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霊界物語
霊主体従(第1~12巻)
第10巻(酉の巻)
序歌
凡例
総説歌
信天翁(一)
第1篇 千軍万馬
第1章 常世城門
第2章 天地暗澹
第3章 赤玉出現
第4章 鬼鼻団子
第5章 狐々怪々
第6章 額の裏
第7章 思はぬ光栄
第8章 善悪不可解
第9章 尻藍
第10章 注目国
第11章 狐火
第12章 山上瞰下
第13章 蟹の将軍
第14章 松風の音
第15章 言霊別
第16章 固門開
第17章 乱れ髪
第18章 常世馬場
第19章 替玉
第20章 還軍
第21章 桃の実
第22章 混々怪々
第23章 神の慈愛
第24章 言向和
第25章 木花開
第26章 貴の御児
第2篇 禊身の段
第27章 言霊解一
第28章 言霊解二
第29章 言霊解三
第30章 言霊解四
第31章 言霊解五
第3篇 邪神征服
第32章 土竜
第33章 鰤公
第34章 唐櫃
第35章 アルタイ窟
第36章 意想外
第37章 祝宴
附録 第三回高熊山参拝紀行歌(三)
余白歌
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霊界物語
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第10巻(酉の巻)
> 第3篇 邪神征服 > 第33章 鰤公
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(B)
(N)
唐櫃 >>>
第三三章
鰤公
(
ぶりこう
)
〔四六三〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第10巻 霊主体従 酉の巻
篇:
第3篇 邪神征服
よみ(新仮名遣い):
じゃしんせいふく
章:
第33章 鰤公
よみ(新仮名遣い):
ぶりこう
通し章番号:
463
口述日:
1922(大正11)年02月27日(旧02月01日)
口述場所:
筆録者:
藤津久子
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1922(大正11)年8月20日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
男たちは石凝姥神と一緒に浮橋を渡り、久しぶりに故郷の対岸に帰ってくることができた。男たちの中の鰤公は、一同を代表して石凝姥神に願い出た。
鰤公によると、アルタイ山には蛇掴という悪神が棲んでおり、蛇を食べているのだが、蛇が足りないときには人間を食らう。そのため村人たちは手分けして蛇を獲っているのだが、寒いときにはたいへんな苦労を強いられている、という。
石凝姥神は、そんなことはなんでもない、アルタイ山に登ってその魔神を退治してやる、と請け負った。男たちは石凝姥神を自分の村に案内していく。
村は鉄谷村という。村は何ゆえかどの家も灯りがついておらず、やや高いところに一柱だけ火がまたたいていた。そこは鉄谷村に酋長・鉄彦の屋敷であった。
石凝姥神は門外から声を張り上げて宣伝歌を歌い始めた。中から現れた門番の時公は、酋長の娘・清姫が、蛇掴の餌食になろうとしている、と状況を説明した。そして、鰤公の娘もすでに蛇掴に食われてしまったのだ、と語った。
鰤公はそれを聞いてその場に倒れてしまった。
石凝姥神は門をくぐって進み入った。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
[×閉じる]
:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2020-07-31 22:18:24
OBC :
rm1033
愛善世界社版:
256頁
八幡書店版:
第2輯 484頁
修補版:
校定版:
263頁
普及版:
117頁
初版:
ページ備考:
001
海月
(
くらげ
)
なす
漂
(
ただよ
)
ふ
国
(
くに
)
を
固
(
かた
)
めむと、
002
心
(
こころ
)
も
堅
(
かた
)
き
石凝姥
(
いしこりどめ
)
の、
003
神
(
かみ
)
の
命
(
みこと
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
、
