霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一六章 固門開(こもんかい)〔四四六〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第10巻 霊主体従 酉の巻 篇:第1篇 千軍万馬 よみ(新仮名遣い):せんぐんばんば
章:第16章 固門開 よみ(新仮名遣い):こもんかい 通し章番号:446
口述日:1922(大正11)年02月23日(旧01月27日) 口述場所: 筆録者:外山豊二 校正日: 校正場所: 初版発行日:1922(大正11)年8月20日
概要: 舞台:ロッキー城 あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
淤縢山津見は固虎に固山彦と名を与えて、ロッキー城に忍び込もうとした。固虎は出征から戻ってきた振りをして、ロッキー城の門を開けさせようとする。
門を開けさせた固虎は、淤縢山津見を伴って場内へ進み入る。門番たちが喧嘩を始めたところへ、またしても後から門を激しく叩く者がある。そして、ついに強力に任せて門を打ち破って中へ入ってきたのは、照彦であった。
門番たちは照彦に恐れをなして震えている。照彦はゆうゆうと美人の女宣伝使たちを従えて場内に入っていった。その歌う宣伝歌に、門番たちは大地に縮み上がってしまった。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2020-07-15 22:32:13 文字数:3414 OBC :rm1016
愛善世界社版:125頁 八幡書店版:第2輯 436頁 修補版: 校定版:130頁 普及版:58頁 初版: ページ備考:
001 常世(とこよ)の国(くに)を東西(とうざい)に、002分(わか)ちて立(た)てるロッキーの、003山(やま)の尾(を)の上(へ)に濃(こ)き淡(あは)き、004雲(くも)を透(すか)してひらひらと、005白地(しろぢ)に葵(あふひ)の百旗(ももはた)千旗(ちはた)、006翩翻(へんぼん)としてひるがへり、007峰(みね)の嵐(あらし)も淤縢山津見(おどやまづみ)の宣伝使(せんでんし)は、008シラ山峠(やまたうげ)の頂上(ちやうじやう)に、009全(まつた)く帰順(きじゆん)を表(へう)したる、010心(こころ)も固(かた)き固虎(かたとら)に、011固山彦(かたやまひこ)と名(な)を与(あた)へ、012ロッキー城(じやう)を蹂躙(じうりん)し、013醜女(しこめ)探女(さぐめ)の計略(けいりやく)を、014根底(こんてい)より覆(くつが)へさむと、015猫(ねこ)を冠(かぶ)りて進(すす)み行(ゆ)く。
016 ここはロッキー城(じやう)の表門(おもてもん)である。017美山別(みやまわけ)、018竹島彦(たけしまひこ)等(ら)の勇将(ゆうしやう)は、019獅虎(しこ)の如(ごと)き猛卒(まうそつ)を率(ひき)ゐて黄泉島(よもつじま)の戦闘(せんとう)に出陣(しゆつぢん)したる事(こと)とて、020城内(じやうない)の守兵(しゆへい)は甚(はなは)だ手薄(てうす)になつてゐる。021それが為(た)め警戒(けいかい)は益々(ますます)厳(げん)にして、022昼(ひる)と雖(いへど)も表門(おもてもん)を容易(ようい)に開(ひら)かず、023鎌彦(かまひこ)、024笠彦(かさひこ)の両人(りやうにん)をして、025数人(すうにん)の門番(もんばん)と共(とも)に厳守(げんしゆ)せしめてゐた。026固山彦(かたやまひこ)は大音声(だいおんじやう)を張(は)り上(あ)げて、
