霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一八章 水牛(すゐぎう)〔五一四〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第12巻 霊主体従 亥の巻 篇:第3篇 天岩戸開(三) よみ(新仮名遣い):あまのいわとびらき(三)
章:第18章 水牛 よみ(新仮名遣い):すいぎゅう 通し章番号:514
口述日:1922(大正11)年03月10日(旧02月12日) 口述場所: 筆録者:藤津久子 校正日: 校正場所: 初版発行日:1922(大正11)年9月30日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
嵐が晴れて、月が皓皓と橘島を照らした。船客一同は歓呼の声をあげた。船の一隅から大男が立ち上がり、宣伝歌を歌い始めた。一同に、身も心も清めて誠の言霊で神に祈れ、と諭した。
船客の甲は、この奇瑞を目の当たりにして、改心の言を口にした。乙は、今宣伝歌を歌った宣伝使は、以前に黒野ケ原の孔雀姫の館で会ったと気づいた。
この船客たちは、孔雀姫の館で時置師神によって三五教にいったんは改心したように見せかけて、コーカス山の中腹でウラル教に寝返ろうとした、牛、馬、鹿、虎の四人の捕り手たちであった。
四人は、時置師にあいさつしようかしまいか、思案している。牛公は躊躇していると、時置師の方から見つけて、声をかけられてしまった。
時置師は牛公の身体中の悪魔を引き抜いてやろう、と言う。すると牛公は海の中に飛び込んでしまった。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2020-11-19 18:00:22 文字数:2952 OBC :rm1218
愛善世界社版:152頁 八幡書店版:第2輯 681頁 修補版: 校定版:161頁 普及版:65頁 初版: ページ備考:
001 今(いま)まで暗黒(あんこく)に包(つつ)まれたる天地(てんち)は、002忽然(こつぜん)として現(あら)はれ出(い)でたる三五(さんご)の月(つき)に照(てら)されて、003明(あか)さも明(あか)し呉(くれ)の海(うみ)の遥(はるか)の沖(おき)に浮(うか)び出(い)でたる橘島(たちばなじま)を眺(なが)めて、004船客(せんきやく)一同(いちどう)は船端(ふなばた)を叩(たた)いて歓呼(くわんこ)の叫(さけ)びいや高(たか)く、005沖(おき)の鴎(かもめ)の歌(うた)ふが如(ごと)く、006喜(よろこ)び勇(いさ)むで島影(しまかげ)目(め)がけて進(すす)み行(ゆ)く。007船頭(せんどう)は声(こゑ)も涼(すず)しく、008春風(はるかぜ)に送(おく)られて唄(うた)ひ始(はじ)めたり。
009船頭『海(うみ)の底(そこ)には竜宮(りうぐう)が見(み)える
010天(あめ)と地(つち)との真釣(まつ)り合(あ)ひ
011俺(おれ)も竜宮(りうぐう)の宝(たから)が見(み)たい
012波(なみ)を開(ひら)いて呉(くれ)の海(うみ)』
013 船(ふね)の一隅(いちぐう)より、014大男(おほをとこ)ヌツクと立(た)つて、
015時置師『月(つき)は照(て)るとも呉(くれ)の海(うみ)
016コーカス山(ざん)の彼方(あなた)より
017現(あら)はれ来(きた)る紫(むらさき)の
018雲(くも)を迎(むか)へて眺(なが)むれば
019黄金(こがね)の玉(たま)か白玉(しらたま)か
020天津(あまつ)乙女(をとめ)の雪(ゆき)の肌(はだ)
021花(はな)の姿(すがた)に月(つき)の眉(まゆ)
022橘姫(たちばなひめ)の神司(かむづかさ)
023御供(みとも)の神(かみ)を従(したが)へて
024常夜(とこよ)の闇(やみ)を照(てら)さむと
025舞(ま)ひ降(くだ)りたる御姿(みすがた)は
026橘姫(たちばなひめ)か深雪姫(みゆきひめ)
