霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第四章 鬼鼻(きび)団子(だんご)〔四三四〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第10巻 霊主体従 酉の巻 篇:第1篇 千軍万馬 よみ(新仮名遣い):せんぐんばんば
章:第4章 鬼鼻団子 よみ(新仮名遣い):きびだんご 通し章番号:434
口述日:1922(大正11)年02月19日(旧01月23日) 口述場所: 筆録者:河津雄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1922(大正11)年8月20日
概要: 舞台:常世城 あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
松、竹、梅の三姉妹は、常世神王(広国別による影武者)の覚えめでたく、側近く仕えることになった。竹山彦も昇格し、鷹取別と同列の大臣扱いとなった。
松代姫は、ロッキー山に現れた伊弉冊命様を慕って常世国へ宣伝にやってきた、と言うと、常世神王は、伊弉冊命はロッキー山でウラル教を開いたのだ、としたり顔に偽りを言う。
そこへ、ロッキー山の使いとして、美山別と国玉姫がやってきた、という報せが届いた。常世神王は、鷹取別に神使と面会するよう命じると、自分は三姉妹を従えて寝殿に下がって休んだ。
鷹取別、竹山彦、遠山別の三人は神使に面会したが、ロッキー山の伊弉冊命の命令は、松・竹・梅の三姉妹をロッキー山に差し出せ、というものであった。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2020-07-15 18:16:04 文字数:3586 OBC :rm1004
愛善世界社版:32頁 八幡書店版:第2輯 401頁 修補版: 校定版:35頁 普及版:14頁 初版: ページ備考:
001 皮膚(ひふ)滑(なめら)かにして雪(ゆき)の如(ごと)く、002肌(はだ)柔(やはら)かにして真綿(まわた)の如(ごと)く、003眼(め)の潤(うるほ)ひ露(つゆ)の滴(したた)る如(ごと)く、004優(やさ)しみの中(なか)に何処(どこ)となく威厳(ゐげん)の備(そな)はる三(さん)人(にん)の娘(むすめ)、005天津(あまつ)乙女(をとめ)の再来(さいらい)か、006さては弥生(やよひ)の桜花(さくらばな)、007臥竜(ぐわりう)の松(まつ)か雪(ゆき)の竹(たけ)、008鶯(うぐひす)歌(うた)ふ梅ケ香(うめがか)の、009春(はる)の衿(ほこり)を姉妹(おとどい)の、010松(まつ)、011竹(たけ)、012梅(うめ)の宣伝使(せんでんし)、013四辺(あたり)眩(まばゆ)き銀燭(ぎんしよく)の、014光(ひかり)に照(て)りて一入(ひとしほ)の、015その麗(うるは)しさを添(そ)へにける。016常世(とこよ)神王(しんわう)は御(ご)機嫌斜(きげんななめ)ならず、017三(さん)人(にん)の娘(むすめ)を左右(さいう)に座(すわ)らせ、018満面(まんめん)笑(ゑみ)を湛(たた)へながら、
019常世神王(広国別)『見(み)れば見(み)る程(ほど)優(やさ)しき女(をんな)の姉妹(きやうだい)連(づ)れ、020ウラル教(けう)の最(もつと)も盛(さか)んなる常世(とこよ)の国(くに)に、021三五教(あななひけう)を宣伝(せんでん)せむと、022華々(はなばな)しく進(すす)み来(きた)るその勇気(ゆうき)には感(かん)じ入(い)つたり。023さりながら、024常世(とこよ)の国(くに)はウラル教(けう)の教(をしへ)を以(もつ)て国是(こくぜ)となす。025万民(ばんみん)これに悦服(えつぷく)し、026その神徳(しんとく)を讃美(さんび)渇仰(かつかう)す。