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霊界物語
霊主体従(第1~12巻)
第10巻(酉の巻)
序歌
凡例
総説歌
信天翁(一)
第1篇 千軍万馬
第1章 常世城門
第2章 天地暗澹
第3章 赤玉出現
第4章 鬼鼻団子
第5章 狐々怪々
第6章 額の裏
第7章 思はぬ光栄
第8章 善悪不可解
第9章 尻藍
第10章 注目国
第11章 狐火
第12章 山上瞰下
第13章 蟹の将軍
第14章 松風の音
第15章 言霊別
第16章 固門開
第17章 乱れ髪
第18章 常世馬場
第19章 替玉
第20章 還軍
第21章 桃の実
第22章 混々怪々
第23章 神の慈愛
第24章 言向和
第25章 木花開
第26章 貴の御児
第2篇 禊身の段
第27章 言霊解一
第28章 言霊解二
第29章 言霊解三
第30章 言霊解四
第31章 言霊解五
第3篇 邪神征服
第32章 土竜
第33章 鰤公
第34章 唐櫃
第35章 アルタイ窟
第36章 意想外
第37章 祝宴
附録 第三回高熊山参拝紀行歌(三)
余白歌
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霊界物語
>
霊主体従(第1~12巻)
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第10巻(酉の巻)
> 第1篇 千軍万馬 > 第9章 尻藍
<<< 善悪不可解
(B)
(N)
注目国 >>>
第九章
尻藍
(
しりあゐ
)
〔四三九〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第10巻 霊主体従 酉の巻
篇:
第1篇 千軍万馬
よみ(新仮名遣い):
せんぐんばんば
章:
第9章 尻藍
よみ(新仮名遣い):
しりあい
通し章番号:
439
口述日:
1922(大正11)年02月21日(旧01月25日)
口述場所:
筆録者:
桜井重雄
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1922(大正11)年8月20日
概要:
舞台:
目の国の川田の町
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
松・竹・梅の宣伝使は、間の国を立ち出でて、目の国を宣伝しながら、常世の国へ向かって北上していた。
川田の町の十字街で、ばったりと淤縢山津見に出くわした。一同は森の中に行って休息し、そこでこれまでの宣伝の旅について話をしようということになった。
すると、騒々しい物音が聞こえてきた。見ると、宣伝歌を歌う人物が、数百人に取り囲まれている。三姉妹と淤縢山津見は、群集に紛れて様子を見ると、一人の男が小高い巌の上に立って、説教をしている。
群集の中から色黒の大男が現れて、常世城の牛雲別と名乗ると、宣伝使に降伏しろ、と怒鳴りつけた。
宣伝使は牛雲別を上回る大声で、ウラル教徒をしかりつけ、三五教への改心を迫った。その言霊に、牛雲別の手下らは肝をひしがれて、しゃがみこんでしまった。
牛雲別が宣伝使に打ってかかると、宣伝使はひらりとかわして、牛雲別の足をさらえた。牛雲別はもんどりうって倒れてしまった。群集の中から、蟹雲別と名乗るもう一人が宣伝使に打ちかかると、宣伝使は蟹雲別をひっつかんで、牛雲別の上に吊り下げてしまった。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2020-07-15 21:58:47
OBC :
rm1009
愛善世界社版:
78頁
八幡書店版:
第2輯 418頁
修補版:
校定版:
82頁
普及版:
36頁
初版:
ページ備考:
001
一時
(
ひととき
)
千金
(
せんきん
)
花
(
はな
)
の
春
(
はる
)
、
002
金勝要
(
きんかつかねの
)
大神
(
おほかみ
)
の
御
(
おん
)
分霊
(
わけみたま
)
言霊姫
(
ことたまひめの
)
命
(
みこと
)
の
鎮
(
しづ
)
まり
給
(
たま
)
ふ
常世国
(
とこよのくに
)
、
003
山野
(
さんや
)
は
青
(
あを
)
く
春姫
(
はるひめ
)
の、
004
百機
