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霊界物語
霊主体従(第1~12巻)
第12巻(亥の巻)
序文
凡例
総説歌
第1篇 天岩戸開(一)
第1章 正神邪霊
第2章 直会宴
第3章 蚊取別
第4章 初蚊斧
第5章 初貫徹
第6章 招待
第7章 覚醒
第2篇 天岩戸開(二)
第8章 思出の歌
第9章 正夢
第10章 深夜の琴
第11章 十二支
第12章 化身
第13章 秋月滝
第14章 大蛇ケ原
第15章 宣直し
第16章 国武丸
第3篇 天岩戸開(三)
第17章 雲の戸開
第18章 水牛
第19章 呉の海原
第20章 救ひ舟
第21章 立花島
第22章 一島攻撃
第23章 短兵急
第24章 言霊の徳
第25章 琴平丸
第26章 秋月皎々
第27章 航空船
第4篇 古事記略解
第28章 三柱の貴子
第29章 子生の誓
第30章 天の岩戸
余白歌
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第12巻(亥の巻)
> 第2篇 天岩戸開(二) > 第10章 深夜の琴
<<< 正夢
(B)
(N)
十二支 >>>
第一〇章
深夜
(
しんや
)
の
琴
(
こと
)
〔五〇六〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第12巻 霊主体従 亥の巻
篇:
第2篇 天岩戸開(二)
よみ(新仮名遣い):
あまのいわとびらき(二)
章:
第10章 深夜の琴
よみ(新仮名遣い):
しんやのこと
通し章番号:
506
口述日:
1922(大正11)年03月09日(旧02月11日)
口述場所:
筆録者:
藤津久子
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1922(大正11)年9月30日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
初公は一弦琴の音を聞いて、酋長の館に若い女性がいるのではないかと勘ぐる。蚊取別は夜も更けたことで、休もうと一同に提案し、皆眠りに就くことになった。
蚊取別は一弦琴の主が気にかかり、ふすまの外で歌う女の声にそっと聞き入っている。果たしてそれは、蚊取別の妻・祝姫であった。
祝姫は、白瀬川の滝で邪神にさえぎられて行き悩んでいた自分を、酋長・夏山彦が助けてくれたのだが、夏山彦は自分に思いを架けており、そのために悩んでいることを歌に歌いこんでいた。
祝姫は、悩みを解くために早く夫・蚊取別に会いたい、と歌って歌を終えた。
蚊取別は祝姫の歌を聞き終わると、寝室に戻って宣伝使たちの間にごろりと横になった。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
[×閉じる]
:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2020-11-12 00:34:59
OBC :
rm1210
愛善世界社版:
87頁
八幡書店版:
第2輯 657頁
修補版:
校定版:
91頁
普及版:
37頁
初版:
ページ備考:
001
夏山彦
(
なつやまひこ
)
は
一同
(
いちどう
)
に
向
(
むか
)
ひ、
002
夏山彦
『
最早
(
もはや
)
夜
(
よ
)
も
深更
(
しんかう
)
に
及
(
およ
)
びましたれば、
003
緩
(
ゆる
)
りと
御
(
お
)
寝
(
やす
)
み
下
(
くだ
)
さいませ。
004
また
明朝
(
みやうてう
)
、
005
緩々
(
ゆるゆる
)
と
御
(
お
)
話
(
はなし
)
