霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第二六章 秋月(しうげつ)皎々(かうかう)〔五二二〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第12巻 霊主体従 亥の巻 篇:第3篇 天岩戸開(三) よみ(新仮名遣い):あまのいわとびらき(三)
章:第26章 秋月皎々 よみ(新仮名遣い):しゅうげつこうこう 通し章番号:522
口述日:1922(大正11)年03月11日(旧02月13日) 口述場所: 筆録者:北村隆光 校正日: 校正場所: 初版発行日:1922(大正11)年9月30日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
十握剣の分霊である秋月姫は、高倉別を高楼に登らせ、防戦の合図の鼓を打たせた。竜山別は敵の正体を認めようと馬に乗って偵察に出た。
合図の鼓で集まってきた館の人数は、わずかに四十八人であった。高倉別は到底敵の大軍を防ぐことができないことを悟り、一同に呉竹の宮の前で祝詞と宣伝歌を唱えさせた。
秋月姫は高殿に登り、寄せ来る敵に向かって祝詞を唱えると、宣伝歌を歌いかけた。高倉別は秋月姫に戦況を報告し、敵軍が撞の御柱大神の御子・天津彦根神に率いられていることを告げた。
そして、敵軍による島人たちの殺戮と、見方の劣勢を報告すると、その場で自害をしようとした。そこへ竜山別が飛んできて、短刀を叩き落した。竜山別に諭されて、自分の不甲斐なさを悔いた高倉別は、秋月姫のいる高殿に登り、共に神に祈願をこらそうと登って行った。
天津彦根神が秋月姫の館に迫り来ると、奥殿の高殿から一弦琴の荘厳な音とさわやかな天津祝詞が聞こえてきた。天津彦根神は祝詞の声に茫然とし、にわかに武具を投げ捨てると、共に神言を奏上し始めた。
兵士たちは将軍のこの挙動を見て驚いたが、ともに武具を投げ捨て、端座して神言を奏上し始めた。
時置師神、行平別神は神軍の後方から、宣伝歌を歌い、面白おかしく舞った。秋月姫が高倉別、竜山別を従えて現われ、しとやかに歌い舞った。神々は敵味方なく、手拍子足拍子を揃えて踊り狂った。
このとき天上の黒雲は晴れ、日がこうこうと輝き始めた。素盞嗚命の疑いはまったく晴れ、天津彦根神は天教山に凱旋して行った。
時置師神、行平別神は伊吹の狭霧を施し、殺された島人を再生させ、負傷者を治して回った。また天の数歌を歌って焼けた林を元の青々とした山に戻した。
高光彦の神も密かにこの島に上陸しており、森林の中に身を潜めて、天の数歌を歌ってこの惨状を平和に鎮めた。秋月姫は高光彦と夫婦となり、この島に留まって神業に従事した。
また、弟の玉光彦は深雪姫を娶り、万寿山に帰って父・磐楠彦の後を継いで永遠に神業に奉仕した。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2020-11-12 01:07:56 文字数:2973 OBC :rm1226
愛善世界社版:219頁 八幡書店版:第2輯 707頁 修補版: 校定版:233頁 普及版:96頁 初版: ページ備考:
001心(こころ)も広(ひろ)き琵琶(びは)の湖(うみ)
002中(なか)に漂(ただよ)ふ竹(たけ)の島(しま)
003神(かむ)素盞嗚(すさのをの)大神(おほかみ)の
004瑞(みづ)の御霊(みたま)と現(あ)れませる
005十握剣(とつかつるぎ)の分霊(わけみたま)
006秋月姫(あきづきひめ)の神司(かむづかさ)は
007島(しま)の頂上(いただき)を搗(つ)き固(かた)め
008珍(うづ)の御舎(みあらか)千木(ちぎ)高(たか)く
009仕(つか)へ奉(まつ)りて皇神(すめかみ)の
