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霊界物語
霊主体従(第1~12巻)
第9巻(申の巻)
序歌
凡例
総説歌
第1篇 長途の旅
第1章 都落
第2章 エデンの渡
第3章 三笠丸
第4章 大足彦
第5章 海上の神姿
第6章 刹那信心
第7章 地獄の沙汰
第2篇 一陽来復
第8章 再生の思
第9章 鴛鴦の衾
第10章 言葉の車
第11章 蓬莱山
第3篇 天涯万里
第12章 鹿島立
第13章 訣別の歌
第14章 闇の谷底
第15章 団子理屈
第16章 蛸釣られ
第17章 甦生
第4篇 千山万水
第18章 初陣
第19章 悔悟の涙
第20章 心の鏡
第21章 志芸山祇
第22章 晩夏の風
第23章 高照山
第24章 玉川の滝
第25章 窟の宿替
第26章 巴の舞
第5篇 百花爛漫
第27章 月光照梅
第28章 窟の邂逅
第29章 九人娘
第30章 救の神
第31章 七人の女
第32章 一絃琴
第33章 栗毛の駒
第34章 森林の囁
第35章 秋の月
第36章 偽神憑
第37章 凱歌
附録 第三回高熊山参拝紀行歌(二)
余白歌
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第9巻(申の巻)
> 第5篇 百花爛漫 > 第27章 月光照梅
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(B)
(N)
窟の邂逅 >>>
第二七章
月光
(
げつくわう
)
照梅
(
せうばい
)
〔四二〇〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第9巻 霊主体従 申の巻
篇:
第5篇 百花爛漫
よみ(新仮名遣い):
ひゃっからんまん
章:
第27章 月光照梅
よみ(新仮名遣い):
げっこうしょうばい
通し章番号:
420
口述日:
1922(大正11)年02月16日(旧01月20日)
口述場所:
筆録者:
外山豊二
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1922(大正11)年7月5日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
カルの国をただ一人で宣伝して回っていた梅ケ香姫は、はざまの森に着いた。疲れ果てて一歩も進むことができない身の上を一人嘆いている。
はざまの森では鷹取別の密偵たちが、三五教の宣伝使を捉えようと潜んでいたが、梅ケ香姫の様子が幽霊のようにも見え、おびえている。一人が梅ケ香姫に声をかけたが、梅ケ香姫は幽霊の振りをして密偵たちを追い払った。
梅ケ香姫が一人祝詞を上げていると、そこへ先ほどの密偵たちの一人がやってきた。そして、自分はカルの国の役人だが、実は三五教を密かに奉じる者であり、ぜひ家に泊まっていただきたい、と申し出た。
また、鷹取別は桃上彦の三人の娘が三五教の宣伝使となって北上していることを察知し、捉えようと多くの密偵を放っていることを明かし、梅ケ香姫に注意を促した。
梅ケ香姫は親切に感謝し、この役人の家に世話になることにした。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
[×閉じる]
:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2020-06-23 23:16:29
OBC :
rm0927
愛善世界社版:
211頁
八幡書店版:
第2輯 350頁
修補版:
校定版:
219頁
普及版:
89頁
初版:
ページ備考:
001
夜
(
よ
)
を
日
(
ひ
)
についで
ひる
の
国
(
くに
)
002
虎
(
とら
)
伏
(
ふ
)
す
野辺
(
のべ
)
や
獅子
(
しし
)
大蛇
(
をろち
)
003
曲津
(
まがつ
)
の
声
(
こゑ
)
に
送
(
おく
)
られて
004
大川
(
おほかは
)
小川
(
をがは
)
