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第71巻(戌の巻)
第72巻(亥の巻)
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天祥地瑞
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第75巻(寅の巻)
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第77巻(辰の巻)
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第30巻(巳の巻)
序
凡例
総説
第1篇 高砂の松
01 主従二人
〔843〕
02 乾の滝
〔844〕
03 清めの滝
〔845〕
04 懐旧の歌
〔846〕
第2篇 珍野瞰下
05 下坂の歌
〔847〕
06 樹下の一宿
〔848〕
07 提燈の光
〔849〕
08 露の道
〔850〕
第3篇 神縁微妙
09 醜の言霊
〔851〕
10 妖雲晴
〔852〕
11 言霊の妙
〔853〕
12 マラソン競争
〔854〕
13 都入
〔855〕
第4篇 修理固成
14 霊とパン
〔856〕
15 花に嵐
〔857〕
16 荒しの森
〔858〕
17 出陣
〔859〕
18 日暮シの河
〔860〕
19 蜘蛛の児
〔861〕
20 雉と町
〔862〕
第5篇 山河動乱
21 神王の祠
〔863〕
22 大蜈蚣
〔864〕
23 ブール酒
〔865〕
24 陥穽
〔866〕
附記 湯ケ島温泉
附記 天津祝詞解
附記 デモ国民歌
余白歌
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> 第4篇 修理固成 > 第19章 蜘蛛の児
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第一九章
蜘蛛
(
くも
)
の
児
(
こ
)
〔八六一〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第30巻 海洋万里 巳の巻
篇:
第4篇 修理固成
よみ(新仮名遣い):
しゅうりこせい
章:
第19章 蜘蛛の児
よみ(新仮名遣い):
くものこ
通し章番号:
861
口述日:
1922(大正11)年08月16日(旧06月24日)
口述場所:
筆録者:
松村真澄
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1923(大正12)年9月15日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
国依別は武装したウラル教徒の一団を見て打ち笑い、キジとマチに、神力を与えるから二人で彼らを蹴散らして見たらどうか、と促した。
キジは腕力に、マチは機転に自信があると、国依別の提案に乗った。国依別は自分は司令官となると言って丸木橋の上に陣取り、キジとマチに、くれぐれも敵の命だけは取らないようにと念を押した。
アナンとユーズが率いる武装隊の前に、マチは暗がりのなか立ちはだかり、大音声で言依別命だと名乗った。言依別命と聞いてウラル教徒たちは早くも心の中で恐れを抱きながらも、ユーズの下知で襲い掛かった。
マチは素早く体をかわして隠れてしまうと、ウラル教徒たちは暗がりの中で同士討ちを始めてしまった。一方キジは、アナンが率いる隊に向かって立ちはだかり、国依別を名乗って怒鳴りたてた。
アナンの号令でウラル教徒たちはキジに突っ込んできたが、キジは次々に日暮シ川に取って投げてたちまち人の山を築いてしまった。
国依別は橋の上からサーチライトのように霊光を放射して、戦場を射照らしている。アナンとユーズはたまらず、退却を命じてウラル教徒たちは逃げて行った。マチとキジは国依別の元に凱旋する。国依別は、マチとキジの勇気と働きに喜んだ。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2022-02-17 18:47:31
OBC :
rm3019
愛善世界社版:
219頁
八幡書店版:
第5輯 649頁
修補版:
校定版:
234頁
普及版:
88頁
初版:
ページ備考:
001
幾十旒
(
いくじふりう
)
とも
分
(
わか
)
らぬ
白旗
(
はくき
)
を
夜
(
よる
)
の
風
(
かぜ
)
に
翻
(
ひるがへ
)
し、
002
旗鼓
(
きこ
)
堂々
(
だうだう
)
と、
003
川
(
かは
)
の
堤
(
つつみ
)
の
両方
(
りやうはう
)
より
進
(
すす
)
み
来
(
きた
)
る
数百
(
すうひやく
)
の
集団
(
しふだん
)
を
眺
(
なが
)
めて、
004
国依別
(
くによりわけ
)
は
打笑
(
うちわら
)
ひ、
005
国依別
『アハヽヽヽ、
006
マチさま、
007
キジさま、
008
面白
(
おもしろ
)
くなつて
来
(
き
)
たぢやないか。
009
昨夜
(
さくや
)
荒
(
あら
)
しの
森
(
もり
)
で
数百
(
すうひやく
)
人
(
にん
)
のウラル
教
(
けう
)
の
連中
(
れんぢう
)
、
010
吾々
(
われわれ
)
一人
(
ひとり
)
を
十重
(
とへ
)
二十重
(
はたへ
)
に
取巻
(
とりまき
)
乍
(
なが
)
ら、
011
脆
(
もろ
)
くも
国依別
(
くによりわけ
)
の
言霊
(
ことたま
)
に
吹散
(
ふきち
)
らされて、
012
雲
(
くも
)
を
霞
(
かすみ
)
と
逃去
(
にげさ
)
つたウラル
教
(
けう
)
の
手合
(
てあひ
)
が、
013
今度
(
こんど
)
はどうやら
武装
(
ぶさう
)
を
整
(
ととの
)
へ
捲土
(
けんど
)
重来
(
ぢうらい
)
の
挙
(
きよ
)
に
出
(
で
)
よつたらしい。
014
なんと
愉快
(
ゆくわい
)
な
事
(
こと
)
が
出
(
で
)
て
来
(
き
)
たものだ。
015
お
前
(
まへ
)
達
(
たち
)
両人
(
りやうにん
)
は、
016
入信
(
にふしん
)
記念
(
きねん
)
の
為
(
ため
)
に
一
(
ひと
)
つ
南北
(
なんぽく
)
に
分
(
わか
)
れて、
017
両方
(
りやうはう
)
の
敵
(
てき
)
に
当
(
あた
)
り、
018
縦横
(
じうわう
)
無尽
(
むじん
)
にかけ
悩
(
なや
)
まして
見
(
み
)
たら
如何
(
どう
)
だ。
019
其
(
その
)
代
(
かは
)
りに
国依別
(
くによりわけ
)
が
無限
(
むげん
)
の
神力
(
しんりき
)
を
与
(
あた
)
へるから、
020
万々一
(
まんまんいち
)
お
前
(
まへ
)
達
(
たち
)
の
不利
(
ふり
)
を
見
(
み
)
たならば、
021
球
(
きう
)
の
玉
(
たま
)
の
神力
(
しんりき
)
を
以
(
もつ
)
て、
022
敵
(
てき
)
を
射倒
(
いたふ
)
して
了
(
しま
)
ふ
成算
(
せいさん
)
が
十分
(
じふぶん
)
にあるから、
023
試験
(
しけん
)
的
(
てき
)
にやつて
見
(
み
)
やうではないか?』
024
キジ『
願
(
ねが
)
うてもなき
其
(
その
)
お
言葉
(
ことば
)
、
025
私
(
わたくし
)
もテルの
国
(
くに
)
に
於
(
おい
)
ては
相当
(
さうたう
)
に、
026
神力
(
しんりき
)
はなけれ
共
(
ども
)
、
027
腕力
(
わんりよく
)
並
(
なら
)
ぶ
者
(
もの
)
なしと
言
(
い
)
はれて
居
(
ゐ
)
る
豪傑
(
がうけつ
)
ですから、
028
こんな
面白
(
おもしろ
)
い
機会
(
きくわい
)
はありますまい。
029
如何
(
いか
)
なる
武器
(
ぶき
)
を
以
(
もつ
)
て
攻
(
せ
)
め
来
(
きた
)
る
共
(
とも
)
、
030
此
(
この
)
腕
(
うで
)
一
(
ひと
)
つあれば
大丈夫
(
だいぢやうぶ
)
です。
031
何卒
(
どうぞ
)
私
(
わたくし
)
を
其
(
その
)
任
(
にん
)
に
当
(
あた
)
らして
下
(
くだ
)
さい』
032
マチ『
私
