霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第二三章 短兵急(たんぺいきふ)〔五一九〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第12巻 霊主体従 亥の巻 篇:第3篇 天岩戸開(三) よみ(新仮名遣い):あまのいわとびらき(三)
章:第23章 短兵急 よみ(新仮名遣い):たんぺいきゅう 通し章番号:519
口述日:1922(大正11)年03月11日(旧02月13日) 口述場所: 筆録者:藤津久子 校正日: 校正場所: 初版発行日:1922(大正11)年9月30日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
深雪姫の館から海上を見下ろすと、幾百千もの戦船が島へ押し寄せてくるのが見えた。深雪姫は老臣・高杉別に、敵軍の見定めを命じた。
深雪姫は部下の大国別を呼ぶと、敵軍が何者にせよ、決して剣を抜いてはならぬ、善言美詞をもって対する素盞嗚命の御心を忘れるな、と申し付けた。
大国別は攻め寄せる大軍に対して今、日ごろたくわえ鍛えた武を用いるときではないのでしょうか、と深雪姫に反問する。深雪姫は再度、決して三五教の精神に則って、武に対して武を持って応えてはならぬ、ときつく宣示した。そして、今から御神前に祈願をして寄せ来る敵を言向け和す、といって奥殿に去ろうとする。
大国別は去っていこうとする深雪姫を留めて、なにとぞ今武勇を発揮することをお許しください、と懇願した。しかし深雪姫は悠々と宣伝歌を歌いながら奥殿に姿を隠してしまった。
数万の敵軍は上陸し、殺戮しながら城下に迫っている。深雪姫の将卒たちは、攻撃命令を今か今かと息を潜めて待っている。大国別は深雪姫の宣示にもろ手を組んでただ思案するのみであった。
そこへ、高杉別が帰って来た。高杉別は大国別が防戦の準備をしないで手をこまねいている様をなじり、自ら敵軍に対そうと外へ行こうとする。大国別は声をかけ、至仁至愛の神様の御心を考慮するように、と諭すが、高杉別は聞かない。
高杉別が敵に対しようと外に出ると、御年村の虎公こと手力男神は、ゆうゆうと敵軍の有様を見物している。高杉別は防戦を命じるが、手力男は取り合わない。
高杉別は怒って手討ちにしようとするが、逆に手力男に抑えられてしまう。手力男が手を離すと高杉別はまた討ってかかるが、手力男がひらりとよけたはずみで、抜き身のまま倒れてしまった。
黒煙は館を包み、攻め寄せる人馬の物音は近づいてきた。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2020-11-12 01:02:17 文字数:3248 OBC :rm1223
愛善世界社版:190頁 八幡書店版:第2輯 695頁 修補版: 校定版:201頁 普及版:82頁 初版: ページ備考:
派生[?]この文献を底本として書かれたと思われる文献です。[×閉じる]:出口王仁三郎著作集 > 第三巻 愛と美といのち > [6] 如是我観 > [6-2] 平和に生きる > [6-2-4] 言向けやわせ
001 一(ひと)つ島(じま)なる深雪姫(みゆきひめ)ケ館(やかた)の高楼(たかどの)より、002眼下(がんか)の海面(かいめん)を見渡(みわた)せば、003幾百千(いくひやくせん)とも限(かぎ)りなき軍船(いくさぶね)、004魚鱗(ぎよりん)の備(そな)へ堂々(だうだう)として島(しま)を目蒐(めが)けて押寄(おしよ)せ来(きた)る物々(ものもの)しさ。005唯事(ただごと)ならじと深雪姫(みゆきひめ)は近侍(きんじ)の老臣(らうしん)高杉別(たかすぎわけ)を近(ちか)く招(まね)き宣(の)り玉(たま)ふ。
