霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一三章 神(かみ)の述懐歌(じゆつくわいか)(一)〔一八四四〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第73巻 天祥地瑞 子の巻 篇:第1篇 紫微天界 よみ(新仮名遣い):しびてんかい
章:第13章 神の述懐歌(一) よみ(新仮名遣い):かみのじゅつかいか 通し章番号:1844
口述日:1933(昭和8)年10月11日(旧08月22日) 口述場所:水明閣 筆録者:森良仁 校正日: 校正場所: 初版発行日:1933(昭和8)年11月22日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
太元顕津男の神は、御霊を月界にとどめ、肉体は高地秀の宮に仕えて神の経綸を遂行していたが、厳の御霊の教えを誤って信じた凡神は、種々あらぬことを言いふらして顕津男の神を力限りに妨げた。
太元顕津男の神は高地秀の峰に登り、自分が救おうとしている神々から救いの業を妨げられ、大神の経綸を果たせないでいる苦悶の心を、述懐の歌に歌った。
また顕津男の神に仕える八十柱の比女神たちも、いたずらに時を過ごし老い去り、その間にも世はますます曇りすさんで、天界も邪神のために収拾がつかない状態になってしまった。
顕津男の神に側近く仕える八柱の比女神たちもまた、顕津男の神に対しての述懐を三十一文字の歌に歌い、顕津男と歌を交わした。
寿々子比女、朝香比女、宇都子比女、梅咲比女、花子比女らは、凡神らの妨げによって顕津男の神との契りがずっとできないでいることを嘆き、顕津男を責めながらも、顕津男の神への思慕の念を歌い、妨害を打ち破るよう顕津男を励ます。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:0000-00-00 00:00:00 文字数:4044 OBC :rm7313
愛善世界社版: 八幡書店版:第13輯 56頁 修補版: 校定版:94頁 普及版: 初版: ページ備考:
001 太元(おほもと)顕津男(あきつを)の神(かみ)は太陰(たいいん)を機関(きくわん)として、002御霊(みたま)を月界(げつかい)に止(とど)めて其(その)肉体(にくたい)は高地秀(たかちほ)の宮(みや)に朝(あさ)な夕(ゆふ)なに仕(つか)へまし、003神(かみ)の経綸(しぐみ)を行(おこな)はむとして、004彼方(かなた)此方(こなた)に教司(をしへつかさ)を分配(まくば)りて天界(てんかい)の経綸(けいりん)に仕(つか)へ奉(まつ)れども、005厳(いづ)の御霊(みたま)の御教(みをしへ)を誤信(ごしん)せる凡神(ぼんしん)は個神的(こしんてき)小乗教(せうじやうけう)に傾(かたむ)く神(かみ)のみ多(おほ)くして、006国生(くにう)み神生(かみう)みなる天界(てんかい)経綸(けいりん)の御(ご)神業(しんげふ)を悟(さと)らず、007種々(しゆじゆ)のあらぬことのみ言(い)ひ触(ふ)らして力限(ちからかぎ)りに妨(さまた)ぐるぞ是非(ぜひ)もなき。008太元(おほもと)顕津男(あきつを)の神(かみ)は高地秀(たかちほ)の峰(みね)に登(のぼ)らせ給(たま)ひ、009天(てん)を拝(はい)し地(ち)を拝(はい)し述懐(じゆつくわい)を謡(うた)ひ給(たま)ふ。
010『主(ス)の神(かみ)の依(よ)さしはおろそかならねども
