霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第二三章 高照山(たかてるやま)〔四一六〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第9巻 霊主体従 申の巻 篇:第4篇 千山万水 よみ(新仮名遣い):せんざんばんすい
章:第23章 高照山 よみ(新仮名遣い):たかてるやま 通し章番号:416
口述日:1922(大正11)年02月15日(旧01月19日) 口述場所: 筆録者:東尾吉雄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1922(大正11)年7月5日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
虎公、熊公が神恩に感じ入って感謝を述べているところへ、四五人の荒男がやってきた。それは旧知の鹿公一行であった。
鹿公は高照山の岩窟に、八岐の大蛇という神が現れて、結構な御神徳を下さっている、という話をして、去っていく。虎公、熊公はその神を見定めようと、岩窟に向かって谷道を進んでいった。
岩窟の前にはたくさんの参詣人が祈っている。岩窟からはいやらしい笑い声が聞こえ、信徒に悪をなし弱肉強食を進めるようにと託宣を垂れている。
虎公は立ち上がって名乗りを上げ、岩窟の神に向かって挑戦し始めた。熊公も、改心を勧告する。しかし岩窟の声は逆に、二人の過去の罪を責め、宣伝使としての未熟さを言霊を駆使してなじり始めた。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる] 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2020-07-02 16:13:45 OBC :rm0923
愛善世界社版:177頁 八幡書店版:第2輯 337頁 修補版: 校定版:184頁 普及版:74頁 初版: ページ備考:
001 ヒルとカルとの国境(くにざかひ)002高照山(たかてるやま)「ヒルとカルとの国境、高照山」はこれから二人が行く場所であって、これは「玉山」の間違いではないかと思われる。第22章a088では「玉山の麓」に居ると記されている。山口(やまぐち)の、003芝生(しばふ)(のこ)されし熊公(くまこう)004虎公(とらこう)二人(ふたり)は、005松代姫(まつよひめ)一行(いつかう)姿(すがた)(かげ)(かく)るるまで見送(みおく)りながら虎公(とらこう)は、
006虎公『あゝ三五教(あななひけう)宣伝使(せんでんし)一行(いつかう)は、007吾々(われわれ)にお(とも)(ゆる)されず、008(あたた)かい言葉(ことば)(のこ)して、009この()をいそいそと()つて()かれた。010()うで、011吾々(われわれ)のやうな(つみ)(おも)人間(にんげん)だから、012(とも)(かな)はぬのだらうが、013あゝ残念(ざんねん)(こと)をした。014せめて三年前(さんねんまへ)に、015(いま)のやうな(こころ)になつて()れば、016立派(りつぱ)にお(とも)(ゆる)して(くだ)さつたであらうに、017(おも)へば(おも)へば、018この()(つみ)(うら)めしい』
019(こゑ)(はな)つて()()る。
020熊公虎公(とらこう)よ。021(けつ)して(けつ)してさうではないよ。022(おれ)たちをどうぞ立派(りつぱ)(かみ)(はしら)にしてやりたいと(おも)つて、023わざと()ててお()(あそ)ばしたのだ。024あの獅子(しし)といふ(やつ)は、025()()んでから三日目(みつかめ)に、026谷底(たにぞこ)()(おと)して、027(あが)つて()(やつ)をまた()(おと)()(おと)し、028三遍(さんぺん)以上(いじやう)あがつて()たものでないと、029自分(じぶん)()にせぬと()(こと)だよ。030(たに)(おと)されてくたばるやうな(よわ)(こと)では、031到底(たうてい)悪魔(あくま)()(なか)生存(せいぞん)する(こと)出来(でき)ない。