霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第二五章 琴平丸(ことひらまる)〔五二一〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第12巻 霊主体従 亥の巻 篇:第3篇 天岩戸開(三) よみ(新仮名遣い):あまのいわとびらき(三)
章:第25章 琴平丸 よみ(新仮名遣い):ことひらまる 通し章番号:521
口述日:1922(大正11)年03月11日(旧02月13日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1922(大正11)年9月30日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
高光彦、玉光彦は時置師神とともに橘島を出て呉の港に上陸し、宣伝歌を歌いながら琵琶の湖のほとりまでやってきた。浪が高く、船の出港待ちで七日七夜をすごすことになった。
船客たちは無駄話にふけっている。サルジニヤ島での戦いの様は、船客たちの話にも上っていた。
この話を聞いていた石凝姥神は、厳霊と瑞霊の天の誓約が始まったことを悟り、岩戸隠れを防ぐためにアルプス山に登って八咫鏡を鍛えると言い、時置師神と行平別に別れを告げた。そして二神に、竹島へ渡って秋月姫の消息を探るようにと言い残した。
時置師神は行平別とともに船に乗り込んだ。船は凪いだ湖原を東北さして進んでゆく。
船の一方には、四五人の男たちが車座になって雑談をしている。時置師神と行平別は、その側で話に聞き入っている。
その話によると、素盞嗚命が地上の暗黒を嘆いて高天原に昇ってからは、天変地妖が各地で起こって混乱が続いた。高天原の姉神・天照大御神は、素盞嗚命が悪い心を持ってやってきたのであろうと疑い、打ち滅ぼそうとした。
素盞嗚命は釈明したが、天照大御神の疑いは晴れなかった。そこで二神は、安の河原(太平洋)をはさんで、天の真奈井(日本海)で誓約(うけひ)という御魂改めを行うのだといって、大事になっている。
また、サルジニヤ島では、武を蓄えていた素盞嗚命の娘神・深雪姫を征伐しようと、天照大御神は天菩比命に命じて進軍させたが、深雪姫は美しい瑞霊の神であることがわかって、当てがはずれて帰って行った。
琵琶の湖の竹島にも、秋月姫という瑞霊の女神が鎮まっているが、今度は天津彦根命という天菩比命の弟神が竹島征伐に出立したという。しかし、サルジニヤ島と同じように、案に相違して帰ってくるのではないか。
そもそも、それぞれの神の管掌は、天の真奈井からこちら側が素盞嗚命、天教山のある自転倒島から常世国、黄泉国、高砂島は、天照大御神となっている。しかし、姉神は地教山、コーカス山、黄金山も自分のものにしようと画策していた。
素盞嗚命は姉神に敵対することもかなわず、進退窮まって月の国に退隠しようと、高天原に昇って誓約をしているのだ、という。
誓約によって姉神の玉の威徳によって生まれた五柱の男神は、表面は女のように優しいが、心は武勇絶倫で殺戮征伐といった荒いことをする、激しい我の強い性質であった。
一方弟神は、鋭利な十握の剣の霊から生まれたのは仁慈無限の瑞霊の女神だった、という。
時置師が噂話をしていた男に、どこからそのことを聞いたのか、と尋ねると、男はなんだかにわかに頭が重くなって、突然知らないことをしゃべったのだ、と答えた。
船がしだいに竹島に近づくと、竹島は戦場の阿鼻叫喚の声に満ち、地獄の惨状のごとき光景が展開されていた。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ:サルヂニヤ島(サルヂニヤ)、熊野久須毘命(熊野樟日命) データ凡例: データ最終更新日:2021-09-22 04:00:04 文字数:4917 OBC :rm1225
愛善世界社版:207頁 八幡書店版:第2輯 702頁 修補版: 校定版:220頁 普及版:90頁 初版: ページ備考:
