霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第七章 覚醒(かくせい)〔五〇三〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第12巻 霊主体従 亥の巻 篇:第1篇 天岩戸開(一) よみ(新仮名遣い):あまのいわとびらき(一)
章:第7章 覚醒 よみ(新仮名遣い):かくせい 通し章番号:503
口述日:1922(大正11)年03月06日(旧02月08日) 口述場所: 筆録者:谷村真友 校正日: 校正場所: 初版発行日:1922(大正11)年9月30日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
四人の宣伝使は、初公を従えてイホの都を後にし、スエズの地峡を越えて白瀬川の一の瀑布に近づいた。
春の日暮れは早く、闇の中に猛獣の声がこだましている。一同は蓑を敷いて野宿した。四人の宣伝使は疲れ果てて、雷のようないびきをかいて寝ている。
初公は猛獣の声に恐れをなして起き出し、蚊取別を起こした。蚊取別はうるさがって、恐ければ宣伝歌を歌うように、と命じてまた寝てしまった。
初公は宣伝使たちの肝の太さに呆れながら、そのまま寝てしまおうとしたが、どうしても寝られない。大蛇が魅入っているのかもしれないと恐れをなした初公は、惟神霊幸倍坐世をしきりに唱え出した。
蚊取別はその声に目を覚ましたが、また寝てしまう。初公は宣伝使たちが余りによく寝入っているので、いたずらを思いつき、四人の宣伝使を麻縄で木につないでしまった。
しかし蚊取別は初公のいたずらに気づいており、目を覚まして初公をたしなめる。二人は大笑いするが、その声に三兄弟の宣伝使たちも目を覚ます。
するとそのとき、頭上からにわかに赤い光が森林を照らす。森林の向こうには、大蛇の棲むという一の瀑布が白く光って見えている。
一同はこの突然の光に驚くが、蚊取別は日の出神の一つ火かもしれない、と推測する。果たして、五人の前に立派な神が忽然と現れた。蚊取別は日の出神と認めて平伏する。
日の出神は、一同にここは大蛇の背であり、みな大蛇にだまされていたのだ、と明かした。昨日訪問した夏山彦の館自体が大蛇の尻尾だったのであり、ご馳走と思ったのは色々なものを食わされていたのだ、と注意を促した。
日の出神は、宣伝使たちが鎮魂が利くことをに慢心して、それが原因で大蛇の計略にかかったのだ、と諭す。
日の出神の注意によってよくよく見れば、すでに大蛇は一同を背に乗せて遥か上空に上りつつあり、その尻尾も今や地上を離れようとしていた。大蛇は天空から宣伝使たちを地上に叩きつけて殺そうとしていたのである。
蚊取別は日の出神に、大蛇がこれ以上天に上らないように守りをお願いした。一同は一目散に大蛇の尻尾に向かって走り出した。
大蛇の尻尾はすでに十間ばかり地上を離れていたが、五人は手をつないで命からがら、山の上に飛び降りた。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2020-11-11 23:23:29 文字数:3154 OBC :rm1207
愛善世界社版:56頁 八幡書店版:第2輯 646頁 修補版: 校定版:58頁 普及版:24頁 初版: ページ備考:
001 四(よ)人(にん)の宣伝使(せんでんし)は初公(はつこう)を従(したが)へ、002イホの都(みやこ)を後(あと)にして七十五(しちじふご)声(せい)の言霊(ことたま)の、003スエズの地峡(ちけふ)を打渡(うちわた)り、004神(かみ)の教(をしへ)を四方(よも)の国(くに)、005青人草(あをひとぐさ)に白瀬川(しらせがは)、006一(いち)の瀑布(ばくふ)の間近(まぢか)き山(やま)に着(つ)きにけり。007只(ただ)さへ暗(くら)き春(はる)の日(ひ)は愈(いよいよ)暮(く)れて咫尺(しせき)を弁(べん)ぜぬ真(しん)の暗(やみ)なり。008虎(とら)、009狼(おほかみ)、010獅子(しし)の咆哮(ほうこう)する声(こゑ)は谿(たに)の木魂(こだま)を響(ひび)かして次第(しだい)々々(しだい)に近(ちか)づき来(きた)る。