027隈(くま)なく照(て)れる秋月姫(あきづきひめ)の
028神(かみ)の命(みこと)か白雲(しらくも)の
029空(そら)分(わ)け上(のぼ)る雄々(をを)しさよ
030コーカス山(ざん)に舞(ま)ひ上(のぼ)り
031ウラルの姫(ひめ)の醜神(しこがみ)を
032言向(ことむ)け和(や)はし神(かみ)祭(まつ)り
033仕(つか)へおほせて下(くだ)り来(く)る
034石凝姥(いしこりどめ)の宣伝使(せんでんし)
035神(かむ)伊邪那岐(いざなぎ)の大神(おほかみ)の
036御帯(みおび)と現(あ)れし時置師(ときおかし)
037神(かみ)の命(みこと)の宣伝使(せんでんし)
038石凝姥(いしこりどめ)の石(いし)よりも
039固(かた)く腹帯(はらおび)締(し)め直(なほ)し
040時(とき)じく襲(おそ)ふ曲神(まがかみ)を
041山(やま)の尾毎(をごと)に追(お)ひ払(はら)ひ
042川(かは)の瀬(せ)毎(ごと)に吹(ふ)き散(ち)らし
043祓(はらひ)清(きよ)めて呉(くれ)の海(うみ)
044国武丸(くにたけまる)に乗(の)り込(こ)むで
045進(すす)む折(をり)しも和田津(わだつ)神(かみ)
046醜(しこ)の囁(ささや)き曲言(まがこと)に
047怒(いか)らせ給(たま)ひて時津風(ときつかぜ)
048波(なみ)を荒立(あらだ)て旋風(つむじかぜ)
049船(ふね)砕(くだ)かむとする時(とき)に
050天教(てんけう)地教(ちけう)や黄金山(わうごんざん)に
051永久(とは)に現(あ)れます三五(あななひ)の
052神(かみ)の命(みこと)の開(ひら)きたる
053いとも尊(たふと)き太祝詞(ふとのりと)
054心(こころ)清(きよ)めて宣(の)りつれば
055天津(あまつ)神(かみ)たち国津(くにつ)神(かみ)
056大海原(おほうなばら)に現(あ)れませる
057神(かみ)も諾(うべな)ひ給(たま)ひしか
058風(かぜ)も鎮(しづ)まり波(なみ)さへも
059いと穏(おだや)かに治(をさ)まりぬ
060仰(あふ)げば尊(たふと)き神(かみ)の島(しま)
061橘姫(たちばなひめ)の守(まも)ります
062その神島(かみしま)も目(ま)のあたり
063高(たか)く輝(かがや)く大空(おほぞら)の
064月(つき)に心(こころ)を任(まか)せつつ
065罪科(つみとが)重(おも)き諸人(もろびと)の
066汚(けが)れを乗(の)せて進(すす)み行(ゆ)く
067祓戸(はらひど)四柱(よはしら)大御神(おほみかみ)
068祓(はら)はせ給(たま)へ現身(うつそみ)の
069罪(つみ)や汚(けが)れや魂(たま)の垢(あか)
070赤(あか)き心(こころ)を皇神(すめかみ)の
071御前(みまへ)に清(きよ)く奉(たてまつ)り
072日(ひ)の出神(でのかみ)の一(ひと)つ火(び)に
073習(なら)ひて誠(まこと)の献(ささ)げ物(もの)
074仕(つか)へ奉(まつ)らむ今日(けふ)の旅(たび)
075国武丸(くにたけまる)に今(いま)乗(の)れる
076百人(ももびと)、千人(ちびと)、万人(よろづびと)は
077恵(めぐ)みも深(ふか)き天地(あめつち)の
078神(かみ)の心(こころ)を嬉(うれ)しみて
079身(み)も魂(たましひ)も荒磯(あらいそ)の
080潮(しほ)に清(きよ)めて仕(つか)へよや
081凡(すべ)て天地(てんち)の大神(おほかみ)の
082誠(まこと)の道(みち)に叶(かな)ひなば
083只(ただ)一口(ひとくち)の言霊(ことたま)も
084神(かみ)は諾(うべな)ひ給(たま)ふべし
085祈(いの)れや祈(いの)れ諸人(もろびと)よ
086心(こころ)一(ひと)つに祈(いの)るべし
087アヽ惟神(かむながら)々々(かむながら)
088御霊(みたま)幸(さちは)ひましませよ』
089と歌(うた)つて元(もと)の席(せき)に着(つ)く。