010瑞(みづ)の御霊(みたま)を朝夕(あさゆふ)に
011斎(いつ)き奉(まつ)らせ天地(あめつち)に
012塞(ふさ)がる四方(よも)の村雲(むらくも)を
013払(はら)ひ清(きよ)めて麗(うるは)しき
014神(かみ)の御稜威(みいづ)を照(てら)さむと
015朝(あさ)な夕(ゆふ)なに真心(まごころ)を
016籠(こ)めて祈願(いのり)の神嘉言(かむよごと)
017市杵嶋(いちきしま)姫(ひめ)神司(かむつかさ)
018夜(よ)も呉竹(くれたけ)の宮(みや)の奥(おく)に
019天津(あまつ)祝詞(のりと)の太祝詞(ふとのりと)
020宣(の)らせ給(たま)へる折(をり)もあれ
021眼下(がんか)に響(ひび)く鬨(とき)の声(こゑ)
022沖(おき)の嵐(あらし)か波(なみ)の音(ね)か
023穏(おだや)かならぬ物音(ものおと)と
024足(あし)もいそいそ高楼(たかどの)に
025上(のぼ)りて真下(ました)を眺(なが)むれば
026思(おも)ひも掛(か)けぬ戦士(いくさびと)
027雲霞(うんか)の如(ごと)く群(むら)がりて
028鋼鉄(まがね)の鉾(ほこ)を打振(うちふ)りつ
029島(しま)に住(す)まへる百人(ももびと)を
030当(あた)るを幸(さいは)ひ斬(き)りまくる
031その勢(いきほひ)に辟易(へきえき)し
032右往(うわう)左往(さわう)に逃(に)げ惑(まど)ふ
033その惨状(さんじやう)は中々(なかなか)に
034他所(よそ)の見(み)る目(め)も憐(あは)れなり
035処(ところ)狭(せ)きまで茂(しげ)りたる
036小笹(をざさ)の籔(やぶ)に火(ひ)放(はな)てば
037折(をり)から吹(ふ)き来(く)る潮風(しほかぜ)に
038火(ひ)は煽(あふ)られて濛々(もうもう)と
039破竹(はちく)の音(おと)も騒(さわ)がしく
040宛然(さながら)修羅(しゆら)の戦場(せんぢやう)と
041忽(たちま)ち変(かは)る神(かみ)の島(しま)
042見(み)るに忍(しの)びぬ次第(しだい)なり。
043 秋月姫(あきづきひめ)は立(た)ち上(あが)り、
044秋月姫『ヤアヤア、045敵軍(てきぐん)間近(まぢか)く押寄(おしよ)せたり。046高倉別(たかくらわけ)はあらざるか、047竜山別(たつやまわけ)は何処(いづこ)ぞ』
048と呼(よば)はる声(こゑ)に、049高倉別(たかくらわけ)は目(め)を擦(こす)り乍(なが)ら忽(たちま)ちこの場(ば)に飛(と)むで出(い)で、
050高倉別『只今(ただいま)お召(め)しになつたのは何(なん)の御用(ごよう)で御座(ござ)いますか』
051秋月姫(あきづきひめ)『汝(なんじ)高倉別(たかくらわけ)、052速(すみやか)に高楼(たかどの)に上(のぼ)り相図(あひづ)の鼓(つづみ)を打(う)てよ』
053 ハツと答(こた)へて、054高倉別(たかくらわけ)は飛鳥(ひてう)の如(ごと)く高楼(たかどの)目(め)がけて馳上(はせのぼ)り、
055高倉別『神聖(しんせい)無比(むひ)のこの嶋(しま)に向(むか)つて攻(せ)め来(きた)る大軍(たいぐん)は果(はた)して何者(なにもの)ぞ。056ウラル姫(ひめ)の部下(ぶか)の魔軍(まぐん)か、057但(ただし)は天教山(てんけうざん)の神軍(しんぐん)か。058何(なに)は兎(と)もあれ、059防禦(ふせぎ)の用意(ようい)』
060と其(その)儘(まま)ヒラリと一足飛(いつそくと)び、
