霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第二七章 航空船(かうくうせん)〔五二三〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第12巻 霊主体従 亥の巻 篇:第3篇 天岩戸開(三) よみ(新仮名遣い):あまのいわとびらき(三)
章:第27章 航空船 よみ(新仮名遣い):こうくうせん 通し章番号:523
口述日:1922(大正11)年03月11日(旧02月13日) 口述場所: 筆録者:谷村真友 校正日: 校正場所: 初版発行日:1922(大正11)年9月30日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
ウラル彦・ウラル姫はコーカス山を三五教のために追われた。後にコーカス山には神素盞嗚命が武勇を輝かせていたために、邪神も手を下すことができなかった。
そのためウラル彦・ウラル姫は美山彦と国照姫にアーメニヤを守らせ、自らは黄泉島に渡って第二の計画をめぐらしつつあった。
ウラル彦・ウラル姫は、元は善神であったが、邪神に憑依されて心にもない邪道をたどりつつ、誠の神に叛旗を翻すことになった。
美山彦・国照姫も、一度は月照彦命、足真彦命によって善道に立ち返ったが、またしても邪神に憑依されて、ウラル彦の配下となってしまった。
三五教の宣伝使・祝部神は、月照彦神の化身とともに、黄泉島の曲津神を掃討すべく、船に乗って進んでいった。筑紫丸というこの船は、竜宮島を経て黄泉島に沿い、常世国に到る航路である。
海中には種々の異変が起こり、島や岩石が突然現れたり、日は暗く風は生臭く、不快な航海を続けていた。
船中の客は、天変が続いて世の中が不安になってきたので、遠い海の向こうの常世の国に渡ろうとする者が多かった。また、黄泉島はこのごろ地震が頻発し、すでに六分ほど海に沈みつつある、という。
たちまち暴風が吹きすさび、筑紫丸は沈没の危機に陥った。祝部神は立って宣伝歌を歌い始めた。すると暴風は止んでしまった。
船は黄泉島に近づいてきた。すると黄泉島は轟然たる音響をたてて海中に沈み始めた。祝部神は、船客たちに向かって、祈りの神力で黄泉島を引っ張り上げて見せよう、と言い、祈願をこらし始めた。
しかし、島はますます急速に沈んでいく。船客たちは祝部神を馬鹿にしたが、祝部神は一向に意に介さず、海に飛び込んで黄泉島に泳いで行ってしまった。
またしても暴風が筑紫丸を襲ったが、黄泉島に泳ぎ着いた祝部神が言霊をかけると、船は引き寄せられて島に着き、沈没の難を免れた。船客たちは喜び、祝部神に感謝の意を表した。祝部神がまたしても言霊をかけると、黄泉島は静々と浮かび始めた。
祝部神は、黄泉島は曲津神が棲んでいるので、どうしても沈めてしまわなければならないから、早く逃げるように、と筑紫丸を促した。筑紫丸は祝部神の送る風を受けて、船足早く常世の国へ去っていく。
後に残った祝部神の言霊に追いやられて、黄泉島の曲津神たちは、黄泉比良坂に向かって追い立てられていった。坂の上には日の出神が用いた千引き岩があった。
祝部神は岩の上に端座して神言を奏上すると、大音響とともに黄泉島は沈んでしまい、あとには千引き岩を残すのみとなった。
荒波が祝部神の体をさらおうとした刹那、天空から天の磐楠船がやってきた。日の出神が、正鹿山津見神を遣わしたのであった。祝部神は船に乗ると、天教山を指して帰って行った。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる] 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2020-11-12 01:10:33 OBC :rm1227
