霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第九章 正夢(まさゆめ)〔五〇五〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第12巻 霊主体従 亥の巻 篇:第2篇 天岩戸開(二) よみ(新仮名遣い):あまのいわとびらき(二)
章:第9章 正夢 よみ(新仮名遣い):まさゆめ 通し章番号:505
口述日:1922(大正11)年03月09日(旧02月11日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1922(大正11)年9月30日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一部の章はAIによって要約を作成しています。[×閉じる]:
高光彦、玉光彦、国光彦の三兄弟は、イホの都にほどちかい森の祠で、三五教の酋長の夏山彦や春彦と、人民たちの争いを目にした。
そこに現れた蚊取別が、暴れる初公を帰順させ、一行は大蛇の滝へと進むうち、睡魔に襲われて寝込んでしまっていたのであった。
蚊取別は起き上がり、日の出神の諭しを受けて、大蛇の背から振り落とされそうになった恐ろしい夢を語り、自らの慢心を戒めた。不思議にも、三兄弟や初公も同じ夢を見ていた。
そこへ酋長の夏山彦の一隊がやってきて、宣伝使たちを認めると、丁重に館に迎え入れた。
初公は、自分の全身は聖地エルサレムの行成彦の従神・行平別命であると明かして、大音声で酋長の館に進み入る。
宣伝使一行も館に迎え入れられるが、そこへ一弦琴の音が響いてくる。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ:徹公(鉄公) データ凡例: データ最終更新日:2020-11-12 00:33:45 文字数:4749 OBC :rm1209
愛善世界社版:73頁 八幡書店版:第2輯 652頁 修補版: 校定版:76頁 普及版:31頁 初版: ページ備考:
001常夜(とこよ)ゆく暗(やみ)を晴(は)らして皇神(すめかみ)の
002珍(うづ)の御子(みこ)たち助(たす)けむと
003稜威(みいづ)も高(たか)き高光彦(たかてるひこ)や
004神(かみ)より受(う)けし伊都能売(いづのめ)の
005玉光彦(たまてるひこ)の玉(たま)も照(て)り
006大海原(おほうなばら)に漂(ただよ)ひて
007海月(くらげ)なす国光彦(くにてるひこ)の
008みづの身魂(みたま)の三柱(みはしら)は
009イホの都(みやこ)の町(まち)はづれ
010老樹(らうじゆ)茂(しげ)れる森(もり)の下(した)
011露(つゆ)を厭(いと)ひて仮枕(かりまくら)
012国魂神(くにたまがみ)を祀(まつ)りたる
013祠(ほこら)の後(うしろ)に身(み)を隠(かく)し
014まどろむ折(をり)しも何処(どこ)よりか
015集(あつ)まり来(きた)る人(ひと)の影(かげ)
016神灯(みあかし)神酒(みき)を奉(たてまつ)り
017常夜(とこよ)の様(さま)を歎(なげ)きたる
018イホの都(みやこ)の酋長(しうちやう)が
019世人(よびと)助(たす)くる手段(てだて)さへ
020夏山彦(なつやまひこ)の神司(かむづかさ)
021神(かみ)の御前(みまへ)に太祝詞(ふとのりと)
022唱(とな)ふる声(こゑ)もいと清(きよ)く
023心(こころ)の闇(やみ)も春公(はるこう)の
024倉(くら)あけ渡(わた)し食物(おしもの)を
025神(かみ)に誓(ちか)ひて夫(そ)れぞれに
026配(まくば)り与(あた)へ饑渇(うゑかわ)き