を
承
(
うけたま
)
はりませう』
006
と
一同
(
いちどう
)
に
会釈
(
ゑしやく
)
し
一間
(
ひとま
)
に
姿
(
すがた
)
を
隠
(
かく
)
した。
007
初公
(
はつこう
)
『
蚊取別
(
かとりわけ
)
さま、
008
この
度
(
たび
)
は
夢
(
ゆめ
)
ぢやなからうなア。
009
アイタヽヽヽ』
010
蚊取別
(
かとりわけ
)
『アハヽヽヽ、
011
矢張
(
やつぱ
)
り
痛
(
いた
)
いか、
012
痛
(
いた
)
けりや
本当
(
ほんたう
)
だ。
013
安心
(
あんしん
)
して
寝
(
やす
)
むだら
宜
(
よ
)
からう』
014
初公
(
はつこう
)
『あの
一絃琴
(
いちげんきん
)
の
音
(
ね
)
はどうだ。
015
小督
(
こごう
)
の
局
(
つぼね
)
が
居
(
を
)
るのぢやなからうかな。
016
「
峰
(
みね
)
の
嵐
(
あらし
)
か
松風
(
まつかぜ
)
か、
017
恋
(
こひ
)
しき
人
(
ひと
)
の
琴
(
こと
)
の
音
(
ね
)
か、
018
駒
(
こま
)
を
留
(
とど
)
めて
聞
(
き
)
くからに、
019
爪音
(
つまおと
)
しるき
想夫憐
(
さうふれん
)
」
020
と
云
(
い
)
つた
奴
(
やつ
)
だナア』
021
蚊取別
(
かとりわけ
)
『
馬鹿
(
ばか
)
云
(
い
)
ふな。
022
夫
(
そ
)
れは
何十万
(
なんじふまん
)
年
(
ねん
)
未来
(
みらい
)
の
世
(
よ
)
の
出来事
(
できごと
)
だ。
023
今
(
いま
)
は
天
(
あま
)
の
岩戸
(
いはと
)
隠
(
がく
)
れの
神代
(
かみよ
)
だぞ』
024
初公
(
はつこう
)
『
過去
(
くわこ
)
現在
(
げんざい
)
未来
(
みらい
)
を
一貫
(
いつくわん
)
し、
025
時間
(
じかん
)
空間
(
くうかん
)
を
超越
(
てうゑつ
)
するのが
神界
(
しんかい
)
の
経綸
(
けいりん
)
ぢやないか。
026
己
(
おれ
)
が
斯
(
か
)
うして
夏山彦
(
なつやまひこ
)
の
館
(
やかた
)
に
一絃琴
(
いちげんきん
)
を
聞
(
き
)
いて
彼是
(
かれこれ
)
噂
(
うはさ
)
して
居
(
ゐ
)
た
事
(
こと
)
を
何十万
(
なんじふまん
)
年
(
ねん
)
の
未来
(
みらい
)
の
世
(
よ
)
の
狂人
(
きちがひ
)
が、
027
霊界
(
れいかい
)
物語
(
ものがたり
)
だと
云
(
い
)
つて
喋
(
しや
)
べる
様
(
やう
)
になるのだ。
028
是
(
これ
)
も
神界
(
しんかい
)
の
仕組
(
しぐみ
)
だよ。
029
さうだから、
030
ちつとでも
今
(
いま
)
の
間
(
うち
)
に
善
(
よ
)
い
事
(
こと
)
をして
未来
(
みらい
)
の
人間
(
にんげん
)
に
持
(
も
)
て
囃
(
はや
)
される
様
(
やう
)
にならねば
困
(
こま
)
る。
031
天
(
あま
)
の
岩戸
(
いはと
)
開
(
びら
)
きの
神業
(
しんげふ
)
に
奉仕
(
ほうし
)
するのは、
032
末代
(
まつだい
)
名
(
な
)
の
残
(
のこ
)
る
事
(
こと
)
だ。
033
それを
思
(
おも
)
うと
一
(
いつ
)
分間
(
ぷんかん
)
でも
無駄
(
むだ
)
に
光陰
(
くわういん
)
を
費
(
つひ
)
やすと
