霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第二九章 九人(くにん)娘(むすめ)〔四二二〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第9巻 霊主体従 申の巻 篇:第5篇 百花爛漫 よみ(新仮名遣い):ひゃっからんまん
章:第29章 九人娘 よみ(新仮名遣い):くにんむすめ 通し章番号:422
口述日:1922(大正11)年02月16日(旧01月20日) 口述場所: 筆録者:東尾吉雄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1922(大正11)年7月5日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
春山彦が三人の宣伝使をかくまっていることが知れて、同僚の照山彦、竹山彦が家来を引き連れて、捕縛にやってきたのであった。
春山彦は、照山彦・竹山彦を待たせておいて、その間に妻の夏姫を呼び、自分の娘たち、秋月姫・深雪姫・橘姫を宣伝使の変わりに差し出そうと提案した。
夏姫はただ涙にくれていたが、そこへ娘たちはいつの間にか宣伝使の服をつけて両親の前に現れ、自ら身代わりになろうと決心の色を表した。
そこへ松・竹・梅の三姉妹の宣伝使が現れ、春山彦一家の心遣いに感謝しつつも、やはり自分たちが自ら縄につこうと、縛吏の待つ部屋に行こうとする。親子は宣伝使にすがって止めようとする。
照山彦、竹山彦は待ちきれずに春山彦を呼びたてて、宣伝使の引渡しを要求した。松・竹・梅の三姉妹はその場に現れて、自ら縄につき、引かれて行った。春山彦と夏姫はわっとその場に泣き伏した。
そこへ、春山彦の三人の娘と、今引かれて行ったはずの三姉妹の宣伝使が、何事かとやってきた。春山彦夫婦は自分の娘たちも三宣伝使も無事でいることに驚き、思案にくれている。
果たして、捕縛されて行った三姉妹の宣伝使は、何神の化身であろうか。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2020-06-23 23:29:10 文字数:3272 OBC :rm0929
愛善世界社版:228頁 八幡書店版:第2輯 356頁 修補版: 校定版:237頁 普及版:96頁 初版: ページ備考:
001 十六夜(のちのよ)の初冬(しよとう)の月(つき)は、002御空(みそら)に皎々(かうかう)と輝(かがや)いてゐる。
003 春山彦(はるやまひこ)の門前(もんぜん)には、004照山彦(てるやまひこ)、005竹山彦(たけやまひこ)の二人(ふたり)が数多(あまた)の家来(けらい)を引(ひ)き連(つ)れ、006突棒(つくぼう)、007刺股(さすまた)、008十手(じつて)、009弓矢(ゆみや)を携(たづさ)へながら、010門戸(もんこ)を押(お)し破(やぶ)り進(すす)み来(き)たり、011大音声(だいおんじやう)。
012照山彦、竹山彦『春山彦(はるやまひこ)は在宅(ざいたく)か』
013と呼(よ)ばはるにぞ、014春山彦(はるやまひこ)は静(しづ)かに門(もん)の戸(と)を押開(おしひら)き、
015春山彦『これはこれは、016何方(どなた)かと思(おも)へば照山彦(てるやまひこ)、017竹山彦(たけやまひこ)の御(ご)両所(りやうしよ)様(さま)、018数多(あまた)の供人(ともびと)を引(ひ)き連(つ)れ、019この真夜中(まよなか)に、020よくもよくも御(ご)入来(じゆらい)下(くだ)さいました』