011蚊取別(かとりわけ)『サア、012かうなつては足許(あしもと)も真暗(まつくら)がりだ。013明日(みやうにち)は大決戦(だいけつせん)をやらねばならぬから、014此(この)木蔭(こかげ)で、015ゆつくりと休息(きうそく)をして元気(げんき)を養(やしな)ふ事(こと)としようかな』
016 一同(いちどう)は首肯(うなづ)きながら暗(やみ)の木蔭(こかげ)に腰(こし)を下(おろ)し、017蓑(みの)を敷(し)きて横(よこた)はつた。018四(よ)人(にん)の宣伝使(せんでんし)は昼(ひる)の歩行(ほかう)に労疲(くたび)れて、019何(いづ)れも雷(らい)の如(ごと)き鼾(いびき)をかいて寝(ね)て居(ゐ)る。020猛獣(まうじう)の声(こゑ)はますます激(はげ)しくなつた。021初公(はつこう)は耐(たま)らず蚊取別(かとりわけ)を揺(ゆす)つて、
022初公(はつこう)『モシ蚊取別(かとりわけ)さま、023起(お)きて下(くだ)さらぬか。024だんだん変(へん)な声(こゑ)が聞(きこ)えて来(く)るから』
025蚊取別(かとりわけ)『アーア、026やかましい、027貴様(きさま)恐(こは)いのだらう。028強(つよ)さうなことを云(い)つても実地(じつち)に臨(のぞ)むと正体(しやうたい)が現(あら)はれるナア。029斯(こ)ういふ時(とき)に大声(おほごゑ)で宣伝歌(せんでんか)を歌(うた)へば好(よ)いのだよ。030しかし大(おほ)きな声(こゑ)だと俺(おれ)達(たち)の安眠(あんみん)の妨害(ばうがい)になるから、031貴様(きさま)一人(ひとり)口(くち)の中(うち)で宣伝歌(せんでんか)を歌(うた)つて居(を)れ。032足下(あしもと)に何(なに)が来(き)ても噛(か)みはしない。033八釜敷(やかまし)う言(い)ふな、034もう戌(いぬ)の刻(こく)だから』
035初公(はつこう)『偉(えら)いお邪魔(じやま)をしますなア。036マアゆつくり休(やす)んで下(くだ)さい。037アーこれからこの初(はつ)さまが宣伝歌(せんでんか)で猛獣(まうじう)の千匹(せんびき)万匹(まんびき)は、038ウンと吹(ふ)き飛(と)ばすのだ。039しかし大(おほ)きな声(こゑ)を出(だ)すなと云(い)つても、040猛獣(まうじう)の奴(やつ)短兵(たんぺい)急(きふ)に襲撃(しふげき)した時(とき)には、041力(ちから)いつぱい大声(おほごゑ)を出(だ)すからそれ丈(だ)け承知(しようち)して居(を)つてもらひます』
042蚊取別(かとりわけ)『ヨシヨシ、043承知(しようち)した。044貴様(きさま)もいい加減(かげん)に寝(やす)まぬか』
045初公(はつこう)『やすめと云(い)つたつて、046目(め)がさえて寝(やす)まれはしない』
047蚊取別(かとりわけ)『此(こ)の日(ひ)の長(なが)い夜(よる)の短(みじか)いのに、048ぐづぐづして居(を)ると夜(よ)が明(あ)ける。049マア寝(やす)まして貰(もら)はうかい』
050と又(また)もやゴロンと横(よこ)になり、051雷(らい)の如(ごと)き鼾(いびき)をかく。052猛獣(まうじう)の声(こゑ)は山岳(さんがく)も揺(ゆる)ぐ許(ばか)りに猛烈(まうれつ)になつて来(き)た。053初公(はつこう)は独言(ひとりごと)。
054初公『アヽ何(な)んと、055宣伝使(せんでんし)と云(い)ふものは肝玉(きもたま)の太(ふと)いものだなア。056向(むか)ふの瀑(たき)には大蛇(をろち)の悪魔(あくま)が居(ゐ)る、057猛獣(まうじう)が唸(うな)り立(た)ててやつて来(く)る。058それにも拘(かかは)らず、059安閑(あんかん)として高鼾(たかいびき)をかいて居(ゐ)るとは呆(あき)れたものだ。060ヤー俺(おれ)も一(ひと)つ肝(きも)を放(ほ)り出(だ)してやらう、061恐(こは)いと思(おも)ふから恐(こは)いのだ。062なーにチツト荒(あら)い風(かぜ)が吹(ふ)いて居(ゐ)ると思(おも)へばいい。063獅子(しし)でも虎(とら)でも、064狼(おほかみ)でもいくらなつと唸(うな)れ。065サヽ俺(わし)も寝(ね)よう』