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
ないワ』
034
蚊取別
(
かとりわけ
)
『
喧
(
やかま
)
しう
云
(
い
)
はずに
寝
(
ね
)
る
時分
(
じぶん
)
には
寝
(
ね
)
るものだ。
035
最早
(
もはや
)
子
(
ね
)
の
刻
(
こく
)
だ。
036
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
が
御
(
お
)
疲
(
くたび
)
れだから、
037
貴様
(
きさま
)
一人
(
ひとり
)
寝
(
ね
)
るのが
厭
(
いや
)
なら、
038
門
(
かど
)
へ
出
(
で
)
て
其辺
(
そこら
)
を
迂路付
(
うろつ
)
いて
来
(
こ
)
い』
039
初公
(
はつこう
)
『
子
(
ね
)
の
刻
(
こく
)
だから
寝
(
ね
)
ると
云
(
い
)
ふのか、
040
妙
(
めう
)
なコヂツケだな』
041
蚊取別
(
かとりわけ
)
『コヂ
付
(
つ
)
けでも
何
(
なん
)
でもない。
042
開闢
(
かいびやく
)
の
初
(
はじ
)
めから
定
(
き
)
まり
切
(
き
)
つた
言霊
(
ことたま
)
の
規則
(
きそく
)
だよ。
043
戌
(
いぬ
)
の
刻限
(
こくげん
)
は、
044
人間
(
にんげん
)
の
いぬる
時
(
とき
)
だ。
045
ぬるの
言霊
(
ことたま
)
は
寝
(
ね
)
るのだ。
046
亥
(
ゐ
)
の
刻限
(
こくげん
)
には
ゐ
と
云
(
い
)
うて
休
(
やす
)
む
時
(
とき
)
なのだ。
047
ゐ
も
又
(
また
)
寝
(
ね
)
るのだ。
048
子
(
ね
)
の
刻
(
こく
)
には
ねる
ものだ。
049
戌
(
いぬ
)
亥
(
ゐ
)
子
(
ね
)
の
三時
(
さんとき
)
は
人間
(
にんげん
)
が
一
(
いち
)
日
(
にち
)
の
疲
(
つか
)
れをすつかり
休
(
やす
)
めて
華胥
(
くわしよ
)
の
国
(
くに
)
に
遊楽
(
いうらく
)
する
刻限
(
こくげん
)
だ、
050
即
(
すなは
)
ち
寝
(
ね
)
る
時
(
とき
)
だよ。
051
十分
(
じふぶん
)
体
(
からだ
)
が
休
(
やす
)
まつて、
052
ウ
ー
シ
となると
明日
(
みやうにち
)
の
働
(
はたら
)
く
元気
(
げんき
)
が
身体
(
からだ
)
一面
(
いちめん
)
に、
053
ウー
と
張
(
は
)
り
切
(
き
)
り
シー
と
緊
(
し
ま
)
り、
054
ト
ーと
尖
(
と
が
)
つて
芽
(
め
)
をふき、
055
ラ
ーと
左旋
(
させん
)
運動
(
うんどう
)
を
起
(
おこ
)
す。
056
それが
寅
(
と
ら
)
の
刻
(
こく
)
だ。
057
丑寅
(
うしとら
)
の
刻
(
こく
)
に
元気
(
げんき
)
を
付
(
つ
)
けて、
058
ウ
ーと
太陽
(
たいやう
)
が
卯
(
う
)
の
方
(
はう
)
に
上
(
のぼ
)
る
時
(
とき
)
に
人間
(
にんげん
)
も
起
(
お
)
き
出
(
い
)
で、
059
日天
(
につてん
)
様
(
さま
)
を
拝
(
はい
)
し
顔
(
かほ
)
を
洗
(
あら
)
ひ
嗽
(
う
が
)
ひをし、
060
身魂
(
みたま
)
を
清
(
きよ
)
めてそれから
飯
(
めし
)
を
食
(
く
)
ひ、
061