(
ももはた
)
千機
(
ちはた
)
織
(
おり
)
成
(
な
)
して、
005
緑
(
みどり
)
紅
(
くれなゐ
)
白
(
しろ
)
黄色
(
きいろ
)
、
006
花
(
はな
)
咲
(
さ
)
き
乱
(
みだ
)
れ
百鳥
(
ももどり
)
は、
007
木々
(
きぎ
)
の
梢
(
こずゑ
)
に
歌
(
うた
)
ひ
舞
(
ま
)
ひ、
008
天津
(
あまつ
)
日
(
ひ
)
かげも
麗
(
うらら
)
かに、
009
陽炎
(
かげろふ
)
の
野辺
(
のべ
)
に
立
(
た
)
つ
有様
(
ありさま
)
は、
010
大海原
(
おほうなばら
)
の
凪
(
な
)
ぎたる
波
(
なみ
)
の
如
(
ごと
)
くなり。
011
竜宮城
(
りうぐうじやう
)
に
救
(
すく
)
はれて、
012
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
と
諸共
(
もろとも
)
に、
013
琴平別
(
ことひらわけ
)
の
亀
(
かめ
)
に
乗
(
の
)
り、
014
智利
(
てる
)
の
海辺
(
うみべ
)
にうかび
上
(
あが
)
りし
淤縢山津見
(
おどやまづみ
)
は、
015
朝日
(
あさひ
)
も
智利
(
てる
)
や
秘露
(
ひる
)
の
国
(
くに
)
、
016
宇都山
(
うづやま
)
峠
(
たうげ
)
を
踏
(
ふ
)
み
越
(
こ
)
えて、
017
歩
(
あゆ
)
みもカルの
国境
(
くにざかひ
)
、
018
御稜威
(
みいづ
)
も
著
(
しる
)
く
高照
(
たかてる
)
の
山
(
やま
)
を
下
(
くだ
)
りて、
019
神
(
かみ
)
のめぐみも
高砂
(
たかさご
)
や、
020
常世
(
とこよ
)
の
国
(
くに
)
をつなぎつけ、
021
東
(
ひがし
)
と
西
(
にし
)
に
波
(
なみ
)
猛
(
たけ
)
る、
022
大海原
(
おほうなばら
)
に
浮
(
うか
)
びたる、
023
『
間
(
はざま
)
』の
国
(
くに
)
に
一人旅
(
ひとりたび
)
、
024
心
(
こころ
)
も
軽
(
かる
)
き
簑笠
(
みのかさ
)
の、
025
盲目
(
めくら
)
もひらく『
目
(
め
)
』の
国
(
くに
)
の、
026
荒野
(
あらの
)
ケ
原
(
はら
)
を
治
(
をさ
)
めむと、
027
草鞋
(
わらぢ
)
脚絆
(
きやはん
)
の
扮装
(
いでたち
)
に、
028
夜
(
よる
)
と
昼
(
ひる
)
との
別
(
わか
)
ちなく、
029
恵
(
めぐ
)
みの
露
(
つゆ
)
に
濡
(
ぬ
)
れながら、
030
草
(
くさ
)
の
衾
(
しとね
)
に
石枕
(
いはまくら
)
、
031
星
(
ほし
)
のついたる
蒲団
(
ふとん
)
着
(
き
)
て、
032
山河
(
やまかは
)
あれし
国原
(
くにはら
)
を、
033
心
(
こころ
)
も
清
(
きよ
)
き
宣伝歌
(
せんでんか
)
、
034
歌
(
うた
)
ひて
進
(
すす
)
む
雄々
(
をを
)
しさよ。
035
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
、
036
五六七
(
みろく
)
の
神代
(
みよ
)
を
松代姫
(
まつよひめ
)
、
037
心
(
こころ
)
直
(
す
)
ぐなる
竹野姫
(
たけのひめ
)
、
038
梅ケ香姫
(
うめがかひめ
)
の
夜昼
(
よるひる
)
を、
039
露
(
つゆ
)
に
濡
(
ぬ
)
れつつ
進
(
すす
)
み
来
(
く
)
る。
040
人足
(
ひとあし
)
繁
(
しげ
)
き
十字街
(
じふじがい
)
、
041
川田
(
かはた
)
の
町
(
まち
)
の
真中
(
まんなか
)
に、
042
ピタリと
合
(
あは
)
す
顔
(
かほ
)
と
顔
(
かほ
)
、
043
淤縢山津見
(
おどやまづみ
)
『ヤア、
044
貴女
(
あなた
)
は
珍
(
うづ
)
の
都
(
みやこ