027固山彦(固虎)『ヤア門番(もんばん)、028この門(もん)を開(ひら)け。029常世(とこよ)神王(しんわう)の命(めい)に依(よ)り、030目(め)の国(くに)カリガネ半島(はんたう)に於(おい)て生擒(いけどり)にしたる淤縢山津見(おどやまづみ)を始(はじ)め、031四(よ)人(にん)の宣伝使(せんでんし)を召伴(めしつ)れ帰(かへ)り来(きた)れり』
032と呼(よば)はれば、033主人(しゆじん)の威光(ゐくわう)を真向(まつかう)に被(かぶ)つて笠彦(かさひこ)は居丈高(ゐたけだか)になり、
034笠彦『オー、035さういふ声(こゑ)は常世城(とこよじやう)の上役(うはやく)固虎彦(かたとらひこ)に非(あら)ずや。036貴下(きか)は常世城(とこよじやう)の勇将(ゆうしやう)として目(め)の国(くに)に出陣(しゆつぢん)されしもの、037何故(なにゆゑ)に常世城(とこよじやう)に還(かへ)らず本城(ほんじやう)に来(きた)りしか。038その委細(ゐさい)をつぶさに物語(ものがた)られよ。039様子(やうす)の如何(いかん)に依(よ)つてはこの門(もん)絶対(ぜつたい)に開(ひら)く可(べか)らず』
040と呶鳴(どな)り付(つ)けたり。041固山彦(かたやまひこ)は大声(おほごゑ)にて、
042固山彦(固虎)『卑(いや)しき門番(もんばん)の分際(ぶんざい)として、043常世(とこよ)神王(しんわう)の従神(じゆうしん)固虎彦(かたとらひこ)に向(むか)つて無礼(ぶれい)の雑言(ざふごん)、044四(し)の五(ご)の言(い)はず速(すみや)かにこの門(もん)を開(ひら)け。045否(いな)むに於(おい)ては危急(ききふ)存亡(そんばう)の場合(ばあひ)だ、046一刻(いつこく)の猶予(いうよ)もならず。047固虎彦(かたとらひこ)の鉄(てつ)より固(かた)きこの腕(うで)を以(もつ)て叩(たた)き破(やぶ)つて這入(はい)つて見(み)せうぞ』
048笠彦(かさひこ)『オイ鎌彦(かまひこ)、049何(ど)うしよう。050偉(えら)い勢(いきほひ)ぢやないか。051こんな場合(ばあひ)は門番(もんばん)の吾々(われわれ)には判断(はんだん)がつかぬ。052伊弉冊(いざなみの)大神(おほかみ)に、053どんな御(お)叱(しか)りを受(う)けるかも解(わか)らぬなり、054鎌彦(かまひこ)、055貴様(きさま)は奥(おく)へ行(い)つて開門(かいもん)の許(ゆる)しを受(う)けて来(き)て呉(く)れないか』
056鎌彦(かまひこ)『何(なに)、057構(かま)ふものか。058開(あ)けてやれ』
059笠彦『若(も)しも固虎彦(かたとらひこ)が寝返(ねがへ)りを打(う)つて、060敵(てき)の間者(かんじや)にでもなつてゐたら大変(たいへん)だからな』
061鎌彦『何(なに)、062構(かま)ふことがあるものか。063開(あ)けるに限(かぎ)る』
064と云(い)ふより早(はや)く、065自(みづか)ら門(もん)の閂(かんぬき)を外(はづ)し、066左右(さいう)にサラリと戸(と)を開(ひら)けば、067固山彦(かたやまひこ)は、
068固山彦(固虎)『サア、069淤縢山(おどやま)さま、070漸(やうや)く門(もん)が開(あ)きました。071ヤア笠彦(かさひこ)、072大儀(たいぎ)であつた。073貴様(きさま)は何時(いつ)も主人(しゆじん)を笠(かさ)に被(き)て威張(ゐば)る奴(やつ)だが、074矢張(やつぱ)り癖(くせ)は治(なほ)らぬと見(み)えるのー』
