霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一〇章 深夜(しんや)の琴(こと)〔五〇六〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第12巻 霊主体従 亥の巻 篇:第2篇 天岩戸開(二) よみ(新仮名遣い):あまのいわとびらき(二)
章:第10章 深夜の琴 よみ(新仮名遣い):しんやのこと 通し章番号:506
口述日:1922(大正11)年03月09日(旧02月11日) 口述場所: 筆録者:藤津久子 校正日: 校正場所: 初版発行日:1922(大正11)年9月30日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
初公は一弦琴の音を聞いて、酋長の館に若い女性がいるのではないかと勘ぐる。蚊取別は夜も更けたことで、休もうと一同に提案し、皆眠りに就くことになった。
蚊取別は一弦琴の主が気にかかり、ふすまの外で歌う女の声にそっと聞き入っている。果たしてそれは、蚊取別の妻・祝姫であった。
祝姫は、白瀬川の滝で邪神にさえぎられて行き悩んでいた自分を、酋長・夏山彦が助けてくれたのだが、夏山彦は自分に思いを架けており、そのために悩んでいることを歌に歌いこんでいた。
祝姫は、悩みを解くために早く夫・蚊取別に会いたい、と歌って歌を終えた。
蚊取別は祝姫の歌を聞き終わると、寝室に戻って宣伝使たちの間にごろりと横になった。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2020-11-12 00:34:59 文字数:2714 OBC :rm1210
愛善世界社版:87頁 八幡書店版:第2輯 657頁 修補版: 校定版:91頁 普及版:37頁 初版: ページ備考:
001 夏山彦(なつやまひこ)は一同(いちどう)に向(むか)ひ、
002夏山彦『最早(もはや)夜(よ)も深更(しんかう)に及(およ)びましたれば、003緩(ゆる)りと御(お)寝(やす)み下(くだ)さいませ。004また明朝(みやうてう)、005緩々(ゆるゆる)と御(お)話(はなし)を承(うけたま)はりませう』
006と一同(いちどう)に会釈(ゑしやく)し一間(ひとま)に姿(すがた)を隠(かく)した。
007初公(はつこう)『蚊取別(かとりわけ)さま、008この度(たび)は夢(ゆめ)ぢやなからうなア。009アイタヽヽヽ』
010蚊取別(かとりわけ)『アハヽヽヽ、011矢張(やつぱ)り痛(いた)いか、012痛(いた)けりや本当(ほんたう)だ。013安心(あんしん)して寝(やす)むだら宜(よ)からう』
014初公(はつこう)『あの一絃琴(いちげんきん)の音(ね)はどうだ。015小督(こごう)の局(つぼね)が居(を)るのぢやなからうかな。
016 「峰(みね)の嵐(あらし)か松風(まつかぜ)か、017恋(こひ)しき人(ひと)の琴(こと)の音(ね)か、018駒(こま)を留(とど)めて聞(き)くからに、019爪音(つまおと)しるき想夫憐(さうふれん)」
020と云(い)つた奴(やつ)だナア』
021蚊取別(かとりわけ)『馬鹿(ばか)云(い)ふな。022夫(そ)れは何十万(なんじふまん)年(ねん)未来(みらい)の世(よ)の出来事(できごと)だ。023今(いま)は天(あま)の岩戸(いはと)隠(がく)れの神代(かみよ)だぞ』