061高倉別『ヤアヤア竜山別(たつやまわけ)はあらざるか。062敵軍(てきぐん)間近(まぢか)く押寄(おしよ)せ来(きた)り乱暴(らんばう)狼藉(ろうぜき)、063竹藪(たけやぶ)に火(ひ)を放(はな)つて只(ただ)一戦(いつせん)にこの神嶋(かみしま)を屠(ほふ)らむとする憎(につく)き計画(たくみ)と覚(おぼ)えたり。064ヤアヤア諸人(もろびと)共(ども)、065防禦(ふせぎ)の用意(ようい)』
066と呼(よば)はれば、067竜山別(たつやまわけ)は声(こゑ)に応(おう)じてこの場(ば)に現(あら)はれ来(きた)り、
068竜山別『思(おも)ひ掛(が)けなき敵(てき)の襲撃(しふげき)、069敵(てき)は何者(なにもの)なるや、070一先(ひとま)づ偵察(ていさつ)仕(つかまつ)らむ』
071 高倉別(たかくらわけ)は早(はや)く行(ゆ)けよと下知(げち)すれば、072ハイと答(こた)へて竜山別(たつやまわけ)は、073栗毛(くりげ)の馬(うま)に跨(またが)り、074八十曲(やそまが)りの坂道(さかみち)を手綱(たづな)を掻(か)い繰(く)り、075シトシトと阪下(さかもと)さして進(すす)み行(ゆ)く。076高倉別(たかくらわけ)は館(やかた)の内(うち)の人数(ひとかず)を残(のこ)らず招集(よびあつ)めたるに、077集(あつ)まるもの男女(だんぢよ)合(あは)せて僅(わずか)に四十八(しじふはち)人(にん)。
078高倉別『ヤア皆(みな)の者(もの)共(ども)、079雲霞(うんか)の如(ごと)き大軍(たいぐん)本島(ほんたう)に攻(せ)め寄(よ)せたり。080斯(か)くなる上(うへ)は衆寡(しうくわ)敵(てき)せず、081体(たい)を以(もつ)て体(たい)に対(たい)し、082力(ちから)を以(もつ)て力(ちから)に対(たい)する時(とき)は勝敗(しようはい)已(すで)に明々(めいめい)白々(はくはく)たり。083如(し)かず、084汝(なんぢ)等(ら)は口(くち)を清(きよ)め手(て)を洗(あら)ひ、085呉竹(くれたけ)の宮(みや)の前(まへ)に致(いた)つて恭(うやうや)しく神言(かみごと)を奏上(そうじやう)し、086宣伝歌(せんでんか)を唱(とな)へて神(かみ)の守護(しゆご)を受(う)け、087寄(よ)せ来(く)る敵(てき)を言向(ことむ)け和(やは)せよ。088我(われ)はこれより奥(おく)に進(すす)み秋月姫(あきづきひめ)の御(おん)身(み)の上(うへ)を守護(しゆご)し奉(たてまつ)らむ』
089と言(い)ひ捨(す)て奥殿(おくでん)目(め)がけて進(すす)み入(い)る。090一同(いちどう)は命(めい)の如(ごと)く身体(からだ)を清(きよ)め呉竹(くれたけ)の宮(みや)の前(まへ)に端坐(たんざ)し声(こゑ)も朗(ほがら)かに天津(あまつ)祝詞(のりと)を奏上(そうじやう)したりける。091秋月姫(あきづきひめ)は高楼(たかどの)に登(のぼ)り、092寄(よ)せ来(く)る敵(てき)に打向(うちむか)ひ悠々(いういう)迫(せま)らざる態度(たいど)を以(もつ)て声(こゑ)淑(しとや)かに天津(あまつ)祝詞(のりと)の神嘉言(かむよごと)を奏上(そうじやう)し、093終(をは)つて天地(てんち)に向(むか)ひ祈願(きぐわん)の言葉(ことば)を奏上(そうじやう)し給(たま)ふ。
094秋月姫(あきづきひめ)『仰(あふ)げば高(たか)し久方(ひさかた)の
095天津(あまつ)御空(みそら)を知食(しろしめ)す
096神(かむ)伊邪那岐(いざなぎ)の大御神(おほみかみ)
097大海原(おほうなばら)を知食(しろしめ)す
098神(かむ)伊邪那美(いざなみ)の大御神(おほみかみ)
099神(かむ)素盞嗚(すさのをの)大神(おほかみ)と
100現(あ)れ出(い)でませる大空(おほぞら)の
101光(ひかり)も清(きよ)き月照彦(つきてるひこ)の
102神(かみ)の命(みこと)や足真彦(だるまひこ)