(
わたくし
)
はキジの
様
(
やう
)
な
力
(
ちから
)
は
有
(
あ
)
りませぬが、
033
気転
(
きてん
)
を
利
(
き
)
かす
段
(
だん
)
に
於
(
おい
)
ては、
034
決
(
けつ
)
して
人後
(
じんご
)
におちない
積
(
つも
)
りです。
035
そんなら
両人
(
りやうにん
)
が
此
(
この
)
川
(
かは
)
の
南北
(
なんぽく
)
に
分
(
わか
)
れ、
036
一
(
ひと
)
つ
奮戦
(
ふんせん
)
激闘
(
げきとう
)
をやつて
見
(
み
)
ませう。
037
あゝ
面白
(
おもしろ
)
い
面白
(
おもしろ
)
い、
038
天運
(
てんうん
)
循環
(
じゆんくわん
)
し
来
(
きた
)
つて、
039
優曇華
(
うどんげ
)
の
花
(
はな
)
咲
(
さ
)
き
匂
(
にほ
)
ふ
春
(
はる
)
に
会
(
あ
)
うたる
心地
(
ここち
)
がする』
040
と
力瘤
(
ちからこぶ
)
だらけの
腕
(
うで
)
をまくり、
041
ブンブンと
振
(
ふ
)
りまはし、
042
撚
(
より
)
をかけて
居
(
ゐ
)
る。
043
国依
(
くにより
)
『そんなら
両人
(
りやうにん
)
、
044
一
(
ひと
)
つやつて
見
(
み
)
よ……
国依別
(
くによりわけ
)
は
司令
(
しれい
)
長官
(
ちやうくわん
)
になつて、
045
此
(
この
)
丸木橋
(
まるきばし
)
の
上
(
うへ
)
から
戦況
(
せんきやう
)
を
調
(
しら
)
べる
事
(
こと
)
にせう。
046
あゝ
良
(
い
)
い
月
(
つき
)
だ。
047
こんな
愉快
(
ゆくわい
)
な
事
(
こと
)
は、
048
滅多
(
めつた
)
にあるものぢやない。
049
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
成
(
な
)
るべくは、
050
両人
(
りやうにん
)
敵
(
てき
)
の
生命
(
いのち
)
をとらない
様
(
やう
)
にしてくれ』
051
キジ『
宜
(
よろ
)
しい、
052
一人
(
ひとり
)
も
残
(
のこ
)
らず
此
(
この
)
空川
(
からかは
)
へ
放
(
はう
)
りこみ、
053
人間
(
にんげん
)
の
山
(
やま
)
を
築
(
きづ
)
いてお
目
(
め
)
にかけませう』
054
斯
(
か
)
く
云
(
い
)
ふ
間
(
うち
)
、
055
ウラル
教
(
けう
)
の
大部隊
(
だいぶたい
)
は
最早
(
もはや
)
間近
(
まぢか
)
くなつて
来
(
き
)
た。
056
マチは
北側
(
きたがは
)
を、
057
キジは
南側
(
みなみがは
)
の
草
(
くさ
)
の
中
(
なか
)
に
身
(
み
)
を
潜
(
ひそ
)
めて、
058
敵
(
てき
)
の
近付
(
ちかづ
)
くのを
今
(
いま
)
や
遅
(
おそ
)
しと、
059
腕
(
うで
)
を
唸
(
うな
)
らせ、
060
片唾
(
かたづ
)
を
呑
(
の
)
んで
控
(
ひか
)
えてゐる。
061
南
(
みなみ
)
の
一隊
(
いつたい
)
はアナン
之
(
これ
)
を
率
(
ひき
)
ゐ、
062
北側
(
きたがは
)
の
一隊
(
いつたい
)
はユーズ
之
(
これ
)
に
将
(
しやう
)
として、
063
勢
(
いきほ
)
ひ
凄
(
すさ
)
まじく
川辺
(
かはべ
)
を
下
(
くだ
)
り
来
(
きた
)
る
物々
(
ものもの
)
しさ。
064
マチは
忽
(
たちま
)
ち
敵前
(
てきぜん
)
に
塞
(
ふさ
)
がり
大音声
(
だいおんじやう
)
、
065
マチ『ヤアヤア、
066
ウラル
教
(
けう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
、
067
それに
従
(
したが
)
ふ
小童
(
こわつぱ
)
共
(
ども
)
、
068
よつく
聞
(
き
)
け!
