霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一六章 蒙古(もうこ)人情(にんじやう)

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 特別篇 山河草木 入蒙記 篇:第3篇 洮南より索倫へ よみ(新仮名遣い):とうなんよりそーろんへ
章:第16章 蒙古の人情 よみ(新仮名遣い):もうこのにんじょう 通し章番号:
口述日:1925(大正14)年08月 口述場所: 筆録者: 校正日: 校正場所: 初版発行日:1925(大正14)年2月14日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
蒙古人は剽悍武勇であり、朴直慇懃で、親しみやすい。喜怒哀楽を直にあらわし、子供のように単純である。支那人やロシア人には近年圧迫されたため、彼らを敵視しているが、日本人には憧憬の念を抱いている。
日出雄は公爺府王の親戚に当たる、白凌閣(パイリンク)という十九歳になった青年を弟子となし、また彼から蒙古語を研究した。
蒙古人は嘘をつかず、一度この人と信じたならばその人のために生命まで投げ出すという気性の人種である。日出雄は蒙古人の潔白な精神に非常な満足を覚えた。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる] 備考:2024/1/15出口王仁三郎全集第6巻を底本として校正。 タグ: データ凡例: データ最終更新日:2024-01-15 22:06:29 OBC :rmnm16
愛善世界社版:141頁 八幡書店版:第14輯 599頁 修補版: 校定版:141頁 普及版: 初版: ページ備考:
001 蒙古人(もうこじん)(むかし)から慓悍(ひやうかん)勇武(ゆうぶ)であり、002成吉思汗(ジンギスカン)鉄騎(てつき)天地(てんち)震撼(しんかん)せしめた(こと)(たれ)()(ところ)である。003現今(げんこん)(おい)ても(その)容貌(ようばう)風俗(ふうぞく)には(むかし)面影(おもかげ)(のこ)して()るやうである。004朴直(ぼくちよく)慇懃(いんぎん)(した)しみやすいと同時(どうじ)005(また)感情(かんじやう)(てき)にして喜怒(きど)哀楽(あいらく)(たちま)(いろ)(あら)はし、006()一面(いちめん)(おい)ては愚鈍(ぐどん)にして、007行蔵(かうざう)(すこぶ)粗野(そや)淡白(たんぱく)で、008さながら小児(せうに)(やう)である。009(しか)(なが)近年(きんねん)支那人(しなじん)露西亜(ろしあ)(じん)にいろいろと圧迫(あつぱく)せられたので、010両国人(りやうこくじん)()ること蛇蝎(だかつ)(ごと)(きら)ひ、011支那人(しなじん)露西亜(ろしあ)(じん)奥地(おくち)()るものは、012(いづ)れも無事(ぶじ)(かへ)(こと)出来(でき)ないのである。013(かれ)蒙古人(もうこじん)支那人(しなじん)014露西亜(ろしあ)(じん)(たい)しては不倶(ふぐ)戴天(たいてん)(あだ)(やう)(おも)うて()るが、015(これ)(はん)して日本人(につぽんじん)憧憬(どうけい)することは(じつ)案外(あんぐわい)である。