の
)
せ、
167
舟唄
(
ふなうた
)
高
(
たか
)
く
漕
(
こ
)
ぎ
出
(
だ
)
した。
168
海上
(
かいじやう
)
二
(
に
)
里
(
り
)
許
(
ばか
)
り
漕
(
こ
)
ぎ
出
(
で
)
たと
思
(
おも
)
ふ
頃
(
ころ
)
、
169
教祖
(
けうそ
)
のさして
居
(
を
)
られた
蝙蝠傘
(
かうもりがさ
)
が
如何
(
どう
)
した
機
(
はづ
)
みか、
170
俄
(
にはか
)
に
波
(
なみ
)
にさらはれ
取
(
とり
)
おとされたと
見
(
み
)
る
間
(
ま
)
に、
171
舳
(
とも
)
に
立
(
た
)
つて
艪
(
ろ
)
を
操
(
あやつ
)
つてゐた、
172
舟人
(
ふなびと
)
の
岩吉
(
いはきち
)
が
目
(
め
)
ざとく
見
(
み
)
とめて、
173
拾
(
ひろ
)
ひ
上
(
あ
)
げた。
174
時
(
とき
)
しも
舟底
(
ふなぞこ
)
に
肱
(
ひぢ
)
を
枕
(
まくら
)
にして、
175
ウツウツ
眠
(
ねむ
)
つて
居
(
ゐ
)
た
澄子
(
すみこ
)
は
忽
(
たちま
)
ち
目
(
め
)
を
醒
(
さ
)
まし、
176
澄子
(
すみこ
)
『アヽ
吃驚
(
びつくり
)
した、
177
今
(
いま
)
平蔵
(
へいざう
)
サンが、
178
誤
(
あやま
)
つて
海中
(
かいちう
)
に
陥
(
おちい
)
り、
179
命
(
いのち
)
危
(
あやふ
)
い
所
(
ところ
)
へ
教祖
(
けうそ
)
さまのうしろの
方
(
はう
)
から、
180
威容
(
ゐよう
)
凛然
(
りんぜん
)
たる
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
が
現
(
あらは
)
れて、
181
平蔵
(
へいざう
)
サンを
救
(
すく
)
ひ
上
(
あ
)
げ、
182
息
(
いき
)
を
口
(
くち
)
から
吹
(
ふ
)
き
込
(
こ
)
んで
蘇生
(
そせい
)
せしめられたと
思
(
おも
)
へば、
183
ヤツパリ
夢
(
ゆめ
)
であつたか』
184
と
不思議
(
ふしぎ
)
相
(
さう
)
に
語
(
かた
)
り
出
(
だ
)
す。
185
一行
(
いつかう
)
一層
(
いつそう
)
異様
(
いやう
)
の
思
(
おも
)
ひを
為
(
な
)
し、
186
教祖
(
けうそ
)
の
持
(
も
)
つてこられた
蝙蝠傘
(
かうもりがさ
)
をよくよく
調
(
しら
)
べて
見
(
み
)
れば、
187
正
(
まさ
)
しく
平蔵
(
へいざう
)
サンの
傘
(
かさ
)
であつた。
188
至仁
(
しじん
)
至愛
(
しあい
)
の
大神
(
おほかみ
)
は、
189
教祖
(
けうそ
)
さまをして
身代
(
みがは
)
りの
為
(
ため
)
に、
190
平蔵
(
へいざう
)
氏
(
し
)
の
傘
(
かさ
)
を
海
(
うみ
)
におとさしめて、
191
其
(
その
)
危難
(
きなん
)
を
救
(
すく
)
ひ、
192
罪
(
つみ
)
を
浄
(
きよ
)
め、
193
新
(
あたら
)
しい
人間
(
にんげん
)
と
生
(
うま
)
れ
変
(
か
)
はらして
下
(
くだ
)
さつたのでせう……と
各自
(
かくじ
)
に
感歎
(
かんたん
)
し
乍
(
なが
)
ら、
194
狭
(
せま
)
い
舟
(
ふね
)
の
中
(
なか
)
に
静座
(
せいざ
)
し、
195
膝
(