075笠彦(かさひこ)『ハイハイ、076貴方(あなた)のやうな結構(けつこう)な、077立派(りつぱ)な、078勇将(ゆうしやう)の御(お)越(こ)し、079御(お)通(とほ)し申(まを)したいは胸(むね)一(いつ)ぱいでございますが、080何(なに)を云(い)つてもこの鎌彦(かまひこ)奴(め)が頑張(ぐわんば)るものですから、081つい手間(てま)を取(と)りまして申訳(まをしわけ)がありませぬ。082吾々(われわれ)の如(ごと)き微々(びび)たる門番(もんばん)、083三軍(さんぐん)を指揮(しき)し給(たま)ふ貴方(あなた)様(さま)に向(むか)つて、084一言(いちげん)半句(はんく)にても抵抗(ていかう)致(いた)すは、085恰(あたか)も蟷螂(とうろう)が斧(をの)を揮(ふる)つて竜車(りうしや)に向(むか)ふやうなもの、086到底(たうてい)駄目(だめ)だから早(はや)く御(お)開(あ)け申(まを)せと言(い)ふに、087鎌彦(かまひこ)の奴(やつ)、088蟷螂(かまきり)のやうな勇気(ゆうき)を出(だ)しよつて、089容易(ようい)に開(あ)けないのです。090本当(ほんたう)に訳(わけ)の解(わか)らぬ奴(やつ)ですから』
091鎌彦(かまひこ)『何(なに)を云(い)ひよるのだ、092腰抜(こしぬ)け野郎(やらう)奴(め)、093貴様(きさま)が拒(こば)んだのぢやないか、094俺(おれ)はちつとも構(かま)はぬ、095御(お)開(あ)け申(まを)せと言(い)つて居(を)るのに、096日(ひ)の出神(でのかみ)の御(お)叱(しか)りが怖(こは)いとか、097大神(おほかみ)様(さま)の御(お)目玉(めだま)が光(ひか)るとか云(い)ひよつて、098邪魔(じやま)をし居(を)つた癖(くせ)に、099何(なん)だい今(いま)のざまは。100少(すこ)し強(つよ)い者(もの)には直(すぐ)に犬(いぬ)のやうに尾(を)を掉(ふ)り居(を)つて、101見(み)えた嘘(うそ)を云(い)ひ、102自分(じぶん)の不調法(ぶてうはふ)を同役(どうやく)の俺(おれ)に塗(ぬ)りつけやうとは不届(ふとど)き千万(せんばん)な奴(やつ)。103以後(いご)のみせしめ、104この鎌公(かまこう)の鉄拳(てつけん)を喰(くら)へ』
105といふより早(はや)く、106笠彦(かさひこ)の横面(よこづら)をはり飛(と)ばせば、107笠彦(かさひこ)は大肌脱(おほはだぬぎ)となつて、
108笠彦『ヤイ鎌(かま)、109馬鹿(ばか)にしよるない。110貴様(きさま)こそ強(つよ)いと見(み)たら尾(を)を下(さ)げて、111心(こころ)にもない追従(つゐしやう)をべらべらと喋(しやべ)くりよつて、112よし覚(おぼ)えて居(を)れ。113この笠彦(かさひこ)が貴様(きさま)の笠(かさ)の台(だい)を引抜(ひきぬ)いてやるから』
114と首筋(くびすぢ)目掛(めが)けて飛(と)びついた。115二人(ふたり)は組(く)んづ組(く)まれつ、116上(うへ)へなり下(した)になり争(あらそ)うてゐる。117固虎(かたとら)の固山彦(かたやまひこ)は、118両手(りやうて)に拳(こぶし)を固(かた)め、119肩肘(かたひぢ)怒(いか)らしながら大股(おほまた)にのそりのそりと中門(なかもん)目(め)がけて進(すす)み入(い)る。120淤縢山津見(おどやまづみ)は二人(ふたり)の格闘(かくとう)を見返(みかへ)り見返(みかへ)り、121中門(なかもん)を開(ひら)いて二人(ふたり)とも奥(おく)に進(すす)み入(い)る。