011手(て)を下(くだ)すべき余地(よち)もなきかな
012国(くに)を生(う)み神生(かみう)み万(よろづ)のものを生(う)む
013我(わが)神業(かむわざ)は果(はた)し得(え)ざるか
014主(ス)の神(かみ)の神宣(みこと)畏(かしこ)し国魂(くにたま)の
015神(かみ)生(う)まばやと思(おも)ふ朝夕(あさゆふ)
016我(われ)にして怪(あや)しき心(こころ)持(も)たねども
017百神(ももがみ)達(たち)はわが道(みち)なみする
018ゆとりなき心(こころ)を持(も)てる凡神(ただがみ)の
019醜(しこ)のささやき由々(ゆゆ)しかりけり
020凡神(ただがみ)の心(こころ)に従(したが)ふ我(われ)なれば
021妨(さまた)げらるることもあるまじ
022凡神(ただがみ)の心(こころ)に叶(かな)へば主(ス)の神(かみ)の
023神慮(しんりよ)に合(あ)はず我(われ)如何(いか)にせむ
024主(ス)の神(かみ)の大経綸(だいけいりん)を知(し)らずして
025我(われ)を悪(あ)しさまに言(い)ふぞうたてき
026主(ス)の神(かみ)の心(こころ)は深(ふか)く又(また)広(ひろ)し
027小(ちひ)さき神(かみ)の如何(いか)で悟(さと)らむ
028凡神(ただがみ)は浜(はま)の真砂(まさご)の数(かず)の如(ごと)
029多(おほ)く居坐(ゐま)せば詮術(せんすべ)もなし
030主(ス)の神(かみ)の御心(みこころ)覚(さと)る敏(さと)き神(かみ)
031少(すくな)き神世(みよ)の経綸(しぐみ)は苦(くる)し
032遠近(をちこち)に御樋代(みひしろ)神(がみ)は配(くば)りあれど
033相見(あひみ)むよしも無(な)き身(み)なりけり
034いすくはし神(かみ)を生(う)まむと朝(あさ)な夕(ゆふ)な
035願(ねが)ひしこともあだとなりぬる
036主(ス)の神(かみ)の造(つく)り給(たま)ひし天界(てんかい)の
037清明(せいめい)真悟(しんご)の神(かみ)ぞすくなき
038主(ス)の神(かみ)の依(よ)さしを如何(いか)に果(はた)さむと
039我(われ)は久(ひさ)しく艱(なや)みけるかな
040皇神(すめかみ)の依(よ)さし給(たま)ひしくはし女(め)も
041又(また)さかし女(め)もあはむすべなし
042御依(みよ)さしに反(そむ)くと思(おも)へど天界(てんかい)の
043乱(みだ)れ思(おも)ひてためらふ我(われ)なり』
044 主(ス)の神(かみ)が顕津男(あきつを)の神(かみ)に天界(てんかい)経綸(けいりん)の為(た)め授(さづ)け給(たま)ひし八十(やそ)の比女神(ひめがみ)は、045徒(いたづ)らに神命(しんめい)を待(ま)ちつつ長(なが)き年月(としつき)を経給(へたま)ひにける。046とりわけ側近(そばちか)く仕(つか)へ奉(まつ)れる八柱(やはしら)の比女神(ひめがみ)も、047凡神(ぼんしん)の囁(ささや)き余(あま)り強(つよ)きに怖(お)ぢ給(たま)ひて空(むな)しく神業(みわざ)を放棄(はうき)し、048只時(ただとき)の到(いた)るを待(ま)ち給(たま)ふのみ。049終(つひ)には老(お)い去(さ)り給(たま)ひて神業(みわざ)を果(はた)し得(え)ず、050世(よ)は益々(ますます)曇(くも)らひ荒(すさ)びて、051さしもの天界(てんかい)も日(ひ)に月(つき)に邪神(じやしん)蔓延(まんえん)し、052収拾(しうしふ)すべからざるに至(いた)れるこそ是非(ぜひ)なけれ。
