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霊界物語
山河草木(第61~72巻、入蒙記)
特別編 入蒙記
第1篇 日本より奉天まで
第1章 水火訓
第2章 神示の経綸
第3章 金剛心
第4章 微燈の影
第5章 心の奥
第6章 出征の辞
第7章 奉天の夕
第2篇 奉天より洮南へ
第8章 聖雄と英雄
第9章 司令公館
第10章 奉天出発
第11章 安宅の関
第12章 焦頭爛額
第13章 洮南旅館
第14章 洮南の雲
第3篇 洮南より索倫へ
第15章 公爺府入
第16章 蒙古の人情
第17章 明暗交々
第18章 蒙古気質
第19章 仮司令部
第20章 春軍完備
第21章 索倫本営
第4篇 神軍躍動
第22章 木局収ケ原
第23章 下木局子
第24章 木局の月
第25章 風雨叱咤
第26章 天の安河
第27章 奉天の渦
第28章 行軍開始
第29章 端午の日
第30章 岩窟の奇兆
第5篇 雨後月明
第31章 強行軍
第32章 弾丸雨飛
第33章 武装解除
第34章 竜口の難
第35章 黄泉帰
第36章 天の岩戸
第37章 大本天恩郷
第38章 世界宗教聯合会
第39章 入蒙拾遺
附 入蒙余録
大本の経綸と満蒙
世界経綸の第一歩
蒙古建国
蒙古の夢
神示の世界経綸
余白歌
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霊界物語
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山河草木(第61~72巻、入蒙記)
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特別編 入蒙記
> 第4篇 神軍躍動 > 第30章 岩窟の奇兆
<<< 端午の日
(B)
(N)
強行軍 >>>
第三〇章
岩窟
(
がんくつ
)
の
奇兆
(
きてう
)
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 特別篇 山河草木 入蒙記
篇:
第4篇 神軍躍動
よみ(新仮名遣い):
しんぐんやくどう
章:
第30章 岩窟の奇兆
よみ(新仮名遣い):
がんくつのきちょう
通し章番号:
口述日:
1925(大正14)年08月
口述場所:
筆録者:
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1925(大正14)年2月14日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
岩山を乗り切って高原地帯に出たが、牧草はあっても一滴の水溜りも見つからない。携帯の食料は次第に残り少なくなってきた。
そのうち日出雄は神がかりとなり、山の岩窟の中に瞑目静座してしまった。一向は盧占魁の動きが怪しいこともあり、しばらくこの地に宿営することに決めた。
後から殿の張彦三の部隊がやってきて、盧占魁に代わって日出雄一行を保護しようと申し出、一緒に腰をすえてしまった。しばらくして盧占魁は約五十四里前方に屯営しており、部隊の整理が済み次第、戻って迎えに来ることなどが報じられた。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
[×閉じる]
:
備考:
2024/2/11出口王仁三郎全集第6巻を底本として校正。
タグ:
宣伝師(宣伝使)
データ凡例:
データ最終更新日:
2024-02-11 13:41:26
OBC :
rmnm30
愛善世界社版:
265頁
