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国防と国民の覚悟

インフォメーション
題名:国防と国民の覚悟 著者:出口王仁三郎
ページ:547 目次メモ:
概要: 備考:2023/09/28校正 タグ: データ凡例: データ最終更新日:2023-09-28 03:46:18 OBC :B121805c242
初出[?]この文献の初出または底本となったと思われる文献です。[×閉じる]『昭和』昭和8年3月号
 人類一般の希望は世界の平和と幸福を企図するより(ほか)に何もない。そしてその平和と幸福を永遠に持続し、天人(てんじん)共に和楽の世界をつくらむとすれば、どうしても社会主義、道学者、既成宗教家()の唱ふる如く、武備を撤廃して(しん)の平和と幸福を()る事は未だ出来ない情勢である。
 造物主の意志は必ずしも武力を備へて平和を維持せよといふ考へではないが、ともかく人間といふものは神より余り完全に造られ、余りに自由を与へられてゐるが為に、それに増長して天地の御恩を忘れ、利己主義に走り、自己の発展のみを考へて他を(かへり)みない獣性をもつてゐる。故に(わが)皇祖は三種の神器を天下統治の大権として皇孫にお授けになつたのも(しゆ)とするものは(つるぎ)であつた。(たま)は平和を象徴し、(かがみ)は開発を象徴し、武器は大きくいへば国防、小さくいへば護身を意味してゐる。世界の各国が人文の発達につれて生存競争が烈しくなり、その個人の生存競争は拡大して一郷(いつきやう)の競争となり、一国の競争となつて来たのである。
 神国(しんこく)が完全に樹立される迄は国を守る上に(おい)て、最も武器が必要である。武器を完全に備へることは国防の第一義であり、細矛(くはしほこ)千足(ちたる)の国の名に叶ふ所以(ゆゑん)である。日本人(につぽんじん)大和(やまと)(だましひ)といふのも、(じん)もあり、()もあり、(れい)もあり、()もあり、(しん)もあるが、その中で最も(ゆう)なるものが(しゆ)となつてゐる。勇は武勇の勇であり、文字に書いても『マ男』(真男(まをとこ))と書き、男子は勇を以て立つべきである。
 特に(わが)日本(につぽん)神代(かみよ)(おい)ては渤海湾(ぼつかいわん)からゴビの沙漠より新彊(しんきやう)まで海が続き、日本海が(ほとん)ど瀬戸内海の如きもので、小舟で交通が出来たのである。それがために日本が全アジアを支配してゐたのであり、(また)蒙古の大中心にまで大きな海が(はい)りこんでをつたので気候が暖和であり、今日の如く寒冷荒涼の地ではなかつた。その時分には非常に此のアジア方面を(やく)して(しま)つてゐたから、他の国からアジア(アジアとは葦原(あしはら)の国のことで、日本を意味す)をどうすることも出来なかつたが、現在では日本海の島々が沈没して、(わづか)に壱岐、対馬、佐渡の核心(がいしん)だけが残り、津軽海峡を(へだ)てて四方(しはう)環海(くわんかい)の国なつて(しま)つたのである。それがために交通が出来なくなり、年処(ねんしよ)()るに従つてアジアの統一が出来なくなり、言語風俗(とう)(かは)つて(しま)つて、蒙古や支那のことは(わか)らなくなつて了つたのである。
 今日の日本としてはどうしても陸海軍の拡張、新式の武器、飛行機、潜水艦等の必要を感じて来た。これらの武器の完備した国が世界に独立して(はばか)らず、圧倒されず、平和と幸福を確保することが出来るのである。
 軍縮会議といふやうなものが出来て、(たがひ)に他を犯さないやうな相談が出来てゐるが、その裏面(りめん)には各国が孜々(しし)営々(えいえい)として武備の拡張を競つてゐるのであるから、日本のみが馬鹿正直に空文(くうぶん)の約束を守る必要はないだらうと思ふ。()(かく)、日本は国民皆兵の国であり、皇室を御本家として、吾々は(かしこ)くも家族と見做(みな)されてゐる国であるから、軍人でなくとも老若男女に(かかは)らず、この国防の完成に努力するのが当然である。国防といふことは、(だい)にしては国家の平和と幸福、(せう)にしては個人の平和と幸福、これを拡大すれば世界の平和幸福をもたらすことになるのである。この日本にも国防が欠けてゐたら瞬く間にどんな運命になるか(わか)らない。日本の国に武備があり、陛下の御稜威(みいづ)によつて大和魂を発揮する時は、アジアの幸福ばかりでなく、世界全体の平和と幸福を(きた)す事になるのである。この場合どれ(ほど)苦しくても貧乏しても、(わが)国民は一切を国防に傾けて、祖先の墳墓の国たる(わが)皇国のために最後まで(ちから)をそそがねばならぬ時機が到来してゐるのである。その(あと)で初めて神示の(あま)岩戸(いはと)(びら)きが出来、みろくの世即ち金輪(こんりん)聖王(せいわう)聖代(せいだい)が招来されるのである。
 又国防の充実せざる国家は豺狼(さいらう)の如き国家から侮蔑され、(あるひ)は占領され、遂には国民の生存権まで奪はれるやうなことになる。さうなれば勇壮活発なりし吾々の祖先に対し、子孫たるものの申訳(まをしわけ)ないことになり、忠孝の道が欠けて(しま)ふのである。(わが)国は忠と孝とを(もつ)て国の(をしへ)とし、安寧秩序を保ち、温厚敦樸(とんぼく)敦樸とは「正直で、いつわりかざらないこと」(広辞苑)なる風俗を続けて来たのであつて、この忠孝を(まつた)からしめるためには、国家を守るべき国防運動に全力をそそぐのが、国民たるものの一大義務と感ずるものがある。
(昭和八年三月号 昭和誌)
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