霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第二八章 三柱(みはしら)の貴子(みこ)〔五二四〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第12巻 霊主体従 亥の巻 篇:第4篇 古事記略解 よみ(新仮名遣い):こじきりゃっかい
章:第28章 三柱の貴子 よみ(新仮名遣い):みはしらのみこ 通し章番号:524
口述日: 口述場所: 筆録者:谷村真友[#講演筆録] 校正日: 校正場所: 初版発行日:1922(大正11)年9月30日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
伊邪那岐命は霊界の主宰者として、左の目を洗って、天照大御神を生みなされた。また右の目を洗って、月読命を生みなされた。目はもっとも重要な部分であり、宇宙を納める文字通り眼なのである。
天照大御神は、綾部の本部で祭っている神様である。
次に鼻を洗って須佐之男命を生みなされた。鼻は物質の元を意味する。また真ん中の位置を示し、統治を表すのである。
三貴神を得た伊邪那岐命は、喜んで御頸玉を天照大御神にお授けになった。この御頸玉の言霊解は、恒天暦、太陽暦、太陰暦の三つの暦をお授けになった、ということである。
天照大御神は全大宇宙の主宰であり、月読命はそれを助ける補佐の役目を与えられた、ということである。須佐之男命の海原とは、地球を意味している。
したがって、天孫降臨以前は、須佐之男命が地上をしろしめしていたことが、古事記からわかるのである。
しかし地上が混乱し、須佐之男命はたいへんお嘆きになった。神代といえども世が行き詰まって、さまざまなよからぬ事件が起こってきた。今日の状態も、古事記に見られる神代のこの岩戸開き前によく似ている。
伊邪那岐命は、このような状態になってしまったことで、須佐之男命を責められた。これは文武百官が体主霊従に陥り、政党の争いがあるため、須佐之男命がなにほど一柱で努力されても、混乱を治めることができなくなってしまったのである。
そのため、須佐之男命は責任をかぶり、母神・伊邪那美命のまします根の堅洲国(月界)へと帰りたい、と申し出たのである。
伊邪那岐命は、こうなってしまった原因は体主霊従の神々らにあることはわかっているのだが、彼らの眼を覚ますために敢えて、自分の子である須佐之男命を罰して、もって広く神々らを改心させようとしたのであった。
しかし体主霊従に陥った八百万の神々らは、かえって須佐之男命が主宰者として不適格であったと、冷淡な間違った考え方を持っていた。まことに、治めがたい世であったのである。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2021-06-12 11:34:25 文字数:6563 OBC :rm1228
愛善世界社版:243頁 八幡書店版:第2輯 716頁 修補版: 校定版:259頁 普及版:107頁 初版: ページ備考:
初出[?]この文献の初出または底本となったと思われる文献です。[×閉じる]:神霊界 > 大正9年11月11日号(第131号) > 天の岩戸開〔古事記の真解〕
001 神代(かみよ)の太古(むかし)、002伊邪那岐(いざなぎの)命(みこと)よりお産(うま)れ遊(あそ)ばした天照(あまてらす)大御神(おほみかみ)様(さま)、003この神(かみ)様(さま)は日(ひ)の大神(おほかみ)様(さま)と申上(まをしあ)げて、004本部(ほんぶ)綾部(あやべ)に御(お)祀(まつ)りしてあります所(ところ)の神(かみ)様(さま)であります。005このへんから申上(まをしあ)げます。
006 伊邪那岐(いざなぎの)命(みこと)が
007 『筑紫(つくし)の日向(ひむか)の橘(たちばな)の小戸(をど)の阿波岐(あはぎ)ケ原(はら)に於(おい)て禊身(みそぎ)し玉(たま)ふ時(とき)、008左(ひだり)の御(おん)目(め)を洗(あら)ひ給(たま)ひて成(な)りませる神(かみ)の御名(みな)は天照(あまてらす)大御神(おほみかみ)、009次(つぎ)に右(みぎり)の御(おん)目(め)を洗(あら)ひ給(たま)ひて成(な)りませる神(かみ)の御名(みな)は月読(つきよみの)命(みこと)』