辰
(
た
つ
)
の
刻
(
こく
)
が
来
(
く
)
れば
立
(
た
)
つて
働
(
はたら
)
く。
062
巳
(
み
)
の
刻
(
こく
)
が
来
(
く
)
れば、
063
霊魂
(
み
たま
)
にも
体
(
からだ
)
にも、
064
み
が
入
(
い
)
つて
一日中
(
いちにちぢう
)
の
大活動
(
だいくわつどう
)
時機
(
じき
)
となる。
065
午
(
うま
)
の
刻
(
こく
)
になれば
日天
(
につてん
)
様
(
さま
)
は
中天
(
ちうてん
)
に
上
(
のぼ
)
られ、
066
人間
(
にんげん
)
の
体
(
からだ
)
も
完全
(
うま
ら
)
に
霊
(
れい
)
と
体
(
たい
)
との
活用
(
くわつよう
)
がウマク
行
(
おこな
)
はれるのだ。
067
未
(
ひつじ
)
になれば
火
(
ひ
)
の
辻
(
つじ
)
と
云
(
い
)
うて、
068
火
(
ひ
)
と
水
(
みづ
)
との
境目
(
さかひめ
)
だ。
069
それから
段々
(
だんだん
)
下
(
さが
)
ると
申
(
さる
)
の
刻
(
こく
)
、
070
そこら
一面
(
いちめん
)
に
水気
(
すゐき
)
が
下
(
さが
)
つて
来
(
く
)
る。
071
酉
(
とり
)
の
刻
(
こく
)
になれば
一
(
いち
)
日
(
にち
)
の
仕事
(
しごと
)
を
取
(
と
)
り
纏
(
まつ
)
べて、
072
其辺中
(
そこらぢう
)
を
取片
(
とり
かた
)
付
(
づ
)
け、
073
御飯
(
ごはん
)
を
とり
込
(
こ
)
んでまた
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
にお
礼
(
れい
)
を
申
(
まを
)
し、
074
皆
(
みな
)
揃
(
そろ
)
うて
戌
(
いぬ
)
の
刻
(
こく
)
になると
いぬる
のだよ』
075
初公
(
はつこう
)
『お
前
(
まへ
)
は
割
(
わり
)
とは
難
(
むつ
)
かしい
事
(
こと
)
を
知
(
し
)
つて
居
(
を
)
る
宣伝使
(
せんでんし
)
だねえ』
076
蚊取別
(
かとりわけ
)
『
根
(
ね
)
ツから
葉
(
は
)
ツから
蕪
(
かぶら
)
から
菜種
(
なたね
)
迄
(
まで
)
、
077
宇宙
(
うちう
)
一切
(
いつさい
)
万事
(
ばんじ
)
万端
(
ばんたん
)
解決
(
かいけつ
)
が
着
(
つ
)
かねば、
078
宣伝使
(
せんでんし
)
にはなれないのだよ。
079
牛
(
うし
)
の
尻
(
けつ
)
ぢやないが、
080
牛
(
もう
)
の
尻
(
しり
)
にならぬと
世界
(
せかい
)
を
助
(
たす
)
け
廻
(
まは
)
る
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
ぬ。
081
兎
(
と
)
も
角
(
かく
)
宣伝使
(
せんでんし
)
が
尤
(
もつと
)
も
慎
(
つつし
)
むべき
寅
(
とら
)
の
刻
(
こく
)
、
082
オツトドツコイ、
083
虎
(
とら
)
の
巻
(
まき
)
は
何事
(
なにごと
)
も
省
(
かへりみ
)
ると
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
が
一等
(
いつとう
)
だ、
084
卯
(
う
)
の
刻
(
こく
)
ではない、
085
己惚心
(
うぬぼれごころ
