霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第三六章 意想外(いさうぐわい)〔四六六〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第10巻 霊主体従 酉の巻 篇:第3篇 邪神征服 よみ(新仮名遣い):じゃしんせいふく
章:第36章 意想外 よみ(新仮名遣い):いそうがい 通し章番号:466
口述日:1922(大正11)年02月27日(旧02月01日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1922(大正11)年8月20日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
酋長夫婦をはじめ村人たちは、石凝姥神らを喜んで迎えた。しかし時公が大法螺を吹きだして、蛇掴をやっつけたのは自分だと、手柄話を始めだした。そして、蛇掴は降参したが、最後に人間の食い納めに、酋長一家を食べにくるのだ、と出鱈目を言い始めた。
酋長一家と村人たちはわっと泣き出すが、時公が冗談だ、というと村人たちは怒って時公に詰め寄った。
石凝姥神は宣伝歌で、昨晩の様子を村人たちに伝えた。石凝姥神の宣伝歌を聴いて、酋長もやっと安心した。そして宣伝使に感謝の意を表すために祝宴を開いた。
酋長の鉄彦は、宣伝使に感謝の歌を歌い、三五教への帰依を誓った。この後、鉄彦は梅ケ香姫の従者となって、アーメニヤに進んで行くことになる。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2020-07-16 02:24:49 文字数:3914 OBC :rm1036
愛善世界社版:279頁 八幡書店版:第2輯 492頁 修補版: 校定版:286頁 普及版:127頁 初版: ページ備考:
001アルタイ山(さん)の蛇掴(へびつかみ)
002一度(いちど)に開(ひら)く梅ケ香姫(うめがかひめ)の
003神(かみ)の命(みこと)の言霊(ことたま)に
004吹(ふ)き散(ち)らされて曲津見(まがつみ)は
005御空(みそら)も高(たか)く駆(か)け上(あが)り
006西南(せいなん)指(さ)してアーメニヤ
007雲(くも)を霞(かすみ)と逃(に)げ去(さ)りし
008後(あと)に二人(ふたり)の宣伝使(せんでんし)
009胸(むね)ドキドキと時公(ときこう)の
010供(とも)を引連(ひきつ)れ帰(かへ)り来(く)る
011鉄谷村(かなたにむら)の鉄彦(かなひこ)が
012館(やかた)の前(まへ)になりければ
013今(いま)の今(いま)まで悄気返(しよげかへ)り
014弱(よわ)り入(い)つたる時公(ときこう)は
015肩(かた)を怒(いか)らし肘(ひぢ)を張(は)り
016俺(おれ)の武勇(ぶゆう)は此(この)通(とほ)り
017鉄谷村(かなたにむら)の人々(ひとびと)よ
018昔(むかし)取(と)つたる杵柄(きねづか)の
019猪(しし)喰(く)た犬(いぬ)の時野川(ときのがは)
020時世(ときよ)時節(じせつ)で是非(ぜひ)もなく
021鉄彦(かなひこ)さまの門番(もんばん)と
022身(み)を下(くだ)しては居(ゐ)たけれど
023愈(いよいよ)めぐる時津風(ときつかぜ)
024吹(ふ)いて吹(ふ)いて吹(ふ)きまはし
025流石(さすが)に強(つよ)き蛇掴(へびつかみ)
026片手(かたて)に掴(つか)んでビシヤビシヤと