010といふことが書(か)いて御座(ござ)います。011目(め)といふものは吾々(われわれ)肉体(にくたい)から申(まを)しますると、012右(みぎ)と左(ひだり)と両方(りやうはう)に持(も)ちて居(を)りまして物(もの)を視(み)るといふことの上(うへ)に最(もつと)も大切(たいせつ)なものであります計(ばか)りか、013眼(め)は心(こころ)の窓(まど)と申(まを)します位(ぐらゐ)重要(ぢうえう)なもので御座(ござ)います。014所(ところ)が一歩(いつぽ)進(すす)んで考(かんが)へて見(み)ますと、015総(すべ)てこの宇宙間(うちうかん)に形(かたち)を持(も)つて居(を)るものは森羅(しんら)万象(ばんしやう)残(のこ)らず目(め)すなはち眼目(がんもく)といふものがなくてはならぬ。016実際(じつさい)凡(あら)ゆるものに眼目(がんもく)があると云(い)ふ事(こと)は吾人(ごじん)は常(つね)に之(これ)を認(みと)め得(う)るのであります。017姿(すがた)こそ人間(にんげん)のやうな姿(すがた)ではないけれど、018他(た)の動物(どうぶつ)に於(おい)てもこの眼(め)をもつて居(を)ります。019禽獣(きんじう)虫魚(ちうぎよ)草木(さうもく)の類(たぐひ)に至(いた)るまで此(この)眼(め)のないものはありませぬ。020また一(ひと)つの文章(ぶんしやう)を読(よ)みましても、021この中(なか)にも必(かなら)ず眼目(がんもく)といふものがあります。022御(ご)勅語(ちよくご)の中(なか)にも眼(め)があります。
023 『皇祖(クワウソ)皇宗(クワウソウ)国(クニ)ヲ肇(ハジ)ムルコト宏遠(クワウエン)ニ徳(トク)ヲ樹(タ)ツルコト深厚(シンコウ)ナリ、024汝(ナンジ)臣民(シンミン)克(ヨ)ク忠(チユウ)ニ克(ヨ)ク孝(カウ)ニ』
025 これが教育(けういく)勅語(ちよくご)の眼目(がんもく)であります。026また戊申(ぼしん)詔書(せうしよ)には、
027 『淬礪(サイレイ)ノ誠(マコト)ヲ輸(イタ)サバ国運(コクウン)発展(ハツテン)ノ本(モト)近(チカ)ク斯(ココ)ニ在(ア)リ』
028 これが詰(つま)り眼(め)になつて居(を)る。029その通(とほ)り初(はじ)め天地(てんち)をお造(つく)りになるに当(あた)つても、030この宇宙(うちう)を治(をさ)める為(ため)にはどうしても、031眼(め)といふものが必要(ひつえう)であるといふので、032そこで伊邪那岐(いざなぎの)命(みこと)は天地(てんち)の主(しゆ)をお創(はじ)めになつたのであります。033すなはち伊邪那岐(いざなぎの)命(みこと)は、034先(ま)づ天(てん)の主(しゆ)をこしらへたい、035この霊界(れいかい)の主宰者(しゆさいしや)をこしらへたいと思召(おぼしめ)しになりまして左(ひだり)の目(め)を洗(あら)ひ給(たま)うた、036この左(ひだり)の目(め)といふのは日(ひ)であります。037太陽神(たいやうしん)であつて上(うへ)である。038右(みぎ)の目(め)といふのが太陰神(たいいんしん)であつて下(した)であります。039言霊(ことたま)の天則(てんそく)から申(まを)しますと左(ひだり)は男(をとこ)、040右(みぎ)は女(をんな)と、041これは既(すで)に神(かみ)様(さま)の御代(みよ)から定(き)まつた掟(おきて)である。042然(しか)るにこの左(ひだり)の目(め)を洗(あら)うてお生(うま)れになつたのが日(ひ)の大神(おほかみ)、043天照(あまてらす)大御神(おほみかみ)であつて、044右(みぎ)の目(め)を洗(あら)うてお生(うま)れになつたのが月読(つきよみの)命(みこと)、045さうすると目(め)からお生(うま)れになつたのは、046変性(へんじやう)男子(なんし)女子(によし)でありました。047左(ひだり)の目(め)をお洗(あら)ひになつて直(す)ぐお生(うま)れになつたのが変性(へんじやう)男子(なんし)の天照(あまてらす)大御神(おほみかみ)でありました。048これで詰(つま)り左(ひだり)を宇宙(うちう)霊界(れいかい)とし、049右(みぎ)を地球(ちきう)として、050天上(てんじやう)天下(てんか)の君(きみ)をお生(う)みになつた訳(わけ)であります。
051 『次(つぎ)に御鼻(みはな)を洗(あら)ひ給(たま)ひしときに成(な)りませる神(かみ)の御名(みな)は建速(たけはや)須佐之男(すさのをの)命(みこと)』
052 はなは初(はじ)めに成(な)るの意義(いぎ)で即(すなは)ち初(はじ)めである。053物質(ぶつしつ)の元(もと)であります。054花(はな)が咲(さ)いて而(しか)して後(あと)から実(み)を結(むす)びます。055人間(にんげん)の身体(からだ)が出来(でき)るにつきましても、056先(ま)づ胎内(たいない)に於(おい)て人間(にんげん)の形(かたち)の出来(でき)る初(はじ)めは鼻(はな)である。057それから眼(め)が出来(でき)る。058絵師(ゑし)が人間(にんげん)の絵(ゑ)を描(か)きましても、059その輪廓(りんくわく)を描(か)くのに何(なに)より先(さき)に鼻(はな)を描(ゑが)く、060鼻(はな)は真中(まんなか)である。061鼻(はな)を先(さき)へ描(か)いて然(しか)る後(のち)に目(め)を描(か)き口(くち)を描(か)いてそこで都合(つがふ)好(よ)く絵(ゑ)が出来(でき)るのである。062この初(はじ)めて出来(でき)た統治(とうぢ)の位地(ゐち)にお立(た)ちになるのが須佐之男(すさのをの)命(みこと)であります。063俗(ぞく)に何(なん)でも物(もの)の完成(くわんせい)したことを眼鼻(めはな)がついたと申(まを)します。064神(かみ)様(さま)も此(この)世界(せかい)をお造(つく)りになつて、065さうしてそこに初(はじ)めて眼鼻(めはな)をおつけになつたのであります。
