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霊界物語
霊主体従(第1~12巻)
第9巻(申の巻)
序歌
凡例
総説歌
第1篇 長途の旅
第1章 都落
第2章 エデンの渡
第3章 三笠丸
第4章 大足彦
第5章 海上の神姿
第6章 刹那信心
第7章 地獄の沙汰
第2篇 一陽来復
第8章 再生の思
第9章 鴛鴦の衾
第10章 言葉の車
第11章 蓬莱山
第3篇 天涯万里
第12章 鹿島立
第13章 訣別の歌
第14章 闇の谷底
第15章 団子理屈
第16章 蛸釣られ
第17章 甦生
第4篇 千山万水
第18章 初陣
第19章 悔悟の涙
第20章 心の鏡
第21章 志芸山祇
第22章 晩夏の風
第23章 高照山
第24章 玉川の滝
第25章 窟の宿替
第26章 巴の舞
第5篇 百花爛漫
第27章 月光照梅
第28章 窟の邂逅
第29章 九人娘
第30章 救の神
第31章 七人の女
第32章 一絃琴
第33章 栗毛の駒
第34章 森林の囁
第35章 秋の月
第36章 偽神憑
第37章 凱歌
附録 第三回高熊山参拝紀行歌(二)
余白歌
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<<< 団子理屈
(B)
(N)
甦生 >>>
第一六章
蛸
(
たこ
)
釣
(
つ
)
られ〔四〇九〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第9巻 霊主体従 申の巻
篇:
第3篇 天涯万里
よみ(新仮名遣い):
てんがいばんり
章:
第16章 蛸釣られ
よみ(新仮名遣い):
たこつられ
通し章番号:
409
口述日:
1922(大正11)年02月14日(旧01月18日)
口述場所:
筆録者:
河津雄
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1922(大正11)年7月5日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
駒山彦は淤縢山津見をしきりに呼び止めていたが、体が動かない。ふと見ると、月光に照らされた照彦は、珍山彦の姿に変わっていた。照彦の神は引き続き、駒山彦への説教を続ける。
そして最後に、ここで駒山彦に修行するように、と言い渡すと、照彦は宣伝歌を歌いながら去ってしまった。
駒山彦はこの谷間に百日百夜座らされて断食の行を積んだ。日夜神の教訓を受けて、立派な宣伝使となった。そして名を羽山津見司を改めて、黄泉比良坂の神業に参加することになる。
実は照彦は、ある尊い神の分霊であった。後に戸山津見司となる。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2020-06-23 22:27:12
OBC :
rm0916
愛善世界社版:
133頁
八幡書店版:
第2輯 322頁
修補版:
校定版:
139頁
普及版:
55頁
初版:
ページ備考:
001
神
(
かみ
)
の
恵
(
めぐみ
)
の
弥
(
いや
)
深
(
ふか
)
き、
002
この
谷底
(
たにぞこ
)
に
残
(
のこ
)
されし、
003
駒山彦
(
こまやまひこ
)
は
淤縢山津見
(
おどやまづみ
)
の
帰
(
かへ
)
りゆく
姿
(
すがた
)
を
眺
(
なが
)
めて、
004
駒山彦
『オーイ、
005
オーイ』
006
と
呼
(
よ
)
び
止
(
と
)
めるを、
007
淤縢山津見
(
おどやまづみ
)
はこの
声
(
こゑ
)
を
木耳
(
きくらげ
)
の、
008
耳
(
みみ
)
を
塞
(
ふさ
)
いて
悠々
(
いういう