024初公(はつこう)『過去(くわこ)現在(げんざい)未来(みらい)を一貫(いつくわん)し、025時間(じかん)空間(くうかん)を超越(てうゑつ)するのが神界(しんかい)の経綸(けいりん)ぢやないか。026己(おれ)が斯(か)うして夏山彦(なつやまひこ)の館(やかた)に一絃琴(いちげんきん)を聞(き)いて彼是(かれこれ)噂(うはさ)して居(ゐ)た事(こと)を何十万(なんじふまん)年(ねん)の未来(みらい)の世(よ)の狂人(きちがひ)が、027霊界(れいかい)物語(ものがたり)だと云(い)つて喋(しや)べる様(やう)になるのだ。028是(これ)も神界(しんかい)の仕組(しぐみ)だよ。029さうだから、030ちつとでも今(いま)の間(うち)に善(よ)い事(こと)をして未来(みらい)の人間(にんげん)に持(も)て囃(はや)される様(やう)にならねば困(こま)る。031天(あま)の岩戸(いはと)開(びら)きの神業(しんげふ)に奉仕(ほうし)するのは、032末代(まつだい)名(な)の残(のこ)る事(こと)だ。033それを思(おも)うと一(いつ)分間(ぷんかん)でも無駄(むだ)に光陰(くわういん)を費(つひ)やすと云(い)ふ事(こと)は出来(でき)ないワ』
034蚊取別(かとりわけ)『喧(やかま)しう云(い)はずに寝(ね)る時分(じぶん)には寝(ね)るものだ。035最早(もはや)子(ね)の刻(こく)だ。036三(さん)人(にん)の宣伝使(せんでんし)が御(お)疲(くたび)れだから、037貴様(きさま)一人(ひとり)寝(ね)るのが厭(いや)なら、038門(かど)へ出(で)て其辺(そこら)を迂路付(うろつ)いて来(こ)い』
039初公(はつこう)『子(ね)の刻(こく)だから寝(ね)ると云(い)ふのか、040妙(めう)なコヂツケだな』
041蚊取別(かとりわけ)『コヂ付(つ)けでも何(なん)でもない。042開闢(かいびやく)の初(はじ)めから定(き)まり切(き)つた言霊(ことたま)の規則(きそく)だよ。043戌(いぬ)の刻限(こくげん)は、044人間(にんげん)のいぬる時(とき)だ。045ぬるの言霊(ことたま)は寝(ね)るのだ。046亥(ゐ)の刻限(こくげん)にはゐと云(い)うて休(やす)む時(とき)なのだ。047ゐも又(また)寝(ね)るのだ。048子(ね)の刻(こく)にはねるものだ。049戌(いぬ)亥(ゐ)子(ね)の三時(さんとき)は人間(にんげん)が一(いち)日(にち)の疲(つか)れをすつかり休(やす)めて華胥(くわしよ)の国(くに)に遊楽(いうらく)する刻限(こくげん)だ、050即(すなは)ち寝(ね)る時(とき)だよ。051十分(じふぶん)体(からだ)が休(やす)まつて、052ウーシとなると明日(みやうにち)の働(はたら)く元気(げんき)が身体(からだ)一面(いちめん)に、053ウーと張(は)り切(き)りシーと緊(しま)り、054トーと尖(とが)つて芽(め)をふき、055ラーと左旋(させん)運動(うんどう)を起(おこ)す。056それが寅(とら)の刻(こく)だ。057丑寅(うしとら)の刻(こく)に元気(げんき)を付(つ)けて、058ウーと太陽(たいやう)が卯(う)の方(はう)に上(のぼ)る時(とき)に人間(にんげん)も起(お)き出(い)で、059日天(につてん)様(さま)を拝(はい)し顔(かほ)を洗(あら)ひ嗽(うが)ひをし、060身魂(みたま)を清(きよ)めてそれから飯(めし)を食(く)ひ、061辰(たつ)の刻(こく)が来(く)れば立(た)つて働(はたら)く。062巳(み)の刻(こく)が来(く)れば、063霊魂(みたま)にも体(からだ)にも、064みが入(い)つて一日中(いちにちぢう)の大活動(だいくわつどう)時機(じき)となる。065午(うま)の刻(こく)になれば日天(につてん)様(さま)は中天(ちうてん)に上(のぼ)られ、066人間(にんげん)の体(からだ)も完全(うまら)に霊(れい)と体(たい)との活用(くわつよう)がウマク行(おこな)はれるのだ。