004
其
(
その
)
言霊
(
ことたま
)
に
川
(
かは
)
の
辺
(
べ
)
の、
005
四五
(
しご
)
の
土人
(
どじん
)
は
堅
(
かた
)
き
頭
(
あたま
)
を
宇智
(
うち
)
の
川
(
かは
)
、
006
浮木
(
うきき
)
の
橋
(
はし
)
を
危
(
あぶ
)
なげに、
007
やうやう
西
(
にし
)
へ
打渡
(
うちわた
)
り、
008
甲
(
かふ
)
『アヽ
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
様
(
さま
)
、
009
お
蔭
(
かげ
)
で
三
(
さん
)
年
(
ねん
)
振
(
ぶ
)
りに
故郷
(
こきやう
)
に
帰
(
かへ
)
る
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
ました。
010
これも
全
(
まつた
)
く、
011
あなた
様
(
さま
)
のお
蔭
(
かげ
)
でございます。
012
私
(
わたくし
)
の
村
(
むら
)
へ
一寸
(
ちよつと
)
御
(
お
)
立寄
(
たちよ
)
りを
願
(
ねが
)
ひたいのは
山々
(
やまやま
)
ですが、
013
そこには
一寸
(
ちよつと
)
、
014
エヽ
一寸
(
ちよつと
)
……』
015
石凝姥
(
いしこりどめ
)
『
何
(
なん
)
だ、
016
云
(
い
)
ひ
憎
(
にく
)
さうに、
017
明瞭
(
はつきり
)
と
云
(
い
)
はぬかい』
018
甲
『オイ
鰤公
(
ぶりこう
)
、
019
貴様
(
きさま
)
俺
(
おれ
)
に
代
(
かは
)
つて
申上
(
まをしあ
)
げて
呉
(
く
)
れないか』
020
鰤公
(
ぶりこう
)
『ソンナ
甘
(
うま
)
い
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
ふな。
021
此
(
この
)
鰤公
(
ぶりこう
)
だつて
久
(
ひさ
)
し
振
(
ぶ
)
り
に
川
(
かは
)
を
渡
(
わた
)
つて、
022
やつと
安心
(
あんしん
)
したとこだ、
023
ソンナ
事
(
こと
)
明瞭
(
はつきり
)
と
云
(
い
)
はうものなら、
024
それ
又
(
また
)
アルタイ
山
(
さん
)
の
魔神
(
まがみ
)
さまには
ブリ
ブリと
怒
(
おこ
)
られて、
025
ドンナ
災難
(
さいなん
)
が
俺
(
おれ
)
の
頭
(
あたま
)
に
ブリ
懸
(
かか
)
つて
来
(
く
)
るか、
026
分
(
わか
)
つたものぢやないワ。
027
さうすれば
家
(
うち
)
の
嬶
(
かかあ
)
めが
三
(
さん
)
年
(
ねん
)
振
(
ぶ
)
り
に
折角
(
せつかく
)
帰
(
かへ
)
つて
来
(
き
)
て、
028
好
(
よ
)
い
男
(
をとこ
)
振
(
ぶ
)
り
を
拝
(
をが
)
んで、
029
ヤレヤレ
嬉
(
うれ
)
しやと
思
(
おも
)
つて
居
(
ゐ
)
たのに、
030
お
前
(
まへ
)
さまは
馬鹿
(
ばか
)
だから、
031
ソンナ
大事
(
だいじ
)
な
事
(
こと
)
を
喋
(
しやべ
)
つて、
032
こんな
目
(
め
)
に
遇
(
あ
)
ふのだと
云
(
い
)
つて、
033
ブリ
ブリ
怒
(
おこ
)
られて、
034
大
(
おほ
)
きな
尻
(
しり
)
を
俺
(
おれ
)
の
方
(
はう
)
へ
ブリ
ブリと
振
(
ふ
)
られやうものならつまらぬからなア』
035
石凝姥
(
いしこりどめ
)
『オイ、
036
貴様
(
きさま
)
達
(
たち
)
は
訳
(
わけ
)
の
分
(
わか
)
らぬ
奴
(
やつ
)
だな。
037
何
(
なに
)
が
ブリ
ブリだ』
038
乙
(
おつ
)
『イヤ
最
(
も
)
う
毎日
(
まいにち
)
日日
(
ひにち
)
、
039
大雨
(
おほあめ
)
が
ブリ
ブリで、
040
宇智川
(
うちがは
)
はドえらい
洪水
(
こうずゐ
)
で
御座
(
ござ
)
います。
041
家
(
うち
)
の