)
の
城主
(
じやうしゆ
)
、
045
正鹿山津見
(
まさかやまづみ
)
の
御
(
おん
)
娘子
(
むすめご
)
におはさずや。
046
風
(
かぜ
)
に
香
(
にほ
)
へる
梅ケ香
(
うめがか
)
の、
047
床
(
ゆか
)
しき
後
(
あと
)
を
尋
(
たづ
)
ねつつ、
048
此
(
こ
)
の
町
(
まち
)
の
入口
(
いりぐち
)
まで、
049
スタスタ
進
(
すす
)
み
来
(
く
)
る
折
(
をり
)
しも、
050
町人
(
まちびと
)
の
噂
(
うはさ
)
によれば、
051
年
(
とし
)
は
二八
(
にはち
)
か
二九
(
にく
)
からぬ、
052
十九
(
つづ
)
や
二十
(
はたち
)
の
美
(
うつく
)
しき
女
(
をんな
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
通過
(
つうくわ
)
ありとの
女童
(
をんなわらべ
)
の
囁
(
ささや
)
き、
053
まさしく
御
(
ご
)
姉妹
(
きやうだい
)
にめぐり
会
(
あ
)
ふ
時
(
とき
)
こそ
来
(
きた
)
れりと、
054
心
(
こころ
)
の
駒
(
こま
)
に
鞭
(
むちう
)
つて、
055
思
(
おも
)
はず
駆出
(
かけだ
)
す
膝栗毛
(
ひざくりげ
)
、
056
イヤ
去年
(
きよねん
)
の
夏
(
なつ
)
、
057
アタルの
港
(
みなと
)
に
上陸
(
じやうりく
)
し、
058
玉山
(
たまやま
)
の
山麓
(
さんろく
)
にてお
別
(
わか
)
れ
申
(
まを
)
してより
[
※
淤縢山津見と松竹梅の宣伝使は照山峠の麓で別れた(第9巻第14章「闇の谷底」)のであって、玉山の山麓で松竹梅の宣伝使で別れたのは虎公(志芸山津見)・熊公である(第9巻第22章「晩夏の風」)。このセリフは意味不明。
]
、
059
何
(
なん
)
の
便
(
たよ
)
りも
夏虫
(
なつむし
)
の、
060
秋
(
あき
)
も
追々
(
おひおひ
)
近
(
ちか
)
づきて、
061
哀
(
あは
)
れを
添
(
そ
)
ふる
心
(
こころ
)
の
淋
(
さび
)
しさ。
062
鬼
(
おに
)
をも
挫
(
ひし
)
ぐ
淤縢山津見
(
おどやまづみ
)
の
大丈夫
(
ますらを
)
さへも、
063
かくも
淋
(
さび
)
しき
秋
(
あき
)
の
旅
(
たび
)
、
064
紅葉
(
もみぢ
)
は
散
(
ち
)
りて
啼
(
な
)
く
鹿
(
しか
)
の、
065
しか
とお
行方
(
ゆくへ
)
も
探
(
さが
)
すによしなく、
066
心
(
こころ
)
の
色
(
いろ
)
の
紅葉
(
もみぢ
)
散
(
ち
)
る、
067
智利
(
てる
)
の
山路
(
やまみち
)
を
踏
(
ふ
)
み
越
(
こ
)
えて、
068
『
間
(
はざま
)
』の
国
(
くに
)
に
来
(
きた
)
る
折
(
をり
)
しも、
069
心
(
こころ
)
驕
(
おご
)
れる
鷹取別
(
たかとりわけ
)
が
目付
(
めつけ
)
の
者
(
もの
)
に
捕
(
とら
)
へられ、
070
常世
(
とこよ
)
の
国
(
くに
)
に
送
(
おく
)
られ
給
(
たま
)
ひしと
聞
(
き
)
きたる
時
(
とき
)
のわが
思
(
おも
)
ひ、
071
隙間
(
すきま
)
の
風
(
かぜ
)
にもあてられぬ
花
(
はな
)
の
蕾
(
つぼみ
)
の
女
(
をんな
)
宣伝使
(
せんでんし
)
、
072
秋野
(
あきの
)
にすだく
虫
(
むし
)
の
音
(
ね
)
の、
073
いとど
哀
(
あは
)
れを
催
(
もよほ
)
して、
074
男泣
(
をとこな
)
きにぞ
泣
(
な
)
きゐたる、
075
折
(
をり
)
から
囁
(
ささや
)
く
人
(
ひと
)
の
口
(
くち
)
、
076
聞
(
き
)
き
耳
(
みみ
)
立
(
た
)
つる
時
(
とき
)
の
駒
(
こま
)
、
077
花
(
はな
)
の
姿