006深雪姫『高杉別(たかすぎわけ)殿(どの)、007妾(わらは)は今(いま)此(こ)の高楼(たかどの)より海面(かいめん)を眺(なが)むれば、008此方(こなた)に向(むか)つて攻(せ)め来(く)る数多(あまた)の兵船(ひやうせん)ウラル彦(ひこ)の魔軍(まぐん)か、009天教山(てんけうざん)に現(あ)れませる皇(すめ)大神(おほかみ)の神軍(しんぐん)か、010慥(たしか)に見届(みとど)け来(きた)られよ』
011と下知(げち)すれば、012高杉別(たかすぎわけ)は、
013高杉別『委細(ゐさい)承知(しようち)仕(つかまつ)りました。014われは是(これ)より当山(たうざん)を下(くだ)り、015事(こと)の実否(じつぴ)を糺(ただ)した上(うへ)直(ただち)に報告(はうこく)仕(つかまつ)るべし』
016と云(い)ふより早(はや)く馬(うま)に跨(またが)り、017深雪(みゆき)ケ丘(をか)を浜辺(はまべ)に向(むか)つて戞々(かつかつ)と下(くだ)り行(ゆ)く。018深雪姫(みゆきひめ)は又(また)もや大国別(ひろくにわけ)を近(ちか)く招(まね)き、
019深雪姫『アイヤ大国別(ひろくにわけ)殿(どの)、020当山(たうざん)に攻(せ)め寄(よ)せ来(きた)る数多(あまた)の軍勢(ぐんぜい)唯事(ただこと)ならず。021仮令(たとへ)ウラル彦(ひこ)の魔軍(まぐん)にもせよ、022必(かなら)ず武器(ぶき)を以(もつ)て之(これ)に敵対(てきたい)すべからず、023善言(ぜんげん)美詞(びし)の言霊(ことたま)を以(もつ)て曲(まが)を言向(ことむ)け和(やは)すは神(かむ)須佐之男(すさのを)の命(みこと)の大御心(おほみこころ)、024この館(やかた)には数多(あまた)の武器(ぶき)、025兵士(つはもの)、026充(み)ち備(そな)へありと雖(いへど)も、027決(けつ)して敵(てき)を殺戮(さつりく)する目的(もくてき)に非(あら)ず。028天下(てんか)の神人(しんじん)が心(こころ)に潜(ひそ)む曲津軍(まがついくさ)を、029剣(つるぎ)の威徳(ゐとく)に依(よ)つて怯(お)ぢ怖(おそ)れしめ帰順(きじゆん)せしむるの神器(しんき)なれば、030弓(ゆみ)は袋(ふくろ)に、031剣(つるぎ)は鞘(さや)に納(をさ)まり返(かへ)つて、032総(すべ)ての敵(てき)に臨(のぞ)むべく部下(ぶか)の将卒(しやうそつ)にも此(この)旨(むね)厳(きび)しく伝(つた)へられよ』
033と言(ことば)厳(おごそ)かに宣示(せんじ)された。
034大国別(ひろくにわけ)『敵(てき)は雲霞(うんか)の如(ごと)く、035当山(たうざん)に向(むか)つて攻(せ)め来(きた)り、036島人(しまびと)を殺戮(さつりく)し、037民家(みんか)山林(さんりん)を焼(や)き払(はら)ひ、038火(ひ)は炎々(えんえん)として最早(もはや)館(やかた)の間近(まぢか)く燃(も)え寄(よ)せたり。039日頃(ひごろ)武術(ぶじゆつ)を鍛(きた)へたるは斯(かか)る時(とき)の用意(ようい)ならめ。040研(みが)き置(お)いたる弓矢(ゆみや)の手前(てまへ)、041胆(きも)を練(ね)りたる将卒(しやうそつ)の今(いま)や武勇(ぶゆう)の現(あら)はれ時(どき)、042この時(とき)を措(お)いて何(いづ)れの時(とき)か戦(たたか)はむや。043みすみす敵(てき)に焼(や)き滅(ほろぼ)されむは心(こころ)もとなし。044神(かみ)は至仁(しじん)至愛(しあい)に坐(まし)ませども時(とき)あつて折伏(しやくふく)の利剣(りけん)を用(もち)ひ給(たま)ふ。045况(いは)んや、046コーカス山(ざん)に鎮(しづ)まり給(たま)ふ、047十握(とつか)の宝剣(ほうけん)の御魂(みたま)の威徳(ゐとく)に成(な)り在(ま)せる貴神(きしん)に於(おい)てをや。048血迷(ちまよ)ひ給(たま)ひしか、049今(いま)一度(いちど)反省(はんせい)されむ事(こと)を希(こひねが)ひ奉(たてまつ)る』