027救(すく)ふはいとど易(やす)けれど
028霊(みたま)の餌(ゑば)と充(あ)つるべき
029教(をしへ)の餌(ゑば)に苦(くるし)みつ
030神(かみ)の御前(みまへ)に諸人(もろびと)を
031集(あつ)めて諭(さと)す神(かみ)の教(のり)
032食物(をしもの)着物(きもの)住(す)む家(いへ)と
033酒(さけ)より外(ほか)に心(こころ)なき
034醜(しこ)の身魂(みたま)を如何(いか)にして
035神(かみ)を敬(うやま)ひ長上(ちやうじやう)に
036尊(たふと)び仕(つか)へ真心(まごころ)の
037本霊(もとつみたま)にことごとく
038立直(たてなほ)さしめ天地(あめつち)の
039神(かみ)の御子(みこ)たる務(つとめ)をば
040各(おの)も各(おの)もに尽(つく)させて
041神(かみ)の怒(いかり)も淡雪(あはゆき)の
042溶(と)けて嬉(うれ)しき春(はる)の日(ひ)の
043花(はな)咲(さ)き匂(にほ)ひ百鳥(ももどり)の
044歌(うた)ふ嬉(うれ)しき神(かみ)の代(よ)の
045日月(じつげつ)空(そら)に輝(かがや)きて
046鬼(おに)も探女(さぐめ)もナイル河(がは)
047滝(たき)に洗(あら)ひしその如(ごと)く
048清(きよ)めむものと酋長(しうちやう)が
049心筑紫(こころつくし)の白瀬川(しらせがは)
050世人(よびと)を思(おも)ふ真心(まごころ)の
051涙(なみだ)は滝(たき)の如(ごと)くなり
052夢(ゆめ)か現(うつつ)蚊取別(かとりわ)けて
053言霊(ことたま)清(きよ)き宣伝歌(せんでんか)
054暗(やみ)を透(すか)して鳴(な)り渡(わた)る
055時(とき)しもあれや初公(はつこう)が
056醜(しこ)の雄健(をたけ)び踏(ふみ)たけび
057狂(くる)ふ折(をり)しも宣伝使(せんでんし)
058双手(もろて)を組(く)みし言霊(ことたま)の
059其(その)一声(ひとこゑ)に肝(きも)打(う)たれ
060魂(たま)研(みが)かれて各(おのおの)が
061恵(めぐ)みも深(ふか)き皇神(すめかみ)の
062心(こころ)を悟(さと)り服従(まつろ)ひし
063その嬉(うれ)しさに胸(むね)躍(をど)り
064心(こころ)勇(いさ)みて四柱(よはしら)の
065神(かみ)の命(みこと)の宣伝使(せんでんし)
066初(はじ)めて会(あ)ひし初公(はつこう)を
067伴(ともな)ひ進(すす)む闇(やみ)の路(みち)
068四方(よも)に塞(ふさ)がる村雲(むらくも)の
069空(そら)も愈(いよいよ)春公(はるこう)や
070青葉(あをば)も茂(しげ)る夏山彦(なつやまひこ)の
071館(やかた)を指(さ)して出(いで)て行(ゆ)く
072途中(とちう)睡気(ねむけ)を催(もよほ)して
073ここに五(ご)人(にん)の一行(いつかう)は
074露(つゆ)をも置(お)かぬ草(くさ)の上(うへ)
075腰(こし)打掛(うちか)けて憩(いこ)ふうち
076何時(いつ)か睡魔(すゐま)に襲(おそ)はれて
077脆(もろ)くも此処(ここ)に横(よこた)はり
078夜(よ)の更(ふ)け行(ゆ)くも白瀬川(しらせがは)
079ナイルの滝(たき)の森林(しんりん)に
080黎明(よあけ)を待(ま)ちて秋月(あきづき)の
081滝(たき)の魔神(まがみ)を一々(いちいち)に
082六(む)つの滝(たき)まで清(きよ)めむと
083暗(やみ)の木下(こした)に憩(いこ)ふ折(をり)
084一(ひと)つ火(び)忽(たちま)ち現(あら)はれて
085一行(いつかう)五(ご)人(にん)が心(こころ)をば
086照(てら)させ給(たま)ふ夢(ゆめ)の跡(あと)