066と肱(ひぢ)を枕(まくら)に横(よこた)はる。067又(また)もや初公(はつこう)は起(お)き上(あが)り、
068初公『ヤー、069どうしても寝(ね)られぬ。070何(な)んでも此奴(こいつ)は大蛇(をろち)の奴(やつ)が、071魅入(みい)れて居(ゐ)やがるのかも知(し)れぬぞ。072決心(けつしん)した以上(いじやう)は恐(こは)くも何(な)んともないから寝(ね)られぬ道理(だうり)がないのだ。073目(め)もいい加減(かげん)に疲労(くたび)れて居(を)る。074アヽ惟神(かむながら)霊(たま)幸倍(ちはへ)坐世(ませ)、075惟神(かむながら)霊(たま)幸倍(ちはへ)坐世(ませ)。076どうぞ私(わたくし)に命(いのち)が惜(をし)いと云(い)ふ執着心(しふちやくしん)から放(はな)さして下(くだ)さいませ。077惟神(かむながら)霊(たま)幸倍(ちはへ)坐世(ませ)』
078蚊取別(かとりわけ)『アヽ折角(せつかく)寝(ね)たと思(おも)へば耳(みみ)のそばで八釜敷(やかまし)う云(い)ふものだから又(また)目(め)が開(あ)いた。079早(はや)く寝(ね)ぬかい』
080と又(また)もやグレンと横(よこ)になりて高鼾(たかいびき)をかく。
081初公(はつこう)『なんと妙(めう)な男(をとこ)だ、082もう寝(ね)て了(しま)つた。083エーこの闇(やみ)の夜(よ)にアタ淋(さび)しい。084チヨツ、085ジツとして居(を)れるかい。086何(なん)ぞ其処(そこ)らに落(お)ちて居(を)らぬかなア』
087と言(い)ひながら四(よ)つ這(ば)ひになりてそこらを掻(か)き捜(さが)す。088忽(たちま)ち手(て)に触(ふ)れたのは、089麻(あさ)の縄(なは)である。
090初公『ヤアこいつは麻(あさ)の縄(なは)だ。091誰(たれ)がこんな所(ところ)に落(おと)して置(お)きよつたのか。092而(しか)も新(あたら)しい奴(やつ)だ。093オーこれで蚊取別(かとりわけ)の髪毛(かみげ)を縛(くく)り、094八方(はつぱう)に別(わ)けて木(き)に繋(つな)いで置(お)いてやらう。095余(あま)り叱(しか)りよるから業腹(ごふばら)だ』
096とそつと蚊取別(かとりわけ)の鬢髪(びんぱつ)をさぐり、
097初公『ヤーしまつた。098ハアこいつは禿蛸(はげたこ)土瓶(どびん)天窓(あたま)だ。
099 「禿頭(はげあたま)前(まへ)にとりゐはなけれども 奥(おく)にしよんぼり髪(かみ)がまします」
100か、101アヽこいつを繋(つな)いでやれ。102しかしこんなに薄(うす)い毛(け)は抜(ぬ)けると困(こま)るから、103腰(こし)のまはりをグツトしめて、104四方(しはう)八方(はつぱう)の木(き)の株(かぶ)に繋(つな)いで置(お)いてやらう。105さうしてワイワイと云(い)つて目(め)を覚(さ)ましてやると面白(おもしろ)からう。106さうなとして夜(よ)を明(あ)かさな辛抱(しんばう)も出来(でき)たものぢやないワ』
107と云(い)ひながら蚊取別(かとりわけ)の腰(こし)の廻(まは)りに縄(なは)を持(も)つて行(ゆ)く。
108初公『イヨー、109よう寝(ね)て居(ゐ)やがる。110偉(えら)さうにほざいても寝(ね)た時(とき)は、111仕様(しやう)もないものだなア。112科人(とがにん)か何(なん)ぞの様(やう)に縄付(なはつき)にせられよつて、113白河(しらかは)夜船(よぶね)を漕(こ)いで居(ゐ)る。114アヽさうだ夜船(よぶね)の綱(つな)だ』
115と腰(こし)を今(いま)や縛(しば)らむとする時(とき)、116蚊取別(かとりわけ)は
117蚊取別『ウーン』
118と寝返(ねがへ)りを打(う)つ。
119初公『ヤア、120びつくりした。121起(お)きたかと思(おも)つたら、122なんだ寝返(ねがへ)りを打(う)ちよつたのだナつ』