016(かれ)()大部分(だいぶぶん)(いま)(まつた)生存(せいぞん)競争(きやうそう)圏外(けんぐわい)超然(てうぜん)として、017(さら)利害(りがい)観念(かんねん)なく、018牛馬(ぎうば)019羊豚(やうとん)020駱駝(らくだ)などを唯一(ゆゐいつ)伴侶(はんりよ)として、021(ちや)()み、022煙草(たばこ)()ひ、023(ねん)年中(ねんぢう)ねむつたり、024()つたり、025(あるひ)(きやう)()み、026(ほとけ)(ねん)じ、027死後(しご)冥福(めいふく)(いの)(ほか)余念(よねん)なきが(ごと)く、028(あへ)複雑(ふくざつ)人生(じんせい)苦難(くなん)()らぬのである。029(しか)(なが)らもし(なん)()かの動機(どうき)()つて、030(これ)刺戟(しげき)し、031(その)性情(せいじやう)反撥(はんぱつ)するものがあれば、032其処(そこ)(かなら)祖先(そせん)遺伝(いでん)(てき)性情(せいじやう)喚発(くわんぱつ)するであらう。033(かれ)()駻馬(かんば)(むちう)つて際限(さいげん)もなき広野(くわうや)疾駆(しつく)し、034(をとこ)(をんな)縦横(じうわう)無尽(むじん)(くら)(またが)勇壮(ゆうさう)なる活動(くわつどう)をやつて()るのを()れば、035(うた)(いにしへ)勇敢(ゆうかん)なる民族(みんぞく)気象(きしやう)(しの)ばせるものがある。036蒙古人(もうこじん)(ひと)(せつ)する(はなは)親切(しんせつ)で、037(その)同族(どうぞく)知己(ちき)(あひだ)(おい)ては勿論(もちろん)038外来(ぐわいらい)未知(みち)日本人(につぽんじん)(たい)しても一度(いちど)(あひ)()るや一家(いつか)(こぞ)つて(これ)款待(くわんたい)するの(ふう)がある。039日本人(につぽんじん)()けば仮令(たとへ)一人旅(ひとりたび)でも親切(しんせつ)宿泊(しゆくはく)せしめ、040一家(いつか)(こぞ)つて同情(どうじやう)歓迎(くわんげい)し、041(すこ)しも障壁(しやうへき)(まう)けない。042(しか)(なが)西洋人(せいやうじん)支那人(しなじん)(たい)しては(あるひ)恐怖(きようふ)し、043(あるひ)卑下(ひげ)044容易(ようい)(いへ)()るを(ゆる)さない。
045 日出雄(ひでを)公爺府(コンエフ)()るや公府(こうふ)兵士(へいし)(はじ)め、046役人(やくにん)村民(そんみん)などが嘻々(きき)として(あつま)(きた)り、047隔意(かくい)なく親切(しんせつ)(ちや)()んだり、048煙草(たばこ)をすすめたり、049(また)炊事(すゐじ)手伝(てつだひ)をしたりして050非常(ひじやう)款待(くわんたい)し、051村人(むらびと)一人(ひとり)(のこ)らず日々(ひび)(たづ)ねきて、052言語(げんご)(つう)ぜないにも(かか)はらず、053鶏肉(けいにく)鶏卵(けいらん)牛乳(ぎうにう)煎餅(せんべい)や、054炒米(チヨウミイ)などを(たづさ)へて()親切(しんせつ)世話(せわ)をした。055公爺府(コンエフ)喇嘛僧(らまそう)日々(ひび)日出雄(ひでを)(かたはら)()()て、056鎮魂(ちんこん)()けたり、057日本服(につぽんふく)(めづ)らしさうに(なが)めたりして(かへ)つて()く。058さうして蒙古(もうこ)婦人(ふじん)(あさ)から(ばん)まで日出雄(ひでを)身辺(しんぺん)()()いて(うれ)しさうに(あそ)んで()る。059日出雄(ひでを)公爺府(コンエフ)(わう)親戚(しんせき)(あた)白凌閣(パイリンク)()十九(じふきう)(さい)になつた青年(せいねん)060(わう)承諾(しようだく)()弟子(でし)となし、061()(をとこ)(つい)蒙古語(もうこご)研究(けんきう)(はじ)めた。062白凌閣(パイリンク)蒙古人(もうこじん)()公爺府(コンエフ)役人(やくにん)から学問(がくもん)(なら)ひ、063支那字(しなじ)蒙古字(もうこじ)をよく()り、064()支那語(しなご)をもよくした。065日出雄(ひでを)(この)白凌閣(パイリンク)村人(むらびと)十日間(とをかかん)(ほど)(あそ)んで()(あひだ)蒙古語(もうこご)大略(だいりやく)(おぼ)え、066蒙古人(もうこじん)談話(だんわ)交換(かうくわん)するには(あま)差支(さしつか)へない程度(ていど)(まで)(すす)んだのである。