087大蛇(をろち)の背(せな)より飛下(とびお)りて
088腰(こし)を抜(ぬ)かせし束(つか)の間(ま)に
089つかつか来(きた)る夏山彦(なつやまひこ)が
090率(ひき)ゆる人数(にんず)の足音(あしおと)は
091いと高々(たかだか)と聞(きこ)え来(く)る。
092蚊取別(かとりわけ)『ヤア、093エライ恐(おそ)ろしい夢(ゆめ)を見(み)たものだナア。094余(あんま)り知(し)らず識(し)らずの間(あひだ)に慢心(まんしん)して、095大蛇(をろち)の背中(せなか)に乗(の)せられ、096雲(くも)の上(うへ)まで引張(ひつぱ)り上(あ)げられて了(しま)つて居(ゐ)た。097盲(めくら)蛇(へび)に怖(を)ぢずと云(い)ふ事(こと)があるが、098本当(ほんたう)に目明(めあき)の積(つも)りで、099我(われ)こそは天下(てんか)の宣伝使(せんでんし)、100世界(せかい)の盲(めくら)聾(つんぼ)の目(め)をあけてやらうナンテ偉(えら)さうに言(い)つて歩(ある)いて居(を)つたが、101エライ怖(こは)い夢(ゆめ)を見(み)たものだ。102コリヤきつと霊夢(れいむ)であらう、103アーア慢心(まんしん)はし易(やす)いものだナア。104慢心(まんしん)は大怪我(おほけが)の本(もと)だと、105何時(いつ)も口癖(くちぐせ)の様(やう)に云(い)ひながら、106箕売(みう)り笠(かさ)でひると云(い)うたとへは自分(じぶん)等(ら)の事(こと)だ。107人(ひと)が悪(わる)いとか馬鹿(ばか)だとか思(おも)うてゐると皆(みんな)自分(じぶん)のことだ、108これから一(ひと)つ魂(たましひ)の焼直(やきなほ)しをして掛(かか)らねばならぬワイ。109吁(あゝ)神(かみ)様(さま)有難(ありがた)う御座(ござ)います。110能(よ)く気(き)をつけて下(くだ)さいました』
111高光彦(たかてるひこ)『蚊取別(かとりわけ)さま、112どんな夢(ゆめ)を御覧(ごらん)になりました。113我々(われわれ)も恐(おそ)ろしい夢(ゆめ)を見(み)ました。114四方(しはう)八方(はつぱう)真暗(まつくら)がりで、115秋月(あきづき)の滝(たき)の前(まへ)だと思(おも)へば、116大蛇(をろち)の背(せ)に乗(の)せられて、117エライ所(とこ)へ鰻上(うなぎのぼ)りではなうて蛇上(へびのぼ)りに上(のぼ)つてきつい戒(いまし)めに遭(あ)ひ、118中天(ちうてん)から飛(と)びおりて、119腰(こし)をぬかし本当(ほんたう)に妙(めう)な夢(ゆめ)を見(み)ましたよ』
120蚊取別(かとりわけ)『ハア、121我々(われわれ)の夢(ゆめ)と同一(どういつ)ですワ』
122と声(こゑ)をかすませ、123首(くび)を捻(ひね)る。124玉光彦(たまてるひこ)、125国光彦(くにてるひこ)、126初公(はつこう)も異口(いく)同音(どうおん)に、
127玉光彦、国光彦、初公『私(わたし)も其(その)通(とほ)りそのとおり』
128と胸(むね)を轟(とどろ)かせ乍(なが)ら、129小声(こごゑ)になつて首(くび)を頻(しき)りに傾(かたむ)けて居(を)る。130折柄(をりから)の物音(ものおと)に前方(ぜんぱう)を見(み)れば、131提灯(ちやうちん)の光(ひかり)瞬(またた)き、132数十(すうじふ)人(にん)の人声(ひとごゑ)此方(こなた)に向(むか)つて進(すす)み来(きた)る。