066 『此(この)時(とき)伊邪那岐(いざなぎの)命(みこと)太(いた)く歓喜(よろこば)して詔(の)り給(たま)はく』
067 愈(いよいよ)天地(てんち)が完全(くわんぜん)に出来(でき)たから、068神(かみ)様(さま)は非常(ひじやう)にお喜(よろこ)びになつた。069これまでに神(かみ)様(さま)は随分(ずゐぶん)沢山(たくさん)な御(お)子(こ)達(たち)をお産(う)みになつて居(を)りますが衝立(つきたつ)船戸(ふなど)の神(かみ)様(さま)から十二柱(じふにはしら)ありました。070その次(つぎ)に三柱(みはしら)お生(うま)れになつてをるので都合(つがふ)十五柱(じふごはしら)であります。071男神(をとこがみ)様(さま)は我(われ)はかやうに沢山(たくさん)の子(こ)を産(う)むだが、072しかし今度(こんど)の様(やう)な眼鼻(めはな)になる所(ところ)の子(こ)は初(はじ)めてである。
073『吾(われ)は御子(みこ)生(う)みて、074生(う)みの果(はて)に三柱(みはしら)の貴子(うづのみこ)得(え)たり』
075と仰(おほ)せられまして、076やがて、
077『其(その)御頸珠(みくびたま)の玉(たま)の緒(を)母由良(もゆら)に取(と)りゆらかして』
078 即(すなは)ちむかしの勾玉(まがたま)と申(まを)したやうな、079高貴(かうき)な人(ひと)が飾(かざ)りとしてかけて居(を)つた頸珠(くびたま)であります。080丁度(ちやうど)今(いま)で申(まを)しますと大(だい)勲位章(くんゐしやう)とか、081大綬章(だいじゆしやう)とか、082一等(いつとう)勲章(くんしやう)とか云(い)ふ意味(いみ)の、083曲玉(まがたま)のやうなのを掛(か)けて居(を)られたかと思(おも)はれます。
084 そこでこの玉(たま)を自分(じぶん)からお取(と)り脱(はづ)しになつて天照(あまてらす)大御神(おほみかみ)にお渡(わた)しになつた。085母由良(もゆら)にとりゆらかしてといふことは何(なん)でも非常(ひじやう)に喜(よろこ)んで物(もの)を渡(わた)すときには、086自然(しぜん)に手(て)や身体(からだ)が揺(ゆ)れる。087一面(いちめん)から云(い)へば揺(ゆ)つて渡(わた)す。088頂(いただ)くときにも亦(また)揺(ゆ)つて頂(いただ)く、089今(いま)は然(そ)う云(い)ふやうなことでは御座(ござ)いませぬけれども、090本当(ほんたう)に嬉(うれ)しいときには然(さ)うなつて来(く)るのであります。091さて之(これ)を揺(ゆ)りよい音鳴(ねな)りをさせながら天照(あまてらす)大御神(おほみかみ)に賜(たま)ひまして詔給(のりたま)はく、
092 『汝(な)が命(みこと)は高天(たかあま)の原(はら)を知(し)らせ』
093と高天原(たかあまはら)を主宰(しゆさい)せよと仰(おふ)せになつて珠(たま)をお授(さづ)けになつたのであります。
094 『かれ其(その)御頸珠(みくびのたま)の名(な)を御倉(みくら)板挙之(たなの)神(かみ)と申(まを)す』
095 此(こ)の御倉(みくら)板挙之(たなの)神(かみ)といふことは、096言霊学(げんれいがく)上(じやう)から見(み)ても、097神(かみ)様(さま)の方(はう)で申(まを)されまする暦(こよみ)――此(この)世界(せかい)には恒天暦(かうてんれき)、098太陽暦(たいやうれき)、099太陰暦(たいいんれき)の三(み)つの暦(こよみ)が常(つね)に運行(うんかう)循環(じゆんかん)して居(を)るのであります。100で、101此(この)御頸珠(みくびたま)をお授(さづ)けになつたといふのは、102所謂(いはゆる)御倉(みくら)板挙之(たなの)神(かみ)、103即(すなは)ち恒天暦(かうてんれき)、104太陽暦(たいやうれき)、105太陰暦(たいいんれき)をお授(さづ)けになつたのであります。
106 『次(つぎ)に月読(つきよみの)命(みこと)に詔給(のりたま)はく「汝(な)が命(みこと)は夜(よる)の食国(をすくに)を知(し)らせ」と事依(ことよ)さし給(たま)ひき』