八幡書店版:
第14輯 644頁
修補版:
校定版:
269頁
普及版:
初版:
ページ備考:
001
夏期
(
かき
)
に
相当
(
さうたう
)
する
二三
(
にさん
)
ケ
月
(
げつ
)
の
間
(
あひだ
)
は、
002
蒙古
(
もうこ
)
奥地
(
おくち
)
は
西比利亜
(
シベリヤ
)
方面
(
はうめん
)
と
同
(
おな
)
じく
夜
(
よ
)
が
非常
(
ひじやう
)
に
短
(
みじか
)
い。
003
西北
(
せいほく
)
の
空
(
そら
)
に
夕焼
(
ゆふやけ
)
の
名残
(
なごり
)
が
消
(
き
)
えたかと
思
(
おも
)
ふと、
004
間
(
ま
)
もなく
早
(
は
)
や
東天
(
とうてん
)
紅
(
くれなゐ
)
を
潮
(
てう
)
すると
云
(
い
)
つた
調子
(
てうし
)
である。
005
月
(
つき
)
なき
夜
(
よ
)
でも
午前
(
ごぜん
)
二
(
に
)
時
(
じ
)
過
(
す
)
ぎる
頃
(
ころ
)
から、
006
危険
(
きけん
)
な
山路
(
やまぢ
)
でも
安全
(
あんぜん
)
に
旅行
(
りよかう
)
が
出来
(
でき
)
るのである。
007
張
(
ちやう
)
彦三
(
けんさん
)
の
所謂
(
いはゆる
)
神譴
(
しんけん
)
の
雨
(
あめ
)
を
岩影
(
いはかげ
)
に
避
(
さ
)
けた
全軍
(
ぜんぐん
)
も、
008
其
(
その
)
中
(
うち
)
雨
(
あめ
)
が
小歇
(
こや
)
みになつたのでヤツと
胸
(
むね
)
を
撫
(
な
)
で
下
(
おろ
)
し、
009
六
(
ろく
)
月
(
ぐわつ
)
七日
(
なのか
)
(
陰暦
(
いんれき
)
五
(
ご
)
月
(
ぐわつ
)
六日
(
むいか
)
)
午前
(
ごぜん
)
二
(
に
)
時
(
じ
)
半
(
はん
)
頃
(
ごろ
)
全軍
(
ぜんぐん
)
に
出発
(
しゆつぱつ
)
命令
(
めいれい
)
が
伝
(
つた
)
はつた。
010
騎馬
(
きば
)
にての
旅行
(
りよかう
)
は
兎
(
と
)
も
角
(
かく
)
、
011
二頭
(
にとう
)
或
(
あるひ
)
は
三頭立
(
さんとうだて
)
の
牛車
(
ぎうしや
)
や
騾馬
(
らば
)
と(
馬
(
うま
)
と
驢馬
(
ろば
)
との
混血
(
あひのこ
)
にて
牽引力
(
けんいんりよく
)
最
(
もつと
)
も
強
(
つよ
)
き
種類
(
しゆるゐ
)
)
三四
(
さんし
)
頭
(
とう
)
立
(
だて
)
の
轎車
(
けうしや
)
が、
012
山
(
やま
)
と
云
(
い
)
はず
川
(
かは
)
と
云
(
い
)
はず
岩石
(
がんせき
)
崎嶇
(
きく
)
たる
難路
(
なんろ
)
を、
013
相当
(
さうたう
)
の
重量
(
じゆうりやう
)
を
積
(
つ
)
んで
無茶
(
むちや
)
苦茶
(
くちや
)
に
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
くのだから、
014
便乗
(
びんじよう
)
した
人
(
ひと
)
は
中々
(
なかなか
)
安
(
やす
)
き
心
(
こころ
)
もなかつた。
015
頭
(
あたま
)
を
打
(
う
)
ち、
016
肱
(
ひぢ
)
を
打
(
う
)
ち、
017
時
(
とき
)
には
転落
(
てんらく
)
の
犠牲