050深雪姫(みゆきひめ)『剣(つるぎ)は容易(ようい)に用(もち)ふ可(べか)らず。051剣(つるぎ)は凶器(きやうき)なり。052凶(きやう)を以(もつ)て凶(きよう)に当(あた)り、053暴(ばう)を以(もつ)て暴(ばう)に報(むく)ゆるは普通人(ふつうじん)の行(おこな)ふ手段(しゆだん)、054苟(いやし)くも三五教(あななひけう)を天下(てんか)に宣伝(せんでん)する天使(てんし)の身(み)として、055また宣伝使(せんでんし)の職(しよく)として、056善言(ぜんげん)美詞(びし)の言霊(ことたま)を閑却(かんきやく)し、057武(ぶ)を以(もつ)て武(ぶ)に当(あた)るは我(わ)が心(こころ)の許(ゆる)さざる所(ところ)、058ただ何事(なにごと)も至仁(しじん)至愛(しあい)の神(かみ)に任(まか)せよ。059武(ぶ)を尚(たつと)び雄健(ゆうけん)を尊重(そんちよう)すると云(い)ふは、060構(かま)へなきの構(かま)へ、061武器(ぶき)あつて武器(ぶき)を用(もち)ゐず、062武器(ぶき)無(な)くして武器(ぶき)を用(もち)ゐ、063能(よ)く堪忍(たへしの)び、064柔和(にうわ)を以(もつ)て狂暴(きやうばう)に勝(か)ち、065善(ぜん)を以(もつ)て悪(あく)に対(たい)し、066神(かみ)を以(もつ)て魔(ま)に対(たい)す、067柔(じう)能(よ)く剛(がう)を制(せい)するは神軍(しんぐん)の兵法(へいはふ)、068六韜(りくたう)三略(さんりやく)の神策(しんさく)なり。069汝(なんぢ)此(この)主旨(しゆし)を忘却(ばうきやく)する勿(なか)れ。070吾(われ)はこれより奥殿(おくでん)に入(い)り、071大神(おほかみ)の御(おん)前(まへ)に神言(かみごと)を奏上(そうじやう)し、072寄(よ)せ来(く)る敵(てき)を言向(ことむ)け和(やは)さむ。073一兵(いつぺい)一卒(いつそつ)の端(はし)に至(いた)る迄(まで)、074今日(けふ)に限(かぎ)り武器(ぶき)を持(も)たしむるべからず』
075と宣示(せんじ)し、076悠々(いういう)として奥殿(おくでん)に入(い)らむとなしたまふ。077大国別(ひろくにわけ)は、078深雪姫(みゆきひめ)の袖(そで)を控(ひか)へて、
079大国別『まづまづ暫(しばら)くお待(ま)ち下(くだ)さいませ。080追(お)ひ追(お)ひ近(ちか)づく矢叫(やさけ)びの声(こゑ)、081如何(いか)に善言美詞(みやび)の神嘉言(かむよごと)を以(もつ)て言向(ことむ)け和(やは)さむとすればとて、082暴力(ばうりよく)には及(およ)び難(がた)からむ。083吾(われ)はこれより部下(ぶか)の将卒(しやうそつ)を励(はげ)まし、084寄(よ)せ来(く)る敵(てき)を縦横(じうわう)無尽(むじん)に斬(き)り立(た)て、085薙払(なぎはら)ひ、086日頃(ひごろ)鍛(きた)へし武勇(ぶゆう)を示(しめ)さむ。087此(この)事(こと)計(ばか)りは強(た)つて御(お)許(ゆる)し下(くだ)さいませ』
088と拳(こぶし)を握(にぎ)り身(み)を震(ふる)はし、089雄健(をたけ)びしつつ願(ねが)ひ居(ゐ)る。090深雪姫(みゆきひめ)は悠々(いういう)迫(せま)らず、091悠長(いうちやう)なる音調(おんてう)にて、
092深雪姫『神(かみ)が表(おもて)に現(あら)はれて
093善(ぜん)と悪(あく)とを立別(たてわ)ける
094此(この)世(よ)を造(つく)りし神直日(かむなほひ)
095心(こころ)も広(ひろ)き大直日(おほなほひ)
096只(ただ)何事(なにごと)も人(ひと)の世(よ)は
097直日(なほひ)に見直(みなほ)せ聞(き)き直(なほ)せ
098世(よ)の曲言(まがこと)は宣(の)り直(なほ)せ
099正義(せいぎ)に刃向(はむか)ふ剣(つるぎ)なし
100誠(まこと)の力(ちから)は世(よ)を救(すく)ふ