107 右(みぎ)の眼(め)よりお生(うま)れになつた月読(つきよみの)命(みこと)に夜(よる)の主宰(しゆさい)をせよと仰(あふ)せられた。108知(し)らせといふことは、109大事(だいじ)に守護(まも)り能(よ)く治(をさ)めよといふ意味(いみ)で、110太陰(たいいん)の世界(せかい)を主宰(しゆさい)せよと仰有(おつしや)つた。111高天原(たかあまはら)は全大(ぜんだい)宇宙(うちう)である。112夜(よる)の食国(おすくに)は昼(ひる)の従(じう)である。113それで月読(つきよみの)命(みこと)はどこまでも天照(あまてらす)大御神(おほみかみ)を扶(たす)けて宇宙(うちう)の経綸(けいりん)に当(あた)れと、114斯(こ)う云(い)ふ詔(みことのり)であります。
115 『次(つぎ)に建速(たけはや)須佐之男(すさのをの)命(みこと)に詔給(のりたま)はく「汝(な)が命(みこと)は海原(うなばら)を知(し)らせ」と事依(ことよ)さし給(たま)ひき』
116 須佐之男(すさのをの)命(みこと)は鼻(はな)からお生(うま)れになつた方(かた)であります。117海原(うなばら)といふのは此(この)地球(ちきう)上(じやう)のことであります。118地球(ちきう)は陸(りく)が三分(さんぶん)の一(いち)しかありませぬ、119三分(さんぶん)の二(に)といふものは海(うみ)であります。120で地球(ちきう)を総称(そうしよう)して大海原(おほうなばら)と申(まを)すのであります。121斯(こ)うして伊邪那岐(いざなぎの)命(みこと)様(さま)は深(ふか)いお考(かんが)へから夫々(それぞれ)其(その)知(し)ろしめす所(ところ)を、122各々(おのおの)にお分(わ)けになつて、123汝(なんぢ)は高天原(たかあまはら)を、124汝(なんぢ)は夜(よる)の食国(おすくに)を、125汝(なんぢ)は地球(ちきう)上(じやう)即(すなは)ち大海原(おほうなばら)を知(し)ろしめせと、126御(ご)神勅(しんちよく)になつたのであります。127今日(こんにち)は天照(あまてらす)大御神(おほみかみ)の三代(さんだい)の日子番能(ひこほの)邇々芸(ににぎの)命(みこと)が、128どうも此(この)お国(くに)が治(をさ)まらぬといふので天(てん)から大神(おほかみ)の神勅(しんちよく)を奉(ほう)じて御(ご)降臨(かうりん)になつて、129地球(ちきう)上(じやう)をお治(をさ)め遊(あそ)ばして、130さうして我(わが)皇室(くわうしつ)の御(ご)先祖(せんぞ)となり、131其(その)後(のち)万世(ばんせい)一系(いっけい)に此(この)国(くに)をお治(をさ)めになつてあるのでありますが、132それより以前(いぜん)に於(お)きましては、133古事記(こじき)によりますと須佐之男(すさのをの)神(かみ)が此(この)国(くに)を知召(しろしめ)されたといふことは前(さき)の大神(おほかみ)の神勅(しんちよく)を見(み)ても明白(めいはく)な事実(じじつ)であります。
134 『故(かれ)各々(おのおの)依(よさ)し給(たま)へる御言(みこと)の随(まま)に、135知(し)らしめす中(うち)に、136速(はや)須佐之男(すさのをの)命(みこと)、137依(よ)さし給(たま)へる国(くに)を知(し)らさずて、138八拳髯(やつかひげ)胸前(むなさき)に至(いた)るまで啼(なき)いさちき』
139 須佐之男(すさのをの)命(みこと)は大神(おほかみ)の仰(おほせ)に随(したが)つて地上(ちじやう)に降臨(かうりん)遊(あそ)ばされた。140地上(ちじやう)を治(をさ)める為(た)めに、141お降(くだ)りになりましたけれども、142その時(とき)この地上(ちじやう)は乱(みだ)れて居(を)つて、143神代(かみよ)にも丁度(ちやうど)今日(こんにち)のやうな世(よ)があつたものと見(み)えます。144で今日(こんにち)のやうに政治(せいぢ)であらうが、145宗教(しうけう)であらうが、146教育(けういく)であらうが、147何(なに)から何(なん)まで一切(いつさい)のものが行(ゆ)き詰(つま)つて了(しま)うて、148もう行(ゆ)きも戻(もど)りも上(あ)げも下(おろ)しも出来(でき)ぬ様(やう)になつて居(を)つた。149それで須佐之男(すさのをの)命(みこと)様(さま)は、150この世(よ)の中(なか)を安(やす)らけく平(たひら)けく治(をさ)めて大神(おほかみ)を安堵(あんど)させ奉(たてまつ)る事(こと)が出来(でき)ないから非常(ひじやう)にお歎(なげ)きになつて、151『八拳髯(やつかひげ)胸前(むなさき)に至(いた)るまで』長(なが)く長(なが)く髯(ひげ)が延(の)びて胸前(むなさき)の所(ところ)まで下(さが)つて来(く)るまで御(ご)心配(しんぱい)をなすつた。152人(ひと)といふものは髯(ひげ)を拵(こしら)へたり髪(かみ)を整(ととの)へたり、153いろいろのことをして、154容貌(ようばう)を整(ととの)へなくてはならぬけれども、155此(この)国(くに)を治(をさ)めようといふ事(こと)に、156余(あま)り御(ご)心配(しんぱい)を遊(あそ)ばしたのでありますから、157知(し)らぬ間(ま)にこの髯(ひげ)が八拳(やつか)に長(なが)く伸(の)びて居(を)つたのであります。