)
を
出
(
だ
)
してはならぬぞ。
086
自分
(
じぶん
)
は
足
(
た
)
らはぬ
者
(
もの
)
ぢや、
087
力
(
ちから
)
の
弱
(
よわ
)
い
者
(
もの
)
だ、
088
心
(
こころ
)
の
汚
(
けが
)
れた
者
(
もの
)
だ、
089
罪
(
つみ
)
の
塊
(
かたまり
)
だと、
090
始終
(
しじう
)
心
(
こころ
)
に
恥
(
は
)
ぢ、
091
悔
(
く
)
い、
092
畏
(
おそ
)
れ、
093
覚
(
さと
)
り、
094
省
(
かへり
)
みる
様
(
やう
)
にならなくては
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
御用
(
ごよう
)
は
出来
(
でき
)
ない。
095
辰
(
たつ
)
と
緯
(
よこ
)
との
機
(
はた
)
の
仕組
(
しぐみ
)
、
096
神
(
かみ
)
の
因縁
(
いんねん
)
を
良
(
よ
)
く
諒解
(
りやうかい
)
し、
097
一方
(
いつぱう
)
に
偏
(
かたよ
)
らず、
098
其
(
その
)
真
(
ま
)
ん
中
(
なか
)
の
道
(
みち
)
を
歩
(
あゆ
)
み、
099
巳
(
み
)
の
刻
(
こく
)
ではない、
100
身魂
(
み
たま
)
を
磨
(
み
が
)
き
身
(
み
)
を
慎
(
つつし
)
み、
101
身贔屓
(
み
びいき
)
身勝手
(
み
がつて
)
は
捨
(
す
)
て
改
(
あらた
)
め、
102
猥
(
みだ
)
りに
人
(
ひと
)
を
審判
(
さば
)
かず、
103
心
(
こころ
)
は
穏
(
おだや
)
かに
春
(
はる
)
の
如
(
ごと
)
く、
104
午
(
うま
)
の
刻
(
こく
)
、
105
否
(
いな
)
うま
く
調和
(
てうわ
)
を
取
(
と
)
つて
神
(
かみ
)
に
等
(
ひと
)
しき
言霊
(
ことたま
)
を
使
(
つか
)
ふのが
本当
(
ほんたう
)
の
神
(
かみ
)
の
使
(
つかひ
)
だよ』
106
初公
(
はつこう
)
『
蚊取別
(
かとりわけ
)
さまの
御
(
お
)
話
(
はなし
)
で
大体
(
だいたい
)
甲子
(
きのえね
)
(
昨日
(
きのふ
)
)から
随
(
つ
)
いて
歩
(
ある
)
いて、
107
漸
(
やうや
)
く
十二
分
(
じふにぶん
)
の
干支九
(
えとく
)
(
会得
(
ゑとく
)
)が
出来
(
でけ
)
た。
108
然
(
しか
)
し
一絃琴
(
いちげんきん
)
の
音
(
ね
)
が
益々
(
ますます
)
冴
(
さ
)
えて
来
(
き
)
たぢやないか。
109
寝
(
ね
)
よと
云
(
い
)
つたつて、
110
琴
(
こと
)
の
音
(
ね
)
に
耳
(
みみ
)
を
澄
(
す
)
まされ
子
(
ね
)
る
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
はしない。
111
こと
の
外
(
ほか
)
真夜中
(
まよなか
)
過
(
すぎ
)
ての
一絃琴
(
いちげんきん
)
だ。
112
一言
(
いちげん
)
禁止
(
きんし
)
する
訳
(
わけ
)
には
行
(
ゆ
)
こうまいかな』
113
蚊取別
(
かとりわけ
)
『ハテナ、
114
あの
琴
(
こと
)
の
音
(
ね
)
はどうやら、
115
秘密
(
ひみつ
)
が
潜
(
ひそ
)
むで
居
(
を
)
るワイ。