ひざ
)
をつき
合
(
あは
)
せ
乍
(
なが
)
ら、
196
一同
(
いちどう
)
が
謝恩
(
しやおん
)
の
祝詞
(
のりと
)
を
奏
(
そう
)
しつつ、
197
勇
(
いさ
)
み
進
(
すす
)
んで、
198
雨中
(
うちう
)
を
漕
(
こ
)
ぎ
出
(
だ
)
した。
199
こんなことを
述
(
の
)
べ
立
(
た
)
てると、
200
信仰
(
しんかう
)
なき
人
(
ひと
)
は、
201
或
(
あるひ
)
は
狂妄
(
きやうもう
)
といひ
迷信
(
めいしん
)
と
誹
(
そし
)
り、
202
偶然
(
ぐうぜん
)
の
暗合
(
あんがふ
)
と
笑
(
わら
)
ふであらう。
203
神異
(
しんい
)
霊怪
(
れいくわい
)
なるものの
世
(
よ
)
にあるべき
道理
(
だうり
)
はないと
一笑
(
いつせう
)
に
附
(
ふ
)
して
顧
(
かへり
)
みないであらう。
204
さり
乍
(
なが
)
ら
天地
(
てんち
)
の
間
(
あひだ
)
は、
205
すべて
摩訶
(
まか
)
不思議
(
ふしぎ
)
なものであることは、
206
本居
(
もとをり
)
宣長
(
のりなが
)
の
玉鉾
(
たまほこ
)
百首
(
ひやくしゆ
)
にもよまれた
通
(
とほ
)
りである。
207
あやしきを
非
(
あら
)
じといふは
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
の
208
怪
(
あや
)
しき
知
(
し
)
らぬしれ
心
(
ごころ
)
かも
209
しらゆべきものならなくに
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
の
210
くしき
理
(
ことわり
)
神
(
かみ
)
ならずして
211
右
(
みぎ
)
の
歌
(
うた
)
の
意
(
い
)
の
如
(
ごと
)
く、
212
天地間
(
てんちかん
)
は
凡
(
すべ
)
て
奇怪
(
きくわい
)
にして
人心
(
じんしん
)
小智
(
せうち
)
の
伺
(
うかが
)
ひ
知
(
し
)
るべき
限
(
かぎ
)
りではない。
213
然
(
しか
)
るに
中古
(
ちうこ
)
より
聖人
(
せいじん
)
などいふ
者
(
もの
)
出
(
い
)
で
来
(
きた
)
りてより、
214
怪力
(
くわいりき
)
乱神
(
らんしん
)
を
語
(
かた
)
らずとか、
215
正法
(
しやうはふ
)
に
不思議
(
ふしぎ
)
なしとか
悟
(
さと
)
り
顔
(
がほ
)
に
屁理屈
(
へりくつ
)
を
振
(
ふ
)
りまはしてより、
216
世人
(
せじん
)
の
心
(
こころ
)
は
漸次
(
ぜんじ
)
無神論
(
むしんろん
)
に
傾
(
かたむ
)
き、
217
神霊
(
しんれい
)
霊怪
(
れいくわい
)
を
無視
(
むし
)
し、
218
宇宙
(
うちう
)
の
真理
(
しんり
)
を
得悟
(
さと
)
らざるに
至
(
いた
)
り、
219
至尊
(
しそん
)
至貴
(
しき
)
万邦
(
ばんぱう
)
無比
(
むひ
)
の
神国
(
しんこく
)
を
知
(
し
)
らざるに
立到
(
たちいた
)
つたのである。
220
又
(
また
)
玉鉾
(
たまほこ
)
百首
(
ひやくしゆ
)
に、
221
からたまのさかしら
心
(
ごころ
)
うつりてぞ
222
世人
(
よびと
)
の
心
(
こころ
)
悪
(
あ
)
しくなりぬる
223
しるべしと
醜
(
しこ
)
