晩秋の霜おく夜半の稲の番は火をたかずして忍べざりけり
真夜中に眼さませば番小屋の外にひそ泣く女のこゑあり
眠き目をこすり藁戸をひらき見れば毛布抱へて女立ち居り
霜の夜の寒さ思ひてあづかりし毛布を返しに来しと女の言ふ
ひとたびはうらみし女の心情にわれも涙に袖ぬらしたる
一夜さを泣き明しつつ藁小屋の家根におく霜も消ゆる熱さよ
済まなかつたと詑ぶれば女も涙してすまぬはわたしと膝の上に泣く
秋の夜の霜おく野辺の番小屋も一夜の夢は安かりにけり
是からは外に御心うつつ世の仇花手折りそと女の愧ぢて言ふ
今日よりは君一人をたよりぞと深く契りし野辺の朝明け
いやなれば花として見む蕃椒と駄句れば膝にかみ付き女の泣く
啌だ啌だ是はおだてだ真実にとられちや困ると千弁万護す
中なかに油断のならぬ男子よと笑みを残して女はかへりたり
青春の血に燃ゆる身も将来をおもんぱかりて二世は契らず
二世契る細し女なきを喞ちつつ吾若き日は空しく暮れたり
吾わかき時より神の守りけむいまだ女難にかかりしこと無し