032まして悪魔(あくま)(やう)人間(にんげん)(をし)(みちび)宣伝使(せんでんし)だもの、033師匠(ししやう)さまを(つゑ)()いたり(たよ)りにするやうな(こと)では、034完全(くわんぜん)御用(ごよう)出来(でき)ないから、035(そと)()(なみだ)(うち)(なが)して、036大慈(だいじ)大悲(だいひ)神心(かみごころ)から、037吾々(われわれ)()()りにして()かれたのだ。038人間(にんげん)到底(たうてい)(ふか)(ふか)(かみ)(さま)御心(みこころ)(わか)るものでない。039それだから三五教(あななひけう)宣伝歌(せんでんか)にも、
040「この()(つく)りし神直日(かむなほひ)
041(こころ)(ひろ)大直日(おほなほひ)
042(ただ)何事(なにごと)(ひと)()
043直日(なほひ)見直(みなほ)()(なほ)せ」
044とあるのだ。045見直(みなほ)しが肝腎(かんじん)だ。046繊弱(かよわ)吾々(われわれ)のやうな智慧(ちゑ)(くら)人間(にんげん)は、047無限(むげん)絶対(ぜつたい)048無始(むし)無終(むしう)(まこと)(かみ)(さま)(したが)つて、049真心(まごころ)()めて(いの)るより(ほか)はない。050(いの)ればきつと(かみ)(さま)栄光(えいくわう)吾々(われわれ)頭上(づじやう)(かがや)くであらう』
051(なみだ)まじりに(かた)(をり)しも、052弓矢(ゆみや)()つた四五(しご)(にん)(あら)くれ(をとこ)053(いぬ)()()れながら坂路(さかみち)(くだ)()る。054一人(ひとり)(をとこ)は、055熊公(くまこう)056虎公(とらこう)(かほ)()て、
057男(鹿公)『オー、058貴様(きさま)はこの高砂島(たかさごじま)でも(おと)名高(なだか)熊公(くまこう)059虎公(とらこう)ぢやないか。060貴様(きさま)()()くと()()()()むと()野郎(やらう)だのに、061今日(けふ)はマアどうしたことか。062貴様(きさま)なんだい、063ベソベソと吠面(ほえづら)かわいて……』
064虎公(とらこう)『ヨーこれは鹿公(しかこう)か。065(おれ)はな、066すつかり改心(かいしん)したのだ。067(いま)まで悪人(あくにん)だと世間(せけん)(もの)()はれて()たが、068これからはすつかり善心(ぜんしん)立返(たちかへ)つて、069自分(じぶん)(つみ)懺悔(ざんげ)をし、070(いま)までの罪亡(つみほろ)ぼしに、071(かみ)(さま)宣伝歌(せんでんか)(うた)つて、072(をし)へを()(まは)(ひと)(たす)けるのだ。073あまり有難(ありがた)うて、074(いま)(うれ)()きに()いて()たところだよ。075(まへ)()加減(かげん)殺生(せつしやう)()めて、076三五教(あななひけう)(をしへ)()いて、077善人(ぜんにん)になつて()れ。078虎公(とらこう)改心(かいしん)門口(かどぐち)079宣伝(せんでん)初陣(うひぢん)だ。080貴様(きさま)改心(かいしん)して()れたならば、081この高砂島(たかさごじま)人間(にんげん)(みな)改心(かいしん)するのだ』
082鹿公『フフン、083(なに)()かしよるのだ。084(おに)念仏(ねんぶつ)()たよな(こと)(ほざ)きよつて、085何処(どこ)(おさ)へたらそんな()()るのだ。086この(ごろ)(あつ)さに、087一寸(ちよつと)(こころ)(へん)になりよつたな。088ヘン、089とろくさい、090()(なか)(すべ)優勝(いうしよう)劣敗(れつぱい)だ。091大魚(たいぎよ)小魚(せうぎよ)()み、092小魚(せうぎよ)(むし)()つて(たがひ)生活(せいくわつ)する()(なか)だ。093(いぬ)(ねこ)()る、094(ねこ)(ねずみ)をとる、095(ねずみ)隠居(いんきよ)(ちや)()をとる、096(ちや)()隠居(いんきよ)機嫌(きげん)とる、097隠居(いんきよ)襦袢(じゆばん)(しらみ)とる、098(しらみ)(あたま)のフケをとる、099といつて()(なか)(まは)りものだ。