の
物知
(
ものし
)
りなかなかに
224
よこさの
道
(
みち
)
に
人
(
ひと
)
まどわすも
225
とよまれてあるのも
実
(
じつ
)
に
尤
(
もつと
)
もな
次第
(
しだい
)
である。
226
却説
(
さて
)
舟人
(
ふなびと
)
の
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
にこぐ
舟
(
ふね
)
は
早
(
はや
)
くも
博奕
(
ばくち
)
ケ
岬
(
さき
)
についた。
227
教祖
(
けうそ
)
の
言
(
こと
)
あげせられた
如
(
ごと
)
く、
228
ここ
迄
(
まで
)
来
(
く
)
ると、
229
雨
(
あめ
)
は
俄
(
にはか
)
に
晴
(
は
)
れ、
230
風
(
かぜ
)
はなぎ
波
(
なみ
)
は
静
(
しづ
)
まつて、
231
満天
(
まんてん
)
の
星
(
ほし
)
の
光
(
ひかり
)
は
海
(
うみ
)
の
底
(
そこ
)
深
(
ふか
)
く
宿
(
やど
)
つて、
232
波紋
(
はもん
)
銀色
(
ぎんしよく
)
を
彩
(
いろ
)
どり、
233
雲
(
くも
)
の
上
(
うへ
)
も
海
(
うみ
)
の
底
(
そこ
)
も
合
(
あは
)
せ
鏡
(
かがみ
)
の
如
(
ごと
)
く、
234
昔
(
むかし
)
の
男
(
を
)
の
子
(
こ
)
の、
235
棹
(
さを
)
はうがつ
波
(
なみ
)
の
上
(
うへ
)
の
月
(
つき
)
を、
236
波
(
なみ
)
はおそふ
海
(
うみ
)
の
中
(
なか
)
の
舟
(
ふね
)
を
237
を
思
(
おも
)
ひうかべ
実
(
じつ
)
に
壮快
(
さうくわい
)
の
気分
(
きぶん
)
に
打
(
う
)
たれた。
238
影
(
かげ
)
見
(
み
)
れば
浪
(
なみ
)
のそこなる
久方
(
ひさかた
)
の
239
空
(
そら
)
こぎわたる
我
(
われ
)
ぞわびしき
240
といふ
紀貫之
(
きのつらゆき
)
の
歌
(
うた
)
まで
思
(
おも
)
ひ
出
(
だ
)
され、
241
一
(
ひと
)
しほ
感興
(
かんきよう
)
深
(
ふか
)
く
進
(
すす
)
む
折
(
をり
)
しも、
242
ボーツと
海
(
うみ
)
のあなたに
黒
(
くろ
)
い
影
(
かげ
)
が
月
(
つき
)
を
遮
(
さへぎ
)
つた。
243
舟人
(
ふなびと
)
は、
244
『あゝ
冠島
(
をしま
)
さまが
見
(
み
)
えました』
245
と
叫
(
さけ
)
んだ
時
(
とき
)
の
一同
(
いちどう
)
の
嬉
(
うれ
)
しさは、
246
沖
(
おき
)
の
鴎
(
かもめ
)
のそれならで、
247
飛立
(
とびた
)
つ
許
(
ばか
)
り、
248
竜神
(
りうじん
)
が
天
(
てん
)
に
昇
(
のぼ
)
るの
時
(
とき
)
を
得
(
え
)
たる
喜
(
よろこ
)
びも
斯
(
か
)
くやあらむと
思
(
おも
)
はれ、
249
得
(
え
)
も
言
(
い
)
はれぬ
爽快
(
さうくわい
)
の
念
(
ねん
)
にうたれた。
250
暫
(
しばら
)
くあつて
東
(
ひがし
)
の
空
(
そら
)
は
燦然
(
さんぜん
)
として
茜
(
あかね
)
さし、
251
若狭
(
わかさ
)
の
山
(
やま
)
の
上
(
うへ
)
より、
252
黄金
(
こがね
)
の
玉
(
たま
)
をかかげたる
如
(
ごと
)
く、
253
天津
