霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第二一章 (すご)権幕(けんまく)〔一〇五八〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第38巻 舎身活躍 丑の巻 篇:第5篇 正信妄信 よみ(新仮名遣い):せいしんぼうしん
章:第21章 凄い権幕 よみ(新仮名遣い):すごいけんまく 通し章番号:1058
口述日:1922(大正11)年10月18日(旧08月28日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1924(大正13)年4月3日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
明治三十七年になると日露戦争が勃発した。四方平蔵、中村竹蔵などお筆先を信じきっている連中の鼻息がにわかに荒くなってきた。
喜楽が古事記を研究したり霊界の消息を書いていると、中村竹蔵がやってきて、喜楽が角文字などを書いて改心しないから、神業が遅れているのだと難癖をつけてきた。
そして、喜楽の肉体はご神業に必要だけれども、喜楽に取り憑いている小松林命が悪さをしているのだ、と言って、三方から怒鳴りたてて攻め立てる。
そこへ福島久子もやってきた。四方平蔵は、福島久子にも加勢を頼もうとしていたので、喜楽は便所へ行く風をして裏口から逃げ出し、大槻鹿造宅へ逃げ込んだ。
鹿造はかくまってくれ、福島や中村や四方が来たら、牛肉のにおいで往生させてやったら面白いだろうと、店から上等の肉を持ってきて煮て食い始めた。
中村竹蔵が喜楽を探しに鹿造宅にやってくると、鹿造夫婦は中村をからかって、牛肉を勧めはじめた。中村は憤慨して、喜楽を引っ張ろうとするので、自分は牛肉を三百目一人で食ったとからかった。
中村は躍起となり、悪い身霊の因縁だと鹿造夫婦をけなした。鹿造は怒って中村に拳骨をくれる。中村は、酒呑童子の霊など恐れるもものか、と言いながら帰ってしまった。
綾部にいてはうるさいというので、園部の支部長がやってきたので、日暮れ頃から園部に行って隠れて布教をしていた。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる] 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2022-11-09 07:30:49 OBC :rm3821
愛善世界社版:217頁 八幡書店版:第7輯 240頁 修補版: 校定版:221頁 普及版:116頁 初版: ページ備考:
001 明治(めいぢ)卅七(さんじふしち)(ねん)になつてから、002日露(にちろ)戦争(せんそう)勃発(ぼつぱつ)したので、003ソロソロ四方(しかた)平蔵(へいざう)004中村(なかむら)竹造(たけざう)005村上(むらかみ)房之助(ふさのすけ)006木下(きのした)慶太郎(けいたらう)007田中(たなか)善吉(ぜんきち)008本田(ほんだ)作次郎(さくじらう)009小島(こじま)寅吉(とらきち)010安田(やすだ)荘次郎(しやうじらう)011四方(しかた)与平(よへい)012塩見(しほみ)じゆん、013などの連中(れんちう)(にはか)鼻息(はないき)(あら)くなり、014六畳(ろくでふ)(はな)れに喜楽(きらく)()()められ、015(かく)れて古事記(こじき)調(しら)べたり、016霊界(れいかい)消息(せうそく)()いてゐると、017中村(なかむら)竹造(たけざう)二三(にさん)(にん)役員(やくゐん)(とも)大手(おほで)をふつてやつて()た。018そして喜楽(きらく)(むか)ひ、