122 又(また)もや表門(おもてもん)を破(わ)るるばかりに打(う)ち叩(たた)くものがある。123この時(とき)四五(しご)の門番(もんばん)は、
124門番『オイオイ、125笠公(かさこう)、126鎌公(かまこう)、127何(ど)うしよう。128開(あ)けようか、129開(あ)けよまいか。130喧嘩(けんくわ)してゐるやうな場合(ばあひ)ぢやない。131あんな強(つよ)い奴(やつ)が二人(ふたり)まで奥(おく)へ通(とほ)つて了(しま)つた。132吾々(われわれ)は何(ど)うなる事(こと)かと思(おも)つて大変(たいへん)心配(しんぱい)して居(を)るのだ。133それに又(また)もや偉(えら)い勢(いきほひ)で門(もん)が破(やぶ)れる程(ほど)叩(たた)いて居(ゐ)るぞ。134喧嘩(けんくわ)どころの騒(さわ)ぎぢやない。135早(はや)く止(や)めぬかい』
136笠彦(かさひこ)『門(もん)も糞(くそ)もあつたものかい。137何(ど)うなと勝手(かつて)にせい。138俺(おれ)は鎌彦(かまひこ)の首(くび)を引(ひ)き抜(ぬ)かねば置(お)かぬのだ』
139鎌彦(かまひこ)『オイ笠(かさ)、140喧嘩(けんくわ)は中止(ちゆうし)して明日(あす)まで延(の)ばしたら何(ど)うだ。141兄弟(けいてい)墻(かき)に鬩(せめ)ぐとも外(そと)その侮(あなど)りを防(ふせ)ぐといふことがあるぞ。142平穏(へいおん)無事(ぶじ)の時(とき)には何程(なにほど)仇(かたき)のやうに喧嘩(けんくわ)をしてゐた兄弟(きやうだい)でも、143サア強敵(きやうてき)が出(で)て来(き)たと云(い)ふ時(とき)には、144犬(いぬ)と猿(さる)とのやうな兄弟(きやうだい)が腹(はら)を合(あは)して敵(てき)に当(あた)るものだ。145貴様(きさま)も謂(い)はば兄弟(きやうだい)だ。146貴様(きさま)は俺(おれ)の弟(おとうと)だ。147兄(あに)の云(い)ふことを聞(き)いて首(くび)を放(はな)せ』
148笠彦『何(なに)を云(い)ひよるのだ、149弟(おとうと)もあつたものかい。150貴様(きさま)は俺(おれ)の奴(やつこ)になつて尻拭(しりふき)をすると云(い)へ。151そしたら首(くび)を放(はな)してやらう。152首(くび)も廻(まは)らぬやうな九死(きうし)一生(いつしやう)の場合(ばあひ)に当(あた)つて、153まだ減(へ)らず口(ぐち)を叩(たた)くか』
154 門(もん)を叩(たた)く音(おと)は益々(ますます)激(はげ)しくなり来(きた)り、155四五(しご)の門番(もんばん)はガタガタ慄(ふる)へながら、
156門番『オイオイ、157笠彦(かさひこ)、158早(はや)く放(はな)さぬか。159放(はな)さな放(はな)さぬで、160俺(おれ)等(ら)一同(いちどう)が寄(よ)つて掛(かか)つて貴様(きさま)を打(う)ちのめすが、161それでも放(はな)さぬか』
162笠彦(かさひこ)『放(はな)せと云(い)つたつて、163鎌彦(かまひこ)を始(はじ)め訳(わけ)の解(わか)らぬ奴(やつ)ばかりで、164話(はな)せるやうな気(き)の利(き)いた奴(やつ)が一疋(いつぴき)でも居(を)るかい。165はなしとうてもはなされぬワイ。166もつと身魂(みたま)を研(みが)け、167研(みが)けたら大(だい)は宇宙(うちう)の真理(しんり)より、168小(せう)は蚤(のみ)の腸(はらわた)まで知(し)つて居(を)るこの方(はう)、169はなして聞(き)かしてやらう』