101神(かみ)を力(ちから)に三五(あななひ)の
102神(かみ)の教(をしへ)を杖(つゑ)として
103如何(いか)なる敵(てき)の来(きた)るとも
104神(かみ)の嘉言(よごと)に言向(ことむ)けて
105敵(てき)を傷(きず)つく事(こと)勿(なか)れ
106神(かみ)は汝(なんじ)と倶(とも)にあり
107神(かみ)は誠(まこと)を立(た)て徹(とほ)す
108誠(まこと)で人(ひと)を救(すく)ふべし
109今(いま)は身魂(みたま)の試(ため)し時(どき)
110心(こころ)の持方(もちかた)一(ひと)つにて
111善(ぜん)も忽(たちま)ち悪(あく)となり
112悪(あく)も忽(たちま)ち善(ぜん)となる
113善悪(ぜんあく)正邪(せいじや)の分水嶺(ぶんすゐれい)
114天(あめ)が下(した)にはおしなべて
115敵(てき)も味方(みかた)も無(な)きものぞ
116味方(みかた)も時(とき)に敵(てき)となり
117敵(てき)も味方(みかた)となり変(かは)る
118只(ただ)何事(なにごと)も人(ひと)の世(よ)は
119神(かみ)に任(まか)せよ悉(ことごと)く
120心(こころ)を焦(いら)ちて過失(あやま)つな
121神(かみ)は汝(なんじ)と倶(とも)に住(す)む
122朝日(あさひ)は照(て)るとも曇(くも)るとも
123月(つき)は盈(み)つとも虧(か)くるとも
124仮令(たとへ)大地(だいち)は沈(しづ)むとも
125此(この)神島(かみしま)は焼(や)けるとも
126神(かみ)は必(かなら)ず吾々(われわれ)が
127赤(あか)き心(こころ)を御覧(みそなは)し
128安(やす)きに救(すく)ひ給(たま)ふべし
129誠(まこと)一(ひと)つの玉鉾(たまぼこ)に
130寄(よ)せ来(く)る敵(てき)を言向(ことむ)けて
131神(かみ)の力(ちから)を現(あら)はせよ
132神(かみ)の稜威(みいづ)を輝(かがや)かせ』
133と歌(うた)ひながら、134奥殿(おくでん)に姿(すがた)を隠(かく)させ玉(たま)ふ。
135 数万(すうまん)の軍勢(ぐんぜい)は全島(ぜんたう)に火(ひ)を放(はな)ち、136折(をり)からの風(かぜ)に煽(あふ)られて黒煙(こくえん)濛々(もうもう)として四辺(あたり)を包(つつ)み、137数多(あまた)の将卒(しやうそつ)は何(いづ)れも雄猛(をたけ)びして、138防戦(ばうせん)の命(めい)の下(くだ)るを今(いま)や遅(おそ)しと固唾(かたづ)を呑(の)むで控(ひか)へゐる。
139 大国別(ひろくにわけ)は双手(もろて)を組(く)むで、140青息(あをいき)吐息(といき)、141如何(いかが)はせむと思案(しあん)に暮(く)るる時(とき)しもあれ、142駒(こま)の足音(あしおと)戞々(かつかつ)と走(は)せ帰(かへ)りたる高杉別(たかすぎわけ)はヒラリと駒(こま)を飛(と)び下(お)りて、143大国別(ひろくにわけ)の前(まへ)に現(あら)はれ、
144高杉別『ヤア大国別(ひろくにわけ)殿(どの)、145貴神(きしん)は何故(なにゆゑ)防戦(ばうせん)の用意(ようい)をなさらぬか、146敵(てき)は四方(しはう)より数万騎(すうまんき)を以(もつ)て当山(たうざん)を囲(かこ)み、147山林(さんりん)に火(ひ)を放(はな)ち既(すで)に当館(たうやかた)も烏有(ういう)に帰(き)せむとする場合(ばあひ)、148何(なに)を躊躇(ちうちよ)さるるや』
149と膝(ひざ)を叩(たた)いて呶鳴(どな)り付(つ)けたるにぞ、150大国別(ひろくにわけ)は何(なん)の答(いらへ)もなく双手(もろて)を組(く)むだ儘(まま)俯(うつ)むき涙(なみだ)さへ腮辺(しへん)に伝(つた)ふるを見(み)て取(と)つた高杉別(たかすぎわけ)は悖(もど)かしげに、