027岩(いは)に投付(なげつ)け引(ひ)つ千切(ちぎ)り
028上(うへ)と下(した)との彼奴(きやつ)が顎(あご)
029右(みぎ)と左(ひだり)の手(て)を掛(か)けて
030ウンと一声(ひとこゑ)きばつたら
031鰻(うなぎ)を断(た)つたその如(ごと)く
032左右(さいう)に別(わか)れてメリメリメリ
033時(とき)の天下(てんか)に従(したが)へと
034言(い)ふ諺(ことわざ)を知(し)つてるか
035サアサア是(これ)から時(とき)さまが
036時(とき)の天下(てんか)ぢや殿(との)様(さま)ぢや
037迚(とて)も敵(かな)はぬ鉄谷(かなたに)の
038村(むら)の頭(かしら)の鉄彦(かなひこ)も
039俺(おれ)に叶(かな)はぬ鉄姫(かなひめ)よ
040必(かなら)ず是(これ)から此(この)方(はう)に
041背(そむ)いちやならぬぞ時野川(ときのがは)
042時(とき)の天下(てんか)は俺(おれ)がする
043時(とき)の代官(だいくわん)日(ひ)の奉行(ぶぎやう)
044時(とき)にとつての儲(まう)け物(もの)
045モウ是(これ)からはアルタイの
046山(やま)の魔神(まがみ)の蛇掴(へびつかみ)
047此(この)時(とき)さまのある限(かぎ)り
048再(ふたた)び出(で)て来(く)る例(ためし)ない
049ためしもあらぬ豪傑(がうけつ)の
050此(この)腕前(うでまへ)をよつく見(み)よ
051御代(みよ)は安(やす)らか平(たひら)かに
052時公(ときこう)さまが治(をさ)め行(ゆ)く
053「ドツコイシヨウノドツコイシヨ」
054「ウントコドツコイ、ドツコイシヨ」
055「ヨイトコヨイトコ、ヨイトコサ」
056「ヨイトサノ、ヨーイトサ」
057と手(て)を振(ふ)り、058足(あし)を六方(ろくぱう)に踏(ふ)みながら、059饒舌(しやべ)り散(ち)らし、060鉄彦(かなひこ)が門口(かどぐち)ガラリと開(あ)けて入(い)り来(きた)る。
061 村人(むらびと)は今日(けふ)も酋長(しうちやう)の館(やかた)に詰(つ)めかけて、062アルタイ山(さん)の様子(やうす)如何(いか)にと待(まち)居(ゐ)たる折柄(をりから)なれば、063此(この)法螺(ほら)を聞(き)いて半信(はんしん)半疑(はんぎ)の念(ねん)に駆(か)られ、064喜(よろこ)ぶ者(もの)、065顔(かほ)を顰(しか)める者(もの)、066ポカンとする者(もの)など沢山(たくさん)に現(あら)はれたる。067鉄彦(かなひこ)夫婦(ふうふ)は娘(むすめ)清姫(きよひめ)と共(とも)に慌(あわただ)しく宣伝使(せんでんし)の前(まへ)に現(あら)はれ、
068鉄彦『ヤア、069御(ご)苦労(くらう)で御座(ござ)いました。070様子(やうす)は如何(いかが)で御座(ござ)いませう。071吾々(われわれ)始(はじ)め一統(いつとう)の者(もの)、072御(おん)身(み)の上(うへ)如何(いか)にと、073首(くび)を長(なが)くし、074顔色(かほいろ)を変(か)へて待(ま)つて居(ゐ)ました。075はやく様子(やうす)を聞(き)かして下(くだ)さいませ』
076と三(さん)人(にん)一度(いちど)に両手(りやうて)をついて頼(たの)み入(い)つた。077石凝姥(いしこりどめ)はニツコと笑(わら)ひ、
078石凝姥神『ヤア、079先(ま)づ先(ま)づ御(ご)安心(あんしん)下(くだ)さいませ、080此(この)通(とほ)り梅ケ香姫(うめがかひめ)も無事(ぶじ)に帰(かへ)つて参(まゐ)りました』