吾
(
われ
)
こそは
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
、
069
言依別
(
ことよりわけの
)
命
(
みこと
)
、
070
御倉山
(
みくらやま
)
の
谷間
(
たにあひ
)
に
於
(
おい
)
て、
071
此
(
この
)
方
(
はう
)
が
言霊
(
ことたま
)
の
神力
(
しんりき
)
に
泡
(
あわ
)
を
吹
(
ふ
)
き、
072
脆
(
もろ
)
くも
逃
(
に
)
げ
去
(
さ
)
つたる
弱武者
(
よわむしや
)
共
(
ども
)
、
073
サア
吾々
(
われわれ
)
は
神勅
(
しんちよく
)
に
依
(
よ
)
つて、
074
汝
(
なんぢ
)
が
茲
(
ここ
)
に
数多
(
あまた
)
の
人々
(
ひとびと
)
を
引
(
ひ
)
きつれ、
075
武器
(
ぶき
)
を
携
(
たづさ
)
へ、
076
攻
(
せ
)
め
下
(
くだ
)
り
来
(
きた
)
る
事
(
こと
)
を
前知
(
ぜんち
)
せしを
以
(
もつ
)
て、
077
汝
(
なんぢ
)
等
(
ら
)
一人
(
ひとり
)
も
残
(
のこ
)
らず
素首
(
そつくび
)
を
引抜
(
ひきぬ
)
き、
078
汝
(
なんぢ
)
の
最
(
もつと
)
も
希求
(
ききう
)
する
霊
(
れい
)
の
国
(
くに
)
、
079
天国
(
てんごく
)
へ
引導
(
いんだう
)
を
渡
(
わた
)
してくれむ。
080
覚悟
(
かくご
)
を
致
(
いた
)
せ!』
081
と
呶鳴
(
どな
)
り
立
(
た
)
てた。
082
ユーズは
藪
(
やぶ
)
から
棒
(
ぼう
)
の、
083
どこともなく
権威
(
けんゐ
)
に
充
(
みた
)
された
此
(
この
)
言霊
(
ことたま
)
に
辟易
(
へきえき
)
し、
084
数多
(
あまた
)
の
部下
(
ぶか
)
を
率
(
ひき
)
ゐ、
085
堂々
(
だうだう
)
とここまで
進
(
すす
)
み
来
(
きた
)
れる
手前
(
てまへ
)
退却
(
たいきやく
)
もならず、
086
轟
(
とどろ
)
く
胸
(
むね
)
を
無理
(
むり
)
に
押
(
おさ
)
へ、
087
ユーズ『ナヽヽ
何
(
なん
)
と
申
(
まを
)
す。
088
汝
(
なんぢ
)
は
体主
(
たいしゆ
)
霊従
(
れいじう
)
の
邪教
(
じやけう
)
を
奉
(
ほう
)
ずる
言依別
(
ことよりわけの
)
命
(
みこと
)
なるか。
089
如何
(
いか
)
に
獅子王
(
ししわう
)
の
勢
(
いきほひ
)
あればとて、
090
雲霞
(
うんか
)
の
如
(
ごと
)
き
大軍
(
たいぐん
)
に
向
(
むか
)
つて、
091
如何
(
いか
)
に
孤軍
(
こぐん
)
奮闘
(
ふんとう
)
すればとて、
092
汝
(
なんぢ
)
の
力
(
ちから
)
の
及
(
およ
)
ぶ
所
(
ところ
)
にあらず、
093
要
(
い
)
らざる
事
(
こと
)
を
致
(
いた
)
して、
094
命
(
いのち
)
をすてるよりも、
095
神妙
(
しんめう
)
に
吾
(
わが
)
軍門
(
ぐんもん
)
に
降
(
くだ
)
れ』
096
マチ『ナニ
猪口才
(
ちよこざい
)
千万
(
せんばん
)
な、
097
汝
(
なんぢ
)
こそ
某
(
それがし
)
が
前
(
まへ
)
に
閉口
(
へいこう
)
頓首
(
とんしゆ
)
して
罪
(
つみ
)
を
謝
(
しや
)
し、
098
貴重
(
きちよう
)
なる
生命
(
せいめい
)
を
無事
(
ぶじ
)
に
持
(
も
)
つて
帰
(
かへ
)
れ。
099
汝
(
なんぢ
)
等
(
ら
)
は
天国
(
てんごく
)
に
至
(
いた
)
る
事
(
こと
)
を
無上
(
むじやう
)
の
光栄
(
くわうゑい
)
とする
者
(
もの
)
ならば、
100
一人
(
ひとり
)
も
残
(
のこ
)
さず、
101
霊
(
れい
)
の
国
(
くに
)
へやつてやるのはいと
安
(
やす
)
き
事
(
こと
)
なれ
共
(
ども
)
、
102
さう
致
(
いた
)
しては
懲戒
(
ちようかい
)
にならぬ。
103
汝
(
なんぢ
)
の