123 又(また)もや括(くく)らうとする。124蚊取別(かとりわけ)は、125見当(けんたう)さだめて横(よこ)つ面(つら)を、126ビシヤビシヤとなぐる。127初公(はつこう)は驚(おどろ)いて、
128初公『ナヽ何(なに)をするのだイ』
129蚊取別(かとりわけ)『悪(わる)い事(こと)は出来(でき)ぬものだな』
130初公『コイツは失敗(しま)つた。131蚊取別(かとりわけ)さま、132起(お)きて居(を)つたのか』
133蚊取別(かとりわけ)『きまつた事(こと)だよ。134一目(ひとめ)も寝(ね)はしないよ、135貴様(きさま)の独語(ひとりごと)は皆(みな)聞(き)いて居(を)る。136馬鹿(ばか)な奴(やつ)ぢやなア』
137初公(はつこう)『アハヽヽヽヽ』
138蚊取別(かとりわけ)『ワハヽヽヽヽ』
139 高光彦(たかてるひこ)は目(め)を覚(さ)まし、
140高光彦『この真夜中(まよなか)に大(おほ)きな声(こゑ)で何(なに)が可笑(をか)しいのですか』
141蚊取別(かとりわけ)『イヤもう初公(はつこう)の奴(やつ)つたら、142吾々(われわれ)の寝(ね)とる間(ま)に何処(どこ)からか縄(なは)を探(さが)して来(き)よつて、143四(よ)人(にん)の体躯(からだ)を一々(いちいち)縛(しば)つて木(き)の株(かぶ)に括(くく)りよつたのですよ。144貴方(あなた)がたも何処(どつ)か括(くく)られて居(ゐ)ませう』
145高光彦(たかてるひこ)『たとへ体躯(からだ)の二箇所(にかしよ)三箇所(さんかしよ)括(くく)られても、146自由(じいう)の精神(せいしん)は括(くく)られて居(ゐ)ないから大丈夫(だいぢやうぶ)ですよ。147アハヽヽヽ』
148と笑(わら)ふ折(をり)しも、149頭上(づじやう)俄(にはか)に赤(あか)く紅(べに)の如(ごと)くに深林(しんりん)を照(て)らすものがある。150この光(ひかり)に対岸(たいがん)の白瀬川(しらせがは)の一(いち)の瀑布(たき)は、151白竜(はくりう)の幾十(いくじふ)ともなく体(たい)を揃(そろ)へて天(てん)に昇(のぼ)り行(ゆ)く如(ごと)くに見(み)えて来(き)た。
152蚊取別(かとりわけ)『ヤア瀑(たき)が見(み)える、153大変(たいへん)猛烈(まうれつ)な光(ひかり)だ。154妖怪(えうくわい)変化(へんげ)の怪光(くわいくわう)であらうか、155イヤイヤさうではなからう。156日(ひ)の出神(でのかみ)の一(ひと)つ火(び)かも知(し)れぬ』
157と云(い)うて居(を)る其(その)前(まへ)に忽然(こつぜん)と現(あら)はれた一柱(ひとはしら)の立派(りつぱ)な神(かみ)がある。158蚊取別(かとりわけ)は一目(ひとめ)見(み)るより大地(だいち)に平伏(ひれふ)し、
159蚊取別『ヤア、160これは日(ひ)の出神(でのかみ)様(さま)、161よくもお出(いで)下(くだ)さいました。162サアもうこれで大丈夫(だいぢやうぶ)だ』
163日(ひ)の出神(でのかみ)『お前(まへ)達(たち)は此処(ここ)を何処(どこ)だと思(おも)うて居(を)るか』
164蚊取別(かとりわけ)『ハイ、165白瀬川(しらせがは)のほとり、166一(いち)の瀑布(たき)の前(まへ)だと思(おも)つて居(を)ります』
167日(ひ)の出神(でのかみ)『それは大間違(おほまちが)ひだ。168高山(かうざん)の如(ごと)く見(み)せて居(ゐ)るのは、169世界(せかい)第一(だいいち)の大蛇(をろち)の背(せな)だ、170大地(だいち)を放(はな)れて中空(ちうくう)に舞(ま)ひ上(あが)つて雲(くも)の中(なか)に這入(はい)つて居(ゐ)るのだぞ』
171蚊取別(かとりわけ)『それでも、172イホの都(みやこ)からトントンと歩(ある)いて此処(ここ)までやつて来(き)たのです。173確(たしか)に山(やま)だと思(おも)ひますが』