021照山彦『オー、022今日(こんにち)はよく来(き)たのではない。023照山彦(てるやまひこ)は汝(なんぢ)の為(ため)には悪(わる)く来(き)たのだ。024気(き)の毒(どく)ながら今日(こんにち)の役目(やくめ)、025申(まを)し渡(わた)す仔細(しさい)がある、026奥(おく)へ案内(あんない)を致(いた)せ』
027 春山彦(はるやまひこ)は二人(ふたり)を導(みちび)き一間(ひとま)に入(い)る。028竹山彦(たけやまひこ)は数多(あまた)の部下(ぶか)に向(むか)ひ、
029竹山彦『その方(はう)共(ども)はこの館(やかた)を取(と)り巻(ま)けよ。030必(かなら)ずともに油断(ゆだん)を致(いた)すな』
031と言(い)ひ置(お)いて正座(しやうざ)になほるを春山彦(はるやまひこ)は、
032春山彦『貴方(あなた)は鷹取別(たかとりわけ)の神(かみ)の御(ご)家来(けらい)、033この真夜中(まよなか)に何(なに)御用(ごよう)あつてお越(こ)しになりました。034御用(ごよう)の次第(しだい)を仰(あふ)せ聞(き)けられ下(くだ)さいますれば有難(ありがた)う存(ぞん)じます』
035 照山彦(てるやまひこ)は威儀(ゐぎ)を正(ただ)し、036春山彦(はるやまひこ)をグツと睨(ね)めつけ、
037照山彦『吾々(われわれ)が今日(こんにち)参(まゐ)つたのは余(よ)の儀(ぎ)ではない。038その方(はう)はこのはざまの国(くに)の目付役(めつけやく)を致(いた)しながら君命(くんめい)に背(そむ)き、039三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)、040松(まつ)、041竹(たけ)、042梅(うめ)の三(さん)人(にん)を密(ひそ)かに隠匿(かくま)ひ置(お)くと聞(き)く。043この里人(さとびと)の密告(みつこく)によつて、044確(たし)かな証拠(せうこ)が握(にぎ)つてある以上(いじやう)は、045否応(いやおう)は言(い)はれまい。046ジタバタしてももう敵(かな)はぬ。047百千万(ひやくせんまん)言(げん)の言(い)ひ訳(わけ)も、048空(そら)吹(ふ)く風(かぜ)と聞(き)き流(なが)すこの照山彦(てるやまひこ)だ』
049 竹山彦(たけやまひこ)は威儀(ゐぎ)儼然(げんぜん)として、
050竹山彦『かうなつた以上(いじやう)は百年目(ひやくねんめ)だ、051一(いち)時(じ)も早(はや)く三(さん)人(にん)の女(をんな)をこの場(ば)へ引摺(ひきず)り出(だ)して渡(わた)さばよし、052何(なん)の彼(かん)のと躊躇(ちうちよ)に及(およ)ばば、053汝(なんぢ)も諸共(もろとも)引(ひ)き縛(しば)つて常世(とこよ)の国(くに)に連(つ)れ帰(かへ)り、054拷問(がうもん)を致(いた)してでも白状(はくじやう)させる。055サア春山彦(はるやまひこ)、056返答(へんたふ)は何(ど)うだ』
057春山彦『これはこれは、058寝耳(ねみみ)に水(みづ)の鷹取別(たかとりわけ)の御(おん)仰(あふ)せ、059モウかうなる上(うへ)は是非(ぜひ)に及(およ)ばぬ。060可愛(かあい)らしい天(てん)にも地(ち)にもかけ替(か)へのない吾(わが)三(さん)人(にん)の娘(むすめ)……イヤ娘(むすめ)のやうに可愛(かあい)がつて居(ゐ)る三(さん)人(にん)の宣伝使(せんでんし)をこれへお渡(わた)し申(まを)す。061それについても種々(いろいろ)の仕度(したく)もござれば、062半刻(はんとき)ばかりの御(ご)猶予(いうよ)をお願(ねが)ひ致(いた)します』