090甲(かふ)『イヤお蔭(かげ)で、091神(かみ)様(さま)の此(この)世(よ)に在(あ)ると云(い)ふ事(こと)が明瞭(はつきり)して来(き)た様(やう)だ。092吾々(われわれ)は彼(あ)の時(とき)に、093宣伝使(せんでんし)が祈(いの)つて呉(く)れなかつたら、094今頃(いまごろ)は魚腹(ぎよふく)に葬(はうむ)られて居(ゐ)る処(ところ)だつた。095天(てん)からは美(うる)はしい女神(めがみ)様(さん)が沢山(たくさん)な供(とも)を連(つ)れて現(あら)はれ、096何(なん)とも知(し)れぬ馨(かをり)の高(たか)い花(はな)を降(ふ)らして下(くだ)さつた。097もう此(こ)れ限(かぎ)り神(かみ)様(さま)の事(こと)は俺(おれ)は疑(うたが)はない。098神(かみ)は無(な)いと思(おも)へばある。099有(あ)ると思(おも)へば無(な)い。100兎(と)も角(かく)、101心(こころ)の誠(まこと)一(ひと)つに神(かみ)が宿(やど)つて下(くだ)さると云(い)ふ事(こと)丈(だ)けは承知(しようち)が出来(でき)たよ』
102乙(おつ)『それだから、103己(おれ)が何時(いつ)も云(い)うて居(ゐ)るのだ。104神(かみ)を認(みと)める迄(まで)のお前(まへ)の心(こころ)と、105神(かみ)を認(みと)めてからのお前(まへ)の心(こころ)と、106どれ丈(だ)け違(ちが)ふか』
107甲(かふ)『何(なん)だか今迄(いままで)は此(こ)の世(よ)の中(なか)が不安(ふあん)で、108向(むか)ふが暗(くら)い様(やう)で何時(いつ)も恟々(びくびく)として、109世間(せけん)を怖(おそ)れ人(ひと)を疑(うたが)ひ、110遂(つひ)には女房(にようばう)迄(まで)疑(うたが)つて、111修羅(しゆら)の妄執(まうしふ)に悩(なや)まされてゐたが、112今日(けふ)は初(はじ)めて世界晴(せかいば)れがした様(やう)な爽快(さうくわい)な心(こころ)になつたよ。113これと云(い)ふのも矢張(やつぱり)吾々(われわれ)を守(まも)り給(たま)ふ、114大慈(だいじ)大悲(だいひ)の神(かみ)様(さま)の御恵(みめぐ)みは云(い)ふも更(さら)なり、115三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)が真心(まごころ)籠(こ)めて、116天地(てんち)にお祈(いの)り下(くだ)さつたお蔭(かげ)だナア』
117乙(おつ)『今(いま)、118宣伝歌(せんでんか)を歌(うた)はれたのは、119お前(まへ)誰(たれ)だか知(し)つてるか』
120甲(かふ)『何(なん)だか聞(き)いた様(やう)な声(こゑ)だが、121余(あんま)りよく変(かは)つて居(ゐ)るので早速(さつそく)には思(おも)ひ出(だ)せない』
122乙(おつ)『あの方(かた)は何時(いつ)やら、123黒野(くろの)ケ原(はら)の孔雀姫(くじやくひめ)の館(やかた)で御(お)目(め)に掛(かか)つた御(お)方(かた)ぢやないか』
124丙(へい)『さうださうだ、125捕手(とりて)に向(むか)つた時(とき)に孔雀姫(くじやくひめ)の館(やかた)で、126吾々(われわれ)五(ご)人(にん)の者(もの)が、127猫(ねこ)を摘(つま)むだ様(やう)に提(ひつさ)げられ、128どうなる事(こと)かと震々(ぶるぶる)慄(ふる)つて居(ゐ)た所(ところ)、129酒(さけ)を飲(の)まして結構(けつこう)な教(をしへ)を聞(き)かして呉(く)れた宣伝使(せんでんし)だ。130その時(とき)俺(おれ)達(たち)が、131捕手(とりて)の役(やく)は厭(いや)になつたから辞(や)めると云(い)つたら「お前(まへ)達(たち)はそれが天職(てんしよく)だから」と仰有(おつしや)つた方(かた)だ。132何(なん)と悪(わる)い事(こと)は出来(でき)ぬものだなア。133世間(せけん)が広(ひろ)いと云(い)つても、134何処(どこ)で出会(でつくわ)すか分(わか)つたものぢやない。135オイお前(まへ)達(たち)もお礼(れい)旁(かたがた)、136コーカス山(ざん)で御(ご)無礼(ぶれい)を働(はたら)いた事(こと)をお詫(わ)びしようぢやないか』