001 高光彦(たかてるひこ)、002玉光彦(たまてるひこ)の宣伝使(せんでんし)は時置師(ときおかしの)神(かみ)と共(とも)に橘島(たちばなじま)を立出(たちいで)て、003呉(くれ)の港(みなと)に上陸(じやうりく)し、004宣伝歌(せんでんか)を歌(うた)ひながら、005天地(てんち)暗澹(あんたん)たる大野原(おほのはら)を進(すす)み進(すす)みて琵琶(びは)の湖(うみ)の辺(ほとり)に着(つ)きぬ。006折(をり)しも浪(なみ)高(たか)く風(かぜ)烈(はげ)しく出船(でぶね)を待(ま)つこと七日(なぬか)七夜(ななよ)の久(ひさ)しきに亘(わた)り、007船客(せんきやく)は出船(でぶね)待(ま)つ間(ま)の無駄話(むだばなし)に耽(ふけ)り居(ゐ)る。
008甲(かふ)(鶴公)『随分(ずゐぶん)困(こま)つた世(よ)の中(なか)になつたものぢやないか。009この琵琶(びは)の湖(うみ)は何時(いつ)も穏(おだや)かな湖面(こめん)で、010天女(てんによ)が琵琶(びは)を弾(だん)ずる様(やう)な浪音(なみおと)を立(た)てて、011船(ふね)の往来(ゆきき)をして居(を)る安全(あんぜん)第一(だいいち)と言(い)はれた湖(うみ)だのにこの頃(ごろ)の湖(うみ)の荒(あ)れ様(やう)、012今日(けふ)で五日(いつか)も六日(むゆか)も船(ふね)が出(で)ないと云(い)ふ様(やう)な事(こと)は、013昔(むかし)からあつた事(こと)はない、014どうしたものだらう』
015乙(おつ)『定(きま)つた事(こと)だ。016天(てん)も暗(くら)く地(ち)も闇(くら)いこの頃(ごろ)、017草木(さうもく)も色(いろ)を失(うしな)ひ、018悪魔(あくま)は天下(てんか)に横行(わうかう)濶歩(くわつぽ)する常暗(とこやみ)の世(よ)の中(なか)だ。019琵琶(びは)の湖(うみ)だつてやつぱり天地(てんち)の間(あひだ)にあるのだもの、020チツト位(くらゐ)荒(あ)れるのは当然(あたりまへ)だよ。021それよりも瀬戸(せと)の海(うみ)の大戦(おほいくさ)があつた事(こと)を聞(き)いて居(を)るか』
022甲(かふ)(鶴公)『イヤ未(ま)だ聞(き)いた事(こと)はない。023どんな戦(たたかひ)があつたのだ』
024乙(おつ)『なンでも大(おほ)きな喧嘩(けんくわ)があつたと云(い)ふ事(こと)だ。025喧嘩(けんくわ)の大(おほ)きなのは戦(たたかひ)だ』
026甲(かふ)(鶴公)『そンな事(こと)言(い)つたつて、027訳(わけ)を話(はな)さな分(わか)るかい』
028乙(おつ)『分(わか)るも分(わか)らんもあるか、029戦(たたかひ)は戦(たたかひ)だ。030貴様(きさま)が何時(いつ)も女房(にようばう)と嫉妬(やきもち)喧嘩(けんくわ)をするやうなものだ。031貴様(きさま)が嬶(かかあ)の横(よこ)つ面(つら)をピシヤリと擲(なぐ)る、032嬶(かかあ)が怒(おこ)つて貴様(きさま)の腕(かいな)に咬(かぶ)り付(つ)く。033「コラ嬶(かか)、034何(なに)を為(し)やがるのだ。035放(はな)さぬか、036放(はな)さなドタマをかち割(わ)るぞ」と拳骨(げんこつ)を振(ふ)りあげる。037女房(にようばう)の奴(やつ)、038腕(うで)にかぶりついた儘(なり)で、039オンオンと泣声(なきごゑ)を出(だ)して、040「殺(ころ)すなら殺(ころ)せ、041殺(ころ)されても此(この)腕(うで)は放(はな)さぬ」と云(い)つて一悶着(ひともんちやく)をやる。042隣(となり)の八公(はちこう)が出(で)て来(き)て「コラコラ鶴公(つるこう)、043お亀(かめ)さま、044何(なに)を喧嘩(けんくわ)するのだ。045鶴(つる)は千(せん)年(ねん)亀(かめ)は万(まん)年(ねん)、046夫婦(めをと)喧嘩(げんくわ)は犬(いぬ)も喰(く)はぬ。047千(せん)年(ねん)も万(まん)年(ねん)も仲(なか)好(よ)う暮(くら)さなならぬ夫婦(ふうふ)の間柄(あひだがら)で、048何(なん)と云(い)ふ不心得(ふこころえ)な事(こと)をするのだ」と挨拶(あいさつ)に出(で)る。