019中村(なかむら)会長(くわいちやう)サン如何(どう)です、020大望(たいまう)(はじ)まつたぢやありませぬか、021(はや)改心(かいしん)をなさらぬと、022今年中(こんねんぢう)世界(せかい)丸潰(まるつぶ)れになりますぞ、023露国(ろこく)から(はじ)まりてもう一戦(ひといくさ)があるとお筆先(ふでさき)()()りますだないか、024ヘンこれでも筆先(ふでさき)がちがひますかな、025霊学(れいがく)三分(さんぶ)筆先(ふでさき)七分(しちぶ)にせいと、026筆先(ふでさき)()()るのに、027一寸(ちよつと)筆先(ふでさき)をおよみにならぬから、028露国(ろこく)から(いくさ)(はじま)つても(なに)(わか)りますまいがな、029この(さき)はどうなるといふ(こと)御存(ごぞん)じですか、030(はや)教祖(けうそ)さまにお(わび)をなされ』
031威丈高(ゐたけだか)になつて、032説諭(せつゆ)するやうな気分(きぶん)(しやべ)(たて)た。033丁度(ちやうど)宣戦(せんせん)詔勅(せうちよく)(くだ)つた三日目(みつかめ)である。034そこで喜楽(きらく)自分(じぶん)随筆(ずいひつ)(だい)した一冊(いつさつ)書物(しよもつ)()して、035中村(なかむら)(しめ)し、
036喜楽(きらく)『そんな(こと)はとうから(わか)つてゐるのだ、037これを()てくれ、038明治(めいぢ)卅五(さんじふご)(ねん)(いち)(ぐわつ)にチヤンと明治(めいぢ)卅七(さんじふしち)(ねん)()(ぐわつ)から日露(にちろ)戦争(せんそう)(おこ)るといふ(こと)自分(じぶん)(ふで)でかいてある』
039とそこを(ひろ)げてつき()して()せると、040中村(なかむら)(めう)(かほ)をして、
041中村(なかむら)『そんな角文字(かくもじ)をまぜて、042外国(ぐわいこく)身魂(みたま)何程(なにほど)()いても、043そんな(こと)はここでは通用(つうよう)しませぬ、044()にも()らぬ(がく)のない神力(しんりき)ばかりの教祖(けうそ)のお筆先(ふでさき)(たつと)いのです』
045()(はな)をこすつた(やう)に、046冷笑(れいせう)(てき)()ふ。047そこで喜楽(きらく)は、
048喜楽(きらく)『お(まへ)明治(めいぢ)卅三(さんじふさん)(ねん)にも今年(こんねん)日露(にちろ)戦争(せんそう)(おこ)るといひ、049三十四(さんじふよ)(ねん)にも三十五(さんじふご)(ねん)にも毎年(まいねん)050今年(ことし)日露(にちろ)戦争(せんそう)(おこ)る、051立替(たてかへ)(はじ)まる、052()(はな)もあかぬ(こと)出来(でき)るというて()つたぢやないか、053そんな予言(よげん)でもしまひには(あた)るもんだ』
054といふと中村(なかむら)威丈高(ゐたけだか)になり、
055中村(なかむら)(わたくし)自分(じぶん)()ふたのではない、056勿体(もつたい)なくも(うしとらの)大金神(だいこんじん)変性(へんじやう)男子(なんし)出口(でぐち)(かみ)さまのお筆先(ふでさき)に……今年(こんねん)立替(たてかへ)(はじ)まる、057露国(ろこく)との(たたか)ひがある……と(あら)はれて()るので、058さういふたのです、059つまり会長(くわいちやう)サンは教祖(けうそ)ハンの仰有(おつしや)つた(こと)(かみ)さまの()(ことば)をこなすのですか、060あなたの()改心(かいしん)(おく)れた(ため)()仕組(しぐみ)がおくれたので御座(ござ)いますぞ。