067 日出雄(ひでを)公爺府(コンエフ)()いた二三(にさん)日目(にちめ)正午(しやうご)(ごろ)068協理(けふり)(らう)印君(いんくん)(やかた)(あそ)んで()ると、069(わう)(さま)管内(くわんない)巡視(じゆんし)()へて数十(すうじふ)(にん)兵士(へいし)(とも)にラツパを()かせて(かへ)つて()た。070さうして(わう)(さま)(はう)から(らう)印君(いんくん)(たく)出張(しゆつちやう)し、071日出雄(ひでを)面会(めんくわい)し、072通訳(つうやく)(かい)種々(しゆじゆ)挨拶(あいさつ)をした。073(この)(わう)宝算(はうさん)(まさ)二十三(にじふさん)(さい)074さうして(くらゐ)鎮国公(ちんこくこう)で、075巴彦那木爾(パエンナムル)()(ひと)である。076(いろ)(しろ)凛々(りり)しい好男子(かうだんし)であつた。077日出雄(ひでを)(わう)(さま)土産(みやげ)として懐中(くわいちゆう)電燈(でんとう)一個(いつこ)(おく)つた。078(わう)(めづ)らしがつて幾度(いくど)押戴(おしいただ)嘻々(きき)として()()つた。079()(わう)(さま)(いま)独身(どくしん)(おく)さまが(きま)つて()ない。080先年(せんねん)巴布札布(パプチヤフ)挙兵(きよへい)(とき)(その)居城(きよじやう)支那兵(しなへい)(あら)され、081()財産(ざいさん)(うば)はれ、082(いま)非常(ひじやう)財政(ざいせい)困難(こんなん)(おちい)つて()るので、083それ(ゆゑ)妻君(さいくん)(めと)るとなれば、084(わう)として非常(ひじやう)費用(ひよう)()るので見合(みあは)せて()ると()(こと)である。085それに()(わか)(わう)(さま)北京(ペキン)参勤(さんきん)した(さい)086支那(しな)芸者(げいしや)から梅毒(ばいどく)をうつされ、087大変(たいへん)(こま)つて()るとか()(はなし)であつた。088それから二三(にさん)(にち)たつと公爺廟(コンエメウ)活仏(くわつぶつ)巡錫(じゆんしやく)して()日出雄(ひでを)面会(めんくわい)したいと()ふので、089日出雄(ひでを)(らう)印君(いんくん)(たく)会見(くわいけん)した。090()活仏(くわつぶつ)三十(さんじふ)前後(ぜんご)(をとこ)で、091公爺府(コンエフ)(わう)(さま)(あね)(いもうと)(さん)(にん)(まで)(みやう)関係(くわんけい)をつけて()ると()生臭(なまぐさ)坊主(ばうず)である。092(この)活仏(くわつぶつ)日出雄(ひでを)蒙古(もうこ)救世主(きうせいしゆ)として(あら)はれたと()ふので敬意(けいい)(へう)しに()たのである。093四五(しご)(にち)すると蒙古(もうこ)各地(かくち)から、094救世主(きうせいしゆ)(きた)れりと()(うはさ)()いて095(とほ)きは二百(にひやく)支里(しり)(ぐらゐ)(ところ)から、096大車(だいしや)轎車(けうしや)()つて老若(らうじやく)男女(だんぢよ)フリガナ「らうじやくだんぢよ」は底本(全集)通り。(すく)ひを(もと)めに()る。097(あま)(いそが)しいので守高(もりたか)(にわか)喇嘛(ラマ)になり、098()ました(かほ)(かれ)()鎮魂(ちんこん)手伝(てつだ)ひをして()た。