最
(
もつと
)
も
忌
(
い
)
み
嫌
(
きら
)
ふ
娑婆
(
しやば
)
世界
(
せかい
)
に
置
(
お
)
いて
苦
(
くるし
)
めてやらむ、
104
覚悟
(
かくご
)
を
致
(
いた
)
せ。
105
アハヽヽヽ』
106
ユーズ『
何
(
なん
)
と
其
(
その
)
方
(
はう
)
は
妙
(
めう
)
な
事
(
こと
)
を
申
(
まを
)
す
奴
(
やつ
)
、
107
人間
(
にんげん
)
は
生命
(
いのち
)
が
大切
(
たいせつ
)
だ。
108
肉体
(
にくたい
)
なくして
神業
(
しんげふ
)
が
勤
(
つと
)
まると
思
(
おも
)
ふか。
109
馬鹿
(
ばか
)
を
申
(
まを
)
せ、
110
汝
(
なんぢ
)
こそ
今
(
いま
)
某
(
それがし
)
が、
111
生命
(
いのち
)
をとり、
112
地獄
(
ぢごく
)
の
引導
(
いんだう
)
を
渡
(
わた
)
してくれむ、
113
覚悟
(
かくご
)
致
(
いた
)
せ……ヤアヤア
者共
(
ものども
)
、
114
言依別
(
ことよりわけ
)
に
向
(
むか
)
つて
斬
(
き
)
つてかかれよ』
115
と
采配
(
さいはい
)
ふつて
下知
(
げち
)
すれば、
116
数多
(
あまた
)
の
部下
(
ぶか
)
はマチ
一人
(
ひとり
)
を
取
(
とり
)
まき、
117
斬
(
き
)
つてかかる。
118
向
(
むか
)
うは
大勢
(
おほぜい
)
、
119
此方
(
こちら
)
は
只一人
(
ただひとり
)
、
120
すばしこくも
体
(
たい
)
を
躱
(
かわ
)
して、
121
草
(
くさ
)
の
茂
(
しげ
)
みに
隠
(
かく
)
れて
了
(
しま
)
つた。
122
大勢
(
おほぜい
)
はあわてふためき、
123
互
(
たがひ
)
に
刃
(
やいば
)
に
火花
(
ひばな
)
を
散
(
ち
)
らし、
124
ケチンケチンと
同士打
(
どうしうち
)
を
始
(
はじ
)
めてゐる
其
(
その
)
可笑
(
をか
)
しさ。
125
又
(
また
)
一方
(
いつぱう
)
南岸
(
なんがん
)
に
向
(
むか
)
うたキジは、
126
アナンの
引率
(
いんそつ
)
せる
一部隊
(
いちぶたい
)
に
向
(
むか
)
ひ、
127
叢
(
くさむら
)
より
忽然
(
こつぜん
)
と
現
(
あら
)
はれ、
128
大音声
(
だいおんじやう
)
、
129
キジ『ヤア
其
(
その
)
方
(
はう
)
はウラル
教
(
けう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
であらう。
130
吾
(
われ
)
こそは
三五教
(
あななひけう
)
の
神司
(
かむづかさ
)
国依別
(
くによりわけ
)
なるぞ。
131
飛
(
と
)
んで
火
(
ひ
)
に
入
(
い
)
る
夏
(
なつ
)
の
虫
(
むし
)
、
132
能
(
よ
)
くマア
出
(
で
)
て
来
(
き
)
よつたなア。
133
サア
是
(
これ
)
より
此
(
この
)
方
(
はう
)
の
発射
(
はつしや
)
する
言霊
(
ことたま
)
の
弾丸
(
だんぐわん
)
を
浴
(
あ
)
びて、
134
汝
(
なんぢ
)
の
最
(
もつと
)
も
忌
(
い
)
み
嫌
(
きら
)
ふ
現界
(
げんかい
)
を
棄
(
す
)
て
天国
(
てんごく
)
に
救
(
すく
)
ひ
与
(
あた
)
へむ。
135
どうぢや
嬉
(
うれ
)
しいか』
136
と
呶鳴
(
どな
)
り
立
(
た
)
て、
137
大声
(
おほごゑ
)
で
人
(
ひと
)
もなげに
笑
(
わら
)
ひ
出
(
だ
)
した。
138
アナンは
国依別
(
くによりわけ
)
と
聞
(
き
)
いて、
139
心
(
こころ
)
戦
(
をのの
)
き
乍
(
なが
)
ら、
140
空元気
(
からげんき
)
を
出
(
だ
)
し、
141
アナン『アハヽヽヽ、
142
何
(
なん
)
と
申
(
まを
)
す、
143
国依別
(
くによりわけ
)
、
144
敗
(
ま
)
けたと
見
(
み
)
せかけ
御倉山
(
みくらやま
)
の
谷川
(
たにがは
)
に
於