(
あまつ
)
日
(
ひ
)
の
神
(
かみ
)
は
豊栄昇
(
とよさかのぼ
)
りに
輝
(
かがや
)
き
玉
(
たま
)
ひ、
254
早
(
はや
)
くも
冠島
(
をしま
)
は
手
(
て
)
に
取
(
と
)
る
許
(
ばか
)
り、
255
目
(
め
)
の
前
(
まへ
)
に
塞
(
ふさ
)
がり、
256
囀
(
さへづ
)
る
百鳥
(
ももどり
)
の
声
(
こゑ
)
は
百千万
(
ひやくせんまん
)
の
楽隊
(
がくたい
)
の
一斉
(
いつせい
)
に
楽
(
がく
)
を
奏
(
そう
)
したるかと
疑
(
うたが
)
はるる
計
(
ばか
)
りであつた。
257
かの
昔語
(
むかしがたり
)
にとく
所
(
ところ
)
の
浦島子
(
うらしまし
)
が
亀
(
かめ
)
に
乗
(
の
)
つて、
258
竜宮
(
りうぐう
)
に
往
(
ゆ
)
き、
259
乙姫
(
おとひめ
)
様
(
さま
)
に
玉手箱
(
たまてばこ
)
を
授
(
さづ
)
かつて
持
(
も
)
ち
帰
(
かへ
)
つたと
伝
(
つた
)
ふる
竜宮島
(
りうぐうじま
)
も、
260
安部
(
あべ
)
の
童子丸
(
どうしまる
)
がいろいろの
神宝
(
しんぽう
)
や
妙術
(
めうじゆつ
)
を
授
(
さづ
)
けられたといふ
竜宮島
(
りうぐうじま
)
も
亦
(
また
)
、
261
古事記
(
こじき
)
などに
記載
(
きさい
)
せられたる
彦
(
ひこ
)
火々出見
(
ほほでみの
)
命
(
みこと
)
が
塩土
(
しほつち
)
の
翁
(
おきな
)
に
教
(
をし
)
へられて、
262
海
(
うみ
)
に
落
(
お
)
ちたる
釣針
(
つりばり
)
を
捜
(
さが
)
し
出
(
だ
)
さむと
渡
(
わた
)
りましたる
海神
(
わだつみ
)
の
宮
(
みや
)
も
皆
(
みな
)
此
(
この
)
冠島
(
をしま
)
なりと
云
(
い
)
ひ
伝
(
つた
)
ふる
丈
(
だけ
)
あつて、
263
どこともなく、
264
神仙
(
しんせん
)
の
境
(
きやう
)
に
進
(
すす
)
み
入
(
い
)
つたる
思
(
おも
)
ひが
浮
(
う
)
かんで
来
(
き
)
た。
265
正像末
(
しやうざうまつ
)
和讃
(
わさん
)
にも
266
末法
(
まつぽふ
)
五濁
(
ごじよく
)
の
有情
(
うじやう
)
の
行証
(
ぎやうしよう
)
叶
(
かな
)
はぬ
時
(
とき
)
なれば、
267
釈迦
(
しやか
)
の
遺法
(
ゆゐはふ
)
悉
(
ことごと
)
く
竜宮
(
りうぐう
)
に
入
(
い
)
り
玉
(
たま
)
ひにき。
268
正像末
(
しやうざうまつ
)
の
三
(
さん
)
時
(
じ
)
には
弥陀
(
みだ
)
の
本願
(
ほんぐわん
)
広
(
ひろ
)
まれり、
269
澆季
(
げうき
)
末法
(
まつぽふ
)
の
此
(
この
)
世
(
よ
)
には
諸善
(
しよぜん
)
竜宮
(
りうぐう
)
に
入
(
い
)
り
玉
(
たま
)
ふ
270
とあるを
見
(
み
)
れば
仏教家
(
ぶつけうか
)
も
亦
(
また
)
非常
(
ひじやう
)
に
竜宮
(
りうぐう
)
を
有難
(
ありがた
)
がつて
居
(
ゐ
)
るらしい、
271
かかる
目出
(
めで
)
たき
蓬莱島
(
ほうらいじま
)
へ
恙
(
つつが
)
なく
舟
(
ふね
)
は
着
(
つ
)
いた。
272
翠樹
(
すいじゆ
)
鬱蒼
(
うつさう
)