049さうすると鶴公(つるこう)………貴様(きさま)が「イヤ八(はつ)さま、050放(ほ)つといて下(くだ)さい。051此奴(こいつ)は虫(むし)が得心(とくしん)せぬ、052今日(けふ)限(かぎ)り暇(ひま)を遣(や)るのだ」と力味(りきみ)返(かへ)る。053貴様(きさま)の女房(にようばう)お亀(かめ)の奴(やつ)、054四這(よつばひ)になりよつて「モシモシ八(はち)さま、055何卒(どうぞ)放(ほ)つといて下(くだ)さい。056この人(ひと)には愛想(あいさう)が尽(つ)きたのだ。057酒(さけ)を喰(くら)ひ博奕(ばくち)をうつ、058すべた女(をんな)の尻(しり)を追(おひ)かける。059一寸(ちよつと)も取得(とりえ)の無(な)いガラクタ爺(おやぢ)だ。060これが幸(さいわひ)妾(わたし)は不縁(ふえん)にして貰(もら)ひます。061今(いま)は斯(か)うして別(わか)れても、062三年先(さんねんさき)には子供(こども)の二人(ふたり)も拵(こしら)へて、063立派(りつぱ)な男(をとこ)と手(て)を引(ひ)いて、064モウシモウシ鶴(つる)さまへ、065三年前(さんねんまへ)にはエライお世話(せわ)になりました。066お蔭(かげ)でこんな結構(けつこう)な夫(をつと)を持(も)ち、067立派(りつぱ)な良(よ)い児(こ)が出来(でき)ました。068阿呆(あほう)なおやぢに連添(つれそ)うて居(ゐ)ると、069妾(わたし)までが阿呆(あほう)になる。070折角(せつかく)子(こ)を生(う)むでも、071間抜(まぬけ)た面(つら)した天保銭(てんぱうせん)のやうな小忰(こせがれ)より出来(でけ)やしない。072ヨウ別(わか)れて下(くだ)さつた」と言(い)つて礼(れい)に来(く)る様(やう)なものだよ。073兎(と)も角(かく)夫婦(めをと)喧嘩(げんくわ)だといふ事(こと)だ。074イヅとかミヅとかいづもみづ臭(くさ)い、075神様(かみさん)でさへも戦(たたかひ)があつたと云(い)ふことだよ』
076甲(かふ)(鶴公)『貴様(きさま)の云(い)ふ事(こと)は、077黙(だま)つて聞(き)いて居(を)れば、078俺(おれ)ンとこの事(こと)まで、079大勢(おほぜい)の中(なか)に曝(さら)け出(だ)しよつて、080怪(け)しからぬ奴(やつ)だナ』
081乙(おつ)『それでも神島(かみじま)とか、082お亀島(かめじま)とか云(い)ふ島(しま)の喧嘩(けんくわ)だもの、083何(いづ)れ貴様(きさま)の山(やま)の神(かみ)と喧嘩(けんくわ)したことを連想(れんさう)せずには居(を)れぬぢやないかい』
084丙(へい)『貴様(きさま)等(ら)は良(い)い加減(かげん)な事(こと)を聞囓(ききかぢ)つて、085大勢(おほぜい)の中(なか)で見(み)つともない。086そンな話(はなし)を今時(いまどき)知(し)らぬ者(もの)があるかい』
087乙(おつ)『偉(えら)さうに言(い)うな、088それなら貴様(きさま)逐一(ちくいち)言(い)つてみい』
089丙(へい)『目(め)から、090鼻(はな)から、091耳(みみ)から、092口(くち)まで能(よ)う抜(ぬ)けた此(この)方(はう)だ。093何(なに)も彼(か)も透(す)き通(とほ)つた新煙管(さらぎせる)のやうな此(この)方(はう)だよ』
094鶴公(つるこう)『さらぎせるテ何(なん)だい』
095丙(へい)『よう通(とほ)つた男(をとこ)と云(い)ふ事(こと)だよ』
096鶴公(つるこう)『何(なに)を吐(ぬか)しよるのだい。097サツパリ新煙管(さらぎせる)なら、098詰(つま)らぬ男(をとこ)と言(い)ふ事(こと)だらう。099アハヽヽヽ』
100乙(おつ)『こンな新煙管(さらぎせる)に聞(き)いた所(ところ)が、101こつちが詰(つま)らぬ。102誰(たれ)か詳(くは)しい事(こと)を知(し)つて居(ゐ)る者(もの)が在(あ)りさうなものだなア』