053 顕津男(あきつを)の神(かみ)は大(だい)勇猛心(ゆうまうしん)を発揮(はつき)し、054其(その)神業(みわざ)を敢行(かんかう)せむと、055村肝(むらきも)の心(こころ)の駒(こま)を立直(たてなお)し給(たま)ひしこと幾度(いくたび)なりしか、056されど終(つひ)には百神(ももがみ)の雄猛(をたけ)びに妨(さまた)げられて、057遂行(すゐかう)し給(たま)はざりしこそ永劫(えいごふ)の遺憾(ゐかん)なりける。058八柱(やはしら)の御側(みそば)近(ちか)く仕(つか)へ奉(まつ)る比女神(ひめがみ)は、059顕津男(あきつを)の神(かみ)に対(たい)し述懐(じゆつくわい)を述(の)べ給(たま)ふ。060其(そ)の御(おん)歌(うた)、
061『主(ス)の神(かみ)の御霊(みたま)を受(う)けし寿々子(すずこ)比女(ひめ)の
062心(こころ)しらずやあが主(ス)の岐美(きみ)は
063結(むす)ぼれし心(こころ)を解(と)かむ術(すべ)もなし
064神業(みわざ)に仕(つか)ふる暇(ひま)にしなければ
065天界(てんかい)の穢(けが)れを水(みづ)に寿々子(すずこ)比女(ひめ)
066深(ふか)き流(なが)れに落(お)ち入(い)りにける
067天界(てんかい)はさやけく広(ひろ)し曇(くも)りたる
068心(こころ)いだきて縮(ちぢ)まるべきやは
069玉(たま)の緒(を)の生命(いのち)の限(かぎ)り仕(つか)へむと
070思(おも)ふ誠(まこと)を岐美(きみ)は汲(く)まずや
071吾心(わがこころ)淋(さび)しくなりぬ朝夕(あさゆふ)を
072御側(みそば)に仕(つか)へて詮術(せんすべ)なければ
073朝夕(あさゆふ)を岐美(きみ)に仕(つか)ふる身(み)ながらも
074夢(ゆめ)うつつなる御霊(みたま)の吾(われ)なり
075夢(ゆめ)かあらず顕(うつつ)かあらず幻(まぼろし)か
076まぼろしならぬ岐美(きみ)が神姿(みすがた)
077高地秀(たかちほ)の宮(みや)に朝夕(あさゆふ)祈(いの)りつつ
078まだ吾時(わがとき)は到(いた)らざりけり
079大神(おほかみ)の依(よ)さし給(たま)ひし此(この)月日(つきひ)
080あだに過(すご)さむ身(み)こそうたてき
081主(ス)の神(かみ)の大御心(おほみこころ)を汲(く)み奉(まつ)り
082岐美(きみ)の御旨(みむね)を悟(さと)りては泣(な)く
083泣(な)くさへも自由(じいう)にならぬ吾身(わがみ)なり
084神(かみ)にある身(み)は殊更(ことさら)つらし』
085 顕津男(あきつを)の神(かみ)は、086之(これ)に答(こた)へて謡(うた)ひ給(たま)はく、
087『比女神(ひめがみ)の心(こころ)汲(く)まぬにあらねども
088時(とき)到(いた)るまで忍(しの)びて待(ま)ちませ
089吾(われ)とても木石(ぼくせき)ならぬ身(み)にしあれば
090汝(なれ)の悲(かな)しき心(こころ)は知(し)れり』
091 寿々子(すずこ)比女(ひめ)の神(かみ)は謡(うた)ひ給(たま)ふ。
092『斯(か)くならば束(つか)の間(ま)さへも忍(しの)び得(え)じ
093岐美(きみ)が心(こころ)の弱(よわ)きをかなしむ
094天地(あめつち)に憚(はばか)る事(こと)のあるべきや
095主(ス)の大神(おほかみ)の依(よ)さしなりせば』
096顕津男の神(かみ)『兎(と)も角(かく)も暫(しば)しの間(あひだ)待(ま)たれたし