116
此処
(
ここ
)
に
来
(
き
)
たのも
何
(
なに
)
か
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
一
(
ひと
)
つの
絃
(
つる
)
に
操
(
あやつ
)
られて
来
(
き
)
たのだらう』
117
一絃琴
(
いちげんきん
)
の
音
(
ね
)
はピタリと
止
(
や
)
むだ。
118
高光彦
(
たかてるひこ
)
を
始
(
はじ
)
め
初公
(
はつこう
)
は
漸
(
やうや
)
く
眠
(
ねむ
)
りに
就
(
つ
)
いた。
119
蚊取別
(
かとりわけ
)
は
一絃琴
(
いちげんきん
)
の
耳
(
みみ
)
に
入
(
い
)
りしより
何
(
なん
)
となく
胸
(
むね
)
騒
(
さわ
)
ぎ、
120
心
(
こころ
)
落着
(
おちつ
)
かず
眠
(
ねむ
)
り
兼
(
か
)
ね
寝床
(
ねどこ
)
の
上
(
うへ
)
に
双手
(
もろで
)
を
組
(
く
)
むで
思案
(
しあん
)
に
暮
(
く
)
れて
居
(
ゐ
)
た。
121
又
(
また
)
もや
微
(
かすか
)
に
聞
(
きこ
)
ゆる
琴
(
こと
)
の
音
(
ね
)
、
122
微
(
かす
)
かに
歌
(
うた
)
ふ
声
(
こゑ
)
、
123
蚊取別
(
かとりわけ
)
は
眠
(
ねむ
)
られぬ
儘
(
まま
)
に、
124
琴
(
こと
)
の
爪音
(
つまおと
)
を
探
(
さぐ
)
りさぐり
近付
(
ちかづ
)
いて
襖
(
ふすま
)
の
外
(
そと
)
に
息
(
いき
)
を
殺
(
ころ
)
し
静
(
しづ
)
かに
聞
(
き
)
き
入
(
い
)
つた。
125
一室
(
ひとま
)
に
女
(
をんな
)
の
歌
(
うた
)
ふ
声
(
こゑ
)
、
126
祝姫
『
世
(
よ
)
は
烏羽玉
(
うばたま
)
の
暗
(
くら
)
くして
127
黒白
(
あやめ
)
もわかぬ
人心
(
ひとごころ
)
128
此
(
この
)
世
(
よ
)
の
曲
(
まが
)
を
天地
(
あめつち
)
の
129
神
(
かみ
)
の
伊吹
(
いぶ
)
きに
祝姫
(
はふりひめ
)
130
山
(
やま
)
の
尾
(
を
)
の
上
(
へ
)
や
川
(
かは
)
の
瀬
(
せ
)
に
131
威猛
(
ゐたけ
)
り
狂
(
くる
)
ふ
曲神
(
まがかみ
)
を
132
言向
(
ことむ
)
け
和
(
やは
)
し
宣
(
の
)
り
和
(
なご
)
め
133
神
(
かみ
)
の
恵
(
めぐ
)
みを
四方
(
よも
)
の
国
(
くに
)
134
百人
(
ももびと
)
千人
(
ちびと
)
に
白瀬川
(
しらせがは
)
135
言
(
こと
)
の
葉車
(
はぐるま
)
の
滝津瀬
(
たきつせ
)
と
136
逸
(
はや
)
れど
曇
(
くも
)
る
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
は
137
何
(
なん
)
の
効果
(
しるし
)
もナイル
河
(
がは
)
138
滝
(
たき
)
の
涙
(
なみだ
)
も
涸
(
か
)
れ
果
(
は
)
てて
139
緑
(
みどり
)
の
色
(
いろ
)
も
褪
(
あ
)
せにけり
140
夏山彦
(
なつやまひこ
)
の
神館
(
かむやかた
)
141
百日
(
ももか
)
百夜
(
ももよ
)
のもてなしも
142
早
(
はや
)
秋月
(
あきづき
)
の
滝
(
たき
)
の