(
ぎせい
)
も
払
(
はら
)
はねばならぬと
云
(
い
)
ふのだから……
荷物
(
にもつ
)
があつては
黄金
(
こがね
)
の
大橋
(
おほはし
)
は
渡
(
わた
)
れんぞよ……といふ
大本
(
おほもと
)
の
警告
(
けいこく
)
の
如
(
ごと
)
く、
018
人世
(
じんせい
)
の
行路
(
かうろ
)
はヤハリ
身軽
(
みがる
)
に
限
(
かぎ
)
るてふ
感
(
かん
)
を
禁
(
きん
)
ずるを
得
(
え
)
ない。
019
此
(
この
)
日
(
ひ
)
岩山
(
いはやま
)
を
乗
(
の
)
り
切
(
き
)
つて
次第
(
しだい
)
々々
(
しだい
)
に
高原
(
かうげん
)
地帯
(
ちたい
)
を、
020
山
(
やま
)
と
山
(
やま
)
との
間
(
あひだ
)
を
縫
(
ぬ
)
ふて
進
(
すす
)
んでゆく。
021
空
(
そら
)
は
漸
(
やうや
)
く
晴
(
は
)
れて
赫々
(
かくかく
)
たる
太陽
(
たいやう
)
は
冬服
(
ふゆふく
)
その
儘
(
まま
)
の
全軍
(
ぜんぐん
)
を
照
(
てら
)
しつける。
022
而
(
しか
)
も
行
(
ゆ
)
けども
行
(
ゆ
)
けども
牧草
(
ぼくさう
)
はあつても、
023
一滴
(
いつてき
)
の
溜水
(
たまりみづ
)
も
見付
(
みつ
)
からない。
024
携帯
(
けいたい
)
の
食糧
(
しよくりやう
)
は
已
(
すで
)
に
残
(
のこ
)
り
少
(
すくな
)
くなつてゐる。
025
無論
(
むろん
)
人家
(
じんか
)
は
見付
(
みつ
)
からず『アーア』と
云
(
い
)
ふ
歎息
(
たんそく
)
の
声
(
こゑ
)
が
何処
(
どこ
)
からともなく
聞
(
きこ
)
えて
来
(
く
)
る。
026
水
(
みづ
)
を
探
(
たづ
)
ねて
馬
(
うま
)
を
急
(
いそ
)
がす
者
(
もの
)
、
027
食糧車
(
しよくりやうしや
)
を
待
(
ま
)
ち
合
(
あは
)
す
者
(
もの
)
、
028
隊
(
たい
)
は
遂
(
つひ
)
に
三々
(
さんさん
)
五々
(
ごご
)
となつた。
029
此
(
この
)
時
(
とき
)
日出雄
(
ひでを
)
の
側
(
そば
)
には
真澄別
(
ますみわけ
)
、
030
守高
(
もりたか
)
、
031
坂本
(
さかもと
)
、
032
白凌閣
(
パイリンク
)
、
033
温
(
をん
)
長興
(
ちやうこう
)
、
034
王
(
わう
)
瓚璋
(
さんしやう
)
、
035
康
(
かう
)
国宝
(
こくほう
)
の
七
(
しち
)
人
(
にん
)
が
轡
(
くつわ
)
を
列
(
つら
)
ねて
居
(
ゐ
)
た。
036
坂本
(
さかもと
)
は
堪
(
た
)
へかねて、
037
坂本
(
さかもと
)
『
先生
(
せんせい
)
皆
(
みな
)
先
(
さき
)
へ
行
(
い
)
つて
了
(
しま
)
つた
様
(
やう
)
ですけれども、
038
先生
(
せんせい
)
のお
荷物
(
にもつ
)
や
食糧品
(
しよくりやうひん
)
を
積
(
つ
)
んだ
轎車
(
けうしや
)
はまだ
遅
(
おく
)
れてますから、
039
どつかそこらで
一服
(
いつぷく
)
したらどうでせう。
040
人
(
ひと
)
も
馬
(
うま
)
もこれではヘトヘトになつて