を
打渡
(
うちわた
)
り
005
やつれ
果
(
は
)
てたる
蓑笠
(
みのかさ
)
の
006
身装
(
みなり
)
も
軽
(
かる
)
きカルの
国
(
くに
)
007
花
(
はな
)
の
蕾
(
つぼみ
)
の
梅ケ香姫
(
うめがかひめ
)
の
008
君
(
きみ
)
の
命
(
みこと
)
はただ
一人
(
ひとり
)
009
女心
(
をんなごころ
)
の
淋
(
さび
)
し
気
(
げ
)
に
010
神
(
かみ
)
を
力
(
ちから
)
に
誠
(
まこと
)
を
杖
(
つゑ
)
に
011
草鞋
(
わらぢ
)
脚絆
(
きやはん
)
のいでたちは
012
実
(
げ
)
に
勇
(
いさ
)
ましの
限
(
かぎ
)
りなり
013
梅ケ香
(
うめがか
)
薫
(
かを
)
る
春
(
はる
)
の
日
(
ひ
)
も
014
何時
(
いつ
)
しか
過
(
す
)
ぎて
新緑
(
しんりよく
)
の
015
滴
(
したた
)
る
山野
(
やまの
)
は
冬
(
ふゆ
)
の
空
(
そら
)
016
嵐
(
あらし
)
の
風
(
かぜ
)
に
吹
(
ふ
)
かれつつ
017
秋
(
あき
)
の
紅葉
(
もみぢ
)
も
散
(
ち
)
りはてて
018
ふみ
も
習
(
なら
)
はぬ
常世国
(
とこよくに
)
を
019
行
(
ゆ
)
き
疲
(
つか
)
れたる
雪
(
ゆき
)
の
道
(
みち
)
020
太平洋
(
たいへいやう
)
の
波
(
なみ
)
高
(
たか
)
く
021
大西洋
(
たいせいやう
)
に
包
(
つつ
)
まれし
022
高砂島
(
たかさごじま
)
と
常世国
(
とこよくに
)
023
陸地
(
りくち
)
と
陸地
(
りくち
)
、
海
(
うみ
)
と
海
(
うみ
)
024
つなぐ
はざま
の
地峡国
(
ちけふこく
)
025
梅ケ香姫
(
うめがかひめ
)
はやうやうに
026
はざま
の
森
(
もり
)
に
着
(
つ
)
きにけり。
027
木枯
(
こがらし
)
の
風
(
かぜ
)
は
雪
(
ゆき
)
さへ
交
(
まじ
)
へて、
028
獅子
(
しし
)
の
吼
(
たけ
)
るやうに
唸
(
うな
)
り
立
(
た
)
つてゐる。
029
太平洋
(
たいへいやう
)
の
波
(
なみ
)
を
照
(
て
)
らして、
030
十六夜
(
のちのよ
)
の
月
(
つき
)
は
海面
(
かいめん
)
に
姿
(
すがた
)
を
現
(
あら
)
はしたり。
031
梅ケ香姫
(
うめがかひめ
)
は
只
(
ただ
)
一人
(
ひとり
)
、
032
浪
(
なみ
)
を
分
(
わ
)
けて
昇
(
のぼ
)
る
月影
(
つきかげ
)
に
向
(
むか
)
つて、
033
梅ケ香姫
『あゝ
今日
(
けふ
)
は
十六夜
(
じふろくや
)
のお
月
(
つき
)
さま、
034
何時
(
いつ
)
見
(
み
)
ても
美
(
うる
)
はしい
御
(
おん
)
顔
(
かんばせ
)
。
035
妾
(
わらは
)
も
同
(
おな
)
じ
十六
(
じふろく
)
歳
(
さい
)
の
女
(
をんな
)
の
一人旅
(
ひとりたび
)
、
036
変
(
かは
)
れば
変
(
かは
)
る
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
ぢやなア。
037
想
(
おも
)
ひ
廻
(
まは
)
せば、
038
時
(
とき
)
は
弥生
(
やよひ
)
の
三月
(
さんぐわつ
)
三日
(
みつか
)
、
039
花
(
はな
)
の
都
(
みやこ
)
と
聞
(
きこ
)
えたる
聖地
(
せいち
)
ヱルサレムを
主従
(
しうじう
)
四
(
よ
)
人
(
にん
)
立出
(
たちい
)
でて、
040
踏
(
ふ
)
みも
習
(
なら
)
はぬ
旅枕
(
たびまくら
)
、
041
千万
(
ちよろづ