(
すがた
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
、
078
艶麗
(
えんれい
)
まばゆきばかりの
やさ
姿
(
すがた
)
と、
079
道
(
みち
)
説
(
と
)
きあかす『
目
(
め
)
』の
国
(
くに
)
の、
080
今
(
いま
)
目
(
ま
)
のあたり
御
(
おん
)
目
(
め
)
にかかり、
081
嬉
(
うれ
)
しさ、
082
悲
(
かな
)
しさ、
083
御
(
おん
)
いたはしや、
084
その
御姿
(
みすがた
)
のやつれさせ
給
(
たま
)
ふことよ。
085
神
(
かみ
)
の
御
(
おん
)
為
(
た
)
め
道
(
みち
)
のためとは
言
(
い
)
ひながら、
086
聖地
(
せいち
)
ヱルサレムに
於
(
おい
)
て
神政
(
しんせい
)
を
掌握
(
しやうあく
)
し
給
(
たま
)
ひし
天使長
(
てんしちやう
)
、
087
桃上彦
(
ももがみひこの
)
命
(
みこと
)
の
御
(
お
)
娘子
(
むすめご
)
の
雄々
(
をを
)
しき
御
(
おん
)
志
(
こころざし
)
、
088
男子
(
だんし
)
としての
吾
(
われ
)
等
(
ら
)
、
089
実
(
じつ
)
に
汗顔
(
かんがん
)
の
至
(
いた
)
りに
堪
(
た
)
へませぬ』
090
と、
091
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
娘
(
むすめ
)
が
応答
(
おうたふ
)
するの
暇
(
ひま
)
さへ
与
(
あた
)
へず、
092
心
(
こころ
)
のたけを
くだ
くだと、
093
賤
(
しづ
)
の
小田巻
(
おだまき
)
繰返
(
くりかへ
)
すのみ。
094
松代姫
(
まつよひめ
)
『
どなた
かと
思
(
おも
)
へば
淤縢山津見
(
おどやまづみ
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
様
(
さま
)
、
095
珍
(
めづら
)
しい
所
(
ところ
)
で
御
(
おん
)
目
(
め
)
にかかりました。
096
妾
(
わらは
)
姉妹
(
きやうだい
)
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は『
間
(
はざま
)
』の
国
(
くに
)
の
酋長
(
しうちやう
)
春山彦
(
はるやまひこ
)
に
助
(
たす
)
けられ、
097
照彦
(
てるひこ
)
の
戸山
(
とやま
)
津見
(
づみ
)
、
098
駒山彦
(
こまやまひこ
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
にめぐり
会
(
あ
)
ひ、
099
月
(
つき
)
、
100
雪
(
ゆき
)
、
101
花
(
はな
)
の
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
春山彦
(
はるやまひこ
)
が
娘
(
むすめ
)
と
共
(
とも
)
に、
102
この『
目
(
め
)
』の
国
(
くに
)
に
進
(
すす
)
み
入
(
い
)
り、
103
メキシコ
峠
(
たうげ
)
の
山麓
(
さんろく
)
にて、
104
あちらへ
一人
(
ひとり
)
こちらへ
三
(
さん
)
人
(
にん
)
と
袂
(
たもと
)
を
別
(
わか
)
ち、
105
宣伝歌
(
せんでんか
)
を
歌
(
うた
)
ひつつロッキー
山
(
ざん
)
に
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
かむとする
所
(
ところ
)
でございます。
106
マアマア
御
(
ご
)
壮健
(
さうけん
)
でゐらせられます。
107
貴下
(
あなた
)
に
妾
(
わらは
)
は
異郷
(
いきやう
)
の
空
(
そら
)
で
巡
(
めぐ
)
り
会
(
あ
)
ふことの
嬉
(
うれ
)
しさ、
108
天
(
てん