067未(ひつじ)になれば火(ひ)の辻(つじ)と云(い)うて、068火(ひ)と水(みづ)との境目(さかひめ)だ。069それから段々(だんだん)下(さが)ると申(さる)の刻(こく)、070そこら一面(いちめん)に水気(すゐき)が下(さが)つて来(く)る。071酉(とり)の刻(こく)になれば一(いち)日(にち)の仕事(しごと)を取(と)り纏(まつ)べて、072其辺中(そこらぢう)を取片(とりかた)付(づ)け、073御飯(ごはん)をとり込(こ)んでまた神(かみ)様(さま)にお礼(れい)を申(まを)し、074皆(みな)揃(そろ)うて戌(いぬ)の刻(こく)になるといぬるのだよ』
075初公(はつこう)『お前(まへ)は割(わり)とは難(むつ)かしい事(こと)を知(し)つて居(を)る宣伝使(せんでんし)だねえ』
076蚊取別(かとりわけ)『根(ね)ツから葉(は)ツから蕪(かぶら)から菜種(なたね)迄(まで)、077宇宙(うちう)一切(いつさい)万事(ばんじ)万端(ばんたん)解決(かいけつ)が着(つ)かねば、078宣伝使(せんでんし)にはなれないのだよ。079牛(うし)の尻(けつ)ぢやないが、080牛(もう)の尻(しり)にならぬと世界(せかい)を助(たす)け廻(まは)る事(こと)は出来(でき)ぬ。081兎(と)も角(かく)宣伝使(せんでんし)が尤(もつと)も慎(つつし)むべき寅(とら)の刻(こく)、082オツトドツコイ、083虎(とら)の巻(まき)は何事(なにごと)も省(かへりみ)ると云(い)ふ事(こと)が一等(いつとう)だ、084卯(う)の刻(こく)ではない、085己惚心(うぬぼれごころ)を出(だ)してはならぬぞ。086自分(じぶん)は足(た)らはぬ者(もの)ぢや、087力(ちから)の弱(よわ)い者(もの)だ、088心(こころ)の汚(けが)れた者(もの)だ、089罪(つみ)の塊(かたまり)だと、090始終(しじう)心(こころ)に恥(は)ぢ、091悔(く)い、092畏(おそ)れ、093覚(さと)り、094省(かへり)みる様(やう)にならなくては神(かみ)様(さま)の御用(ごよう)は出来(でき)ない。095辰(たつ)と緯(よこ)との機(はた)の仕組(しぐみ)、096神(かみ)の因縁(いんねん)を良(よ)く諒解(りやうかい)し、097一方(いつぱう)に偏(かたよ)らず、098其(その)真(ま)ん中(なか)の道(みち)を歩(あゆ)み、099巳(み)の刻(こく)ではない、100身魂(みたま)を磨(みが)き身(み)を慎(つつし)み、101身贔屓(みびいき)身勝手(みがつて)は捨(す)て改(あらた)め、102猥(みだ)りに人(ひと)を審判(さば)かず、103心(こころ)は穏(おだや)かに春(はる)の如(ごと)く、104午(うま)の刻(こく)、105否(いな)うまく調和(てうわ)を取(と)つて神(かみ)に等(ひと)しき言霊(ことたま)を使(つか)ふのが本当(ほんたう)の神(かみ)の使(つかひ)だよ』
106初公(はつこう)『蚊取別(かとりわけ)さまの御(お)話(はなし)で大体(だいたい)甲子(きのえね)(昨日(きのふ))から随(つ)いて歩(ある)いて、107漸(やうや)く十二分(じふにぶん)の干支九(えとく)(会得(ゑとく))が出来(でけ)た。108然(しか)し一絃琴(いちげんきん)の音(ね)が益々(ますます)冴(さ)えて来(き)たぢやないか。109寝(ね)よと云(い)つたつて、110琴(こと)の音(ね)に耳(みみ)を澄(す)まされ子(ね)る事(こと)は出来(でき)はしない。111ことの外(ほか)真夜中(まよなか)過(すぎ)ての一絃琴(いちげんきん)だ。112一言(いちげん)禁止(きんし)する訳(わけ)には行(ゆ)こうまいかな』