)
の
艱
(
なや
)
みを
凌
(
しの
)
ぎしのぎて
遠
(
とほ
)
き
海原
(
うなばら
)
を
渡
(
わた
)
り、
042
神
(
かみ
)
の
恵
(
めぐ
)
みの
有難
(
ありがた
)
くも
恋
(
こひ
)
しき
父
(
ちち
)
に
廻
(
めぐ
)
り
会
(
あ
)
ひ、
043
親子
(
おやこ
)
の
対面
(
たいめん
)
、
044
やれやれと
喜
(
よろこ
)
ぶ
間
(
ま
)
もなく
妾
(
わらは
)
姉妹
(
きやうだい
)
は、
045
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
のため、
046
世人
(
よびと
)
のために
尊
(
たふと
)
き
宣伝使
(
せんでんし
)
となつて、
047
又
(
また
)
もや
山坂
(
やまさか
)
を
越
(
こ
)
え
荒海
(
あらうみ
)
を
渡
(
わた
)
り、
048
あらゆる
艱難
(
かんなん
)
と
戦
(
たたか
)
ひ、
049
ここに
力
(
ちから
)
と
頼
(
たの
)
む
主従
(
しうじう
)
四
(
よ
)
人
(
にん
)
は、
050
珍山彦
(
うづやまひこ
)
の
神
(
かみ
)
の
誡
(
いまし
)
めに
依
(
よ
)
つて
東西
(
とうざい
)
南北
(
なんぼく
)
に
袂
(
たもと
)
を
別
(
わか
)
ち、
051
四鳥
(
してう
)
の
悲
(
かな
)
しみ、
052
釣魚
(
てうぎよ
)
の
涙
(
なみだ
)
、
053
乾
(
かわ
)
く
間
(
ま
)
もなき
五月
(
さつき
)
の
空
(
そら
)
、
054
珍
(
うづ
)
の
都
(
みやこ
)
を
後
(
あと
)
にして、
055
便
(
たよ
)
りも
夏
(
なつ
)
の
荒野
(
あらの
)
を
渉
(
わた
)
り、
056
秋
(
あき
)
も
何時
(
いつ
)
しか
暮果
(
くれは
)
てて、
057
はやくも
冬
(
ふゆ
)
の
初
(
はじ
)
めとなつたるか。
058
神
(
かみ
)
のため、
059
世
(
よ
)
のためとは
言
(
い
)
ひながら、
060
さてもさても
淋
(
さび
)
しいこと、
061
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
を
力
(
ちから
)
に
誠
(
まこと
)
を
杖
(
つゑ
)
に、
062
やうやう
此処
(
ここ
)
まで
来
(
く
)
るは
来
(
き
)
たものの、
063
もう
一歩
(
ひとあし
)
も
進
(
すす
)
まれぬ。
064
疲労
(
くたび
)
れ
果
(
は
)
てたるこの
身体
(
からだ
)
、
065
あゝ
何
(
なん
)
とせむ』
066
と
袖
(
そで
)
に
涙
(
なみだ
)
を
拭
(
ぬぐ
)
ふ
折
(
をり
)
しも、
067
前方
(
ぜんぱう
)
より
二三
(
にさん
)
の
老若
(
らうにやく
)
この
場
(
ば
)
に
現
(
あら
)
はれ、
068
甲
(
かふ
)
『オイオイあの
はざま
の
森蔭
(
もりかげ
)
を
見
(
み
)
よ、
069
出
(
で
)
たぞ
出
(
で
)
たぞ』
070
乙
(
おつ
)
『
何
(
なに
)
が
出
(
で
)
たのだ』
071
甲
(
かふ
)
『
出
(
で
)
たの
出
(
で
)
んのつて、
072
それ
霊
(
れい
)
ぢや
霊
(
れい
)
ぢや』
073
乙
(
おつ
)
『
霊
(
れい
)
とはなんだい』
074
甲
(
かふ
)
『
今夜
(
こんや
)
のやうな
風
(
かぜ
)
の
吹
(
ふ
)
く
晩
(
ばん
)
には、
075
得
(
え
)
てして
出
(
で
)
る
奴
(
やつ
)
ぢや。
076
蒼白
(
あをじろ
)
い
痩
(
や
)
せた
面
(
つら
)
をして
眼
(
め
)
をギロツと
剥
(