133初公(はつこう)『あの提灯(ちやうちん)の印(しるし)は丸(まる)に十(じふ)、134たしかに夏山彦(なつやまひこ)の酋長(しうちやう)が手下(てした)の者共(ものども)、135愈(いよいよ)初公(はつこう)さまを召捕(めしとり)に来(き)よつたな。136ヨーシ、137今迄(いままで)の初公(はつこう)さまと思(おも)つて居(ゐ)るか、138あまり我(われ)は、139偉(えら)い偉(えら)いと思(おも)うて居(を)るとスコタン喰(く)うぞよ。140足許(あしもと)は真暗(まつくら)がり、141闇(やみ)に烏(からす)のまつ黒々助(くろくろすけ)、142夏山彦(なつやまひこ)の家来(けらい)の奴(やつ)共(ども)、143片(かた)つ端(ぱし)から「ウウーン、144ウーン」と阿吽(あうん)の言霊(ことたま)、145開(ひら)くや否(いな)や四方(しはう)八方(はつぱう)に、146蜘蛛(くも)の子(こ)を散(ち)らすが如(ごと)く、147チリチリバツト、148花(はな)に嵐(あらし)の其(その)如(ごと)く、149皆(みな)散(ち)り散(ち)りに逃(に)げて行(ゆ)く………』
150蚊取別(かとりわけ)『コラコラ、151何(なに)寝(ね)呆(とぼ)けてるのだ。152あまりウーンに慢心(まんしん)をすると、153今(いま)の様(やう)な怖(こは)い夢(ゆめ)を見(み)せられて、154お警告(いましめ)を受(う)けるのだぞ。155ウーンも好(よ)い加減(かげん)に使(つか)つて………乱用(らんよう)するとまた夢(ゆめ)を見(み)せられるぞ』
156初公『モシ蚊取別(かとりわけ)さま、157あれは夢(ゆめ)だが、158今(いま)そこへ来(く)るのは現実(げんじつ)ですよ』
159蚊取別(かとりわけ)『幻術(げんじゆつ)でも、160妖術(えうじゆつ)でも、161神術(しんじゆつ)でも無暗(むやみ)に使(つか)ふものぢやないよ』
162初公(はつこう)『それでも、163短兵(たんぺい)急(きふ)に押(お)しよせて来(き)た、164この敵(てき)にムザムザと虜(とりこ)にしられようものなら、165それこそ最早(もはや)ウーンの尽(つき)だ。166運(うん)の尽(つ)きる迄(まで)一(ひと)つ、167ウンウンを行(や)つて行(や)つて行(や)り倒(たふ)し、168運(うん)を一(いち)時(じ)に決(けつ)せむだ。169サア来(こ)い勝負(しようぶ)………』
170高光彦(たかてるひこ)『アハヽヽヽ』
171初公(はつこう)『笑(わら)う所(どころ)か大変(たいへん)ですぜ。172あの提灯(ちやうちん)を御覧(ごらん)、173丸(まる)に十(じふ)だ』
174高光彦(たかてるひこ)『丸(まる)に十(じふ)なら結構(けつこう)ぢやありませぬか、175三五教(あななひけう)の裏紋(うらもん)だからな』
176初公(はつこう)『裏紋教(うらもんけう)でも、177表教(おもてけう)でも、178大本(おほもと)でも、179かうなつては最早(もはや)百年目(ひやくねんめ)、180自由(じいう)行動(かうどう)と出(で)ますから、181あなた方(がた)四(し)人(にん)の御(お)方(かた)はジツトして、182この初公(はつこう)のハツ人芸(にんげい)を御覧(ごらん)なさい。183一人(ひとり)でハツ人(にん)ぢや、184初夢(はつゆめ)の初功名(はつこうみやう)、185神力(しんりき)ハツ展(てん)の初舞台(はつぶたい)だ』
186蚊取別(かとりわけ)『コラコラ、187さうハツやぐものぢや無(な)い、188ハツかしい事(こと)が後(あと)になりて出(で)て来(く)るぞよ。189神(かみ)の申(まを)す間(うち)に聞(き)かぬと、190我(が)で致(いた)したら失敗(しくじ)るぞよ』
191 斯(か)かる所(ところ)へ早(はや)くも夏山彦(なつやまひこ)の一隊(いつたい)は徐々(しづしづ)と現(あら)はれ来(き)たる。
