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角力

インフォメーション
題名:角力 著者:出口王仁三郎
ページ:33
概要: 備考:『故山の夢』p41-46 タグ: データ凡例: データ最終更新日:2023-10-30 08:33:55 OBC :B121808c18
─十六歳の頃─
金剛寺(こんがうじ)夜学(やがく)にかよひて(とも)がきと毎夜(まいよ)菎蒻飯(こんにやくめし)をたきくふ
親の目をしのびて(こめ)をかくし持ち菎蕩(こんにやく)買ひて夜学(やがく)(とも)と食ふ
金剛寺(こんがうじ)栗山禅師(ぜんじ)漢籍(かんせき)をならひをはりて経文(きやうもん)をよむ
(ぼう)よみに一切経(いつさいきやう)ををしへられチンプンカンプン訳が(わか)らず
その意味がわからぬながら経文(きやうもん)をなめらに読むぞ楽しかりけり
法華宗(ほつけしう)妙見(めうけん)ごりのばあさんに宗教心をそそられしわれ
初秋(はつあき)の山に(しば)かり角力(すまふ)とりて腰の関節またもやいためし
(もみ)(にな)ふ事さへかなはぬ下僕(しもべ)(われ)は腰なほさむと越畑(こしはた)にかよふ
越畑(こしはた)にかよふ夕暮愛宕山(あたごやま)ふもとの森林にまよひて泣きぬ
夜嵐(よあらし)の吹きすさぶなる森林の闇にひと()を泣き(あか)しけり
(みち)とはむ人かげもなき深山路(みやまぢ)の秋の夕べは淋しかりけり
(ひむがし)(そら)()けはなれ羊膓(やうちやう)小径(こみち)つたひて村みしうれしさ
越畑(こしはた)の接骨医者の(むね)はるか目に()りしばし嬉し泣きせり
一本の(つゑ)(ちから)にチガチガと山路(やまぢ)たどれば腰のいたかり
整骨医(おもて)の門をおとなへば子供と(あなど)りはねつけ()れず
涙声(なみだごゑ)しぼりてこんこん頼みこめば不承(ふしよう)不承(ぶしよう)に門あけくれたり
何をして腰いためたかと尋ねられ角力(すまふ)のかたみといつて呶鳴(どな)らる
これからは百姓の下僕(しもべ)の分際で角力(すまふ)とるなと声高(こわだか)にいふ医者
今年(こんねん)の秋の仕事の()にあはぬなどといひつつ腰もみにけり
チガチガとビツコひきつつ主家(しゆか)に帰り医者の言葉を伝へて叱らる
腰痛(こしいた)をこらへしのびて重き()をになひて秋を泣き泣きはたらく
何時(いつ)()にか腰の痛みは止まりけり生命(いのち)(まと)に重荷かつぎて
(いそが)しき秋の農業の(をは)りし()間にあはぬとて追ひ出されたり
追ひ出され家に帰ればたらちねの父は(いか)りてまた追ひ出せり
腰いためながらもわれは辻角力(つじずまふ)飯より好きといひつつやまずも
貧しさに昼夜(ちうや)はたらく若き日のわれは(ひと)しほ苦しかりけり
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