027然(しか)るに、028主義(しゆぎ)精神(せいしん)全(まつた)く相反(あひはん)せる三五教(あななひけう)を此(この)地(ち)に布(し)くことあらむか、029忽(たちま)ち民心(みんしん)離反(りはん)して、030挙国(きよこく)一致(いつち)の精神(せいしん)を破(やぶ)り、031天下(てんか)の争乱(そうらん)を惹起(じやくき)せむは、032火(ひ)を睹(み)るよりも明(あきら)かなれば、033常世(とこよ)の国(くに)は三五教(あななひけう)の宣伝(せんでん)を厳禁(げんきん)せり。034然(しか)るに繊弱(かよわ)き女(をんな)の身(み)を以(もつ)て、035雄々(をを)しくも我(わが)国(くに)に入(い)り来(きた)り宣伝歌(せんでんか)を歌(うた)ふは、036天下(てんか)擾乱(ぜうらん)の基(もとゐ)を開(ひら)く大罪人(だいざいにん)なれば、037汝(なんぢ)等(ら)姉妹(きやうだい)を厳刑(げんけい)に処(しよ)すべきは、038法(ほふ)の定(さだ)むる処(ところ)、039さりながら汝(なんぢ)等(ら)姉妹(きやうだい)三(さん)人(にん)は、040吾(われ)等(ら)が危急(ききふ)を救(すく)ひたる其(その)功(こう)に愛(め)で、041今迄(いままで)の罪(つみ)を赦(ゆる)し、042殿内(でんない)の一切(いつさい)を任(まか)せ、043わが身辺(しんぺん)に侍(じ)して、044家事(かじ)万端(ばんたん)の業務(げふむ)に尽(つく)さしめむ』
045と厳命(げんめい)するにぞ、046松代姫(まつよひめ)は莞爾(くわんじ)として、047常世(とこよ)神王(しんわう)に向(むか)ひ、048羞(はづ)かしげに花(はな)の唇(くちびる)を開(ひら)き、
049松代姫『実(げ)に有難(ありがた)き御(おん)仰(あふ)せ、050世事(せじ)に慣(な)れざる不束者(ふつつかもの)の妾(わらは)姉妹(きやうだい)を、051畏(おそ)れ多(おほ)くも殿内(でんない)に止(とど)めさせ給(たま)ふは、052暗中(あんちう)に光明(くわうみやう)を得(え)、053盲亀(もうき)の浮木(ふぼく)に逢(あ)へるが如(ごと)き身(み)の光栄(くわうえい)、054慎(つつし)んでお受(う)け致(いた)します』
055と、056言葉(ことば)淀(よど)みなく述(の)べ立(た)てたり。
057竹山彦『ヤア、058松(まつ)、059竹(たけ)、060梅(うめ)の宣伝使(せんでんし)様(さま)、061貴女(あなた)方(がた)は天地(てんち)赦(ゆる)すべからざる大罪人(だいざいにん)なりしに、062今日(こんにち)只今(ただいま)よりは、063常世(とこよ)神王(しんわう)が掌中(しやうちう)の玉(たま)、064女御(によご)更衣(かうい)にも、065ずつと優(すぐ)れたお局様(つぼねさま)。066吾々(われわれ)は今後(こんご)は貴女(あなた)様(さま)の御(ご)指揮(しき)を仰(あふ)ぎ奉(たてまつ)る。067何分(なにぶん)粗暴(そばう)極(きは)まる竹山彦(たけやまひこ)、068御(ご)遠慮(ゑんりよ)なく宜敷(よろし)く御(お)叱(しか)り下(くだ)さいませ』
069と敬意(けいい)を表(へう)しける。070鷹取別(たかとりわけ)は鼻(はな)をフガフガ云(い)はせながら、
071鷹取別『ヤア、072目出度(めでた)いめでたい、073お祝(いは)ひ申(まを)す、074三(さん)人(にん)のお局様(つぼねさま)、075如何(いか)に出世(しゆつせ)をしたと言(い)つて、076鼻(はな)を高(たか)くしてはなりませぬぞ。077何(なん)と言(い)つても、078常世(とこよ)神王(しんわう)の宰相(さいしやう)は此(こ)の鷹取別(たかとりわけ)、079如何(いか)に勢力(せいりよく)を得(う)ればとて、080この鷹取別(たかとりわけ)を除外(ぢよぐわい)する事(こと)はなりませぬ』