192初公(はつこう)『ヤア、193寄(よ)せたり寄(よ)せやがつたりな。194我(わ)れこそはイホの都(みやこ)に隠(かく)れなき初公(はつこう)さまだ。195召捕(めしと)るなら美事(みごと)召捕(めしと)つて見(み)よ。196小癪(こしやく)に構(かま)ふ汝(なんぢ)等(ら)が振舞(ふるまひ)、197儘(まま)になるなら、198麦飯(むぎめし)、199稗飯(ひえめし)、200粟飯(あはめし)、201五(ご)もく飯(めし)、202米(こめ)の飯(めし)、203サア勝手(かつて)にメシ取(と)つて見(み)よ』
204蚊取別(かとりわけ)『アハヽヽヽ』
205三(さん)人(にん)『ワツハヽヽヽ』
206 群衆中(ぐんしうちう)より立派(りつぱ)な姿(すがた)をした二人(ふたり)の男(をとこ)、207蚊取別(かとりわけ)の前(まへ)に悠々(いういう)と現(あら)はれ、
208夏山彦、春彦『ヤ、209あなたは蚊取別(かとりわけ)の宣伝使(せんでんし)様(さま)、210………御(ご)一同(いちどう)様(さま)、211私(わたし)等(ら)は夏山彦(なつやまひこ)、212春彦(はるひこ)でございます。213どうか此(この)駕籠(かご)に御(お)召(め)し下(くだ)さいまして我々(われわれ)が矮屋(わいをく)に一夜(いちや)御(ご)逗留(とうりう)を御(お)願(ねがひ)申(まを)したく、214態々(わざわざ)御(お)迎(むか)へに参(まゐ)りました』
215初公(はつこう)『ヤア、216ナーンだ、217天(てん)が地(ち)となり、218地(ち)が天(てん)となる、219変(かは)れば変(かは)る世(よ)の中(なか)だ。220オイオイ其(その)駕籠(かご)は大蛇(をろち)の背中(せなか)とは違(ちが)ふか』
221夏山彦(なつやまひこ)『ヤア、222お前(まへ)は初公(はつこう)か、223我々(われわれ)は蚊取別(かとりわけ)その他(た)三(さん)人(にん)の宣伝使(せんでんし)様(さま)に御(ご)挨拶(あいさつ)申上(まをしあ)げて居(ゐ)るのだ。224横間(よこあひ)から喧(やかま)しう申(まを)さずに、225暫(しばら)く待(ま)つて居(ゐ)て呉(く)れ』
226初公(はつこう)『ヨーシ承知(しようち)した。227併(しか)し駕籠(かご)は四台(よんだい)よりないぢやないか、228初公(はつこう)さまの駕籠(かご)は後(あと)から来(く)るのかい』
229春彦(はるひこ)『生憎(あひにく)四台(しだい)よりありませぬので一台(いちだい)………』
230初公(はつこう)『オイオイ、231四台(しだい)よりない?………何(なん)と情(なさけ)なきシダイなりけりだ。232一(いち)だいのテレ臭(くさ)い恥(はぢ)曝(さら)しだワイウフヽヽヽ』
233蚊取別(かとりわけ)『折角(せつかく)の思召(おぼしめし)無(む)にするも何(なん)となく心許(こころもと)なく思(おも)ひますが、234我々(われわれ)はさ様(やう)な贅沢(ぜいたく)な駕籠(かご)などに乗(の)ることは出来(でき)ませぬ』
235初公(はつこう)『ヤア今(いま)あまり調子(てうし)に乗(の)つて、236ウンウン気張(きば)ると云(い)つて、237ウンが増長(ぞうちよう)して高(たか)い高(たか)いコクウンの中(なか)までおつぽり上(あ)げられ、238スツテンドウと地上(ちじやう)に真逆(まつさか)様(さま)に墜(お)ちて、239腰(こし)を折(を)つた夢(ゆめ)を見(み)よつたものだから………そんな俄(にはか)に殊勝(しゆしよう)らしい事(こと)を仰(あふ)せられるのだ。240恰度(ちやうど)それならそれで都合(つがふ)が良(よ)いわ。241三(さん)人(にん)の宣伝使(せんでんし)様(さま)と此(この)初公(はつこう)さまと四人(よつたり)乗(の)せて貰(もら)はう』