151高杉別『エイ、152日頃(ひごろ)の武勇(ぶゆう)にも似(に)ず、153千騎(せんき)一騎(いつき)の此(こ)の場合(ばあひ)、154敵(てき)の勢力(せいりよく)に萎縮(ゐしゆく)して、155周章(しうしやう)狼狽(らうばい)の余(あま)り、156憂苦(いうく)に沈(しづ)む卑怯(ひけふ)未練(みれん)な貴神(きしん)の振舞(ふるまひ)、157最早(もはや)斯(か)くなる上(うへ)は、158貴神(きしん)に相談(さうだん)するも何(なん)の益(えき)あらむや。159吾(わ)れはこれより館(やかた)の将卒(しやうそつ)を率(ひき)ゐ、160此処(ここ)を先途(せんど)と一戦(いつせん)を試(こころ)み、161勝敗(しようはい)を一(いち)時(じ)に決(けつ)せむ』
162と雄健(をたけ)びし乍(なが)ら、163スタスタと此(この)場(ば)を立(た)つて表(おもて)に出(いで)むとするを、164大国別(ひろくにわけ)は言葉(ことば)をかけ、
165大国別『ヤア高杉別(たかすぎわけ)殿(どの)、166貴下(きか)の御(ご)意見(いけん)御尤(ごもつと)も千万(せんばん)、167吾(わ)れとても当館(たうやかた)の主宰神(しゆさいじん)、168闇々(やみやみ)敵(てき)の蹂躪(じうりん)に任(まか)せ袖手(しうしゆ)傍観(ばうくわん)するに忍(しの)びむや。169さは然(さ)り乍(なが)ら、170至仁(しじん)至愛(しあい)の大神(おほかみ)が天下(てんか)救済(きうさい)の御(ご)神慮(しんりよ)は慎重(しんちよう)に考慮(かうりよ)せざる可(べ)からず。171貴神(きしん)暫(しばら)く熟考(じゆくかう)せられよ』
172高杉別『大国別(ひろくにわけ)殿(どの)の言葉(ことば)とも覚(おぼ)えぬ。173卑怯(ひけふ)未練(みれん)な陳弁(ちんべん)、174貴神(きしん)は本島(ほんたう)を守(まも)り給(たま)ふ深雪姫(みゆきひめ)の神(かみ)の宰神(さいしん)ならずや。175斯(か)かる卑怯(ひけふ)未練(みれん)の御(お)心掛(こころがけ)にて闇々(やみやみ)敵(てき)に占領(せんりやう)されなば、176何(なに)を以(もつ)て深雪姫(みゆきひめ)の神(かみ)に言解(ことわ)けあるか。177アレアレ聞(き)かれよ、178山岳(さんがく)も轟(とどろ)く許(ばか)りの敵(てき)の叫(さけ)び声(ごゑ)、179到底(たうてい)貴神(きしん)の賛成(さんせい)は覚束(おぼつか)なければ、180吾(わ)れは是(これ)より単独(たんどく)にて自由(じいう)行動(かうどう)に出(い)で、181本島(ほんたう)に攻(せ)め寄(よ)せ来(き)たる雲霞(うんか)の如(ごと)き大軍(たいぐん)を、182日頃(ひごろ)鍛(きた)へし武力(ぶりよく)を以(もつ)て鏖殺(おうさつ)せむ』
183と勢(いきほひ)込(こ)んで表(おもて)をさして駆出(かけいだ)す。
184大国別『ヤアヤア高杉別(たかすぎわけ)殿(どの)、185暫(しばら)く暫(しばら)くお待(ま)ちあれ』
186高杉別『何(なに)ツ、187此(この)期(ご)に及(およ)むで暫時(しばし)の猶予(いうよ)がならうか、188勝(か)てば官軍(くわんぐん)負(ま)くれば賊(ぞく)、189大国別(ひろくにわけ)殿(どの)、190拙者(それがし)が武勇(ぶゆう)を御(おん)目(め)に掛(か)けむ』
191と云(い)ひ捨(す)てて表門(おもてもん)へと駈出(かけい)だし、192部下(ぶか)の将卒(しやうそつ)に向(むか)つて、193戦闘(せんとう)準備(じゆんび)を命令(めいれい)せむとする折(をり)しも、194深雪(みゆき)ケ丘(をか)より帰(かへ)り来(きた)れる手力男(たぢからを)の神(かみ)は此(この)体(てい)を見(み)て、
195手力男『ヤア、196大変(たいへん)に面白(おもしろ)くなつて来(き)ましたね。197一(ひと)つ敵軍(てきぐん)の行列(ぎやうれつ)を緩(ゆつく)りと、198酒(さけ)でも飲(の)むで見物(けんぶつ)致(いた)しませうか』
