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病牛

インフォメーション
題名:27 病牛 著者:出口王仁三郎
ページ:89 目次メモ:
概要: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日: OBC :B121808c42
─二十三四歳の頃─
牛畜の流行性感冒むらむらにありて井上往診いそがし
井上の留守に薬をとりにくる飼主にわれ薬をあたふ
重曹や規那末芒硝酒石酸調合なして十銭に売る
十銭にやつたと云へば井上は十五銭よと目をむきいかる
二銭ほどの薬を十銭に売つたのに何が悪いと抗辯をなす
猪古才な世帯知らずといひながら梶棒もちてなぐりにかかる
逃げながら麦畑の土をひつつかみ井上目がけて投げかけにけり
土埃目にかかりしにや井上はばたりとたふれ涙して居り
われもまた驚き如何にとたち寄ればこん畜生と怒りてなぐる
真清水をバケツに汲みて目を洗ひふくれ面して家に帰れリ
約五里を隔てし和知より病牛の往診たのみ百姓来れり
井上はいそいそとして金儲けまた出来たりと急ぎ出でゆく
井上の母は来りて一石の蚕を棚に飼養してをり
急電によりてわが伯母郷里なる高屋の里にいそぎ帰れり
井上の母はわがため伯母なりきわが子を褒めてわれのみそしる
わが伯母の高屋に帰りしそのあとで二眠の蚕をもみつぶしたり
真夜中に井上和知より帰り来て棚の蚕をつくづくみてをり
おい喜楽えらい鼠が荒れよつた猫かりてこよとやかましくいふ
わが為せしこのいたづらを井上は鼠といひしにはつと落ちつく
真夜中に南陽寺の門をうち叩き猫借りたしと和尚に言ひこむ
真夜中に猫をかせとは不思議なりそのわけ話せと和尚は迫る
やむを得ずありしことごと詳細に話せば和尚はふき出し笑ふ
そんなことするよな男に寺の猫は貸してはやらぬと和尚は笑ふ
いたづらを鼠と思てる井上も耄碌してると言ひつつわれ笑ふ
わが声を聞きて寄り来る寺の猫をぐつと抱へて逃げ出しにけり
喜楽さん解剖してはいけないよと和尚は大声あげて云ひけり
解剖もしませぬ炊いて食ひませぬしばらく貸してと言ひつつ走る
猫抱へ家に帰れば井上は何処の猫かとしきりに尋ねる
南陽寺和尚にかつて来ましたと言へば井上眉さかだてる
南陽寺和尚にかつて来た猫は去なせと井上目をつる
南陽寺の猫でも鼠はとりますよと云へばこの猫蚕食ふといふ
井上の言葉の如くこの猫は蚕をむしやむしや食ひはじめけり
井上はこん畜生と猫とわれを一度にぴしやりと杖にてなぐる
流行性感冒の牛出来たりとまた真夜中に百姓きたる
洋服に身をかためつつ靴の音たかく井上出でゆきにけり
あくる朝ふたたび猫をつれ来たり蚕の虫をくはせて楽しむ
わが伯母は早朝高屋ゆ帰り来て直はゐぬかとわれに問ひをり
直やんは牛の流行性感冒でどつかへ行たとわれ答へたり
蚕食ふ猫をみつけてわが伯母は気をつけぬかと甲高にいふ
知らぬ間に猫が出て来て知らぬ間に蚕をむしむし食たと答ふる
井上の帰りし靴音ギウギウと聞きつつわれは牧場に走る
留守番がなくては蚕も飼へないと伯母井上に妻帯すすめをり
   
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