水
(
みづ
)
143
乾
(
かわ
)
くよしなき
今
(
いま
)
の
身
(
み
)
は
144
生
(
い
)
きて
甲斐
(
かひ
)
なき
宣伝使
(
せんでんし
)
145
北光彦
(
きたてるひこ
)
の
媒介
(
なかだち
)
に
146
蚊取
(
かとり
)
の
別
(
わけ
)
の
妻
(
つま
)
となり
147
比翼
(
ひよく
)
連理
(
れんり
)
の
片袖
(
かたそで
)
も
148
今
(
いま
)
は
湿
(
しめ
)
りて
濡衣
(
ぬれぎぬ
)
の
149
乾
(
かわ
)
くよしなき
浅猿
(
あさま
)
しさ
150
シナイ
山
(
ざん
)
より
落
(
お
)
ちかかる
151
秋月滝
(
あきづきたき
)
に
身
(
み
)
を
打
(
う
)
たれ
152
醜
(
しこ
)
の
魔神
(
まがみ
)
にさやられて
153
神
(
かみ
)
に
受
(
う
)
けたる
玉
(
たま
)
の
緒
(
を
)
の
154
息
(
いき
)
も
絶
(
た
)
えなむ
時
(
とき
)
もあれ
155
情
(
なさけ
)
も
深
(
ふか
)
き
夏山彦
(
なつやまひこ
)
の
156
貴
(
うづ
)
の
命
(
みこと
)
に
助
(
たす
)
けられ
157
病
(
いたづ
)
き
悩
(
なや
)
む
現身
(
うつそみ
)
を
158
これの
館
(
やかた
)
に
横
(
よこ
)
たへて
159
朝
(
あさ
)
な
夕
(
ゆふ
)
なの
慈
(
いつくし
)
み
160
身
(
み
)
も
健
(
すこや
)
かになりぬれば
161
愈
(
いよいよ
)
此
(
この
)
家
(
や
)
を
立
(
た
)
ち
出
(
い
)
でて
162
天
(
あめ
)
が
下
(
した
)
をば
駆巡
(
かけめぐ
)
り
163
三五教
(
あななひけう
)
の
御教
(
みをしへ
)
に
164
常夜
(
とこよ
)
の
暗
(
やみ
)
の
戸
(
と
)
をあけて
165
荒
(
あら
)
振
(
ぶ
)
る
神
(
かみ
)
や
醜神
(
しこがみ
)
の
166
魂
(
たま
)
照
(
てら
)
さむと
思
(
おも
)
ふ
間
(
うち
)
167
思
(
おも
)
ひがけなき
夏山彦
(
なつやまひこ
)
の
168
貴
(
うづ
)
の
命
(
みこと
)
の
横恋慕
(
よこれんぼ
)
169
夫
(
をつと
)
ある
身
(
み
)
も
白瀬川
(
しらせがは
)
170
流
(
なが
)
す
浮名
(
うきな
)
の
恐
(
おそ
)
ろしく
171
操
(
みさを
)
破
(
やぶ
)
らぬ
祝姫
(
はふりひめ
)
172
アヽさりながらさりながら
173
世人
(
よびと
)
の
口
(
くち
)
の
怖
(
おそ
)
ろしく
174
戸
(
と
)
もたてられぬ
我
(
わが
)
思
(
おも
)
ひ
175
義理
(
ぎり
)
と
情
(
なさけ
)
にほだされて
176
操
(
みさを
)
の
松
(
まつ
)
も
萎
(
しを
)
れ
行
(
ゆ
)
く
177
嗚呼
(
ああ
)
如何
(
いか
)
にせむ
蚊取別
(
かとりわけ
)
178
夫
(
つま
)
の
命
(
みこと
)
が
此
(
この
)
噂
(
うはさ
)
179
聞
(
きこ
)
し
召
(
め
)
しなば
如何
(
いか
)
にせむ
180
夏山彦
(
なつやまひこ
)
は
名
(
な
)
にし
負
(
お
)
ふ
181
心
(
こころ
)
目出度
(
めでた
)
き
貴
(
うづ
)
の
司
(
きみ
)
182
神
(
かみ
)
ならぬ
身
(
み
)
の
祝姫