103丁(てい)『万(まん)人(にん)の中(うち)に一人(ひとり)位(くらゐ)はあるものだよ。104掃溜(はきだめ)にも鶴(つる)が降(お)りると云(い)ふ事(こと)があるから、105併(しか)し此(この)鶴(つる)さまは嬶(かか)取(と)られの鶴(つる)さまだから例外(れいぐわい)だよ』
106丙(へい)『それなら、107その掃溜(はきだめ)の鶴(つる)と云(い)ふのは誰(たれ)のことだい』
108丁(てい)『定(きま)つた事(こと)だ、109大抵(たいてい)顔(かほ)の色(いろ)を見(み)ても分(わか)りさうなものじやないか。110口許(くちもと)の凛(りん)とした、111目(め)の涼(すず)やかな、112鼻筋(はなすぢ)の通(とほ)つた男(をとこ)だ』
113と自分(じぶん)の鼻(はな)を押(おさ)へ乍(なが)ら、
114丁(てい)『真面目(まじめ)に云(い)ふから、115真面目(まじめ)に聴(き)けよ。116抑(そもそ)もコーカス山(ざん)には大気津(おほげつ)姫(ひめの)命(みこと)と云(い)ふお尻(けつ)の大(でか)い神(かみ)様(さま)があつた。117その神(かみ)様(さま)が多数(たくさん)の八王(やつこす)とかビツコスとか云(い)ふ奴(やつ)を沢山(たくさん)寄(よ)せて、118何(なん)でも、119偉(えら)い偉(えら)い神(かみ)様(さま)を祀(まつ)つて都(みやこ)を拵(こしら)へて居(を)つた所(ところ)が、120そこへ松茸(まつたけ)とか椎茸(しひたけ)とか干瓢(かんぺう)とか何(なん)でも美味(うま)さうな名(な)のつく小便使(せうべんしい)が遣(や)つて来(き)て、121大尻姫(おほげつひめ)の尻(けつ)ぢやないが、122そこら中(ぢう)に小便(せうべん)やら糞(ばば)を放(ひつ)かけさがして、123流石(さすが)の大尻姫(おほげつひめ)も大尻(おほげつ)に帆(ほ)をかけて、124アーメニヤヘスタコラヨイヤサと逃出(にげだ)したり。125後(あと)に松茸(まつたけ)、126椎茸(しいたけ)、127干瓢(かんぺう)さまが酒(さけ)の燗(かん)を須佐之男(すさのをの)命(みこと)とか云(い)ふ、128酒(さけ)の好(すき)な神(かみ)さまを祀(まつ)り込(こ)むで、129ツル……ギとかカメとかを御(ご)神体(しんたい)にして居(を)つた。130さうして月(つき)とか鼈(すつぽん)とか、131花(はな)とか、132何(なん)ぢや六(む)つかしい女(をんな)の神(かみ)がお宮(みや)のお給仕(きふじ)を勤(つと)めて居(ゐ)たが、133世(よ)が段々(だんだん)曇(くも)つて来(き)たので、134コーカス山(ざん)も厭(いや)になつたと見(み)え、135三(さん)人(にん)の娘神(むすめがみ)は、136巨(おほ)きな大蛇(をろち)となつて、137雲(くも)を起(おこ)して天(てん)に舞上(まひあが)り、138一疋(いつぴき)の大蛇(をろち)は呉(くれ)の海(うみ)の橘島(たちばなじま)に巣(す)を構(かま)へ、139綺麗(きれい)な別嬪(べつぴん)に化(ば)けて居(を)ると云(い)ふ事(こと)、140モ一(ひと)つは此(この)琵琶(びは)の湖(うみ)の竹島(たけじま)に大蛇(をろち)となつて降(お)りて来(き)たといふ事(こと)だ。141それからモ一(ひと)つの鼈(すつぽん)とか、142雪(ゆき)とか云(い)ふ女神(めがみ)は是(これ)また白蛇(しろへび)となつて、143瀬戸(せと)の海(うみ)の一(ひと)つ島(じま)に住居(ぢうきよ)をして、144素的(すてき)な別嬪(べつぴん)と現(あら)はれ、145多数(たくさん)の家来(けらい)を連(つ)れて住(す)むで居(を)つた。146そこへ天教山(てんけうざん)から変性(へんじやう)男子(なんし)のお使(つかひ)で、147天菩比(あめのほひの)命(みこと)とやらが、148ドツサリと強(つよ)そな家来(けらい)を連(つ)れて、149サルヂニヤの嶋(しま)を攻(せ)め囲(かこ)み、150火(ひ)をつけて焼滅(やきほろぼ)して了(しま)つたさうだ。151ナント偉(えら)い事(こと)が出来(でけ)たものじやないか』