愛善世界社版:228頁 八幡書店版:第2輯 710頁 修補版: 校定版:243頁 普及版:100頁 初版: ページ備考:
001 ウラル(ひこの)(みこと)002ウラル(ひめの)(みこと)(みづか)盤古(ばんこ)神王(しんわう)(しよう)し、003ウラル(さん)004アーメニヤの二箇所(にかしよ)根拠(こんきよ)(かま)へ、005第二(だいに)策源地(さくげんち)としてコーカス(ざん)(みやこ)(ひら)き、006権勢(けんせい)(なら)(もの)なき(いきほひ)なりしが、007三五教(あななひけう)宣伝使(せんでんし)(ため)に、008コーカス(ざん)(みやこ)()はれ、009(ふたた)びウラル(さん)010アーメニヤに(むか)つて遁走(とんそう)し、011数多(あまた)魔神(まがみ)(あつ)めて捲土(けんど)重来(ぢうらい)神策(しんさく)(かう)()たりき。012(しか)るにアーメニヤに(ちか)きコーカス(ざん)に、013(かむ)素盞嗚(すさのをの)(みこと)武勇(ぶゆう)(かがや)かし、014天下(てんか)君臨(くんりん)(たま)へば、015流石(さすが)魔神(まがみ)()(くだ)すに(よし)なく、016美山彦(みやまひこ)017国照姫(くにてるひめ)をしてアーメニヤを死守(ししゆ)せしめ、018(みづか)黄泉島(よもつじま)(わた)りて第二(だいに)作戦(さくせん)計画(けいくわく)(めぐ)らしつつありける。
019 ウラル(ひこ)020ウラル(ひめ)は、021元来(ぐわんらい)純直(じゆんちよく)至誠(しせい)(かみ)であつたが、022(うる)はしき果実(くわじつ)には、023悪虫(あくちう)(おそ)ふが(ごと)く、024(すこ)しの(こころ)油断(ゆだん)より八岐(やまた)大蛇(をろち)025悪狐(あくこ)026悪鬼(あくき)憑依(ひようい)するところとなり、027(これ)()悪神(あくがみ)使役(しえき)されて、028(こころ)にもなき邪道(じやだう)辿(たど)りつつ、029(まこと)(かみ)(むか)つて叛旗(はんき)(ひるがへ)すに(いた)つたるなり。030美山彦(みやまひこ)一旦(いつたん)月照彦(つきてるひこの)(みこと)031足真彦(だるまひこの)(みこと)()めに言向(ことむ)(やは)され善道(ぜんだう)立返(たちかへ)りしが、032(ふたた)邪神(じやしん)憑依(ひようい)され、033(たちま)心魂(しんこん)くらみ国照姫(くにてるひめ)(げん)()れて、034(また)もやウラル(ひこ)部下(ぶか)となり、035悪逆(あくぎやく)無道(ぶだう)行為(かうゐ)(もつぱ)らとするに(いた)りたるなり。
036 (ここ)にアーメニヤの神都(しんと)には、037表面(へうめん)美山彦(みやまひこ)はウラル(ひこの)(みこと)(しよう)し、038国照姫(くにてるひめ)はウラル(ひめの)(みこと)(しよう)して虚勢(きよせい)()り、039数多(あまた)魔神(まがみ)(あつ)めてこの(みやこ)死守(ししゆ)し、040黄泉島(よもつじま)(あひ)()つて回天(くわいてん)事業(じげふ)(おこ)さむと(くはだ)()たりき。