097我(われ)にも春(はる)の備(そな)へありせば』
098 斯(か)く互(たがひ)に歌(うた)を取交(とりかは)し時(とき)の到(いた)るを待(ま)ち給(たま)ひぬ。099朝香(あさか)比女(ひめ)の神(かみ)も亦(また)御歌(みうた)詠(よ)まし給(たま)はく、
100『岐美(きみ)思(おも)ふ心(こころ)は暗(やみ)にあらねども
101思(おも)ひにもゆる朝香(あさか)比女(ひめ)吾(われ)は
102あさからぬ朝香(あさか)の比女(ひめ)の胸(むね)の火(ひ)を
103消(け)し止(と)め給(たま)へ瑞(みづ)の大神(おほかみ)
104朝夕(あさゆふ)を岐美(きみ)に侍(はべ)らふ朝香(あさか)比女(ひめ)の
105深(ふか)き心(こころ)を汲(く)ませ給(たま)はれ
106心(こころ)弱(よわ)き岐美(きみ)と思(おも)ひて朝香(あさか)比女(ひめ)
107朝(あさ)な夕(ゆふ)なのいきどうろしもよ
108曇(くも)りたる神(かみ)の心(こころ)を迎(むか)へます
109岐美(きみ)の心(こころ)の弱(よわ)きをかなしむ
110燃(も)えさかる炎(ほのほ)を消(け)さむ術(すべ)もなし
111幾度(いくたび)死(し)なまく思(おも)ひたりしよ
112顕津男(あきつを)の神(かみ)にいませば明(あきら)けく
113此(この)世(よ)に晴(は)れて見合(みあ)ひましませ
114一度(ひとたび)のみとのまぐはひあらずして
115忍(しの)ばるべしやは若(わか)き女(め)の身(み)に
116厳(いづ)の御霊(みたま)神(かみ)の教(をしへ)は重(おも)けれど
117あまりの堅(かた)きをうらみつつ生(い)く
118主(ス)の神(かみ)の許(ゆる)し玉(たま)ひし道(みち)なれば
119如何(いか)でためらふことのあるべき』
120 顕津男(あきつを)の神(かみ)は、121之(これ)に答(こた)へて御歌(みうた)詠(よ)ませる。
122『あさからぬ真心(まごころ)清(きよ)き朝香(あさか)比女(ひめ)
123汝(なれ)の艱(なや)みは吾(われ)も知(し)るなり
124心(こころ)弱(よわ)き我(われ)にあらねど今(いま)暫(しば)し
125真(まこと)の神(かみ)の出(い)づるまで待(ま)て
126我(われ)とても依(よ)さしの神業(みわざ)遂(と)げざるを
127朝(あさ)な夕(ゆふ)なに悲(かな)しみて居(を)り』
128 朝香(あさか)比女(ひめ)の神(かみ)は再(ふたた)び謡(うた)ひ給(たま)ふ。
129『朝夕(あさゆふ)をこめて恨(うら)みし吾(わが)心(こころ)
130朝香(あさか)の比女(ひめ)のあさましきかな
131燃(も)ゆる火(ひ)の火中(ほなか)に立(た)ちし心地(ここち)して
132朝(あさ)な夕(ゆふ)なを岐美(きみ)思(おも)ひ泣(な)く
133村肝(むらきも)の心(こころ)の誠(まこと)を岐美(きみ)の前(まへ)に
134打明(うちあ)けしこそせめてもと慰(なぐさ)む』
135 宇都子(うづこ)比女(ひめ)の神(かみ)は、136顕津男(あきつを)の神(かみ)の前(まへ)に御歌(みうた)詠(よ)まし給(たま)ふ。
137『村肝(むらきも)の心(こころ)は炎(ほのほ)に包(つつ)まれて
138つれなき岐美(きみ)を恨(うら)むのみなる
139よしやよし百神(ももがみ)如何(いか)にはかゆとも
140神(かみ)の神業(みわざ)をばはかるべしやは
141岐美(きみ)こそは比古遅(ひこぢ)にませば神(かみ)の為(た)め