103少名彦(すくなひこ)神(がみ)、弘子彦(ひろやすひこ)の
104神(かみ)の霊(みたま)の幸(さちは)ひに
105醜(しこ)の軍(いくさ)を言向(ことむ)けて
106この竹嶋(たけしま)に寄来(よせきた)る
107百(もも)の仇(あだ)をば平(たひら)けく
108いと安(やす)らけく鎮(しづ)めませ
109十握(とつか)の剣(つるぎ)の威徳(ゐとく)にて
110勢(いきほひ)猛(たけ)り進(すす)みくる
111荒(あら)ぶる神(かみ)も程々(ほどほど)に
112生言霊(いくことたま)の御光(みひかり)に
113照(てら)し給(たま)ひて天(あめ)が下(した)
114四方(よも)の国(くに)には仇(あだ)もなく
115穢(けが)れも罪(つみ)も枉事(まがこと)も
116薙払(なぎはら)へかし神(かみ)の風(かぜ)
117神(かみ)が表(おもて)に現(あら)はれて
118善(ぜん)と悪(あく)とを立別(たてわ)ける
119善(ぜん)を助(たす)けて悪神(あくがみ)を
120言向(ことむ)け和(やは)す神(かみ)の道(みち)
121唯(ただ)何事(なにごと)も人(ひと)の世(よ)は
122直日(なほひ)に見直(みなほ)し聞直(ききなほ)し
123世(よ)の枉事(まがごと)は詔(の)り直(なほ)す
124誠(まこと)の神(かみ)の在(ま)しまさば
125嶋(しま)に塞(ふさ)がる村雲(むらくも)を
126霽(はら)して誠(まこと)の日月(じつげつ)を
127照(てら)させ給(たま)へ逸早(いちはや)く
128此(この)世(よ)を造(つく)りし大本(おほもと)の
129皇(すめ)大神(おほかみ)の御(おん)前(まへ)に
130畏(かしこ)み畏(かしこ)み祈(ね)ぎ奉(まつ)る』
131と歌(うた)ひ終(をは)り、132高楼(たかどの)より降(くだ)り来(く)る折(をり)しも、133高倉別(たかくらわけ)は馬(うま)に跨(またが)り急(いそ)ぎ館(やかた)に立帰(たちかへ)り、
134高倉別『秋月姫(あきづきひめの)神(かみ)に申(まを)し上(あ)げます。135当山(たうざん)の寄(よ)せ手(て)はウラル彦(ひこ)、136ウラル姫(ひめ)の魔軍(まぐん)ならむと思(おも)ひきや、137撞(つき)の御柱(みはしら)大神(おほかみ)の珍(うづ)の御子(みこ)なる五柱(いつはしら)の一神(いちにん)、138天津彦根(あまつひこねの)神(かみ)、139鋼鉄(まがね)の鉾(ほこ)を打揮(うちふる)ひ竹藪(たけやぶ)に火(ひ)を放(はな)ち、140狼狽(うろた)へ騒(さわ)いで逃(に)げ廻(まは)る嶋人(しまびと)を一人(ひとり)々々(ひとり)引捕(ひきとら)へ、141見(み)るも悲惨(ひさん)なその振舞(ふるまひ)、142建物(たてもの)を破壊(はくわい)し生物(いきもの)を屠戮(とりく)し乱暴(らんばう)狼藉(ろうぜき)至(いた)らざる無(な)く、143群(むら)がる数万(すうまん)の軍勢(ぐんぜい)に対(たい)し、144味方(みかた)は僅(わづか)に老若(らうにやく)男女(なんによ)を合(あは)して四十(しじふ)余(よ)人(にん)、145人(ひと)盛(さかん)なれば天(てん)に勝(か)つとやら、146もう斯(か)うなる上(うへ)は是非(ぜひ)に及(およ)ばず潔(いさぎよ)く自刃(じじん)を遂(と)げ、147名(な)も無(な)き敵(てき)の奴輩(やつばら)に殺(ころ)されむは末代(まつだい)の恥(はぢ)、148我(われ)より冥途(めいど)の魁(さきがけ)仕(つかまつ)らむ』