152鶴公(つるこう)『馬鹿(ばか)云(い)ふな、153サルヂニヤは喧嘩(けんくわ)ぢやない、154男(をとこ)の方(はう)は喧嘩腰(けんくわごし)で、155乱暴(らんばう)な事(こと)を行(や)りよつたが、156女神(めがみ)の方(はう)は沢山(たくさん)な御(ご)馳走(ちそう)を拵(こしら)へて、157これはこれはよう来(き)て下(くだ)さいました。158何(なに)も御座(ござ)いませぬがお酒(さけ)なつと充分(じうぶん)に召(め)しあがれと云(い)つて、159相手(あひて)にならなかつたのだ。160一方(いつぱう)が相手(あひて)にならねば喧嘩(けんくわ)ぢやない』
161丁(てい)『理窟(りくつ)を言(い)ふな、162それでも半分(はんぶん)喧嘩(けんくわ)だ』
163鶴公(つるこう)『男(をとこ)が多数(たくさん)の家来(けらい)を連(つ)れて、164女(をんな)に喧嘩(けんくわ)を吹(ふ)きかけに往(い)つても、165一方(いつぱう)が相手(あひて)にならねば間(ま)の抜(ぬ)けたものだ。166暖簾(のれん)と腕押(うでお)しするやうなもので、167力(ちから)の抜(ぬ)けた事(こと)だらう』
168 斯(か)く話(はな)す傍(かたはら)に、169目(め)を塞(ふさ)いで静(しづか)に聴(き)いて居(ゐ)た石凝姥(いしこりどめの)神(かみ)は、
170石凝姥神『オー、171是(これ)は大変(たいへん)だ、172道聴(だうちやう)途説(とせつ)とは言(い)ひ乍(なが)ら匹夫(ひつぷ)の言(げん)にも信(しん)ずべき事(こと)ありだ。173いよいよ厳霊(いづのみたま)と瑞霊(みづのみたま)の誓約(うけひ)が始(はじ)まつたらしい、174まさか違(ちが)へば天(あま)の岩戸(いはと)隠(がく)れにならうも知(し)れない。175ヤア時置師(ときおかしの)神(かみ)殿(どの)、176行平別(ゆきひらわけ)殿(どの)、177此処(ここ)でお別(わか)れ申(まを)す。178我(われ)は是(これ)よりアルプス山(さん)に上(のぼ)り日(ひ)の像(ざう)の八咫鏡(やあたかがみ)を鍛(う)たねばならぬ。179天(あめ)の目一箇(まひとつの)神(かみ)も大方(おほかた)出(で)かけて居(ゐ)るであらう。180貴神(きしん)は是(これ)より竹島(たけじま)に渡(わた)つて、181秋月姫(あきづきひめ)の安否(あんぴ)を探(さぐ)り給(たま)へ。182さらば……』
183と云(い)ひ棄(す)てて、184雲(くも)を霞(かすみ)とアルプス山(ざん)目蒐(めが)けて進(すす)み行(ゆ)く。
185時置師(ときおかし)『ヤア、186石凝姥(いしこりどめ)の宣伝使(せんでんし)も、187重大(ぢゆうだい)な使命(しめい)を帯(お)びて居(を)られるのだから仕方(しかた)がない。188何(なん)だか此処(ここ)で別(わか)れるのは、189物(もの)足(た)らぬ様(やう)だが、190これも御(ご)神業(しんげふ)の一部(いちぶ)と思(おも)へば結構(けつこう)だ。191サア初(はつ)さま、192船(ふね)が出(で)さうだ、193船(ふね)の中(なか)で又(また)ゆつくりと話(はな)さうかい』
194と云(い)ひ乍(なが)ら船(ふね)に向(むか)つて進(すす)み行(ゆ)く。195百(ひやく)数十(すうじふ)人(にん)の乗客(じやうきやく)は、196先(さき)を争(あらそ)うて琴平丸(ことひらまる)に乗込(のりこ)んだ。197船(ふね)は真帆(まほ)に風(かぜ)を孕(はら)ませ乍(なが)ら、198凪(な)ぎ渡(わた)つたる湖原(うなばら)を、199船底(せんてい)に浪(なみ)の琴(こと)を弾(だん)じつつ、200東北(とうほく)指(さ)して一目散(いちもくさん)に辷(すべ)り行(ゆ)く。