081竹山彦『アハヽヽヽヽ、082ヤア、083今迄(いままで)は鷹取別(たかとりわけ)様(さま)の家来(けらい)となつて居(ゐ)た竹山彦(たけやまひこ)、084今日(こんにち)より常世(とこよ)神王(しんわう)のお言葉(ことば)に依(よ)りて、085直々(じきじき)の家来(けらい)、086最早(もはや)貴下(あなた)の臣下(しんか)では御座(ござ)らぬ。087貴下(きか)は吾々(われわれ)の同僚(どうれう)と心得(こころえ)られよ。088斯(か)く申(まを)す竹山彦(たけやまひこ)の顔(かほ)の真中(まんなか)なるこの鼻(はな)は、089何時(いつ)とはなしに、090ムクムクと高(たか)くなつた心持(こころもち)が致(いた)す。091それに引替(ひきか)へ、092貴下(きか)は火(ひ)の玉(たま)に鼻(はな)を突(つ)かれ、093平素(ひごろ)の鼻(はな)の鷹取別(たかとりわけ)も、094お気(き)の毒(どく)千万(せんばん)、095柿(かき)のへたのやうに潰挫(めしや)げて終(しま)つて、096両方(りやうはう)の頬辺(ほほべた)にひつ附(つ)き申(まを)した。097これからは鼻(はな)の低取別(ひくとりわけ)となつて、098今迄(いままで)の傲慢(がうまん)不遜(ふそん)の態度(たいど)を改(あらた)められよ。099さてもさても鼻持(はなもち)ならぬ御(お)顔(かほ)だなア、100ワハヽヽヽヽ』
101 常世(とこよ)神王(しんわう)は打解(うちと)け顔(がほ)、
102常世神王(広国別)『松代姫(まつよひめ)にお尋(たづ)ね申(まを)したき事(こと)がござる。103貴女(あなた)方(がた)は孱弱(かよわ)き女(をんな)の身(み)を以(もつ)て、104この常世(とこよ)の国(くに)に宣伝(せんでん)すべく御(お)出(い)でになつたのは、105何(なに)か深(ふか)い様子(やうす)が御座(ござ)らう。106包(つつ)まず隠(かく)さず仰(あふ)せられたし。107斯(か)くなる上(うへ)は、108何(なん)の隔(へだ)てもなければ、109心(こころ)置(お)きなく事実(じじつ)を述(の)べられたし』
110と問(と)ひかくる。111松代姫(まつよひめ)は言葉(ことば)も軽々(かるがる)しく、
112松代姫『ハイ、113妾(わらは)姉妹(きやうだい)三(さん)人(にん)の者(もの)、114艱難(かんなん)苦労(くらう)を嘗(な)めて常世(とこよ)の国(くに)に参(まゐ)りしは、115余(よ)の儀(ぎ)では御座(ござ)いませぬ。116畏(おそ)れ多(おほ)くも三五教(あななひけう)の守護神(まもりがみ)、117神(かむ)伊弉冊(いざなみの)命(みこと)様(さま)、118日(ひ)の出神(でのかみ)様(さま)、119ロッキー山(ざん)に現(あ)れますと承(うけたま)はり、120お跡(あと)慕(した)ひて参(まゐ)りました。121郷(がう)に入(い)つては郷(がう)に従(したが)へとかや、122妾(わらは)はこれより三五教(あななひけう)を棄(す)て、123常世(とこよ)神王(しんわう)の奉(ほう)じ給(たま)ふウラル教(けう)に帰依(きえ)いたします。124然(しか)しながら、125伊弉冊(いざなみの)命(みこと)様(さま)にも、126日(ひ)の出神(でのかみ)様(さま)にも、127矢張(やつぱ)り三五教(あななひけう)をお開(ひら)きで御座(ござ)いませう』
128遠山別『イヤ、129伊弉冊(いざなみの)大神(おほかみ)、130日(ひ)の出神(でのかみ)は、131ロッキー山(ざん)に宮柱(みやはしら)太敷(ふとし)き立(た)てウラル教(けう)を開(ひら)き給(たま)ふぞ』
132と、133したり顔(がほ)に述(の)べ立(た)つる遠山別(とほやまわけ)の抗弁(かうべん)いと怪(あや)し。134この時(とき)門番(もんばん)の蟹彦(かにひこ)は、135畏(おそ)る畏(おそ)る此(こ)の場(ば)に現(あら)はれ、
136蟹彦『鷹取別(たかとりわけ)の司(つかさ)に申上(まをしあ)げます。137唯今(ただいま)ロッキー山(ざん)より、138美山別(みやまわけの)命(みこと)、139国玉姫(くにたまひめ)と共(とも)に、140御(ご)使者(ししや)として御(ご)来城(らいじやう)、141別殿(べつでん)に御(ご)休息(きうそく)せられあり。142如何(いかが)致(いた)しませうや』