142経綸(しぐみ)のために憚(はばか)り給(たま)ふな
143朝夕(あさゆふ)に御側(みそば)を近(ちか)く仕(つか)へつつ
144岐美(きみ)にまみゆることの苦(くる)しき
145宇都比女(うづひめ)が貴(うづ)の心(こころ)を明(あか)さむと
146岐美(きみ)の御前(みまへ)に言挙(ことあ)げするも
147岐美(きみ)思(おも)ふ心(こころ)の糸(いと)は百千々(ももちぢ)に
148乱(みだ)れ乱(みだ)れて解(と)くよしもなし
149御側(みそば)近(ちか)く仕(つか)へ奉(まつ)らふ身(み)ながらも
150言問(ことと)ふさへも儘(まま)ならぬ身(み)よ
151蟹(かに)が行(ゆ)く横(よこ)さの神(かみ)の言(こと)の葉(は)を
152拾(ひろ)ひ給(たま)はず吹(ふ)き捨(す)てませよ
153言霊(ことたま)の伊吹(いぶ)きの狭霧(さぎり)に醜草(しこぐさ)の
154醜(しこ)の言(こと)の葉(は)吹(ふ)き払(はら)ひませ
155御(おん)側(そば)に侍(はべ)るはつらし御(おん)側(そば)を
156離(はな)るるも憂(う)き吾(われ)なりにけり
157神業(かむわざ)の何時(いつ)果(は)つるとも知(し)らずして
158月日(つきひ)を送(おく)る吾身(わがみ)をぞ悲(かな)しき
159此(この)上(うへ)は心(こころ)の駒(こま)を立(た)て直(なほ)し
160吾(われ)にゆるせよ一夜(いちや)の契(ちぎ)りを』
161 顕津男(あきつを)の神(かみ)、162答(こた)へて謡(うた)ひ給(たま)はく、
163『手枕(たまくら)の夢(ゆめ)は夜(よ)な夜(よ)な見(み)ながらも
164逢(あ)ひ見(み)ることのあたはぬ苦(くる)しさ
165主(ス)の神(かみ)に言訳(いひわ)け立(た)たず側(そば)の女(め)に
166男(を)の甲斐(かひ)もなきわが身(み)は苦(くる)しき
167今(いま)暫(しば)し神々(かみがみ)の心(こころ)明(あ)くるまで
168時(とき)を待(ま)たせよいとほしの汝(なれ)』
169 宇都子(うづこ)比女(ひめ)の神(かみ)は再(ふたた)び謡(うた)ひ給(たま)ふ。
170『はしたなき女(をみな)の繰(く)り言(ごと)繰(く)り返(かへ)し
171岐美(きみ)なやませしことの悲(かな)しき
172恥(はづ)かしさ苦(くる)しさ面(おも)はほてれども
173得堪(えた)へ兼(か)ねつつ真心(まごころ)のべしよ
174此(この)上(うへ)は岐美(きみ)をなやます力(ちから)なし
175神(かみ)に任(まか)せて時(とき)を待(ま)たむか
176惟神(かむながら)神(かみ)の依(よ)さしのなかりせば
177かほどに吾(われ)は悩(なや)まじものを』
178 梅咲(うめさく)比女(ひめ)の神(かみ)も亦(また)述懐(じゆつくわい)の歌(うた)を述(の)べ給(たま)ふ。
179『如月(きさらぎ)の梅(うめ)咲(さ)く春(はる)に逢(あ)ひながら
180かをるすべなき現身(うつせみ)の花(はな)
181大方(おほかた)の春(はる)の陽気(やうき)の漂(ただよ)へる
182此(この)天界(てんかい)を淋(さび)しむ吾(われ)なり
183春(はる)立(た)ちて梅(うめ)咲(さ)く比女(ひめ)のあだ花(ばな)を
184岐美(きみ)はあはれと思召(おぼしめ)さずや
185天地(あめつち)も一度(いちど)に梅(うめ)咲(さ)く比女(ひめ)のわれ
186小(ちひ)さきことを如何(いか)で思(おも)はむ
187背(せ)の君(きみ)の苦(くる)しき心(こころ)を諾(うべな)ひて