242玉光彦(たまてるひこ)『私(わたし)は駕籠(かご)は平(ひら)に御免(ごめん)蒙(かうむ)ります』
243国光彦(くにてるひこ)『我々(われわれ)もその通(とほ)り』
244初公(はつこう)『拙者(せつしや)も同様(どうやう)、245駕籠(かご)は平(ひら)にお断(ことわ)り申(まを)す』
246 群衆(ぐんしう)の中(なか)より、
247群衆の一人『コラ初公(はつこう)、248貴様(きさま)がお断(ことわ)り所(どころ)か、249頼(たの)んだつてコチラからお断(ことわ)りだよ』
250夏山彦(なつやまひこ)『折角(せつかく)の志(こころざし)、251どうぞお召(め)し下(くだ)さいませ』
252蚊取別(かとりわけ)『イヤ又(また)尾(を)の先(さき)から振落(ふりお)ちねばならぬと困(こま)るから、253乗物(のりもの)は平(ひら)にお断(ことわ)り申(まを)します』
254初公(はつこう)『モシモシ蚊取別(かとりわけ)さま、255どうやら此処(ここ)も大蛇(をろち)の背(せな)ぢやあるまいか、256足許(あしもと)がツルツルするぢやないか。257夏山彦(なつやまひこ)の宅(うち)で御(ご)馳走(ちそう)を戴(いただ)いたと思(おも)へば、258牛糞(うしぐそ)か馬糞(うまぐそ)か、259訳(わけ)の分(わか)らぬ物(もの)を食(く)はされて、260舌鼓(したづつみ)を打(う)つた夢(ゆめ)を見(み)た連中(れんちう)だから、261この夏山彦(なつやまひこ)も夢(ゆめ)の中(なか)ぢやあるまいかナア』
262蚊取別(かとりわけ)『夢(ゆめ)でも何(なん)でもよいぢやないか。263天(てん)は暗(くら)く月(つき)の光(ひかり)は無(な)く、264何(いづ)れ悪魔(あくま)の跋扈(ばつこ)跳梁(てうりやう)する世(よ)の中(なか)だ。265斯(こ)う暗黒(くらがり)になつて来(く)ると、266誠(まこと)の物(もの)は一(ひと)つもないと思(おも)つたら落度(おちど)はない。267マア夢(ゆめ)でも化物(ばけもの)でも何(なん)でも構(かま)はぬ。268刹那心(せつなしん)だ、269行(ゆ)く所(とこ)迄(まで)行(ゆ)かうかい』
270と一行(いつかう)五(ご)人(にん)は夏山彦(なつやまひこ)以下(いか)群衆(ぐんしう)に迎(むか)へられて、271今度(こんど)は愈(いよいよ)夢(ゆめ)でもない、272幻(まぼろし)でもない、273曲神(まがかみ)の館(やかた)でもない、274正真(しやうしん)正銘(しやうめい)の夏山彦(なつやまひこ)の館(やかた)へ着(つ)いたのである。
275 正門(せいもん)は左右(さいう)に開放(あけはな)され、276門内(もんない)は薄暗(うすぐら)けれど、277塵(ちり)一本(いつぽん)なき迄(まで)に清(きよ)く箒目(はうきめ)正(ただ)しく、278掃除(さうぢ)が行届(ゆきとど)いて居(ゐ)る様子(やうす)である。279表門(おもてもん)の入口(いりぐち)より一間巾(いつけんはば)程(ほど)の麗(うるは)しき真砂(まさご)は敷詰(しきつ)められ、280一行(いつかう)を歓迎(くわんげい)した酋長(しうちやう)の真心(まごころ)は此(この)砂路(すなみち)にも現(あら)はれ居(ゐ)たりける。
