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城跡

インフォメーション
題名:城跡 著者:出口王仁三郎
ページ:67
概要: 備考:『故山の夢』p125-132 タグ: データ凡例: データ最終更新日:2023-10-31 08:32:56 OBC :B121808c33
─二十三四歳の頃─
形原(かたはら)神社(しやう)遷宮式(せんぐうしき)に参拝し余興の武術に興じたる春
形原(かたはら)神社祭典のために亀岡の旧城内の開放されたる
旧城趾銀杏(いてふ)のしたにたたずみてわれ回天の偉業をおもふ
この城趾われの住家(すみか)(くち)ばしり空想家よと父にしからる
青垣山(あをがきやま)四方(よも)にめぐらす亀山の城趾にたてばこころうごきぬ
卑賤(ひせん)なる身にしあれども(こころざし)如何(いか)(かよ)はむと雄たけびなしたり
(ひま)あれば亀山城趾に忍びゆきて無言の銀杏(いてふ)といつも語れり
古世町(こせまち)伯母上(をばうへ)の家に(きた)るたび帰りは何時(いつ)も城趾にたちよる
()が為に何かゆかりのあるごとくなつかしかりし亀山城趾よ
洋洋(やうやう)と水をたたへし内濠(うちぼり)の深きおもひの消ゆるときなし
風流心(ふうりうしん)夢にも知らぬ持主(もちぬし)千歳(ちとせ)老松(らうしよう)()るを()しみし
亀山の城趾の風致はことさらに丹波の国のほこりなりしを
千引岩(ちびきいは)積みかさねたる(ほり)ばたの石垣くだくさまを惜しみし
城内に大八車(だいはちぐるま)ひき入れて珍石(ちんせき)(みやこ)へはこぶを惜しみぬ
千年(せんねん)老松(らうしよう)(けやき)大木(たいぼく)を伐りはらひつつ(くぬぎ)植ゑをり
(かね)にさへなれば記念の旧城趾風致(ふうち)なんかはかまはぬ持主(もちぬし)
田中家の所有となりて旧城趾いよよますます(あら)されにけり
亀山の士族一同あつまりて形原(かたはら)神社に涙石(なみだいし)はこベり
三百年の亀山城趾は商人の手に()り士族の淋しさを()
せめてもの記念と亀山士族()形原(かたはら)神社に巨石をはこぶ
旧城趾()ちたる(かはら)(きれ)あつめ城のかたちをつくりて遊びぬ
旧城の記念と運びし涙石(なみだいし)は亀山士族の真心(まごころ)のあらはれ
いとけなき頃は雲間(くもま)に天守閣白壁(しらかべ)()えしをなつかしみけり
角櫓(すみやぐら)一棟(ひとむね)(さび)しくのこれるを心無き持主こぼてるみじめさ
角櫓(すみやぐら)こぼてるそばに(たたず)みて(われ)さめざめと泣き伏しにけり
栄枯(えいこ)盛衰(せいすゐ)移りゆく世といひながら英雄の心事(しんじ)想ひて涙す
待てしばし昔の城にかへさむと雄たけびしたる若き日の(われ)
亀山の稲荷の(ほこら)檪生(くぬぎふ)のかげにさびしく建てるををがみし
旧城趾()れゆく(さま)に憤慨し稲荷の(ほこら)にむかつてどなりぬ
神ならばしつかりせよと稲荷社の前に地団駄ふみし若き日
旧士族なりしなるらむ白髪(はくはつ)老翁(らうをう)(つゑ)にすがりてのぼり()
老翁(らうをう)銀杏(いてふ)()かげにたたずみて感慨無量の青息(あをいき)をつく
世が世ならこんなことにはなるまいと(ひとり)()ちつつ涙こぼせる
士族にはあらねど(われ)も憤慨し雑草(あらくさ)()に伏して泣きたり
高台(たかだい)形原(かたはら)神社の(むね)を見て世のはかなさをつくづくおもひぬ
石を割る石工(いしく)(つち)の音つよく胸にこたゆる(ゆふ)べの城あと
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