嬶
(
かかあ
)
も
ブリ
ブリで
腹立
(
はらた
)
て、
042
涙
(
なみだ
)
の
雨
(
あめ
)
が
ブリ
ブリになると
困
(
こま
)
りますから、
043
どうぞ
是
(
これ
)
だけは
御
(
お
)
許
(
ゆる
)
し
下
(
くだ
)
さいませ』
044
石凝姥神
『
貴様
(
きさま
)
たち、
045
愚図
(
ぐづ
)
々々
(
ぐづ
)
云
(
い
)
つて
秘密
(
ひみつ
)
を
明
(
あか
)
さぬならば、
046
こちらにも
考
(
かんが
)
へがあるぞ。
047
又
(
また
)
石
(
いし
)
の
玉
(
たま
)
を
御
(
お
)
見舞
(
みまひ
)
ひ
申
(
まを
)
さうか』
048
と
云
(
い
)
ひながら、
049
直
(
ただ
)
ちに
土
(
つち
)
を
握
(
にぎ
)
つて
団子
(
だんご
)
を
造
(
つく
)
り
息
(
いき
)
を
吹
(
ふ
)
きかけたるを、
050
甲
(
かふ
)
『マアマア
待
(
ま
)
つて
下
(
くだ
)
さいませ。
051
そんな
石玉
(
いしだま
)
を
貰
(
もら
)
つたら、
052
私
(
わたくし
)
の
頭
(
あたま
)
は
一遍
(
いつぺん
)
にポカーンと
割
(
わ
)
れて
了
(
しま
)
ふ、
053
堪
(
たま
)
つたものぢやない。
054
胆玉
(
きもだま
)
までが
潰
(
つぶ
)
れて
睾丸
(
きんたま
)
が
縮
(
ちぢ
)
んで
了
(
しま
)
ひます』
055
石凝姥
(
いしこりどめ
)
『それなら
素直
(
すなほ
)
に、
056
何
(
なん
)
だか
秘密
(
ひみつ
)
らしい
貴様
(
きさま
)
の
口
(
くち
)
振
(
ぶ
)
り
、
057
白状
(
はくじやう
)
せぬかい』
058
甲
『ハイハイ、
059
仕方
(
しかた
)
がありませぬ、
060
さつぱりと
申
(
まを
)
し
上
(
あ
)
げます。
061
エヽ
実
(
じつ
)
は、
062
誠
(
まこと
)
にそれは、
063
ほんにほんに、
064
真
(
しん
)
に、
065
エー、
066
アルタイ
山
(
さん
)
の、
067
アヽ
間
(
ま
)
の
悪
(
わる
)
い
曲神
(
まがかみ
)
が、
068
マアマア、
069
マアで
御座
(
ござ
)
いますが』
070
石凝姥神
『
貴様
(
きさま
)
の
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
は
益々
(
ますます
)
分
(
わか
)
らぬ、
071
真面目
(
まじめ
)
に
申
(
まを
)
さぬか。
072
また
石玉
(
いしだま
)
を
呉
(
く
)
れるぞよ』
073
甲
『オイ、
074
鰤公
(
ぶりこう
)
、
075
貴様
(
きさま
)
も
俺
(
おれ
)
ばかりに
云
(
い
)
はさずに、
076
ちつと
は
責任
(
せきにん
)
を
分担
(
ぶんたん
)
したらどうだ』
077
鰤公
(
ぶりこう
)
『エー
仕方
(
しかた
)
がない。
078
どんな
事
(
こと
)
があつても、
079
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
様
(
さま
)
引受
(
ひきう
)
けて
下
(
くだ
)
さいますか』
080
石凝姥
(
いしこりどめ
)
『
何
(
なん
)
でも
引受
(
ひきう
)
けてやる、
081
驚
(
おどろ
)
くな、
082
尋常
(
じんじやう
)
に
真実
(
しんじつ
)
を
申
(
まを
)
せ』
083
鰤公
『アルタイ
山
(
さん
)
には
蛇掴
(
へびつかみ
)
と
云
(
い
)
ふ、
084
それはそれはえらい
悪神
(
わるがみ
)
が
棲
(
す
)
んで
居
(
を
)
ります。
085
其
(
その
)
神
(
かみ
)
は
毎日
(
まいにち
)
日日
(
ひにち
)
大
(
おほ
)
きな
蛇
(
へび
)
を
十二匹
(
じふにひき
)
宛
(
づつ
)
餌食
(
ゑじき
)
に
致
(
いた
)
して
居
(
を
)
ります。
086
其
(
その
)
蛇
(
へび
)
がない
時