201 船(ふね)の一方(いつぱう)に座(ざ)を占(し)めたる小賢(こざか)しき四五(しご)人(にん)の男(をとこ)、202車座(くるまざ)になつて四方(よも)八方(やま)の話(はなし)に耽(ふけ)つて居(ゐ)る。203時置師(ときおかし)、204行平別(ゆきひらわけ)の宣伝使(せんでんし)も何喰(なにく)はぬ顔(かほ)にて、205その傍(そば)に雑談(ざつだん)を聴(き)き居(ゐ)たり。
206甲(かふ)『この間(あひだ)もあまり世(よ)の中(なか)が悪(わる)くなつて治(をさ)まらぬと云(い)ふので、207善(い)い神(かみ)様(さま)は皆(みな)天(てん)に上(のぼ)り、208竜宮(りうぐう)に集(あつ)まり、209地上(ちじやう)は魔神(まがみ)計(ばか)りの暗黒界(あんこくかい)、210どうする事(こと)も出来(でき)なくなつたと云(い)つて、211コーカス山(ざん)の素盞嗚(すさのをの)尊(みこと)様(さま)が高天原(たかあまはら)とかへ、212お越(こ)し遊(あそ)ばしてからと云(い)ふものは、213彼方(あちら)にも此方(こちら)にも、214地震(ぢしん)が揺(ゆ)る、215海嘯(つなみ)が起(おこ)る、216悪(わる)い病(やまひ)は蔓延(まんえん)する、217河(かは)は干(ひ)る、218草木(くさき)は枯(か)れる五穀(ごこく)は実(みの)らず、219大変(たいへん)な事(こと)になつて来(き)た。220そこで天(てん)の高天原(たかあまはら)の撞(つき)の御柱(みはしら)の神(かみ)様(さま)が、221素盞嗚(すさのをの)尊(みこと)様(さま)に何(なん)でも悪(わる)い心(こころ)があるとか言(い)つて、222大変(たいへん)御(ご)立腹(りつぷく)なされ、223弓矢(ゆみや)を用意(ようい)し、224剣(つるぎ)や鉾(ほこ)を設(ま)け備(そな)へて、225素盞嗚(すさのをの)尊(みこと)様(さま)を討滅(うちほろぼ)さうとなさつたさうだ。226そこで、227素盞嗚(すさのをの)神(かみ)さまは「私(わたし)は決(けつ)して決(けつ)してその様(やう)な汚穢(きたな)い卑劣(さも)しい心(こころ)は持(も)ちませぬ。228モウ此(この)地(ち)の上(うへ)が厭(いや)になりましたから、229母神(ははがみ)の御座(ござ)る月(つき)の国(くに)へ帰(かへ)りたい。230それ迄(まで)に姉神(あねがみ)様(さま)に一目(ひとめ)お目(め)に掛(かか)りたさに来(き)たのだ」と仰有(おつしや)つても、231姉神(あねがみ)様(さま)はお疑(うたがひ)が深(ふか)うて、232容易(ようい)に納得(なつとく)遊(あそ)ばさず、233たうとう、234安(やす)の河原(かはら)(太平洋(たいへいやう))を中(なか)において、235天(あめ)の真名井(まなゐ)(日本海(にほんかい))に霊審判(みたまあらため)とか誓約(うけひ)とか遊(あそ)ばすので、236此(この)頃(ごろ)は大変(たいへん)な事(こと)だ。237サルヂニヤの一(ひと)つ島(じま)に、238素盞嗚(すさのをの)尊(みこと)様(さま)の瑞霊(みづのみたま)の一柱(ひとはしら)、239深雪姫(みゆきひめ)様(さま)が多紀理(たぎり)姫(ひめの)神(かみ)となりて、240この世(よ)の為(ため)に神(かみ)様(さま)をお斎(まつ)り遊(あそ)ばして御座(ござ)つた所(ところ)が、241姉神(あねがみ)様(さま)はこれを疑(うたが)ひ、242自分(じぶん)の御珠(みたま)に感(かん)じてお生(うま)れになつた天菩比(あめのほひの)命(みこと)とか云(い)ふ血染(ちぞめ)焼尽(せうじん)の神(かみ)様(さま)を遣(つか)はして、243全島(ぜんたう)を焼滅(やきほろ)ぼし、244最後(さいご)になつて、245深雪姫(みゆきひめ)様(さま)は案(あん)に相違(さうゐ)の美(うつく)しき瑞霊(みづのみたま)の神(かみ)様(さま)であつたと云(い)ふ事(こと)が分(わか)り、246アフンとして帰(かへ)られたといふ事(こと)だ。