158 『泣(な)きいさちき』
159といふのは、160世(よ)の中(なか)の一切(いつさい)悉(ことごと)くのものが、161もうどうしても、162これから進(すす)むで行(ゆ)くとか、163開(ひら)けて行(ゆ)くとか、164どうしたらよいかといふ方法(はうはふ)がない、165手(て)のつけやうがないといふまでに非常(ひじやう)に行(ゆ)き詰(つま)つて了(しま)つた状態(じやうたい)を、166お歎(なげ)きになるさまに形容(けいよう)したのであります。
167 『其(その)泣(な)き給(たま)ふ状(さま)は』
168どういふ工合(ぐあひ)であつたかといふと、
169 『青山(あをやま)を枯山(かれやま)なす泣(な)き枯(か)らし』
170 今(いま)まで山(やま)などの草木(さうもく)が青々(あをあを)と生(お)ひ繁(しげ)つて居(ゐ)たのに、171世(よ)が行(ゆ)き詰(つま)つた為(ため)に枯(か)れて了(しま)うた。172枯(か)らして了(しま)うた。173山(やま)がすつかり一変(いつぺん)して枯山(かれやま)となつてしまうた。174これは今日(こんにち)の状態(じやうたい)によつく似(に)て居(ゐ)るではありませぬか。175今(いま)まで十(じふ)年(ねん)計画(けいくわく)、176百(ひやく)年(ねん)計画(けいくわく)といふやうな風(ふう)にいろいろな事業(じげふ)が企(くはだ)てられた。177何会社(なにくわいしや)が立(た)つの、178或(あるひ)は何事業(なにじげふ)が起(おこ)されたと、179無茶(むちや)苦茶(くちや)に四五(しご)年前(ねんぜん)から本年(ほんねん)の春(はる)までは偉(えら)い勢(いきほひ)で、180好景気(かうけいき)を謳歌(おうか)して、181青々(あをあを)とした山(やま)の如(ごと)くに有頂天(うちやうてん)になつて居(を)りましたが、182青山(あをやま)がいつまでも天空(てんくう)につかへないが如(ごと)くに、183なんぼ木(き)が伸(の)びたつて天(てん)につかへる気遣(きづか)ひのないやうに、184一朝(いつてう)行(ゆ)きつまれば最早(もはや)さう云(い)ふ勢(いきほひ)はすつくり枯(か)れて了(しま)ふ。185今年(ことし)の春(はる)からこの方(かた)、186元(もと)も子(こ)もなくなつて、187青山(あをやま)は枯山(かれやま)になつた。188どうしても伸(の)びる方法(はうはふ)もない、189火(ひ)の消(き)えたるが如(ごと)き有様(ありさま)になつて了(しま)つたのであります。
190 『河海(かはうみ)は悉(ことごと)に泣(な)き乾(ほ)しき』
191 山(やま)が枯山(かれやま)となつたと同(おな)じく、192河(かは)も海(うみ)も悉(ことごと)く乾(かわ)いて了(しま)うて、193一滴(いつてき)の水(みづ)もなくなつたといふのであります。194今日(こんにち)の世(よ)の中(なか)に譬(たと)へて申(まを)しますれば、195郵船(いうせん)会社(くわいしや)とか、196商船(しやうせん)会社(くわいしや)とか其(その)他(た)いろいろの海運業(かいうんげふ)も追々(おひおひ)と仕事(しごと)がなくなつて二進(につち)も三進(さつち)も行(ゆ)かなくなつた。197すると此(この)海河(うみかは)の労働(らうどう)仕事(しごと)に従事(じうじ)して居(ゐ)るものは、198稼殖(かしよく)の途(みち)のなくなるのは勿論(もちろん)、199稼業(かげふ)に離(はな)れる、200職(しよく)に離(はな)れるといふことになつて来(く)ると一家(いつか)は子供(こども)に至(いた)るまで、201悉(ことごと)く泣(な)き乾(ほ)しになる。202最早(もは)や食(く)ふ道(みち)がないやうになると、203もう乾干(ひぼし)になるより仕様(しやう)がない。204総(すべ)て海(うみ)に稼(かせ)いで居(ゐ)る者(もの)も、205河(かは)に従事(じうじ)して居(を)る者(もの)も、206其(その)他(た)一切(いつさい)のことに従事(じうじ)して居(ゐ)る者(もの)も、207みんな泣(な)き乾(ほ)しになつて了(しま)うたのである。
208 『是(これ)を以(もつ)て悪神(あらぶるかみ)の音(おと)なひ、209狭蠅(さばへ)なす皆(みな)沸(わ)き、210万(よろづ)の物(もの)の妖(わざはひ)悉(ことごと)に発(おこ)りき』