143常世神王(広国別)『吾(われ)は是(これ)より寝殿(しんでん)に入(い)つて休息(きうそく)せむ。144鷹取別(たかとりわけ)よ、145ロッキー山(ざん)の神使(しんし)の御用(ごよう)の趣(おもむき)、146しかと承(うけたま)はり、147わが前(まへ)に報告(はうこく)せよ。148松(まつ)、149竹(たけ)、150梅(うめ)の三(さん)人(にん)の局(つぼね)来(きた)れ』
151と云(い)ひつつ、152常世(とこよ)神王(しんわう)は三女(さんぢよ)と倶(とも)に寝殿(しんでん)指(さ)して悠々(いういう)と進(すす)み入(い)る。153鷹取別(たかとりわけ)は蟹彦(かにひこ)に向(むか)ひ、
154鷹取別『汝(なんぢ)は別殿(べつでん)に於(おい)て、155美山別(みやまわけ)、156国玉姫(くにたまひめ)の御(ご)上使(じやうし)に向(むか)ひ、157速(すみや)かに此(この)場(ば)に御(ご)出場(しゆつぢやう)あらむ事(こと)を申伝(まをしつた)へよ』
158蟹彦『委細(ゐさい)承知(しようち)致(いた)しました』
159と顔(かほ)を上(あ)げる途端(とたん)に、160鷹取別(たかとりわけ)の顔(かほ)を眺(なが)め、
161蟹彦『ヤア、162貴方(あなた)様(さま)、163その鼻(はな)は如何(どう)なさいました。164ハナハナ以(もつ)て合点(がてん)の行(ゆ)かぬ御(おん)鼻(はな)、165一割(いちわり)高(たか)い鷹取別(たかとりわけ)の天狗鼻(てんぐばな)も、166今(いま)は殆(ほとん)ど柿(かき)のへた同様(どうやう)でございますなア。167余(あま)り慢心(まんしん)致(いた)して、168鼻(はな)ばかり高(たか)う致(いた)すと、169艮(うしとら)の金神(こんじん)が現(あら)はれて、170鼻(はな)を捻折(ねじを)つて潰挫(めしや)いで終(しま)ふぞよと、171三五教(あななひけう)とやらの教(をし)ふるとか聞(き)きました。172真実(ほんと)に貴方(あなた)の鼻(はな)は、173へしやばつて、174穴(あな)も碌(ろく)に見(み)えませぬ。175鼻(はな)の穴(あな)ない教(けう)ではございませぬか』
176鷹取別『何(なに)馬鹿(ばか)申(まを)す、177速(すみや)かに別殿(べつでん)に報告(はうこく)致(いた)せ』
178蟹彦『これはこれは、179失礼(しつれい)致(いた)しました。180ハナハナ以(もつ)て不都合(ふつがふ)千万(せんばん)、181平(ひら)た蟹(がに)になつて謝罪(あやま)ります。182何卒(どうぞ)カニして下(くだ)さいませ』
183と蟹彦(かにひこ)は馬鹿口(ばかぐち)を叩(たた)きながら、184この場(ば)を立出(たちい)で独言(ひとりごと)、
185蟹彦『何(なん)だ、186折角(せつかく)美人(びじん)が来(き)たから、187このお使(つかひ)を幸(さいはひ)に、188美(うつく)しいお顔(かほ)を拝(をが)みたいと思(おも)つて居(ゐ)たのに、189アタ面白(おもしろ)うもない、190鷹取別(たかとりわけ)の潰(つぶ)れ面(づら)や、191照山彦(てるやまひこ)の禿頭(はげあたま)を見(み)せつけられて、192エエ胸糞(むねくそ)の悪(わる)い事(こと)だワイ。193二(ふた)つ目(め)には竹山(たけやま)の火事(くわじ)のやうに、194ポンポンと吐(ぬ)かしよつた鷹取別(たかとりわけ)、195何(なん)の醜態(ざま)だい、196甚(はなは)だ以(もつ)て人気(にんき)の悪(わる)い面付(つらつき)だぞ』
197 斯(か)かる処(ところ)へ現(あら)はれ出(い)でたる固虎(かたとら)は、