)
と、
009
宣伝歌
(
せんでんか
)
を
歌
(
うた
)
ひながら
下
(
くだ
)
り
行
(
ゆ
)
く。
010
月
(
つき
)
は
漸々
(
やうやう
)
にして、
011
山
(
やま
)
の
端
(
は
)
を
出
(
い
)
で、
012
皎々
(
かうかう
)
と
輝
(
かがや
)
き
渡
(
わた
)
り、
013
二人
(
ふたり
)
の
面
(
かほ
)
はここに
判然
(
はんぜん
)
せり。
014
見
(
み
)
れば、
015
照彦
(
てるひこ
)
は、
016
俄
(
にはか
)
に
容貌
(
ようばう
)
変
(
かは
)
り、
017
珍山彦
(
うづやまひこ
)
の
姿
(
すがた
)
に
変化
(
へんげ
)
し
居
(
ゐ
)
たるなり。
018
駒山彦
(
こまやまひこ
)
『ヤア、
019
貴様
(
きさま
)
は
照彦
(
てるひこ
)
と
思
(
おも
)
つてゐたら、
020
何
(
なん
)
だ、
021
蚊々虎
(
かがとら
)
の
珍山彦
(
うづやまひこ
)
か、
022
あまり
馬鹿
(
ばか
)
にするな、
023
洒落
(
しやれ
)
るにも
程
(
ほど
)
があるぞ』
024
照彦
(
てるひこ
)
『
ス
ヽヽ
ス
ツカリ
腰
(
こし
)
を
抜
(
ぬ
)
かした
駒山彦
(
こまやまひこ
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
。
025
そんな
腰抜
(
こしぬけ
)
の
分際
(
ぶんざい
)
で、
026
どうして
道
(
みち
)
が
広
(
ひろ
)
まるか。
027
どうして
大道
(
だいだう
)
が
進
(
すす
)
めるか。
028
雀
(
す
ずめ
)
や
燕
(
つばめ
)
の
親方
(
おやかた
)
のやうに
口
(
くち
)
ばかり
達者
(
たつしや
)
でも……』
029
駒山彦
(
こまやまひこ
)
『スヽヽスリヤ
何
(
なに
)
を
言
(
い
)
ふのだ。
030
貴様
(
きさま
)
も
何時
(
いつ
)
までも、
031
そんな
悪
(
わる
)
い
悪戯
(
いたづら
)
をせずに、
032
俺
(
おれ
)
に
鎮魂
(
ちんこん
)
をして、
033
脚
(
あし
)
を
起
(
た
)
たしてくれたら
如何
(
どう
)
だ』
034
照彦
『
ス
ヽヽ
ス
ワ
一大事
(
いちだいじ
)
と
言
(
い
)
ふやうにならねば、
035
貴様
(
きさま
)
の
腰
(
こし
)
は
起
(
た
)
たぬ。
036
酸
(
す
)
いも
甘
(
あま
)
いも
皆
(
みな
)
知
(
し
)
りぬいた
蚊々虎
(
かがとら
)
を、
037
その
方
(
はう
)
は
今
(
いま
)
まで
何
(
なん
)
と
心得
(
こころえ
)
て
居
(
ゐ
)
たか。
038
稲
(
いね
)
を
作
(
つく
)
つて、
039
米
(
こめ
)
を
搗
(
つ
)
いて、
040
飯
(
めし
)
を
炊
(
た
)
いて、
041
サアお
食
(
あが
)
りといふ
様
(
やう
)
に、
042
据
(
す
)
ゑ
膳
(
ぜん
)
を
食
(
く
)
つた
苦労
(
くらう
)
の
足
(
た
)
らぬ
宣伝使
(
せんでんし
)
。
043
ス
ツカリ
曲津
(
まがつ
)
に
欺
(
だま
)
されて、
044
隙
(
す
き
)
だらけの
汝
(
なんぢ
)
の
身魂
(
みたま
)
、
045
汝
(
なんぢ
)
のやうな、
046
馬鹿
(
ばか
)
な
身魂
(
みたま
)
は
尠
(
す
くな
)
からう。
047
少彦名
(
す