081親子(おやこ)三(さん)人(にん)『ヤア、082これは梅ケ香姫(うめがかひめ)さま、083結構(けつこう)で御座(ござ)いましたナ。084これと申(まを)すも貴女(あなた)様(さま)の御(ご)親切(しんせつ)が天地(てんち)の神(かみ)様(さま)に通(つう)じたので御座(ござ)いませう。085オー時公(ときこう)、086お前(まへ)は何(なん)だか偉(えら)う元気張(げんきば)つて唄(うた)つて居(ゐ)たなア。087早(はや)く様子(やうす)を聴(き)かして呉(く)れよ』
088時公(ときこう)『只今(ただいま)の時公(ときこう)は、089昨日(きのふ)迄(まで)の時公(ときこう)とは、090ヘン一寸(ちよつと)違(ちが)ひますよ。091其(その)積(つも)りで聴(き)いて貰(もら)ひませう。092何時(いつ)までも人間(にんげん)は金槌(かなづち)の川流(かはなが)れ、093頭(あたま)が上(あが)らぬといふ理屈(りくつ)はない。094此(この)時公(ときこう)の手柄話(てがらばなし)、095よつく承(うけたま)はりなさい……オイオイ、096時野川(ときのがは)の言霊(ことたま)をよつく聞(き)けよ。097中々(なかなか)以(もつ)て素適(すてき)滅法界(めつぽふかい)な……』
098鉄彦(かなひこ)『オイ時公(ときこう)、099前置(まへおき)は好(よ)い加減(かげん)にして、100早(はや)く本当(ほんたう)のことを言(い)はぬか』
101時公『ヤア、102お気(き)の毒(どく)な事(こと)が出来(でき)ました』
103鉄彦『エツ』
104時公『折角(せつかく)三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)が清姫(きよひめ)様(さま)のお身代(みがは)りになつてやらうとの仁慈(じんじ)無限(むげん)のお志(こころざし)、105吾々(われわれ)始(はじ)め一同(いちどう)の者(もの)は誠(まこと)に以(もつ)て感謝(かんしや)の至(いた)りに堪(た)へませぬ。106併(しか)しながら蛇掴(へびつかみ)の奴(やつ)、107岩窟(いはや)の中(なか)からやつて来(き)て、108唐櫃(からびつ)の廻(まは)りをフンフンと嗅(か)ぎまはり「ヤア此奴(こいつ)は香(にほひ)が違(ちが)ふ、109酸(す)いぞ酸(す)いぞ、110酸(す)いも甘(あま)いも知(し)り抜(ぬ)いた此(この)蛇掴(へびつかみ)に、111身代(みがは)りを立(た)てて誤魔化(ごまくわ)さうとは不都合(ふつがふ)千万(せんばん)な鉄彦(かなひこ)奴(め)、112モウ了簡(れうけん)ならぬ。113是(これ)から此(この)方(はう)が出張(しゆつちやう)して、114鉄彦(かなひこ)親子(おやこ)は申(まを)すに及(およ)ばず、115村中(むらぢう)の奴(やつ)を老若(らうにやく)男女(なんによ)の区別(くべつ)なく片(かた)つ端(ぱし)から皆(みんな)喰(く)つて了(しま)ふ」と云(い)つて、116ドエライ声(こゑ)で呶鳴(どな)りよつた其(その)勢(いきほひ)の凄(すさま)じさ。117何(なん)とも彼(か)とも云(い)ふに云(い)はれぬ、118大抵(たいてい)の者(もの)なら皆(みんな)腰(こし)を抜(ぬ)かして、119到底(たうてい)この時公(ときこう)の様(やう)に帰(かへ)つて来(く)ることは出来(でき)ないのですが、120そこは流石(さすが)は時公(ときこう)だ。