041 三五教(あななひけう)宣伝使(せんでんし)042祝部(はふりべの)(かみ)月照彦(つきてるひこの)(かみ)化身(けしん)(とも)に、043黄金山(わうごんざん)立出(たちい)筑紫(つくし)(くに)ヨル(みなと)船出(ふなで)して、044黄泉島(よもつじま)魔神(まがみ)剿討(さうたう)すべく(すす)()く。045(この)(ふね)筑紫丸(つくしまる)()づくる大船(おほふね)なり。046筑紫丸(つくしまる)竜宮島(りゆうぐうじま)()黄泉島(よもつじま)沿()常世(とこよ)(くに)(かよ)はむとするものなれば、047常世(とこよ)(くに)(わた)船客(せんきやく)がその大部分(だいぶぶん)()()たり。048祝部(はふりべの)(かみ)月照彦(つきてるひこの)(かみ)(とも)に、049筑紫丸(つくしまる)船客(せんきやく)となり、050数十(すうじふ)(にち)海路(うなぢ)(つづ)くる。051海中(かいちう)には種々(しゆじゆ)変異(へんい)(おこ)り、052(しま)なき(ところ)(しま)(あら)はれ、053(あるひ)巨大(きよだい)なる岩石(がんせき)(にはか)海中(かいちう)出没(しゆつぼつ)して天日(てんじつ)(くら)月光(げつくわう)()く、054(かぜ)(なん)となく(なまぐさ)く、055()()はれぬ不快(ふくわい)(きは)まる航路(かうろ)なりける。056船中(せんちう)には色々(いろいろ)雑談(ざつだん)(れい)(ごと)(はじ)まり()たる。
057(かふ)『モシモシ(とよ)さま、058貴方(あなた)何処(どこ)まで()きますか、059かう海上(かいじやう)変異(へんい)続出(ぞくしゆつ)しては、060(あま)遠乗(とほの)りも危険(きけん)ですよ。061(わたくし)常世(とこよ)(くに)まで(まゐ)(つも)りで()()ましたが、062この調子(てうし)では(さき)険難(けんのん)でなりませぬ。063竜宮島(りうぐうじま)(まで)()つたら(また)(つぎ)(ふね)()つて(かへ)(こと)にしようと(おも)つて()ますよ』
064(とよ)『さうですな、065貴方(あなた)常世国(とこよのくに)(なん)()めにお()しになるのですか』
066(かふ)(じつ)家内(かない)小供(こども)一緒(いつしよ)()つて()ますが、067(わたくし)はコーカス(ざん)山麓(さんろく)琵琶(びは)(うみ)(ほとり)()むもの、068(なん)だか()(なか)(へん)になつて()(なん)とも(たとへ)(かた)のなき(かぜ)日夜(にちや)()(まく)り、069(いき)がつまりさうになりますから、070(とほ)常世(とこよ)(くに)移住(いぢう)でもしたらよからうと(おも)つて(まゐ)りましたが、071もう()うなれば何処(どこ)()るも世界中(せかいぢう)(おな)(こと)(やう)(おも)ひます』
072(とよ)常世(とこよ)(くに)数千(すうせん)()(へだ)てた、073(うみ)(むか)ふの(ひろ)(くに)074そこまで()けば()()(つき)(かがや)き、075立派(りつぱ)果物(くだもの)(みの)り、076清鮮(せいせん)空気(くうき)流通(りうつう)して()るでせう。077(わたくし)(とよ)(くに)(もの)ですが、078(とよ)(くに)には白瀬川(しらせがは)大瀑布(だいばくふ)があつて、079魔神(まがみ)棲居(すまゐ)(いた)し、080日夜(にちや)毒気(どくき)()人民(じんみん)(のこ)らず蒼白(あをじろ)(かほ)になつて、081コロリコロリと()ぬもの(ばか)り、082あまり()(なか)(おそ)ろしくなつたので、083黄泉島(よもつじま)か、084もつと(あし)()ばして常世(とこよ)(しま)(わた)らうと(おも)つて、085一族(いちぞく)()れて()たのです。086(なん)でも黄泉島(よもつじま)(この)()(さかひ)()ふのですから、087黄泉島(よもつじま)(わた)れば(むかし)のやうな(きよ)らかな(うみ)も、088(しま)()られませう』