149と早(はや)くも両肌(もろはだ)を脱(ぬ)ぎ、150短刀(たんたう)を脇腹(わきばら)に突(つ)き立(た)てむとする一刹那(いちせつな)竜山別(たつやまわけ)は、151宙(ちう)を飛(と)むでこの場(ば)に現(あら)はれ来(きた)り、152高倉別(たかくらわけ)が短刀(たんたう)を矢庭(やには)に引奪(ひつたく)り声(こゑ)を励(はげ)まして、
153竜山別『ヤア高倉別(たかくらわけ)殿(どの)、154貴神(きしん)は尊(たふと)き神(かみ)に仕(つか)ふる神司(かむづかさ)、155この場(ば)に及(およ)ンで神(かみ)より受(う)けし貴重(きちよう)なる生命(せいめい)を自(みづか)ら捨(す)てむとし給(たま)ふは何事(なにごと)ぞ。156今(いま)の今迄(いままで)全心(ぜんしん)全力(ぜんりよく)をつくし、157力(ちから)およばずして後(あと)に運命(うんめい)を天(てん)に任(まか)さむのみ。158是(これ)人(ひと)を教(をし)ふる我々(われわれ)の採(と)るべき道(みち)には非(あら)ざるか。159少時(しばらく)思(おも)ひとどまり給(たま)へ。160善悪(ぜんあく)邪正(じやせい)を鏡(かがみ)にかけし如(ごと)く明知(めいち)し給(たま)ふ誠(まこと)の神(かみ)はいかで吾(われ)等(ら)を捨(す)て給(たま)はむや。161自殺(じさつ)は罪悪中(ざいあくちう)の罪悪(ざいあく)なり。162貴神(きしん)は何故(なにゆゑ)に斯(か)かる危急(ききふ)の場合(ばあひ)に臨(のぞ)みて神(かみ)に祈願(きぐわん)せざるや』
163高倉別(たかくらわけ)『アヽ貴神(きしん)は竜山別(たつやまわけ)殿(どの)、164俄(にはか)の敵(てき)の襲来(しふらい)に心(こころ)も眩(くら)み一身(いつしん)の処置(しよち)に迷(まよ)ひ、165神(かみ)を忘(わす)れ道(みち)を忘(わす)れたるこそ我(わが)不覚(ふかく)、166恥(はづ)かしさの限(かぎ)りなれ。167然(しか)らば仰(あふ)せの如(ごと)くこれより高楼(たかどの)に登(のぼ)り、168天地(てんち)の神(かみ)に祈願(きぐわん)を凝(こ)らさむ』
169と悠々(いういう)として高楼(たかどの)目(め)がけて登(のぼ)り行(ゆ)く。
170 天津彦根(あまつひこねの)神(かみ)は数万(すうまん)の神軍(しんぐん)を率(ひき)ゐて勝(かち)に乗(じやう)じ表門(おもてもん)に迫(せま)り来(き)たる。171館(やかた)の老若(らうにやく)男女(なんによ)は悲鳴(ひめい)をあげて前後(ぜんご)左右(さいう)に逃(に)げ廻(まは)るにぞ勝誇(かちほこ)つたる神軍(しんぐん)は潮(うしほ)の如(ごと)くに門内(もんない)に乱(みだ)れ入(い)る。172奥殿(おくでん)の高楼(たかどの)には荘厳(さうごん)なる一絃琴(いちげんきん)の音(ね)爽(さはや)かに天津(あまつ)祝詞(のりと)の声(こゑ)清々(すがすが)しく響(ひび)き居(ゐ)る。173天津彦根(あまつひこねの)神(かみ)は祝詞(のりと)の声(こゑ)に心(こころ)和(やはら)ぎ茫然(ばうぜん)として耳(みみ)を傾(かたむ)け聞(き)き入(い)りぬ。174暫(しばら)くにして太刀(たち)、175弓矢(ゆみや)を大地(だいち)に投(な)げ付(つ)け両手(りやうて)を拍(う)つて共(とも)に神言(かみごと)を奏上(そうじやう)する急変(きふへん)の態度(たいど)に数多(あまた)の戦士(いくさびと)は、176大将軍(だいしやうぐん)のこの挙動(きよどう)に感染(かんせん)しけむ、177何(いづ)れも武器(ぶき)を捨(す)て大地(だいち)に端坐(たんざ)して両手(もろで)を拍(う)ち天津(あまつ)祝詞(のりと)を声(こゑ)高々(たかだか)と奏上(そうじやう)する。