113蚊取別(かとりわけ)『ハテナ、114あの琴(こと)の音(ね)はどうやら、115秘密(ひみつ)が潜(ひそ)むで居(を)るワイ。116此処(ここ)に来(き)たのも何(なに)か神(かみ)様(さま)の一(ひと)つの絃(つる)に操(あやつ)られて来(き)たのだらう』
117 一絃琴(いちげんきん)の音(ね)はピタリと止(や)むだ。118高光彦(たかてるひこ)を始(はじ)め初公(はつこう)は漸(やうや)く眠(ねむ)りに就(つ)いた。119蚊取別(かとりわけ)は一絃琴(いちげんきん)の耳(みみ)に入(い)りしより何(なん)となく胸(むね)騒(さわ)ぎ、120心(こころ)落着(おちつ)かず眠(ねむ)り兼(か)ね寝床(ねどこ)の上(うへ)に双手(もろで)を組(く)むで思案(しあん)に暮(く)れて居(ゐ)た。121又(また)もや微(かすか)に聞(きこ)ゆる琴(こと)の音(ね)、122微(かす)かに歌(うた)ふ声(こゑ)、123蚊取別(かとりわけ)は眠(ねむ)られぬ儘(まま)に、124琴(こと)の爪音(つまおと)を探(さぐ)りさぐり近付(ちかづ)いて襖(ふすま)の外(そと)に息(いき)を殺(ころ)し静(しづ)かに聞(き)き入(い)つた。125一室(ひとま)に女(をんな)の歌(うた)ふ声(こゑ)、
126祝姫『世(よ)は烏羽玉(うばたま)の暗(くら)くして
127黒白(あやめ)もわかぬ人心(ひとごころ)
128此(この)世(よ)の曲(まが)を天地(あめつち)の
129神(かみ)の伊吹(いぶ)きに祝姫(はふりひめ)
130山(やま)の尾(を)の上(へ)や川(かは)の瀬(せ)に
131威猛(ゐたけ)り狂(くる)ふ曲神(まがかみ)を
132言向(ことむ)け和(やは)し宣(の)り和(なご)め
133神(かみ)の恵(めぐ)みを四方(よも)の国(くに)
134百人(ももびと)千人(ちびと)に白瀬川(しらせがは)
135言(こと)の葉車(はぐるま)の滝津瀬(たきつせ)と
136逸(はや)れど曇(くも)る世(よ)の中(なか)は
137何(なん)の効果(しるし)もナイル河(がは)
138滝(たき)の涙(なみだ)も涸(か)れ果(は)てて
139緑(みどり)の色(いろ)も褪(あ)せにけり
140夏山彦(なつやまひこ)の神館(かむやかた)
141百日(ももか)百夜(ももよ)のもてなしも
142早(はや)秋月(あきづき)の滝(たき)の水(みづ)
143乾(かわ)くよしなき今(いま)の身(み)は
144生(い)きて甲斐(かひ)なき宣伝使(せんでんし)
145北光彦(きたてるひこ)の媒介(なかだち)に
146蚊取(かとり)の別(わけ)の妻(つま)となり
147比翼(ひよく)連理(れんり)の片袖(かたそで)も
148今(いま)は湿(しめ)りて濡衣(ぬれぎぬ)の
149乾(かわ)くよしなき浅猿(あさま)しさ
150シナイ山(ざん)より落(お)ちかかる
151秋月滝(あきづきたき)に身(み)を打(う)たれ
152醜(しこ)の魔神(まがみ)にさやられて
153神(かみ)に受(う)けたる玉(たま)の緒(を)の
154息(いき)も絶(た)えなむ時(とき)もあれ
155情(なさけ)も深(ふか)き夏山彦(なつやまひこ)の
156貴(うづ)の命(みこと)に助(たす)けられ
157病(いたづ)き悩(なや)む現身(うつそみ)を
158これの館(やかた)に横(よこ)たへて
159朝(あさ)な夕(ゆふ)なの慈(いつくし)み
160身(み)も健(すこや)かになりぬれば
161愈(いよいよ)此(この)家(や)を立(た)ち出(い)でて