くなひこなの
)
神
(
かみ
)
の
在
(
おは
)
します
常世
(
とこよ
)
の
国
(
くに
)
へ、
048
直
(
す
ぐ
)
に
行
(
ゆ
)
かうとはチト
慢心
(
まんしん
)
が
過
(
す
)
ぎる。
049
この
細谷川
(
ほそたにがは
)
の
山奥
(
やまおく
)
で
難行
(
なんぎやう
)
苦行
(
くぎやう
)
の
功
(
こう
)
を
積
(
つ
)
み、
050
神
(
かみ
)
の
助
(
たす
)
けを
蒙
(
かうむ
)
つて
身魂
(
みたま
)
を
洗
(
あら
)
ひ
浄
(
きよ
)
め、
051
少
(
す
こ
)
しも
疵
(
きず
)
のない、
052
日月
(
じつげつ
)
のやうな
心
(
こころ
)
に
研
(
みが
)
き
上
(
あ
)
げ、
053
素盞嗚
(
す
さのをの
)
尊
(
みこと
)
の
雄々
(
をを
)
しき
生
(
うま
)
れ
変
(
かは
)
り、
054
頭
(
あたま
)
の
上
(
うへ
)
から
身体
(
からだ
)
の
裾
(
す
そ
)
まで、
055
気
(
き
)
をつけて、
056
ス
タ
ス
タと
山路
(
やまみち
)
を
進
(
す
す
)
んで
行
(
ゆ
)
くのが
汝
(
なんぢ
)
の
天職
(
てんしよく
)
。
057
素直
(
す
なほ
)
な
心
(
こころ
)
を
以
(
もつ
)
て、
058
末
(
す
ゑ
)
永
(
なが
)
く
神
(
かみ
)
に
仕
(
つか
)
へよ。
059
ス
マから
隅
(
す
ま
)
まで、
060
澄
(
す
)
みきる
今宵
(
こよひ
)
の
月
(
つき
)
の
顔
(
かほ
)
、
061
これを
心
(
こころ
)
の
鏡
(
かがみ
)
とし、
062
皇
(
す
め
)
大神
(
おほかみ
)
に
仕
(
つか
)
へ
奉
(
たてまつ
)
れ。
063
誠
(
まこと
)
の
道
(
みち
)
を
ス
ラスラと
脚
(
あし
)
も
達者
(
たつしや
)
に
起
(
た
)
ち
上
(
あが
)
れ』
064
駒山彦
『
セ
ヽヽ
セ
ングリ
セ
ングリ、
065
イヤモウ、
066
おむつかしい
御
(
ご
)
意見
(
いけん
)
を
承
(
うけたま
)
はつて、
067
ウンザリした。
068
世界
(
せ
かい
)
は
広
(
ひろ
)
しと
雖
(
いへど
)
も、
069
心
(
こころ
)
は
急
(
せ
)
き
立
(
た
)
てども、
070
急
(
せ
)
けば
急
(
せ
)
くほど
足腰
(
あしこし
)
は
起
(
た
)
たず、
071
世間
(
せ
けん
)
の
奴
(
やつ
)
にこんな
所
(
ところ
)
を
見
(
み
)
られたら、
072
愛想
(
あいさう
)
をつかされ、
073
捨
(
す
)
てられて、
074
宣伝使
(
せ
んでんし
)
の
面目玉
(
めんぼくだま
)
は
丸潰
(
まるつぶ
)
れだ』
075
照彦
『
ソ
ヽヽ
さ
うだらうさうだらう、
076
ソ
ワ
ソ
ワしい
そ
の
態
(
ざま
)
は
何
(
なん
)
だ。
077
そ
こらに
人
(
ひと
)
はないと
申
(
まを
)
すが、
078
これだけ
沢山
(
たくさん
)
の
神々
(
かみがみ
)
が
眼
(
め
)
につかぬか。
079
そ
れほど
外
(
そ
と
)
の
聞
(
きこ
)
えが
気
(
き
)
にかかるなら、
080
そ
なたの
心
(
こころ
)
を
取
(
と
)
り
直
(
なほ
)
し、
081
心
(
こころ
)
の
底
(
そ
こ
)
から
そ
の
慢心
(
まんしん
)
を
祓
(
はら
)
ひ