247この湖(うみ)の竹(たけ)の島(しま)にも、248秋月姫(あきづきひめ)と言(い)ふ瑞霊(みづのみたま)の中(なか)の一人(ひとり)の綺麗(きれい)な神(かみ)様(さま)が鎮(しづ)まつて居(ゐ)られるのを今度(こんど)は天津彦根(あまつひこねの)命(みこと)と云(い)ふ、249菩比(ほひの)命(みこと)の弟神(おとうとがみ)が現(あら)はれて、250竹(たけ)の島(しま)の宮殿(きうでん)を破壊(はくわい)したり、251人民(じんみん)を悪者(わるもの)と見做(みな)し、252虱殺(しらみごろし)に屠(ほふ)り殺(ころ)すと云(い)つて行(い)かれたさうだ。253又(また)サルヂニヤの深雪姫(みゆきひめ)様(さま)のやうに柔(やはら)かく出(で)られて、254アフンとして帰(かへ)られるだらう』
255乙(おつ)『それは妙(めう)な事(こと)だなア、256神(かみ)様(さま)でもそンな酷(ひど)い喧嘩(けんくわ)をなさるのか。257さうすれば我々(われわれ)が夫婦(ふうふ)喧嘩(げんくわ)をするのは当然(あたりまへ)だなア。258一体(いつたい)この辺(へん)は何(ど)の神(かみ)様(さま)がお守護(かま)ひ遊(あそ)ばすのだ』
259甲(かふ)『きまつた事(こと)だよ。260天(あめ)の真名井(まなゐ)から此方(こつち)の大陸(たいりく)は残(のこ)らず、261素盞嗚(すさのをの)尊(みこと)の御(ご)支配(しはい)、262天教山(てんけうざん)の自転倒(おのころ)島(じま)から常世国(とこよのくに)、263黄泉島(よもつじま)、264高砂島(たかさごじま)は姉神(あねがみ)様(さま)がお構(かまひ)になつて居(ゐ)るのだ。265それにも拘(かかは)らず、266姉神(あねがみ)様(さま)は地教山(ちけうざん)も、267黄金山(わうごんざん)も、268コーカス山(ざん)も全部(みんな)自分(じぶん)のものにしようと遊(あそ)ばして、269種々(いろいろ)と画策(くわくさく)をめぐらされるんだから、270弟神(おとうとがみ)様(さま)も姉(あね)に敵対(てきたい)もならず、271進退(しんたい)維(こ)れ谷(きは)まつて此(この)地(ち)の上(うへ)を棄(す)てて月(つき)の世界(せかい)へ行(ゆ)かうと遊(あそ)ばし、272高天原(たかあまはら)に上(のぼ)られて、273今(いま)や誓約(うけひ)とかの最中(さいちう)ださうぢや。274姉神(あねがみ)様(さま)の方(はう)には、275珠(たま)の御徳(みとく)から現(あら)はれた立派(りつぱ)な五柱(いつはしら)の吾勝(あかつの)命(みこと)、276天菩比(あめのほひの)命(みこと)、277天津彦根(あまつひこねの)命(みこと)、278活津(いくつ)彦根(ひこねの)命(みこと)、279熊野(くまの)久須毘(くすびの)命(みこと)といふ、280それはそれは表面(うはべ)は美(うつく)しい女(をんな)の様(やう)な優(やさ)しい神(かみ)様(さま)で、281心(こころ)は武勇(ぶゆう)絶倫(ぜつりん)、282勇猛(ゆうまう)突進(とつしん)、283殺戮(さつりく)征伐(せいばつ)等(とう)の荒(あら)い事(こと)を為(な)さる神(かみ)様(さま)が現(あら)はれて、284善(ぜん)と悪(あく)との立別(たてわけ)を、285天(あめ)の真名井(まなゐ)で御霊(みたま)審判(しらべ)をして御座(ござ)る最中(さいちう)だと云(い)ふ事(こと)ぢや、286姉神(あねがみ)様(さま)は玉(たま)の如(ごと)く玲瓏(れいろう)として透(す)き通(とほ)り愛(あい)の女神(めがみ)の様(やう)だが、287その肝腎(かんじん)の御霊(みたま)から現(あら)はれた神(かみ)様(さま)は、288変性(へんじやう)男子(なんし)の霊(みたま)で、289随分(ずゐぶん)烈(はげ)しい我(が)の強(つよ)い神(かみ)さまだと云(い)ふ事(こと)だ。290弟神(おとうとがみ)様(さま)の方(はう)は、291見(み)るも恐(おそ)ろしい鋭利(えいり)な十握(とつか)の剣(つるぎ)の霊(みたま)からお生(うま)れになつたのだが、292仁慈(じんじ)無限(むげん)の女神(めがみ)様(さま)で、293瑞霊(みづのみたま)といふ事(こと)だ。294此処(ここ)で天(あめ)の安河原(やすかはら)を中(なか)に置(お)いて、295真名井(まなゐ)の水(みづ)に其(その)玉(たま)と剣(つるぎ)をふり滌(すす)いで善悪(ぜんあく)の立別(たてわ)けが出来(でけ)ると云(い)ふ事(こと)だよ。296それだから、297三五教(あななひけう)が昔(むかし)から、298「神(かみ)が表(おもて)に現(あら)はれて善(ぜん)と悪(あく)とを立別(たてわ)ける、299此(この)世(よ)を造(つく)りし神直日(かむなほひ)」とかナンとか言(い)つて居(ゐ)るのだ』