061会長(くわいちやう)サンが明治(めいぢ)卅三(さんじふさん)(ねん)改心(かいしん)出来(でき)()つたら、062(かみ)さまは三十三(さんじふさん)(ねん)立替(たてかへ)をなさるなり、063三十四(さんじふよ)(ねん)改心(かいしん)出来(でき)()つたら、064ヤツパリ三十四(さんじふよ)(ねん)立替(たてかへ)(あそ)ばす()仕組(しぐみ)にチヤンと三千年(さんぜんねん)(まへ)から()まつて()ります、065自分(じぶん)改心(かいしん)がおくれて(かみ)さまに()迷惑(めいわく)をかけ、066()仕組(しぐみ)()ばして、067世界(せかい)人民(じんみん)(くる)しめておき(なが)ら、068(かみ)さまがウソを()ふたよに仰有(おつしや)るのですか、069そんな(こと)仰有(おつしや)ると、070綾部(あやべ)には()つて(もら)へませぬ、071(なん)というても露国(ろこく)日本(にほん)との戦争(せんそう)(はじ)まつたのですから、072きつと日本(にほん)九分(くぶ)()りんまで、073サア(かな)はぬといふ(ところ)まで(ゆき)ますぞ、074そうなつた(ところ)綾部(あやべ)大本(おほもと)から(うしとらの)金神(こんじん)変性(へんじやう)男子(なんし)身魂(みたま)大出口(おほでぐち)(かみ)(あらは)れて、075(とど)めをさして三千(さんぜん)世界(せかい)をうでくり(かへ)し、076天下(てんか)太平(たいへい)()(おさ)めて、077(あと)五六七(みろく)()(まつ)()(あそ)ばすのですから、078(はや)改心(かいしん)をして(もら)はぬと、079仕組(しぐみ)邪魔(じやま)になりますぞや、080三千(さんぜん)世界(せかい)立替(たてかへ)立直(たてなほ)しの御用(ごよう)邪魔(じやま)(いた)した(もの)は、081万劫(まんご)末代(まつだい)()きのこして、082()せしめに(いた)して(その)身魂(みたま)()(くに)(そこ)(くに)へおとすぞよ………と(かみ)さまがお筆先(ふでさき)にお(しめ)しになつて()りますぞや、083会長(くわいちやう)サンの改心(かいしん)(いち)(にち)(おく)れたら世界(せかい)人民(じんみん)(いち)(にち)余計(よけい)(くる)しむといふ、084あんたの身魂(みたま)極悪(ごくあく)身魂(みたま)因縁(いんねん)性来(しやうらい)だから、085何事(なにごと)改心(かいしん)一等(いつとう)ぞやとお(ふで)()()ますぞえ』
086脱線(だつせん)だらけの(こと)()(なら)べて()()てる。087会長(くわいちやう)可笑(おか)しさをこらへて、
088喜楽(きらく)自分(じぶん)(いち)(にち)(はや)改心(かいしん)した(ため)三千(さんぜん)世界(せかい)人間(にんげん)(いち)(にち)(はや)(たす)かるといふよな、089(ぜん)にもせよ(あく)にもせよ、090そんな人物(じんぶつ)なら結構(けつこう)だが、091自分(じぶん)()一人(ひとり)如何(どう)なつた(ところ)で、092世界(せかい)(たい)して(なん)関係(くわんけい)があるものか、093(あま)(わけ)(わか)らぬ(こと)()ふもんぢやない、094そんな(こと)()ふから、095綾部(あやべ)大本(おほもと)は、096気違(きちがひ)巣窟(さうくつ)だとか、097迷信家(めいしんか)寄合(よりあひ)だとか、098世界(せかい)から悪罵(あくば)されて、099はねのけ(もの)にされるのだ、100チツとは(かんが)へて(もら)はぬと(こま)るぢやないか』
101()へば中村(なかむら)(くち)をとがらし、
102中村(なかむら)『おだまりなされ海潮(かいてう)サン何程(なにほど)うまく()けても駄目(だめ)です。103世間(せけん)から(わる)くいはれるのがそれ(ほど)()にかかりますかな、104(なん)()(ちひ)さい先生(せんせい)ですな、105それだから変性(へんじやう)女子(によし)反対役(はんたいやく)だと(かみ)さまが仰有(おつしや)るのだ、106世界中(せかいぢう)(みな)(くも)つて昼中(ひるなか)提灯(ちやうちん)()つて(ある)かなならぬ(くら)がりの()(なか)になつてゐるのぢやから、107世界(せかい)人民(じんみん)にほめられるよな(をしへ)がそれが(まこと)ですかい、108トコトン(わる)くいはれてトコトンよくなる仕組(しぐみ)ですよ、109(あま)りあんたは角文字(かくもじ)外国(ぐわいこく)(をしへ)にこるから、110サツパリ(みたま)がねぢけて(しま)うて、111筆先(ふでさき)(わか)らぬのだ。112チツとお筆先(ふでさき)()きなされ』