出
(
だ
)
せ。
082
空
(
そ
ら
)
行
(
ゆ
)
く
雲
(
くも
)
も
自由
(
じいう
)
自在
(
じざい
)
に
走
(
はし
)
るでないか。
083
其方
(
そ
なた
)
の
脚
(
あし
)
は
そ
りや
何
(
なん
)
の
醜態
(
ざま
)
、
084
そ
れでもまだ
気
(
き
)
が
付
(
つ
)
かぬか。
085
もう
そ
ろ
そ
ろと
我
(
が
)
を
折
(
を
)
つたらどうだ』
086
駒山彦
『モウ、
087
ソ
ロ
ソ
ロと
脚
(
あし
)
を
起
(
た
)
たして
呉
(
く
)
れてもよかり
さ
うなものだな』
088
照彦
『
タ
ヽヽヽ
タ
ヽさぬ
起
(
た
)
たさぬ。
089
他愛
(
た
あい
)
もないこと、
090
大変
(
た
いへん
)
に
饒舌
(
しやべく
)
る
宣伝使
(
せんでんし
)
。
091
息
(
いき
)
も
絶
(
た
)
え
絶
(
だ
)
えになるとこまで、
092
イヤサ、
093
この
場
(
ば
)
で
倒
(
た
ふ
)
れるとこまで
戒
(
いまし
)
めて、
094
高
(
た
か
)
い
鼻
(
はな
)
を
叩
(
た
た
)
き
折
(
を
)
つて、
095
煮
(
た
)
いて
喰
(
く
)
てやらうか。
096
野山
(
のやま
)
の
猛
(
た
け
)
き
獣
(
けだもの
)
の
餌食
(
ゑじき
)
になるか、
097
蛸
(
た
こ
)
のやうな
骨
(
ほね
)
も
何
(
なん
)
にもない
たわけ
者
(
もの
)
、
098
たたき
にしようか、
099
それが
嫌
(
いや
)
なら
直
(
ただち
)
に
改心
(
かいしん
)
するか。
100
改心
(
かいしん
)
出来
(
でき
)
たら
足
(
あし
)
は
起
(
た
)
つぞよ。
101
腹
(
はら
)
を
た
てな、
102
腹
(
はら
)
を
立
(
た
)
てると
足
(
あし
)
は
立
(
た
)
つまいぞよ。
103
譬
(
た
と
)
へて
言
(
い
)
へば
高峰
(
た
かね
)
の
花
(
はな
)
、
104
大空
(
おほぞら
)
の
月
(
つき
)
、
105
神
(
かみ
)
の
誠
(
まこと
)
の
奥
(
おく
)
は、
106
よほど
改心
(
かいしん
)
を
致
(
いた
)
さねば、
107
掴
(
つか
)
むことは
出来
(
でき
)
ぬぞよ。
108
何
(
な
に
)
ほど
言
(
い
)
うても、
109
訳
(
わけ
)
の
解
(
わか
)
らぬ
情
(
な
さけ
)
ない、
110
な
まくら
身魂
(
みたま
)
の
鉛
(
な
まり
)
のやうな
両刃
(
もろは
)
の
剣
(
つるぎ
)
で
何
(
な
に
)
が
出来
(
でき
)
るか。
111
泣
(
な
)
いて
暮
(
くら
)
すも
一生
(
いつしやう
)
なら、
112
笑
(
わら
)
つて
暮
(
くら
)
すも
一生
(
いつしやう
)
だ。
113
な
い
袖
(
そで
)
は
振
(
ふ
)
れぬ、
114
な
い
智慧
(
ちゑ
)
はしぼれまい。
115
ホロが
萎
(
な
)
えたか、
116
直霊
(
なほひ
)
の
みたま
に
詔
(
の
)
り
直
(
な
ほ
)
せ。
117
中々
(
な
かなか
)
難
(
むつ
)
かしい
神
(
かみ
)
の
道
(
みち
)
、
118
気楽
(
きらく
)
に
思
(
おも
)
うて
居
(
ゐ
)
ると、
119
泣
(
な
)
き
面
(
づら
)
かわくやうなことが
度々
(
たびたび
)
あるぞよ。
120
罪
(
つみ
)