089(へい)(わたくし)常世(とこよ)(くに)()げて()(もの)ですが、090黄泉島(よもつじま)はこのごろ大変(たいへん)地震(ぢしん)で、091日々(にちにち)二三十(にさんじつ)(けん)づつ地面(ちめん)沈没(ちんぼつ)しかかつて()るやうですな。092(ひと)(うはさ)()れば、093もう六分(ろくぶ)(どほ)(しづ)むで仕舞(しま)つたさうですよ』
094(かふ)黄泉島(よもつじま)でさへもさう()按配(あんばい)だから、095(にはか)(うみ)(なか)()かつた(おほ)きな(しま)出来(でき)たり、096(いは)()つたり、097大蛇(をろち)沢山(たくさん)(およ)(まは)るのは当然(あたりまへ)でせう。098()(かく)(あや)しい()(なか)になつて()たものだ。099かうなつて()ると(いま)まで馬鹿(ばか)にして()いて()た、100三五教(あななひけう)(をしへ)(こひ)しくなつて()る。101たとへ大地(だいち)(しづ)むとも(まこと)(かみ)()(すく)ふとか()つて、102宣伝使(せんでんし)(まは)つて()ましたが、103我々(われわれ)は「(なに)104馬鹿(ばか)な、105大地(だいち)(しづ)むなぞと、106そンな(こと)があつたら、107日天(につてん)(さま)西(にし)からお()ましになる」と(わら)つて()ましたが、108この(ごろ)西(にし)からどころか、109何処(どこ)からもお(あが)りなさらず、110黄泉島(よもつじま)(やう)(おほ)きな(しま)まで六分(ろくぶ)まで(しづ)むとは、111本当(ほんたう)常世(とこよ)(くに)だつて我々(われわれ)のこの(ふね)()(まで)には、112どうなつて()るか(わか)つたものぢやない』
113 (ひる)とも(よる)とも判別(はんべつ)のつかぬ常暗(とこやみ)()海面(かいめん)114(ふね)海面(かいめん)出没(しゆつぼつ)する大巌石(だいがんせき)(みぎ)()(ひだり)にすかし、115船脚(ふなあし)もゆるやかに盲人(めくら)(つゑ)なくして荒野(あれの)()(ごと)有様(ありさま)116(なみ)のまにまに()かび()不安(ふあん)至極(しごく)航路(かうろ)なりける。
117 (たちま)暴風(ばうふう)()(きた)り、118山岳(さんがく)(ごと)(なみ)()(きた)つて、119筑紫丸(つくしまる)()まむとする危険(きけん)状態(じやうたい)(おちい)り、120船客(せんきやく)一同(いちどう)(たがひ)()(あは)何事(なにごと)(しき)りに小声(こごゑ)(いの)り、121祝部(はふりべの)(かみ)()つて(うた)(はじ)むる。
122祝部神(かみ)(おもて)(あら)はれて
123(ぜん)(あく)とを立別(たてわ)ける
124朝日(あさひ)(かく)れて(ひかり)なく
125(つき)()()(かげ)もなし
126大海原(おほうなばら)(わだかま)
127八岐(やまた)大蛇(をろち)醜神(しこがみ)
128(しこ)(たけ)びを皇神(すめかみ)
129()さし(たま)へる言霊(ことたま)
130伊吹(いぶ)(はら)へよ四方(よも)(くに)
131大海原(おほうなばら)醜神(しこがみ)
132言向(ことむけ)(やは)三五(あななひ)
133(みち)(つた)ふる宣伝使(せんでんし)
134()常暗(とこやみ)となるとても
135黄泉(よもつ)(しま)(しづ)むとも
136常世(とこよ)(くに)永遠(とことは)
137(なみ)随々(まにまに)(ただよ)ひて
138天照(あまてら)します大神(おほかみ)
139国治立(くにはるたち)大神(おほかみ)
140御霊(みたま)恩頼(ふゆ)(かかぶ)らむ
