霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第六章 出征(しゆつせい)の辞(じ)

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 特別篇 山河草木 入蒙記 篇:第1篇 日本より奉天まで よみ(新仮名遣い):にっぽんよりほうてんまで
章:第6章 出征の辞 よみ(新仮名遣い):しゅっせいのじ 通し章番号:
口述日:1925(大正14)年08月15日(旧06月26日) 口述場所: 筆録者:加藤明子 校正日: 校正場所: 初版発行日:1935(昭和10)年4月30日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
大正十年二月十二日に、晴天白日の空に、上限の月と太白星が白昼燦然と大阪の空に異様の光輝を放った。この日はまさに、大本事件の勃発した日であった。
下って大正十三年二月十二日、同日の天空に楕円形の月と太白星が、やはり白昼燦然と輝きだしたのであった。
これよりにわかに蒙古入りの決心を定めると、その夜のうちに出発することを、数名の近侍の役員に伝えた。祥雲閣の主人・中野岩太氏に別れを告げるため、二三の従者とともに訪ねて行くと、東京より来合わせていた佐藤六合雄、米倉嘉兵衛、米倉範冶をはじめ、十数人の熱心な信者が期せずして集まっていた。
日出雄はこれらの人々に蒙古入りの決心を打ち明け、演説を試みた。
大本は既成宗教のように、現界を穢土として未来の天国や極楽浄土を希求するものではない。
国祖の神のご神勅により、大神様のご神示を拝し、上は御一人に対し奉り、下は同胞の平和と幸福のため、東亜諸国ならびに世界の平和と幸福をきたすべき神業に奉仕する責任を、大本信者は持っているのです。
大正十年の節分の後、変性女子の御魂を人が行かないところに連れて行く、という神諭は、まず第一次事件による勾留で実現し、また今回蒙古入りにあたって、示されたように考えれらてならないのです。
日出雄は日本建国の大精神を天下に明らかにする所存です。万世一系の皇室の尊厳無比なることをあまねく天下に示し、日本の建国精神は征伐ではなく、侵略でもない、善言美詞の言霊をもって万国の民を神の大道に言向けやわすことにあると、固く信じます。
大正五十一年には日本の人口が一億人を超えると言われており、食糧問題への対処から、政府は植民政策でメキシコ、南米、南洋諸島、米国ら遠方の国へ農耕移民を進めています。
国家の長計から言うと、これではまだ足りないのであって、満蒙の地への開発・殖民こそ、地政学上からも埋蔵資源からも最も重要な課題と考えられます。
そこでいよいよ神勅を奉じて、二三の同志と共に徒手空拳、長途の旅に上ろうとしています。
日出雄は祥雲閣のふすまに書をしたため、発車の間際まで嬉々として東亜の経綸を談じつつ、しきりに筆紙を動かしていた。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考:2023/12/31出口王仁三郎全集第6巻を底本として校正。 タグ: データ凡例: データ最終更新日:2023-12-31 17:38:47 文字数:4343 OBC :rmnm06
愛善世界社版:47頁 八幡書店版:第14輯 564頁 修補版: 校定版:48頁 普及版: 初版: ページ備考:
001 大正(たいしやう)十(じふ)年(ねん)二(に)月(ぐわつ)十二(じふに)日(にち)、002陰暦(いんれき)正(しやう)月(ぐわつ)五日(いつか)晴天(せいてん)白日(はくじつ)の空(そら)に上弦(じやうげん)の月(つき)と、003太白星(たいはくせい)は白昼(はくちう)燦然(さんぜん)として浪花(なには)の空(そら)に異様(いやう)の光気(くわうき)[※底本(全集)では「光気」だが校定版や愛善世界社版では「光輝」に修正されている。]を放(はな)ち、004天地(てんち)の変動(へんどう)を示(しめ)してゐる。005此(この)日(ひ)日出雄(ひでを)は大阪市(おほさかし)の玄関口(げんくわんぐち)梅田(うめだ)駅頭(えきとう)に、006大正(たいしやう)日々(にちにち)新聞(しんぶん)社長(しやちやう)として社務(しやむ)を総理(そうり)してゐた。