もなく
、
121
穢
(
けがれ
)
もなく
、
122
心
(
こころ
)
の
玉
(
たま
)
に
曇
(
くも
)
りなければ
、
123
どんな
事
(
こと
)
でも
為
(
な
)
し
遂
(
と
)
げらる
。
124
誠
(
まこと
)
の
固
(
かた
)
まつたのは
長
(
な
が
)
う
栄
(
さか
)
えるぞよ。
125
名
(
な
)
さへ
目出度
(
めでた
)
き
高砂
(
たかさご
)
の、
126
この
神島
(
かみじま
)
に
渡
(
わた
)
りながら、
127
汝
(
な
んぢ
)
の
な
したる
修業
(
しうげふ
)
は
蚊々虎
(
かがとら
)
の
蚊
(
か
)
の
涙
(
な
みだ
)
にも
及
(
およ
)
ばぬ、
128
何
(
な
に
)
を
致
(
いた
)
すも
耐
(
こら
)
へ
忍
(
しの
)
びが
肝腎
(
かんじん
)
だ。
129
鈍刀
(
なまくらがたな
)
で
悪魔
(
あくま
)
は
斬
(
き
)
れぬぞ。
130
心
(
こころ
)
の
波
(
な
み
)
を
静
(
しづ
)
かにをさめ、
131
艱難
(
かんなん
)
辛苦
(
しんく
)
を
嘗
(
な
)
め、
132
奈落
(
な
らく
)
の
底
(
そこ
)
も
恐
(
おそ
)
れぬ
魂
(
たましひ
)
にならねば、
133
何事
(
な
にごと
)
も
成
(
な
)
り
遂
(
と
)
げぬぞよ。
134
ものの
成
(
な
)
るは、
135
成
(
な
)
るの
日
(
ひ
)
に
成
(
な
)
るにあらずして、
136
成
(
な
)
らぬ
日
(
ひ
)
に
成
(
な
)
るのである。
137
早
(
はや
)
く
神心
(
かみごころ
)
に
成
(
な
)
れ
成
(
な
)
れ
駒山彦
(
こまやまひこ
)
。
138
惟神
(
かむながら
)
の
道
(
みち
)
に
倣
(
な
ら
)
うて
此
(
この
)
世
(
よ
)
を
渡
(
わた
)
れ。
139
チ
ヽヽ
知慧
(
ち
ゑ
)
や
学
(
がく
)
を
頼
(
たよ
)
りに
致
(
いた
)
すな。
140
近欲
(
ち
かよく
)
に
迷
(
まよ
)
ふな。
141
直取
(
ぢ
きとり
)
をすな。
142
ヂ
グ
ヂ
グと
考
(
かんが
)
へて
進
(
すす
)
め。
143
道
(
みち
)
に
違
(
ち
が
)
うた
事
(
こと
)
は
遣
(
や
)
り
直
(
なほ
)
せ。
144
小
(
ちひ
)
さい
心
(
こころ
)
で
知識
(
ちしき
)
を
鼻
(
はな
)
にかけ
、
145
天狗面
(
てんぐづら
)
して
笑
(
わら
)
はれな
。
146
チ
ツトは
物事
(
ものごと
)
を
考
(
かんが
)
へて
地
(
ち
)
に
落
(
お
)
ちた
人間
(
にんげん
)
を
助
(
たす
)
け、
147
千早振
(
ち
はやふ
)
る
神
(
かみ
)
の
教
(
をしへ
)
を
世
(
よ
)
にかがやかせ。
148
凡
(
すべ
)
ての
事
(
こと
)
に
心
(
こころ
)
を
散
(
ち
)
らさず、
149
心
(
こころ
)
の
塵
(
ち
り
)
を
吹
(
ふ
)
き
払
(
はら
)
ひ、
150
誠
(
まこと
)
の
知慧
(
ち
ゑ
)
を
働
(
はたら
)
かせ。
151
ツ
ヽヽ
月
(
つ
き
)
は
山
(
やま
)
の
端
(
は
)
に
隠
(
かく
)
れむとしてゐる。
152
ヤア、
153
照彦
(
てるひこ
)
の
奴
(
やつこ
)
さまも
此
(
この
)
場
(
ば
)
を
去
(
さ
)
らねばなるまい。
154