063照山彦(てるやまひこ)『イヤ、064その手(て)は喰(く)はぬ。065ゴテゴテと暇取(ひまど)らせ、066風(かぜ)を喰(くら)つてこの家(や)を逃(に)げ失(う)せる汝(なんぢ)の企(たく)み、067屋敷(やしき)の廻(まは)りには数百(すうひやく)人(にん)の配下(はいか)をつけて置(お)いたれば、068蚤(のみ)の飛(と)び出(で)る隙(すき)もない。069キリキリチヤツと渡(わた)したが為(ため)であらうぞよ』
070竹山彦『イヤ、071照山彦(てるやまひこ)殿(どの)、072仰(あふ)せの如(ごと)くもはや遁走(とんそう)の憂(うれ)ひもなければ、073半刻(はんとき)ばかりの猶予(いうよ)を与(あた)へ、074吾々(われわれ)はここに休息(きうそく)して待(ま)つことに致(いた)さう、075竹山彦(たけやまひこ)がお請合(うけあひ)申(まを)す』
076照山彦『しからば半刻(はんとき)の猶予(いうよ)を与(あた)ふる。077その間(ま)に三(さん)人(にん)の宣伝使(せんでんし)をこれへズラリと引(ひ)き出(だ)せよ』
078 春山彦(はるやまひこ)は胸(むね)に鎹(かすがひ)打(う)たるる心地(ここち)。
079春山彦『承知(しようち)いたしました』
080と落(お)つる涙(なみだ)をかくしつつ、081この場(ば)を悠然(いうぜん)として立去(たちさ)り、082別殿(べつでん)に進(すす)み入(い)る。083妻(つま)の夏姫(なつひめ)は様子(やうす)如何(いか)にと案(あん)じ煩(わづら)ふ折(を)りしも、084春山彦(はるやまひこ)の常(つね)ならぬ顔(かほ)を見(み)て、
085夏姫『思(おも)ひがけなき夜中(やちう)のお使者(ししや)、086様子(やうす)は如何(いかが)でございますか』
087 春山彦(はるやまひこ)は吐息(といき)をつきながら、
088春山彦『女房(にようばう)、089汝(そなた)に一生(いつしやう)の願(ねが)ひがある。090聞(き)いては呉(く)れようまいかなア』
091夏姫『これは又(また)、092あらたまつたお言葉(ことば)、093夫(をつと)の言葉(ことば)を女房(にようばう)として、094どうして背(そむ)きませう。095何(なん)なりと叶(かな)ふ事(こと)ならば仰(あふ)せ付(つ)け下(くだ)さいませ』
096春山彦『オー夏姫(なつひめ)、097よく言(い)うて呉(く)れた。098夫婦(ふうふ)の者(もの)が長(なが)の年月(としつき)、099蝶(てふ)よ花(はな)よと育(そだ)て上(あ)げた秋月姫(あきづきひめ)、100深雪姫(みゆきひめ)、101橘姫(たちばなひめ)の三(さん)人(にん)の生命(いのち)を与(く)れよ』
102夏姫『エヽ』
103春山彦『返事(へんじ)がないは、104否(いや)と申(まを)すのか。105野山(のやま)の猛(たけ)き獣(けもの)さへも、106子(こ)を思(おも)はざるものがあらうか。107焼野(やけの)の雉子(きぎす)、108夜(よる)の鶴(つる)、109朝(あさ)な夕(ゆふ)なに、110蝶(てふ)よ花(はな)よと育(そだ)て上(あ)げ、111莟(つぼみ)の花(はな)の開(ひら)きかけたる、112月(つき)雪(ゆき)花(はな)の三人(みたり)の娘(むすめ)をば、113宣伝使(せんでんし)の身代(みがは)りに立(た)てたいばかりの夫(をつと)が頼(たの)み、114どうぞ得心(とくしん)して呉(く)れ。