(
とき
)
には
此処
(
ここ
)
ら
辺
(
あたり
)
の
村々
(
むらむら
)
に
沢山
(
たくさん
)
の
子分
(
こぶん
)
を
連
(
つ
)
れて
来
(
き
)
て、
087
嬶
(
かかあ
)
や
娘
(
むすめ
)
を
代
(
かは
)
りに
奪
(
と
)
つて
喰
(
くら
)
ひますので、
088
大事
(
だいじ
)
な
女房
(
にようばう
)
や
娘
(
むすめ
)
を
食
(
く
)
はれては
堪
(
たま
)
らないので、
089
村々
(
むらむら
)
の
者
(
もの
)
が
各自
(
めいめい
)
手分
(
てわ
)
けをして
毎日
(
まいにち
)
十二匹
(
じふにひき
)
の
太
(
ふと
)
い
蛇
(
へび
)
を
獲
(
と
)
つて、
090
之
(
これ
)
をアルタイ
山
(
さん
)
の
窟
(
いはや
)
に
供
(
そな
)
へに
行
(
ゆ
)
くのです。
091
夏
(
なつ
)
は
沢山
(
たくさん
)
に
蛇
(
へび
)
が
居
(
を
)
つて
取
(
と
)
るのも
容易
(
ようい
)
ですが、
092
斯
(
か
)
う
寒
(
さむ
)
くなると
残
(
のこ
)
らず
土
(
つち
)
の
中
(
なか
)
へ
這入
(
はい
)
つて
了
(
しま
)
ふので、
093
之
(
これ
)
を
獲
(
と
)
らうと
思
(
おも
)
へば
大変
(
たいへん
)
な
手間
(
てま
)
が
入
(
い
)
りますし、
094
之
(
これ
)
を
獲
(
と
)
らねば
女房
(
にようばう
)
子
(
こ
)
をいつの
間
(
ま
)
にやら
奪
(
と
)
つて
食
(
く
)
はれるなり、
095
イヤもう
此
(
この
)
辺
(
へん
)
の
人民
(
じんみん
)
は、
096
大蛇獲
(
だいじやと
)
りにかかつては
命
(
いのち
)
がけで
御座
(
ござ
)
います。
097
若
(
も
)
しもこんな
事
(
こと
)
をあなたに
申
(
まを
)
し
上
(
あ
)
げた
事
(
こと
)
が、
098
アルタイ
山
(
さん
)
の
魔神
(
まがみ
)
の
蛇掴
(
へびつかみ
)
の
耳
(
みみ
)
へでも
入
(
はい
)
つたら、
099
それこそ
此
(
この
)
村
(
むら
)
は
全滅
(
ぜんめつ
)
の
憂目
(
うきめ
)
に
遇
(
あ
)
はねばなりませぬから、
100
どうぞ
助
(
たす
)
けて
下
(
くだ
)
さいませ』
101
石凝姥神
『ヤア、
102
何事
(
なにごと
)
かと
思
(
おも
)
へばソンナ
事
(
こと
)
か、
103
よしよし。
104
此
(
この
)
方
(
はう
)
がこれからアルタイ
山
(
さん
)
に
登
(
のぼ
)
つて
其
(
その
)
蛇掴
(
へびつかみ
)
の
魔神
(
まがみ
)
を
退治
(
たいぢ
)
て
[
*
「退治(たいぢ)て」は底本通り。
]
やらう。
105
貴様
(
きさま
)
等
(
ら
)
は
案内
(
あんない
)
せよ』
106
一同
(
いちどう
)
『
案内
(
あんない
)
は
致
(
いた
)
しますが、
107
三
(
さん
)
年
(
ねん
)
振
(
ぶ
)
りで
漸
(
やうや
)
う
帰
(
かへ
)
つたばかし、
108
どうぞ
一度
(
いちど
)
吾家
(
わがや
)
へ
帰
(
かへ
)
つて
妻子
(
さいし
)
に
面会
(
めんくわい
)
した
上
(
うへ
)
案内
(
あんない
)
さして
下
(
くだ
)
さい』
109
石凝姥神
『
三
(
さん
)
年
(
ねん
)
も
居
(
を
)
らなかつたのだから、
110
屹度
(
きつと
)
お
前
(
まへ
)
等
(
ら
)
の
女房
(
にようばう
)
子
(
こ
)
は
喰
(
く
)
はれて
了
(
しま
)
つたかも
知
(
し
)
れないよ』
111
一同
(
いちどう
)
声
(
こゑ
)
を
揃
(
そろ
)
へてワアワアと
泣
(
な
)
き
伏
(
ふ
)
すあはれさ。
112
石凝姥
(
いしこりどめ
)
『オー
心配
(
しんぱい
)
するな、
113
滅多
(
めつた
)
にそんな
事
(
こと
)
はあるまい。
114
とも
角