駒山彦
(
こまやまひこ
)
ツ、
155
これからトツクリと
御
(
ご
)
修業
(
しうげふ
)
なさるがよからう。
156
左様
(
さやう
)
なら』
157
と
言
(
い
)
ひつつ
照彦
(
てるひこ
)
はツと
起
(
た
)
ち
上
(
あが
)
り、
158
悠々
(
いういう
)
としてこの
場
(
ば
)
を
去
(
さ
)
らむとする。
159
駒山彦
(
こまやまひこ
)
『
マ
ヽヽ
待
(
ま
)
つて
下
(
くだ
)
さい。
160
折角
(
せつかく
)
月
(
つき
)
が
出
(
で
)
たと
思
(
おも
)
へばこの
細
(
ほそ
)
い
谷間
(
たにま
)
、
161
ま
た
月
(
つき
)
が
隠
(
かく
)
れて
真闇
(
ま
つくら
)
がりになつてしまふ。
162
こんな
所
(
ところ
)
に
一人
(
ひとり
)
放置
(
ほつと
)
かれては
耐
(
たま
)
つたものではない。
163
ヤア
照彦
(
てるひこ
)
、
164
お
前
(
まへ
)
の
神懸
(
かむがかり
)
も、
165
どうやら
鎮
(
をさ
)
まつたと
見
(
み
)
える。
166
俺
(
わし
)
を
伴
(
つ
)
れて
帰
(
かへ
)
つてくれないか』
167
照彦
(
てるひこ
)
『
神
(
かみ
)
の
言葉
(
ことば
)
に
二言
(
にごん
)
はない。
168
左様
(
さやう
)
なら』
169
と、
170
またもや
宣伝歌
(
せんでんか
)
を
歌
(
うた
)
ひ、
171
闇
(
やみ
)
にまぎれて
何処
(
どこ
)
ともなく
立去
(
たちさ
)
りにける。
172
駒山彦
(
こまやまひこ
)
『アヽ、
173
つ
まらぬ
目
(
め
)
に
遇
(
あ
)
はしよつた。
174
まるで
狐
(
きつね
)
に
抓
(
つ
ま
)
まれたやうな
目
(
め
)
に
遇
(
あ
)
はしよつて、
175
二人
(
ふたり
)
の
奴
(
やつ
)
、
176
俺
(
ひと
)
を
置去
(
おきざ
)
りにして
行
(
ゆ
)
くとは、
177
アヽ
人間
(
にんげん
)
も
当
(
あて
)
にならぬものだ。
178
まさかの
時
(
とき
)
に
自分
(
じぶん
)
の
杖
(
つ
ゑ
)
となり
力
(
ちから
)
となり、
179
何処
(
どこ
)
までも
随
(
つ
)
いて
来
(
く
)
るものは
自分
(
じぶん
)
の
影法師
(
かげぼうし
)
ばつかりだ。
180
その
影法師
(
かげぼうし
)
さへも、
181
闇
(
やみ
)
の
夜
(
よ
)
には
随
(
つ
)
いて
来
(
き
)
てくれぬ。
182
斯
(
か
)
うなつて
来
(
く
)
ると
人間
(
にんげん
)
も
詰
(
つ
)
まらぬものだ。
183
神
(
かみ
)
の
教
(
をしへ
)
の
司
(
つ
かさ
)
と
言
(
い
)
ひながら、
184
こんな
拙
(
つ
た
)
ない、
185
辛
(
つ
ら
)
い
事
(
こと
)
が
世
(
よ
)
にあらうか。
186
頼
(
たの
)
みの
綱
(
つ
な
)
も
断
(
き
)
れ
果
(
は
)
てて、
187
終
(
つ
ひ
)
に
会
(
あ
)
うた
事
(
こと
)
もない、
188
月
(
つ
き
)
さへ
見
(
み
)
えぬ
谷底
(
たにぞこ
)
に
突
(
つ
)
き
落
(
おと
)
され、
189
地
(
つ
ち
)
の
上
(
うへ
)
に
坐
(
すわ
)
らされて、
190
罪滅
(
つ
みほろぼ
)
しか
何
(
なに
)
か
知
(
し
)
らぬが、
191
蛸
(