121鬼(おに)をも掴(つか)んで喰(く)ふやうな蛇掴(へびつかみ)の前(まへ)に、122何(なん)の怖(おそ)るる色(いろ)もなく悠然(いうぜん)として現(あら)はれ給(たま)ひ「ヤイ、123蛇掴(へびつかみ)とやら、124其(その)方(はう)に申渡(まをしわた)す仔細(しさい)がある。125貴様(きさま)は蛇(へび)の代(かは)りに結構(けつこう)な人間(にんげん)様(さま)を喰(く)ふ奴(やつ)だ。126モウ是(これ)からは人間(にんげん)を喰(く)ふ様(やう)な事(こと)を致(いた)すと了簡(れうけん)ならぬぞ」と拳骨(げんこつ)を固(かた)めて、127ポンと擲(なぐ)る積(つも)りぢやつたが、128擲(なぐ)るのだけは止(や)めておいた。129「モウ人間(にんげん)を喰(く)ふ事(こと)は罷(まか)りならぬ」と言(い)つた処(ところ)、130蛇掴(へびつかみ)の奴(やつ)四(よ)つの目(め)を細(ほそ)くしよつて「ヘイヘイ時公(ときこう)さまの御(ご)威勢(ゐせい)には恐(おそ)れ入(い)りました。131モウ是(これ)が人間(にんげん)の喰(くら)ひをさめ、132一人(ひとり)だけは許(ゆる)して下(くだ)さい」と頼(たの)みやがる。133そこで此(この)方(はう)も「ヨシ分(わか)つた、134割(わり)と融通(ゆうづう)のきく奴(やつ)だ。135サア此処(ここ)へ清姫(きよひめ)を伴(つ)れて来(き)た、136これを喰(くら)つて満足(たんのう)せよ」と云(い)つた処(ところ)、137蛇掴(へびつかみ)の奴(やつ)「此奴(こいつ)は酸(す)い贋物(にせもの)だ、138本当(ほんたう)の清姫(きよひめ)をよこせ」とほざきやがる。139「ヤアそれも尤(もつと)もだ」と云(い)つて請合(うけあ)つて帰(かへ)つて来(き)たのだ。140サア清姫(きよひめ)さま、141気(き)の毒(どく)ながら今晩(こんばん)ぜひ御(ご)苦労(くらう)にならねばなりませぬワイ』
142鉄彦『エヽ、143それは大変(たいへん)な事(こと)ぢや。144主人(しゆじん)が門番(もんばん)に手(て)を下(さ)げて頼(たの)むのだから、145マ一度(いちど)お前(まへ)蛇掴(へびつかみ)に会(あ)つて談判(だんぱん)をして来(き)て呉(く)れまいか』
146時公『なかなか以(もつ)て……抜(ぬ)かりのない時公(ときこう)は「オイ蛇掴(へびつかみ)、147モウ人間(にんげん)の一(ひと)つイヤ一人(ひとり)くらゐ喰(く)つても喰(く)はいでも、148同(おな)じ事(こと)ぢやないか、149モウ是(これ)で諦(あきら)めて了(しま)へ」と千言(せんげん)万語(ばんご)を尽(つく)して云(い)うて聞(き)かした処(ところ)「モウ是(これ)が喰(くら)ひをさめだから、150是非(ぜひ)喰(く)はして貰(もら)ひたい。151蛇掴(へびつかみ)の肉体(にくたい)は改心(かいしん)したから喰(く)ひたくないが、152腹(はら)の中(なか)の副(ふく)守護神(しゆごじん)が喰(く)ひたいと申(まを)すに依(よ)つて、153女子(をなご)の代(かは)りに時公(ときこう)を……ヤ違(ちが)ふ違(ちが)ふ……梅ケ香姫(うめがかひめ)の代(かは)りに、154清姫(きよひめ)と鉄彦(かなひこ)、155鉄姫(かなひめ)を邪魔(じやま)臭(くさ)いから一緒(いつしよ)に喰(く)はして呉(く)れ」と云(い)ひよつたのだ。156ナア鉄彦(かなひこ)さま、157貴方(あなた)は此(この)村(むら)を守(まも)る御(おん)方(かた)、158今迄(いままで)は吾々(われわれ)が集(よ)つて働(はたら)いて、159酋長(しうちやう)さまと敬(うやま)つて養(やしな)つて上(あ)げたのだから、160今夜(こんや)は其(その)勘定(かんぢやう)をなさるのだ。161たつた三(さん)人(にん)の命(いのち)を棄(す)てて此(この)村(むら)は愚(おろ)か、162国中(くにぢう)の者(もの)が助(たす)かると思(おも)へば安(やす)い生命(いのち)だ、163御(ご)苦労(くらう)さま……』