115わが三(さん)人(にん)の娘(むすめ)は世界(せかい)の為(ため)には働(はたら)きの出来(でき)ぬお嬢(ぢやう)育(そだ)ちに引(ひ)き代(か)へて、116珍(うづ)の都(みやこ)にまします正鹿山津見(まさかやまづみ)の神(かみ)の御(おん)娘子(むすめご)は天下(てんか)の宣伝使(せんでんし)となつて衆生(しうじやう)済度(さいど)を遊(あそ)ばす、117その清(きよ)き御(おん)志(こころざし)、118思(おも)へば思(おも)へば、119これがどうして鷹取別(たかとりわけ)に渡(わた)されようか。120今(いま)まで尽(つく)した親切(しんせつ)が却(かへ)つて仇(あだ)となつたるか。121あゝどうしたらこの場(ば)の苦(くる)しみを免(のが)れる事(こと)が出来(でき)ようぞ。122サア夏姫(なつひめ)返答(へんたふ)を聞(き)かして呉(く)れよ』
123 夏姫(なつひめ)はさし伏向(うつむ)いて何(なん)の応答(いらへ)もなく涙(なみだ)を袖(そで)に拭(ぬぐ)ふのみ。
124 この時(とき)一間(ひとま)を開(あ)けて現(あら)はれ出(い)でたる三(さん)人(にん)の娘(むすめ)は、125知(し)らぬ間(ま)に宣伝使(せんでんし)の服(ふく)を着(つ)け、
126月、雪、花『お父(とう)さま、127お母(かあ)さま、128吾々(われわれ)姉妹(きやうだい)三(さん)人(にん)は宣伝使(せんでんし)の御用(ごよう)に立(た)つて、129常世(とこよ)の国(くに)に引(ひ)かれて参(まゐ)ります。130老少(らうせう)不定(ふぢやう)は世(よ)の習(なら)ひ、131随分(ずゐぶん)まめで暮(くら)して下(くだ)さいませ』
132と袖(そで)に涙(なみだ)をかくして、133畳(たたみ)に手(て)をつき頼(たの)み入(い)る。
134 春山彦(はるやまひこ)夫婦(ふうふ)は一目(ひとめ)見(み)るより吾子(わがこ)三(さん)人(にん)の決心(けつしん)に感(かん)じ入(い)り、135一度(いちど)にワツと泣(な)かむとせしが、136待(ま)て暫(しば)し、137聞(きこ)えては一大事(いちだいじ)と、138涙(なみだ)をかくす苦(くる)しさ。
139 かかる処(ところ)へ松竹梅(まつたけうめ)の宣伝使(せんでんし)現(あら)はれ来(きた)り、
140松、竹、梅『委細(ゐさい)の様子(やうす)は残(のこ)らず聞(き)きました。141海山(うみやま)の御恩(ごおん)を蒙(かうむ)りて、142まだその上(うへ)に勿体(もつたい)なや、143天(てん)にも地(ち)にもかけ替(が)へのない可愛(かあい)い三(さん)人(にん)の娘子(むすめご)を身代(みがは)りに立(た)てて、144妾(わらは)達(たち)を助(たす)けて遣(や)らうとの思召(おぼしめし)は、145何時(いつ)の世(よ)にか忘(わす)れませう。146あゝそのお心(こころ)は千倍(せんばい)にも万倍(まんばい)にも受(う)けまする。147三(さん)人(にん)の娘子(むすめご)様(さま)、148よくもそこまで思(おも)うて下(くだ)さいました。149併(しか)しながら吾々(われわれ)は、150人(ひと)を助(たす)ける宣伝使(せんでんし)の役(やく)、151卑怯(ひけふ)未練(みれん)にも敵(かたき)を詐(いつは)つて替(か)へ玉(だま)を使(つか)ひ、152三(さん)人(にん)の娘子(むすめご)を敵(てき)に渡(わた)すといふ事(こと)が、153どうして忍(しの)ばれませうか。154その御(ご)親切(しんせつ)は有難(ありがた)うございますが、155かへつて吾々(われわれ)の心(こころ)を痛(いた)めます。156大事(だいじ)の娘子(むすめご)を身代(みがは)りに立(た)てさして、157吾々(われわれ)三(さん)人(にん)はどうしておめおめとこの世(よ)に生(い)きて居(を)られませうか。158どうぞこればかりは思(おも)ひ止(と)まつて下(くだ)さいませ。159わらは達(たち)は天晴(あつぱ)れと名乗(なの)つて参(まゐ)ります』