141(かむ)素盞嗚(すさのをの)大神(おほかみ)
142(ふか)(めぐ)みを白浪(しらなみ)
143(うへ)(ただよ)民草(たみぐさ)
144黄泉(よもつ)(しま)()(つき)
145(しづ)むが(ごと)(たちま)ちに
146浮瀬(うきせ)()ちて(くる)しまむ
147嗚呼(ああ)諸人(もろびと)諸人(もろびと)
148(かみ)(をしへ)にまつろひて
149直霊(なほひ)御霊(みたま)(みが)()
150朝夕(あさゆふ)(かみ)(おん)(まへ)
151(いの)れや(いの)()(いの)
152(われ)はこの()(すく)()
153三五教(あななひけう)宣伝使(せんでんし)
154月照彦(つきてるひこ)(まも)りにて
155この()(まが)祝部(はふりべ)
156(かみ)(あらは)黄泉島(よもつじま)
157その比良坂(ひらさか)にさやりてし
158八岐(やまた)大蛇(をろち)言向(ことむ)けて
159この()(まが)()(きよ)
160世人(よびと)(たす)くる神司(かむづかさ)
161(かみ)(おもて)(あら)はれて
162(ぜん)(あく)とを立別(たてわ)ける
163この()(つく)りし神直日(かむなほひ)
164(こころ)(ひろ)大直日(おほなほひ)
165(ただ)何事(なにごと)(ひと)()
166直日(なほひ)見直(みなほ)聞直(ききなほ)
167()(あやま)ちは詔直(のりなほ)
168(かみ)(なんぢ)(まも)るらむ
169嗚呼(ああ)惟神(かむながら)々々(かむながら)
170御霊(みたま)(さち)はひましませよ』
171 不思議(ふしぎ)暴風(ばうふう)(にはか)()みて、172(なみ)()(わた)りし()もあらず、173西北(せいほく)(かぜ)またもや()(きた)つて筑紫丸(つくしまる)()()(ごと)黄泉島(よもつじま)(むか)つて疾走(しつそう)せり。174予期(よき)(はん)して(はや)くも黄泉島(よもつじま)間近(まぢか)くなりぬ。175(たちま)黄泉島(よもつじま)轟然(がうぜん)たる音響(おんきやう)をたて、176()()海中(かいちう)(しづ)まむとする(おそ)ろしさに、177船客(せんきやく)一同(いちどう)はこの光景(くわうけい)()て、178アレアレと(おどろ)きの()(みは)る。
179祝部(はふりべの)(かみ)『ヤア船中(せんちう)方々(かたがた)180吾々(われわれ)最前(さいぜん)(うた)つた(ごと)三五教(あななひけう)宣伝使(せんでんし)181たとへ黄泉島(よもつじま)(しづ)むとも、182言霊(ことたま)神力(しんりき)(もつ)て、183(ふたた)(もと)(ごと)海面(かいめん)(うか)ばせ()む、184信仰(しんかう)(ちから)(じつ)(たふと)きものである。185(みな)方々(かたがた)には()(いの)りの霊験(れいけん)()(こころ)(あらた)められよ』
186(かふ)貴方(あなた)宣伝使(せんでんし)(さま)187如何(いか)()(ちから)があるとは()へ、188あの(しま)()(あが)りませうか、189()しも()(あが)つたら吾々(われわれ)三五教(あななひけう)(いち)()もなく帰依(きえ)(いた)します。190どうぞ(ひと)(うか)して()(くだ)さいませ』
191祝部(はふりべの)(かみ)神力(しんりき)偉大(ゐだい)なものだ。192サア御覧(ごらん)
193()ひながら拍手(はくしゆ)をなし天津(あまつ)祝詞(のりと)奏上(そうじやう)し、194鎮魂(ちんこん)姿勢(しせい)をとり、195(あせ)をダラダラ(なが)して一生(いつしやう)懸命(けんめい)(れい)(おく)つて()る。196黄泉島(よもつじま)益々(ますます)巨大(きよだい)なる音響(おんきやう)()速度(そくど)(はや)め、197海中(かいちう)(しづ)()くのみなりける。