164 鉄彦(かなひこ)、165鉄姫(かなひめ)、166清姫(きよひめ)は一度(いちど)にワツと泣(な)き伏(ふ)す。167時公(ときこう)は、
168時公『ワツハヽヽヽ、169オツホヽヽヽ』
170村(むら)の者(もの)『オイ時公(ときこう)、171何(なに)が可笑(をか)しい。172貴様(きさま)不届(ふとど)きな奴(やつ)だ。173こんな悲(かな)しい時(とき)に可笑(をか)しいのか、174貴様(きさま)を村中(むらぢう)集(よ)つてたかつて成敗(せいばい)してやらう。175覚悟(かくご)せい』
176時公『ヤア、177騒(さわ)ぐな騒(さわ)ぐな、178皆(みな)嘘(うそ)だ』
179村の者『嘘(うそ)とは何(なん)だ、180冗談(じやうだん)も時(とき)に依(よ)る』
181時公『ヤア時公(ときこう)が言(い)つたのぢやない、182副(ふく)守護神(しゆごじん)が云(い)つたのだよ。183みんな嘘(うそ)だ嘘(うそ)だ』
184石凝姥(いしこりどめ)『アハヽヽヽヽ』
185梅ケ香姫(うめがかひめ)『ホヽヽヽヽ』
186 石凝姥(いしこりどめ)は声(こゑ)を張上(はりあ)げて、
187石凝姥神『山路(やまぢ)険(けは)しきアルタイの
188岩窟(いはや)の前(まへ)に送(おく)られし
189梅ケ香姫(うめがかひめ)の唐櫃(からびつ)を
190巌(いはほ)の上(うへ)に据(す)ゑ置(お)きて
191村人(むらびと)達(たち)は帰(かへ)り行(ゆ)く
192梅ケ香姫(うめがかひめ)は唐櫃(からびつ)の
193中(なか)に潜(ひそ)みて宣伝歌(せんでんか)
194歌(うた)ふ其(その)声(こゑ)中天(ちうてん)に
195轟(とどろ)き渡(わた)り曲神(まがかみ)は
196幾百千(いくひやくせん)の火(ひ)となりて
197見(み)まもり居(ゐ)たる折柄(をりから)に
198忽(たちま)ち来(きた)る一(ひと)つ火(び)の
199玉(たま)は此(この)場(ば)に現(あら)はれて
200唐櫃(からびつ)の上(へ)を右(みぎ)左(ひだり)
201前(まへ)や後(うしろ)に舞(ま)ひ狂(くる)ひ
202声(こゑ)も涼(すず)しき梅ケ香姫(うめがかひめ)の
203神(かみ)の命(みこと)の言霊(ことたま)に
204恐(おそ)れて逃(に)げ行(ゆ)くアーメニヤ
205跡形(あとかた)もなき暗(やみ)の空(そら)
206吾(われ)は木蔭(こかげ)に身(み)を忍(しの)び
207此(この)光景(ありさま)を窺(うかが)へば
208臆病風(おくびやうかぜ)に襲(おそ)はれし
209胸(むね)もドキドキ時公(ときこう)が
210腰(こし)を抜(ぬ)かして啜(すす)り泣(な)く
211彼(かれ)を伴(ともな)ひ唐櫃(からびつ)の
212前(まへ)に致(いた)りて蔽蓋(おひぶた)を
213開(ひら)くや忽(たちま)ち暗(やみ)の夜(よ)を
214透(す)かして立(た)てる白姿(しろすがた)
215髪(かみ)振(ふ)り乱(みだ)す梅ケ香姫(うめがかひめ)の