188吾(われ)はもださむ春(はる)の身(み)なれど
189開(ひら)くべきよしなき花(はな)と知(し)りながら
190岐美(きみ)の恋(こひ)しくなりまさりつつ
191春(はる)立(た)ちて梅(うめ)咲(さ)く比女(ひめ)の初花(はつはな)は
192開(ひら)かむとして霜(しも)に打(う)たれつ
193雪(ゆき)も降(ふ)れ霜(しも)も霰(あられ)も降(ふ)りて来(こ)よ
194春(はる)をかかへし梅咲(うめさく)比女(ひめ)よ
195惟神(かむながら)時(とき)の到(いた)るを待(ま)たむかと
196幾度(いくど)か心(こころ)を立直(たてなほ)しつつ
197曇(くも)りたる此(こ)の世(よ)の中(なか)を照(てら)します
198岐美(きみ)の神業(みわざ)の苦(くる)しさに泣(な)く』
199 顕津男(あきつを)の神(かみ)謡(うた)ひ給(たま)ふ。
200『真心(まごころ)の君(きみ)の真言(まこと)にあひてわれ
201安(やす)くなりつつなほもかなしき
202百神(ももがみ)の醜(しこ)のたけびは恐(おそ)れねど
203乱(みだ)れ行(ゆ)く世(よ)を思(おも)ひてためらふ
204今(いま)の世(よ)に厳(いづ)の御霊(みたま)の道(みち)なくば
205わが神業(かむわざ)はやすしと思(おも)へり
206さりながら厳(いづ)の御霊(みたま)の光(ひかり)なくば
207瑞(みづ)の力(ちから)は備(そな)はらざるべし
208汝(なれ)こそは我(われ)の心(こころ)をよく知(し)れり
209我(われ)また汝(なれ)が心(こころ)をあはれむ
210ぬゑ草(くさ)の女(め)にしあれども汝(な)が心(こころ)の
211雄々(をを)しさ赤(あか)さに感謝(かんしや)の念(ねん)湧(わ)く
212今(いま)暫(しば)し待(ま)たせ給(たま)へよ汝(な)が心(こころ)に
213添(そ)はむ月日(つきひ)も無(な)きにあらねば
214朝夕(あさゆふ)に神業(みわざ)を思(おも)ふわが胸(むね)を
215覚(さと)らす公(きみ)の心(こころ)嬉(うれ)しも』
216 梅咲(うめさく)比女(ひめ)の神(かみ)は又(また)謡(うた)ひ給(たま)ふ。
217『愛恋(いとこ)やの岐美(きみ)の言霊(ことたま)耳(みみ)にして
218梅(うめ)咲(さ)く春(はる)に逢(あ)ふ心地(ここち)せし
219惟神(かむながら)岐美(きみ)の心(こころ)に任(まか)せつつ
220忍(しの)び奉(まつ)らむ幾年(いくとせ)までも
221村肝(むらきも)の心(こころ)のたけを岐美(きみ)の前(まへ)に
222今(いま)あかしたることの嬉(うれ)しき
223天界(てんかい)はよし破(やぶ)るとも愛恋(いとこ)やの
224岐美(きみ)の真言(まこと)は忘(わす)れざるべき
225主(ス)の神(かみ)の造(つく)り玉(たま)ひし天界(てんかい)にも
226朝夕(あさゆふ)かかる悩(なや)みを持(も)つも
227真清水(ましみづ)に昆虫(うじむし)のわく例(ためし)あり
228天界(てんかい)なりとてかはりあるべき』
229 花子(はなこ)比女(ひめ)の神(かみ)の歌(うた)。
230『天界(てんかい)に非時(ときじく)匂(にほ)ふ花子(はなこ)比女(ひめ)の
231花(はな)は香(か)もなく艶(つや)だにもなし
232天界(てんかい)の花(はな)と咲(さ)くべき吾身(わがみ)なり
233岐美(きみ)は何故(なにゆゑ)手折(たを)りまさずや