007 此(この)日(ひ)は例(れい)の大本(おほもと)事件(じけん)の勃発(ぼつぱつ)した日(ひ)であつて、008日出雄(ひでを)は同(どう)新聞社(しんぶんしや)より京都府(きやうとふ)警察部(けいさつぶ)へ招致(せうち)され、009次(つ)いで京都(きやうと)地方(ちはう)裁判所(さいばんしよ)予審(よしん)判事(はんじ)の形式(けいしき)的(てき)取調(とりしらべ)を受(う)けて京都(きやうと)監獄(かんごく)に投(とう)ぜられた──大本(おほもと)にとつて実(じつ)に印象(いんしやう)深(ふか)い日(ひ)であつた。010此(この)天空(てんくう)に於(お)ける異様(いやう)の現象(げんしやう)は之(これ)に止(とど)まらず、011下(くだ)つて大正(たいしやう)十三(じふさん)年(ねん)二(に)月(ぐわつ)十二(じふに)日(にち)、012而(しか)も同日(どうじつ)の天空(てんくう)に楕円形(だゑんけい)の月(つき)と太白星(たいはくせい)が白昼(はくちう)燦然(さんぜん)と輝(かがや)き出(だ)した。013日出雄(ひでを)は天空(てんくう)を仰(あふ)いで去(さ)る大正(たいしやう)十(じふ)年(ねん)の二(に)月(ぐわつ)十二(じふに)日(にち)を追懐(つゐくわい)せずには居(を)られなかつた。014而(しか)も満(まん)三(さん)ケ年(ねん)を経(へ)た同月(どうげつ)同日(どうじつ)の白昼(はくちう)に、015天空(てんくう)に同様(どうやう)の異変(いへん)あるは決(けつ)して只事(ただごと)ではあるまい。016愈々(いよいよ)自分(じぶん)が神命(しんめい)を奉(ほう)じ万民(ばんみん)救済(きうさい)の為(ため)、017人類愛(じんるゐあい)実行(じつかう)の為(ため)、018天(てん)より我(われ)にその実行(じつかう)を促(うなが)すものと考(かんが)へたのである。019これより彼(かれ)は俄(にはか)に渡支(とし)の決心(けつしん)を定(さだ)め、020今夜(こんや)の中(うち)に出発(しゆつぱつ)せむことを数名(すうめい)の側近(そばちか)く侍(じ)する役員(やくゐん)に告(つ)げた。021あまり急激(きふげき)な彼(かれ)の宣言(せんげん)に侍者(じしや)は稍(やや)狼狽(らうばい)の気味(きみ)であつた。022けれ共(ども)彼(かれ)は神命(しんめい)を信(しん)じ、023是非(ぜひ)今夜(こんや)出発(しゆつぱつ)せむと決心(けつしん)した上(うへ)は、024彼(かれ)の平素(へいそ)のやり方(かた)に対(たい)し到底(たうてい)その考(かんが)へをひるがへすことは出来(でき)ない事(こと)を知(し)つてゐた。
025 和知川(わちがは)の清流(せいりう)、026並木(なみき)の松(まつ)を逆(さかしま)に映(うつ)し、027魚(うを)は松樹(しようじゆ)の枝(えだ)に躍(をど)つてゐる。028颯々(さつさつ)たる松風(まつかぜ)の音(おと)、029水面(すゐめん)に魚鱗(ぎよりん)の波(なみ)をただよはしてゐる。030その傍(かたはら)に悄然(しようぜん)として建(た)てる祥雲閣(しやううんかく)は、031彼(かれ)が病躯(びやうく)を横(よこた)へて十万(じふまん)枚(まい)の原稿(げんかう)を口述(こうじゆつ)したる霊界(れいかい)物語(ものがたり)の発祥地(はつしやうち)であつた。