137甲(かふ)『そいつは一寸(ちよつと)考(かんが)へ物(もの)だぞ。138牛(うし)、139馬(うま)、140鹿(しか)、141虎(とら)の四(よ)人(にん)は随分(ずゐぶん)寝返(ねがへ)りを打(う)つて、142あつちに付(つ)きこつちに付(つ)き余(あま)り宜(よ)くない事(こと)をやつてゐるから、143迂闊(うつかり)名乗(なの)つて出(で)ようものなら、144今度(こんど)こそ、145どんな目(め)に逢(あ)ふか分(わか)りやしない。146マア知(し)らぬ顔(かほ)して居(を)る事(こと)だなア』
147丁(てい)『それでも何(なん)だか済(す)まぬ様(やう)な心持(こころもち)がする、148一視(いちし)同仁(どうじん)を旨(むね)とする三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)様(さま)がどうして吾々(われわれ)を苦(くる)しめる様(やう)な事(こと)をなさるものか。149従順(すなほ)に名乗(なの)つて、150お詫(わ)びもし御(お)礼(れい)も申上(まをしあ)げたら何(ど)うだ』
151甲(かふ)『お前(まへ)達(たち)はそれで宜(よ)いが、152この牛公(うしこう)は巌(いはや)の中(なか)まで、153沢山(たくさん)な宣伝使(せんでんし)を引張(ひつぱり)込(こ)むで苦(くる)しめた、154ウラル姫(ひめ)の捕手(とりて)の頭(かしら)だつたから、155到底(たうてい)俺(おれ)丈(だ)けは助(たす)かりつこはない。156貴様(きさま)達(たち)が名乗(なの)つて出(で)ると其(その)序(ついで)に俺(おれ)の事(こと)が現(あら)はれて来(く)るから俺(おれ)を助(たす)けると思(おも)つて名乗(なの)るのは見合(みあは)して呉(く)れないか』
157乙(おつ)『そんな、158股倉(またぐら)に何(なに)やらを挟(はさ)むで居(ゐ)る様(やう)な気味(きび)の悪(わる)い事(こと)が出来(でき)るものかい。159此(この)船(ふね)には三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)が六(ろく)人(にん)も乗(の)つて厶(ござ)るぞ。160兎(と)も角(かく)従順(すなほ)に、161尾(を)を掉(ふ)つて此(この)場(ば)を逃(のが)れるのだ、162改心(かいしん)した様(やう)な顔(かほ)して居(を)れば宜(よ)いのだ。163然(しか)しながら俺(おれ)達(たち)は心(こころ)の底(そこ)から改心(かいしん)して居(ゐ)るのだが、164どうしても貴様(きさま)は発根(ほつこん)の改心(かいしん)が出来(でき)ねば、165貴様(きさま)丈(だ)けは柔順(おとなし)うして改心(かいしん)らしう見(み)せて居(を)れば宜(よ)いぢやないか。166向(むか)ふの方(はう)から、167オイ、168其処(そこ)に居(ゐ)るのは牛(うし)、169馬(うま)、170鹿(しか)、171虎(とら)ぢやないかと云(い)はれてからは余(あんま)り気(き)が利(き)かぬぢやないか。172お月様(つきさま)が御(お)出(で)ましになつて、173其処(そこ)らが明(あか)くなり、174風(かぜ)が止(や)むで波(なみ)がをさまり、175ヤレ楽(らく)ぢやと思(おも)へば三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)の顔(かほ)がアリアリと見(み)え出(だ)した。176こちらが見(み)えると同様(どうやう)に、177向(むか)ふも俺(おれ)達(たち)の顔(かほ)が透(す)きとほる様(やう)に見(み)えて居(ゐ)るに違(ちが)ひない。178嗚呼(ああ)照(て)る月(つき)も恨(うら)めしいが曇(くも)るのも恨(うら)めしいだらうな、179牛公(うしこう)』