)
にも
上
(
のぼ
)
る
心地
(
ここち
)
がいたします。
109
ここは
路
(
みち
)
の
上
(
うへ
)
、
110
彼方
(
あちら
)
の
森
(
もり
)
に
行
(
い
)
つて
休息
(
きうそく
)
の
上
(
うへ
)
ゆるゆるお
話
(
はなし
)
をいたしませうか』
111
淤縢山津見
『それも
宜
(
よろ
)
しからう。
112
然
(
しか
)
らば、
113
あの
森
(
もり
)
を
目当
(
めあて
)
に
一足
(
ひとあし
)
参
(
まゐ
)
りませう』
114
ここに
一男
(
いちなん
)
三女
(
さんぢよ
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
は、
115
宣伝歌
(
せんでんか
)
を
歌
(
うた
)
ひながら
東北
(
とうほく
)
指
(
さ
)
して
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
く。
116
永
(
なが
)
き
春日
(
はるひ
)
も
早
(
はや
)
西
(
にし
)
に
傾
(
かたむ
)
きて、
117
四辺
(
しへん
)
は
霧
(
きり
)
の
如
(
ごと
)
き
靄
(
もや
)
に
包
(
つつ
)
まれ、
118
闇
(
やみ
)
の
帳
(
とばり
)
は
下
(
おろ
)
されて
四辺
(
あたり
)
は
暗
(
くら
)
く、
119
千羽烏
(
せんばがらす
)
は
空
(
そら
)
を
包
(
つつ
)
んでカハイカハイと
啼
(
な
)
きわたる。
120
夕暮
(
ゆふぐれ
)
告
(
つ
)
ぐる
鐘
(
かね
)
の
音
(
ね
)
は、
121
四
(
よ
)
人
(
にん
)
の
胸
(
むね
)
を
打
(
う
)
ちて
秋
(
あき
)
の
夕
(
ゆふべ
)
の
寂寥
(
せきれう
)
身
(
み
)
に
迫
(
せま
)
る。
122
花
(
はな
)
の
姿
(
すがた
)
を『
目
(
め
)
』の
国
(
くに
)
の、
123
野辺
(
のべ
)
にさらすも
糸桜
(
いとざくら
)
、
124
心
(
こころ
)
も
細
(
ほそ
)
き
糸柳
(
いとやぎ
)
の、
125
並木
(
なみき
)
を
縫
(
ぬ
)
うて
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
く。
126
俄
(
にはか
)
に
前方
(
ぜんぱう
)
にあたり、
127
騒々
(
さうざう
)
しき
物音
(
ものおと
)
聞
(
きこ
)
ゆるにぞ、
128
四
(
よ
)
人
(
にん
)
は
思
(
おも
)
はず
立
(
た
)
ちどまり
耳
(
みみ
)
を
傾
(
かたむ
)
くれば、
129
宵闇
(
よひやみ
)
の
空
(
そら
)
を
通
(
とほ
)
して
細
(
ほそ
)
き
篝火
(
かがりび
)
瞬
(
またた
)
き
出
(
だ
)
し、
130
忽
(
たちま
)
ち
宣伝歌
(
せんでんか
)
が
手
(
て
)
にとる
如
(
ごと
)
く
聞
(
きこ
)
え
来
(
きた
)
る。
131
一同
(
いちどう
)
は
声
(
こゑ
)
する
方
(
かた
)
に
引
(
ひ
)
きつけらるる
如
(
ごと
)
く
近
(
ちか
)
より
見
(
み
)
れば、
132
数百
(
すうひやく
)
人
(
にん
)
に
取
(
と
)
り
囲
(
かこ
)
まれ、
133
何
(
なに
)
か
頻
(
しき
)
りに
述
(
の
)
べ
立
(
た
)
つるものあり。
134
四
(
よ
)
人
(
にん
)
は
窃
(
ひそか
)
に
足音
(
あしおと
)
忍
(
しの
)
ばせつつ、
135
闇
(
やみ
)
に
紛
(
まぎ
)
れて
群集
(
ぐんしふ
)
の
中
(
なか
)
に
紛
(
まぎ
)
れ
込
(
こ
)
み、
136
よくよく
見
(
み
)
れば
一人
(
ひとり
)
の
男
(
をとこ
)
、
137
小高
(
こだか
)
き
巌
(
いはほ
)
の
上
(
うへ
)
に
立
(
た
)
ちて、
138
頻
(
しき
)
りに