198固虎『オイ、199蟹彦(かにひこ)、200今(いま)貴様(きさま)は何(なに)を言(い)つて居(を)つたか、201天(てん)に口(くち)あり壁(かべ)に耳(みみ)だ。202チヤンと此(この)固虎(かたとら)さまのお耳(みみ)に這入(はい)つたのだ。203鷹取別(たかとりわけ)様(さま)に言上(ごんじやう)するから、204覚悟(かくご)を致(いた)せ』
205蟹彦『ヤアヤア、206痩児(やせご)に蓮根(はすね)とは此(この)事(こと)かい。207固虎(かたとら)奴(め)が何時(いつ)の間(ま)にか聞(き)きよつて……貴様(きさま)は聞(き)かねばならぬ事(こと)は一寸(ちよつと)も聞(き)かず、208聞(き)かいでもよい事(こと)はよく聞(き)く奴(やつ)だ。209言(い)はねばならぬ事(こと)は一寸(ちよつと)も能(よ)う吐(ぬ)かさず、210言(い)はいでもよい事(こと)はベラベラと喋(しやべ)りたがるなり、211困(こま)つた奴(やつ)だ。212が貴様(きさま)が鷹取別(たかとりわけ)様(さま)に言(い)ふなら言(い)つてもいい。213その代(かは)りにこの蟹彦(かにひこ)も堪忍(かんにん)ならぬ。214貴様(きさま)は最前(さいぜん)、215中門(なかもん)の傍(そば)で、216三(さん)人(にん)の娘(むすめ)を魔性(ましやう)の女(をんな)だと言(い)つてゐたであらうがな。217チヤンとこの蟹彦(かにひこ)が聞(き)いてゐるのだ』
218固虎『オイ、219もうこんな事(こと)は為替(かはせ)だ為替(かはせ)だ、220互(たがひ)に言(い)はぬ事(こと)にしようかい。221又(また)屑(くづ)が出(で)ると互(たがひ)の迷惑(めいわく)だからなア』
222蟹彦『態(ざま)見(み)やがれ、223固虎(かたとら)の野郎(やらう)、224ガタガタ慄(ぶる)ひしよつて、225他人(ひと)を呪(のろ)へば穴(あな)二(ふた)つだ。226二(ふた)つの穴(あな)さへ滅茶(めちや)々々(めちや)になつた。227鷹取別(たかとりわけ)の鼻(はな)の不態(ぶざま)つたら、228見(み)られた醜態(ざま)ぢやありやアしない。229ヤア、230ガタ虎(とら)、231貴様(きさま)も来(こ)い』
232と肩肘(かたひぢ)怒(いか)らし、233横(よこ)に歩(ある)いて別殿(べつでん)に進(すす)み入(い)つた。234蟹彦(かにひこ)、235固虎(かたとら)の両人(りやうにん)は恐(おそ)る恐(おそ)る別殿(べつでん)に進(すす)み入(い)り、236右(みぎ)の手(て)を以(もつ)て頭(あたま)を幾度(いくど)となく掻(か)きながら、
237蟹彦、固虎『これはこれは、238御(ご)上使(じやうし)様(さま)、239長(なが)らくお待(ま)たせ致(いた)しました。240サア、241案内(あんない)致(いた)しませう、242奥殿(おくでん)に……』
243と云(い)ひながら先(さき)に立(た)つて手(て)を振(ふ)り、244怪(あや)しき歩(あゆ)み恰好(かつかう)の可笑(をか)しさ。245殊(こと)に蟹彦(かにひこ)は腰(こし)を曲(ま)げ、246尻(しり)を一歩(ひとあし)々々(ひとあし)、247プリンプリンと振(ふ)りつつ行(ゆ)く。248美山別(みやまわけ)、249国玉姫(くにたまひめ)は悠々(いういう)として奥殿(おくでん)に進(すす)み入(い)り、250正座(しやうざ)に着(つ)き、
251美山別(みやまわけ)『オー、252常世城(とこよじやう)の宰相神(さいしやうがみ)、253鷹取別(たかとりわけ)とはその方(はう)なるや』
254鷹取別『ハイ、255仰(あふ)せの如(ごと)く、256吾(われ)は鷹取別(たかとりわけ)でございます』
257美山別『ヤア、258貴下(きか)の顔(かほ)は如何(いかが)なされた。259少(すこ)しく変(へん)ではござらぬか』
260鷹取別『ハイ……』
261 竹山彦(たけやまひこ)は恭(うやうや)しく、
262竹山彦『これはこれは御(ご)上使(じやうし)様(さま)、263よく入来(いら)せられました。264今迄(いままで)は鷹取別(たかとりわけ)、265今日(けふ)よりは鼻(はな)の高(たか)きを取(と)り、266低取(びくとり)屁茶彦(べちやひこ)と改名(かいめい)致(いた)しました』