(
かく
)
貴様
(
きさま
)
等
(
ら
)
の
村
(
むら
)
に
暫
(
しば
)
らく
逗留
(
とうりう
)
して
様子
(
やうす
)
を
窺
(
うかが
)
ふ
事
(
こと
)
としよう』
115
と
一同
(
いちどう
)
と
共
(
とも
)
に
彼
(
かれ
)
等
(
ら
)
が
部落
(
ぶらく
)
に
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
く。
116
この
部落
(
ぶらく
)
を
鉄谷村
(
かなたにむら
)
と
云
(
い
)
ふ。
117
一行
(
いつかう
)
が
此
(
この
)
村
(
むら
)
の
入口
(
いりぐち
)
に
差掛
(
さしかか
)
つた
頃
(
ころ
)
は、
118
既
(
すで
)
に
烏羽玉
(
うばたま
)
の
闇
(
やみ
)
の
帳
(
とばり
)
は
下
(
おろ
)
され、
119
空
(
そら
)
には
黒雲
(
こくうん
)
塞
(
ふさ
)
がり
咫尺
(
しせき
)
を
弁
(
べん
)
ぜざる
闇黒界
(
あんこくかい
)
となりぬ。
120
七八十
(
しちはちじつ
)
軒
(
けん
)
もある
鉄谷村
(
かなたにむら
)
は、
121
何故
(
なにゆゑ
)
か、
122
どの
家
(
いへ
)
にも
一点
(
いつてん
)
の
燈火
(
あかり
)
もついて
居
(
ゐ
)
ない。
123
微
(
かすか
)
に
鼻
(
はな
)
をすする
音
(
おと
)
や
泣
(
な
)
き
声
(
ごゑ
)
が
聞
(
きこ
)
えてゐる。
124
鰤公
(
ぶりこう
)
の
一行
(
いつかう
)
はあまりの
暗
(
くら
)
さに
吾家
(
わがや
)
さへも
分
(
わか
)
らず、
125
一歩
(
ひとあし
)
々々
(
ひとあし
)
杖
(
つゑ
)
を
持
(
も
)
たぬ
盲目
(
めくら
)
の
様
(
やう
)
な
足付
(
あしつき
)
をして
探
(
さぐ
)
りさぐり
進
(
すす
)
んで
行
(
ゆ
)
く。
126
やや
高
(
たか
)
き
所
(
ところ
)
に
忽然
(
こつぜん
)
として
一柱
(
ひとはしら
)
の
火光
(
くわくわう
)
が
瞬
(
またた
)
き
始
(
はじ
)
めた。
127
石凝姥
(
いしこりどめ
)
その
他
(
た
)
の
一行
(
いつかう
)
は
其
(
その
)
火
(
ひ
)
を
目当
(
めあて
)
にドンドンと
進
(
すす
)
んで
来
(
き
)
て
見
(
み
)
れば、
128
此処
(
ここ
)
は
鉄谷村
(
かなたにむら
)
の
酋長
(
しうちやう
)
の
鉄彦
(
かなひこ
)
の
屋敷
(
やしき
)
である。
129
何
(
なん
)
だか
秘密
(
ひみつ
)
が
潜
(
ひそ
)
んでゐる
様
(
やう
)
な
気
(
き
)
がする。
130
石凝姥
(
いしこりどめの
)
神
(
かみ
)
は
門前
(
もんぜん
)
に
立
(
た
)
つて
声
(
こゑ
)
朗
(
ほがら
)
かに
宣伝歌
(
せんでんか
)
を
歌
(
うた
)
ひ
始
(
はじ
)
めた。
131
門内
(
もんない
)
より
雷
(
かみなり
)
の
如
(
ごと
)
き
声
(
こゑ
)
を
張
(
は
)
り
上
(
あ
)
げて、
132
時公
『ヤア、
133
此
(
この
)
門前
(
もんぜん
)
に
立
(
た
)
ちて
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝歌
(
せんでんか
)
を
歌
(
うた
)
ふ
奴
(
やつ
)
は
何者
(
なにもの
)
だツ。
134
酋長
(
しうちやう
)
様
(
さま
)
の
御
(
お
)
家
(
いへ
)
の
一大事
(
いちだいじ
)
、
135
そんな
気楽
(
きらく
)
な
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
つてゐる
場合
(
ばあひ
)
ではあるまい。
136
何処
(
どこ
)
の
何奴
(
なにやつ
)
か
知
(
し
)
らぬが、
137
悪戯
(
ふざけ
)
た
真似
(
まね
)
を
致
(
いた
)
すと
笠