170鎌彦(かまひこ)『オイ執拗(しつこ)いぞ、171いい加減(かげん)に洒落(しやれ)て置(お)け。172そんな時(とき)ぢやなからう。173大奥(おほおく)は今(いま)大騒動(おほさうどう)が始(はじ)まつてゐる。174さうして門(もん)には獅子(しし)とも虎(とら)とも狼(おほかみ)ともわからぬやうな強(つよ)い奴(やつ)が、175大勢(おほぜい)の武士(つはもの)の出陣(しゆつぢん)した後(あと)を狙(ねら)つて攻(せ)めて来(き)て居(を)るのだ。176前門(ぜんもん)には虎(とら)、177後門(こうもん)には狼(おほかみ)を受(う)けて居(を)る危急(ききふ)存亡(そんばう)のこの場合(ばあひ)、178喧嘩(けんくわ)どころの騒(さわ)ぎぢやなからう』
179笠彦『ナンでもよいワイ。180俺(おれ)の奴(やつこ)さまになるか』
181 門(もん)は強力(がうりき)無双(むそう)の男(をとこ)に押破(おしやぶ)られ、182閂(かんぬき)はめきめきめきと音(おと)して裂(さ)けた。183四五(しご)の門番(もんばん)はこの物音(ものおと)に腰(こし)を抜(ぬ)かし、184大地(だいち)に坐(すわ)つたまま慄(ふる)へてゐる。185門(もん)ひき開(あ)けて入(い)り来(きた)る一人(ひとり)の男(をとこ)、186花(はな)を欺(あざむ)く三(さん)人(にん)の娘(むすめ)と共(とも)に悠々(いういう)としてこの場(ば)に現(あら)はれ、187この体(てい)を見(み)て、
188照彦(戸山津見)『オイ、189その方(はう)は何(なに)を致(いた)して居(を)るか。190其処(そこ)は地(つち)の上(うへ)だ』
191一同(いちどう)『ハイ、192畏(かしこ)まつて御(お)迎(むか)へを致(いた)して居(を)ります』
193照彦(戸山津見)『それには及(およ)ばぬ。194早(はや)く立(た)つて案内(あんない)いたせ』
195一同『ハイ、196何分(なにぶん)笠公(かさこう)と鎌公(かまこう)の門番頭(もんばんがしら)が組付(くみつ)き合(あ)ひを始(はじ)めて離(はな)れないものですから困(こま)つてをります。197立(た)つても居(ゐ)ても居(を)られないので、198止(や)むを得(え)ず腰(こし)を据(す)ゑ、199胴(どう)を据(す)ゑて泰然(たいぜん)自若(じじやく)と構(かま)へて居(を)るのです』
200照彦(戸山津見)『貴様(きさま)らは慄(ふる)うてゐるぢやないか。201早(はや)く立(た)つて案内(あんない)いたせ』
202一同『たつて立(た)てと仰有(おつしや)るなら立(た)たぬことはありませぬ。203何卒(どうぞ)笠公(かさこう)と鎌公(かまこう)に掛合(かけあ)うて下(くだ)さい』
204照彦(戸山津見)『妙(めう)な奴(やつ)だな。205オイ、206笠(かさ)とか鎌(かま)とかいふ門番(もんばん)、207何(なに)を争(あらそ)うてゐるか』
208笠彦(かさひこ)『ヤア、209誰(たれ)かと思(おも)へば去年(きよねん)の冬(ふゆ)、210常世城(とこよじやう)に唐丸(たうまる)駕籠(かご)に乗(の)せられて来(き)よつた照彦(てるひこ)の奴(やつ)ぢやないか。211オイ、212鎌公(かまこう)、213大変(たいへん)な奴(やつ)がやつて来(き)たぞ。214もう喧嘩(けんくわ)は中止(ちゆうし)だ。215また改(あらた)めて明日(あす)にしようかい。216貴様(きさま)も生命(いのち)冥加(みやうが)のある奴(やつ)だ。217この照彦(てるひこ)の奴(やつ)を生擒(いけどり)にして常世城(とこよじやう)に送(おく)つてやらうか』