113呶鳴(どな)りつけ(なが)ら、114(うやうや)しく三宝(さんぱう)にのせて()七八冊(しちはつさつ)筆先(ふでさき)をよみ(はじ)()した。
115 喜楽(きらく)(あたま)(いた)くなつて()て、116気分(きぶん)(わる)くて仕方(しかた)がない。117そこで、
118喜楽(きらく)(その)筆先(ふでさき)なら(なん)べんも()いて()るから、119()かして(もら)はいでもよい、120(なに)もかも()つてゐる』
121というや(いな)や、
122中村(なかむら)『コラツ小松林(こまつばやし)123筆先(ふでさき)(くる)しいか、124サア(これ)からお筆先(ふでさき)(ぜめ)にして退()かしてやろ、125サア(はや)小松林(こまつばやし)126(この)筆先(ふでさき)()いて、127トツトと会長(くわいちやう)サンの肉体(にくたい)立去(たちさ)れ、128そして(その)(あと)変性(へんじやう)女子(によし)身魂(みたま)(ひつじさる)金神(こんじん)さまがお(しづ)まり(あそ)ばすのだ、129会長(くわいちやう)サンの肉体(にくたい)は、130貴様(きさま)のよな四足(よつあし)這入(はい)肉体(にくたい)だないぞ、131コラ退()かぬか』
132呶鳴(どな)りつける。133村上(むらかみ)四方(しかた)平蔵(へいざう)(そば)から、
134村上(むらかみ)『コラ小松林(こまつばやし)135(なに)愚図(ぐづ)々々(ぐづ)してゐるのだ、136(はや)会長(くわいちやう)肉体(にくたい)飛出(とびだ)して、137園部(そのべ)内藤(ないとう)へしづまらぬか、138(あく)(みたま)(ねん)()きだぞ』
139三方(さんぱう)から()めかける。140四方(しかた)平蔵(へいざう)(くち)(とが)らして、
141四方(しかた)『コレ小松林(こまつばやし)サン、142(まへ)サンもよい加減(かげん)改心(かいしん)をなさつたら如何(どう)どすか、143(まへ)サンの改心(かいしん)出来(でき)(ため)に、144教祖(けうそ)さまが()るに()られぬ苦労(くらう)をなされて(ござ)るなり、145役員(やくゐん)信者(しんじや)日々(にちにち)心配(しんぱい)をいたし世界(せかい)人民(じんみん)大変(たいへん)(くる)しんで()るぢやないか、146サア(はや)駿河(するが)稲荷(いなり)(かへ)りなさい、147ここは稲荷(いなり)のよな下郎(げらう)()(ところ)ぢや(ござ)いませぬぞや、148水晶魂(すゐしやうだま)(まこと)生粋(きつすゐ)身魂(みたま)(ばか)(あつ)まつて御用(ごよう)(いた)竜門館(りうもんやかた)高天原(たかあまはら)(ござ)いますぞや』
149 ウンウンと()(くん)で、150三方(さんぱう)から鎮魂(ちんこん)をする、151どうにも()うにも仕方(しかた)がないので、152会長(くわいちやう)は、
153喜楽(きらく)『そんなら仕方(しかた)がないから、154小松林(こまつばやし)今日(けふ)(かぎ)り、155いんで(しま)ふ、156そして(ひつじさる)金神(こんじん)さまに(あと)這入(はい)つて(もら)うて御用(ごよう)をして(もら)ひませう』
157といふと、158竹造(たけざう)が、