了
(
しま
)
ひますよ』
041
日出雄
(
ひでを
)
『さうだね、
042
では
此処
(
ここ
)
は
可
(
か
)
なり
牧草
(
ぼくさう
)
もある
様
(
やう
)
だから
一休
(
ひとやす
)
みしよう』
043
坂本
(
さかもと
)
『
先生
(
せんせい
)
、
044
私
(
わたし
)
は
今
(
いま
)
少
(
すこ
)
し
位
(
ぐらひ
)
辛抱
(
しんばう
)
も
致
(
いた
)
しませうが
045
富士
(
ふじ
)
ちやんが
可愛相
(
かあひさう
)
です』
046
富士
(
ふじ
)
と
云
(
い
)
ふのは
坂本
(
さかもと
)
の
乗馬
(
じようば
)
の
名
(
な
)
で、
047
実際
(
じつさい
)
交通
(
かうつう
)
機関
(
きくわん
)
不備
(
ふび
)
の
地方
(
ちはう
)
を
旅行
(
りよかう
)
すると
馬
(
うま
)
が
唯一
(
ゆゐいつ
)
の
友
(
とも
)
であり、
048
馬
(
うま
)
亦
(
また
)
騎乗者
(
のりて
)
を
慕
(
した
)
ひ、
049
人間
(
にんげん
)
同士
(
どうし
)
に
此
(
この
)
情愛
(
じやうあい
)
が
保
(
たも
)
てさへすれば、
050
喧嘩
(
けんくわ
)
など
夢
(
ゆめ
)
にも
起
(
おこ
)
らないであらうと
思
(
おも
)
はれる
位
(
くらゐ
)
だ。
051
而
(
しか
)
して
日出雄
(
ひでを
)
の
馬
(
うま
)
は
白金竜
(
はくきんりう
)
、
052
真澄別
(
ますみわけ
)
の
馬
(
うま
)
は
白銀竜
(
はくぎんりう
)
、
053
守高
(
もりたか
)
の
馬
(
うま
)
は
金剛
(
こんがう
)
と
命名
(
めいめい
)
され
皆
(
みな
)
白馬
(
はくば
)
であつた。
054
馬
(
うま
)
は
鞍
(
くら
)
を
外
(
はづ
)
されて
牧草
(
ぼくさう
)
の
間
(
あひだ
)
に
放
(
はな
)
たれ、
055
人
(
ひと
)
はポケツトに
残
(
のこ
)
つた
煙草
(
たばこ
)
を
譲
(
ゆづ
)
り
合
(
あ
)
ひつつ
青草
(
あをくさ
)
の
上
(
うへ
)
に
寝
(
ね
)
ころび、
056
紫
(
むらさき
)
の
煙
(
けむ
)
りを
天
(
てん
)
に
向
(
むか
)
つて
吹
(
ふ
)
き
出
(
だ
)
し
乍
(
なが
)
ら、
057
相変
(
あひかは
)
らず
減
(
へ
)
らず
口
(
ぐち
)
の
叩合
(
たたきあひ
)
をして
轎車
(
けうしや
)
を
待
(
ま
)
つてゐる。
058
併
(
しか
)
し
轎車
(
けうしや
)
は
何
(
なん
)
等
(
ら
)
か
故障
(
こしよう
)
の
起
(
おこ
)
つたものか、
059
中々
(
なかなか
)
追
(
お
)
ひついて
来
(
こ
)
ない。
060
遅
(
おく
)
れ
来
(
きた
)
る
兵士
(
へいし
)
に
訊
(
き
)
いても『まだまだ
大分
(
だいぶん
)
後方
(
こうはう
)
だ』と
云
(
い
)
ふ。
061
日出雄
(
ひでを
)
は『ナアニ
牛
(
うし
)
や
馬
(
うま
)
の
喰
(
く
)
ふ
物
(
もの
)
が
人間
(
にんげん
)
に
喰
(
く
)
へない
筈
(
はづ
)
はない』とて、
062
其処
(
そこ
)
等
(
ら
)
の
草
(
くさ
)
を
引抜
(
ひきぬ