100海猟師(うみれふし)(うを)()るのも山猟師(やまれふし)(しし)()るのも、101(みな)社会(しやくわい)(ため)だ。102猟師(れふし)がなければ(かは)使(つか)(こと)出来(でき)ず、103(うを)()(こと)出来(でき)やしない。104()(なか)優勝(いうしよう)劣敗(れつぱい)105弱肉(じやくにく)強食(きやうしよく)自然(しぜん)法則(はふそく)だよ。106貴様(きさま)もそんな女々(めめ)しい(こと)()はずに、107(もと)(とほ)鬼虎(おにとら)となつて、108売出(うりだ)したらどうだい。109ここまで()()した()(ぜろ)にするのも()しいぢやないか』
110熊公(くまこう)『あゝ、111(ぜん)(あく)とは(ちが)つたものだナア。112(ぜん)ほど(つら)いものはない、113(いな)結構(けつこう)なものはない。114貴様(きさま)もそんなことを()はずに、115虎公(とらこう)のやうに改心(かいしん)して、116(かみ)(さま)(いの)()にならぬか』
117鹿公『イヤ、118(おれ)(かみ)(さま)(いの)つてるよ。119(おれ)(いの)つてる(かみ)(さま)はな、120そんな(こし)(よわ)い、121ヘナヘナした(みづ)(なか)()()いた(やう)な、122(たよ)りない(をしへ)をする(かみ)さまとは(わけ)(ちが)ふのだ。123いま(おれ)はその(かみ)(さま)(まゐ)つて()たのだ』
124虎公(とらこう)『お(まへ)(まゐ)つて()(かみ)(さま)といふのは、125そら()ういふ(かみ)(さま)だい』
126鹿公貴様(きさま)127あれ(ほど)名高(なだか)いのに()()かぬのか。128随分(ずゐぶん)遅耳(おそみみ)だのう。129ここをズツと(さん)()ばかり(おく)這入(はい)ると、130そこに高照山(たかてるやま)(ふか)(たに)がある。131そこには(なが)(たき)()ちて()つて、132滝壺(たきつぼ)(みぎ)(ひだり)(おほ)きな(いは)洞穴(ほらあな)があるのだ。133さうして(ひがし)(はう)(あな)からは(めう)(こゑ)がするのだ。134その(いは)(むか)つて、135何事(なにごと)でも(をし)へて(もら)ひに()くのだ。136(いつ)ぺん貴様(きさま)()つて()よ、137沢山(たくさん)(ひと)(まゐ)つて()るよ。138一寸(ちよつと)()(ちが)野郎(やらう)()くと、139その(いは)(あな)から(おほ)きな火焔(くわえん)(した)()して、140身体(からだ)をチヤリチヤリと()かれるのだ。141貴様(きさま)のやうな馬鹿(ばか)(こと)()つて()(やつ)()つたら、142きつと(いは)(あな)から()()()(した)()められて、143黒焦(くろこげ)になつて(しま)ふだらうよ』
144熊公(くまこう)『それは一体(いつたい)145(なん)()(かみ)だい』
146鹿公(なん)といふ(かみ)だか、147エー、148(わす)れたが、149なんでも八岐(やまた)大蛇(をろち)とか()いたよ』
150熊公(くまこう)一体(いつたい)151()んな(こと)()ふのだい』
152鹿公(くは)しい(こと)(わす)れて(しま)つたが、153とも(かく)時代(じだい)()きのする(こと)()()(かみ)さまだ。154マアかい(つま)んで()へば、155人間(にんげん)(いち)(にち)でも立派(りつぱ)(くら)して、156(てん)から(あた)へられた(うま)(もの)()つて、157(うつく)しい着物(きもの)()て、158(さけ)でも()んで元気(げんき)をつけと()ふのだ。159智利(てる)(くに)(かがみ)(いけ)のやうな、160(みづ)(なか)から()をこいた(やう)な、161けち(くさ)()託宣(たくせん)とはわけが(ちが)ふのだ。162まあ貴様(きさま)ら、163メソメソ()いて()らずに一遍(いつぺん)()つて()い。164()()めてよからうぞ』