む
)
いて、
077
髪
(
かみ
)
を
さんばら
に
垂
(
た
)
らしてお
出
(
いで
)
る
御
(
お
)
方
(
かた
)
だ。
078
霊
(
れい
)
は
霊
(
れい
)
ぢやが、
079
霊
(
れい
)
の
上
(
うへ
)
に
幽
(
いう
)
がつくのだよ。
080
それ
見
(
み
)
い、
081
木枯
(
こがらし
)
がヒユウヒユウと
呻
(
うな
)
つてゐる。
082
オツツケ
其処
(
そこ
)
らからドロドロだ』
083
丙
(
へい
)
『
何
(
なに
)
を
威嚇
(
おどか
)
しよるのだ。
084
幽霊
(
いうれい
)
も
何
(
なに
)
もあつたものか。
085
何
(
なん
)
ぢや
貴様
(
きさま
)
達
(
たち
)
は、
086
ビリビリ
慄
(
ふる
)
ひよつて、
087
声
(
こゑ
)
まで
怪
(
あや
)
しいぢやないか』
088
甲
(
かふ
)
『
慄
(
ふる
)
ふとるのぢやないワイ。
089
何
(
なん
)
だか
身体
(
からだ
)
が
細
(
こま
)
かく
動
(
うご
)
いとるのぢや』
090
丙
(
へい
)
『
何
(
なに
)
は
兎
(
と
)
もあれ、
091
何
(
なん
)
だか
独語
(
ひとりごと
)
を
言
(
い
)
つてゐるやうだ。
092
そつと
行
(
い
)
つて
偵察
(
ていさつ
)
をして
見
(
み
)
やうかい』
093
甲
(
かふ
)
『
貴様
(
きさま
)
、
094
先
(
さき
)
へ
行
(
ゆ
)
け』
095
丙
(
へい
)
『ハハア
恐
(
こは
)
いのだな。
096
気
(
き
)
の
弱
(
よわ
)
い
奴
(
やつ
)
ぢや、
097
そんな
事
(
こと
)
で
吾々
(
われわれ
)
の
探偵
(
たんてい
)
が
勤
(
つと
)
まるか。
098
鷹取別
(
たかとりわけ
)
の
神
(
かみ
)
さまより、
099
三五教
(
あななひけう
)
の
女
(
をんな
)
宣伝使
(
せんでんし
)
が
はざま
の
国
(
くに
)
を
渡
(
わた
)
つて
常世
(
とこよ
)
の
国
(
くに
)
へ
行
(
ゆ
)
くと
云
(
い
)
ふことだから、
100
女
(
をんな
)
宣伝使
(
せんでんし
)
を
見
(
み
)
つけたら
ふん
縛
(
じば
)
つて
連
(
つ
)
れて
来
(
こ
)
いと
云
(
い
)
つて、
101
吾々
(
われわれ
)
は
結構
(
けつこう
)
なお
手当
(
てあて
)
を
頂
(
いただ
)
いて
夜昼
(
よるひる
)
かうして
廻
(
まは
)
つて
居
(
を
)
るのぢやないか。
102
若
(
もし
)
も
彼
(
あ
)
んな
奴
(
やつ
)
が、
103
その
中
(
うち
)
の
一人
(
ひとり
)
ででもあつて
見
(
み
)
よ、
104
吾々
(
われわれ
)
は
結構
(
けつこう
)
な
御
(
ご
)
褒美
(
ほうび
)
をドツサリ
頂戴
(
ちやうだい
)
して、
105
親子
(
おやこ
)
が
一生
(
いつしやう
)
遊
(
あそ
)
んで
暮
(
くら
)
さるるのだ。
106
恐
(
こは
)
い
処
(
ところ
)
へ
行
(
ゆ
)
かねば
熟柿
(
じゆくし
)
は
食
(
く
)
へぬぞ、
107
虎穴
(
こけつ
)
に
入
(
い
)
らずむば
虎児
(
こじ
)
を
獲
(
え
)
ずだ。
108
一
(
ひと
)
つ
肝玉
(
きもだま
)
を
出
(
だ
)
して、
109
貴様
(
きさま
)
から
先
(
さき
)
へ
偵察
(
ていさつ
)
をして
来
(
こ
)
い』
110
甲
(
かふ
)
『アヽそれもさうだが、
111
何
(
なん
)
だか
気味
(
きみ
)
が
悪
(
わる
)
いな。
112
ヤーそれなら
三
(
さん
)
人
(
にん
)
手
(
て
)
を
繋
(
つな
)
いで、
113
一緒
(