)
いては
美味
(
うま
)
い
美味
(
うま
)
いと
喰
(
た
)
べ
初
(
はじ
)
める。
063
附添
(
つきそ
)
ふ
人々
(
ひとびと
)
も『なる
程
(
ほど
)
そらさうだ』とムシヤリムシヤリとやり
出
(
だ
)
した。
064
坂本
(
さかもと
)
『
併
(
しか
)
し
盧
(
ろ
)
占魁
(
せんくわい
)
は
怪
(
け
)
しからぬ
奴
(
やつ
)
ですな、
065
先生
(
せんせい
)
に
何
(
なん
)
の
答
(
こたへ
)
もなしで
自分
(
じぶん
)
が
大将面
(
たいしやうづら
)
をして
轎車
(
けうしや
)
に
乗
(
の
)
つて
先
(
さき
)
へ
行
(
い
)
つて
了
(
しま
)
ひよつた。
066
自分
(
じぶん
)
が
護衛
(
ごゑい
)
を
直接
(
ちよくせつ
)
に
申
(
まを
)
し
上
(
あ
)
げるから、
067
外
(
ほか
)
の
者
(
もの
)
の
側
(
そば
)
へ
御
(
お
)
越
(
こ
)
しにならぬ
様
(
やう
)
になんて
云
(
い
)
つておき
乍
(
なが
)
ら……』
068
守高
(
もりたか
)
『
何
(
なん
)
でも
劉
(
りう
)
陞三
(
しようさん
)
と
盧
(
ろ
)
占魁
(
せんくわい
)
との
間
(
あひだ
)
に、
069
先生
(
せんせい
)
を
中心
(
ちうしん
)
として
勢力
(
せいりよく
)
争
(
あらそ
)
ひが
起
(
おこ
)
つてるといふ
評判
(
ひやうばん
)
もあるがね』
070
坂本
(
さかもと
)
『それなら
尚
(
なほ
)
更
(
さら
)
先生
(
せんせい
)
のお
側
(
そば
)
を
離
(
はな
)
れなきや
可
(
い
)
いぢやありませぬか』
071
真澄別
(
ますみわけ
)
『マアそれはそれとして
兎
(
と
)
に
角
(
かく
)
、
072
も
少
(
すこ
)
し
位
(
ぐらゐ
)
水
(
みづ
)
のある
場所
(
ばしよ
)
がないとも
限
(
かぎ
)
らぬから、
073
モウ
一息
(
ひといき
)
進
(
すす
)
みませう。
074
其
(
その
)
間
(
うち
)
轎車
(
けうしや
)
も
参
(
まゐ
)
りませうから』
075
日出雄
(
ひでを
)
『それが
宜
(
よ
)
からう』
076
と
再
(
ふたた
)
び
鞍上
(
あんじやう
)
の
人
(
ひと
)
となり、
077
宣伝歌
(
せんでんか
)
やら
出鱈目
(
でたらめ
)
歌
(
うた
)
を
唄
(
うた
)
ひ
乍
(
なが
)
ら
行
(
かう
)
を
続
(
つづ
)
けた。
078
日
(
ひ
)
は
益々
(
ますます
)
照
(
て
)
り
渡
(
わた
)
り
綿入
(
わたいれ
)
の
肌着
(
はだぎ
)
は
愈々
(
いよいよ
)
熱
(
ねつ
)
して
来
(
く
)
る。
079
雨
(
あめ
)
少
(
すく
)
なく
空気
(
くうき
)
が
乾燥
(
かんさう
)
してゐる
地方
(
ちはう
)
だから
余
(
あま
)
り
汗
(
あせ
)
は
出
(
で
)
ないが、
080
喉
(
のど
)
の
渇
(
かは
)
く
事
(
こと
)
夥
(
おびただ
)
しい。
081
何
(
ど
)
うしたものか
此
(
この
)
日
(
ひ
)
に
限
(
かぎ
)
つて
水
(
みづ
)
らしい
物
(
もの
)
は
馬
(
うま
)
の
小便
(
せうべん
)
の
溜
(
たまり