216神(かみ)の姿(すがた)に仰天(ぎやうてん)し
217狼狽(うろた)へ騒(さわ)ぐ面白(おもしろ)さ
218吾(われ)は此(この)場(ば)の可笑(をか)しさに
219魔神(まがみ)となつて声(こゑ)を変(か)へ
220嚇(おど)して見(み)れば時公(ときこう)は
221訳(わけ)も分(わか)らぬくどき言(ごと)
222女房(にようばう)が悔(くや)む助(たす)けてと
223ほざく男(をとこ)の涙声(なみだごゑ)
224腹(はら)を抱(かか)へる可笑(をか)しさを
225こらへて漸(やうや)う今(いま)此処(ここ)に
226帰(かへ)りて見(み)れば時公(ときこう)は
227俄(にはか)に肩(かた)で風(かぜ)を切(き)り
228大(おほ)きな法螺(ほら)を吹(ふ)きかけて
229煙(けむり)に巻(ま)いた減(へ)らず口(ぐち)
230あゝ鉄彦(かなひこ)よ鉄姫(かなひめ)よ
231心(こころ)も清(きよ)き清姫(きよひめ)よ
232御心(みこころ)安(やす)く平(たひら)けく
233思召(おぼしめ)されよ三五(あななひ)の
234神(かみ)の教(をしへ)に救(すく)はれし
235鉄谷村(かなたにむら)はまだ愚(おろか)
236四方(よも)の国々(くにぐに)民草(たみぐさ)の
237憂(うれ)ひはここに払(はら)はれぬ
238歓(よろこ)び勇(いさ)め諸人(もろびと)よ
239喜(よろこ)び祝(いは)へ神(かみ)の恩(おん)』
240 この歌(うた)に鉄彦(かなひこ)始(はじ)め一同(いちどう)はヤツト胸(むね)を撫(な)で下(おろ)し、241三五教(あななひけう)の神徳(しんとく)に感(かん)じ、242かつ二人(ふたり)の宣伝使(せんでんし)が義侠心(ぎけふしん)を深(ふか)く謝(しや)し、243茲(ここ)に村内(そんない)集(あつ)まつて賑々(にぎにぎ)しく祝(いはひ)の酒宴(さかもり)開(ひら)きたり。
244 やがて鉄彦(かなひこ)の座敷(ざしき)を開放(かいはう)して大祝宴(だいしゆくえん)が開(ひら)かれ、245鉄彦(かなひこ)は立(た)つて感謝(かんしや)の意(い)を表(へう)するため歌(うた)をうたふ。
246鉄彦『此(この)世(よ)を救(すく)ふ三五(あななひ)の
247神(かみ)の誠(まこと)の宣伝使(せんでんし)
248世人(よびと)を救(すく)ふ赤心(まごころ)の
249岩(いは)より堅(かた)き神司(かむつかさ)
250石凝姥(いしこりどめ)や梅ケ香姫(うめがかひめ)の
251神(かみ)の命(みこと)のアルタイ山(さん)の
252峰(みね)より高(たか)く海(うみ)よりも
253深(ふか)き恵(めぐみ)に助(たす)けられ
254一人(ひとり)の娘(むすめ)清姫(きよひめ)の
255生命(いのち)ばかりか国々(くにぐに)の
256人(ひと)の禍(わざはひ)悉(ことごと)く
257払(はら)ひ給(たま)ひし大御(おほみ)稜威(いづ)
258汝(なれ)が命(みこと)は久方(ひさかた)の
259天(あま)の河原(かはら)に棹(さをさ)して
260下(くだ)り給(たま)ひし神(かみ)ならめ
261あゝ有難(ありがた)や有難(ありがた)や
262深(ふか)き恵(めぐ)みに報(むく)いむと
263心(こころ)ばかりの此(この)莚(むしろ)
264酒(さけ)は甕瓶(みかのへ)たかしりて
265百(もも)の木(こ)の実(み)は横山(よこやま)の
266如(ごと)く御前(みまへ)に奉(たてまつ)り
267心(こころ)の丈(たけ)を今(いま)此処(ここ)に