(
かさ
)
の
台
(
だい
)
が
飛
(
と
)
んで
了
(
しま
)
ふぞ』
138
門外
(
もんぐわい
)
より
鰤公
(
ぶりこう
)
声
(
こゑ
)
を
張上
(
はりあ
)
げ、
139
鰤公
『ヤア、
140
さう
言
(
い
)
ふ
声
(
こゑ
)
は
門番
(
もんばん
)
の
時公
(
ときこう
)
ではないか。
141
俺
(
おれ
)
は
三年前
(
さんねんまへ
)
に
宇智川
(
うちがは
)
の
向岸
(
むかふぎし
)
に
渡
(
わた
)
つたきり、
142
丸木橋
(
まるきばし
)
が
落
(
お
)
ちたものだから、
143
今日
(
けふ
)
まで
帰
(
かへ
)
らなかつたので
村
(
むら
)
の
様子
(
やうす
)
はちつとも
知
(
し
)
らぬが、
144
酋長
(
しうちやう
)
の
家
(
いへ
)
の
一大事
(
いちだいじ
)
とは
何
(
なん
)
だい』
145
時公
(
ときこう
)
『
何
(
なん
)
だも
糞
(
くそ
)
もあつたものか、
146
蛇掴
(
へびつかみ
)
の
曲神
(
まがかみ
)
さまに
酋長
(
しうちやう
)
の
娘
(
むすめ
)
清姫
(
きよひめ
)
さまを
今晩中
(
こんばんちう
)
にアルタイ
山
(
さん
)
の
砦
(
とりで
)
に
人身
(
ひとみ
)
御供
(
ごくう
)
に
上
(
あ
)
げねばならぬのだ。
147
あんな
美
(
うつく
)
しい
可惜娘
(
あたらむすめ
)
を
蛇掴
(
へびつかみ
)
の
曲神
(
まがかみ
)
の
餌食
(
ゑじき
)
にするのかと
思
(
おも
)
へば、
148
俺
(
おれ
)
はもう
気
(
き
)
の
毒
(
どく
)
で
惜
(
を
)
しうて
何
(
なに
)
どころではない。
149
貴様
(
きさま
)
それにも
拘
(
かか
)
はらず、
150
蛇掴
(
へびつかみ
)
の
嫌
(
きら
)
ひな
宣伝歌
(
せんでんか
)
を
歌
(
うた
)
ふとは
何
(
なん
)
の
事
(
こと
)
だい。
151
貴様
(
きさま
)
の
娘
(
むすめ
)
も
今年
(
ことし
)
の
春
(
はる
)
だつたか、
152
食
(
く
)
はれて
了
(
しま
)
うたのだよ』
153
鰤公
(
ぶりこう
)
は、
154
鰤公
『エーツ』
155
と
云
(
い
)
つた
限
(
き
)
り、
156
其
(
その
)
場
(
ば
)
にドツと
倒
(
たふ
)
れ
伏
(
ふ
)
し
人事
(
じんじ
)
不省
(
ふせい
)
となる。
157
甲
(
かふ
)
『オイ、
158
俺
(
おれ
)
は
貴様
(
きさま
)
のよく
知
(
し
)
つて
居
(
を
)
る
吉公
(
きちこう
)
だが、
159
門
(
もん
)
を
開
(
あ
)
けて
呉
(
く
)
れ。
160
屹度
(
きつと
)
酋長
(
しうちやう
)
がお
喜
(
よろこ
)
びになる
事
(
こと
)
は
請合
(
うけあひ
)
だ。
161
俺
(
おれ
)
は
救
(
すく
)
ひの
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
をお
迎
(
むか
)
へして
来
(
き
)
たのだから、
162
清姫
(
きよひめ
)
さまも
屹度
(
きつと
)
お
助
(
たす
)
かりになるだらう。
163
早
(
はや
)
く
開
(
あ
)
けないかい』
164
時公
『マア
何
(
なに
)
は
兎
(
と
)
もあれ、
165
開
(
あ
)
けて
見
(
み
)
ようか』
166
と
時公
(
ときこう
)
はやや
不安
(
ふあん
)
にかられながら、
167
白木
(
しらき
)
の
門
(
もん
)
をガラガラと
開
(
あ
)
ける。
168
石凝姥
(
いしこりどめの
)
神
(
かみ
)
は、
169
石凝姥神
『
御免
(
ごめん
)
』
170
と
云
(
い
)
ひつつ
門
(
もん
)
を
潜
(
くぐ
)
つて
進
(
すす
)
み
入
(
い
)
る。
171
(
大正一一・二・二七
旧二・一
藤津久子
録)
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