165虎公(とらこう)鹿公(しかこう)166(まへ)はその(をしへ)(しん)じて()るのか』
167鹿公(しん)ずるも(しん)じないもあつたものか。168あんな結構(けつこう)(をしへ)何処(どこ)にあらうかい。169さやうなら』
170()(にん)猟師(れふし)(あし)(はや)めて(さか)(くだ)()く。171(とら)172(くま)二人(ふたり)(あし)(はや)めてドンドンと谷道(たにみち)(つた)ひ、173玉川(たまがは)瀑布(ばくふ)黄昏時(たそがれどき)(やうや)辿(たど)()()れば、174(こと)()てたやうな大瀑布(だいばくふ)が、175(たか)幾百丈(いくひやくぢやう)ともなく(かか)つて微妙(びめう)音楽(おんがく)(かな)でてゐる。176東側(ひがしがは)大巌窟(だいがんくつ)(まへ)には、177沢山(たくさん)参詣人(さんけいにん)合掌(がつしやう)して何事(なにごと)口々(くちぐち)祈願(きぐわん)してゐる。178二人(ふたり)素知(そし)らぬ(かほ)にて諸人(もろびと)(とも)に、179巌窟(がんくつ)(まへ)端坐(たんざ)合掌(がつしやう)するや、180巌窟(がんくつ)(にはか)大音響(だいおんきやう)()てて(うな)(はじ)めたり。181一同(いちどう)大地(だいち)(あたま)をピタリとつけ、182(かしこ)まつてその音響(おんきやう)()いてゐる。183(うな)りは(やうや)くにして()み、184巌窟(がんくつ)薄暗(うすぐら)(おく)(はう)より、
185『アハヽヽヽ』
186といやらしい(わら)(ごゑ)(きこ)()る。
187 (とら)188(くま)二人(ふたり)は、189(かほ)見合(みあは)して(あき)れゐる。190巌窟(がんくつ)(なか)より、
191()(さか)える()(なか)に、192(ぜん)ぢや()ぢやと(らそ)奴輩(やつばら)193くまで阿呆(はう)(はぢ)(さら)し、194()をなさねば安楽(んらく)()(わた)れぬぞ。195()くまで(くら)へ、196()くまで()め、197()くまで(ちから)()はして、198悪魔(くま)()はれようが、199(ちから)一杯(いつぱい)わが()(ため)()くまで(つく)せ。200ヽヽヽ生命(のち)あつての物種(ものだね)だ。201()らざる(をしへ)(したが)うて、202(ぜん)の、203(あく)の、204(すゑ)(おそ)ろしいのと萎縮()()らしてるよりも、205威勢(せい)よく(さけ)でも()んで、206つまでも生々(きいき)として生命(のち)()ばせ。207ヽヽヽ後指(しろゆび)()されようが(しろ)()くな。208()(かほ)をいたして()(もの)鱈腹(たらふく)()ひ、209()(さけ)(さけ)()くほど()うて、210()()いと舌鼓(したつづみ)211五月蝿(るさ)五月蝿(るさ)いと(かた)()るやうな三五教(あななひけう)(をしへ)()くな。212この巌窟(いはや)には(あな)がある。213ヽヽヽと()(あな)があるぞよ。214あな面白(おもしろ)(あな)()(けう)ぢや。215迂濶(くわつ)()くな。216ヽヽヽ遠慮(んりよ)会釈(しやく)もなく吾身(わがみ)のためには(ひと)(かま)うてをれぬぞ。217(とく)になることならば何処(どこ)までも何処(どこ)までも()け。218閻魔(んま)(こは)いやうな(こと)ではこの()()れぬぞ。219地獄(ぢごく)閻魔(んま)味噌漬(みそづけ)にして()ふやうな()(こころ)になれ、220()ぎて(くら)(さけ)()んで。221ヽヽヽ()大蛇(ろち)(こころ)になつてこの()()らねば、222この()優勝(いうしよう)劣敗(れつぱい)223弱肉(じやくにく)強食(きやうしよく)()(なか)ぢや。224(たが)ひに()をつけて、225(わが)()(とく)(はか)れよ。226()れな、227()れな、228面白(もしろ)くこの()(わた)れ、229大蛇(ろち)(かみ)朝夕(あさゆふ)(いの)れ。230ヽヽヽヽ面白(もしろ)面白(もしろ)い』
231 虎公(とらこう)はこの(こゑ)()いてむつく()(あが)り、