099
100 蒙古(もうこ)(この)地方(ちはう)家屋(かをく)(すべ)矮小(わいせう)不潔(ふけつ)である。101さうして(をとこ)(をんな)若布(わかめ)行列(ぎやうれつ)襁褓(しめし)親分(おやぶん)か、102雑巾屋(ざふきんや)看板尻(かんばんしり)でも(くら)へと()(やう)なボロを()(まと)ひ、103平気(へいき)平左(へいざ)でやつて()る。104(また)(をんな)前頭部(ぜんとうぶ)にいろいろの宝石(ほうせき)(かざ)り、105(みみ)には宝石(ほうせき)()をぶら()げて()る。106さうして家柄(いへがら)()(ところ)(をんな)()三条(みすぢ)()げ、107中流(ちうりう)二条(ふたすぢ)108下流(かりう)一条(ひとすぢ)()をブラ()げて()る。109(むすめ)(みな)()(がみ)であるが、110結婚(けつこん)すると同時(どうじ)(かみ)()いて(あたま)(うへ)にクルクルと(たば)ねて()る。111さうして下女(げぢよ)には(みみ)()()いので、112一見(いつけん)して(その)(はしため)たる(こと)(わか)る。113蒙古人(もうこじん)(いへ)(なか)であらうが門口(かどぐち)であらうが、114痰唾(たんつば)()き、115手涕(てばな)をかみ、116()についた(はな)自分(じぶん)着衣(ちやくい)無造作(むざうさ)にこすりつけて()る。117(いづ)れの(いへ)にも牛馬(ぎうば)118羊豚(やうとん)119(とり)などが沢山(たくさん)()うてあり、120(あさ)になると(いへ)周囲(まはり)()()牛馬(ぎうば)などは、121蒙古犬(もうこいぬ)(みちび)かれて(とほ)(とほ)山野(さんや)(くさ)()ひに()き、122日没前(にちぼつまへ)になると(また)(いぬ)(まも)られてノソリノソリと(いへ)周囲(まはり)(かへ)つて()()(しま)ふ。123沢山(たくさん)牛馬(ぎうば)(ところ)(かま)はず(くそ)をひるので、124蒙古人(もうこじん)牛馬(ぎうば)(くそ)をかき(あつ)めて(おほ)きな(やま)(つく)るのが(なに)よりの仕事(しごと)である。125そして(いへ)(かべ)(かき)などに牛糞(ぎうふん)をベタリと()り、126(また)高粱(かうりやう)炒米(チヨウミイ)容器(ようき)(やなぎ)(えだ)()んで(かご)(つく)り、127牛糞(ぎうふん)()をつめて、128食糧品(しよくりやうひん)容器(ようき)として()る。129温突(をんどる)()くのも(ちや)()かすのも、130高粱(かうりやう)(かゆ)()るのも、131(みな)牛糞(ぎうふん)である。132これだけ牧畜(ぼくちく)(さか)んな蒙古(もうこ)(おい)て、133牛糞(ぎうふん)()かなかつたら、134蒙古(もうこ)民家(みんか)牛糞(ぎうふん)(うづ)まるであらう。135牛糞(ぎうふん)(やま)(いた)(ところ)(きづ)かれてある。136さうして内地(ないち)牛糞(ぎうふん)のやうに(めう)臭気(しうき)()い。137羊肉(やうにく)をあぶつて()らふのも鶏肉(とりにく)をあぶつて()らふのも、138(みな)牛糞(ぎうふん)()(もち)ひるのである。139潔癖(けつぺき)日本人(につぽんじん)土地(とち)()れる(まで)は、140(いづ)れも(かほ)をしかめ(はな)をつまんで(こま)つて()有様(ありさま)だ。