032 此(この)日(ひ)彼(かれ)は俄(にはか)に旅行(りよかう)の決心(けつしん)を定(さだ)め、033祥雲閣(しやううんかく)の主人(しゆじん)中野(なかの)岩太(いはた)氏(し)に別(わか)れを告(つ)ぐる為(ため)、034二三(にさん)の従者(じゆうしや)と共(とも)に訪(たづ)ねて来(き)た。035東京(とうきやう)より来(き)合(あは)せてゐた佐藤(さとう)六合雄(くにを)、036米倉(よねくら)嘉兵衛(かへゑ)、037米倉(よねくら)範治(はんぢ)を初(はじ)め、038十数(じふすう)人(にん)の熱心(ねつしん)なる信者(しんじや)が期(き)せずして集(あつま)つて来(き)た。039此(この)時(とき)彼(かれ)は神示(しんじ)の経綸(けいりん)実行(じつかう)の一歩(いつぽ)を進(すす)むべく蒙古入(もうこいり)の決心(けつしん)を打明(うちあ)け、040且(か)つ一場(いちぢやう)の演説(えんぜつ)を試(こころ)みた。041彼(かれ)の演説(えんぜつ)
042日出雄『神縁(しんえん)に依(よ)つて私(わたし)が茲(ここ)に神(かみ)の経綸(けいりん)の一端(いつたん)に奉仕(ほうし)し、043今晩(こんばん)を期(き)して愈々(いよいよ)渡支(とし)渡蒙(ともう)を決行(けつかう)せむとするに当(あた)り、044招(まね)かずしてお集(あつま)りになつた諸氏(しよし)は必(かなら)ずや神界(しんかい)の深(ふか)き経綸(しぐみ)の糸(いと)に引(ひ)かれて、045お出(いで)になつた方々(かたがた)と固(かた)く信(しん)じます。046我(わが)大本(おほもと)は既成(きせい)宗教(しうけう)の如(ごと)く、047現界(げんかい)を厭離(えんり)穢土(えど)となし未来(みらい)の天国(てんごく)や極楽(ごくらく)浄土(じやうど)を希求(ききう)するのみの宗教(しうけう)ではありませぬ。048国祖(こくそ)の神(かみ)の仁慈(じんじ)無限(むげん)なる神勅(しんちよく)に依(よ)り、049日本(につぽん)神州(しんしう)の民(たみ)と生(うま)れたる我々(われわれ)皇国(くわうこく)の臣民(しんみん)は、050此(こ)の尊(たふと)き大神(おほかみ)様(さま)の御(ご)神示(しんじ)を拝(はい)し、051上(かみ)は御(ご)一人(いちにん)に対(たい)し奉(たてまつ)り、052下(しも)は同胞(どうはう)の平和(へいわ)と幸福(かうふく)の為(た)めのみならず、053東亜(とうあ)諸国(しよこく)並(ならび)に世界(せかい)の平和(へいわ)と幸福(かうふく)を来(きた)すべき神業(しんげふ)に奉仕(ほうし)せなくてはならない責任(せきにん)を持(も)つてゐるのは大本(おほもと)信者(しんじや)でありませう。054御(ご)神示(しんじ)にある通(とほ)り「大正(たいしやう)十(じふ)年(ねん)の節分(せつぶん)が済(す)みたら055変性(へんじやう)女子(によし)の身魂(みたま)を神(かみ)が人(ひと)の行(ゆ)かない処(ところ)に連(つ)れ行(ゆ)くぞよ」とお示(しめ)しになつて居(ゐ)ることは、056皆(みな)さま御(ご)承知(しようち)のことと思(おも)ひます。057その神示(しんじ)は毫末(がうまつ)の間違(まちが)ひもなく、058二(に)月(ぐわつ)十二(じふに)日(にち)私(わたし)は御(ご)承知(しようち)の京都(きやうと)監獄(かんごく)に投(とう)ぜられたのでありました。059そして又(また)本回(ほんくわい)も節分祭(せつぶんさい)のすみた十二(じふに)日(にち)に、060人(ひと)のよう行(ゆ)かない処(ところ)へ行(ゆ)かねばならぬ神(かみ)の使命(しめい)が下(くだ)つて来(き)たやうに考(かんが)へられてなりませぬ。