211 神代(かみよ)に於(おい)ても世(よ)が行(ゆ)き詰(つま)つて来(く)れば、212そこにいろいろの不祥(ふしやう)なる事件(じけん)が起(おこ)つて来(き)たものと見(み)えます。
213 畏(かしこ)くも明治(めいぢ)天皇(てんわう)陛下(へいか)が、
214 『之(コレ)ヲ古今(ココン)ニ通(ツウ)ジテ謬(アヤマ)ラズ之(コレ)ヲ中外(チユウグワイ)ニ施(ホドコ)シテ悖(モト)ラズ』[※教育勅語の一節]
215と仰(あふ)せられましたやうに、216真理(しんり)といふものは何(いづ)れの時代(じだい)にも適応(てきおう)するので御座(ござ)います。217既(すで)に古事記(こじき)の明文(めいぶん)にある所(ところ)で御座(ござ)います。218今日(こんにち)の状態(じやうたい)を考(かんが)へて見(み)れば、219丁度(ちやうど)此(この)岩戸(いはと)開(びら)き前(まへ)の状態(じやうたい)と克(よ)く似(に)て居(を)る。220世(よ)がどん底(ぞこ)に行(ゆ)き詰(つま)つて労働(らうどう)しようにも仕事(しごと)がない、221仕事(しごと)がなければ妻子(さいし)眷族(けんぞく)を養(やしな)ふことが出来(でき)ない。222生活(せいくわつ)といふことが出来(でき)なくなるとそこで悪神(あらぶるかみ)の音(おと)なひとなり、223いろいろの騒動(さうだう)が起(おこ)つて来(く)る、224人間(にんげん)の心(こころ)が荒(すさ)んで来(く)る。225衣食(いしよく)足(た)つて礼節(れいせつ)を知(し)る、226今(いま)まで善(よ)い魂(たましひ)を持(も)つて居(を)つたものも、227だんだん悪(わる)い魂(たま)の力(ちから)に押(おさ)へられて悪化(あくくわ)して了(しま)ふ。228食(く)ふか食(く)はぬか、229死(し)ぬか生(い)きるか、230喰(く)うて死(し)ぬか食(く)はずに死(し)ぬか、231斯(こ)う云(い)ふ苦(くる)しい立場(たちば)になりますと、232人心(じんしん)は日増(ひま)しに悪化(あくくわ)して善(よ)くないことが往々(わうわう)始(はじ)まる。233甚(はなは)だしきは警察(けいさつ)へ行(い)つて御(ご)厄介(やくかい)になつた方(はう)が楽(らく)で、234養(やし)なつて呉(く)れて安全(あんぜん)だといふものが出来(でき)る。235監獄(かんごく)に入(い)れば食(く)はして呉(く)れる、236金銭(きんせん)はなくても可(い)いといふ具合(ぐあひ)に自暴(じばう)自棄(じき)的(てき)に悪神(あらぶるかみ)の音(おと)なひが始(はじ)まる。237此(この)音(おと)なひといふのは、238神(かみ)様(さま)の御(ご)真意(しんい)に背(そむ)いた所(ところ)の、239いろいろの論説(ろんせつ)が出(で)て来(く)るといふので、240あちらからも此方(こちら)からも異端(いたん)邪説(じやせつ)が叢(むらが)り起(おこ)ることであります。241然(さ)うした結果(けつくわ)が、242うるさい所(ところ)の五月蠅(さばへ)のやうにブンブンブンといろいろの事(こと)が湧(わ)いて、
243 『万(よろづ)の物(もの)の妖(わざはひ)悉(ことごと)に発(おこ)りき』
244 一切(いつさい)のものに災禍(さいくわ)が起(おこ)つて来(く)る。245外交(ぐわいかう)の上(うへ)に於(お)きましても、246内治(ないぢ)の上(うへ)に於(お)きましても、247商工業(しやうこうげふ)の上(うへ)にも、248一切(いつさい)万事(ばんじ)、249何(なに)も彼(か)にも、250世(よ)の中(なか)のありと凡(あら)ゆるものに向(むか)つて、251みな災禍(さいくわ)が起(おこ)つて来(く)るのであります。252そこで天(てん)から伊邪那岐(いざなぎの)大神(おほかみ)が之(これ)を御覧(ごらん)になつて、
253 『速(はや)須佐之男(すさのをの)命(みこと)に詔給(のりたま)はく』
254仰有(おつしや)るのには、
255 『何(なん)とかも、256いましは、257事依(ことよ)させる国(くに)を治(しら)さずて泣(な)きいさちる』
258 そなたは、259此(この)大海原(おほうなばら)の国(くに)を治(をさ)めよと言(い)うてあるのに、260何故(なにゆゑ)それを治(をさ)めぬのか、261世(よ)の中(なか)を斯(か)う云(い)ふ難局(なんきよく)に陥(おちい)らせたのか、262何(ど)うして騒(さわ)がしい世(よ)の中(なか)として了(しま)うたのか、263と大変(たいへん)にお責(せめ)になつたのであります。264すると須佐之男(すさのをの)命(みこと)は、265誠(まこと)に相(あひ)済(す)まぬ事(こと)であります。266兎(と)も角(かく)これは私(わたくし)に力(ちから)が足(た)らぬからであります。267私(わたくし)が悪(わる)いのでありますとお答(こた)へになつた。