群集
(
ぐんしふ
)
に
向
(
むか
)
ひ
何事
(
なにごと
)
か
説
(
と
)
き
諭
(
さと
)
しゐる。
139
群集
(
ぐんしふ
)
の
中
(
なか
)
より、
140
眼
(
め
)
のクルリとした
鼻
(
はな
)
の
左
(
ひだり
)
に
曲
(
まが
)
つた、
141
色黒
(
いろぐろ
)
の
大男
(
おほをとこ
)
は
宣伝使
(
せんでんし
)
に
向
(
むか
)
ひ、
142
牛雲別
『ヤイ、
143
貴様
(
きさま
)
は
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
であらう。
144
ここは
常世
(
とこよ
)
神王
(
しんわう
)
の
御
(
ご
)
領分
(
りやうぶん
)
なるぞ。
145
ウラル
教
(
けう
)
を
奉
(
ほう
)
じて、
146
民心
(
みんしん
)
を
統一
(
とういつ
)
する
神国
(
しんこく
)
なるに、
147
汝
(
なんぢ
)
等
(
ら
)
が
如
(
ごと
)
き
悪
(
あく
)
宣伝使
(
せんでんし
)
、
148
魔術
(
まじゆつ
)
を
使
(
つか
)
つて
常世
(
とこよ
)
の
城
(
しろ
)
を
攪乱
(
かくらん
)
し、
149
鷹取別
(
たかとりわけ
)
の
司
(
つかさ
)
の
高
(
たか
)
き
鼻
(
はな
)
を
めしやげ
させたる
悪神
(
あくがみ
)
を
奉
(
ほう
)
ずる
宣伝使
(
せんでんし
)
であらう。
150
この
方
(
はう
)
は
牛雲別
(
うしくもわけ
)
と
申
(
まを
)
す
者
(
もの
)
、
151
汝
(
なんぢ
)
を
召
(
め
)
し
捕
(
と
)
らむがために、
152
常世
(
とこよ
)
神王
(
しんわう
)
の
大命
(
たいめい
)
を
奉
(
ほう
)
じて、
153
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
を
捜索
(
そうさく
)
に
来
(
き
)
たのだ。
154
この『
目
(
め
)
』の
国
(
くに
)
は、
155
その
名
(
な
)
の
如
(
ごと
)
く
鷹取別
(
たかとりわけ
)
の
幕下
(
ばくか
)
の
鵜
(
う
)
の
目
(
め
)
、
156
鷹
(
たか
)
の
目
(
め
)
、
157
目
(
め
)
を
光
(
ひか
)
らす
国
(
くに
)
だ。
158
サア、
159
その
巌
(
いはほ
)
を
下
(
くだ
)
つて
尋常
(
じんじやう
)
に
縛
(
ばく
)
に
就
(
つ
)
け。
160
もはや
叶
(
かな
)
はぬ。
161
ヂタバタ
したとても、
162
かくの
如
(
ごと
)
く
数十
(
すうじふ
)
人
(
にん
)
の
手下
(
てした
)
をもつて
取
(
と
)
り
囲
(
かこ
)
みたる
以上
(
いじやう
)
は、
163
汝
(
なんぢ
)
が
運命
(
うんめい
)
ももはや
百年目
(
ひやくねんめ
)
、
164
素直
(
すなほ
)
に
降伏
(
かうふく
)
いたせ』
165
と
雷
(
らい
)
の
如
(
ごと
)
き
声
(
こゑ
)
を
張
(
は
)
り
上
(
あ
)
げて
呶鳴
(
どな
)
りゐる。
166
巌上
(
がんじやう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
は、
167
殆
(
ほとん
)
ど
耳
(
みみ
)
に
入
(
い
)
れざる
如
(
ごと
)
き
鷹揚
(
おうよう
)
なる
態度
(
たいど
)
にて、
168
蚊々虎
『アイヤ、
169
牛雲別
(
うしくもわけ
)
とやら、
170
よつく
聞
(
き
)
けよ。
171
吾
(
われ
)
こそは
汝
(
なんぢ
)
の
言
(
い
)
ふ
如
(
ごと
)
く
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
だ。
172
如何
(
いか
)
に
多勢
(
たぜい
)
を
恃
(
たの
)
み
吾
(
われ
)
を
取
(
と
)