159中村(なかむら)『コレ平蔵(へいざう)サン、160用心(ようじん)しなされや、161(また)園部(そのべ)のよにだまされるかも()れませぬで。162悪神(あくがみ)といふ(やつ)何処(どこ)までもしぶとい(やつ)だから、163ウツカリしとると馬鹿(ばか)にしられますで。164本当(ほんたう)小松林(こまつばやし)改心(かいしん)しとるのだない、165偉相(えらさう)(わら)うて()るぢやありませぬか、166コラ小松林(こまつばやし)167そんな(うま)(こと)(ぬか)して、168会長(くわいちやう)肉体(にくたい)使(つか)はうと(おも)つても、169(この)中村(なかむら)承知(しようち)をせぬぞ、170サア(なん)証拠(しようこ)()せ、171いよいよ会長(くわいちやう)肉体(にくたい)(はな)れたといふ(こと)(あきら)かに(しめ)して、172教祖(けうそ)にお(わび)(いた)さぬと、173どこまでも(ゆる)さぬのだ。174モウ()うなつた以上(いじやう)三日(みつか)かかつても、175十日(とをか)かかつても、176会長(くわいちやう)肉体(にくたい)から(はう)()さなおかぬのだい』
177四股(しこ)をふんで雄健(をたけ)びをする、178千言(せんげん)万語(ばんご)(つく)して(さと)せば(さと)(ほど)反対(はんたい)にとり、179どうにも、180かうにも始末(しまつ)がつかぬやうになつて()た。181そこへ八木(やぎ)から福島(ふくしま)久子(ひさこ)がやつて()て、182教祖(けうそ)さまに挨拶(あいさつ)をし、183(をは)つて(あは)ただしく喜楽(きらく)(まへ)(きた)り、
184久子(ひさこ)(なん)とマア平蔵(へいざう)サン、185筆先(ふでさき)(おそ)()つたもので(ござ)いますな。186とうとう露国(ろこく)戦争(せんそう)(おこ)つたぢやおへんか、187まだ会長(くわいちやう)サンは()改心(かいしん)出来(でき)ませぬのかい』
188中村(なかむら)『コレはコレは福島(ふくしま)ハンどすか、189よう()(くだ)さつた、190(かみ)さまのお筆先(ふでさき)(おそ)()つたもんどすな、191こんな()大望(たいまう)(はじま)つて()るのに、192まだ小松林(こまつばやし)頑張(ぐわんば)つて、193会長(くわいちやう)サンの肉体(にくたい)(はな)れぬので、194(いま)(みな)役員(やくゐん)がよつて説諭(せつゆ)をしとるのどすが、195中々(なかなか)渋太(しぶと)うて()いてくれませぬワ、196どうぞあんたも(ひと)()うてきかして(くだ)さいな』
197福島(ふくしま)弁舌家(べんぜつか)応援(おうゑん)をさせようとかかつてゐる。198(また)こんな(くち)(やかま)しい(をんな)にとつつかまつては大変(たいへん)だと(おも)ひ、199便所(べんじよ)()くやうな(かほ)して、200ソツと裏口(うらぐち)から飛出(とびだ)し、201西町(にしまち)大槻(おほつき)鹿造(しかざう)(たく)一目散(いちもくさん)(にげ)()つた。
202 大槻(おほつき)鹿造(しかざう)とお(よね)サンとの二人(ふたり)喜楽(きらく)(はし)つて()つたのを()て、
203大槻(おほつき)会長(くわいちやう)サン、204(また)喧嘩(けんくわ)(はじ)まつたのかな』
205(わら)うてゐる。
206喜楽(きらく)八木(やぎ)福島(ふくしま)(いま)やつて()よつたので、207うるさいから()げて()たのだ』
208といふと大槻(おほつき)鹿造(しかざう)は、