(
おい
)
て
逸早
(
いちはや
)
く
姿
(
すがた
)
をかくし、
145
又
(
また
)
荒
(
あら
)
しの
森
(
もり
)
に
於
(
おい
)
てワザと
敗軍
(
はいぐん
)
を
装
(
よそほ
)
ひ、
146
汝
(
なんぢ
)
をここにおびきよせむとの
吾
(
われ
)
等
(
ら
)
が
計略
(
けいりやく
)
、
147
うつかりと
出
(
で
)
てうせた
痴呆者
(
うつけもの
)
。
148
モウ
斯
(
こ
)
うなる
上
(
うへ
)
は
百年目
(
ひやくねんめ
)
、
149
神妙
(
しんめう
)
に
吾
(
わが
)
軍門
(
ぐんもん
)
に
降
(
くだ
)
るか、
150
ゴテゴテ
吐
(
ぬか
)
さば、
151
汝
(
なんぢ
)
が
素首
(
そつくび
)
引抜
(
ひきぬ
)
いて
天下
(
てんか
)
の
害
(
がい
)
を
絶
(
た
)
ち、
152
汝
(
なんぢ
)
が
身魂
(
みたま
)
を
地獄
(
ぢごく
)
に
追
(
お
)
ひおとしくれむ……サア
部下
(
ぶか
)
の
者共
(
ものども
)
、
153
国依別
(
くによりわけ
)
に
向
(
むか
)
つて
斬
(
き
)
りつけよ』
154
と
下知
(
げち
)
すれば『オウ』と
答
(
こた
)
へて
数多
(
あまた
)
の
人数
(
にんずう
)
、
155
竹槍
(
たけやり
)
をすごき、
156
キジ
一人
(
ひとり
)
を
目当
(
めあて
)
に
突込
(
つつこ
)
み
来
(
きた
)
る。
157
キジは
大手
(
おほで
)
を
拡
(
ひろ
)
げ、
158
来
(
く
)
る
奴
(
やつ
)
来
(
く
)
る
奴
(
やつ
)
、
159
ひつ
掴
(
つか
)
んでは
日暮
(
ひぐら
)
シ
川
(
がは
)
にドツと
許
(
ばか
)
り
投
(
な
)
げ
込
(
こ
)
み、
160
瞬
(
またた
)
く
間
(
うち
)
に
数十
(
すうじふ
)
人
(
にん
)
の
人山
(
ひとやま
)
を
築
(
きづ
)
いた。
161
此方
(
こちら
)
のユーズの
部下
(
ぶか
)
は
何
(
いづ
)
れも
長剣
(
ちやうけん
)
を
以
(
もつ
)
て
戦
(
たたか
)
ひ、
162
南方
(
なんぱう
)
のアナンの
部下
(
ぶか
)
は
何
(
いづ
)
れも
竹槍
(
たけやり
)
を
以
(
もつ
)
てキジ
一人
(
ひとり
)
に
向
(
むか
)
つて
戦
(
たたか
)
つてゐる。
163
されどキジの
手
(
て
)
に
掛
(
かか
)
つて、
164
最早
(
もはや
)
数十
(
すうじふ
)
人
(
にん
)
は
河中
(
かちう
)
に
投込
(
なげこ
)
まれ、
165
腰
(
こし
)
を
打
(
う
)
ち、
166
足
(
あし
)
を
摧
(
くぢ
)
き、
167
痛
(
いた
)
さに
身動
(
みうご
)
きも
得
(
え
)
せず、
168
慄
(
ふる
)
ひ
戦
(
をのの
)
いてゐた。
169
国依別
(
くによりわけ
)
は
丸木橋
(
まるきばし
)
の
上
(
うへ
)
より
指
(
ゆび
)
をさし
伸
(
の
)
べ、
170
サーチライトの
如
(
ごと
)
き
霊光
(
れいくわう
)
を
発射
(
はつしや
)
して、
171
此
(
この
)
域
(
ゐき
)
を
射照
(
いて
)
らしてゐる。
172
アナンは
最早
(
もはや
)
叶
(
かな
)
はじと
思
(
おも
)
ひきや、
173
采配
(
さいはい
)
を
打
(
うち
)
ふり
打
(
うち
)
ふり、
174
アナン『
退却
(
たいきやく
)
!
退却
(
たいきやく
)
!』
175
と
連呼
(
れんこ
)
し
乍
(
なが
)
ら、
176
散
(
ち
)
り
散
(
ち
)
りバラバラに
算
(
さん
)
を
乱
(
みだ
)
して
敗走
(
はいそう
)
する。
177
此方
(
こなた
)
ユーズは
味方
(
みかた
)
の
同士打
(
どうしうち
)
に
度
(
ど
)
を
失
(
うしな
)
ひ、
178
止
(
や
)
むを
得
(
え
)
ず
采配
(
さいはい
)
を
打振
(
うちふ
)
り、
179
又
(
また
)
もや
南方
(
なんぱう
)
のアナンに
傚
(
なら
)
つて『
退却
(
たいきやく
)
!