198祝部(はふりべの)(かみ)『ヤア、199こりや(かみ)さまが()(そこな)ひをなさつたナ。200(いま)一度(いちど)(ねが)つて()ませう』
201とまたもや一心(いつしん)不乱(ふらん)(いの)りかけた。202黄泉島(よもつじま)(なん)頓着(とんちやく)()く、203刻々(こくこく)海中(かいちう)(しづ)()く。204船中(せんちう)人々(ひとびと)一斉(いつせい)にドツと(こゑ)()げて嘲笑(てうせう)する。
205祝部(はふりべの)(かみ)『オイ(みな)のもの謹慎(きんしん)をせぬか。206(まへ)たちの量見(りやうけん)(わる)いものだから、207(おれ)鎮魂(ちんこん)がチツトも()かない。208(みな)(そろ)つて(おれ)神言(かみごと)奏上(そうじやう)するからその(あと)()いて()るのだ。209(かみ)(さま)馬鹿(ばか)にして()ると、210(おも)わぬとこへ暗礁(あんせう)出来(でき)て、211(ふね)(くつが)へつて仕舞(しま)ふぞ。212この(ふね)には(さいは)ひに月照彦(つきてるひこの)(かみ)()(まも)(あつ)祝部(はふりべ)宣伝使(せんでんし)()つて()るものだから、213どうなりと()いて()るのだ。214(おれ)黄泉島(よもつじま)上陸(じやうりく)したが最後(さいご)この(ふね)(あやふ)くなるぞ』
215(おつ)(なん)とマア(ちひ)さい(をとこ)()大法螺(おほぼら)()(やつ)だなア。216この法螺(ほら)には時化(しけ)(かみ)()きまくられて(しづ)まつてしまふ。217アレアレ宣伝使(せんでんし)(いの)りは()()ぎたと()えて、218黄泉島(よもつじま)益々(ますます)鳴動(めいどう)(はげ)しく急速度(きふそくど)(もつ)(しづ)むぢやないか』
219祝部神莫迦(ばか)()ふな、220(しま)(しづ)むのぢやない。221海嘯(つなみ)()()るのだ。222(なみ)(たか)くなつて()るのを()()かぬか』
223(かふ)224(おつ)『モシモシ宣伝使(せんでんし)(さま)225この(ひろ)(うみ)(なか)226(たらひ)(なん)ぞの(やう)(たか)くなつた、227(ひく)くなつたと()見当(けんたう)はどうしてとれます。228成程(なるほど)(みづ)(たか)くなれば(しま)(しづ)むやうに()えるのは当然(あたりまへ)だ。229(しか)(にはか)にかう(たか)くなる道理(だうり)がないぢやありませぬか』
230 祝部(はふりべの)(かみ)は、
231祝部神(しま)(しづ)むか(なみ)(たか)くなつたか、232(ふた)つに(ひと)つだ。233アハヽヽヽヽ』
234気楽(きらく)さうに(わら)つて()る。235(ふね)(やうや)黄泉(よもつ)(しま)(ちか)くになつた。
236祝部(はふりべの)(かみ)『サア船頭(せんどう)237黄泉島(よもつじま)(ふね)()けて()れないか』
238船頭(せんどう)『メツサウもない。239刻々(こくこく)(しづ)むで()くあの(しま)240どうして(ふね)()けられませう』
241 祝部(はふりべの)(かみ)
242祝部神『エーイ()(よわ)船頭(せんどう)だなア』
243()ひながら(かみ)(ねん)神言(かみごと)(とな)へつつ()(をど)らしてザンブと(ばか)海中(かいちう)()()み、244黄泉島(よもつじま)()がけて(およ)()く。