061私(わたし)は日本(につぽん)建国(けんこく)の大精神(だいせいしん)を天下(てんか)に明(あきらか)にし、062万世(ばんせい)一系(いつけい)の皇室(くわうしつ)の尊厳(そんげん)無比(むひ)なる事(こと)を洽(あまね)く天下(てんか)に示(しめ)し、063且(か)つ日本(につぽん)の建国(けんこく)の精神(せいしん)は征伐(せいばつ)に非(あら)ず、064侵略(しんりやく)に非(あら)ず、065善言(ぜんげん)美詞(びし)の言霊(ことたま)を以(もつ)て万国(ばんこく)の民(たみ)を神(かみ)の大道(だいだう)に言向和(ことむけやわ)するにある事(こと)を固(かた)く信(しん)じます。066凡(すべ)て世界(せかい)の人民(じんみん)を治(をさ)むるは武力(ぶりよく)や智力(ちりよく)では到底(たうてい)駄目(だめ)です。067結局(けつきよく)は精神(せいしん)的(てき)結合(けつがふ)の要素(えうそ)たる、068凡(すべ)ての旧慣(きうくわん)に囚(とら)はれざる新宗教(しんしうけう)の力(ちから)に依(よ)るより外(ほか)はないと信(しん)じます。
069 つらつら現今(げんこん)の我(わが)国情(こくじやう)を考(かんが)へて見(み)まするに、070我国(わがくに)の人口(じんこう)は年々(ねんねん)七十万(しちじふまん)宛(づつ)の増加(ぞうか)を以(もつ)て進(すす)みつつあると統計(とうけい)学者(がくしや)は云(い)つて居(を)ります。071此(この)割合(わりあひ)で進(すす)んで行(ゆ)けば大正(たいしやう)三十一(さんじふいち)年(ねん)には七千(ななせん)七百万(ななひやくまん)の同胞(どうはう)となり、072同(おな)じく五十一(ごじふいち)年(ねん)には一億余万(いちおくよまん)人(にん)に達(たつ)すると云(い)ふ計算(けいさん)になります。073兎(と)に角(かく)我国(わがくに)人口(じんこう)の増加(ぞうか)は年々(ねんねん)の事実(じじつ)の証明(しようめい)する処(ところ)であつて、074之(これ)に要(えう)する食糧品(しよくりやうひん)たる米麦(こめむぎ)が075現(げん)に年々(ねんねん)七八十万(しちはちじふまん)石(ごく)の不足(ふそく)を告(つ)げつつある事(こと)も亦(また)事実(じじつ)である以上(いじやう)、076此(この)人口(じんこう)と食糧(しよくりやう)との不均衡(ふきんかう)は、077我国(わがくに)存立(そんりつ)の上(うへ)に於(おい)て一問題(いちもんだい)たらねばなりませぬ。078国内(こくない)現在(げんざい)の未墾地(みこんち)を開拓(かいたく)し耕地(かうち)の整理(せいり)を徹底(てつてい)的(てき)に断行(だんかう)すれば、079約(やく)二百万(にひやくまん)町歩(ちやうぶ)の水田(すゐでん)火田(くわでん)が得(え)られ、080二千万(にせんまん)石(ごく)の米麦(こめむぎ)の増収(ぞうしう)が出来(でき)るとの説(せつ)もありますが、081乍然(しかしながら)此(この)開墾(かいこん)や整理(せいり)は何時(いつ)になつたら完成(くわんせい)されるでせうか。082仮令(たとへ)我(わが)官民(くわんみん)が熱誠(ねつせい)努力(どりよく)の結果(けつくわ)、083幾十(いくじふ)年(ねん)かの後(のち)にそれが完成(くわんせい)されるものとしても、084その時(とき)には人口(じんこう)は既(すで)に一億(いちおく)以上(いじやう)になつてゐる筈(はづ)であります。085此(こ)の人口(じんこう)と食糧(しよくりやう)との均衡(きんかう)が依然(いぜん)として保(たも)たれるでせうか。086国家(こくか)の前途(ぜんと)を案(あん)ずれば百千(ひやくせん)年(ねん)の長計(ちやうけい)を目途(もくと)とせねばならぬ。087一(いち)時(じ)の糊塗策(ことさく)は決(けつ)して国家(こくか)永遠(ゑいゑん)の存立(そんりつ)を保障(ほしやう)することは出来得(できえ)ないでせう。