209大槻(おほつき)『アハヽヽ(また)(れい)小松林(こまつばやし)サンかな、210まアここに久子(ひさこ)八木(やぎ)(かへ)(まで)211ゆつくり(とま)りなさい。212新宮(しんぐう)()アさまも()アさまだ、213立替(たてかへ)だの立直(たてなほ)しだのと、214第一(だいいち)それが(わたし)()()はぬのだ、215大槻(おほつき)鹿造(しかざう)大江山(おほえやま)酒呑(しゆてん)童子(どうじ)のみたまだなんて、216()アさまが()かすので、217何奴(どいつ)此奴(こいつ)(ひと)(おに)(あつか)ひにしやがつて、218むかつくのむかつかぬのつて、219(ほか)(ばば)アぢやつたら、220(この)鹿造(しかざう)承知(しようち)をせぬのだけれど、221(なん)()うてもお(よね)伝吉(でんきち)母親(ははおや)なりするもんだから、222辛抱(しんばう)してゐるのだ、223本当(ほんたう)にトボケ人足(にんそく)(ばか)(あつ)まつたもんぢや、224それよりも牛肉(ぎうにく)でもここでたいて()ひなさい、225(いづ)久子(ひさこ)平蔵(へいざう)中村(なかむら)(さが)しに()るに(ちがひ)ないから、226牛肉(ぎうにく)(にほひ)往生(わうじやう)さしてやるのも面白(おもしろ)かろ』
227(さいは)牛肉屋(ぎうにくや)開業(かいげふ)してゐるので、228(みせ)から三百目(さんびやくめ)目は匁(もんめ)の略。300匁≒1125gほど上等(じやうとう)()つて()て、229(うら)(はな)れでグヅグヅと()いて()(はじ)めた。230そこへ中村(なかむら)が、
231中村(なかむら)大槻(おほつき)サン、232会長(くわいちやう)サンはもしやここへ()えては()りませぬかな』
233裏口(うらぐち)(はう)から(たづ)ねて()る。234鹿造(しかざう)はチツと(みみ)(とほ)いので、235明瞬(はつきり)(わか)らなんだが、236(よね)サンが、
237(よね)中村(なかむら)ハンか、238マア這入(はい)つて牛肉(ぎうにく)でも()ひなさい、239(いま)会長(くわいちやう)牛肉(ぎうにく)をすすめて()はしてる(ところ)ぢや、240(かし)()団子(だんご)()つたり、241(いも)()のお(かゆ)()つとるより、242余程(よつぽど)()がきいてるで、243ここは大江山(おほえやま)酒呑(しゆてん)童子(どうじ)(じや)との因縁(いんねん)身魂(みたま)夫婦(ふうふ)(ところ)鬼三郎(おにさぶらう)ハンが()()るのだから、244みたま相応(さうおう)牛肉(ぎうにく)()()るのだから、245(まへ)もチと(おに)仲間入(なかまいり)したらどうぢや』
246揶揄(からか)うてゐる。247中村(なかむら)(はな)をつまみ(なが)ら、248(かほ)しかめて這入(はい)つて()て、
249中村(なかむら)御免(ごめん)なはれ、250大槻(おほつき)サン、251あんたは教祖(けうそ)ハンの()総領娘(そうりやうむすめ)女房(にようばう)()つたり、252結構(けつこう)(おん)()(もら)うて()(なが)会長(くわいちやう)サンにそんな(こと)(すす)めて()みますか、253()(あし)()はしたり、254(あんま)りぢやおへんか』
255不足(ふそく)らしく呶鳴(どな)つてゐる。256鹿造(しかざう)(わら)(なが)ら、
257大槻(おほつき)(いま)()(なか)(いち)(にち)でも(うま)(もの)()て、258()きな(こと)をするのが(かしこ)いのぢや、259(まへ)もチと改心(かいしん)して牛肉(ぎうにく)でも()て、260元気(げんき)をつけ、261古物商(こぶつしやう)でもやつて金儲(かねまう)けをし、262立派(りつぱ)着物(きもの)()(うま)いものでも()つたらどうだ、263何程(なにほど)(ぜん)ぢや(ぜん)ぢやというてお(まへ)()一人(ひとり)(ぐらゐ)がしやちんなつても、264(たれ)相手(あひて)にする(もの)がないぞ、265会長(くわいちやう)サンは流石(さすが)()(わか)つとるワ、266(この)時節(じせつ)四足(よつあし)(にく)()へぬの(なん)のと、267そんな馬鹿(ばか)(こと)をいふ(やつ)がどこにあるものか、268余程(よつぽど)よい阿呆(あはう)だなア』