281初公(はつこう)『ヤア是(これ)は一遍(いつぺん)通(とほ)つた。282門(もん)と云(い)ひ門番(もんばん)の貫公(くわんこう)、283徹公(てつこう)[※第5章では「鉄公」]の朧(おぼろ)ながらも顔(かほ)と言(い)ひ、284玄関(げんくわん)の様子(やうす)、285一分(いちぶ)一厘(いちりん)間違(まちが)ひのない仕組(しぐみ)だ。286コラ又(また)夢(ゆめ)だらう、287………オイオイ蚊取別(かとりわけ)さま、288一寸(ちよつと)私(わし)の頬(ほほ)べた捻(ひね)つて見(み)て呉(く)れぬか、289自分(じぶん)がひねつたのでは、290夢(ゆめ)か夢(ゆめ)ぢやないか明瞭(はつきり)せない………アイタヽヽヽあまり酷(ひど)い事(こと)すな、291鼻(はな)を捻上(ねぢあ)げよつて………』
292蚊取別(かとりわけ)『捻(ひね)つて呉(く)れと云(い)ふから、293註文(ちゆうもん)通(どほ)り捻(ひね)つてやつたのだ。294貴様(きさま)の鼻(はな)はあまり低(ひく)いのと横(よこ)つチヨに着(つ)いとるものだから、295頬辺(ほほべた)だと思(おも)つて捻(ひね)つたのだ。296はなはなもつて見当(けんたう)の取(と)れぬ面付(つらつき)だなア』
297初公(はつこう)『本当(ほんたう)にさうだ、298ケントウがとれぬワイ。299提灯(ちやうちん)は取(と)れても、300軒灯(けんとう)は高(たか)い所(とこ)に吊(つ)つてあるから、301俺(おれ)の様(やう)な背(せい)の低(ひく)い者(もの)では、302一寸(ちよつと)取(と)り難(にく)いなア』
303蚊取別(かとりわけ)『今度(こんど)は夢(ゆめ)ぢやない、304本当(ほんたう)だ』
305初公(はつこう)『本当(ほんたう)か嘘(うそ)か、306蚊取別(かとりわけ)さまのお言葉(ことば)もあまり当(あて)にはなりませぬワイ。307一(ひと)つ此処(ここ)で一(いち)か八(ばち)かぢや、308真偽(しんぎ)を確(たしか)めて見(み)よう』
309と言(い)ひ乍(なが)ら、310初公(はつこう)は腕(うで)を振(ふ)り、311ドシドシと奥(おく)の間(ま)に進(すす)み入(い)り、
312初公『ヤア、313拙者(それがし)は今日(こんにち)迄(まで)イホ村(むら)の侠客(けふかく)権太郎(ごんたらう)の初公(はつこう)と云(い)つたは世(よ)を忍(しの)ぶ仮(かり)の名(な)、314元(もと)を糺(ただ)せば聖地(せいち)エルサレムに於(おい)て、315行成彦(ゆきなりひこ)の従神(じうしん)たりし行平別(ゆきひらわけの)命(みこと)、316汝(なんぢ)夏山彦(なつやまひこ)八岐(やまた)の大蛇(をろち)の片腕(かたうで)となり、317白瀬川(しらせがは)の大蛇(をろち)となり、318此(この)イホの都(みやこ)に尻尾(しつぽ)を現(あら)はし、319我々(われわれ)に立派(りつぱ)な館(やかた)と見(み)せかけ、320牛糞(うしぐそ)馬糞(うまぐそ)を馳走(ちそう)と見(み)せかけて食(く)はさうと致(いた)す其(その)計略(けいりやく)は、321前(まへ)以(もつ)て承知(しようち)の拙者(それがし)、322サア尋常(じんじやう)に白状(はくじやう)致(いた)せばよし、323白状(はくじやう)致(いた)さぬに於(おい)ては、324十握(とつか)の宝剣(ほうけん)を以(もつ)て寸断(すんだん)にするぞ』
325と大音声(だいおんじやう)に呼(よば)はつて居(を)る。326夏山彦(なつやまひこ)は此(この)声(こゑ)に驚(おどろ)きて此(この)場(ば)に走(はし)り来(きた)り、
327夏山彦『ヤア、328誰(たれ)かと思(おも)へば初公(はつこう)ぢやないか、329何(なん)だ大(おほ)きな声(こゑ)を出(だ)して………』
330初公(はつこう)『大(おほ)きな声(こゑ)は俺(おれ)の地声(ぢごゑ)だ。331大蛇(をろち)の化物(ばけもの)ツ』
332夏山彦(なつやまひこ)『モシモシ宣伝使(せんでんし)様(さま)、333この男(をとこ)はどうかして居(を)るのでせうな』