088乍然(しかしながら)我国(わがくに)の植民(しよくみん)政策(せいさく)はかかる基調(きてう)から発足(はつそく)してゐるやうであります。089殊(こと)に我(わが)国家(こくか)将来(しやうらい)の存立(そんりつ)及(および)発展(はつてん)に就(つい)ては単(たん)に米麦(こめむぎ)が満足(まんぞく)に得(え)らるるのみではすまされませぬ。090日進(につしん)月歩(げつぽ)の世界(せかい)の前途(ぜんと)には、091鋼鉄(かうてつ)や綿類(わたるゐ)や毛布(まうふ)皮革(ひかく)等(とう)を主(しゆ)として幾多(いくた)の物資(ぶつし)が無限(むげん)に需要(じゆえう)さるる事(こと)は、092今日(こんにち)に於(おい)ても明(あきらか)なる題目(だいもく)であるのに、093我国(わがくに)に於(おい)ては之(これ)を将来(しやうらい)に充実(じゆうじつ)せしむべき安全(あんぜん)なる政策(せいさく)が立(た)つて居(を)りますか、094実(じつ)に思(おも)うて見(み)れば心細(こころぼそ)い次第(しだい)であります。095一朝(いつてう)有事(いうじ)の時(とき)に、096海外(かいぐわい)からその供給(きようきふ)を断(た)たれたならば、097我国(わがくに)は如何(いか)なる方法(はうはふ)を以(もつ)てその需要(じゆえう)を充(み)たす事(こと)が出来(でき)やうか、098思(おも)うて此処(ここ)に至(いた)れば099実(じつ)に慄然(りつぜん)たらざるを得(え)ないのであります。100我国(わがくに)為政(ゐせい)の局(きよく)に当(あた)る人々(ひとびと)は国家(こくか)の前途(ぜんと)を焦慮(せうりよ)した結果(けつくわ)、101植民(しよくみん)政策(せいさく)なるものを立(た)て、102過剰(くわじよう)の人口(じんこう)を他(た)に移(うつ)して、103その移住者(いぢゆうしや)の生活(せいくわつ)の安定(あんてい)を得(え)せしめむとして居(を)ります。
104 先(ま)づ第一(だいいち)に合衆国(がつしゆうこく)の如(ごと)き異人種(いじんしゆ)憎悪(ぞうを)に富(と)んでゐる国土(こくど)の外(ほか)、105メキシコや、106南米(なんべい)や、107南洋(なんやう)諸島(しよたう)を目的(もくてき)としてゐるやうですが、108国家(こくか)万年(まんねん)の長計(ちやうけい)からすれば、109此(これ)等(ら)の遠隔(ゑんかく)の諸(しよ)地方(ちはう)へ農耕(のうかう)移民(いみん)を送(おく)つた計(ばか)りでは済(す)みますまい。110我(わが)接境(せつきやう)の比隣(ひりん)には国家(こくか)としての支那(しな)や露西亜(ろしあ)があり、111相互(さうご)の関係(くわんけい)は善(ぜん)にもあれ、112悪(あく)にもあれ到底(たうてい)離(はな)るべからざるものがあるのであります。113又(また)我(わが)領土内(りやうどない)には朝鮮(てうせん)あり、114その将来(しやうらい)については所謂(いはゆる)識者(しきしや)と云(い)はるる人々(ひとびと)が不断(ふだん)に頭(あたま)をなやましてゐるやうです。115我(わが)皇国(くわうこく)がその永遠(えいゑん)存立(そんりつ)を安全(あんぜん)ならしめ、116関係(くわんけい)諸国(しよこく)と共(とも)に共存(きようぞん)共栄(きようえい)の福利(ふくり)を楽(たの)しまむとすれば、117是非(ぜひ)とも之(これ)に添(そ)ふべき一大(いちだい)国策(こくさく)を樹立(じゆりつ)せなくてはなりませぬ。118所謂(いはゆる)帝国(ていこく)の満蒙(まんもう)政策(せいさく)は即(すなは)ち此(この)目的(もくてき)精神(せいしん)から立(た)てられたものであります。