)
すら
見付
(
みつ
)
からぬ、
082
さりとて
他
(
た
)
に
取
(
と
)
るべき
手段
(
しゆだん
)
もない、
083
行路
(
ゆくて
)
を
馬
(
うま
)
に
任
(
まか
)
せつつ
進
(
すす
)
むうち、
084
奇岩
(
きがん
)
を
折
(
を
)
り
重
(
かさ
)
ねた
如
(
や
)
うな
岩山
(
いはやま
)
の
麓
(
ふもと
)
に
達
(
たつ
)
した。
085
時
(
とき
)
既
(
すで
)
に
午後
(
ごご
)
五
(
ご
)
時
(
じ
)
を
過
(
す
)
ぐる
頃
(
ころ
)
であつた。
086
岩山
(
いはやま
)
を
取
(
と
)
り
巻
(
ま
)
く
麓
(
ふもと
)
の
青野原
(
あをのはら
)
の
一部
(
いちぶ
)
に、
087
土地
(
とち
)
の
一間
(
いつけん
)
許
(
ばか
)
り
陥落
(
かんらく
)
した
場所
(
ばしよ
)
があり、
088
地下層
(
ちかそう
)
解氷
(
かいひやう
)
の
為
(
ため
)
か
真黒
(
まつくろ
)
い
水
(
みづ
)
が
湧
(
わ
)
きこぼれてゐる。
089
馬
(
うま
)
を
其
(
その
)
畔
(
あぜ
)
に
近付
(
ちかづ
)
けて
見
(
み
)
ると、
090
馬
(
うま
)
は
喜
(
よろこ
)
び
先
(
さき
)
を
争
(
あらそ
)
うてガブガブと
呑
(
の
)
み
出
(
だ
)
した。
091
スルト
如何
(
いか
)
にしけん
日出雄
(
ひでを
)
は『
俺
(
わし
)
はモウ
此処
(
ここ
)
から
動
(
うご
)
かぬのだ』と
大喝
(
だいかつ
)
したかと
思
(
おも
)
へば、
092
もう
其
(
その
)
姿
(
すがた
)
は
見
(
み
)
えず、
093
其
(
その
)
馬
(
うま
)
は
素知
(
そし
)
らぬ
面
(
かほ
)
で
草
(
くさ
)
を
食
(
は
)
むでゐる。
094
坂本
(
さかもと
)
は
早速
(
さつそく
)
下馬
(
げば
)
してウロウロと
捜
(
さが
)
し
廻
(
まは
)
り、
095
軈
(
やが
)
て
走
(
は
)
せ
来
(
きた
)
つて
真澄別
(
ますみわけ
)
に
向
(
むか
)
ひ、
096
坂本
(
さかもと
)
『
先生
(
せんせい
)
は
彼
(
あ
)
の
山
(
やま
)
の
腹
(
はら
)
に
岩窟
(
がんくつ
)
がありますが、
097
其
(
その
)
中
(
なか
)
に
瞑目
(
めいもく
)
静坐
(
せいざ
)
してゐられます。
098
何
(
ど
)
うしたら
可
(
よ
)
いでせう』
099
真澄別
(
ますみわけ
)
は
守高
(
もりたか
)
と
共
(
とも
)
に
直
(
ただ
)
ちに
岩窟
(
がんくつ
)
に
到
(
いた
)
り
見
(
み
)
れば、
100
日出雄
(
ひでを
)
は
神懸
(
かみがかり
)
[
※
全集(6巻p204)と愛世版は「神懸」、校定版は「帰神(かむがかり)」。
]
となつてゐる。
101
真澄別
(
ますみわけ
)
はその
意
(
い
)
を
悟
(
さと
)
り、
102
真澄
(
ますみ
)
『
守高
(
もりたか
)
さん、
103
今
(
いま
)
の
進路
(
しんろ
)
は
吾々
(
われわれ
)
の
想
(
おも
)
うて
居
(
ゐ
)
るのと
違
(
ちが
)
ふ
様
(
やう
)
だし、
104
大分
(
だいぶん