334蚊取別(かとりわけ)『イヤどうもして居(を)りませぬ。335一寸(ちよつと)副(ふく)守護神(しゆごじん)が乗(の)り憑(うつ)つて、336訳(わけ)もない事(こと)を吐(ほ)ざくのですよ』
337初公(はつこう)『ナニ、338副(ふく)守護神(しゆごじん)だ!馬鹿(ばか)にするない。339フクはフクだが世界(せかい)の福(ふく)を守護(しゆご)する七福(しちふく)守護神(しゆごじん)だぞ』
340蚊取別(かとりわけ)『雑巾(ざふきん)持(も)たしたらそこらをフク守護神(しゆごじん)、341雪隠(せんち)へ行(ゆ)つても、342碌(ろく)に尻(しり)丈(だけ)は拭(ふ)かぬ守護神(しゆごじん)、343法螺(ほら)ばつかり吹(ふ)く守護神(しゆごじん)だ。344蟹(かに)の様(やう)に泡(あわ)を吹(ふ)く守護神(しゆごじん)、345熱(ねつ)も吹(ふ)く守護神(しゆごじん)だ。346アハヽヽ』
347夏山彦(なつやまひこ)『御(ご)一同(いちどう)様(さま)、348お疲労(くたびれ)で御座(ござ)いませう。349どうぞ緩(ゆつく)り、350日(ひ)の出(で)の頃(ころ)まで未(ま)だ夜(よ)が御座(ござ)います。351此(この)頃(ごろ)は日(ひ)の出(で)と言(い)つても、352日輪(にちりん)様(さま)のお姿(すがた)は雲(くも)に包(つつ)まれて拝(をが)めませぬが、353ここに一(ひと)つ灯(ひ)を点(とも)して置(お)きますから、354ゆつくり御飯(ごはん)でも召上(めしあが)つて、355今晩(こんばん)はお休(やす)み下(くだ)さいませ。356明日(あす)ゆつくりお目(め)にかかりませう』
357初公(はつこう)『それ見(み)よ蚊取別(かとりわけ)さま、358初公(はつこう)の目(め)は黒(くろ)いものだ、359やつぱり大蛇(をろち)の背(せなか)だ。360日(ひ)の出神(でのかみ)だとか日(ひ)の出(で)だとか、361一(ひと)つ火(び)とか言(い)うたぢやないか』
362蚊取別(かとりわけ)『此奴(こいつ)まだ夢(ゆめ)見(み)てゐる、363困(こま)つた奴(やつ)だナア』
364とまた鼻(はな)を力(ちから)限(かぎ)りに捻(ね)ぢ上(あ)げる。
365初公(はつこう)『イヽヽヽイツタイ、366蚊取別(かとりわけ)、367フニヤ フニヤ フニヤ、368ヘタイ ヘタイ ヘタイ ヘタイ、369ハヤセ ハヤセ ハヤセ ハヤセ』
370蚊取別(かとりわけ)『アハヽヽヽ』
371初公(はつこう)『あまり人(ひと)を馬鹿(ばか)にすな。372此(この)好(い)い男(をとこ)つ振(ぷり)を鼻(はな)を引延(ひきの)ばしよつて……天狗(てんぐ)の様(やう)になつたぢやないか』
373蚊取別(かとりわけ)『ヤ、374是(これ)でへつこむだ鼻(はな)が延(の)びて調和(てうわ)が取(と)れた。375ハナの都(みやこ)の初花姫(はつはなひめ)の様(やう)な、376立派(りつぱ)な顔(かほ)になつたよ』
377 この時(とき)奥(おく)の間(ま)より、378嚠喨(りうりやう)たる一絃琴(いちげんきん)の音(おと)幽(かす)かに聞(きこ)え、379女神(めがみ)の歌(うた)ふ声(こゑ)、380蚊取別(かとりわけ)の耳(みみ)に特(とく)に浸(し)み込(こ)む様(やう)であつた。381蚊取別(かとりわけ)は首(くび)を傾(かたむ)け乍(なが)ら手(て)を組(く)み、
382蚊取別(かとりわけ)『ハテなア』
383(大正一一・三・九 旧二・一一 松村真澄録)
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