々々
(
たいきやく
)
!』と
号令
(
がうれい
)
する。
180
此
(
この
)
声
(
こゑ
)
にユーズの
部下
(
ぶか
)
は
思
(
おも
)
ひ
思
(
おも
)
ひに
元来
(
もとき
)
し
道
(
みち
)
を
先
(
さき
)
を
争
(
あらそ
)
ひ
逃
(
に
)
げて
行
(
ゆ
)
く
其
(
その
)
可笑
(
をか
)
しさ。
181
マチは
之
(
これ
)
を
眺
(
なが
)
めて
高笑
(
たかわら
)
ひ、
182
マチ『アハヽヽヽ、
183
脆
(
もろ
)
いものだなア。
184
俺
(
おれ
)
もこれ
丈
(
だけ
)
の
神力
(
しんりき
)
が
出
(
で
)
るとは
思
(
おも
)
はなかつたが、
185
実
(
じつ
)
に
不思議
(
ふしぎ
)
だ。
186
これも
全
(
まつた
)
く
三五教
(
あななひけう
)
の
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
神徳
(
しんとく
)
、
187
次
(
つ
)
いでは
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
のお
使
(
つか
)
ひになる
神魚
(
しんぎよ
)
を
食
(
くら
)
つた
為
(
ため
)
でもあらう。
188
実
(
じつ
)
に
有難
(
ありがた
)
いものだなア。
189
ドレドレ
国依別
(
くによりわけ
)
様
(
さま
)
に
戦況
(
せんきやう
)
を
詳
(
つぶ
)
さに
報告
(
はうこく
)
せねばなろまい。
190
それに
付
(
つ
)
いても
何処
(
どこ
)
ともなく、
191
強烈
(
きやうれつ
)
なる
光
(
ひかり
)
の
現
(
あら
)
はれた
時
(
とき
)
、
192
敵
(
てき
)
の
光
(
ひかり
)
に
打
(
う
)
たれて
狼狽
(
ろうばい
)
する
様
(
さま
)
は
実
(
じつ
)
に
痛快
(
つうくわい
)
であつた』
193
と
独言
(
ひとりご
)
ちつつ、
194
国依別
(
くによりわけ
)
の
傍
(
かたはら
)
に
意気
(
いき
)
揚々
(
やうやう
)
として
帰
(
かへ
)
つて
来
(
き
)
た。
195
南方
(
なんぱう
)
に
向
(
むか
)
うたキジも
亦
(
また
)
勝
(
か
)
ち
誇
(
ほこ
)
つたる
面色
(
おももち
)
にて、
196
力瘤
(
ちからこぶ
)
だらけの
腕
(
うで
)
を
打
(
うち
)
ふり
乍
(
なが
)
ら
帰
(
かへ
)
り
来
(
きた
)
り、
197
キジ『
宣伝使
(
せんでんし
)
様
(
さま
)
、
198
実
(
じつ
)
に
有難
(
ありがた
)
う
御座
(
ござ
)
いました。
199
生
(
うま
)
れて
以来
(
このかた
)
、
200
斯様
(
かやう
)
な
愉快
(
ゆくわい
)
な
事
(
こと
)
は
御座
(
ござ
)
いませぬ。
201
戦
(
たたか
)
ひの
最中
(
さいちう
)
、
202
あなたより
強烈
(
きやうれつ
)
なる
霊光
(
れいくわう
)
を
送
(
おく
)
つて
下
(
くだ
)
さつた
時
(
とき
)
の
其
(
その
)
気強
(
きづよ
)
さ、
203
面白
(
おもしろ
)
さ、
204
いやモウ
終生
(
しうせい
)
忘
(
わす
)
る
可
(
べか
)
らざる
愉快
(
ゆくわい
)
な
印象
(
いんしやう
)
を
与
(
あた
)
へられました。
205
アハヽヽヽ』
206
国依
(
くにより
)
『ヤア
両人共
(
りやうにんども
)
、
207
天晴
(
あつぱ
)
れ
天晴
(
あつぱ
)
れお
手柄
(
てがら
)
だつた。
208
あれ
丈
(
だけ
)
の
勇気
(
ゆうき
)
があれば、
209
最早
(
もはや
)
三五教
(
あななひけう
)
の
布教者
(
ふけうしや
)
としても
大丈夫
(
だいぢやうぶ
)
だ。
210
国依別
(
くによりわけ
)
も
幸福
(
かうふく
)
だ。
211
何
(
なん
)
と
良
(
よ
)
い
弟子
(
でし
)
が
出来
(
でき
)
たものだなア』
212
キジ『
本当
(
ほんたう
)
に
仰有
(
おつしや