り
囲
(
かこ
)
むとも、
173
吾
(
われ
)
には
深
(
ふか
)
き
神護
(
しんご
)
あり。
174
一
(
いち
)
時
(
じ
)
も
早
(
はや
)
く
此
(
こ
)
の
世
(
よ
)
を
乱
(
みだ
)
すウラル
教
(
けう
)
を
捨
(
す
)
てて、
175
治国
(
ちこく
)
平
(
へい
)
天下
(
てんか
)
の
惟神
(
かむながら
)
の
大道
(
たいどう
)
なるわが
教
(
をしへ
)
を
聞
(
き
)
け。
176
常世
(
とこよ
)
神王
(
しんわう
)
かれ
何者
(
なにもの
)
ぞ。
177
鷹取別
(
たかとりわけ
)
かれ
何者
(
なにもの
)
ぞ。
178
積悪
(
せきあく
)
の
報
(
むく
)
い、
179
神罰
(
しんばつ
)
立所
(
たちどころ
)
に
下
(
くだ
)
つて
鼻
(
はな
)
挫
(
くじ
)
かれしその
哀
(
あは
)
れさ。
180
斯
(
か
)
くの
如
(
ごと
)
き
神
(
かみ
)
の
戒
(
いまし
)
めを
受
(
う
)
けながら、
181
なほ
悔
(
く
)
い
改
(
あらた
)
めずば、
182
鷹取別
(
たかとりわけ
)
が
臣下
(
しんか
)
たる
汝
(
なんぢ
)
等
(
ら
)
が
鼻柱
(
はなばしら
)
、
183
一人
(
ひとり
)
も
残
(
のこ
)
らず
粉砕
(
ふんさい
)
し
呉
(
く
)
れむぞ。
184
サア、
185
わが
一言
(
いちごん
)
は
神
(
かみ
)
の
言葉
(
ことば
)
だ。
186
救
(
すく
)
ひの
声
(
こゑ
)
だ。
187
きくか、
188
きかぬか、
189
善悪
(
ぜんあく
)
邪正
(
じやせい
)
、
190
天国
(
てんごく
)
地獄
(
ぢごく
)
の
分水嶺
(
ぶんすゐれい
)
、
191
この
巌
(
いはほ
)
の
如
(
ごと
)
き
堅
(
かた
)
き
信仰
(
しんかう
)
を
以
(
もつ
)
てわが
教
(
をしへ
)
に
従
(
したが
)
ふか。
192
否
(
いな
)
むに
於
(
おい
)
ては
吾
(
われ
)
は
千変
(
せんぺん
)
万化
(
ばんくわ
)
の
神術
(
かむわざ
)
によつて、
193
汝
(
なんぢ
)
等
(
ら
)
が
頭上
(
づじやう
)
に
懲戒
(
ちようかい
)
を
加
(
くは
)
へむ。
194
汝
(
なんぢ
)
等
(
ら
)
の
中
(
うち
)
、
195
わが
言葉
(
ことば
)
の
身
(
み
)
に
沁
(
し
)
みし
者
(
もの
)
は
名乗
(
なの
)
つて
出
(
で
)
よ』
196
と
牛雲別
(
うしくもわけ
)
の
雷声
(
らいせい
)
に
数倍
(
すうばい
)
せる
銅鑼声
(
どらごゑ
)
して、
197
獅子
(
しし
)
の
咆
(
ほ
)
ゆるが
如
(
ごと
)
く
唸
(
うな
)
りゐる。
198
数十
(
すうじふ
)
人
(
にん
)
の
手下
(
てした
)
は、
199
この
強
(
つよ
)
き
言霊
(
ことたま
)
に
胆
(
きも
)
を
挫
(
ひし
)
がれ、
200
耳
(
みみ
)
を
塞
(
ふさ
)
ぎ、
201
思
(
おも
)
はず
地上
(
ちじやう
)
に
縮
(
ちぢ
)
み
踞
(
しやが
)
むぞをかしけれ。
202
牛雲別
(
うしくもわけ
)
は、
203
牛雲別
『エヽ
面倒
(
めんだう
)
なり、
204
思
(
おも
)
ひ
知
(
し
)
れよ』
205
と
言
(
い
)
ふより
早
(
はや
)
く、
206
巌上
(
がんじやう
)
に
羅刹
(
らせつ
)
の
如
(
ごと
)
き
相好
(
さうがう
)
にて
駆
(
か
)
け
上
(
あが
)
り、
207
鉄拳
(
てつけん
)
を
固
(
かた
)
め、
208
宣伝使
(
せんでんし
)
の
面部
(
めんぶ
)
を
目
(
め
)
がけて、
209
骨
(
ほね
)
も
砕
(
くだ
)
けよとばかり
力
(
ちから
)
を
籠
(
こ
)
めて
殴
(
なぐ
)
りつけむとする。
210
この
時
(
とき