160と先(さき)に立(た)つて松(まつ)竹(たけ)梅(うめ)の三(さん)人(にん)は、161照山彦(てるやまひこ)の居間(ゐま)に行(ゆ)かむとするを、162親子(おやこ)五(ご)人(にん)は宣伝使(せんでんし)に縋(すが)りつき、163春山彦(はるやまひこ)はあわてて、
164春山彦『マア待(ま)つて下(くだ)さいませ。165折角(せつかく)の娘(むすめ)が志(こころざし)、166あなたは神(かみ)様(さま)の為(ため)にこの世(よ)を救(すく)はねばならぬお役(やく)。167その身代(みがは)りに立(た)つた娘(むすめ)は、168まことに光栄(くわうえい)の至(いた)り、169喜(よろこ)んで身代(みがは)りに立(た)たしていただきます。170どうか娘(むすめ)の志(こころざし)を叶(かな)へさして下(くだ)さいませ』
171と頼(たの)み入(い)る。
172 照山彦(てるやまひこ)は大音声(だいおんじやう)、
173照山彦『アイヤ春山彦(はるやまひこ)、174時(とき)が迫(せま)つた。175早(はや)く宣伝使(せんでんし)をこの場(ば)へ連(つ)れ出(いだ)せ。176何(なに)をぐづぐづ致(いた)して居(を)るか』
177と呶鳴(どな)り声(ごゑ)。
178春山彦『ハイハイ、179暫(しばら)くお待(ま)ち下(くだ)さいませ。180今(いま)直(すぐ)に参(まゐ)ります』
181竹山彦(たけやまひこ)『何(なに)をぐづぐづ埒(らち)の明(あ)かぬこと。182早(はや)く三(さん)人(にん)をこれへ出(だ)せ』
183 春山彦(はるやまひこ)は是非(ぜひ)もなく、184二人(ふたり)の前(まへ)に立現(たちあら)はれ、
185春山彦『只今(ただいま)これへ連(つ)れ参(まゐ)ります。186よく御(ご)実検(じつけん)下(くだ)さいませ』
187竹山彦(たけやまひこ)『オー、188早(はや)く出(だ)せ。189ここの家(うち)には秋月姫(あきづきひめ)、190深雪姫(みゆきひめ)、191橘姫(たちばなひめ)の三(さん)人(にん)の娘(むすめ)があると云(い)ふ事(こと)は聞(き)いてゐる。192その娘(むすめ)の顔(かほ)をよく見知(みし)つたる竹山彦(たけやまひこ)、193身代(みがは)りを出(だ)さうなどと量見(りやうけん)違(ちが)ひいたして、194あとで吠面(ほえづら)をかわくな』
195 春山彦(はるやまひこ)は進退(しんたい)これ谷(きは)まり、196如何(いかが)はせむと心(こころ)の中(うち)に、
197春山彦『野立彦(のだちひこの)命(みこと)、198野立姫(のだちひめの)命(みこと)、199木花姫(このはなひめの)命(みこと)守(まも)らせ給(たま)へ』
200と一生(いつしやう)懸命(けんめい)に念(ねん)じ入(い)る。201松(まつ)竹(たけ)梅(うめ)の宣伝使(せんでんし)はこの前(まへ)に現(あら)はれ、
202松、竹、梅『オー照山彦(てるやまひこ)、203竹山彦(たけやまひこ)の御(お)使(つかひ)とやら、204妾(わらは)は三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)、205昔(むかし)はヱルサレムに於(おい)て時(とき)めき渡(わた)る天使長(てんしちやう)桃上彦(ももがみひこの)命(みこと)の娘(むすめ)と生(うま)れた、206松代姫(まつよひめ)、207竹野姫(たけのひめ)、208梅ケ香姫(うめがかひめ)の、209今(いま)は天下(てんか)の宣伝使(せんでんし)、210わが顔(かほ)をよく検(あらた)めて一(いち)時(じ)も早(はや)く連(つ)れ帰(かへ)り、211常世(とこよ)神王(しんわう)の前(まへ)に手柄(てがら)をいたされよ。