たこ
)
を
釣
(
つ
)
られて
居
(
ゐ
)
る
苦
(
くる
)
しさ。
192
ツ
ク
ヅ
ク
思
(
おも
)
ひ
廻
(
めぐ
)
らせば、
193
日
(
ひ
)
に
夜
(
よ
)
に
積
(
つ
)
んだ
罪
(
つ
み
)
の
酬
(
むく
)
いか。
194
露
(
つ
ゆ
)
の
命
(
いのち
)
を
存
(
なが
)
らへて、
195
杖
(
つ
ゑ
)
も、
196
力
(
ちから
)
も、
197
伝手
(
つ
て
)
も、
198
泣
(
な
)
く
泣
(
な
)
く
苦
(
くる
)
しみ
悶
(
もだ
)
える
浅間
(
あさま
)
しさ。
199
信心
(
しんじん
)
は
常
(
つ
ね
)
にせよと、
200
毎日
(
まいにち
)
日日
(
ひにち
)
、
201
詰
(
つ
)
めかけるやうに
教
(
をし
)
へられて、
202
漸
(
やうや
)
く
宣伝使
(
せんでんし
)
になるは
成
(
な
)
つたものの、
203
実
(
じつ
)
に
つ
れない
浮世
(
うきよ
)
だナア。
204
強
(
つ
よ
)
いことを
言
(
い
)
つて
居
(
を
)
つても、
205
斯
(
か
)
う
辛
(
つ
ら
)
うては
到底
(
たうてい
)
忍耐
(
こば
)
れたものぢやない。
206
アヽ、
207
行
(
ゆ
)
きつきばつたりに
宣伝使
(
せんでんし
)
になつたのが、
208
吾
(
わが
)
身
(
み
)
の
病
(
や
)
み
月
(
つ
き
)
で
運
(
うん
)
の
月
(
つ
き
)
かい。
209
つ
く
づ
く
思案
(
しあん
)
をして
見
(
み
)
れば、
210
月
(
つ
き
)
に
村雲
(
むらくも
)
花
(
はな
)
に
風
(
かぜ
)
、
211
尽
(
つ
)
きぬ
思
(
おも
)
ひの
此
(
この
)
谷底
(
たにぞこ
)
で、
212
虎
(
とら
)
狼
(
おほかみ
)
の
餌食
(
ゑじき
)
になるのであらうか、
213
アーアー』
214
と
独言
(
ひとりごと
)
を
言
(
い
)
つて
ほざ
いてゐる。
215
この
時
(
とき
)
闇中
(
あんちう
)
よりまたもや
大声
(
おほごゑ
)
が
何処
(
どこ
)
ともなく
響
(
ひび
)
き
来
(
きた
)
る。
216
駒山彦
(
こまやまひこ
)
は、
217
この
谷間
(
たにま
)
に
百
(
ひやく
)
日
(
にち
)
百夜
(
ひやくや
)
、
218
跪坐
(
すわ
)
らされ、
219
断食
(
だんじき
)
の
行
(
ぎやう
)
を
積
(
つ
)
み、
220
日夜
(
にちや
)
神
(
かみ
)
の
教訓
(
けうくん
)
を
受
(
う
)
け、
221
いよいよ
立派
(
りつぱ
)
な
宣伝使
(
せんでんし
)
となつて、
222
名
(
な
)
を
羽山津見
(
はやまづみの
)
神
(
かみ
)
と
改
(
あらた
)
め、
223
黄泉
(
よもつ
)
比良坂
(
ひらさか
)
の
神業
(
しんげふ
)
に
参加
(
さんか
)
したり。
224
而
(
しか
)
して
彼
(
かれ
)
照彦
(
てるひこ
)
は、
225
或
(
あ
)
る
尊
(
たふと
)
き
神
(
かみ
)
の
分霊
(
ぶんれい
)
にして、
226
後
(
のち
)
には
戸山津見
(
とやまづみの
)
神
(
かみ
)
となりたり。
227
(
大正一一・二・一四
旧一・一八
河津雄
録)
Δこのページの一番上に戻るΔ
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