269とからかひ半分(はんぶん)呶鳴(どな)つてゐる。270(よね)サンは(また)(よね)サンで、
271(よね)『コレ中村(なかむら)ハン、272(まへ)播磨屋(はりまや)(たけ)ハンというて、273随分(ずゐぶん)博奕(ばくち)もうち、274(をんな)(こしら)へ、275(にく)もドツサリ()(をとこ)ぢやが、276さう(にはか)(かみ)さまにならうと(おも)うたて、277到底(たうてい)()れはせぬぞえ、278あんな新宮(しんぐう)気違(きちがひ)()アさまにトボけて()らずに、279チト明日(あす)から牛肉(ぎうにく)でもかついで、280そこら()りに()つたら如何(どう)だい、281(たれ)()りにやらさうと(おも)うてる(ところ)ぢやが、282()(ゑん)がとこ()つて()ると(いち)(ゑん)(ぐらゐ)(まう)かるから、283そしたらどうだな』
284(いや)がるのを()りつつ(わざ)とにからかうてゐる。285中村(なかむら)蒼白(まつさを)(かほ)になり、
286中村(なかむら)()(かく)会長(くわいちやう)サンを(かへ)して(くだ)され、287大本(おほもと)御用(ごよう)をなさる因縁(いんねん)身魂(みたま)だから、288こんな(ところ)()(もら)ふと、289だんだんに身魂(みたま)(くも)つて仕方(しかた)がないと教祖(けうそ)さまが仰有(おつしや)りました、290サア会長(くわいちやう)サン(はや)()にませう』
291引張(ひつぱ)らうとする。292会長(くわいちやう)は、
293喜楽(きらく)『コレ中村(なかむら)はん、294最前(さいぜん)から牛肉(ぎうにく)三百目(さんびやくめ)かけて(もら)うて一人(ひとり)()つて(しま)うた、295これは小松林(こまつばやし)()たのだから、296これから(ひつじさる)金神(こんじん)さまに三百目(さんびやくめ)(ほど)(そな)へしてから()ぬから、297教祖(けうそ)ハンや、298(ひさ)ハンや、299平蔵(へいざう)サンに(よろ)しうというといてくれ』
300とワザとに劫腹(ごうはら)()つので、301からかうてみると中村(なかむら)躍気(やくき)となり、
302中村(なかむら)『どうも身魂(みたま)因縁(いんねん)といふものは仕方(しかた)のないもんぢやな、303(あく)(れい)(ところ)へはヤツパリ(あく)がよりたがると()えます』
304といふのを聞咎(ききとが)めて、305鹿造(しかざう)は、
306大槻(おほつき)『コレ中村(なかむら)307おれを(おに)とは(なん)だ、308貴様(きさま)三文(さんもん)(そん)をかけた(こと)もなし、309貴様(きさま)()(あく)といはれる(すぢ)があるか』
310といふより(はや)く、311(ふた)()つポカポカと拳骨(げんこつ)をくれた。312中村(なかむら)は、
313中村(なかむら)『ナアに大和(やまと)(だましひ)生粋(きつすゐ)の、314おれは身魂(みたま)だから、315酒呑(しゆてん)童子(どうじ)(れい)(ぐらゐ)(おそ)れるものか』
316()(なが)らスタスタと新宮(しんぐう)さして(かへ)つて(しま)つた。317さうかうして()(ところ)へ、318園部(そのべ)浅井(あさゐ)みのといふ支部長(しぶちやう)がやつて()て、319それから此処(ここ)にグヅグヅして()つては(また)うるさいといふので、320(よね)サンに何事(なにごと)(たの)んでおき、321()(くれ)(ごろ)から、322園部(そのべ)()つて(かく)れて布教(ふけう)することになつた。
323大正一一・一〇・一八 旧八・二八 松村真澄録)
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