232虎公三五教(あななひけう)宣伝使(せんでんし)233志芸山津見(しぎやまづみ)とは(わが)(こと)なるぞ。234悪魔(くま)張本(ちやうほん)235天足(だる)身魂(みたま)236八岐(やまた)大蛇(をろち)再来(さいらい)237(ぜん)退(しりぞ)()(すす)むる無道(むだう)(なんぢ)238(いま)正体(しやうたい)()はして()れむ。239ハヽヽヽ、240ヒヽヽヽ異端(たん)邪説(じやせつ)()(さと)す、241(こころ)(ゆが)んだ大蛇(をろち)悪神(あくがみ)242一度(ちど)()ふなら()つて()よ、243一寸(つすん)(きざ)みか五分試(ごぶだめ)し、244生命(のち)()つて何時()までも、245(わざはひ)()()つてくれむ。246違背(はい)あらば返答(へんたふ)たせ。247フヽヽヽ狼狽者(ろたへもの)うつけ(もの)248迂論(ろん)(をしへ)()()てて人心(じんしん)()かす谷穴(たにあな)土竜(もぐら)249浮世(きよ)(みだ)(なんぢ)悪計(あくけい)250志芸山津見(しぎやまづみ)(あら)はれし(うへ)からは容赦(ようしや)はならぬ。251得体(えたい)()れぬ、252奴拍手(どびやうし)()けした(こゑ)をしぼり、253優勝(いうしよう)劣敗(れつぱい)254弱肉(じやくにく)強食(きやうしよく)の、255グイ(こころ)(そそ)(やつ)256ホヽヽヽ大蛇(ろち)悪魔(あくま)257往生(うじやう)いたすまで応対(うたい)いたすぞ。258()をまいて降参(かうさん)いたせばよし、259メと言訳(いひわけ)(およ)ばば、260志芸山津見(しぎやまづみ)両刃(もろは)(つるぎ)(もつ)征伐(せいばつ)いたす。261奥山(くやま)谷底(たにぞこ)()をひそめ、262この()(みだ)八岐(やまた)大蛇(ろち)263返答(へんたふ)はどうだツ』
264 巌窟(がんくつ)(なか)より、
265ヽヽヽ()ふな(かま)ふな、266(へる)行列(ぎやうれつ)267(やみ)(らす)(むか)()ず、268(しま)しいワイ。269ヽヽヽ()るの()らぬのと広言(くわうげん)()くな。270貴様(さま)のやうな腰抜(こしぬ)けに、271大蛇(をろち)()れてたまらうか。272()()かぬ(やつ)だなア。273ヽヽヽ()がり(まぎ)れに(あたま)から()つてやらうか。274くさい(かほ)して()しさうに(にはか)宣伝使(せんでんし)とは片腹(かたはら)(いた)い、275ヽヽヽ怪我()のない(うち)(はや)くこの()()つたがよからう。276見当(んたう)()れぬこの(はう)言葉(ことば)277ヽヽヽこな腰抜(しぬ)(ども)278()されぬ(うち)()立去(たちさ)れ、279はい()()はぬ(うち)(ころ)(なほ)して、280(はう)()(でう)につくか、281執拗(しつこ)()かねば(はう)()(くろ)がきれるぞよ。282米喰虫(めくひむし)製糞器(せいふんき)()283ワハヽヽヽ』
284熊公(くまこう)ヽヽ()使(つかひ)宣伝使(せんでんし)(むか)つて無礼(ぶれい)千万(せんばん)な、285覚悟(くご)(いた)せ、286(らだ)(ほね)改心(いしん)(いた)さねば、287グダグダにして()らうか。288ヽヽ()()(なほ)ツパリと改心(かいしん)(いた)せばよし、289かぬに(おい)ては宣伝歌(せんでんか)(うた)はうか、290ヽヽ()(あな)にすつ()んで、291(わけ)(わか)らぬ苦情(じやう)(なら)べ、292()(まぎ)れの()てぜりふ、293その()()はぬ、294熊公(まこう)身魂(みたま)(ひかり)()らざるか、295ヽヽ()しからぬ悪逆(あくぎやく)無道(ぶだう)大蛇(をろち)再来(さいらい)296ヽヽこで()うたは優曇華(うどんげ)の、297(はな)()(はる)熊公(くまこう)手柄(てがら)(あら)はれ(ぐち)298最早(もはや)かなはぬ、299降参(うさん)するか、300返答(へんたふ)は、301ラ、302どうぢや』
303 巌窟(がんくつ)(なか)より、