いつしよ
)
に
行
(
ゆ
)
かうかい。
114
宣伝使
(
せんでんし
)
と
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
が
判
(
わか
)
れば、
115
別
(
べつ
)
に
恐
(
こは
)
い
事
(
こと
)
も
何
(
なん
)
ともありやしないワ。
116
一人
(
ひとり
)
の
女
(
をんな
)
に
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
男
(
をとこ
)
だ。
117
磐石
(
ばんじやく
)
を
以
(
もつ
)
て
卵
(
たまご
)
を
破
(
やぶ
)
るよりも
易
(
やす
)
い
仕事
(
しごと
)
だ。
118
併
(
しか
)
しながら
幽
(
いう
)
の
字
(
じ
)
と
霊
(
れい
)
の
字
(
じ
)
であつたら
貴様
(
きさま
)
はどうするか』
119
乙
(
おつ
)
『
幽霊
(
いうれい
)
でも
何
(
なん
)
でも
三
(
さん
)
人
(
にん
)
居
(
を
)
れば
大丈夫
(
だいぢやうぶ
)
だ。
120
しつかり
手
(
て
)
を
繋
(
つな
)
いで
行
(
い
)
つて
見
(
み
)
ようかい』
121
と
甲
(
かふ
)
乙
(
おつ
)
丙
(
へい
)
は、
122
梅ケ香姫
(
うめがかひめ
)
の
休息
(
きうそく
)
する
森蔭
(
もりかげ
)
に
現
(
あら
)
はれ
来
(
きた
)
り、
123
甲
(
かふ
)
『ヤイ、
124
その
方
(
はう
)
は
何者
(
なにもの
)
ぢや。
125
生
(
せい
)
あるものか、
126
生
(
せい
)
なきものか、
127
ユヽヽヽ
幽霊
(
いうれい
)
か、
128
バヽヽ
化物
(
ばけもの
)
か』
129
乙
(
おつ
)
『セヽヽヽ
宣伝使
(
せんでんし
)
か、
130
宣伝使
(
せんでんし
)
なれば
鷹取別
(
たかとりわけ
)
の
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
に……』
131
丙
(
へい
)
『シツ、
132
何
(
なに
)
を
云
(
い
)
ふのだ。
133
馬鹿
(
ばか
)
な
奴
(
やつ
)
だな。
134
モシモシお
女中
(
ぢよちゆう
)
、
135
一寸
(
ちよつと
)
物
(
もの
)
をお
訊
(
たづ
)
ね
致
(
いた
)
します。
136
貴女
(
あなた
)
は
吾々
(
われわれ
)
の
信
(
しん
)
ずる
尊
(
たふと
)
き
有難
(
ありがた
)
き
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
で
御座
(
ござ
)
いませう。
137
何卒
(
どうぞ
)
ハツキリと
御
(
お
)
名告
(
なの
)
り
下
(
くだ
)
さいませ』
138
木枯
(
こがらし
)
の
風
(
かぜ
)
はヒユウヒユウと
吹
(
ふ
)
き
捲
(
まく
)
つてゐる。
139
浪
(
なみ
)
の
音
(
おと
)
はドンドンと
響
(
ひび
)
いて
来
(
き
)
た。
140
梅ケ香姫
(
うめがかひめ
)
は
雪
(
ゆき
)
のやうな
白
(
しろ
)
き、
141
細
(
ほそ
)
き
手
(
て
)
を
ぬつと
前
(
まへ
)
に
出
(
だ
)
し、
142
梅ケ香姫
『あゝ
怨
(
うら
)
めしやな、
143
妾
(
わらは
)
は
嶮
(
けは
)
しき
山坂
(
やまさか
)
を
越
(
こ
)
え……』
144
甲
(
かふ
)
乙
(
おつ
)
丙
(
へい
)
『ヤア、
145
這奴
(
こいつ
)
はたまらぬ。
146
矢張
(
やつぱ
)
り
霊
(
れい
)
ぢや
霊
(
れい
)
ぢや、
147
霊
(
れい
)
の
上
(
うへ
)
に
幽
(
いう
)
の
附
(
つ