174日(ひ)の出神(でのかみ)『サアそれが誑(だま)されて居(ゐ)るのだ。175余(あま)り鎮魂(ちんこん)が好(よ)くきくと思(おも)つて、176知(し)らず知(し)らずの間(あひだ)に慢心(まんしん)するものだから、177こんな目(め)に逢(あ)ふのだ。178お前(まへ)が昨日(きのふ)訪問(はうもん)した夏山彦(なつやまひこ)の家(いへ)を何(な)んと思(おも)つて居(ゐ)る、179あれは大蛇(をろち)の尾(を)であつた。180その尾(を)の上(うへ)に気楽(きらく)に乗(の)せられて歌(うた)を歌(うた)つたり色々(いろいろ)のものを喰(く)はされて御(ご)馳走(ちそう)だと思(おも)つて居(ゐ)たのだ』
181 蚊取別(かとりわけ)は頭(あたま)を掻(か)きながら、
182蚊取別『ハテ、183合点(がつてん)が行(ゆ)かぬ。184何(なん)の事(こと)だ。185確(たし)かに夏山彦(なつやまひこ)の館(やかた)だつたになア』
186日(ひ)の出神(でのかみ)『それが違(ちが)ふのだ。187一寸(ちよつと)袖(そで)を目(め)にあてて覗(のぞ)いて見(み)よ』
188 蚊取別(かとりわけ)その他(た)の四(よ)人(にん)は袖(そで)を目(め)に当(あ)て、189四辺(あたり)を見(み)ればコハソモ如何(いか)に、190幾十(いくじふ)里(り)とも知(し)れぬ、191大蛇(をろち)の背(せ)に乗(の)せられ遥(はる)かに高(たか)き空中(くうちう)に舞上(まひあが)り、192其(その)尾(を)は今(いま)や地上(ちじやう)を放(はな)れむとする時(とき)である。
193蚊取別(かとりわけ)『ヤア、194コリヤ大変(たいへん)だ。195余(あま)り慢心(まんしん)して天(てん)まで上(のぼ)り詰(つ)めて、196真(ま)つ逆様(さかさま)に落(お)ちて木葉(こつぱ)微塵(みぢん)になる所(ところ)だつた。197モシモシ日(ひ)の出神(でのかみ)様(さま)、198我々(われわれ)は此(この)大蛇(をろち)の山(やま)を否(いな)背(せな)を伝(つた)うて地上(ちじやう)に降(お)ります。199これより上(うへ)に昇(のぼ)らない様(やう)に守(まも)つて下(くだ)さい』
200 日(ひ)の出神(でのかみ)は黙(だま)つて俯(うつ)むく。201一同(いちどう)は一生(いつしやう)懸命(けんめい)に大蛇(をろち)の背(せな)を走(はし)りながら地上(ちじやう)目(め)がけて降(くだ)つて行(ゆ)く。202漸(やうや)く尾(を)の端(はし)に着(つ)いた。203尾(を)は既(すで)に地上(ちじやう)を離(はな)れる事(こと)七八間(しちはちけん)、
204蚊取別(かとりわけ)『ヤア皆(みな)さま大変(たいへん)だ。205地上(ちじやう)までは七八間(しちはちけん)も距離(きより)がある。206どうしよう、207もう少(すこ)し尾(を)を下(さ)げてくれぬものかいなア。208ヤアヤア、209滅茶(めつちや)矢鱈(やたら)に尾(を)を振(ふ)り居(を)る。210ヤアヤア大蛇(をろち)に振落(ふりおと)されるわ振落(ふりおと)されるわ』
211高光彦(たかてるひこ)『だんだん高(たか)くなる一方(いつぱう)です。212また天(てん)に上(あ)げられ、213中途(ちうと)から放(ほう)られては大変(たいへん)です。214サアみな手(て)をつないで飛下(とびお)りませう。215ヤア、216もう十間(じつけん)です十間(じつけん)です。217これぢや天(てん)にもつかず、218地(ち)にもつかず、219サアサア五(ご)人(にん)は手(て)をつないだ手(て)をつないだ』
220と云(い)つた儘(まま)、221命(いのち)からがら山(やま)の頂上(いただき)目(め)がけて飛(と)び降(お)りた。
222 途端(とたん)に驚(おどろ)き霊(れい)より覚(さ)めて見(み)れば、223十四日(じふよつか)の月(つき)は高熊山(たかくまやま)の中天(ちうてん)に輝(かがや)き、224王仁(おに)の身(み)は巌窟(がんくつ)の前(まへ)に仰向(あふむ)けに倒(たふ)れ居(ゐ)たりける。
225(大正一一・三・六 旧二・八 谷村真友録)
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