(
はふりひめ
)
183
夫
(
つま
)
持
(
も
)
つ
吾
(
われ
)
と
知
(
し
)
らずして
184
恋
(
こひ
)
の
小田巻
(
をだまき
)
繰返
(
くりかへ
)
し
185
返
(
かへ
)
し
重
(
かさ
)
ねて
朝夕
(
あさゆふ
)
に
186
心
(
こころ
)
の
丈
(
たけ
)
を
割
(
わ
)
りなくも
187
口説
(
くど
)
き
給
(
たま
)
ふぞ
悲
(
かな
)
しけれ
188
此
(
こ
)
の
世
(
よ
)
を
造
(
つく
)
りし
神直日
(
かむなほひ
)
189
心
(
こころ
)
も
広
(
ひろ
)
き
大直日
(
おほなほひ
)
190
只
(
ただ
)
何事
(
なにごと
)
も
人
(
ひと
)
の
世
(
よ
)
は
191
直日
(
なほひ
)
に
見直
(
みなほ
)
し
聞
(
き
)
き
直
(
なほ
)
し
192
世
(
よ
)
の
過
(
あやま
)
ちを
宣
(
の
)
り
直
(
なほ
)
す
193
三五教
(
あななひけう
)
の
守
(
まも
)
り
神
(
がみ
)
194
百
(
もも
)
の
神
(
かみ
)
たち
我
(
わが
)
胸
(
むね
)
の
195
暗
(
くら
)
き
帳
(
とばり
)
を
引
(
ひ
)
きあけて
196
心
(
こころ
)
を
晴
(
は
)
らせ
八重雲
(
やへくも
)
を
197
伊吹
(
いぶ
)
き
祓
(
はら
)
ひて
日月
(
じつげつ
)
の
198
光
(
ひかり
)
照
(
て
)
らさせ
給
(
たま
)
へかし
199
蚊取別
(
かとりわけ
)
てふ
背
(
せ
)
の
君
(
きみ
)
は
200
今
(
いま
)
は
何処
(
いづこ
)
に
荒野原
(
あらのはら
)
201
独
(
ひと
)
り
苦
(
くる
)
しき
漂浪
(
さすらひ
)
の
202
旅
(
たび
)
を
続
(
つづ
)
かせ
給
(
たま
)
ふらむ
203
逢
(
あ
)
ひたさ
見
(
み
)
たさ
身
(
み
)
の
詰
(
つま
)
り
204
只
(
ただ
)
一言
(
ひとこと
)
の
言霊
(
ことたま
)
の
205
夫
(
つま
)
の
命
(
みこと
)
に
通
(
かよ
)
へよや
206
峰
(
みね
)
の
嵐
(
あらし
)
や
松風
(
まつかぜ
)
に
207
寄
(
よ
)
せて
妾
(
わらは
)
が
琴
(
こと
)
の
音
(
ね
)
を
208
夫
(
つま
)
の
命
(
みこと
)
に
送
(
おく
)
れかし
209
夫
(
つま
)
の
命
(
みこと
)
に
送
(
おく
)
れかし』
210
と
静
(
しづ
)
かに
歌
(
うた
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
211
蚊取別
(
かとりわけ
)
は
思
(
おも
)
はず、
212
ウンウンと
溜息
(
ためいき
)
つきながら
足音
(
あしおと
)
高
(
たか
)
く
我
(
わが
)
居間
(
ゐま
)
に
立帰
(
たちかへ
)
り、
213
四
(
よ
)
人
(
にん
)
と
共
(
とも
)
に
床
(
とこ
)
の
上
(
うへ
)
にコロリと
伏
(
ふ
)
し、
214
夜
(
よ
)
の
明
(
あ
)
くるを
今
(
いま
)
や
遅
(
おそ
)
しと
待
(
ま
)
ち
居
(
ゐ
)
たりける。
215
(
大正一一・三・九
旧二・一一
藤津久子
録)
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