)
遅
(
おそ
)
く、
211
かの
時
(
とき
)
早
(
はや
)
く、
212
宣伝使
(
せんでんし
)
は
飛鳥
(
ひてう
)
の
如
(
ごと
)
くヒラリと
体
(
たい
)
をかはし、
213
牛雲別
(
うしくもわけ
)
の
足
(
あし
)
に
手
(
て
)
をかくるや
否
(
いな
)
や、
214
牛雲別
(
うしくもわけ
)
はモンドリうつて、
215
さしもに
高
(
たか
)
き
巌上
(
がんじやう
)
より、
216
大地
(
だいち
)
にドツと
許
(
ばか
)
り
顛落
(
てんらく
)
する
途端
(
とたん
)
に、
217
体
(
からだ
)
の
重
(
おも
)
みにて
柔
(
やはら
)
かき
土
(
つち
)
の
中
(
なか
)
に
頭部
(
とうぶ
)
をグサリと
刺
(
さ
)
し、
218
臀部
(
でんぶ
)
を
天
(
てん
)
にむけ、
219
花立
(
はなたて
)
の
如
(
ごと
)
き
調子
(
てうし
)
にて
手足
(
てあし
)
を
藻掻
(
もが
)
き
居
(
ゐ
)
る。
220
又
(
また
)
もや
群集
(
ぐんしふ
)
の
中
(
なか
)
より、
221
蟹雲別
『
吾
(
われ
)
は
蟹雲別
(
かにくもわけ
)
なり、
222
わが
鉄拳
(
てつけん
)
を
喰
(
くら
)
へ』
223
と
云
(
い
)
ふより
早
(
はや
)
く、
224
拳骨
(
げんこつ
)
を
固
(
かた
)
めて
打
(
う
)
つてかかるを、
225
宣伝使
(
せんでんし
)
は、
226
蚊々虎
『エヽ
面倒
(
めんだう
)
なり』
227
と
首筋
(
くびすぢ
)
掴
(
つか
)
んで、
228
猫
(
ねこ
)
を
提
(
ひつさ
)
げし
如
(
ごと
)
く
片手
(
かたて
)
に
撮
(
つま
)
んで、
229
牛雲別
(
うしくもわけ
)
の
上
(
うへ
)
に
向
(
むか
)
つて
吊
(
つ
)
り
下
(
おろ
)
したり。
230
牛雲別
(
うしくもわけ
)
の
両足
(
りやうあし
)
と、
231
蟹雲別
(
かにくもわけ
)
の
両足
(
りやうあし
)
はピタツと
合
(
あ
)
うて、
232
ここに
面白
(
おもしろ
)
き
軽業
(
かるわざ
)
が
演
(
えん
)
ぜられたり。
233
頭
(
あたま
)
と
頭
(
あたま
)
とは
天
(
てん
)
と
地
(
ち
)
に、
234
尻
(
しり
)
と
尻
(
しり
)
は
向
(
むか
)
ひ
合
(
あは
)
して、
235
シリ
合
(
あ
)
ひとなりぬ。
236
流石
(
さすが
)
両人
(
りやうにん
)
の
乱暴
(
らんばう
)
なる
計画
(
けいくわく
)
も、
237
シリ
滅裂
(
めつれつ
)
となりにける。
238
『
神
(
かみ
)
の
誠
(
まこと
)
の
道
(
みち
)
を
取違
(
とりちがひ
)
いたすと、
239
頭
(
あたま
)
を
土
(
つち
)
に
突込
(
つつこ
)
んで
足
(
あし
)
を
仰向
(
あふむ
)
けにして、
240
のたくらねばならぬぞよ』
241
との
神諭
(
しんゆ
)
そのままである。
242
牛
(
うし
)
と
蟹
(
かに
)
との
両
(
りやう
)
雲別
(
くもわけ
)
は、
243
頭
(
あたま
)
を
下
(
した
)
に
牛
(
も
)
の
しり
の、
244
手
(
て
)
四
(
よ
)
つ
足
(
あし
)
四
(
よ
)
つ、
245
ドタリと
倒
(
こ
)
けて
四
(
よ
)
つ
這
(
ば
)
ひとなり、
246
蟹雲別
(
かにくもわけ
)
の
八
(
や
)
つ
足
(
あし
)
となつて
大地
(
だいち
)
を
這
(
は
)
ひ
廻
(
まは
)
る
可笑
(
をか
)
しさ、
247
外
(
よそ
)
の
見
(
み
)
る
目
(
め
)
も
哀
(
あは
)
れなりける
次第
(
しだい
)
なり。
248
(
大正一一・二・二一
旧一・二五
桜井重雄
録)
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