)
怪
(
あや
)
しい
点
(
てん
)
もあるから、
105
暫
(
しばら
)
く
此処
(
ここ
)
を
根城
(
ねじろ
)
とする
事
(
こと
)
にしようぢやないか』
106
守高
(
もりたか
)
『さうだ、
107
僕
(
ぼく
)
も
賛成
(
さんせい
)
だ
108
此処
(
ここ
)
は
高熊山
(
たかくまやま
)
の
岩窟
(
がんくつ
)
に
能
(
よ
)
く
似
(
に
)
てもゐるし、
109
尋常事
(
ただごと
)
ぢやなからう』
110
一行
(
いつかう
)
は
此処
(
ここ
)
に
当分
(
たうぶん
)
宿営
(
しゆくえい
)
の
決心
(
けつしん
)
を
定
(
き
)
め、
111
王
(
わう
)
瓚璋
(
さんしやう
)
をして
此
(
この
)
事
(
こと
)
を
報告
(
はうこく
)
せしむべく
盧
(
ろ
)
占魁
(
せんくわい
)
の
後
(
あと
)
を
追
(
お
)
はしめた。
112
日出雄
(
ひでを
)
の
荷物
(
にもつ
)
即
(
すなは
)
ち
西王母
(
せいわうぼ
)
の
服
(
ふく
)
、
113
宣伝師
(
せんでんし
)
服
(
ふく
)
[
※
宣伝師服の「師」は底本通り。全集、校定版、愛世版とも。
]
その
他
(
た
)
手廻
(
てまは
)
り
品
(
ひん
)
並
(
ならび
)
に
食糧
(
しよくりやう
)
の
残品
(
ざんぴん
)
を
積
(
つ
)
んだ
二台
(
にだい
)
の
轎車
(
けうしや
)
は
114
約
(
やく
)
一
(
いち
)
時間
(
じかん
)
半
(
はん
)
遅
(
おく
)
れて
此処
(
ここ
)
に
到着
(
たうちやく
)
した。
115
此
(
この
)
二台
(
にだい
)
の
轎車
(
けうしや
)
は
山田
(
やまだ
)
文次郎
(
ぶんじらう
)
[
※
第13章の山田文治郎と同一人物か?
]
が
便乗
(
びんじよう
)
監督
(
かんとく
)
し、
116
洮南
(
たうなん
)
より
軍需品
(
ぐんじゆひん
)
等
(
とう
)
を
積載
(
せきさい
)
して
索倫
(
ソーロン
)
に
来
(
きた
)
り、
117
其
(
その
)
儘
(
まま
)
帰途
(
きと
)
の
危険
(
きけん
)
を
慮
(
おもんぱか
)
つて
随伴
(
ずゐはん
)
したのである。
118
轎車
(
けうしや
)
より
材料
(
ざいれう
)
を
取出
(
とりだ
)
して
野営
(
やえい
)
の
準備
(
じゆんび
)
に
着手
(
ちやくしゆ
)
される、
119
一方
(
いつぱう
)
、
120
馬
(
うま
)
の
渇
(
かつ
)
を
医
(
い
)
やした
真黒
(
まつくろ
)
の
水
(
みづ
)
は、
121
明礬
(
みやうばん
)
を
利用
(
りよう
)
して
飲料用
(
いんれうよう
)
に
浄化
(
じやうくわ
)
せられる。
122
枯木
(
かれき
)
の
枝
(
えだ
)
を
集
(
あつ
)
めて
之
(
これ
)
を
沸
(
わ
)
かす、
123
『
茶
(
ちや
)
を
入
(
い
)
れたら
黒
(
くろ
)
インキになつたから、
124
こら
鉄鉱泉
(
てつくわうせん
)
ですよ』と
騒
(
さわ
)
ぎ
立
(
た
)
てるのは
坂本
(
さかもと
)
である。
125
日
(
ひ
)
は
漸
(
やうや
)
く
西
(
にし
)
に
臼搗
(
うすつ
)
き
空
(
そら
)
に
星
(
ほし
)
の
輝
(