)
く
代物
(
しろもの
)
だよ。
148
遁
(
に
)
げろい
遁
(
に
)
げろい』
149
と
尻
(
しり
)
を
ひつからげ
雲
(
くも
)
を
霞
(
かすみ
)
と
遁
(
に
)
げ
去
(
さ
)
つたり。
150
梅ケ香姫
(
うめがかひめ
)
は、
151
悄然
(
せうぜん
)
として
独言
(
ひとりごと
)
。
152
梅ケ香姫
『
水
(
みづ
)
も
洩
(
も
)
らさぬ
悪神
(
あくがみ
)
の
仕組
(
しぐみ
)
、
153
鷹取別
(
たかとりわけ
)
は
妾
(
わらは
)
姉妹
(
きやうだい
)
の
行方
(
ゆくへ
)
を
探
(
たづ
)
ね
苦
(
くる
)
しめむと
企
(
くはだ
)
つると
聞
(
き
)
く。
154
繊弱
(
かよわ
)
き
女
(
をんな
)
の
一人旅
(
ひとりたび
)
、
155
アヽせめて
照彦
(
てるひこ
)
でも
居
(
ゐ
)
て
呉
(
く
)
れたならば、
156
こんな
時
(
とき
)
には
力
(
ちから
)
になつて
呉
(
く
)
れるであらうに、
157
アー、
158
イヤイヤ
師匠
(
ししやう
)
を
杖
(
つゑ
)
につくな、
159
人
(
ひと
)
を
力
(
ちから
)
にするな。
160
神
(
かみ
)
は
汝
(
なんぢ
)
と
倶
(
とも
)
にありとの
三五教
(
あななひけう
)
の
教
(
をしへ
)
、
161
アヽ
迷
(
まよ
)
ひぬるか、
162
女心
(
をんなごころ
)
のあさましさよ。
163
たとへ
如何
(
いか
)
なる
強
(
つよ
)
き
敵
(
てき
)
の
現
(
あら
)
はれ
来
(
きた
)
るとも、
164
誠
(
まこと
)
一
(
ひと
)
つの
言霊
(
ことたま
)
の
力
(
ちから
)
に、
165
百千万
(
ひやくせんまん
)
の
曲津見
(
まがつみ
)
を
言向
(
ことむ
)
け
和
(
やは
)
さねばならぬ
神
(
かみ
)
の
使
(
つかひ
)
だ。
166
アヽ
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
許
(
ゆる
)
して
下
(
くだ
)
さいませ』
167
と
大地
(
だいち
)
に
平伏
(
ひれふ
)
し、
168
木
(
こ
)
の
間
(
ま
)
洩
(
も
)
る
月
(
つき
)
に
向
(
むか
)
つて、
169
声低
(
こゑびく
)
に
感謝
(
かんしや
)
の
祝詞
(
のりと
)
を
奏上
(
そうじやう
)
する
折
(
をり
)
しも、
170
最前
(
さいぜん
)
現
(
あら
)
はれし
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
中
(
なか
)
の
一人
(
ひとり
)
、
171
丙
(
へい
)
は
突然
(
とつぜん
)
としてこの
場
(
ば
)
に
現
(
あら
)
はれ、
172
丙(春山彦)
『ヤア
貴女
(
あなた
)
は
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
、
173
昔
(
むかし
)
はヱルサレムの
天使長
(
てんしちやう
)
桃上彦
(
ももがみひこの
)
命
(
みこと
)
の
御
(
おん
)
娘
(
むすめ
)
と
承
(
うけたま
)
はつて
居
(
を
)
りました。
174
ここは
鷹取別
(
たかとりわけ
)
の
神
(
かみ
)
の
警戒
(
けいかい
)
激
(
はげ
)
しく、
175
貴女
(
あなた
)
様
(
さま
)
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
御
(
ご
)
姉妹
(
きやうだい
)
を
召捕
(
めしと
)
るべく
四方
(
しはう
)
八方
(
はつぱう
)
に
探女
(
さぐめ
)
を
遣
(
つか
)
はし、
176