199高杉別(たかすぎわけ)『汝(なんじ)は、200御年村(みとせむら)の自称(じしよう)丑寅(うしとら)の金神(こんじん)手力男(たぢからを)ではないか。201かかる危急(ききふ)存亡(そんばう)の場合(ばあひ)、202何(なに)を悠々(いういう)として気楽(きらく)さうに構(かま)へて居(ゐ)らるるや。203千騎(せんき)一騎(いつき)の此(この)場合(ばあひ)、204防戦(ばうせん)の用意(ようい)をなされ』
205手力男『アハヽヽヽ、206ヤア面白(おもしろ)い面白(おもしろ)い、207高杉別(たかすぎわけ)のその狼狽(うろたへ)かた、208イヤもう臍(へそ)が宿換(やどがへ)いたすワイ。209アハヽヽヽ、210マアマア緩(ゆつく)り落着(おちつ)いて敵軍(てきぐん)の襲撃(しふげき)を見(み)てそれを肴(さかな)に一杯(いつぱい)やらうかい。211ヤア誰(たれ)も彼(かれ)も酒(さけ)だ酒(さけ)だ、212殺伐(さつばつ)な剣(つるぎ)や槍(やり)や弓(ゆみ)の様(やう)な物(もの)は神(かみ)様(さま)の鎮(しづ)まり給(たま)ふ聖地(せいち)に於(おい)て用(もち)ふる物(もの)ではない。213武器(ぶき)は兇器(きようき)だ』
214 高杉別(たかすぎわけ)はクワツと怒(いか)り、
215高杉別『放縦(はうじう)無責任(むせきにん)の汝(なんぢ)の言葉(ことば)、216門出(かどで)の血祭(ちまつ)りにせむ』
217と一刀(いつたう)を抜(ぬ)いて真向(まつこう)より斬(き)りかかる。218手力男(たぢからをの)神(かみ)は、219門柱(もんばしら)をグツと引(ひ)き抜(ぬ)き頭上(づじやう)高(たか)く振(ふ)り翳(かざ)し、220高杉別(たかすぎわけ)を押(おさ)へ付(つ)けた。
221高杉別(たかすぎわけ)『ヤア、222貴様(きさま)は今(いま)まで忠実(ちうじつ)なる味方(みかた)と見(み)せかけて、223内外(ないぐわい)相(あひ)呼応(こおう)して、224此(この)聖地(せいち)を占領(せんりやう)せむと計画(けいくわく)しつつありし曲者(くせもの)ならむ。225たとへ吾身(わがみ)は殺(ころ)されて帰幽(きいう)する共(とも)、226我(わが)誠忠(せいちう)正義(せいぎ)の霊魂(れいこん)は地上(ちじやう)に留(とど)まり、227汝(なんぢ)が悪念(あくねん)を懲(こら)さで置(お)くべきか』
228手力男(たぢからをの)神(かみ)『アハヽヽヽヽ、229モシモシ高杉別(たかすぎわけ)殿(どの)、230誤解(ごかい)されては困(こま)りますよ』
231と云(い)ひながら門柱(もんばしら)をサツと取(と)り除(の)けた。232高杉別(たかすぎわけ)はその刹那(せつな)、233飛鳥(ひてう)の如(ごと)く飛(と)びかかつて、
234高杉別『反逆(はんぎやく)無道(ぶだう)の曲者(くせもの)思(おも)ひ知(し)れや』
235と云(い)つて、236手力男(たぢからを)の脇腹(わきばら)目蒐(めが)けて突(つ)きかかる。237手力男(たぢからを)はヒラリと体(たい)を躱(かは)したる途端(とたん)に、238高杉別(たかすぎわけ)は狙(ねら)ひ外(はづ)れて勢(いきほひ)余(あま)り、239七八間(しちはちけん)も前方(ぜんぱう)にトントントントンと走(はし)つて抜刀(ぬきみ)の儘(まま)ピタリと倒(たふ)れた。
240 黒煙(こくえん)は益々(ますます)館(やかた)を包(つつ)み、241風(かぜ)に煽(あふ)られて全山(ぜんざん)樹木(じゆもく)の焼(や)ける音(おと)、242攻(せ)め寄(よ)せ来(きた)る人馬(じんば)の物音(ものおと)、243刻々(こくこく)に近付(ちかづき)高(たか)まり来(き)たりぬ。
244(大正一一・三・一一 旧二・一三 藤津久子録)
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