300時置師(ときおかし)『一寸(ちよつと)皆(みな)さまにお尋(たづ)ね致(いた)しますが、301御(ご)姉弟(きやうだい)の神(かみ)様(さま)が、302誓約(うけひ)なさると云(い)ふ事(こと)は、303何処(どこ)でお聞(きき)になりましたか』
304甲(かふ)『イヤどこでも聞(き)きませぬ、305何(なん)だか最前(さいぜん)から頭(あたま)が重(おも)くなつたと思(おも)へば知(し)らず識(し)らずに、306私(わたくし)の口(くち)からあンな事(こと)を喋(しやべ)つたのですよ。307怪体(けたい)な事(こと)があればあるものですなア』
308乙(おつ)『オイ貴様(きさま)。309現(げん)に貴様(きさま)の口(くち)から云(い)つたぢやないか。310何(なん)だ、311しらじらしい。312とぼけよつて、313正直(しやうぢき)な貴様(きさま)に似合(にあ)はぬ、314何故(なぜ)そンな無責任(むせきにん)な事(こと)を言(い)ふのだ』
315甲(かふ)『それだと言(い)つて仕方(しかた)がないわ。316俺(おれ)の心(こころ)にもない事(こと)を言(い)ふのだもの……』
317丙(へい)『モシモシお客(きやく)さま、318此奴(こいつ)はこの頃(ごろ)の陽気(やうき)で、319どうかして居(を)ります。320何申(なにまを)すか分(わか)りませぬから、321どうぞ取上(とりあ)げて下(くだ)さいますな』
322時置師(ときおかし)『イヤ結構(けつこう)です、323大変(たいへん)に参考(さんかう)になりました。324全(まつた)く此(この)方(かた)が言(い)はれたのでありますまい、325神(かみ)様(さま)の我々(われわれ)に対(たい)するお示(しめ)しでせう』
326丙(へい)『ヘーン、327貴方(あなた)も一寸(ちよつと)、328云(い)うと済(す)まぬが、329どうかして居(ゐ)やしませぬか。330こンな気違(きちがひ)の言(い)ふ事(こと)を一(いち)も二(に)もなく鵜呑(うのみ)にして、331あまり軽卒(けいそつ)ではありますまいか』
332甲(かふ)『わしは秋月姫(あきづきひめ)命(みこと)の使神(ししん)である。333その方(はう)は我(わが)言葉(ことば)を気違(きちがひ)と申(まを)したが、334尤(もつと)もだ。335汝(なんぢ)はウラル教(けう)の間諜(まはしもの)だから、336我(わが)直言(ちよくげん)がきつく耳(みみ)に障(さは)ると見(み)えるワイ』
337丙(へい)『コラ、338何(なに)を呆(とぼ)けよるのだ、339良(よ)い加減(かげん)に馬鹿(ばか)な真似(まね)をしておけ』
340 斯(か)く話(はな)す折(をり)しも、341船(ふね)はチクチクと竹(たけ)の島(しま)に近(ちか)づき居(ゐ)る。342忽(たちま)ち起(おこ)る矢叫(やさけ)びの声(こゑ)、343鬨(とき)の声(こゑ)、344阿鼻(あび)叫喚(けうくわん)、345地獄(ぢごく)の惨状(さんじやう)を見(み)るが如(ごと)き、346竹島(たけしま)の磯端(いそばた)に激烈(げきれつ)なる惨劇(さんげき)が演(えん)ぜられつつある光景(くわうけい)、347手(て)に取(と)る如(ごと)く見(み)え来(き)たる。
348(大正一一・三・一一 旧二・一三 松村真澄録)
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