141 蒙古人(もうこじん)日本(につぽん)古代人(こだいじん)のやうな(たましひ)(のこ)つてゐて、142(うそ)()(こと)(けつ)して()らない。143それ(ゆゑ)(うそ)()言葉(ことば)もなければ、144(ちが)やしないかと()疑問詞(ぎもんし)もない。145(この)(てん)(おい)ては(じつ)気持(きもち)()国人(くにびと)である。146だから蒙古人(もうこじん)一度(いちど)(この)(ひと)(しん)じたならば、147(その)(ひと)如何(いか)なる悪人(あくにん)であらうとも、148そんな(こと)には頓着(とんちやく)なく因縁(いんねん)だとあきらめて149終身(しうしん)(その)(ひと)(ため)生命(せいめい)までも擲出(なげだ)すと()健気(けなげ)人種(じんしゆ)である。150(これ)(はん)して最初(さいしよ)(この)(ひと)はいけないと(おも)つたならば、151(その)(ひと)(のち)如何(いか)(ほど)改心(かいしん)して善人(ぜんにん)となつても信用(しんよう)しない。152日出雄(ひでを)彼所(あちら)此所(こちら)から(まね)かれて公爺府(コンエフ)民家(みんか)一戸(いつこ)(のこ)らず訪問(はうもん)し、153種々(しゆじゆ)款待(くわんたい)()けて、154面従(めんじう)腹背(ふくはい)155阿諛(あゆ)諂侫(てんねい)内地人(ないちじん)日夜(にちや)接近(せつきん)し、156不快(ふくわい)でたまらなかつた日出雄(ひでを)は、157(この)蒙古人(もうこじん)潔白(けつぱく)精神(せいしん)非常(ひじやう)満足(まんぞく)(おぼ)えた。158蒙古人(もうこじん)(ちひ)さい(あめ)一個(いつこ)(あた)ふれば(おほ)きな(をとこ)(よろこ)んで(いただ)き、159(うれ)しさうに舌鼓(したつづみ)()つて幾度(いくど)感謝(かんしや)()(へう)し、160まるで内地(ないち)()()のやうである。161さうして空気(くうき)非常(ひじやう)乾燥(かんさう)し、162寒国(かんごく)にも()(ゆき)(あま)沢山(たくさん)()らない、163何程(なにほど)深雪(ふかゆき)だといつても(たか)一寸(いつすん)(ぐらゐ)(つも)るのが通例(つうれい)である。164さうして(かぜ)非常(ひじやう)(さむ)いが(その)(わり)には身体(からだ)(がい)せない、165(また)呼吸器(こきふき)(きず)つけない(めう)である底本(全集)では「傷つけない妙である」だが校定版では「のが」を補い「傷つけないのが妙である」に、愛善世界社版では「のは」を補い「傷つけないのは妙である」に直している。
166 蒙古(もうこ)喇嘛(ラマ)貴人(きじん)はハムロタマガと()宝石製(はうせきせい)(けい)一寸(いつすん)(ぐらゐ)香器(かうき)携帯(けいたい)し、167(はじ)めての(ひと)(せつ)する(とき)には、168(その)(うつは)(なか)から非常(ひじやう)(かほり)()粉末(ふんまつ)()()して(きやく)()がすのを非常(ひじやう)待遇(たいぐう)として()る。169(あさ)から(ばん)まで(かぜ)(はげ)しく、170黄塵(くわうぢん)()(のぼ)蒙古(もうこ)では第一(だいいち)(はな)がつまつて(こま)る。171(しか)るにこのハムロタマガの香粉(かうふん)(はな)()りつけると、172不思議(ふしぎ)にも(はな)()(とほ)気分(きぶん)がよくなる。173蒙古人(もうこじん)非常(ひじやう)()(なが)(ふと)煙管(きせる)携帯(けいたい)し、174(あさ)から(ばん)(まで)(ちや)()んだあいまには煙草(たばこ)をくすべて()る。175(ちひ)さい(さかづき)(やう)雁首(がんくび)(さら)で、176銀製(ぎんせい)177真鍮製(しんちうせい)のものが(おほ)い。178さうして吸口(すひくち)(はう)硨磲(しやこ)179瑪瑙(めなう)180翡翠(ひすゐ)などの宝石(ほうせき)をもつて(つく)つて()る。181蒙古人(もうこじん)()煙管(きせる)(もつと)(かね)(つひや)すと()(こと)である。