245(かふ)246(おつ)247(へい)『ヤア、248法螺(ほら)()()随分(ずゐぶん)胆玉(きもだま)(ふと)宣伝使(せんでんし)だ。249信仰(しんかう)(ちから)()ふものは、250エライものだなア。251アレ()一生(いつしやう)懸命(けんめい)(しま)()かして(くだ)さいと(たの)むのに、252チヨツトも()いて(くだ)さらぬ(かみ)(さま)(しん)じて()信仰(しんかう)()めず、253危険(きけん)(きは)まる黄泉島(よもつじま)(およ)いで()くとはあきれたものだ。254生命(いのち)()らずと()ふのは、255マアああいふ(ひと)(こと)かい。256ヤアヤア(えら)速力(そくりよく)ぢや。257たうとう(この)(なが)海面(かいめん)(むか)ふへ()いてしまつたよ』
258 (また)もや颶風(ぐふう)()(きた)(なみ)(たか)帆柱(ほばしら)()り、259(ふね)はいやらしき物音(ものおと)()てて、260(いま)破壊(はくわい)せむとする。261船頭(せんどう)船客(せんきやく)一度(いちど)()()(ごと)く、262(てん)(こく)()(なげ)き、263刻々(こくこく)(しづ)()(ふね)(うへ)前後(ぜんご)左右(さいう)駆廻(かけまは)り、264狼狽(うろた)(さわ)有様(ありさま)()もあてられぬ悲惨(ひさん)光景(くわうけい)なりける。
265 祝部(はふりべの)(かみ)島陰(しまかげ)()つて言霊(ことたま)(ちから)(かぎ)りに()(はじ)めたり。266アーオーウーエーイの(こゑ)()れて、267(いま)沈没(ちんぼつ)せむとする筑紫丸(つくしまる)は、268何物(なにもの)かに()かるる(ごと)急速力(きふそくりよく)(もつ)て、269黄泉島(よもつじま)(ちか)づき()たる。270祝部(はふりべの)(かみ)(また)もやアオウエイの言霊(ことたま)()(はじ)めければ、271不思議(ふしぎ)やほとんど沈没(ちんぼつ)せむとする(ふね)は、272ポカリと水音(みづおと)(たか)浮上(うきあが)り、273何時(いつ)()にか浸水(しんすゐ)せし(みづ)跡形(あとかた)もなく(のぞ)かれ()たりける。
274祝部(はふりべの)(かみ)『ヤア、275(みな)さま、276()神徳(しんとく)(わか)つたかな』
277 (かふ)(おつ)(へい)(はじ)船客(せんきやく)一同(いちどう)(うれ)(なみだ)()一言(いちごん)(はつ)()ず、278両手(りやうて)(あは)祝部(はふりべの)(かみ)(むか)つて生神(いきがみ)()(へう)合掌(がつしやう)するのみなりき。279祝部(はふりべの)(かみ)(また)もやウンウンと(ちから)()めたるにぞ、280ウの(こゑ)黄泉島(よもつじま)静々(しづしづ)()(あが)(はじ)めたり。281(また)もやウヽヽの(こゑ)()れて(しま)はウヽヽと()(あが)りたり。
282祝部(はふりべの)(かみ)(みな)(ひと)(たち)283この(しま)浮上(うきあが)ると()うた(とき)284(わら)つただらう。285どうだこれで(わか)つたか』
286(かふ)287(おつ)288(へい)『イヤモウ(たしか)(わか)りました。289今迄(いままで)()無礼(ぶれい)どうぞ()(ゆる)(くだ)さいませ』