212ヤー、213春山彦(はるやまひこ)、214汝(なんぢ)の志(こころざし)、215何時(いつ)の世(よ)にかは忘(わす)れむ。216妾(わらは)三(さん)人(にん)は今(いま)捕(とら)はれて常世(とこよ)の国(くに)に到(いた)ると雖(いへど)も、217尊(たふと)き神(かみ)の御恵(みめぐ)みにて、218再(ふたた)び御(おん)目(め)にかかることもあらむ。219親子(おやこ)夫婦(ふうふ)むつまじく達者(たつしや)に暮(くら)して下(くだ)されませ』
220 春山彦(はるやまひこ)は涙(なみだ)を拭(ぬぐ)ひながら、
221春山彦『これはこれは勿体(もつたい)なき宣伝使(せんでんし)のお言葉(ことば)、222どうぞ御(ご)無事(ぶじ)で帰(かへ)つて下(くだ)さいませ』
223照山彦(てるやまひこ)『エー、224グヅグヅと、225何(なに)をベソベソ、226早(はや)くこの場(ば)を立(た)ち去(さ)らぬか。227竹山彦(たけやまひこ)殿(どの)、228よく調(しら)べられよ』
229 竹山彦(たけやまひこ)は三(さん)人(にん)の顔(かほ)をトツクと眺(なが)め、
230竹山彦『オー、231これは秋月姫(あきづきひめ)でもない、232深雪姫(みゆきひめ)でもない、233また橘姫(たちばなひめ)でもない。234擬(まが)ふ方(かた)なき松(まつ)竹(たけ)梅(うめ)の宣伝使(せんでんし)にきまつた。235アイヤ、236春山彦(はるやまひこ)、237今日(こんにち)までこの三(さん)人(にん)の宣伝使(せんでんし)を隠匿(かくま)うた罪(つみ)は赦(ゆる)して遣(つか)はす。238今後(こんご)は気(き)をつけて再(ふたた)びかやうな不都合(ふつがふ)な事(こと)はいたすでないぞよ』
239と、240三(さん)人(にん)の宣伝使(せんでんし)を無理(むり)矢理(やり)に駕籠(かご)に乗(の)せ、241大勢(おほぜい)の家来(けらい)に兒(かつ)がせながら、242凱歌(がいか)を奏(そう)して帰(かへ)り行(ゆ)く。
243 春山彦(はるやまひこ)、244夏姫(なつひめ)は、245ワツとばかりに声(こゑ)を張(は)りあげ泣(な)き伏(ふ)す。246この声(こゑ)に驚(おどろ)いて、247月(つき)、248雪(ゆき)、249花(はな)の三(さん)人(にん)の娘(むすめ)と、250松(まつ)、251竹(たけ)、252梅(うめ)の宣伝使(せんでんし)は、253この場(ば)にあわただしく走(は)せ来(きた)り、
254月、雪、花『オー、255父上(ちちうへ)、256母上(ははうへ)』
257松、竹、梅『春山彦(はるやまひこ)どの、258夏姫(なつひめ)様(さま)』
259と声(こゑ)かけられて夫婦(ふうふ)は頭(かしら)を上(あ)げ、260ハツとばかりに二度(にど)吃驚(びつくり)、261夢(ゆめ)か現(うつつ)か幻(まぼろし)か、262合点(がてん)ゆかぬと夫婦(ふうふ)は顔(かほ)を見合(みあは)せ、263思案(しあん)に暮(く)れゐたる。
264 あゝ今(いま)引(ひ)かれて行(い)つた松(まつ)竹(たけ)梅(うめ)の宣伝使(せんでんし)は、265何神(なにがみ)の化身(けしん)なるか、266いぶかしき。
267(大正一一・二・一六 旧一・二〇 東尾吉雄録)
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