蜘蛛
(
くも
)
の
巣
(
す
)
の
如
(
ごと
)
き
警戒網
(
けいかいまう
)
を
張
(
は
)
つて
居
(
を
)
ります。
177
私
(
わたくし
)
も
実
(
じつ
)
はその
役人
(
やくにん
)
の
一人
(
ひとり
)
、
178
今
(
いま
)
三人
(
さんにん
)
連
(
づ
)
れで
様子
(
やうす
)
を
窺
(
うかが
)
へば、
179
まさしく
宣伝使
(
せんでんし
)
の
一人
(
ひとり
)
と
悟
(
さと
)
つた
故
(
ゆゑ
)
、
180
二人
(
ふたり
)
の
同役
(
どうやく
)
を
威喝
(
おどか
)
して、
181
まき
散
(
ち
)
らして
私
(
わたくし
)
は
忍
(
しの
)
んで
参
(
まゐ
)
りました。
182
私
(
わたくし
)
の
家
(
うち
)
は
実
(
じつ
)
に
むさ
苦
(
くる
)
しい
荒屋
(
あばらや
)
で
御座
(
ござ
)
いまするが、
183
暫
(
しば
)
らく
警戒
(
けいかい
)
の
弛
(
ゆる
)
むまで、
184
わが
家
(
や
)
にお
忍
(
しの
)
び
下
(
くだ
)
さいますれば
有難
(
ありがた
)
う
御座
(
ござ
)
います。
185
この
国
(
くに
)
はウラル
彦
(
ひこ
)
の
教
(
をしへ
)
の
盛
(
さか
)
んな
所
(
ところ
)
で、
186
三五教
(
あななひけう
)
のアの
字
(
じ
)
を
言
(
い
)
つても、
187
酷
(
ひど
)
い
成敗
(
せいばい
)
に
遇
(
あ
)
はねばならぬ
危
(
あぶな
)
い
所
(
ところ
)
でございます。
188
私
(
わたくし
)
も
元
(
もと
)
はウラル
教
(
けう
)
を
信
(
しん
)
じて
居
(
を
)
りましたが、
189
貴女
(
あなた
)
様
(
さま
)
一行
(
いつかう
)
が
てる
の
国
(
くに
)
からアタルの
港
(
みなと
)
へお
渡
(
わた
)
りになるその
船
(
ふね
)
の
中
(
なか
)
に
於
(
おい
)
て、
190
三五教
(
あななひけう
)
の
尊
(
たふと
)
き
教理
(
けうり
)
を
知
(
し
)
り、
191
心
(
こころ
)
私
(
ひそ
)
かに
信仰
(
しんかう
)
致
(
いた
)
して
居
(
を
)
りますもの、
192
私
(
わたくし
)
の
妻
(
つま
)
も
熱心
(
ねつしん
)
なる
三五教
(
あななひけう
)
の
信者
(
しんじや
)
でございます。
193
かういふ
処
(
ところ
)
に
長居
(
ながゐ
)
は
恐
(
おそ
)
れ、
194
又
(
また
)
もや
探偵
(
たんてい
)
の
眼
(
め
)
にとまれば
一大事
(
いちだいじ
)
、
195
どうぞ
一
(
いち
)
時
(
じ
)
も
早
(
はや
)
く、
196
私
(
わたくし
)
の
家
(
うち
)
へ
御
(
お
)
越
(
こ
)
し
下
(
くだ
)
さいませぬか』
197
梅ケ香姫
『アヽ
世界
(
せかい
)
に
鬼
(
おに
)
はない、
198
御
(
ご
)
親切
(
しんせつ
)
は
有難
(
ありがた
)
う
御座
(
ござ
)
います。
199
併
(
しか
)
しながら
何事
(
なにごと
)
も
惟神
(
かむながら
)
に
任
(
まか
)
したこの
身
(
み
)
、
200
たとへ
鷹取別
(
たかとりわけ
)
の
前
(
まへ
)
に
曳
(
ひ
)
き
出
(
だ
)
され、
201
嬲殺
(
なぶりごろ
)
しに
遇
(
あ
)
はうとも、
202
苟
(
いやし
)
くも
宣伝使
(
せんでんし
)
たる
身
(
み
)
を
以
(
もつ
)
て、
203
人
(
ひと
)
の
情
(
なさけ
)
に
ほださ
れて、
204
たとへ
三日
(
みつか
)
でも
五日
(
いつか
)
でも
空
(
むな
)