290祝部神『ヨシヨシ(わか)つたらそれで()い、291(かみ)(さま)()神徳(しんとく)(わす)れてはならぬぞ。292サア(いま)(うち)(はや)常世(とこよ)(くに)()つたら()からう。293愚図(ぐづ)々々(ぐづ)して()るとこの(しま)(また)もや沈没(ちんぼつ)(おそ)れがある。294曲津(まがつ)(かみ)()黄泉島(よもつじま)はどうしても、295海中(かいちう)(しづ)めてしまはねばならぬのだ。296何千(なんぜん)()(まは)つた(この)(しま)297一度(いちど)にドブンと(しづ)ンだ(とき)は、298この海原(うなばら)でも(てん)(ちう)する(ごと)巨浪(きよらう)()(あが)る。299さすれば如何(いか)堅固(けんご)大船(おほふね)でも(ひと)たまりもあるまい。300サア(はや)くこの(しま)沈没(ちんぼつ)せぬ(うち)(かぜ)(おく)つてやるから、301常世(とこよ)(くに)(むか)つて(はし)()け』
302 東風(とうふう)(にはか)()(きた)つて筑紫丸(つくしまる)()(ふく)らせながら一瀉(いつしや)千里(せんり)(いきほひ)にて波上(はじやう)(すべ)()く。303船中(せんちう)人々(ひとびと)黄泉島(よもつじま)祝部(はふりべの)(かみ)(わかれ)(をし)み、304()()(かさ)()(そで)()りなぞして姿(すがた)()えぬまで名残(なご)りを(をし)みけり。
305 (しま)曲津(まがつ)(かみ)祝部(はふりべの)(かみ)言霊(ことたま)(いき)(おそ)れて、306(くも)(かすみ)比良坂(ひらさか)さして()げて()く。307祝部(はふりべの)(かみ)(あし)(はや)めて飛鳥(ひてう)(ごと)く、308黄泉(よもつ)比良坂(ひらさか)(さか)(うへ)月照彦(つきてるひこ)冥護(めいご)(もと)(のぼ)()く。
309 (さか)(うへ)には、310()出神(でのかみ)(もち)(たま)ひし千引(ちびき)(いは)がある。311この(いは)(うへ)端坐(たんざ)して神言(かみごと)奏上(そうじやう)する(をり)しも、312大音響(だいおんきやう)(とも)にさしもに(ひろ)黄泉島(よもつじま)海中(かいちう)忽然(こつぜん)として(ぼつ)し、313(のこ)るは千引(ちびき)(いは)のみ。314(をり)から荒浪(あらなみ)千引(ちびき)(いは)(あら)ひ、315祝部(はふりべの)(かみ)身体(しんたい)をも(いま)やさらはむとする(とき)316天空(てんくう)(とどろ)かして此処(ここ)(くだ)(きた)(あま)磐樟船(いはくすぶね)あり。317()れば()出神(でのかみ)(つか)はし(たま)うたる堅牢(けんらう)無比(むひ)神船(かみぶね)にして、318正鹿(まさか)山津見(やまづみの)(かみ)()つて()られる。319祝部(はふりべの)(かみ)は、
320祝部神『ヤア貴神(きしん)正鹿(まさか)山津見(やまづみの)(かみ)
321正鹿山津見神『ヤア貴神(きしん)祝部(はふりべの)(かみ)御座(ござ)るか。322サア(はや)くこの御船(みふね)()らせ(たま)へ』
323 祝部(はふりべの)(かみ)は、
324祝部神(まつた)(すく)ひの(ふね)だ、325有難(ありがた)(かたじけ)なし』
326磐樟船(いはくすぶね)にヒラリと()(たく)し、327中空(ちうくう)(たか)くかすめて天教山(てんけうざん)目蒐(めが)け、328一瀉(いつしや)千里(せんり)(いきほひ)にて(てん)(とどろ)かしつつ阿波岐(あはぎ)(はら)(やうや)(くだ)()きにける。
329 (にはか)(きこ)ゆる松風(まつかぜ)(おと)()(ひら)けば、330(あに)(はか)らむや、331十四日(じふよつか)(つき)西山(せいざん)(しづ)み、332高熊山(たかくまやま)霧立(きりた)(のぼ)巌窟(がんくつ)(かたはら)瑞月(ずゐげつ)()端坐(たんざ)()たりける。
333大正一一・三・一一 旧二・一三 谷村真友録)
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