かがや
)
き
初
(
そ
)
むる
頃
(
ころ
)
、
126
張
(
ちやう
)
彦三
(
けんさん
)
の
部隊
(
ぶたい
)
が
殿
(
しんが
)
りとして
到着
(
たうちやく
)
し
来
(
きた
)
り、
127
真澄別
(
ますみわけ
)
より
事情
(
じじやう
)
を
聴取
(
ききと
)
り、
128
張
(
ちやう
)
彦三
(
けんさん
)
『それでは
私
(
わたくし
)
が
盧
(
ろ
)
に
代
(
かは
)
つて
御
(
ご
)
保護
(
ほご
)
申上
(
まをしあ
)
げます、
129
私
(
わたし
)
の
方
(
はう
)
には
未
(
ま
)
だ
米
(
こめ
)
も
牛肉
(
ぎうにく
)
も
幾
(
いく
)
らかあります、
130
先生
(
せんせい
)
がお
動
(
うご
)
きにならねば、
131
私
(
わたし
)
も
何時
(
いつ
)
迄
(
まで
)
もお
側
(
そば
)
に
止
(
とど
)
まつて
御
(
ご
)
保護
(
ほご
)
いたします』
132
とて
部下
(
ぶか
)
に
命
(
めい
)
じて
炊
(
た
)
き
出
(
だ
)
しを
開始
(
かいし
)
し、
133
スツカリ
腰
(
こし
)
を
据
(
す
)
ゑて
了
(
しま
)
つた。
134
やがて
日出雄
(
ひでを
)
も
岩窟
(
がんくつ
)
より
出
(
い
)
で
来
(
きた
)
り
135
賑
(
にぎ
)
やかな
野天
(
のてん
)
食堂
(
しよくだう
)
が
開
(
ひら
)
かれた。
136
此
(
この
)
時
(
とき
)
王
(
わう
)
瓚璋
(
さんしやう
)
馳
(
は
)
せ
帰
(
かへ
)
り、
137
盧
(
ろ
)
以下
(
いか
)
全部隊
(
ぜんぶたい
)
は
約
(
やく
)
五十
(
ごじふ
)
支里
(
しり
)
前方
(
ぜんぱう
)
に
屯営
(
とんえい
)
し
居
(
を
)
り、
138
其処
(
そこ
)
には
人家
(
じんか
)
四五
(
しご
)
軒
(
けん
)
あれど
飲料水
(
いんれうすゐ
)
の
不足
(
ふそく
)
なる
事
(
こと
)
や、
139
盧
(
ろ
)
は
水
(
みづ
)
を
索
(
もと
)
めて
急
(
いそ
)
いだのであるが
部隊
(
ぶたい
)
整理
(
せいり
)
次第
(
しだい
)
直
(
す
)
ぐ
迎
(
むか
)
ひに
来
(
く
)
る
事
(
こと
)
など
報告
(
はうこく
)
した。
140
真澄別
(
ますみわけ
)
は
更
(
さら
)
に
岡崎
(
をかざき
)
と
萩原
(
はぎはら
)
に
対
(
たい
)
し
何事
(
なにごと
)
か
名刺
(
めいし
)
の
裏
(
うら
)
に
認
(
したた
)
め、
141
温
(
をん
)
長興
(
ちやうこう
)
を
使
(
つかひ
)
として
前方
(
ぜんぱう
)
の
駐屯所
(
ちうとんしよ
)
に
向
(
むか
)
ひ
馬
(
うま
)
を
急
(
いそ
)
がしめ、
142
茲
(
ここ
)
に
一同
(
いちどう
)
寝
(
しん
)
に
就
(
つ
)
くこととなつた。
143
(
大正一四、八
、筆録)
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【第30章 岩窟の奇兆|特別編 入蒙記|山河草木|霊界物語|/rmnm30】
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