234花(はな)も実(み)も無(な)き岐美(きみ)かもと朝夕(あさゆふ)に
235涙(なみだ)の雨(あめ)に潤(うるほ)ふ吾(われ)なり
236よしやよし百神(ももがみ)如何(いか)に譏(そし)るとも
237躇(ためら)ふことなく手折(たを)り給(たま)はれ
238天国(てんごく)の春(はる)に逢(あ)ひたる花子(はなこ)比女(ひめ)の
239心(こころ)に時(とき)じく降(ふ)る時雨(しぐれ)かな
240玉(たま)の緒(を)の命(いのち)までもと思(おも)ひつつ
241吾(われ)は野(の)に咲(さ)く紫雲英(げんげ)の花(はな)かも
242神業(かむわざ)はただに畏(かしこ)しためらひて
243ただ徒(いたづ)らに過(すご)すべきやは
244朝夕(あさゆふ)につれ無(な)き岐美(きみ)に侍(はべ)りつつ
245神業(かむわざ)の日(ひ)を待(ま)つ身(み)はうたてき
246玉(たま)の緒(を)の命(いのち)死(し)せむと思(おも)ふまで
247胸(むね)の炎(ほのほ)は燃(も)え盛(さか)りつつ
248炎々(えんえん)と御空(みそら)をこがす火炎(くわえん)にも
249似(に)て苦(くる)しもよあつき心(こころ)は
250厳(いづ)の御霊(みたま)の神(かみ)の教(をしへ)は聞(き)きながら
251瑞(みづ)の御霊(みたま)をあはれと思(おも)へり
252大局(たいきよく)に目(め)をつけずして百神(ももがみ)は
253小(ちひ)さきことに言(こと)さやぐかも
254神界(しんかい)の大経綸(だいけいりん)を妨(さまた)ぐる
255醜(しこ)の曲神(まがかみ)打払(うちはら)ひませよ』
256 顕津男(あきつを)の神(かみ)、257答(こた)へて謡(うた)ひ給(たま)ふ。
258『愛善(あいぜん)の神(かみ)の教(をしへ)を説(と)く身(み)には
259如何(いか)ではふらむ醜(しこ)の曲霊(まがひ)を
260わが力(ちから)及(およ)ばむ限(かぎ)り説(と)き諭(さと)し
261愛(あい)と善(ぜん)とに照(てら)さむとぞ思(おも)ふ
262愛善(あいぜん)の心(こころ)しなくば我(われ)とても
263経綸(しぐみ)の神業(みわざ)ためらひはせじ
264瑞々(みづみづ)し瑞(みづ)の御霊(みたま)の神業(かむわざ)は
265一神(ひとり)も捨(す)てぬ誓(ちか)ひなりけり
266花(はな)も実(み)もある言(こと)の葉(は)にほだされて
267悲(かな)しくなりぬ汝(なれ)が真言(まこと)に』
268 花子(はなこ)比女(ひめ)の神(かみ)は又(また)謡(うた)ひ給(たま)ふ。
269『花(はな)も実(み)もある身魂(みたま)ぞと宣(の)らすこそ
270命(いのち)にかへて嬉(うれ)しかりけり
271よしやよし岐美(きみ)に逢(あ)ふ日(ひ)のあらぬとも
272吾(われ)はうらまじ歎(なげ)かじと思(おも)ふ
273曲神(まがかみ)の中(なか)に交(まじ)こり雄々(をを)しくも
274忍(しの)ばす岐美(きみ)の心(こころ)をいとしむ
275女(め)の子(こ)吾(われ)岐美(きみ)の真心(まごころ)知(し)る故(ゆゑ)に
276只(ただ)一度(ひとたび)の言挙(ことあ)げせざりき
277神業(かむわざ)を誰(たれ)はばからず勤(つと)むべき
278時(とき)を待(ま)ちつつ楽(たの)しみ暮(くら)さむ』
279(昭和八・一〇・一一 旧八・二二 於水明閣 森良仁謹録)
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