304ヽヽヽ()がしいワイ、305(へづ)るな、306()()()め、307()んだら()へよ、308()うたら(をど)れ。309()とんぶりになつて(をど)つて(くる)へ、310()()()ほど(うま)いものはない、311()(あぢ)()らぬ猿智慧(るぢゑ)熊公(くまこう)世迷(よまひ)ごと、312()から(くるま)(おろ)すやうに、313この谷底(たにぞこ)へころげ(おと)してやらうか。314ヽヽヽ執拗(つこ)(やつ)ぢや、315ぶとい(やつ)ぢや、316しがんだ(つら)して芝生(ばふ)(うへ)に、317ほつとけぼりを()はされて、318吠面(ほえづら)かわいた志芸山津見(しぎやまづみ)とは片腹(かたはら)(いた)い。319ヽヽヽ(みや)かに、320この(はう)(まを)(こと)()けばよし、321つた()じつた理屈(りくつ)をこねると、322簀巻(まき)(いた)して谷底(たにぞこ)()()んでやらうか、323ヽヽヽ雪隠虫(んちむし)()が。324宣伝使(んでんし)なんぞと(くだ)らぬ屁理屈(へりくつ)()つて(まは)馬鹿(ばか)人足(にんそく)325ヽヽヽれでも貴様(きさま)(かみ)使(つかひ)か、326底抜(こぬ)けの馬鹿(ばか)とは(はう)(こと)だ。327しやつ(つら)でどうして宣伝使(せんでんし)(つと)まらうか、328退()け、329退()け、330この(はう)邪魔(じやま)になるワイ』
331虎公(とらこう)ヽヽ逆言(かごと)ばかり(へづ)悪神(あくがみ)332あもう容赦(ようしや)はならぬ。333ヽヽ志芸山津見(ぎやまづみ)言霊(ことたま)威力(ゐりよく)によつて、334(なんぢ)身魂(みたま)()つて()れむ。335()ぬるか()きるか、336(ふた)つに(ひと)つの大峠(おほたうげ)337ヽヽヽ(みや)かに返答(へんたふ)いたせ。338ヽヽ背中(なか)(はら)()へられよまい。339宣伝使(んでんし)吾々(われわれ)(かぶと)()ぐか、340降参(かうさん)するか、341ヽヽれでもまだ往生(わうじやう)いたさぬか、342改心(かいしん)せぬか』
343 巌窟(がんくつ)(なか)より、
344ヽヽヽ()(もの)345()(つぶ)して()うて(しま)はうか、346鼻高神(はなかがみ)宣伝使(せんでんし)347ヽヽヽつとばかり改心(かいしん)出来(でき)たと(まを)して、348この方様(はうさま)意見(いけん)がましい知識(しき)()らぬ(おほ)馬鹿者(ばかもの)349一寸(よつと)(むね)()をあてて()よ。350ヽヽヽ(かま)(どころ)のない(こと)(ほざ)いて(ある)く、351()(ふか)両人共(りやうにんども)352()()してやらうかい。353()さうに()つても、354貴様(きさま)(むね)はドキドキして()らうがな、355ヽヽヽ()にも()にも(おれ)一人(ひとり)宣伝使(せんでんし)だと()はぬばかりのその(つら)つき、356多勢(おほぜい)(なか)()(むか)れてレクサイことはないか。357てる(くに)から遥々(はるばる)()()て、358(さて)もさても馬鹿(ばか)(やつ)だ。359ヽヽヽ虎公(らこう)ボケ(づら)360熊公(くまこう)(こころ)(くら)(にはか)改心(かいしん)361()()衆生(しうじやう)済度(さいど)()つかしからう』
362熊公(くまこう)ヽヽ()(ほざ)きよるのだ。363ヽヽ他愛(あい)もないこと、364立板(ていた)(みづ)(なが)すやうに、365よくも(さへづ)(ぬき)親玉(おやだま)366()にそんな(こと)(をし)へて(もら)ひよつたのだ。367(たわ)(もの)368ヽヽ一寸(よつと)貴様(きさま)(かんが)へて()よ。369ヽヽ()らぬ理窟(りくつ)(なら)べよつて、370ヽヽ手柄(がら)さうにボケきつたことを(ぬか)しやがるな』
371 巌窟(がんくつ)(なか)より、372「ウヽヽヽワーワー」と大音響(だいおんきやう)ひびき(きた)る。
373大正一一・二・一五 旧一・一九 東尾吉雄録)
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