119蓋(けだ)し満蒙(まんもう)の地(ち)はその位置(ゐち)が支那(しな)本部(ほんぶ)と露領(ろりやう)シベリアとの中間(ちうかん)にはさまり、120我(わが)朝鮮(てうせん)とは鴨緑(あひなれ)の水(みづ)を隔(へだ)てて相(あひ)連(つら)つてゐるのみならず、121あらゆる産業(さんげふ)の資源(しげん)備(そな)はらざるなく、122開発(かいはつ)の前途(ぜんと)は実(じつ)に春風(しゆんぷう)洋々(やうやう)の感(かん)があり、123而(しか)も近世(きんせい)の歴史(れきし)的(てき)関係(くわんけい)は必然(ひつぜん)的(てき)に我(わが)皇国(くわうこく)がその開発(かいはつ)任務(にんむ)を負(お)はねばならぬやうになつたのであります。124故(ゆゑ)に今(いま)我国(わがくに)が上下(じやうげ)一致(いつち)努力(どりよく)して既定(きてい)の開発策(かいはつさく)を徹底(てつてい)せしむるには、125我(わが)対支(たいし)政策(せいさく)全部(ぜんぶ)の基調(きてう)を満蒙(まんもう)におくことにより、126行詰(ゆきつま)つた日支(につし)関係(くわんけい)の現状(げんじやう)を相互(さうご)的(てき)に善導(ぜんだう)し得(え)ると共(とも)に、127将来(しやうらい)永遠(ゑいゑん)の円満策(ゑんまんさく)を樹立(じゆりつ)する事(こと)が出来(でき)るでせう。128又(また)ロシアとの交渉(かうせふ)の中継点(ちうけいてん)とする事(こと)が出来(でき)るでせう。129鮮人(せんじん)多数(たすう)に生活(せいくわつ)の安定(あんてい)を得(え)せしめて、130朝鮮(てうせん)統治(とうち)上(じやう)の有力(いうりよく)なる補助(ほじよ)とする事(こと)も出来(でき)るでせう。131人口(じんこう)食糧(しよくりやう)調節(てうせつ)の上(うへ)にも実(じつ)に偉大(ゐだい)なる効験(かうけん)をなし得(え)らるるでせう。132又(また)我(わが)重要(ぢうえう)物資(ぶつし)の供給地(きようきふち)たらしむる事(こと)も出来(でき)るでせう。133我(わが)皇国(くわうこく)国防(こくばう)の第一線(だいいつせん)要地(えうち)たらしむる事(こと)も出来(でき)るでせう。134乍然(しかしながら)満蒙(まんもう)の経営(けいえい)は議論(ぎろん)と実地(じつち)は大変(たいへん)に径庭(けいてい)がある。135如何(いか)なる有識者(いうしきしや)の徹底(てつてい)せる立策(りつさく)と雖(いへど)も、136肝腎(かんじん)要(かなめ)のその人(ひと)を得(え)ざれば到底(たうてい)完成(くわんせい)するものでは無(な)い。137渺々(べうべう)として天(てん)に連(つらな)る満蒙(まんもう)の大沙漠(だいさばく)、138此処(ここ)には無限(むげん)の富源(ふげん)が天地(てんち)開闢(かいびやく)の当初(たうしよ)より委棄(ゐき)されてある。139此(こ)の蒙古(もうこ)の大平原(だいへいげん)こそ天(てん)が我国(わがくに)に与(あた)へたる唯一(ゆいつ)の賜物(たまもの)でなければならぬ。
140 我国(わがくに)の為政者(ゐせいしや)が満蒙(まんもう)開発策(かいはつさく)として満鉄(まんてつ)を敷設(ふせつ)し、141鄭家屯(ていかとん)や、142洮南府(たうなんふ)や、143パインタラの東(ひがし)蒙古(もうこ)の一部(いちぶ)に少(すこ)し計(ばか)り手(て)をつけてゐる位(くらゐ)では、144到底(たうてい)此(この)開発策(かいはつさく)は物(もの)にはならないであらう。145どうしても我(わが)皇国(くわうこく)存立(そんりつ)の為(ため)、146東亜(とうあ)安全(あんぜん)の為(ため)、147世界(せかい)平和(へいわ)の為(ため)に、148我国(わがくに)が率先(そつせん)して天与(てんよ)の大蒙古(だいもうこ)を開拓(かいたく)せなくてはならない位置(ゐち)にある事(こと)を私(わたし)は固(かた)く信(しん)じます。