182 蒙古人(もうこじん)一夫(いつぷ)多妻(たさい)主義(しゆぎ)である。183長男(ちやうなん)太子(たいし)()ふ、184太子(たいし)のみが妻帯(さいたい)して(いへ)()ぎ、185次子(じし)以下(いか)(のこ)らず喇嘛(ラマ)になつて(しま)ふ、186これは仏教(ぶつけう)信仰(しんかう)からだと()ふ。187それ(ゆゑ)()むを()一夫(いつぷ)多妻(たさい)となり、188(らう)印君(いんくん)(ごと)六十(ろくじふ)七八(しちはつ)(さい)にもなつて(しち)(にん)妻君(さいくん)()つて()る。189さうして妻君(さいくん)(もら)ふのには(うし)五頭(ごとう)(あるひ)六頭(ろくとう)190極上等(ごくじやうとう)美人(びじん)になると十頭(じつとう)交換(かうくわん)する風習(ふうしふ)である。191白凌閣(パイリンク)妻君(さいくん)(ぎう)五頭(ごとう)交換(かうくわん)されたと()(こと)であつた。192男子(だんし)十八(じふはち)(さい)でなければ蒙古(もうこ)人数(にんずう)()れない。193さうして(をんな)(のこ)らず人口(じんこう)から除外(じよぐわい)されてゐる、194(それ)(ゆゑ)蒙古(もうこ)人口(じんこう)完全(くわんぜん)調査(てうさ)する(こと)六ケ敷(むつかし)い。195葬式(さうしき)など(いた)つて簡単(かんたん)で、196(おや)兄弟(きやうだい)(あと)(のこ)して()んだものは不孝者(ふかうもの)だと()うて(やま)(たに)()てに()き、197沢山(たくさん)喇嘛(ラマ)がゴロついて()ても()(きやう)(ひと)()げてやらない風習(ふうしふ)である。198蒙古人(もうこじん)容貌(ようばう)男女(だんぢよ)(とも)日本人(につぽんじん)酷似(こくじ)し、199(すこ)しも支那人(しなじん)()てゐないのは不思議(ふしぎ)である。200支那人(しなじん)(つま)男客(だんきやく)(かたはら)()(こと)非常(ひじやう)(きら)ふが、201蒙古(もうこ)男子(だんし)一切(いつさい)無頓着(むとんちやく)である。202それ(ゆゑ)自分(じぶん)家内(かない)(むすめ)安心(あんしん)して外来(ぐわいらい)(きやく)世話(せわ)をさせる。203その(かは)蒙古(もうこ)婦人(ふじん)(きは)めて朴直(ぼくちよく)(をつと)()つた以上(いじやう)(けつ)してその(ほか)(をとこ)関係(くわんけい)しない。204それ(ゆゑ)いつも蒙古(もうこ)婦人(ふじん)(かは)(がは)日出雄(ひでを)無聊(ぶれう)(なぐさ)めむと毎日(まいにち)胡琴(フウチン)(だん)じ、205美声(びせい)()()げて面白(おもしろ)(うた)(うた)ひ、206日出雄(ひでを)身辺(しんぺん)には何時(いつ)春陽(しゆんやう)()(ただよ)うて()た。207(また)日出雄(ひでを)書生(しよせい)白凌閣(パイリンク)蒙古兵(もうこへい)(とう)日々(ひび)胡琴(フウチン)(だん)じ、208(うた)(うた)軍旅(ぐんりよ)にある日出雄(ひでを)(なぐさ)むる(こと)(つと)めたのである。
209大正一四、八、筆録)
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