267 鷹取別(たかとりわけ)は鼻(はな)をフガフガ言(い)はせながら、268何事(なにごと)か言(い)はむとすれども、269声調(せいてう)乱(みだ)れて聞(き)き取(と)り得(え)ざるぞ憐(あは)れなる。
270美山別『何(なに)はともあれ、271伊弉冊(いざなみの)大神(おほかみ)の御(ご)神勅(しんちよく)、272慥(たしか)に承(うけたま)はれ。273常世(とこよ)の国(くに)に渡(わた)り来(きた)る松(まつ)、274竹(たけ)、275梅(うめ)の宣伝使(せんでんし)は、276間(はざま)の酋長(しうちやう)春山彦(はるやまひこ)の家(いへ)に隠匿(かくま)はれ居(を)ると聞(き)く。277汝(なんぢ)は速(すみや)かに捕手(とりて)を遣(つか)はし、278彼(かれ)ら三(さん)人(にん)を生擒(いけどり)にして、279一(いち)時(じ)も早(はや)くロッキー山(ざん)に送(おく)り来(きた)れよとの厳命(げんめい)』
280と厳(おごそ)かに言(い)ひ渡(わた)す。281美山別(みやまわけ)の言葉(ことば)に蟹彦(かにひこ)は、
282蟹彦『モシモシ美山別(みやまわけ)の御(ご)上使(じやうし)様(さま)、283その松(まつ)、284竹(たけ)、285梅(うめ)の三(さん)人(にん)は既(すで)にすでに常世(とこよ)神王(しんわう)の御(お)居間(ゐま)に……』
286遠山別(とほやまわけ)『シーツ、287蟹彦(かにひこ)、288要(い)らざる差出口(さしでぐち)……門番(もんばん)の分際(ぶんざい)として何(なに)が解(わか)るか。289汝(なんぢ)らの口出(くちだし)すべき場所(ばしよ)でないぞ、290退(さが)り居(を)らう。291……これはこれは御(ご)上使(じやうし)様(さま)、292鷹取別(たかとりわけ)は御覧(ごらん)の通(とほ)り言語(げんご)も明瞭(めいれう)を欠(か)きますれば、293次席(じせき)なる遠山別(とほやまわけ)が代(かは)つてお受(う)け申(まを)さむ。294御(ご)上使(じやうし)の趣(おもむき)、295委細(ゐさい)承知(しようち)仕(つかまつ)りました。296一(いち)日(にち)も早(はや)く三(さん)人(にん)の娘(むすめ)を生擒(いけどり)にし、297お届(とど)け申(まを)さむ』
298美山別『早速(さつそく)の承知(しようち)、299満足(まんぞく)々々(まんぞく)、300大神(おほかみ)におかせられても、301嘸(さぞ)御(ご)満足(まんぞく)に思召(おぼしめ)すらむ。302さらば某(それがし)は、303急(いそ)ぎロッキー山(ざん)に立帰(たちかへ)らむ。304常世(とこよ)神王(しんわう)に委細(ゐさい)伝達(でんたつ)あれよ』
305と言(い)ひ棄(す)て、306数多(あまた)の家来(けらい)を引連(ひきつ)れ、307馬上(ばじやう)裕(ゆたか)に揺(ゆ)られながら、308国玉姫(くにたまひめ)と諸共(もろとも)に門外(もんぐわい)さして帰(かへ)り往(ゆ)く。309蟹彦(かにひこ)は美山別(みやまわけ)の後(あと)を追駆(おつか)けながら、
310蟹彦『モシモシ御(ご)上使(じやうし)様(さま)、311遠山別(とほやまわけ)のトツケもない言葉(ことば)に欺(だま)されぬやうになされませや。312慥(たしか)にこの蟹彦(かにひこ)が、313何(なに)もカニも承知(しようち)致(いた)して居(を)ります』
314と、315皺枯声(しはがれごゑ)に叫(さけ)べども、316蹄(ひづめ)の音(おと)に遮(さへぎ)られ、317美山別(みやまわけ)は耳(みみ)にもかけず、318足(あし)を早(はや)めて雲(くも)を霞(かすみ)と帰(かへ)り行(ゆ)く。
319(大正一一・二・一九 旧一・二三 河津雄録)
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