たる
華表
(
とりゐ
)
の
傍
(
かたはら
)
、
273
老松
(
らうしよう
)
特
(
とく
)
に
秀
(
ひい
)
でて
雲梯
(
うんてい
)
の
如
(
ごと
)
く
幹
(
みき
)
のまわり
三丈
(
さんぢやう
)
にも
余
(
あま
)
る
名木
(
めいぼく
)
の
桑
(
くは
)
の
木
(
き
)
は
冠島山
(
をしまやま
)
の
頂
(
いただき
)
に
立
(
た
)
ち
聳
(
そび
)
え、
274
幾十万
(
いくじふまん
)
の
諸鳥
(
もろとり
)
の
声
(
こゑ
)
は
教祖
(
けうそ
)
の
一行
(
いつかう
)
を
歓迎
(
くわんげい
)
するが
如
(
ごと
)
くに
思
(
おも
)
はれた。
275
実
(
じつ
)
に
竜宮
(
りうぐう
)
の
名
(
な
)
に
負
(
お
)
ふ
山海
(
さんかい
)
明媚
(
めいび
)
、
276
風光
(
ふうくわう
)
絶佳
(
ぜつか
)
の
勝地
(
しようち
)
である。
277
教祖
(
けうそ
)
は
上陸
(
じやうりく
)
早々
(
さうさう
)
、
278
波打際
(
なみうちぎは
)
に
御禊
(
みそぎ
)
された。
279
一同
(
いちどう
)
も
之
(
これ
)
に
倣
(
なら
)
うて
御禊
(
みそぎ
)
をなし、
280
神威
(
しんゐ
)
赫々
(
かくかく
)
たる
老人島
(
おいとじま
)
神社
(
じんじや
)
の
神前
(
しんぜん
)
に
静
(
しづ
)
かに
進
(
すす
)
みて、
281
蹲踞
(
そんきよ
)
敬拝
(
けいはい
)
し、
282
綾部
(
あやべ
)
より
調理
(
てうり
)
し
来
(
きた
)
れる、
283
山
(
やま
)
の
物
(
もの
)
川
(
かは
)
の
魚
(
うを
)
うまし
物
(
もの
)
くさぐさを
献
(
たてまつ
)
り、
284
治国平
(
ちこくへい
)
天下
(
てんか
)
安民
(
あんみん
)
の
祈願
(
きぐわん
)
をこらす、
285
祝詞
(
のりと
)
の
声
(
こゑ
)
は
九天
(
きうてん
)
に
達
(
たつ
)
し、
286
拍手
(
はくしゆ
)
の
声
(
こゑ
)
は
六合
(
りくがふ
)
を
清
(
きよ
)
むる
思
(
おも
)
ひがあつた。
287
これにて
先
(
ま
)
づ
冠島
(
をしま
)
詣
(
まう
)
での
目的
(
もくてき
)
は
達
(
たつ
)
し、
288
帰路
(
きろ
)
は
波
(
なみ
)
もしづかに
九日
(
ここのか
)
の
夕方
(
ゆふがた
)
、
289
舞鶴港
(
まひづるかう
)
の
大丹生
(
おほにふ
)
屋
(
や
)
に
立帰
(
たちかへ
)
り、
290
翌
(
あく
)
十日
(
とをか
)
又
(
また
)
もや
徒歩
(
とほ
)
にて、
291
数多
(
あまた
)
の
信者
(
しんじや
)
に
迎
(
むか
)
へられ、
292
目出度
(
めでた
)
く
綾部
(
あやべ
)
本宮
(
ほんぐう
)
に
帰
(
かへ
)
ることを
得
(
え
)
たのである。
293
あゝ
惟神
(
かむながら
)
霊
(
たま
)
幸倍
(
ちはへ
)
坐世
(
ませ
)
。
294
(
大正一一・一〇・一七
旧八・二七
松村真澄
録)
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【第13章 冠島|第38巻|舎身活躍|霊界物語|/rm3813】
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