268併(しか)し斯(か)うなつて来(き)ては如何(いか)なる人(ひと)が出(で)て来(き)ても、269此(この)時節(じせつ)には敵(かな)はない。270治(をさ)まるときには治(をさ)めなくても治(をさ)まるが、271治(をさ)まらぬときに之(これ)を治(をさ)めるといふ事(こと)は難(むつ)かしいものであります。272人(ひと)盛(さか)んなれば天(てん)に勝(か)ち、273天(てん)定(さだ)まつて人(ひと)を制(せい)す、274悪運(あくうん)の強(つよ)い時(とき)には如何(いか)なる神(かみ)もこれを何(ど)うも斯(こ)うもする事(こと)が出来(でき)ない。275艮(うしとら)の金神(こんじん)様(さま)も此(この)時節(じせつ)の勢(いきほひ)には敵(かな)はぬと仰(あふ)せられて、276それで三千(さんぜん)年間(ねんかん)あの世(よ)に隠(かく)れて、277今日(こんにち)の神政(しんせい)成就(じやうじゆ)の時節(じせつ)を待(ま)つて、278現在(げんざい)に顕(あら)はれ天(てん)の大神(おほかみ)様(さま)の御(ご)命令(めいれい)を奉(ほう)じて、279三千(さんぜん)世界(せかい)の立替(たてかへ)立直(たてなほ)しをなさらうといふのであります。280大神(おほかみ)様(さま)でさへもさう仰(あふ)せに成(な)るのでありますから、281況(ま)して須佐之男(すさのをの)命(みこと)が大変(たいへん)に行(ゆ)き詰(つま)つた地上(ちじやう)を治(をさ)めようとなさつてもどうして治(をさ)まらう筈(はず)がありませう。282然(しか)らば何故(なにゆゑ)須佐之男(すさのをの)命(みこと)御(お)一人(ひとり)では治(をさ)まらないのであるかと申(まを)せば、283それは今日(こんにち)文武(ぶんぶ)百官(ひやくくわん)がありまして、284亦(ま)た政党(せいたう)政派(せいは)が互(たがひ)に相(あひ)争(あらそ)ひ、285一方(いつぱう)が斯(こ)うすれば一方(いつぱう)が苦情(くじやう)を持(も)ち出(だ)して思(おも)ふやうにならぬ如(ごと)く前(まへ)に申(まを)しましたやうに既(すで)にいろいろの神(かみ)様(さま)達(たち)が沢山(たくさん)あつて、286其(その)神々(かみがみ)様(さま)が各自(めいめい)に天津(あまつ)神(かみ)の御心(みこころ)を取(と)り違(ちが)へて、287所謂(いはゆる)体主(たいしゆ)霊従(れいじう)に陥(おちい)つて居(を)られたので、288一人(ひとり)の須佐之男(すさのをの)命(みこと)がどれ程(ほど)誠(まこと)の途(みち)を開(ひら)かうとなすつた所(ところ)で、289更(さら)に耳(みみ)に入(い)れるものがない、290各自(めいめい)に勝手(かつて)な真似(まね)をなさる。291丁度(ちやうど)強情(がうじやう)な盲(めくら)と聾(つんぼ)との寄合(よりあひ)のやうであります。292そこに千仭(せんじん)の谷(たに)があつても盲(めくら)は顛覆(ひつくりか)へるまでは知(し)らぬ顔(かほ)をしてをる。293どれ程(ほど)雷(かみなり)が鳴(な)つても聾(つんぼ)は足下(あしもと)に落(お)ちるまでは平気(へいき)である。294それに強情(がうじやう)を張(は)つて誰(たれ)が何(なん)と注意(ちゆうい)しても聴(き)かない。295神代(かみよ)の人(ひと)もそのやうに体主(たいしゆ)霊従(れいじう)で、296どうしても命(みこと)の命令(めいれい)を聴(き)かなかつた。297それで須佐之男(すさのをの)命(みこと)は、298これは取(と)りも直(なほ)さず自分(じぶん)の責任(せきにん)である、299自分(じぶん)の不徳(ふとく)の致(いた)す所(ところ)である、300到底(たうてい)自分(じぶん)の力(ちから)では及(およ)ばないのであると、301自(みづか)らをお責(せ)めになつて、
302 『あは妣(はは)の国(くに)、303根(ね)の堅洲国(かたすくに)に罷(まか)らんと思(おも)ふが故(ゆゑ)に泣(な)く』
304 私(わたし)はもうお暇(いとま)を頂(いただ)いて、305母(はは)の国(くに)に帰(かへ)らうと仰(あふ)せられたのであります。306根(ね)の堅洲国(かたすくに)と申(まを)すのは母神(ははがみ)の伊邪那美(いざなみの)命(みこと)がおいでになつてゐる所(ところ)であります。307尤(もつと)もこれまでの或(あ)る国学者(こくがくしや)達(たち)は根(ね)の堅洲国(かたすのくに)といふのは地下(ちか)の国(くに)であると云(い)つて居(を)りますが、308併(しか)し一番(いちばん)に此(この)伊邪那美(いざなみの)命(みこと)は月読(つきよみの)命(みこと)と同(おな)じく月界(げつかい)に御(お)出(い)でになつたのでありますから、309月界(げつかい)を根(ね)の堅洲国(かたすのくに)と言(い)つたのであります。