しく
月日
(
つきひ
)
が
過
(
すご
)
されませうか。
205
神
(
かみ
)
を
力
(
ちから
)
に
誠
(
まこと
)
を
杖
(
つゑ
)
に、
206
飽
(
あ
)
くまでも
宣伝歌
(
せんでんか
)
を
唱
(
とな
)
へて
行
(
ゆ
)
く
処
(
ところ
)
まで
参
(
まゐ
)
ります。
207
また
貴方
(
あなた
)
様
(
さま
)
に
捕
(
とら
)
へられて、
208
鷹取別
(
たかとりわけ
)
の
面前
(
めんぜん
)
に
曳出
(
ひきだ
)
さるるとも、
209
これも
何
(
なに
)
かの
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
のお
仕組
(
しぐみ
)
、
210
御
(
ご
)
親切
(
しんせつ
)
は
有難
(
ありがた
)
うございますが、
211
貴方
(
あなた
)
の
家
(
うち
)
へ
忍
(
しの
)
び
隠
(
かく
)
るることだけは
許
(
ゆる
)
して
下
(
くだ
)
さいませ』
212
丙(春山彦)
『イヤ
如何
(
いか
)
にも
感
(
かん
)
じ
入
(
い
)
りたるお
言葉
(
ことば
)
、
213
理義
(
りぎ
)
明白
(
めいはく
)
なる
仰
(
あふ
)
せには、
214
返
(
かへ
)
す
言葉
(
ことば
)
もございませぬ。
215
併
(
しか
)
しながら、
216
袖振
(
そでふ
)
り
合
(
あ
)
ふも
多生
(
たしやう
)
の
縁
(
えん
)
、
217
これも
何
(
なに
)
かの
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
のお
引合
(
ひきあは
)
せでございませう。
218
アヽ
然
(
しか
)
らば
私
(
わたくし
)
の
家
(
うち
)
へ
隠
(
かく
)
れ
忍
(
しの
)
ぶと
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
はなさらずに、
219
何卒
(
どうぞ
)
一晩
(
ひとばん
)
私
(
わたくし
)
の
家
(
うち
)
へ
御
(
お
)
出
(
い
)
で
下
(
くだ
)
さいまして、
220
女房
(
にようばう
)
に
尊
(
たふと
)
き
三五教
(
あななひけう
)
の
教
(
をしへ
)
を
聴
(
き
)
かしてやつて
下
(
くだ
)
さいますれば
有難
(
ありがた
)
うございます』
221
梅ケ香姫
『アヽ
然
(
しか
)
らば
不束
(
ふつつか
)
ながら
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
教
(
をしへ
)
を
伝
(
つた
)
へさして
頂
(
いただ
)
きませう』
222
丙(春山彦)
『
早速
(
さつそく
)
の
御
(
ご
)
承知
(
しようち
)
、
223
有難
(
ありがた
)
う
御座
(
ござ
)
います』
224
と
先
(
さき
)
に
立
(
た
)
つて
行
(
ゆ
)
く。
225
又
(
また
)
もや
後
(
うしろ
)
の
方
(
はう
)
に
当
(
あた
)
つて、
226
騒
(
さわ
)
がしき
人声
(
ひとごゑ
)
聞
(
きこ
)
え
来
(
きた
)
る。
227
見
(
み
)
れば、
228
鷹取別
(
たかとりわけ
)
の
紋
(
しるし
)
の
入
(
い
)
つた
提燈
(
ちやうちん
)
の
光
(
ひかり
)
が
木蔭
(
こかげ
)
に
揺
(
ゆ
)
らぎつつ、
229
足早
(
あしばや
)
に
此方
(
こなた
)
に
向
(
むか
)
ひ
来
(
き
)
たる
模様
(
もやう
)
なり。
230
(
大正一一・二・一六
旧一・二〇
外山豊二
録)
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