149そしてその目的(もくてき)を達(たつ)するには、150旧慣(きうくわん)に囚(とら)はれざる新宗教(しんしうけう)の宣伝(せんでん)を以(もつ)て第一(だいいち)の手段(しゆだん)方法(はうはふ)と考(かんが)へるのであります。151我国(わがくに)に於(お)ける既成(きせい)宗教(しうけう)の現状(げんじやう)を見(み)れば、152宗教(しうけう)の発展(はつてん)どころか、153現状(げんじやう)維持(ゐぢ)に汲々(きふきふ)たる有様(ありさま)ではありませぬ乎(か)。154気息(きそく)奄々(えんえん)として瀕死(ひんし)の境(さかひ)にある我国(わがくに)の既成(きせい)宗教(しうけう)が、155如何(いか)にして此(この)大事業(だいじげふ)に着手(ちやくしゆ)するの余裕(よゆう)がありませう。156又(また)一人(ひとり)の英雄(えいゆう)的(てき)宗教家(しうけうか)の輩出(はいしゆつ)せむとする気配(けはい)もなき、157我国(わがくに)の瀕死(ひんし)的(てき)宗教(しうけう)に頼(たよ)るの愚(ぐ)なる事(こと)は言(げん)をまたないでありませう。158故(ゆゑ)に私(わたし)は日本(につぽん)人口(じんこう)の増加(ぞうか)に伴(ともな)ひ発生(はつせい)する生活(せいくわつ)の不安定(ふあんてい)を憂慮(いうりよ)し、159朝鮮(てうせん)に於(お)ける同胞(どうはう)の安危(あんき)を憂(うれ)ひ、160次(つ)いで東亜(とうあ)の動乱(どうらん)の発生(はつせい)せむ事(こと)を恐(おそ)るるのあまり、161愈々(いよいよ)神勅(しんちよく)を奉(ほう)じて徒手(としゆ)空拳(くうけん)二三(にさん)の同志(どうし)と共(とも)に長途(ちやうと)の旅(たび)に上(のぼ)らむとするのであります。162私(わたし)は御(ご)承知(しようち)の通(とほ)り支那語(しなご)も蒙古語(もうこご)も皆目(かいもく)知(し)りませぬ。163さうして蒙古(もうこ)は我国(わがくに)の面積(めんせき)に比(くら)べて殆(ほとん)ど十六倍(じふろくばい)の面積(めんせき)があり、164その民(たみ)は慓悍(ひやうかん)にして支那(しな)民衆(みんしう)の古来(こらい)恐怖(きようふ)する獰猛(だうもう)の民(たみ)である。165加(くは)ふるに馬賊(ばぞく)の横行(わうかう)甚(はなはだ)しく、166旅人(たびびと)を掠(かす)め生命(せいめい)を奪(うば)ひ、167日支人(につしじん)の奥地(おくち)に入(い)るものは一人(ひとり)の生還者(せいくわんしや)もないと伝(つた)へられてゐる蒙古(もうこ)の地(ち)に、168大胆(だいたん)と云(い)はふか、169無謀(むぼう)と云(い)はふか、170殆(ほとん)ど夢(ゆめ)に等(ひと)しい経綸(けいりん)を胸(むね)に描(ゑが)いて出(で)て行(ゆ)く私(わたし)としては、171実(じつ)に名状(めいじやう)すべからざる感慨(かんがい)に打(う)たれるのであります。172然(しか)し乍(なが)ら私(わたし)は天地(てんち)創造(さうざう)の神(かみ)を信(しん)じます。173天下(てんか)万民(ばんみん)の為(ため)に十字架(じふじか)を負(お)ひあらゆる艱難(かんなん)を嘗(な)め、174生死(せいし)の境(さかひ)に出入(しゆつにふ)することを寧(むし)ろ本懐(ほんくわい)とするものであります。175今(いま)の時(とき)に於(おい)て満蒙(まんもう)開発(かいはつ)の実行(じつかう)に着手(ちやくしゆ)せなくては、176金甌(きんわう)無欠(むけつ)の我(わが)皇国(くわうこく)も前途(ぜんと)甚(はなは)だ心細(こころぼそ)い事(こと)になるであらうと憂慮(いうりよ)に堪(た)へないのであります。