310で須佐之男(すさのをの)命(みこと)は自分(じぶん)の力(ちから)が足(た)らないのである、311不徳(ふとく)の致(いた)す所(ところ)であるからして自(みづか)ら身(み)を引(ひ)いて、312根(ね)の堅洲(かたす)の国(くに)へ行(ゆ)かうと仰有(おつしや)つて、313一言(いちごん)も部下(ぶか)の神々(かみがみ)の不心得(ふこころえ)や、314其(その)悪(わる)い行状(ぎやうじやう)を仰(あふ)せられなかつた。315如何(いか)にも男(をとこ)らしい潔白(けつぱく)なお方(かた)で御座(ござ)います。316所(ところ)が伊邪那岐(いざなぎの)命(みこと)は非常(ひじやう)に御(ご)立腹(りつぷく)になつた。
317 『然(しか)らばみまし此(この)国(くに)にはな住(す)みそ』
318 其(その)方(はう)のやうな此(この)海原(うなばら)を治(をさ)める力量(りきりやう)の無(な)いものならば、319二度(にど)と此(この)国(くに)に住(す)むではならぬ。320勝手(かつて)に根(ね)の堅洲国(かたすくに)へ行(い)つたがよからう。321一時(いつとき)でも居(を)つてはならぬぞとお叱(しか)りになつたけれども、322伊邪那岐(いざなぎの)命(みこと)は須佐之男(すさのをの)命(みこと)の心中(しんちう)は疾(と)くに克(よ)く御(ご)存知(ぞんぢ)である。323自分(じぶん)の子(こ)がどうして此(この)国(くに)を治(をさ)める事(こと)が出来(でき)ないか、324どうして自分(じぶん)の珍(うづ)の児(こ)の言(い)ふことを万(よろづ)の神々(かみがみ)が聴(き)かぬか、325腹(はら)の底(そこ)では充分(じゆうぶん)に御(ご)存知(ぞんぢ)でありますが、326それを彼此(かれこれ)仰有(おつしや)らない。327心(こころ)の中(うち)には千万(せんまん)無量(むりやう)のお悲(かな)しみを持(も)つて居(を)られまするけれども、328他(ほか)に多(おほ)くの神々(かみがみ)に傷(きず)をつけるといふことは考(かんが)へ物(もの)である。329それで須佐之男(すさのをの)命(みこと)に刑罰(けいばつ)を与(あた)へて罪人(ざいにん)としたならば、330その他(た)の八百万(やほよろづ)の神(かみ)、331これに随(つ)いて居(ゐ)る所(ところ)の神(かみ)等(たち)はそれを見(み)て皆(みな)改心(かいしん)するであらう、332その悪(わる)かつたことを悟(さと)るであらうと思召(おぼしめ)して大神(おほかみ)様(さま)は自分(じぶん)の子(こ)を罰(ばつ)せられたのでありまして、333普通(ふつう)の者(もの)の出来(でき)難(にく)いことで御座(ござ)います。334その広大(くわうだい)なるお情(なさけ)深(ぶか)い御心(みこころ)は、335誠(まこと)に勿体(もつたい)ない次第(しだい)でありませぬか。336此(この)須佐之男(すさのをの)命(みこと)を罪(つみ)に問(と)うたならば、337あれこそ吾々(われわれ)の為(た)めに罪(つみ)せられたのである、338誠(まこと)に済(す)まないことであるから、339吾々(われわれ)は悔(く)い改(あらた)めて本当(ほんたう)の政治(せいぢ)をしなければならぬ、340改心(かいしん)を早(はや)く致(いた)して命(みこと)の罪(つみ)を赦(ゆる)されむ事(こと)を八百万(やほよろづ)の神々(かみがみ)が思(おも)ふであらうと思召(おぼしめ)して伊邪那岐(いざなぎの)命(みこと)は此(この)処置(しよち)をお取(と)り遊(あそ)ばしたのであるが、341矢張(やつぱり)体主(たいしゆ)霊従(れいじう)に陥(おちい)られた八百万(やほよろづ)の神(かみ)達(たち)は容易(ようい)にそれがお解(わか)りにならず、342あれは当然(たうぜん)である、343政治(せいぢ)の主権(しゆけん)をあんな者(もの)が握(にぎ)つて居(を)つては国(くに)の治(をさ)まらう筈(はず)がない、344あれが居(ゐ)なくなれば又(また)善(よ)い神(かみ)様(さま)が来(く)るに違(ちが)ひない、345否(いな)吾々(われわれ)の力(ちから)で充分(じうぶん)に世(よ)を治(をさ)めようといふやうな頗(すこぶ)る冷淡(れいたん)な間違(まちが)つた考(かんが)へを有(も)つて居(を)つたのであります。346寔(まこと)にこんな世(よ)の中(なか)を治(をさ)めようとするには並大抵(なみたいてい)の事(こと)ではないので御座(ござ)います。
347(大正九・一〇・一五 講演筆録)
348(大正一一・三・五再録 谷村真友録)
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