218と云(い)つて首(くび)を放(はな)す。
219 照彦(てるひこ)は三(さん)人(にん)の美人(びじん)を随(したが)へ、220悠々(いういう)として委細(ゐさい)構(かま)はず中門(なかもん)目(め)がけて進(すす)み行(ゆ)く。221鎌(かま)と笠(かさ)は此(この)体(てい)を見(み)て、
222鎌公、笠彦『オイ、223皆(みな)の奴(やつ)、224中門(なかもん)指(さ)して行(ゆ)き居(を)るぞ。225襟髪(えりがみ)とつて引戻(ひきもど)せ』
226一同(いちどう)『引戻(ひきもど)したいは山々(やまやま)だが腰(こし)が立(た)たぬ。227笠公(かさこう)、228鎌公(かまこう)、229喧嘩(けんくわ)をするだけの元気(げんき)があるなら、230二人(ふたり)一緒(いつしよ)になつて彼奴(あいつ)の足(あし)をさらへて、231ひつくり返(かへ)し縛(しば)り上(あ)げて常世城(とこよじやう)へ送(おく)りなさい』
232笠彦(かさひこ)『オイ、233鎌公(かまこう)、234貴様(きさま)は首(くび)のないとこだつた。235死(し)んだと思(おも)つて、236一(いち)か八(ばち)か早(はや)く追(お)ひかけて飛(と)びついてでも捉(つか)まへないか』
237鎌公(かまこう)『何(なん)だか気分(きぶん)が悪(わる)い、238医者(いしや)にでも診察(しんさつ)して貰(もら)つて、239医者(いしや)が行(い)つてもよいと吐(ぬか)したら飛(と)びつきに行(ゆ)かうかい』
240笠彦『ソンナことを云(い)つてる場合(ばあひ)かい、241呆(とぼ)けやがるな。242俺(おれ)がけしかけてやるから行(ゆ)け行(ゆ)け。243犬(いぬ)でもけしかけが上手(じやうず)だと、244自分(じぶん)の身体(からだ)の五倍(ごばい)も十倍(じふばい)もある猪(しし)に向(むか)つて飛(と)びつくものだ。245けしかけも上手(じやうず)でないと犬(いぬ)は弱(よわ)いものだ』
246鎌公『馬鹿(ばか)にするない、247人(ひと)を犬(いぬ)にたとへやがつて』
248笠彦『貴様(きさま)、249何時(いつ)でも口癖(くちぐせ)のやうに、250日(ひ)の出神(でのかみ)様(さま)の為(ため)には粉骨(ふんこつ)砕身(さいしん)だとか、251犬馬(けんば)の労(らう)を吝(をし)まぬとか吐(ほざ)いたぢやないか。252犬馬(けんば)の労(らう)を尽(つく)すのは今(いま)この時(とき)だ。253口(くち)ばつかり矢釜敷(やかまし)く囀(さへづ)りよつて、254肝腎(かんじん)要(かなめ)の場合(ばあひ)に尾(を)を股(また)にはさんで、255すつこんでゐる野良犬(のらいぬ)奴(め)が、256早(はや)く行(ゆ)け。257オツシオツシ』
258 中門(なかもん)の内(うち)に男女(だんぢよ)の涼(すず)しき宣伝歌(せんでんか)聞(きこ)え来(きた)るを、259門番(もんばん)一同(いちどう)は顔(かほ)をしかめ、260耳(みみ)に手(て)を当(あ)てて地(ち)にかぶりつき縮(ちぢ)み居(ゐ)る。
261 大奥(おほおく)の模様(もやう)は如何(いかん)、262心許(こころもと)なし。
263(大正一一・二・二三 旧一・二七 外山豊二録)
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