177吾々(われわれ)は神(かみ)の国(くに)に生(うま)れ、178神(かみ)の国(くに)の粟(あは)を喰(は)み、179神(かみ)の国(くに)の大君(おほぎみ)に仕(つか)へ、180神(かみ)に選(えら)まれたる民(たみ)として、181今日(こんにち)の世界(せかい)の現状(げんじやう)を坐視(ざし)するに忍(しの)びないのであります。182どうか今(いま)此(こ)の席(せき)にお集(あつま)りになつた神縁(しんえん)深(ふか)き諸氏(しよし)は、183今回(こんくわい)の私(わたし)の遠征(ゑんせい)の首途(かどで)に対(たい)し御(ご)諒解(りやうかい)あらむことを希望(きばう)致(いた)します。184云々(うんぬん)』
185 と述(の)べ終(をは)り、186記念(きねん)の為(ため)とて祥雲閣(しやううんかく)の襖(ふすま)に左(さ)の如(ごと)き文章(ぶんしやう)ともつかず、187詩(し)ともつかないやうな文字(もじ)を書(か)いた。
 
188推倒全身之智勇(ぜんしんのちゆうをすゐたふし)。189開拓万里之荒原(ばんりのくわうげんをかいたくす)。190神竜(しんりゆう)雖潜淵(ふちにひそむといへども)。191曷池中物(いづくんぞちちゆうのものならむや)。192天運(てんうん)茲(ここに)循環(じゆんかん)来而(しきたり)。193代天地(てんちにかははりて)樹立鴻業(こうげふをじゆりつす)。194嗚呼(ああ)北蒙(ほくもう)之(の)仙境(せんきやう)。195山河草木(さんがさうもく)凝盛装(せいさうをこらし)。196歓呼而(くわんこして)待望我神軍到矣(わがしんぐんのいたるをたいばうす)。197英雄(えいゆう)之(の)心事(しんじ)亦々(またまた)非壮快哉(さうくわいにあらずや)。[※全身の智勇を推倒し、万里の荒原を開拓す。神竜、淵に潜むと雖も、いづくんぞ池中の物ならむや。天運ここに循環し来たり、天地に代はりて鴻業を樹立す。ああ北蒙の仙境、山河草木盛装を凝らし、歓呼して我が神軍の到るを待望す。英雄の心事、またまた壮快に非ずや。]
 
198 又(また)彼(かれ)は発車(はつしや)の間際(まぎは)まで199嘻々(きき)として快活(くわいくわつ)に東亜(とうあ)の経綸(けいりん)を談(だん)じつつ頻(しき)りに筆紙(ひつし)を動(うご)かして居(ゐ)た。200傍(かたはら)より伺(うかが)ふ者(もの)の目(め)には、201寸時(すんじ)の後(のち)に海外(かいぐわい)万里(ばんり)の未開国(みかいこく)に向(むか)つて出発(しゆつぱつ)する人(ひと)の態度(たいど)とは見(み)えなかつた。202彼(かれ)が出発(しゆつぱつ)の際(さい)に詠(よ)んだ沢山(たくさん)な歌(うた)がある。203その中(なか)の一首(いつしゆ)を左(さ)に紹介(せうかい)しよう。
 
204 日地月(につちげつ)星(ほし)の団子(だんご)も食(く)ひ飽(あ)きて今(いま)や宇宙(うちう)の天海(てんかい)を呑(の)む
 
205 ここに至(いた)つて彼(かれ)の心理(しんり)状態(じやうたい)の益々(ますます)異状(ゐじやう)なるに驚(おどろ)かざるを得(え)ない。206神(かみ)か、207魔(ま)か、208人(ひと)か、209誇大(こだい)妄想狂(まうさうきやう)か、210二重(にぢう)人格者(じんかくしや)か、211将(はた)又(また)変態(へんたい)心理(しんり)の極地(きよくち)に達(たつ)せる狂人(きやうじん)か、212殆(ほとん)ど評(ひやう)するの言葉(ことば)も出(で)ない。
213(大正一四、八、一五、加藤明子筆録)
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