)
る
通
(
とほ
)
り、
213
古今
(
ここん
)
独歩
(
どくぽ
)
の
神力
(
しんりき
)
充実
(
じゆうじつ
)
せるあなたに
対
(
たい
)
し、
214
斯様
(
かやう
)
な
英雄
(
えいゆう
)
豪傑
(
がうけつ
)
がお
弟子
(
でし
)
になるのも
全
(
まつた
)
く
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
のお
引合
(
ひきあは
)
せでせう』
215
国依
(
くにより
)
『アハヽヽヽ、
216
随分
(
ずゐぶん
)
吹
(
ふ
)
く
事
(
こと
)
も
吹
(
ふ
)
きますねえ。
217
ヤア
面白
(
おもしろ
)
い
面白
(
おもしろ
)
い、
218
それ
丈
(
だけ
)
の
気概
(
きがい
)
がなくては
駄目
(
だめ
)
だ』
219
マチ『
私
(
わたくし
)
だつて、
220
ヤツパリあなたの
御
(
ご
)
家来
(
けらい
)
として
余
(
あま
)
り
不適当
(
ふてきたう
)
な
者
(
もの
)
ではありますまい。
221
どうです
宣伝使
(
せんでんし
)
様
(
さま
)
、
222
あなたの
御
(
ご
)
感想
(
かんさう
)
は……』
223
国依
(
くにより
)
『アハヽヽヽ、
224
何
(
ど
)
ちらも
担
(
かつ
)
いだら
棒
(
ぼう
)
が
折
(
を
)
れる
様
(
やう
)
だ。
225
力
(
ちから
)
に
甲乙
(
かふおつ
)
が
無
(
な
)
くて
面白
(
おもしろ
)
い。
226
マア
是
(
これ
)
からは
慢心
(
まんしん
)
をせない
様
(
やう
)
に
心得
(
こころえ
)
て、
227
神界
(
しんかい
)
の
為
(
ため
)
にドシドシと
尽
(
つく
)
して
貰
(
もら
)
はうかなア』
228
両人
(
りやうにん
)
『ハイ
承知
(
しようち
)
致
(
いた
)
しました。
229
今日
(
けふ
)
の
腕試
(
うでだめ
)
しに
依
(
よ
)
つて、
230
最早
(
もはや
)
神
(
かみ
)
の
御
(
ご
)
加護
(
かご
)
ある
事
(
こと
)
を
悟
(
さと
)
つた
以上
(
いじやう
)
は、
231
天下
(
てんか
)
何者
(
なにもの
)
をか
恐
(
おそ
)
れむやで
御座
(
ござ
)
る』
232
と
腕
(
うで
)
を
揺
(
ゆす
)
つて
雄健
(
をたけ
)
びする
其
(
その
)
可笑
(
をか
)
しさ。
233
国依別
(
くによりわけ
)
は……
妙
(
めう
)
な
奴
(
やつ
)
が
降
(
ふ
)
つて
来
(
き
)
た
者
(
もの
)
だ……と
心
(
こころ
)
秘
(
ひそ
)
かに
微笑
(
ほほゑ
)
み
乍
(
なが
)
ら
二人
(
ふたり
)
を
伴
(
ともな
)
ひ、
234
明
(
あ
)
けかかる
夜
(
よ
)
の
道
(
みち
)
を、
235
河
(
かは
)
を
渡
(
わた
)
つて、
236
北
(
きた
)
へ
北
(
きた
)
へと
足
(
あし
)
を
早
(
はや
)
め
宣伝歌
(
せんでんか
)
を
声
(
こゑ
)
高
(
たか
)
く
歌
(
うた
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
237
ヒルの
都
(
みやこ
)
を
指
(
さ
)
して
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
く。
238
空
(
そら
)
に
輝
(
かがや
)
きし
月
(
つき
)
は
漸
(
やうや
)
く
光
(
ひか
)
り
褪
(
あ
)
せ、
239
星
(
ほし
)
は
次第
(
しだい
)
に
影
(
かげ
)
を
没
(
ぼつ
)
し、
240
絵絹
(
ゑぎぬ
)
を
拡
(
ひろ
)
げた
様
(
やう
)
な
東
(
あづま
)
の
空
(
そら
)
は、
241
紅
(
くれなゐ
)
を
潮
(
てう
)
し
始
(
はじ
)
めたり。
242
(
大正一一・八・一六
旧六・二四
松村真澄
録)
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