268受(う)けさせ給(たま)へ宣伝使(せんでんし)
269果実(このみ)の酒(さけ)はさわさわに
270あかにの穂(ほ)にときこし召(め)せ
271あゝ諸人(もろびと)よ諸人(もろびと)よ
272救(すく)ひの神(かみ)は三五(あななひ)の
273誠(まこと)の道(みち)の二柱(ふたはしら)
274天(あめ)と地(つち)とになぞらへて
275日(ひ)に夜(よ)に仕(つか)へ奉(たてまつ)れ
276日(ひ)に夜(よ)に崇(あが)め奉(たてまつ)れ
277あゝ尊(たふと)しや神(かみ)の恩(おん)
278あゝ尊(たふと)しや君(きみ)が恩(おん)
279たとへ天地(てんち)は変(かは)るとも
280栄(さか)え五六七(みろく)の末(すゑ)迄(まで)も
281娘(むすめ)を救(すく)ひ給(たま)ひたる
282此(この)御恵(みめぐみ)は忘(わす)れまじ
283さはさりながら、あゝわれは
284三年(みとせ)の前(まへ)に清姫(きよひめ)が
285姉(あね)と生(うま)れし照姫(てるひめ)を
286魔神(まがみ)の為(ため)に呪(のろ)はれて
287損(そこな)はれたる悲(かな)しさよ
288三年(みとせ)の前(まへ)に二柱(ふたはしら)
289ここに現(あら)はれましまさば
290あゝ照姫(てるひめ)も清姫(きよひめ)の
291如(ごと)くに無事(ぶじ)に救(すく)はれむ
292返(かへ)す返(がへ)すも恐(おそ)ろしく
293返(かへ)す返(がへ)すも悲(かな)しけれ
294石凝姥(いしこりどめ)の神(かみ)様(さま)よ
295梅ケ香姫(うめがかひめ)の神(かみ)様(さま)よ
296かへらぬ事(こと)を繰返(くりかへ)し
297愚(おろか)な親(おや)とおもほすな
298此(この)世(よ)の中(なか)に何(なに)よりも
299吾(わが)子(こ)に勝(まさ)る宝(たから)なし
300あゝさりながらさりながら
301それに勝(まさ)りて尊(たふと)きは
302神(かみ)の教(をしへ)ぞ御(おん)道(みち)ぞ
303あゝ是(これ)よりは三五(あななひ)の
304道(みち)の教(をしへ)を宝(たから)とし
305四方(よも)の民草(たみくさ)導(みちび)かむ
306あゝ村人(むらびと)よ村人(むらびと)よ
307神(かみ)に斉(ひと)しき宣伝使(せんでんし)
308唯(ただ)一言(ひとこと)も洩(も)らさずに
309御教(みのり)を聴(き)けよ、いざ聞(き)けよ
310聞(き)いて忘(わす)れな何時(いつ)迄(まで)も
311聴(き)いて行(おこな)へ何処(どこ)迄(まで)も
312心(こころ)を治(をさ)め魂(たま)研(みが)き
313月日(つきひ)の如(ごと)く明(あきら)かに
314照(てら)して御神(みかみ)を讃(ほ)めたたへ
315誠(まこと)の御神(みかみ)を讃(ほ)めよかし
316祈(いの)れよ祈(いの)れ唯(ただ)祈(いの)れ
317此(この)世(よ)を救(すく)ふ三五(あななひ)の
318神(かみ)の御前(みまへ)によく祈(いの)れ』
319と二人(ふたり)の宣伝使(せんでんし)に向(むか)ひ、320涙(なみだ)と共(とも)に感謝(かんしや)する。321これより鉄彦(かなひこ)は神恩(しんおん)に報(むく)ゆるため、322梅ケ香姫(うめがかひめ)の従者(とも)となつて、323アーメニヤに進(すす)み行(ゆ)くこととなりける。
324(大正一一・二・二七 旧二・一 松村真澄録)
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