178 時置師(ときおかしの)神(かみ)、179行平別(ゆきひらわけの)神(かみ)は宣伝歌(せんでんか)を歌(うた)ひながら神軍(しんぐん)の後方(こうはう)に立(た)つて面白(おもしろ)可笑(をか)くし手(て)を振(ふ)り足(あし)を轟(とどろ)かし歌(うた)ひ舞(ま)ふ。180秋月姫(あきづきひめ)は高倉別(たかくらわけ)、181竜山別(たつやまわけ)を従(したが)へこの場(ば)に現(あら)はれ、182長袖(ちやうしう)しとやかに、
183秋月姫『とうとうたらりや、184とうたらり、185たらりやアたらり、186とうたらり』
187と扇(あふぎ)を開(ひら)いて地(ち)踏(ふ)み鳴(な)らし舞(ま)ひ狂(くる)ひ玉(たま)ふ。188高倉別(たかくらわけ)、189竜山別(たつやまわけ)を初(はじ)め神軍(しんぐん)の大将(たいしやう)天津彦根(あまつひこねの)命(みこと)、190時置師(ときおかしの)神(かみ)、191行平別(ゆきひらわけの)神(かみ)は中央(ちうあう)に現(あら)はれ、192秋月姫(あきづきひめ)と諸共(もろとも)に手拍子(てびやうし)足拍子(あしびやうし)を揃(そろ)へ、193敵味方(てきみかた)の区別(くべつ)も忘(わす)れて狂(くる)ふが如(ごと)く踊(をど)り廻(まは)る。
194 この時(とき)天上(てんじやう)に群(むら)がれる黒雲(くろくも)は科戸(しなど)の風(かぜ)に吹(ふ)き散(ち)りて、195天日(てんじつ)の光(ひかり)晃々(くわうくわう)と輝(かがや)き始(はじ)め素盞嗚(すさのをの)命(みこと)の疑(うたがひ)は全(まつた)く晴(は)れ渡(わた)つた。196天津彦根(あまつひこねの)神(かみ)は喜(よろこ)び勇(いさ)むで数多(あまた)の将卒(しやうそつ)を引連(ひきつ)れ、197琵琶(びは)の湖(うみ)を渡(わた)りて天教山(てんけうざん)に凱旋(がいせん)せり。198後(あと)に残(のこ)りし時置師(ときおかしの)神(かみ)、199行平別(ゆきひらわけの)神(かみ)は、200或(あるひ)は殺(ころ)され或(あるひ)は負傷(ふしやう)に悩(なや)む嶋人(しまびと)に一々(いちいち)伊吹(いぶき)の狭霧(さぎり)を施(ほどこ)し、201死(し)したる者(もの)を生(い)かし傷(きず)つける者(もの)を癒(い)やし、202焼(や)けたる林(はやし)は天(あま)の数歌(かずうた)を歌(うた)ひ上(あ)げて再(また)旧(もと)の如(ごと)く青々(あをあを)と緑(みどり)の山(やま)に化(くわ)せしめける。
203 茲(ここ)にまた高光彦(たかてるひこ)の宣伝使(せんでんし)は時置師(ときおかしの)神(かみ)、204行平別(ゆきひらわけの)神(かみ)と共(とも)に窃(ひそか)にこの嶋(しま)に現(あらは)れ来(きた)り、205森林(しんりん)の中(なか)に身(み)を潜(ひそ)めて天(あま)の数歌(かずうた)を歌(うた)ひこの惨状(さんじやう)を平和(へいわ)に治(をさ)めたる勇神(ゆうしん)なり。206秋月姫(あきづきひめ)は高光彦(たかてるひこ)と結婚(けつこん)の約(やく)を結(むす)び、207永(なが)くこの島(しま)に留(とど)まりて神業(しんげふ)に参加(さんか)し給(たま)ひぬ。208又(また)、209中(なか)の弟(おとうと)玉光彦(たまてるひこ)は瀬戸(せと)の海(うみ)の一(ひと)つ島(じま)なる深雪姫(みゆきひめ)を娶(めと)り、210万寿山(まんじゆざん)に立(た)ち帰(かへ)り父(ちち)磐樟彦(いはくすひこの)神(かみ)の後継者(こうけいしや)となりて永遠(ゑいゑん)に神業(しんげふ)に参加(さんか)し給(たま)ひけるとなむ。
211(大正一一・三・一一 旧二・一三 北村隆光録)
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