180牛公(うしこう)『マアマア一寸(ちよつと)思案(しあん)さして呉(く)れ。181何(なん)だか大勢(おほぜい)の前(まへ)で、182謝罪(あやま)つたり叱(しか)られたりするのは見(み)つとも宜(よ)くない。183マア行(ゆ)く処(ところ)まで行(い)かうぢやないか』
184丙(へい)『貴様(きさま)は淡白(あつさり)せぬ物(もの)臭(ぐさ)い男(をとこ)だナア。185徳利(とくり)に味噌(みそ)を詰(つ)めて逆(さか)に振(ふ)つて出(だ)す様(やう)な男(をとこ)だ。186綺麗(きれい)な座敷(ざしき)の真中(まんなか)で、187裃(かみしも)を着(つ)けた儘(まま)、188沢山(どつさり)糞(くそ)を垂(た)れて、189立(た)つにも立(た)たれずと云(い)ふ体裁(ていさい)だ。190貴様(きさま)は牛公(うしこう)だから、191最前(さいぜん)からグヅグヅ云(い)つて、192謝罪(あやま)りに行(ゆ)かうと云(い)ふのにビクともせぬのは、193大方(おほかた)股(また)に牛糞(うしくそ)でも挟(はさ)むで居(ゐ)るのだらう。194体(てい)好(よ)く、195余(あま)り海(うみ)が荒(あ)れて怖(こは)かつたので牛糞(うしくそ)が出(で)たと白状(はくじやう)せぬかい』
196牛公(うしこう)『鹿公(しかこう)の云(い)ふ通(とほ)り、197大(おほ)きな声(こゑ)では云(い)へぬが、198実(じつ)は動(うご)く事(こと)が出来(でき)ぬのだよ、199糞(くそ)忌々(いまいま)しい』
200 かく語(かた)る折(をり)しも、201時置師(ときおかし)の宣伝使(せんでんし)は、202スツクと立(た)つて此方(こなた)に、203人(ひと)を分(わ)けて進(すす)み来(きた)り、
204時置師『イヤ牛公(うしこう)か、205随分(ずゐぶん)貴様(きさま)は悪(わる)い奴(やつ)だ、206何(ど)うだ、207最前(さいぜん)の嵐(あらし)は何(ど)う思(おも)つたか。208貴様(きさま)の様(やう)な悪人(あくにん)が乗(の)つて居(ゐ)るものだから、209竜神(りうじん)様(さん)が御(ご)立腹(りつぷく)遊(あそ)ばしたのだ。210俺(わし)がこれから貴様(きさま)の身体(からだ)の悪魔(あくま)を、211引抜(ひきぬ)いてやらう』
212牛公『何(なに)、213私(わたし)の首(くび)を引抜(ひきぬ)く。214それはマア待(ま)つて下(くだ)さい』
215時置師『否(いや)、216逢(あ)うた時(とき)に笠脱(かさぬ)げと云(い)ふ事(こと)がある。217時(とき)に取(と)つての時置師(ときおかし)の荒料理(あられうり)だ、218其処(そこ)動(うご)くな』
219乙(おつ)『オイ牛公(うしこう)、220本当(ほんたう)に動(うご)くな、221動(うご)くと臭(くさ)いからな』
222 時置師(ときおかしの)神(かみ)は委細(ゐさい)構(かま)はず、223牛公(うしこう)の前(まへ)に進(すす)むで来(く)る。224牛公(うしこう)は、225キヤアと一声(ひとこゑ)叫(さけ)び乍(なが)ら月(つき)照(て)り渡(わた)る波(なみ)を目(め)がけて、226ザンブと許(ばか)り飛(と)び込(こ)み、227ブルブルブルと音(おと)を立(た)てて黒(くろ)き姿(すがた)は後(あと)白波(しらなみ)と消(き)え失(う)せにけり。
228 折柄(をりから)の順風(じゆんぷう)に真帆(まほ)を上(あ)げたる国武丸(くにたけまる)は何(なん)の容赦(ようしや)もなく此(この)悲劇(ひげき)を振(ふ)り捨(す)てて先(さき)へ先(さき)へと進行(しんかう)を続(つづ)くる。
229(大正一一・三・一〇 旧二・一二 藤津久子録)
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