162天(あめ)が下(した)をば駆巡(かけめぐ)り
163三五教(あななひけう)の御教(みをしへ)に
164常夜(とこよ)の暗(やみ)の戸(と)をあけて
165荒(あら)振(ぶ)る神(かみ)や醜神(しこがみ)の
166魂(たま)照(てら)さむと思(おも)ふ間(うち)
167思(おも)ひがけなき夏山彦(なつやまひこ)の
168貴(うづ)の命(みこと)の横恋慕(よこれんぼ)
169夫(をつと)ある身(み)も白瀬川(しらせがは)
170流(なが)す浮名(うきな)の恐(おそ)ろしく
171操(みさを)破(やぶ)らぬ祝姫(はふりひめ)
172アヽさりながらさりながら
173世人(よびと)の口(くち)の怖(おそ)ろしく
174戸(と)もたてられぬ我(わが)思(おも)ひ
175義理(ぎり)と情(なさけ)にほだされて
176操(みさを)の松(まつ)も萎(しを)れ行(ゆ)く
177嗚呼(ああ)如何(いか)にせむ蚊取別(かとりわけ)
178夫(つま)の命(みこと)が此(この)噂(うはさ)
179聞(きこ)し召(め)しなば如何(いか)にせむ
180夏山彦(なつやまひこ)は名(な)にし負(お)ふ
181心(こころ)目出度(めでた)き貴(うづ)の司(きみ)
182神(かみ)ならぬ身(み)の祝姫(はふりひめ)
183夫(つま)持(も)つ吾(われ)と知(し)らずして
184恋(こひ)の小田巻(をだまき)繰返(くりかへ)し
185返(かへ)し重(かさ)ねて朝夕(あさゆふ)に
186心(こころ)の丈(たけ)を割(わ)りなくも
187口説(くど)き給(たま)ふぞ悲(かな)しけれ
188此(こ)の世(よ)を造(つく)りし神直日(かむなほひ)
189心(こころ)も広(ひろ)き大直日(おほなほひ)
190只(ただ)何事(なにごと)も人(ひと)の世(よ)は
191直日(なほひ)に見直(みなほ)し聞(き)き直(なほ)し
192世(よ)の過(あやま)ちを宣(の)り直(なほ)す
193三五教(あななひけう)の守(まも)り神(がみ)
194百(もも)の神(かみ)たち我(わが)胸(むね)の
195暗(くら)き帳(とばり)を引(ひ)きあけて
196心(こころ)を晴(は)らせ八重雲(やへくも)を
197伊吹(いぶ)き祓(はら)ひて日月(じつげつ)の
198光(ひかり)照(て)らさせ給(たま)へかし
199蚊取別(かとりわけ)てふ背(せ)の君(きみ)は
200今(いま)は何処(いづこ)に荒野原(あらのはら)
201独(ひと)り苦(くる)しき漂浪(さすらひ)の
202旅(たび)を続(つづ)かせ給(たま)ふらむ
203逢(あ)ひたさ見(み)たさ身(み)の詰(つま)り
204只(ただ)一言(ひとこと)の言霊(ことたま)の
205夫(つま)の命(みこと)に通(かよ)へよや
206峰(みね)の嵐(あらし)や松風(まつかぜ)に
207寄(よ)せて妾(わらは)が琴(こと)の音(ね)を
208夫(つま)の命(みこと)に送(おく)れかし
209夫(つま)の命(みこと)に送(おく)れかし』
210と静(しづ)かに歌(うた)つて居(ゐ)る。211蚊取別(かとりわけ)は思(おも)はず、212ウンウンと溜息(ためいき)つきながら足音(あしおと)高(たか)く我(わが)居間(ゐま)に立帰(たちかへ)り、213四(よ)人(にん)と共(とも)に床(とこ)の上(うへ)にコロリと伏(ふ)し、214夜(よ)の明(あ)くるを今(いま)や遅(おそ)しと待(ま)ち居(ゐ)たりける。
215(大正一一・三・九 旧二・一一 藤津久子録)
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